嵐虎騎士ブイツー   作:疾風のナイト

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冒険者ギルドの受付で依頼の説明を受けているブイツーとマナ。
そんなブイツー達の前に3人の冒険者が現れる。
妖精の弓手、鉱人の道士、蜥蜴人の僧侶の3人の冒険者はブイツーとマナに依頼の話を持ちかける。
今、ブイツーの新しい戦いが始まろうとしていた


第5章

 辺境の地・リーンホースの冒険者ギルド本部。今日も冒険者ギルドは多くの冒険者達が出入りをしている。

 そのような冒険者ギルドの受付において、受付嬢を何かのやりとりをしているブイツーの姿があった。そのようなブイツーの傍にはマナの姿もある。

 現在、ブイツー達が受付にいる理由であるが、冒険者ギルドからの依頼を引き受けるためであった。

 冒険者ギルドに所属する冒険者達にはそれぞれ等級が定められており、高い順に白金・金・銀・銅・紅玉・翠玉・青玉・鋼鉄・黒曜・白磁の等級が定められている。

 そして、肝心のブイツーの等級であるが、最上位から3番目の銀等級が与えられている。本来、銀等級は在野でも最高級の等級であり、冒険者でも相当な経験と実績を積まなければならないが、ブイツーの場合、冒険者ギルドの指導者としての役割を担っているための特別な措置である。

 但し、ブイツーの能力と技量は群を抜いており、熟練の冒険者達に勝るとも劣らない。事実、ブイツーはたった1人で冒険者に所属する冒険者の集団を敗北に追い込んでいる。これはリーンホースの冒険者ギルド始まって以来の出来事である。

「以上が飛竜討伐の内容になります。他の依頼については……」

 目の前のブイツーとマナに対して、冒険者ギルドに寄せられた依頼を説明している受付嬢。山岳地帯に出現した飛竜討伐や廃墟に出現した悪魔退治等、受付嬢が紹介する依頼はいずれも難易度の高い依頼である。

 但し、受付嬢がブイツーに難易度の依頼を紹介するのには理由があった。難易度の低い依頼を紹介すれば、高い技量を持つブイツーに対する失礼になる。だからこそ、難易度の高い依頼を紹介しているのだ。

「ちょっといい?」

 突然、ブイツーとマナに話しかけてくる声が聞こえてくる。高い声色から察するに女性のものと思われる。

 即座に後方に向き直ってみせるブイツーとマナ。そんなブイツーとマナの前には3人の冒険者の姿があった。

 まずは1人目の冒険者であるが、年頃の少女を思わせる容貌をした妖精の冒険者である。また、職業についてであるが、背中に背負っている弓を見れば、弓手と推察することができる。

 次に2人目の冒険者であるが、長い年月を重ねた老人を思わせる風貌をした鉱人の冒険者である。また、職業についてであるが、身なりから道士と推察することができる。

 そして、3人目の冒険者であるが、人間よりも一回り体格の大きい蜥蜴人の冒険者である。また、職業についてであるが、独特な衣装から僧侶と推察することができる。

 ブイツーとマナの目の前に現れた3人の冒険者達であるが、彼等の組み合わせは非常に珍しいものであった。

 何故ならば、妖精と鉱人であるが、種族的には仲が悪いからであった。さらに蜥蜴人の冒険者は滅多に見ることがない。この点からも非常に稀有であると言えた。

「もしよろしければ、応接室でお話をされてはどうですか?」

 この場にいるブイツー達に対して、応接室での話し合いを提案している受付嬢。このまま受付で話し込むよりも、ちゃんとした部屋で話をした方がいいと判断した結果であった。

「助かる。それならば、遠慮なく使わせてもらう」

 受付嬢の心遣いに感謝しているブイツー。確かに受付での立ち話は他の冒険者達の迷惑になる。それならば、応接室で話をした方が有意義な話し合いができるだろう。

 その後、冒険者ギルドの応接室に向かうブイツー達。組み合わさった歯車が動き出すかのようにして、何かが今、ゆっくりと始まろうとしていた。

 

