明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第3話

「あっちゃ~ん!」

喫茶店から帰って、今は夜になっていた。明日香と香澄はそれぞれの自室で過ごしていた。明日香は小説の続きを寝転びながら読んでいたが、再び、香澄に邪魔をされていた。

「…何?てか、ノックしなよ。」

はぁ。とため息をしながら明日香は言った。

「えぇ~。名前呼んだんだからいいじゃ~ん!」

「…もう。で、どうしたの?」

明日香は小説に栞を挟み、起き上がった。香澄は「ふっふっふ~。」と不敵な笑みを浮かべながら「じゃーん!」と1冊の本を取り出した。

「…卒業アルバム?」

「そうだよ!私が中学生の時のだよ!」

香澄はニコニコしながらページを捲った。

「あった!これこれ!」

香澄はそう言うと、生徒達の顔写真が映っているページを明日香に見せた。

「これがどうしたの?…あっ。お姉ちゃん、今よりだいぶ幼く見えるね。」

「そうかな?私も大人っぽくなった?」

「…黙っていればね。」

明日香はそう言うと、1人1人、目を通した。すると、ある人物に目が止まった。そこには坊主頭で、ニコッと笑っている男子生徒が映っていた。

「あれ?この人…。」

「そうだよ。私のクラスメイトだった飛川素生君だよ。私はもっくんって呼んでたよ。」

香澄が説明するも、明日香は驚いた表情を浮かべたまま固まっていた。

「…全然違うね。」

「そうなんだよね~。あっちゃんが言っていたもっくんと全然違うんだよね。何があったんだろうね?」

「私に聞かれても知らないよ。」

苦笑いする明日香に香澄は「そっか。」と小さく呟いた。

「ねぇ。飛川さんってどんな人だったの?」

「ん?優しくて、楽しい人かな?あと、野球部だったよ。」

香澄は当時の事を思い出しているのか、微笑みながら言った。

「…私の印象は残念な人…かな?でも、子犬拾ってたから優しい…のかな?」

明日香は自分の知ってる素生とのギャップに「う~ん…。」と首を傾げた。

「あっちゃん、もっくんに会ったのって少しだけでしょ?それだけで印象を決めたら可哀想だよ。もっくんいい人だから。」

香澄は、明日香の横に座りながら言った。

「まぁ…。そうかもだけど…。てか、次、会うかどうかも分からないし。」

「会うかもしれないじゃん!」

「てか、お姉ちゃん、飛川さんの肩を持つね?好きだったとか?」

「………うん。」

冗談ぽく言った明日香だったが、香澄は頬を赤らめて、肯定をした。見たことのない姉の表情に明日香はキョトンとしてしまった。

「そうだよ…。私はもっくんの事好きだったよ。…いや。今も好きかも知れない。」

「…はい?お、お姉ちゃん、本当に?」

目を見開いて聞く明日香に香澄は再び、頷いた。明日香は驚き過ぎて、香澄のアルバムを床にゴトッと落としてしまっていた。

 

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「…はぁ。」

明日香はため息をついた。香澄の衝撃的な発言を聞いた次の日。日曜日だった為、六花と駅で12時に待ち合わせをしていた。そう、待ち合わせをしていたはずだった。しかし、時間になっても六花は現れず、心配になった明日香はLINEを開き、文章を作成した。そして、すぐに既読がつき、返信を読んだ明日香はため息をついたのであった。返信の内容を要約すると、香澄に拉致され、蔵にいるとの事だった。

「またポピパか…。」

六花はPoppin`Partyの大ファンである。憧れて、岐阜からわざわざ上京してくるほどだ。だから、Poppin`Partyに誘われたら、そっちに行ってしまうのは仕方がないと明日香は思っている。

