明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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最終話

2学期が始まり、しばらく経ったある日、明日香は機嫌よく歩いていた。夏休み明けのテストでも満足いく結果を残したのもあるが、やはり1番の理由は素生だろう。放課後は素生のバイトがある時以外は家に行き、楽しく過ごしていた。

「今日は何を話そうかな?」

スキップしそうなくらい軽快な足取りのまま歩くとあっという間に素生の家に着いていた。そのままの勢いでインターフォンを鳴らすとすぐに素生が出てきた。

「あれ?」

「どうしたの?」

「髪…。」

明日香は出てきた素生に違和感を覚えた。しかし、すぐにその違和感に気づいていた。まぁ、いつも特徴的なツンツンヘアーが何もセットしていない髪型に変わっていれば誰だって気づくだろうが…。

「あぁ。今日はさくらがいないからセットしなかったんだよ。明日香ちゃんにはあの髪型不評だしね。」

「え?さくらちゃんいないんですか?」

「うん。保育園の行事でお泊まりだよ。」

「そんな行事があるんですね。…え?だったら…2人きり…ですか?」

驚いた表情で言う明日香に素生は「そうだけど?」と言った。素生の表情はそれが何か?と言いたげだった。

「お、お邪魔します。」

いつも聞こえてくる元気な声が聞こえない為、明日香は本当にさくらがいないんだと再確認できた。いつもいる人物がいないだけで違う家に来たように感じてしまい、明日香は緊張の糸をピンと張ったような気持ちになっていた。

「どうしたの?」

「べ、別に…。何でもない…です。」

明日香はそう言うと素生といつも過ごすリビングに向かった。歩く際に右手と右足が同時に出そうになり、慌てていた。

「やっぱり変だよ?どうしたのさ?」

「大丈夫です。き、気にしないでください。」

「変な明日香ちゃん。」

素生はそう言うとスタスタと明日香の前を歩き、リビングに向かった。明日香はなんとか着いていき、ゆっくりとソファーに腰掛けた。

「何か飲む?って言っても今は紅茶くらいしかないけど…。」

「頂きます。ありがとうございます。」

明日香の返事を聞き、素生は台所に向かった。素生の姿が見えなくなったと確認した明日香は両手を頬に当て、顔が熱くなっている事に気づいた。

「ふ、2人きり…。わ、私…どうなっちゃうの?き、今日…どんな下着履いて来た…かな?」

明日香は呟くように言うとスカートの裾を持ち上げようとした。

「明日香ちゃん。これ、お菓子…って何してるの?」

「キャー!」

あまりの叫び声に素生は両耳を塞ぎ「ビックリした。」と言った。そんな素生に構う余裕がない明日香は慌ててスカートを直していた。

「…本当に大丈夫?」

「な、な、な、何がですか!?」

「いや…。何ってこっちが聞きたいんだけど?」

「へ?いや、み、見てないなら大丈夫です!」

明日香は自分の顔だけではなく、首まで赤くなっている事を理解しながら言った。

「やっぱり変な明日香ちゃん。まぁ、いいや。これお菓子。食べて待ってて?」

素生は机にお菓子が入ったお皿を置くと、再び台所に向かった。

「み、見られてなかった…。良かった…。」

明日香はソファーの背もたれに身体を預けると「ふぅ」と息を吐いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「それでさ!その時にね…。」

明日香が素生の家に来てから既に2時間が経っていた。明日香はいつ恋人っぽい雰囲気になるかドキドキしながら待っていたのだが、楽しそうに喋る素生を見るとその考えは杞憂に終わりそうであった。明日香は密かに「残念。」と思っており、そう思う自分にも驚いていた。

