明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第4話

「初めて…ずる休みしたなぁ…。って、ずる休みなのかな…。」

自室の天井を見上げながら明日香は呟いた。服装もまだパジャマのままで、ベットからも降りずにいた。姉である香澄に抱き締めて貰った後、学校に行く、準備をしようとした明日香だったが、香澄に阻止され、「そんな状態で学校なんか行ったらダメ。」と言われ、制服を何処かに持って行ってしまったのだ。

「まぁ…いいか。授業も集中出来るとは思えなかったし…。」

自分に言い聞かすように言ってみる。そして、明日香は再び目を閉じた。変な夢のせいで、寝たのか、寝ていないのか分からない状態に陥っていたのだった。睡魔がくるまで、明日香はあの夢について考え出した。

「(あの夢、本当に何なの?進路について悩んでいるから?いやいや。私、別に悩んでないじゃん!良い大学に行って、その大学に行ってそこで、やりたいことを見つける…。でも…。本当に見つかるのかな…。)」

瞑っていた目を開くと、自室の天井が見えるだけであった。

「…起きよ。寝れそうにない…。」

精神的にかなり疲弊してしまった明日香は気分を変えるために机に向かった。そして、置いてある参考書をパラパラと捲り、ペンを握った。気分を変えるために勉強をする。香澄が聞いたら余計、心配しそうな行動である。

「…。はぁ。」

しかし、気分を変えるどころか、普段なら簡単に解けてしまう問題に早速躓いてしまった。分からないというよりは問題文が頭の中に入ってこない。問題文も、ちゃんと集中して読まなければただの文字が並んでいるだけになってしまう。集中できない明日香はパタンと参考書を閉じてしまった。

「…やる気でないなぁ。」

明日香は先日の六花との夢占いの結果を思い出していた。

「…これって。好奇心の低下?」

明日香は持っていたペンを机に転がしながら呟いた。そして、明日香は徐にスマホを掴んだ。そして「桜 夢占い」と打ち込んだ。

 

“桜が散る夢は何かを失う事を暗示しています”

 

検索の結果、すぐに分かってしまった結果を見て、明日香はますます表情を暗くした。

「何を失うのよ…。」

明日香はスマホを置くと、再びベットに倒れ込んだ。ますます将来が不安になるのであった。

「…お姉ちゃん。早く帰ってきて…。」

不安からか、掛け布団を丸めて、ギュッと抱きつく。朝、香澄に抱き締められたような安心感を明日香は得ることが出来なかった。

 

─────────────────────

次の日、明日香は気分がブルーなまま…では無く、ムスッとした表情で学校に向かっていた。昨日からグルグルと考え続け、夜も寝れなくなってしまった明日香は「なんで夢如きに振り回され無ければならないのか」と思い、腹が立っていたのだった。

「(あぁ~!腹立つ!)」

明日香はズンズンと歩いていた。いつもより歩幅が大きく、早足で歩いていた。

「あ、明日香ちゃ~ん!ま、待って!」

呼ばれた事に気付いた明日香はムッとした表情のまま振り返ると、息を切らせながら六花が走って来ていた。

「六花。おはよ。どうしたの?」

「あ、明日香ちゃん?ず、ずっと声をかけてたのに…。無視するんだもん。そ、それに…何か怒ってる?」

「…ごめん。ちょっとイライラしてて。」

明日香は自分の態度を思い直し、苦笑いしながら言った。

「だ、大丈夫だけど、何にイライラしてるの?」

息を整えながら六花は言った。心配そうな表情をしており、眉は八の字に垂れていた。

「大丈夫だよ。六花ありがとう。実はね、また桜の夢…見ちゃったんだよね…。今度は散っちゃう夢だったんだよね…。夢占いも調べたんだけど、あんまり良い結果じゃなくて…。もぅ、嫌になっちゃうよね!?」