 冒険者ギルド本部の2階に設置されている応接室。この応接室は冒険者ギルドへの来客を応対するために用いられる。

 そして現在、応接室のソファーに座っているブイツー。そんなブイツーの隣の席には、マナがちょこんと座っている。

 一方、ブイツーとマナの目の前には、妖精弓手がソファーに座っており、その傍には鉱人道士と蜥蜴僧侶が立っている。

「っと!自己紹介がまだだったね。私の名前はティンクルよ」

 最初に自分の名前を名乗ってみせる妖精弓手。明朗快活な様子の妖精弓手は名前をティンクルと言った。

「ワシはマドックじゃ」

 今度は男性の鉱人道士が自己紹介を始める。飄々とした調子の鉱人道士であるが、名前をマドックと言うらしい。

「拙僧はグラン。以後、よろしく頼む」

 そして、最後に蜥蜴僧侶が自らの名前を名乗る。落ち着きのある雰囲気を醸し出した蜥蜴僧侶であるが、名前はグランであると言う。

「私の名前はブイツー。このギルドに世話になっている」

 相手側の自己紹介が終了した後、今度は自らのことについて語るブイツー。ブイツーの自己紹介は簡潔でありながらも、他を寄せつけない気を発していた。

「マナです。ブイツーさんのお手伝いをしています」

 ブイツーに続く形で自己紹介をするマナ。威風堂々としたブイツーとは異なり、マナの様子はどこか自信がなさそうである。

 実際、マナはこの場にいることについて、気後れの感情を抱いていた。この場にいる者達は全員、相当の経験を積んできた者達ばかりである。果たして、この場に自分がいても良いものだろうかと思っていた。

「アンタさ……結構すんぐりとしているのね。とても強そうには見えないけど」

 ソファーに座ったブイツーの姿をじっくりと眺めている中、自分が思っていることを率直に口にしているティンクル。

 まるで金属の鎧と人が組み合わさったような外見、デフォルメされたアンバランスな体型、そのようなブイツーの姿はまさに珍妙であると言っても過言ではないだろう。

「いや、人は見かけによらんぞ。耳長の」

 そんな言葉と共にティンクルの言葉に口を挟んでくるマドック。この時、マドックは奇怪な姿をしたブイツーが只者ではないことに気がついていた。

 一見、異形の姿をしているブイツー。だが、その実、周囲から発せられる気は研ぎ澄まされた剣のようであり、鋭い眼差しは幾多の戦いを潜り抜けてきた猛者そのものである。

 さらにブイツーが装備している剣。非常に独特な形状をしているが、極めて強い力が感じられる。いかなる力が宿っているのかは分からないが、魔剣と呼ばれている剣に匹敵するか、あるいはそれ以上の可能性がある。

「そろそろ、用件を教えてくれないか?」

 そんな言葉と共に話を切り上げると、肝心の本題に移ろうとしているブイツー。なお、そんなブイツーの左手にはメモ、右手にはペンがそれぞれ握られている。

「それじゃ、話を始めわ……ここ最近、各地で悪魔の活動が活発化しているのだけど」

「……」

 ティンクルの口から話を黙って聞いているブイツー。その一方でペンを握るブイツーの手は忙しなく動き回っていた。

「どうして、悪魔達が活発化しているのか、その原因は分からないわ。だから、貴方達の協力を……」

「……」

 懸命にティンクルが話している中、ブイツーが何かを語ることはしないが、しっかりと耳を傾けており、素早く手を動かして筆記を続けている。

「ちょっと!さっきから黙ったままだけど、ちゃんと話を聞いてんのっ!?」

 すると突然、怒声と共に応接室のテーブルを叩くティンクル。先程から何も喋らないブイツーにティンクルは苛立ちを感じていたのだ。

「当然だ。私は話を聞いている」

 感情剥き出しのティンクルからの抗議に対して、落ち着き払った様子で反論してみせるブイツー。まるで心外だと言わんばかりの口ぶりである。

「ここ最近、悪魔達の動きが活発化しているため、我々に協力をして欲しい……そうだろう?」

 メモに記載された内容をスラスラと読み上げていくブイツー。ブイツーが読み上げている内容であるが、それは今までの説明の要点をまとめたものであった。そう、ティンクルの話をちゃんと聞いていたのだ。