「…明日香ちゃん?明日香ちゃん!?」

「な、何ですか!?」

「話聞いてる?」

素生がそう言うと明日香はバツの悪そうな表情を浮かべ、小さく首を横に振った。

「やっぱり。…本当に大丈夫?体調悪い?」

素生は立ち上がると明日香がちょこんと座るソファーへ腰かけた。ちなみに、いつも明日香かソファーに座るため、素生は床に座って胡座を組んでいる。

「大丈夫ですよ。すみません。考え事をしてて。」

「本当に?」

素生は怪訝そうな表情で言った。明日香が人の話を聞かないということがあまり無いためである。そして、素生は明日香に手を伸ばすと、額に手を当てた。付き合う前に同じことをされ、明日香は、恥ずかしさから逃げ出していたが、今は静かに受け入れていた。

「熱はないね。」

「大丈夫って言ってるじゃないですか。」

「…うん。言ってるけど、大丈夫そうには見えないからさ。…また悩み事?」

「悩み事…と言うか…。えっと。」

明日香は真剣な表情で心配そうに聞いてくる素生に誤魔化しきれなくなっていた。しかし、正直に「恋人らしい事が無いのが残念」と言うには明日香にとってハードルが高いものであった。なんて言おうか悩んでいた明日香は視線を素生から外した。その瞬間、明日香は素生に右手を取られ、抱きしめられていた。

「俺に言える悩みなら言いな?あんまり悩む明日香ちゃんを見たくないからできれば言って欲しいけど無理強いはしないから。」

突然の出来事に明日香は言葉を失った。しかし、嫌な気分にはならず、むしろ包まれるような安堵感に襲われていた。

「…暖かい。」

「へ?」

「素生さん…。暖かい。」

明日香はそのまま素生の胸に顔を埋めた。そして静かに目を閉じた。 静かになった明日香に素生は微笑むと、優しく背中を左手で撫でた。

「…明日香ちゃん?悩みって何かな?」

「…言いたくないですが…言います…。実は…その…素生さんと恋人らしいことがあまりできてないなぁって思ってて…。」

「恋人らしいこと?」

「た、例えば、キスをしたりとか…手を繋いで歩いたりとか。」

明日香は恥ずかしさから素生の背中に手を回すとギュッと抱きしめていた。

「そっか。不安させてゴメンね。」

「素生さん?」

「明日香ちゃんが言う恋人らしいこと、もちろん俺もしたかったよ。でも、明日香ちゃんが嫌って言うかもって思ったらなかなか言えなくてね。正直に言えば良かったね。」

「わ、私の方こそ…。ガード固く見えました?」

「まぁね。変態って言われてたしね。」

素生は苦笑いを浮かべると静かに明日香の両肩を掴んだ。そして、ゆっくりと明日香の顔を上げると、耳元で静かに「キス…して良い?」と小さな声で言った。

「…はい。」

明日香も素生に釣られ、静かに言うと、素生の顔がだんだん近づいた。明日香はギュッと目を瞑り、唇がいつ当たるのかドキドキと心臓を高鳴らせた。しかし、神様がいるのなら無常なことをするものだ。唇が当たる瞬間、勢いよく玄関の扉が開いたと思うとさくらの鳴き声がリビングまで響いた。その声を聞き、2人は慌てて離れてしまった。

「さ、さくらちゃん…。あれ?お泊まりだったんじゃ…。」

「多分、寂しくて泣いちゃってお泊まりできなくて、母さんが迎えに行ったんだと思う…。」

素生はそう言うと、2人はお互いの顔を見合わせた。

「あはは!明日香ちゃんも泣きそうな顔をしてるよ!?」

「あはは!だって、すごく緊張してましたもん。」

2人はそう言って笑うと、泣いている可愛い妹を迎えに行った。さくらが泣きながら素生ではなく、明日香に抱きつくと、さくらの頭を優しく撫でた。いつか、本当に義妹になれば良いなと密かに思い、苦笑いを浮かべる素生を見ているのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