苦笑しながら一気に明日香は言った。

「えっと…。明日香ちゃん、本当に大丈夫?」

「だから、大丈夫だって!」

「大丈夫なら…良いけど…。」

明日香の言葉に安心すること無く、六花は困った顔を崩さないままだった。

「…だから、六花…。大丈夫だよ…?」

「ごめんね。明日香ちゃん。大丈夫そうに見えないよ…?だって、そんなに喋る明日香ちゃん、初めてみたよ?」

「…え?」

「明日香ちゃんって、クールでしょ?だから、いつもと全然違うから…。」

六花はあわあわしながら辿々しく言った。

「…私って…クール…なの?」

「私はそう思うけど…。」

明日香は頭上にクエスチョンマークを六花は首を傾げたまま固まってしまった。

「(私って、どんな風に思われてるの?…てか、私って、どんな性格なの?)」

明日香は考えてみるも、全く思いつかなかった。

「明日香ちゃん?とりあえず、学校に行こ?」

六花の言葉に、明日香は慌てて思考を戻した。

「そうだね。あっ!そうだ!六花!」

明日香が眉間に皺を寄せながら言った。

「な、何?」

「日曜日。」

明日香は短く言うと、六花は小さく「あ…。」と呟いた。先日のドタキャンの事を明日香は責めていた。

「ご、ゴメンね!か、必ず埋め合わせをするから~!」

六花が手を合わせながら言うと、明日香は「はぁ。」とため息をついた。

「だったら、今日の放課後、遊ぼ?」

「え?明日香ちゃん体調は大丈夫なの?」

「うん。お姉ちゃんに無理矢理休まされただけだから。で、良いの?」

「もちろん!放課後までに行きたい所、考えよ?」

六花がニコッと笑うと明日香もそれに釣られ、ニコッと笑うのであった。明日香は久々に自然に笑顔が出た瞬間であった。

 

─────────────────────

六花と明日香は約束通り、放課後、遊びに来ていた。ゲームの音が鳴り響き、入った瞬間の騒音で、不快な表情をするも、不思議と直ぐに慣れ、辺りを見渡す余裕が出来た。レーシングゲームやUFOキャッチャーなどのゲームの後ろからは「カキーン」と金属特有の高音も鳴り響いていた。

「初めて来たけど…。こんな風になってるんだ。ねぇ?六花?なんでバッティングセンターに来たかったの?」

目を輝かせながら辺りを見渡す六花に明日香は聞いた。2人はバッティングセンターに来ていたのだった。

「昨日の夜ね、たまたま野球をテレビで観てね。私もやってみたいなぁって思ったからだよ。」

六花はバッティングが出来るスペースで、小学生くらいの男の子が鋭い打球を打っている姿を見て「おぉ。」と呟いた。

「野球、したことあるの?」

「無いけど…。やってみたい!」

六花はそう言うと、財布から小銭を取り出し、早速スタートさせた。しかし、野球未経験者がバットにボールを当てるのは至難の技であり、六花が振るバットにはボールが当たる事はなく、バッターボックスの後ろにあるゴムの的にボールが「ドス」と当たるだけであった。

「やっぱり、難しかった~。」

残念そうな表情をしながら、六花は1ゲームを終えた。

「1球も当たらなかったね。」

見守っていた明日香も苦笑いをした。

「明日香ちゃんもどうぞ?」

「わ、私?私は良いよ。」

「そんな事、言わないで。はい。」

六花は持っていたバットを明日香に渡した。

「えぇ~。しょうがないなぁ。」

明日香は重い腰を上げると、バッターボックスに向かった。お金を入れると、「ウイーン」と言う機械音が響き、ピッチングマシーンからボールが出て来た。

「わっ!」

ボールのスピードは90キロの設定だったが、後ろから見ているのと、バッターボックスから見るスピードは全然違い、早く見えた為、初球は見送るだけであった。

「明日香ちゃん!バット振らないと!」

六花が後ろから叫ぶ。

「わ、分かってるけど…。きゃ!」

ピッチングマシーンは明日香に休む暇を与えないと言わんばかりに、次の球を投じていた。明日香はなんとかバットを振るも、バットは空を切った。振った瞬間、スカートがふわりと浮いた。結局、明日香も1球も当たらずに終了してしまった。

「(やっぱり無理じゃん。)」

バットを所定の位置に戻しながら思っていると、明日香の横にあるストラックアウト、9つの的にボールを当てるゲームが出来る場所から「うらっ!」と言う声が聞こえた。明日香がその場所に目線を向けると、左投げの男性がピッチングをしていた。気合いの入った声とは裏腹に、ボールは山なりで、なんとか的まで届いていた。

「明日香ちゃん。残念だったね。」

「やっぱり難しかったよ。」

「それより、横の人、凄いよね。」

「そう?ボール山なりじゃん。気合いだけは充分だけど。」

2人はストラックアウトを熱心に行っている男性に釘付けになっていた。気合い充分な為、なんとなく応援したくなる雰囲気になっていた。結局、男性は3つ的を射抜いて、終了した。

「あれ?明日香ちゃん?」

ストラックアウトから出てきた男性は明日香の方をチラッと見ると、声をかけた。

「え?…あの?どちら様ですか?」

「酷いなぁ。飛川だよ。飛川素生。」

「…え?」

明日香が分からないのも無理はない。素生はツンツンヘヤーでも無く、制服を着崩してもいなかった。今は、男の人の割りには長い髪に、ジャージ姿だった。ちなみに、ピアスも外している。

