明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第5話

「ねぇ。ねぇってば!」

素生は前をずんずん歩く明日香に声をかけていた。先程から、素生が声をかけているが、明日香はずっと無視をしていた。

「なんで無視するん?」

諦めずに、素生は声をかけたが、明日香は全く聞こえていないかのように歩く。ちなみにだが、明日香と素生は街でバッタリ会っただけだった。

「聞こえてるよね?戸山明日香ちゃん!」

「あーもう!声を掛けないで下さい!変態っ!」

大声で声をかける素生にとうとう明日香が折れ、振り返りながら叫んだ。ちなみに、街中であった為、2人はかなり目立っていた。…素生の服装やツンツン頭のせいでもあるが…。

「へ、変態?俺、何かしたっけ?」

「したじゃないですか!バッティングセンターで!」

明日香は頬を赤く染め、プルプルと震えながら言った。

「バッティングセンター?あぁ。パンツの事?いやぁ~。良い物見せて貰ったよ!」

「…最低。」

「明日香ちゃんがあんな短いスカートでバッティングするからじゃん!優しさで注意したのに。でも、白って良いね!」

「…最っ低!」

明日香は素生を睨みながら言った。当の素生はニヤニヤと笑っていた。言わなくても分かるだろうが、「白」と言うのは明日香があの時履いていた下着の色である。

「あはは!冗談はさておき、何処に行くの?」

「絶対に教えません!」

明日香はそう言うと、再び歩きだそうとした。しかし、その瞬間、「あっちゃ~ん!」と別の方向から声が響いた。明日香と素生が声のした方に目をやると、ギターを背負った香澄が走りながら手を振って、近づいてきていた。

「あっ。お姉ちゃん。」

明日香は手を振り返す。香澄は追いつくと、明日香にギュッと抱きついた。

「ち、ちょっと、お姉ちゃん!辞めてよ!」

「あっ。百合の花が咲いた。」

香澄と明日香のやりとりを見た素生はボソッと呟いた。

「あっちゃんこの人は誰?…まさかまたナンパ…?」

香澄はそう言うと、明日香を自分の後ろに引っ張り、素生を「キッ」と睨んだ。

「お姉ちゃん!その人は…。」

「あっちゃん!もう大丈夫だよ!お姉ちゃんに任せて!」

慌てる明日香に香澄は言うと、素生に突っかかっていった。

「あの!うちの妹に何か用ですか!」

「うん。めっちゃ用があったよ?」

素生はもちろん、香澄の事を知っていたが、面白そうだった為、黙ってやり取りに付き合っていた。

「私の妹に付きまとってたでしょ!?妹も迷惑しているので、辞めて下さい!」

「へぇ~。妹さん、別に迷惑してないと思うけど?」

素生が香澄の後ろからちょこんと顔を出す明日香に同意を求める為、見つめる。しかし、見つめられた明日香は目を細めた。

「すごく迷惑でした。」

「へ?明日香ちゃん!?」

「ほら!やっぱり迷惑してるんじゃないですか!これ以上、付きまとうようなら警察呼びますよ?」

香澄がこれ以上ないほどの警戒心を素生に向ける。手にはスマホが握られており、本当に通報しそうな勢いであった。

「お姉ちゃん…。私、この人にパンツ見られた。」

「ちょ、ちょっと!明日香ちゃん!?」

明日香の爆弾発言に素生は焦った。香澄はそれを聞くと、スマホを操作し始めた。

「ま、待って!戸山さんストップ!俺だよ!俺!素生だよ!飛川素生だって!」

香澄は名前を聞くと、スマホを操作していた手を止め、顔を上げた。しばらく沈黙があり、「えー!」と叫び声を上げたのだった。

 

─────────────────────

なんとか素生は犯罪者の誤解を解き、3人は近くにあった喫茶店に入っていた。

「本当にごめんね。」

香澄が手を合わせながら謝罪した。

「いやいや。俺も悪ノリしちゃったから…。」

「あのまま捕まれば良かったのに。」

苦笑いをする素生に明日香は辛辣な言葉を浴びせていた。

「もっくん、あっちゃんに凄い嫌われちゃったね。何かしたの?」

ツーンと顔を明後日の方向に向ける明日香に香澄も苦笑いを浮かべた。

「お姉ちゃん。パンツ見られたのは事実だから。」

「…もっくん?」

「ご、誤解だって!」

素生はバッティングセンターでの出来事を話した。いや、話したところで素生が優位に立てるはずもないのだが…。

「普通、言う?」

明日香が非難の目を素生に向けた。

「言わないかな?パンツ見えたよって。」

香澄もボソッと言った。姉妹揃って、幻滅された素生は一所懸命、ヘコヘコと謝罪を繰り返した。端から見れば、女子高生に頭を下げ続ける不良と言うなかなか面白い光景だった。

