六花に抱きつき、ワンワン泣いた明日香。今は、六花の部屋に通され、落ち着きを取り戻していた。六花の部屋は雨のせいで薄暗くかったが、今の明日香には薄暗く方がなぜかホッとするのであった。
「落ち着いた?」
「うん…。ごめん。突然泣いちゃって…。」
明日香が罰の悪そうな表情を浮かべると、六花は静かに「ううん…。」と言った。
「明日香ちゃん。何があったのか…聞いても良いかな?」
六花はそう言うと、明日香は「コクッ」と頷き、ちょっとずつ、丁寧に喋り始めた。
「……って訳なの。」
「香澄さんと喧嘩…。」
「まぁ、そうだけど…。一方的に避けられてるみたいなの…。」
話し終えた明日香は「はぁ。」とため息をついた。
「話、聞いてみたけど…。う~ん。私、香澄さんは元気で明るい姿しかイメージないから…。」
「ううん。私もさっぱりだから…。お姉ちゃん、本当にどうしちゃったんだろ。私、何したのかな…。」
「え?でも、香澄さんは明日香ちゃんは関係ないって言ってたんだよね?」
六花は首を傾げ、不思議そうにした。
「あのね。六花?誰があなたが原因で落ち込んでますなんて言うの?」
「あっ。そっか。」
Poppin`Partyが大好きな六花は香澄が言った事を全て鵜呑みにしてしまっていた。明日香はそんな六花を見て「(相談相手、間違えたかも)」と思っていた。
「で、で、でも!明日香ちゃんが急に泣き出した時はビックリしたんだからね!」
「それは…。ごめんなさい。」
「ううん。なかなか見れなさそうな明日香ちゃんの姿が見れて良かったよ。」
六花はニコッと笑いながら言った。それを聞いた明日香は下を向き、罰が悪い表情を浮かべていた。
「ね、ねぇ…。六花?こ、この事は内緒で…お願い。」
「良いよ。でも、明日香ちゃん、クールなイメージがあったから新鮮だよ。」
「前に言ってたよね?私ってクール…なのかな。クールって私が冷たいって事だよね?」
「へ?な、なんでそうなるの?」
「私が抱いてるクールな人の…イメージ…かな?」
明日香は「う~ん」と考えながら言った。今、思いついただけで、たいした意味も無かったのだが、六花を慌てさせるには充分だった。
「わ、私、そんなつもりで言ってな、な、ないよ!?」
「知ってるよ。じゃあさ、六花はクールな人ってどんなイメージ?」
「わ、わ、私!?え、えっと…。」
六花が返答に困っていると、タイミング良く、六花のスマホに着信が入った。
「…誰?」
六花の返答を楽しみにしていた明日香は、少しムスッとしながら言った。スマホを見た六花は「香澄さん…。」と呟いた。
「お、お姉ちゃん?」
「うん。出るね?」
六花はそう言うと、明日香の許可も得ずに、スマホを耳に当てた。
「ち、ちょっと!六花!」
明日香は慌てて止めたが時既に遅く、会話が始まってしまっていた。
「はい。…明日香ちゃんですか?…はい。…いますよ?」
香澄がなんと言っているか、電話なので分からないが、どうやら自分を探しているとは明日香は理解出来た。
「(お姉ちゃん…。私を探してるんだ…。嬉しい…のかな…?)」
明日香がそう考えているうちに、六花は電話を終えてしまっていた。
「…お姉ちゃん、なんて?」
「今から来るって!迎えに来てくれるみたいだよ。」
六花はニコッと明日香に微笑んだ。
「(本当に…。来るんだ…。)」
明日香は嬉しいのやら、不安なのやら、色々な感情が入り乱れているのであった。
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六花は知らなかった。いや、知るはずもない事なので、どうしようもないのだが、今、目の前にいる人物が、自分が憧れている、戸山香澄かどうか分からなくなっていた。それ程までに、香澄の容姿や雰囲気が変わっていたのだった。
「ロック、ごめんね。妹が迷惑かけて。」
「い、いえ。そ、そ、それより!か、香澄さんびしょ濡れじゃないですか!」
「私は大丈夫だよ。…あっちゃんは?」
香澄が伏せていた目を少し上げ、キョロキョロと辺りを見回すと、部屋の隅からおずおずと明日香が出てきた。
「お姉ちゃん…。傘、持ってるのに…。なんでびしょ濡れなの?」
「明日香ちゃん。ギターを濡れないようにする為…だよ。」
六花も経験があるのか、その説明を聞いて、明日香は「あぁ。」と納得をした。確かに背中に背負っているギターは殆ど、濡れてない状態だった。しかし、その犠牲になった香澄は前髪からポタポタと水滴が落ちているような状態だった。
「香澄さん…。何があったのですか?」
「…何もないよ。大丈夫だから。」