「いつもと服装が違い過ぎませんか?」

「ん?そりゃそうだよ。あんな恰好で野球できないもん。」

何言ってるの?と言いたげな表情を素生はしていた。

「いや。違い過ぎて分かりませんでした。」

「ねぇ。明日香ちゃん?誰?」

六花は素生が明日香に声をかけた瞬間に明日香の後ろに隠れてしまった。この間のナンパが若干トラウマになってしまっていたのだった。

「えっと、ナンパした時に助けてくれた人だよ?見る影ないけど。」

「え?…えぇぇ!?」

六花は目を見開きながら言った。

「そんなに違うかな?」

「鏡見て下さい。全然違いますよ。ところで、なんで、投げていたんですか?野球、辞めたんですよね?」

「ん?まぁ、嫌いで辞めた訳じゃないから、たまにやりたくなるんだよ。まぁ、見ての通りの球しか投げれないけどね。」

苦笑いをしながら素生は左肩を擦った。会話の意味が分からない六花はキョトンとした表情をして、話を聞いてきた。

「そうだ。スカートで野球しない方が良いよ?」

「なんでですか?」

「良い物見せて貰ったよ~。」

素生がニヤッと笑って言うと、意味を理解した明日香は素生を睨み「最低」と呟いた。

─────────────────────

「だだいま。」

明日香が自宅に戻ると、既に姉である香澄が帰ってきていた。

「あっちゃん。おかえり。体調はどう?」

明日香の声に反応し、香澄が玄関まで、出迎えてくれた。そして、「はい。」と手を出し、明日香のカバンを預かっていた。

「…ありがとう。でも、体調はもう大丈夫だよ?お姉ちゃん、練習は?」

「あっちゃんの体調が悪いのに、行けないよ~。」

さも当たり前のように香澄は言うと、明日香は申し訳無さそうな顔をした。

「あっちゃんは心配しなくて大丈夫!」

香澄は明日香の手を優しく掴むと、リビングまで、手を繋いだまま向かった。

「あっちゃん、何か飲む?」

「ありがとう。ジュースあったよね?」

「うん。準備してくるね。」

香澄は立ち上がると台所に向かった。

「そう言えば、何処に行ってたの?」

「六花と遊んでいたよ。…お姉ちゃんが日曜日に六花を拉致したから遊べなくなった変わりにね。」

明日香がチラッと香澄を見ると、明後日の方向を見て、「あはは~。」と誤魔化すように笑っていた。

「そう言えば、六花とバッティングセンターに行ったんだけど、そこで飛川さんに会ったよ。」

「え!?そうなの!?もっくん、まだ野球やってたの?」

「ううん。たまにしたくなるだけだって。左肩、痛そうだったよ…。」

明日香は左肩を擦る素生の姿を思い浮かべていた。

「ねぇ、お姉ちゃん。飛川さんって野球上手だったの?」

「う~ん。私、野球、よく知らないから分からないけど、ピッチャーだったらしいよ?なんか、秘密兵器?とか呼ばれてたよ?」

香澄は思い出しながら言った。そして、台所からコップを2つ持ってくると、その1つを明日香に手渡した。

「秘密兵器?それって…。まぁ、いいや。ありがとう。」

「ううん。もっくんかぁ~。懐かしいなぁ。久々に会いたいなぁ。」

ふふっと笑いながら、頬を染める香澄。そんな姿をやはり見慣れない明日香はどうしても驚いてしまう。

「…連絡先は知らないの?」

「うん。知らない。聞いとけば良かったなぁ。」

香澄が言うと、明日香はまた驚いた。いつでも前向きな姉が「あれしとけば良かった」などとは滅多に言わないからだ。

「お姉ちゃんも、そんな風に思うこと、あるんだ。」

「うん?」

香澄は明日香の言う事を理解出来ずに首を傾げた。

「ううん。何でもないよ。そう言えば、お姉ちゃんにまだ聞きたい事があってね。」

「なぁに?」

「私って、クール…なのかな?六花に言われたんだけど。」

明日香が言うと、また香澄は首を傾げた。

「クール…。クールって蘭ちゃんみたいな人かな?」

「…誰?」

「Afterglowのボーカルの人だよ。」

香澄が言うと、明日香は「あぁ。」と呟いた。誰かは分かったが、話したこともない為、蘭がクールな人かどうか、明日香には分からなかった。

「それで、私って、クールなのかな?」

「う~ん。わっかんない!」

頭を捻って考えた香澄だったが、ニコッと笑顔を浮かべると、高らかに言った。

「…そっか。」

「あっちゃんはクールに思われたら嫌なの?」

「…分からない。よく分かんなくなっちゃった。」

「…あっちゃん?」

少し、寂しそうな表情を浮かべる明日香に香澄の理解は着いていけなかった。まだまだ明日香の悩みは尽きないのであった。

 

 

 

 

 




秘密兵器の素生君でした。

まだまだ、明日香の悩みは続きます。
ちなみに、桜の夢占いはGoogle先生で検索すると簡単に見つかります。
桜が一気に散る夢は何かを失うと書きました。
金運で占った方は全財産を失う勢いらしいです。
嫌だなぁ…笑

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