「はぁ。でも、ドタキャンは辛い…かな。」

明日香は回りに聞こえないくらいの声で呟いた。そして、「はぁ~。」と深いため息をついた。

「最近、ため息、つきすぎかなぁ。」

明日香は最近の自分を思い出しながら言った。

「これもそれもあの桜の夢が悪いんだ。私は別に将来を不安になんて思ってない。勉強頑張って、良い大学に入れば、きっと、やりたい事の1つや2つ、出てくる…はず。」

自分に言い聞かすように呟くが、心の中には曇り空のようなモヤモヤがかかっていた。そして、再び「はぁ~。」とため息をつくのであった。

「そんなため息をついて、しかも、ブツブツ呟いてどうしたの?戸山明日香さん?」

「きゃ!」

明日香は突然後ろから声をかけられて「ビクッ」と背中を震わせた。

「あぁ。びっくりさせちゃった?ごめんね?」

声をかけたのは素生だった。今日も、いつものように、髪をツンツンに立てて、ピアスが何個かついていた。ただ、前の違うのは制服では無く、私服という点だった。

「と、飛川さん…。本当にびっくりしたんですからね!」

「あはは!ごめんごめん。」

素生は悪びれる様子もなく、笑いながら言った。

「まぁ、良いですけど…。飛川さんは何をしてたんですか?」

「暇だからぶらぶらしてただけだよ。戸山明日香さんは、友達にドタキャンされたのかな?」

素生はニヤリと笑いながら言った。

「何で分かったんですか?」

「だって、駅の分かりやすいとこで立ってて、スマホを見ながらため息ついてるから。待ち合わせをしてて、来れなくなったって見え見えだったよ。」

素生はドヤ顔をしながら言った。そのドヤ顔を見て、明日香は「イラッ」としていた。

「そーですか。それでは、ひとりぼっちになってしまった私は帰りますので。失礼します。」

「ちょっと待ってよ!」

「はい。なんでしょうか。」

「飯、食いに行かない?ぼっち飯は寂しいからさ。」

素生はお腹を擦る。時間も丁度、お昼だったので明日香もお腹は空いていたが、「う~ん。」と考えていた。

「(え?この人とご飯?…嫌だなぁ。でも、聞きたい事もあるし…。)」

明日香は、ご飯に行く、行かないを天秤にかけるのであった。

「あぁ。ちなみに奢るよ?君の好きな物食べに行こ?」

素生は明日香の考えている事などつゆ知らず、呑気な声で言った。明日香にとって、この一言が行くに天秤が傾いた瞬間であった。

 

─────────────────────

明日香は姉と違い、勉強が出来る。元々の頭の良さもあるが、「良い大学に行く」と言うだけあって、普段から勉強は怠らず、努力をしている。そのお陰か、頭の回転はかなり早いのである。何故、こんな説明をするのかと言うと、素生と明日香がご飯を食べる為に、入店したお店に関係しているからだ。その明日香の作戦がハマっているのか、目の前に座る素生はソワソワとしていた。

「飛川さん?どうしましたか?」

「…いや。別に。」

素生の反応を見て、明日香は内心ニヤリと笑った。2人は今、かなりオシャレなカフェに来ていた。内装も女性が、好む感じになっていた。現に、他のお客は女性しかいなかった。

「こういう店は嫌いでしたか?」

「…いや。」

明日香の作戦は聞きたいことを聞いたら帰るという物だった。その為には素生が長居が出来ない店にしなければならなかった為、オシャレなカフェにしたのだった。普段の明日香なら絶対にこんな失礼に値するようなことはしないのだが、余程、素生のドヤ顔にイライラしたのである。

「飛川さん。聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

「…何?」

「どうして、不良なんかしてるんですか?」

「え?カッコイイからだよ。実は、中学生まで野球をやってたんだけど、怪我しちゃって、出来なくなって、次は何しようかなって考えてたら、不良が出て来る漫画を読んで、格好よかったから真似してるんだよ。」

キラキラとした目で語る素生に、明日香はキョトンとした。香澄から聞いた、中学生の素生から今の素生の姿になったのは重大な理由があると勝手に思っていた。しかし、蓋を開けてみたらしょうもない理由であった。