香澄は力なく笑顔を作る。見ていてとても辛くなる笑顔だった。
「大丈夫…じゃないですよ。香澄さんらしくないですよ。」
「私らしく…ない…か。」
香澄はそう言うと、髪から落ちる水滴のように涙を流した。
「お、お姉ちゃん…。」
「か、か、香澄さん!ご、ごめんなさい。私、余計な事を…。」
「ううん。大…丈夫。なんでも…ないから。」
香澄はゴシゴシと涙を拭うも、また新たに涙がまた流れた。
「大丈夫…。大…丈夫だから。本当に…。」
呟くように言う香澄だが、誰に向けて言っているのか分からなかった。もしかしたら自分に言い聞かせているのかも知れない。そんな香澄の姿に六花はオロオロするしか無かった。そして、何を言って良いのか分からず、困ったように明日香を見ると、明日香も目を伏せ、辛そうな表情を浮かべているだけだった。
「…っ。あ、あっちゃん…。帰ろ?」
香澄は手を伸ばすと、涙を堪えながら言った。しかし、明日香は伸ばされた手を「パンッ」と払いのけてしまった。
「…あっちゃん?」
「迎えに来てなんて頼んでない。それにバンド練習は?」
「あ、あっちゃんが心配だから…。お休みしたよ。」
「そんな状態で迎えに来て私が喜ぶ訳ないじゃん。大体、なんで悩んでるの?」
「そ、それは…。」
明日香の言葉に困ったように視線を香澄は明日香から外した。
「…ほら、言えないんじゃん。私のせいでそうなってるんでしょ?それなのに迎えにくるなんて、バカじゃないの!?」
「…さい。」
「あ、明日香ちゃん!落ち着いて。」
「六花は黙ってて!私、お姉ちゃんから見て、そんなに頼りないの?そんなにダメな妹なの?今のお姉ちゃんに心配される筋合いなんてないよ!」
「…るさい…。」
「大体、お姉ちゃんは…。」
「うるさいっ!」
明日香の言葉を遮って、香澄は叫んだ。その絶叫は旭湯をガタガタと震わせるほどだった。
「はぁ。はぁ。ロック、あっちゃん…。ごめんね…。私、帰るね?」
香澄はそう言うと、クルッと背を向けて、帰ろうとした。しかし、一歩を踏み出したところで、右腕を掴まれた為、進むことは出来なかった。
「香澄さん。待って下さい。」
「…なに?」
香澄の手を掴んだのは六花であった。香澄は冷たく言ったが、そんな事はお構いなしと無視をするように明るく「お風呂、入って行って下さい!」と言った。
「ちょ、ちょっと、六花。何を…」
「明日香ちゃんも…だよ?」
六花のまさかの発言に明日香も香澄も「へ?」と呟く事した出来なかった。なぜだか分からないが、拒否をするという選択肢が選べない雰囲気だった。
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もくもくと湯気が溢れるお風呂場。流石は銭湯。浴槽は3つほどあり、3つとも違う種類の浴槽でどれも広々としていて、シャワーは数十個規則正しく並んでいた。
「ふぅ~。」
ちょうど良い、お湯の温度に明日香は目を細めた。いくら姉妹でも、明日香は裸を見られるのは恥ずかしく、香澄より先にさっさと服を脱ぎ、浴槽に浸かっていた。
「(お姉ちゃん…。本当に、お風呂、入るのかな?)」
お湯を手で掬いながら、明日香は考えた。掬ったお湯は手の隙間から徐々にもれ、手の中には僅かにしかお湯が残っていなかった。
「(お姉ちゃんとお風呂に入るのって…。何年ぶり…かな?小学生…以来…だよね?)」
明日香は記憶を辿っていると段々と恥ずかしくなっていた。
「(ど、ど、どうしよ。どんな顔をして良いか、分からなくなっていた。)」
明日香が内心わたわたしていると、脱衣場に続く、引き戸がガラガラと音を立てながら開いた。明日香がそちらをみると、タオルで体を隠している筈も無く、恥ずかしげも無く、香澄が入ってきた。
「お、お、お姉ちゃん!ま、前、隠しなよ!」
「なんで?女の子同士じゃん?六花も恥ずかしがって逃げちゃったけど…。なんでかな?」
香澄はそう言いながらかけ湯をすると、ゆっくりと明日香が浸かっている浴槽に入った。そして、明日香の横に腰かけた。
「お、お、お、お姉ちゃん!?」
「…あっちゃん、どうしたの?」
「どうしたのじゃなくて!これだけ広いんだから、少しは離れてよ!」
暖かいお湯に浸かり、香澄もホッとしたのか、先ほどに比べ、表情も、語気も少しは明るくなっていた。いつもに比べたら全然だが…。
「離れたら…話せないよ?」
「お姉ちゃんは恥ずかしく…って、話してくれるの?」
「…うん。ゴメンね。」
香澄は目線を下げながら言った。自分の顔が湯船に映ったのか「うわ。酷い顔。」と呟いた。
「…えっと。なんで元気無かったの?」
「…もっくんの事。」