「うっ……」

 ブイツーの読み上げたメモの内容を聞き、言葉に詰まってしまうティンクル。これでは怒るに怒れないからだ。

「ティンクル殿、ここから先は拙僧が代わって話そう」

 感情的なティンクルの様子を見かねたのか、それまで様子を見守っていたグランが話の中に入ってくる。

 ティンクルと交代する形で話を続行するグラン。一方、ブイツーとマナの2人は再び、話を聞く姿勢に戻る。

 グランからの話によれば、悪魔達の活発化に伴い、モンスターが各地で暴れているとのことだ。

 こうした現状に対応するため、各地では原因を究明するための調査活動が行われている。主に王国の騎士団等が中心に調査活動が行われているが、圧倒的に人手が不足しているため、末端では腕利きの冒険者達が協力している状況である。かくいう、ティンクル、マドック、グランのチームもそうした冒険者達である。

そして、最近では、妖精が住んでいる森でも、モンスターが出現したと言う。なお、妖精の森であるが、ティンクルにも関係がある。先程からティンクルが苛立ちを募らせているのも、モンスターの危険に晒されているからである。

「それでわしらに協力してくれるか?」

 ブイツーのことを真正面から見据えた上で依頼をするマドック。異形の姿をしているが、卓越した実力を持つブイツーを見込んでのことだ。

 マドックだけではない。ティンクルとグランもまた、ブイツーのことを見つめている。一方、当のブイツー本人は沈黙したまま、何かを考えているかのようだ。

「……マナ、どうだ?やれそうか?」

「えっ?わ、私ですか!?」

 突然、マナの方へと視線を向けたかと思えば、質問を投げかけてくるブイツー。急に意見を求められたため、マナは困惑せずにはいられなかった。

 依頼の話をマナに振ったブイツー。それは今回の依頼を受けるか否かの判断を放棄した訳ではなかった。

 今までの話を総合的に考慮すれば、今回の依頼は非常に危険な依頼になる可能性がある。もしかすると、新人の冒険者であるマナには荷が重いかもしれない。

 荷が重すぎる依頼は生命の危険に関わる危険性がある。だからこそ、この依頼が大丈夫かどうか、ブイツーはまだ駆け出しであるマナに聞いたのだ。

「えっと……私の方は大丈夫です」

 ブイツーからの問いかけに対して、緊張した面持ちで答えているマナ。そんなマナの姿はまさしく健気であった。

「分かった。私とマナが出ることにしよう」

 自らとマナが出向くことを宣言するブイツー。なお、マナの冒険の参加についてであるが、これは今しがた本人に意志確認をおこなったからであった。

「本当にやってくれるのね」

「当然だ……」

 ティンクルからの念押しの言葉に対して、顔色1つ変えることなく答えているブイツー。この時、当のブイツー本人は勿論のこと、隣にいるマナの覚悟も固まっていた。

 こうして、ティンクルとマドックとグランの3人より、重大な依頼を引き受けることになったブイツーとマナ。

 この時、ブイツーとマナは今しがた引き受けた依頼こそ、後に自分達の進む道を大きく変えるものであるとはまだ知らなかった。

 

 冒険者ギルドの受付。この場所には現在、3人の冒険者達との話し合いを終えたばかりのブイツーとマナの姿があった。

 先程の話し合いの内容、これから引き受ける依頼の詳細、冒険者ギルドの出立時刻、ブイツーは簡潔に報告してみせる。

「それは凄いですね。頑張ってください!」

 ブイツー達からの報告を聞いた後、激励の言葉を贈る受付嬢。是非とも、ブイツーとマナの2人には、依頼を達成してもらいたいところである。

「感謝する」

 受付嬢からの激励の言葉を受け、素直に感謝の言葉を述べるブイツー。この時、ブイツーは自分の意識を今回の依頼へと集中させている。

「くれぐれも気をつけてください」

「……当然だ。依頼は全力で達成する」

 受付嬢からの注意喚起の言葉に対して、いつもと変わらぬ表情で答えてみせるブイツー。そんなブイツーの表情には油断もなければ、過信の表情も見られなかった。

「有り難うございます」

 全力で依頼に挑もうとするブイツーに対して、感謝の言葉を述べている受付嬢。この時、受付嬢は安心感を抱いていた。

 何故ならば、冒険者のパーティーの中には、メンバーが慢心することがあり、それ故に依頼が失敗することも少なくなかった。特に初心者のパーティーに多く見られる傾向である。