ゆっくりと目を開けると、そこは薄い靄がかかったかなり見慣れた草原にいた。

「…久々に来たなぁ…。色が薄い桜の夢…。」

周りをキョロキョロしながら明日香はやれやれと肩を竦めた。そして、指を折り、最後に来てからどれくらいぶりだろと確認をしていた。

「あっ。でも、3ヶ月くらいなんだ。もっと空いているかと思った。」

意外にも月日が空いていない事に明日香は驚いたが、それだけ濃い日々を送れている証拠だと自分に言い聞かせながら、薄い靄の中を歩き始めた。

「桜…見たいなぁ。」

明日香はそう呟くと、また周りにキョロキョロと視線を向けた。

「いっつも思うけど…。夢なんだから早く桜を見せてくれたら良いのに…。」

テレビを観ていて、ナレーターが「次の瞬間!」と言った直後にCMに入ってしまったもどかしさに似た感覚を持ちながら、明日香は歩を進めた。

「あった!…あったけど…。」

しばらく歩いた明日香はやっとお目当ての桜の木を見つけた。毎度の事なのだが、いきなり靄が晴れたかと思うと、桜の木が現れるのだ。しかし、今回に限っては様子が違っていた。

「花が咲いてない…。」

明日香の目にはいつもの色が薄い桜はなりを潜めており、茶色が広がっていた。

「散っちゃった…の?」

色は薄いが、それはそれで綺麗だった桜を見たかった明日香は明らかに落胆した表情を浮かべていた。

「…まぁ、10月も近いし、これが普通なんだけどさ…。」

そう呟いて無理矢理納得させようと試みるも、やっぱり残念な気持ちは拭えず、小さくため息をついた。そして、近くまで行こうと桜の木に向かってゆっくりと近づいた。

「…そう言えば、前は桜に近づけないみたいな事もあったけど…普通に近づけてるなぁ。」

だんだんと大きくなる桜を視野に捉えながら明日香は桜に気に入られたかな?などと考えていた。そして、桜の目の前まで来た時に桜の花が散った訳では無いことに気づいた。

「あっ。蕾なんだ。」

明日香はそう言うと、自分の背丈くらいにある枝に優しく手を触れた。桜の木は大きい木でも、目の前まで枝が伸びる為、こうして簡単に観察ができる。

「蕾は蕾で可愛いなぁ。」

そう呟くと、優しく蕾に触れてみた。蕾からは不思議と暖かみが感じられ、明日香は気持ちよさから目を瞑っていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

明日香が次に目を開けると、桜の木など消え去っており、見慣れた自分の部屋の天井が映っていた。

「…戻ってきた…。」

枕元に置いてあるスマホからは、けたたましくアラームが鳴っており、起きないといけない時間だということ知らせていた。

「朝…か…。」

身体を起こし、慣れた手つきでスマホを操作し、アラームを止めると、そのまま「桜 夢占い」と検索をしていた。いつもお世話になりっぱなしのサイトを開くと、桜が蕾だった場合という文字を直ぐに見つけていた。

 

桜が蕾だった場合、花びらの蕾があちこちにたくさんついている場合はその一つ一つがあなたに内に秘められた「可能性の蕾」と言えます。

 

読み終わった明日香は夢で見た桜を思い返していた。夢の中の桜の木は沢山の蕾を付けていた。

「可能性の蕾…ね。私にどんな可能性があるのかな…。それに、蕾の色が薄くなくて、濃かったような…。私、世間に流されなくなっているのかな?」

そう呟いた明日香はベッドから降りると静かにカーテンを開けた。秋雨前線の影響なのか分からないが、空は「曇天」という言葉がしっくり来るような天気だった。しかし、そんか天気にも関わらず、明日香はニコッと微笑んだ。

「将来の夢…なんとなくだけど…見つかったから、桜の夢も前向きになったんだよね。…まぁ、恥ずかしくて誰にも言えないような夢だけど…。」

そうまた呟くと、1階なら「あっちゃん!起きてる!?」と香澄の声が響いた。起きてるよと返事をし、明日香は壁にかかった制服に手をかけた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

明日香と素生は「高桑星桜」が頭上で咲き誇る中、歩いていた。明日香は薄くであるが化粧を、素生はツンツンヘアーを止め、若者らしい爽やかな髪型になっており、2人が少しだけ大人になったように見えていた。

