「だ~か~ら~!お願いって!」
「嫌です!」
未だに、頼み続ける素生に明日香ははっきりと断った。
「…しょうがないな…。なら、1つだけお願いを聞いてくれない…かな?」
素生は「はぁ。」とため息をつくと、商店街の端に無造作に置いてあったブロックに腰をかけた。
「…何ですか?聞くかどうかは内容を聞いてからにしますが。」
「…俺の家に来て?」
「嫌です。寧ろ、分かりましたと言うと思いましたか?」
明日香は眉間に皺を寄せ、本当に嫌そうな顔をした。
「…そんなに嫌がる?何もしないよ?」
「絶対に行きません!」
明日香は更に嫌そうな…。いや、嫌悪感たっぷりな表情を浮かべた。
「そんなに眉間に皺寄せたら可愛い顔が台無しだよ?」
「はぁ!?」
「まぁ、訳を聞いてよ。うちに来たら俺が不良になった理由が分かるよ?」
素生はドヤ顔をしながら言った。いつもの明日香ならこのドヤ顔にイラっときているところだったが、この時はニヤッと得意気な表情を浮かべた。
「知ってますよ?カッコイイからでしょ?飛川さんから言ったんじゃないですか。忘れちゃったんですか?」
「あっはっは!本当にカッコイイだけだと思ったの?それだけじゃないよ。まぁ、カッコイイからってのもあるけどね。」
「…そうですか。それで、飛川さんの家に行ったら理由が分かるのですか?」
「そう!だから…。」
「行きません!」
素生の言葉に被せるように明日香は叫んだ。
「だから…頼むよ…。一生のお願いだから!」
「なんで家に行かないと行けないんですかっ!意味が分からないです!」
重ね重ねお願いをしてくる素生に対して、明日香は更に叫んだ。ここは商店街のど真ん中だった為、通り過ぎている人達は怪訝そうな表情で2人を見ながら横を通り過ぎて行っていた。
「私、帰りますから。」
明日香はそう言うと、踵を返した。しかし、そうは許さないと、素生は明日香の腕を掴み、引き寄せた。そして、明日香の耳元でボソボソっと呟いた。あまりの出来事に、一切、抵抗出来ない明日香。「(ついに素生が本性を現した)」と思っていたが、耳元で呟かれ、内容を聞くと「はぁ。」とため息をついた。
「それ、本当なんですか?」
「嘘じゃないよ。」
「…分かりました。ただ、すぐに帰りますからね?」
明日香は眉間に皺を寄せながら言うと、怒り半分、諦め半分となかなか体験する事ができない感情に陥っていた。
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一方、その頃、香澄はランダムスターを背中に背負いながら帰宅していた。いつもみたいな底抜けに明るい性格はなりを潜め、俯きながら歩いていた。いつも背負っているランダムスターも重たく感じていた。
「皆に、迷惑かけちゃったなぁ…。」
香澄はボソッと呟いた。いつも通り、有咲の蔵で練習をしていた香澄だったが、いつもは出来るコード進行を盛大に間違えたり、歌詞を間違えたりと絶不調だった為、他のメンバーから「今日は辞めておこう」と話があがり、こうして帰宅しているのだった。
「…私ってダメだなぁ。…応援するって決めたのに。」
香澄は昨日の夜にした明日香との会話を思い出していた。
「…好きな人に幸せになって欲しい…。本心なのに…。なんで…。」
香澄は本当に心の底から明日香と素生が付き合うようになり、幸せになって欲しいと願った。本当にそう思っていた。しかし、今日、一日過ごし、授業中であろうが、昼休みであろうが、大好きなバンド練習の時でさえ、ずっと素生の顔がチラついていた。そんな事を考えていると気がついた時には自宅に到着していた。自宅までは、歩いた記憶が曖昧でも帰れるから不思議である。
「…ただいま。」
ひょっとしたら明日香が帰ってきてるかもと思い、玄関の扉を開けるが、返事は無かった。
「あっちゃん、まだなんだ。何処か、寄り道しているのかな?」
香澄は2階に上がり、自室に入った。そして、カバンを放り投げ、ランダムスターをそっと置くと、ベットにダイブした。そのまま顔を枕に押し当ててたが、浮かんで来たのはまた素生の顔であった。
「…だからなんで、出てくるの!?…諦めなきゃ…。やっぱり好き…なんて言えないよ…。」
自分が思っている以上に素生の事が好きだった事に気づいた香澄。昨日の自分の発言に激しく後悔をしていた。そして、後悔をしている自分に、嫌悪感を覚えていた。
「…なんて事を考えているんだろ…。諦めなきゃ…。」
力なく香澄は呟くと、ギュッとまた枕に顔を埋めた。太陽みたいにキラキラと輝くような香澄の性格も、今は厚い、厚い雲がかかっていた。
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「着いたよ。あの家だよ。」