 だが、今回のブイツー達のパーティーであるが、メンバーはかなりの熟練者が揃っており、その上、ブイツー自身にも油断や過信が見られない。

 技術や能力が優れているだけではなく、強い精神力の持ち主であるブイツー。依頼はほぼ間違いなく成功するだろう。これまでの間、多くの冒険者達を見てきた受付嬢はそう信じていた。

 但し、そんな受付嬢にも気になることがある。それはブイツーと行動を一緒にしているマナのことであった。

 いくら、ブイツーと行動を共にしているとはいえ、マナ自身、冒険者としてはまだまだ駆け出しである。果たして、今回の冒険についていくことができるのであろうか。

「マナ、出られるか?」

「はい。何時でも行けます」

 ブイツーからの言葉に笑顔で答えてみせるマナ。一生懸命に努力しようとする若き冒険者の姿があった。

「(私があれこれと心配する必要はなさそうね……)」

 冒険を前にしたブイツーとマナの会話を目の当たりにして、自分の考えを改めている受付嬢。確かにマナは駆け出しの冒険者であるが、ブイツーと行動していることもあり、そこら辺の駆け出し冒険者より、遥かに熟達しているのであった。

 妖精の弓手・ティンクル、鉱人の道士・マドック、蜥蜴人の僧侶・グラン、人間の神官・マナ、正体不明の騎士・ブイツーで編成されたパーティー。このパーティー編成についてあるが、リーンホースの冒険者ギルドが始まって以来、極めて珍しい編成であると言っても過言ではなかった。

 

 リーンホースの冒険者ギルドから出立したブイツー一行。目的地まで順調に歩を進めていくものの、日が暮れてきたため、今夜は野宿をすることにする。

 野宿の準備が整った後、空腹を満たすための夜の食事に移っている。焚火でこんがりと焼かれた沼池の獣肉、マナが作った乾燥豆のスープが各自に配られている。

「……」

 ティンクル、マドック、グラン、そしてマナが食事中の会話で盛り上がっている中、我関せずといった調子で黙々と食を進めているブイツー。

 そうした最中、マドックの用意した火酒を飲むティンクル。すると次の瞬間、アルコールの度数が高かったためか、ティンクルは顔を紅潮させてしまっている。当然のことながら、すぐさま酩酊状態に陥ってしまう。

「ちょっと~!さっきから何で黙ってるのよ~!ノリが悪いわ~!!」

 火酒の酔いが全身に駆け巡る中、何も喋ろうとしないブイツーに絡んでいるティンクル。ティンクルは先程から沈黙を維持したまま、食事を続けるブイツーのことが気に入らなかったである。

 ただ、ブイツーの態度について言えば、ティンクルだけではなく、行動を共にするマナを除いて、この場にいる全員が思っていることであった。

「……食事中は余計なことを喋らず、静かに食事をする……我が流派の掟だ」

 最早、酒場の酔っ払い同然と化したティンクルからの問いに対して、必要最小限の言葉で語ってみせるブイツー。この時、ブイツーは無意識の間に重大な発言をしていた。

「我が流派?」

 ブイツーの発した流派と言う言葉を聞いた途端、いち早く反応してみせるマナ。マナの知っている限りにおいて、ブイツーがどこかの流派に所属していたということは初めて聞く。

「……未だに思い出せていないが、私は何かの流派……恐らく剣術の流派に所属していたような気がするのだ……」

 マナからの問いに対して、淡々とした口調で答えているブイツー。未だにハッキリと思い出すことができないでいる記憶。ただ、剣術の流派に所属していたような気がする。確たる証拠はないものの、そのような感覚が残っていたのである。