「何考えてたの?」

桜を眺めながら黙って歩く明日香に素生はニコニコしながら声をかけた。高校生の時は恥ずかしくて繋げなかった手だったが、今はしっかりと握られていた。

「分かってるくせに。」

「あはは。また高校生の頃を思い出してたの?」

「うん。多分、桜を見る度に思い出すかな?もう6年も経つのにね。」

明日香は苦笑いしながら言うと、立ち止まり、素生に身体を預けた。

「どうした?」

「ううん。なんでもないよ。そう言えばさ、私、結局、素生さんのどこが好きかって言ってなかったよね?」

「うん…。付き合いたての時に聞いたままかな。あの時は分からないって言われたんだよね。」

「あれからなんで聞いてこなかったの?」

「だって、俺の事が好きとは伝わってたから、別に理由はなんでもいいやって思っちゃったからね?」

素生は身体を預けた明日香の肩を抱くと明日香にしか聞こえないような声で言った。周りの通行人は忙しなく歩いており、桜を眺める2人の姿など、どうでも良い様子だった。

「私は…素生さんのそういう所が好きだよ。」

「そういう所って?」

「ふふっ。分からないなら良いよ。」

楽しそうに微笑む明日香に素生はなんじゃそりゃと言った。明日香の表情は素生が大好きな表情であり、密かにまだその笑顔を見せてくれる事にホッとしていた。

「そう言えばさ、あまり思い出させたくなくて聞かなかったけど、悩みは解消したの?将来の夢って、見つかったの?」

「見つかったよ。」

「え?そうなの?なんで教えてくれないのさ。で、夢ってなに?」

素生の質問に明日香は素生の方を向くと、ウインクをし、人差し指を唇に当てた。

「秘密。」

「え?ま、マジ?結構気になってたんだよ?明日香ちゃん、来年大学4年生じゃん?ちゃんと目標だったいい大学に入って、やりたいこと見つけるって言ったから、夢が見つかったか心配だったんだよ?」

素生は焦りながら早口で言うと、明日香はあははと笑った。

「実はね、高校生の時にこうなったら良いなって未来のビジョンは見えてたんだよ?」

「マジで!?…それは叶いそうなの?」

「さぁ?未来は分からないから何とも言えないけど、叶ったら幸せかな。」

明日香はそう言うと、再び高桑星桜に目を向けた。花びらが尖っており、色は薄いが星に見える桜。夢に出てきた桜にそっくりで、始めは大嫌いだったが、最終的に導いてくれたような気がして今では感謝の念さえ浮かべていた。

「明日香ちゃん。」

「なに?」

素生に声をかけられ、明日香はゆっくりと振り向くと、そこには片膝をついた素生がいた。きょとんとした表情を浮かべる明日香に素生は照れくさそうにニヤッと笑うと、ポケットから四角い箱を取り出した。

「大学、卒業したらさ、結婚しない?」

素生の言葉に驚いた明日香は両手で口を抑えると、ポロッと涙を流した。

「はい。」

明日香は小さく言うと、ふわっと風が吹き、桜の花びらが舞うように降り注いでいた。

 

明日香の夢が叶った瞬間であった。

 

 

明日ありと思う心の仇桜

 

 

 

 

 

 

 




最終話でした。
この作品を書くにあたって、ヒロインを決めて下さったり、オリ主の名付け親になって下さった小麦こなさんに感謝致します。
本当にありがとうございました。

そして、最後まで読んで下さった方にも本当に感謝致します。
ありがとうございました。

色々と挑戦した今回の作品でしたが、どうだったでしょうか?
途中、投稿期間が伸びてしまい、本当に申し訳なくなった時もありましたが、こうして完結出来た事に喜びを感じています。

次回作は現在、少しずつ進めております。
どんな作品になるかは、Twitterにツイートしますのでよろしくお願い致します。

最後に本当にありがとうございました。
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