素生が指を差しながら言うと、明日香は目線を指の先を追った。明日香の前には普通の2階建ての一軒家が鎮座していた。壁紙が薄いピンクと特徴のある家だった。
「可愛いお家ですね。」
明日香は率直に思った事を素生に伝える。
「そうかな?目立つから俺は嫌だなぁ。」
「飛川さんはそんな目立つ服装をしているのに?」
「服装は…カッコイイ…はず。」
以前、明日香に服装の事で苦言を言われてから素生はすっかり自分のファッションに自信を無くしていた。その証拠に「カッコイイ」と行っている最中は目が泳いでいた。
「そんなに自信を無くしてるなら辞めたらいいじゃないですか?」
「いや…。ちょっと無理だね。」
素生が苦笑いする。
「はぁ。まぁ、良いです。とにかく、会ったら直ぐに帰りますからね?」
「うん。分かってる。ありがとうね。」
明日香の言葉に素生は頷きながら言うと玄関の扉を開けた。そして、大きい声で「ただいまー!」と叫んだ。すると、奧の部屋から「ガタッ」と音が聞こえたかと思うと、リビングであろう場所から5才くらいの女の子が顔を出した。
「あっ!おにーちゃん!おかえりない!」
女の子は本当に嬉しいのかニコニコしながら素生に近づき、ぴょんとジャンプをし、抱きついていた。
「ただいま。さくら。良い子にしていた?」
「うん!さっきまでママがいたんだけど、仕事に行っちゃった。…ねぇ。おねーちゃん、だれ?」
素生に抱きついていた女の子は首を捻りながら明日香に尋ねた。
「明日香ちゃん。この子がさっき話した妹だよ。さくらって言うんだよ。」
「…可愛い。さくらちゃん、こんにちは。」
明日香はさくらと視線を合わせると、ニコッと笑いながら言った。かなり、友好的な挨拶が出来たと明日香は思っていたが、それを裏切り、さくらは素生の後ろに隠れてしまった。
「ごめんね。さくら。ちゃんと挨拶しなさい。会いたかったんでしょ?」
素生が明日香に耳打ちした内容は素生の妹であるさくらが会いたがっているというものだった。しかし、会いたいと言ったとはいえ、さくらはまだまだ子供、恥ずかしさが勝ってしまっていた。固まってしまったさくらに素生は前に出るように促した。すると、おずおずと前にさくらは出て、なんとか聞こえるくらいのか細い声で「こんにちは。」と言った。
「挨拶出来て、偉いね!」
明日香は笑顔を崩さないままさくらに言うと、立ち上がった。そして、さくらが見えない角度から素生を睨んだ。まるで「話が違う」と睨んでいるようだった。普段、小さい子と会話する機会など皆無な為、ちゃんとお話し出来るか不安を明日香は抱いていた。しかし、会いたいと言っているのだからそれなりに友好関係を築けると思っていた。そんな明日香の目線に、素生は苦笑いを浮かべるしかなかった。
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太陽が西に傾き、空をオレンジ色に染めていた。明日香はというと、まだ素生の家にいた。「すぐに帰る」と言っていたが、素生の家に着いてから1時間半が経とうとしていた。別に楽しくて帰らないのではなく、帰れなくなってしまったのだった。その原因は、明日香の膝に座って「明日香おねーちゃん!」と言いながら、ギュッと抱き締めていたさくらにあった。来た時の人見知りは何処へやら、気付けばさくらは明日香にすっかり懐いてしまっていた。
「さ、さくらちゃん?」
「なーに?明日香おねーちゃん?」
先程から明日香はさくらを膝から下ろそうとしていた。しかし、さくらに声をかけると、キラキラとした目でニッコリ笑って返事をするので、明日香は「降りて?」と言う事が出来なくなっていた。
「ううん。なんでもないよ?」
明日香も笑顔でそう言うと、さくらは首を傾げた。「(また降りてって言えなかった…。)」と内心、思っていたが、もちろん、態度にも出せない。
「さくら、すっかり懐いちゃって!」
素生はあははと笑いながら呑気に言った。
「ところで、飛川さん?不良の服装の本当の理由が分かるって言いましたが、結局なんですか?」
どうせ動けないならと明日香はしょうが無く質問をした。
「そうだったね。…さくら?」
「なーに?おにーちゃん?」
「この恰好、どう?」
「カッコイイよー!1番カッコイイ!」
素生の質問に、さくらは満面の笑みで答えた。その笑みはまるで、満開の桜のようであった。
「明日香ちゃん。分かった。」
「…はい。つまり、さくらちゃんの為、ですか?」
「う~ん。さくらの為って言うか、さくらがカッコイイって言ってくれるからだよ?妹に褒めれたいじゃん?」
素生がニヤッと笑って言うと、さくらに近づき、頭を撫でた。
「おにーちゃん、くすぐったいよー!」
とさくらは言いながらも、気持ちよさそうな表情を浮かべた。