「てか、もっくん。その恰好はどうしたの?あっちゃんから聞いてたけど…。なんか…凄いね。」

「カッコイイでしょ?」

「う、う~ん…。ど、どうかな?」

珍しく歯切れが悪い香澄に明日香はため息をついた。

「お姉ちゃん。はっきり言った方が良いよ?ダサいって。」

「あ、あっちゃん?」

「だって、そうでしょ?いつの時代の不良なのよ。今じゃ、その恰好はダサいって。卒業アルバムの中学生の頃の飛川さんは…まぁ、格好よかったじゃん?」

明日香が一気に喋ると香澄も「まぁ…そうだけど…。」と呟いた。

「…え?…マジ?…俺って…ダサいの?」

素生がそう呟くと、話していた姉妹はパッと素生を見た。そこには今にも泣き出しそうな不良がいた。

「も、もっくん!?だ、大丈夫?」

「な、泣くことないじゃないですか!?」

素生の姿を見て、姉妹は焦りながら言った。

「だ、大丈夫…。いや、ち、ちょっとショックだっただけだから。」

「ちょっとじゃないですよね?大ダメージ受けてますよね?」

まさか自分の発言がここまでになると思ってなかった明日香は本当に慌てていた。普段、明日香にクールなイメージを持っている人物が見るとなかなか新鮮さを味わえるくらい焦っていた。

「もっくん?なんで不良なんかになっちゃったの…?」

「…カッコイイから。いや、カッコイイって思っていたから…。」

「わ、私の言葉で、心を折れないで下さい!」

「お、折れてないし。ぜ、全然平気だし。」

素生は強がっていたが、目には涙がいっぱい溜まっていた。

「あはは!あぁ~。ごめんごめん。でも、もう我慢の限界!あはは!」

素生が傷つき、明日香が焦っている中、香澄は突然笑い出した。

「お、お姉ちゃん?」

「あぁ。お腹痛い。ごめんね。でも、もっくん、全然変わってないんだもん。」

「え?アルバムと全然違うじゃん?」

「違うよ。確かに、風貌は変わったけど、中身がね。性格は昔と一緒だよ。…安心したよ。」

ニコニコ笑いながいながら言う香澄に明日香は「そっちか…。」と呟いた。

「そう言う戸山さんだって、相変わらず明るいよね。でもさぁ、そのネコ耳は何?」

「もっくん、違うって!これは星だよ!」

「星…?あぁ。昔から好きだったよね?そう言えば、キラキラドキドキする事、見つかったの?」

「もっちろん!今はね!バンドしてるんだぁ~!」

素生と香澄は昔話に花を咲かせていた。素生の目に涙は溜まったままであったが…。そんな2人を見て、明日香はふて腐れていた。自分が分からない話、しかも、自分の知らないお姉ちゃんを大嫌いな人が楽しそうに話す姿に「イラッ」としていた。

 