「飛川さん?…まさかっ!あいつに何かされたの!?あの変態に何されたの!?お姉ちゃん大丈夫!?警察行こっ!」
明日香はギリっと奥歯を噛みしめた。離れた場所にいる素生は背筋をぶるっとさせていた。
「ち、違うよ!あっちゃん!落ち着いて。…やっぱり、私、もっくんの事…大好きなの…。でも、もっくんはあっちゃんが好きで、あっちゃんも、もっくんと付き合えば絶対に幸せになれるから、私は諦めて、あっちゃんにもっくんの事が好きになって貰えるようにしようって考えてたんだけど…。そうやってね、考えれば考える程、もっくんの事が好きになっちゃって…。応援するとか言っちゃったし、どうして良いか分からなくなっちゃって…あんな態度をとってしまいました…。」
香澄は言い終わると、お湯を掬ってバシャッと顔にかけた。
「…はぁ。バカじゃないの?」
話しを聞き終わった明日香はため息をついた。
「へ?」
「だってさ、お姉ちゃん、飛川さんの事、大好きなんでしょ?なんで、私なんかに遠慮してるの?」
「だ、たから、もっくんと付き合えば絶対に幸せになれるから…。」
「うん。そう思って貰えるのは嬉しいけどさ。そのせいでお姉ちゃんが元気が無くなるのは嫌だよ。」
明日香は呆れたように言うと、う~んと背伸びをした。
「で、でも、どうしたら分からなくて…!あっちゃんには申し訳ないし…。」
「飛川さんの事、大好きで良いじゃん。あんな奴のどこが良いか分からないけど。」
「あっちゃん…。ダメだよ。もっくんはあっちゃんの事が好きなのに。」
「振り向かせれば良いじゃん!お姉ちゃんなら出来るよ!」
明日香は最初の恥ずかしさは何処へやら、香澄の方を向くと、肩を掴んで言った。
「でも…。あっちゃんは…。」
「あのさ。私、飛川さんの事、好きでも何でもないの。それなのに、お姉ちゃんが大好きな人を譲るって言われても…ねぇ?」
「そ、それは、今から好きになって貰う予定で…。」
「でも、無理なんでしょ?そんなに落ち込むもんねぇ?」
明日香が目を細めて、香澄を見ると香澄も「うっ…。」と呟き、鼻の下まで湯船に沈めた。
「はぁ。分かったよ。お姉ちゃんはこれから、私が飛川さんの事を好きになるように、色々教えて?そして、お姉ちゃんは飛川さんに振り向いて貰えるように頑張る。私も、飛川さんにお姉ちゃんの事をアピールする。…で、どう?」
明日香はそう言うと香澄の方を見た。香澄は眉を八の字にすると「…良いの?」と顔を湯船から出して言った。
「良いよ。それでお姉ちゃんがいつものお姉ちゃんに戻ってくれるなら。…お姉ちゃんが元気ないと、調子が狂うんだから。」
明日香はやれやれといった表情で言うと、突然、横から衝撃を受けた。突然の衝撃でひっくり返り、お湯の中に頭まで浸かると、慌てて、顔を湯船の外に出した。顔を出して、気付いたが、香澄に抱きつかれていた。
「お、お姉ちゃん!もぅ~。鼻にお湯が入った~。」
ツンとした痛みに明日香は涙目になっていたが、香澄はお構いなく抱きついていた。
「あっちゃん!本当にゴメン…!」
「もぅ、良いよ。大丈夫。…これからはちゃんと相談してよね。その…。お姉ちゃんの事…。大好きだから…さ。」
明日香は顔を真っ赤にしながら言うと、香澄は泣きながら「私も大好き!」と叫んだ。それから2人で銭湯を満喫していた。わだかまりは消えており、いつもの仲良し姉妹にすっかり戻っていた。
「ところであっちゃん。前に、鏡の前でポージングしてたよね?」
「あ、あれは忘れてよ!」
「良いじゃん!で、今、抱きついた時に確信したんだけど、胸、大きくなった?もう1回触って良い?」
「だ、ダメに決まってるじゃん!お姉ちゃんの変態っ!もう嫌い!」
「さっき大好きって言ってたじゃん!」
香澄はそう言うと、ガバッと明日香に抱きついた。
「ち、ちょっと!お姉ちゃん!?キャ!」
明日香は叫ぶも、香澄に捕まり、抵抗出来ずにいた。本当に嫌がった明日香だったが、心はとても穏やかで晴れ渡っていた。靄の夢を見て、本当に大事なもの、姉である香澄を失うかと思った明日香だったが、その夢にも打ち勝つ事ができ、満足するのであった。ちなみに、その後、明日香は香澄のスタイルの良さに驚き、二度見してしまい、自分の体と比べて、落ち込むのだった。
この入浴シーンはサービスシーンになるのかな?
姉妹にしか分からない絆みたいなものはあると思います。
僕も妹がいっぱいいますが、信頼しています。
向こうが信頼しているかどうかは知りません笑
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