「え、えっと、怪我って、何処を怪我したんですか?やっぱり練習のし過ぎとかで?」

「怪我は肩だよ。利き手の肩を痛めてね。…練習のし過ぎじゃなくて、友達と砲丸投げの球で遊んでたら、気付いたら肩を壊してたんだよね。」

あははと笑いながら言う素生に明日香は「はぁ。」とため息をついた。理由がバカ過ぎたからである。

「そんなため息をついたら幸せ逃げちゃうよ?戸山明日香さん?」

「…なんで、フルネームで呼ぶんですか?」

「え?だって、お姉ちゃんいるでしょ?戸山香澄。そっちを戸山さんって呼んでるからだよ。」

「…気付いてたんですか?私がお姉ちゃんの妹だって。」

明日香は驚きながら言うと、素生は再び、ドヤ顔を浮かべた。

「名前を聞いた時に気付いたよ。お姉さんからあっちゃんって言う妹がいるって聞いてたから。んで、何て呼べばいい?」

素生が注文していたアイスコーヒーに口を付けながらいった。ちなみにだが、シロップとミルクがたっぷり入っている。

「…何でも良いです。」

素生のドヤ顔に再びイラッとした明日香は素っ気なく答えた。

「なら、俺もあっちゃんって呼ぼうかな?」

「それはダメです。」

明日香が速攻で答えると、素生は「何でも良いって言ったじゃん。」と呟いた。明日香は心の中で「(あっちゃんは…。お姉ちゃん専用だもん。)」と思っていた。

「う~ん。なら、明日香ちゃんって呼ぶね。」

「はい。わかりました。」

明日香がそう言うと、話が一段落した。そして、そのタイミングを測ったかのように、2人が注文したメニューが運ばれてきた。

「ところでさ、明日香ちゃんは恥ずかしくないの?」

再び、ソワソワしながら素生は言った。

「別に恥ずかしくないですよ?女の子向けの店じゃないですか。」

「だから、そんな店に男女で来るのはカップルくらいでしょ?俺とカップルに見えて良いの?」

素生が言うと、明日香は慌てたように周りを見た。周りの女性達は2人を見て、微笑ましい視線を送っているのであった。明日香が策士策におぼれた瞬間であった。

 

─────────────────────

「またあの場所だ…。」

明日香はまた靄が視界を邪魔する草原にいた。相変わらず、周りをいくら見渡しても何も見えない。

「…とりあえず、また歩きますか…。」

明日香はどっちに行ったら分からないが、とりあえず適当に歩いていた。

「この前は、確か…。これくらいで桜が見えたんだっけ?…定かじゃないけど…。」

以前、見た夢通りになるとは明日香も到底思えなかったが、その期待を見事に裏切り、突然、靄が晴れ、明日香の目の前にはまた見事な桜が咲き誇っていた。

「…やっぱり、色が薄い。」

改めて、ゆっくり桜を観察した明日香は呟いた。満開に咲いてはいるが、色はピンクと言うより、白に近かった。

「…なんで…色が薄いのかな…。」

そう言いながら、明日香は六花が調べた夢占いを思い出していた。

「好奇心が低下…。世間に流される…。私、どうなるのかな?そんなに将来に不安なんて…。」

自分に言い聞かせるように呟いた明日香だったが、その瞬間に自分の姉である香澄の事を思い出していた。

「…なんで…お姉ちゃんが…ぐすっ。出てくるの…ぐすっ。」

。いつも真っ直ぐで、キラキラしている姉に対して、明日香はいつも鬱陶しくも、眩しく感じていた。

「姉妹なのに…。全然…違うよね…。」

夢も持ち、毎日楽しそうな姉に差を明日香は感じていた。止めどなく、流れる涙を明日香は拭うこともはなく、その場に立ち尽くしていた。

「私…。なんで泣いてるんだろ…。もぅ!どうしたら良いの!」

涙と一緒に、訳も分からない不安も流れ落ちれば良かったが、相変わらず、胸を苦しめるだけだった。将来の不安なのか、姉との差の不安なのか、明日香は気付くことは無かった。

「…はぁ。…いっぱい泣いちゃったなぁ。」

少しだけ、落ち着いた明日香は再び桜を眺めていた。その時、今まで感じた事がない突風が吹き、思わず、明日香は目を瞑った。耳には桜の木がザワザワと揺れる音が響いていた。風が収まり、明日香は目を開けると、目の前の桜の花は全部散ってしまい、ヒラヒラと大量の花びらが明日香に向けて降っていた。

「…嘘。」

明日香はその光景に目を見開いていた。

 

─────────────────────

「あっちゃん!あっちゃん!」

香澄は一生懸命、妹の明日香の身体を揺らしていた。香澄が明日香を起こしに来たら、明日香は涙を流しながら寝ている光景に焦っていた。

「…お姉ちゃん?」

「あっちゃん!大丈夫?体調、悪いの?」

香澄に問いかけに、明日香は段々と意識が覚醒していくのが分かった。

「…おはよ。大丈夫。ちょっと、変な夢を見て。」

力なく言う、明日香だったが、起き上がった瞬間に、身体に力が入らない事に気付いた。

「あっちゃん?本当に大丈夫?」

「うん…。大丈夫…。ちょっと怠いだけ…。ねぇ。お姉ちゃん?」

「何?」

「お姉ちゃんは、私の事………好き?」

明日香の発言に香澄はキョトンとしたが、すぐに笑顔になると、ガバッと明日香に抱きついた。寝起きで力が入らない明日香はそのままベッドに押し倒された。

「当たり前じゃん!あっちゃん大好きだよ!」

ギューと抱き締められる明日香。いつもは鬱陶しく払いのけるが、あんな夢を見たからか、今日は安心感に包まれるのであった。

「お姉ちゃん…。ちょっとだけ、このままで…。」

少し照れながら言う明日香に香澄は力強く「うん!」と言うのであった。

 

 




皆様、10連休をいかがお過ごしでしょうか?

今回の話の最後ですが、明日香に妹っぽさを香澄に姉っぽさを出したかったんですが…、百合が咲きそうな展開になってしまいました。
まぁ、これはこれで…良いか笑

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