─────────────────────

自室にて、六花に勧めてもらった本を読んでいた明日香はまだイライラしていた。昼間の出来事ではなく、忙しなくスマホの通知にイライラしていた。

「なんで、LINEのIDを教えるのよ!お姉ちゃんのバカ!」

いつも、スマホばかり見ている明日香だったがこの時ばかりは「世の中からスマホが無くなってしまえ!」と思っていた。

「あっちゃん!入るよー?」

ドアの外から明日香のイライラの元凶を作った張本人である香澄が声を掛けた。

「…どーぞ。」

明日香は自分ができる限りの冷たい声を出した。しかし、香澄がそんな事を気にするはずもなく、ガチャとドアを開けるとご機嫌な様子で明日香に抱きついた。

「あっちゃん!もっくんからLINEきた?」

香澄が明るく言うと、明日香はスマホを指した。スマホは「ピコン」と矢継ぎ早に鳴っていた。

「…なんで見ないの?」

「なんで教えたの?」

香澄の質問に明日香も質問で返した。

「だって。もっくんがあっちゃんのLINE、教えてって言うから。」

「はぁ。次からちゃんと許可とってよね。」

明日香はそう言いながらスマホを手に取った。

「ねぇねぇ。あっちゃん!もっくんからなんてLINE来てるの?」

「待って。今、見るから。」

明日香は慣れた手つきでスマホを弄った。数十通届いたLINEをスクロールすると、そのまま香澄の方にスマホを向けた。

「…あっちゃん、どうするの?」

「どうするって、無理だよ。」

明日香は再び、スマホの画面を見る。素生からのLINEの内容を要約すると、デートのお誘いだった。

「えぇ~!行けば良いじゃん!」

「…嫌だ。てか、お姉ちゃんが行けば良いじゃん!お姉ちゃん、飛川さんのこと好きなんでしょ?」

「す、好きだけど…。もっくんが好きなのはあっちゃんだよ?なのに私は行けないよ。」

「…はぁ?」

明日香は眉間に皺を寄せた。姉の香澄の素っ頓狂な発言は今に始まった訳ではないが、内容が内容だっただけに、いつもなら流せる会話も明日香は流せずにいた。

「そんなのあるわけ無いじゃん。」

「だったら、なんで…。そんなにLINEが来るの?私には始めの数通しか来てないよ?」

「飛川さんは私をからかってるだけだよ。」

「違うよ!」

明日香に向かって叫んだ香澄。表情からは怒りを読み取る事が出来た。

「お、お姉ちゃん。落ち着いて…。」

「…ごめんね。もう、寝るね?おやすみ。」

香澄は立ち上がるとそそくさと部屋に戻って行った。そんな姉を明日香は見送るしかなかった。

 

─────────────────────

桜の夢を見てから本当に碌な事が無い。明日香はそう思っていた。姉の香澄とは喧嘩はするし、素生には付きまとわれるし、将来の不安だって何一つ解決しない。しかも、あのエセ不良の素生には姉いわく、好意を持たれているらしい。明日香は頭の中で、今、起こっている問題を挙げてみたが、本当に頭が痛くなる問題ばかりだった。明日香は「あー!」と頭をガシガシと乱暴に掻いた。

「戸山さん?…戸山明日香さん!」

「は、はい!」

「大丈夫ですか?体調でも悪いのですか?」

「い、いえ…。」

そして、その悩みは授業にも影響が出るほどだった。

「これも全部、あの夢が悪いんだ…。」

誰にも聞こえないような声で明日香は呟いた。頭を切り替える為に、授業を聞いてみるも、すぐに思考は元に戻ってしまった。

「明日香ちゃん?本当に…大丈夫?」

昼休み、弁当を早々に食べ終わった明日香は机に伏せていた。それをパックのジュースを飲みながら六花は眉を八の字に下げ、心配そうに見ていた。六花の発言に明日香は伏せたまま「大丈夫」と答える変わりに右手を挙げた。

「大丈夫じゃない…よね?」

「…大丈夫。」

右手を挙げただけでは意味が伝わってないと思った明日香は弱々しく、伏せたまま言った。

「…大丈夫な声じゃない…。明日香ちゃん、何があったの?」

六花は明日香の肩を優しく掴むと左右に揺さぶった。明日香は起き上がると、外の眩しさに顔を顰めた。

「…何もないよ?」

「何もないならどうしてそんなに元気がないの?」

「…何もないって。」

しつこく聞いてくる六花だったが、明日香は六花と目を合わせる事もなく「何もない」と言い続けるのであった。

「良いよ。分かったよ。香澄さんに聞くから。」

六花はそう言うと、スマホを取り出していた。

「待って!分かったから。言うから止めてよ!」

明日香が慌てたように言う。

「言うなら連絡なんてしないよ。そ、それに、香澄さんと連絡を取るなんて…。恐れ多い…。」

「え?まさか、六花…。はったりだったの?」

「まさか!友達が悩んでいるんだよ?あのまま言わないつもりなら本当に聞くつもりだったよ。桜の夢占いも原因なんでしょ?私が言い出した事だから、心配しているんだよ?」 

六花がそう言うと、明日香は目線を下げ「ごめん。」と呟いた。そして、悩んでいる内容を六花に伝えた。

「香澄さんと喧嘩…。それも男関係で…?」

「六花!?言い方!」

アワアワしながら言う六花に明日香は慌てて訂正するのであった。

「か、確認なんだけど、明日香ちゃんは…好き、なの?」

「…飛川さんの事?」

「…うん。」

「大っ嫌い!あんな最低な人、好きになるわけがないじゃない!それに、お姉ちゃんが好きな人だよ?」

盛大に「はぁ。」とため息をつき、腕を組み、明日香は言った。

「そ、そうなんだね。LINEに返信はしたの?」

「既読無視してる。」

「へ?」

「な、なによ?」

明日香の言葉に六花は首を傾げていた。ちなみにだが、明日香は六花の首を傾げて、キョトンとする姿に「可愛い。」と思っていた。しかし、そんな可愛い表情から発せられた言葉に明日香は固まってしまい、答えることが出来なかった。

 




やっと…書けた…。
スランプ長かった…。
期間が空き、すみませんでした。

話は変わりますが、Twitterなどで様々なハーメルン作家とお話しが出来て、大変嬉しく思っています。
刺激にもなり、色々なアドバイスも頂けて、参考にもなります。
ハーメルン作家をしていて、こうして新たな出会いに感謝しています!

感想&評価お待ちしています!
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