「…妹に褒められたいもんですか?」
「そうだよ。お姉さんに聞いてごらん?」
「そんな事…聞けませんよ。」
明日香はプイっと顔を背けた。
「ねーねー!おにーちゃんと、明日香おねーちゃんは…カップル?なの?」
さくらはまた首を傾げながら言った。カップルの意味を分かっているのか疑問だったが、素生はニヤリと口角を上げ、明日香は困惑した表情を浮かべた。
「さ、さ、さくらちゃん!?ち、ち、違うよ?」
「ちがうの?」
「さくら?カップルの意味、分かってる?」
素生がさくらに問うと、さくらは「わからないよ!」と元気よく答えた。
「だと思った。明日香ちゃん、びっくりし過ぎだよ?」
「だ、だ、だって…。」
明日香は困惑した所を見られたのが恥ずかしかったのか、語尾がだんだんと沈みながら答えた。
「ねーねー!カップルってなーにー?」
1人、置いて行かれたのが寂しかったのか、さくらは2人の会話に混ざるように言った。
「さくら?それは、明日香おねーちゃんが教えてくれるよ?」
「え!?」
時既に遅く、さくらはその後、明日香をギュッと捕まえ、納得するまで質問するのであった。
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「帰っちゃイヤー!」と玄関先でワンワン泣くさくらに後ろ髪を引かれる思いで、明日香は帰宅していた。
「今日は急にありがとう。妹も喜んで良かったよ。」
「いえ。」
素生と明日香は並んで歩いていた。男の義務として明日香を自宅まで送っている最中であった。
「…1つ聞いても良いですか?」
「なに?」
「告白は本当に本気で言ったんですか?」
「…どう思う?」
明日香の質問に素生は質問で返した。一瞬キョトンとした明日香だったが、また飄々とした態度の素生にため息をついた。
「こっちが聞いたのに。」
「あはは。で?どう思う?」
あくまで明日香に答えて貰おうとする素生に明日香はまた「はぁ。」とため息をついた。
「そんな態度って事は違うとか?また私をからかう為についた嘘なんじゃないですか?」
目を細め、面倒くさそうに明日香は言った。明日香の解答を聞いた素生は表情を変えなかった。
「う~ん。好きなのは本当かな?明日香ちゃん可愛いし、面白いし。」
「はぁ?OKすると思う飛川さんの脳みそどうなってるんですか?」
「あはは。確かに。それに、あそこでOK貰った方が、俺の家に誘いやすいなぁって。明日香ちゃんも来てくれるかなぁって思ってね。」
「…バカじゃないですか?妹が会いたがっているからって言ったら行きましたよ。私、そんなに冷たい女に見えますか?」
非難の目を向けながら言う明日香に素生は「そっか。」と小さく呟いた。
「で、結局、飛川さんは私にフラれたので、私に関わらないで下さいね。…でも、飛川さんがいないときにさくらちゃんには会いに行きます。」
「なんで?」
「なんでって、フラれたのに付きまとうとかストーカーじゃないですか!」
この人は全部言わないと分からないのかと思いながら明日香は叫んだ。
「え?だって、俺、マジで告白なんかしてないよ?本当に告白してフラれたなら諦めるけど。まぁ、あんなに即答で無理って言われるとも思ってなかったけど。」
「はぁ?そんな屁理屈なしですよ!」
「それに、明日香ちゃんと出会ってまだちょっとじゃん?まだ、好きになって貰える可能性があるはずだからさ。それに、明日香ちゃんの事もちゃんとまだ知れてないしね?」
ニッコリ笑って言う素生に明日香は頭を抱えた。
「どうした?頭痛いの?」
「今、痛くなりました。飛川さんのせいで。」
「え?なんで?」
2人の喧嘩のような雑談は明日香が家に着くまで続くのであった。好意の持ち方は対照的な2人であったが、会話は途切れる事は無かった。
「家、ここなので。…送って貰ってありがとうございました。」
「ううん。じゃあね。」
明日香は素生の返事を聞くと、家の中に入った。
「はぁ。疲れた。…でも、楽しかった…かな?」
明日香はそう呟くとリビングに向かった。
「それにしてもさくらちゃん可愛かったなぁ。…あれ?さくらちゃんで思い出したけど…。私、飛川さんに会っている最中、桜の夢の事、忘れてた…?」
四六時中、悩んでいた最近の明日香だったが、素生といる時だけ、忘れている事に気付いた。しかし、素直じゃない明日香は「たまたま、偶然」で片付けてしまうのであった。
遅くなってしまって本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
まだまだスランプ中なので、更新は遅くなるかもですが、気長に待って頂けたらと思います。
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