 思いもしなかったブイツーからの意外な発言。それと同時に先程まで賑やかった場が静まり返っている。

「夜の見張りは私が担当しよう……。それまでの間、休ませてもらおう」

 そんな言葉と共に食事を済ませるなり、その場から立ち上るブイツー。そして、ブイツーはそのまま寝床に赴いてしまう。

 仮眠のためにブイツーが寝床に向かった後、その場から立ち上って今までブイツーが使用していた食器を回収するマナ。

「全く、ホント、冷たい奴だわ~!」

 そんな言葉と共に溜め息を吐いているティンクル。どうして、ブイツーはこんなにも無愛想なのだろうか、未だに酔いが残っている中でティンクルはそう思っていた。

「そうでもありませんよ」

 ティンクルの言葉に対して、そのように返した後、ブイツーが使用していた食器を見せるマナ。

 すっかり空になっているブイツーの食器。この食器にはマナの作った乾燥豆のスープが盛りつけられていた。そう、ブイツーは食事中に喋ることはしなかったが、マナの乾燥豆のスープを綺麗さっぱり平らげていたのだ。料理を作った者としてはこれほど嬉しいことはなかった。

 

 夜が明けた後、簡単に朝食を済ませると、荷物をまとめて目的地に出発するブイツー達一行。

 それほどの距離を歩いたのだろうか。森と思しき景色が見えてくる。だが、それはブイツー達が知る景色ではなかった。

 ブイツー達の視界に飛び込んできた光景、それは見るも無残に変わり果てた森の有様であった。

 灼熱の炎で焼かれたのだろうか、黒炭と化してしまっている樹木。圧倒的な暴力で無残に殺された動物達。徹底的な暴力で破壊された森の姿がそこにあった。

「そんなっ!?」

 そう叫んだ途端、放たれた矢のように走り出しているティンクル。残りの者達も急いで後を追いかける。

 変わり果てた森を前にして、力なく膝を突いてしまっているティンクル。そこにいつもの気丈な表情は見られない。

「嘘よ……こんなの嘘よ……」

 無残に焼き尽くされたことにより、悔しさを滲ませているティンクル。妖精にとって森はかけがえのない場所である。その森を焼かれたのだ。まさに胸を引き裂かれるような想いであった。

 悲しみで打ちひしがれているティンクルの姿を見守っているマナ、マドック、グラン。そうした最中、いつもと変わらぬ表情でブイツーが口を開く。

「……追うぞ。まだ遠くにはいけないはずだ」

 開口一番。追撃を決断するブイツー。森が焼き払われて時間が経過していないことを考えると、敵はここから遠くに離れていないと判断していた。

 ブイツーの言葉に反応するマナ、マドック、グラン。戸惑いを隠せないマナに対して、マドックとグランの2人は神経を研ぎ澄ませる。

 冷徹とも言えるブイツーの判断。その一方で冷徹な判断は理にも適っていた。ここで敵を叩いておかなければ、また同じ事態が引き起こされる危険性があるからだ。

「ここから先は戦う意志がある者だけが行く場所だ。そうでなければ、ここにいるんだな」

 冷淡な口調でティンクルに対して、淡々とした口調で告げるブイツー。そのようなブイツーの口調であるが、まるで足手まといは必要ないと言わんばかりである。

「ブイツーさん」

 ティンクルに対するブイツーの態度に抗議をしようとするマナ。ブイツーが冷徹な振る舞いをすることはしばしばであるが、今の振る舞いはいつにも増して非情なものであった。

 しかも、ブイツーは自らの態度を顧みることなく、今度はグランと何かの相談をしている。

「あれは泣くことができなくなった者の眼だな」

 いつの間にかマナの傍に立ち、ブイツーの人柄をそう評しているマドック。ブイツーのことを凝視しているマドックであるが、その表情は普段の陽気なものとは一転して、長い年月と経験を積み重ねた熟練冒険者のものに変わっていた。

「泣くことができなくなった者……」

 恐る恐るマドックに質問しているマナ。泣くことができなくなった者。一体どういう意味なのだろうか。

 この時、マナは背筋が凍るような感覚を覚える。だが、話はそれだけでは終わらない。マドックはさらに言葉を続ける。

「あのブイツーとか言う者、恐らく、幾度も辛い経験を重ねてきたのじゃろう……。じゃが、身の上が泣くことを許されなかった。そして、何時しか、泣くことをできなくなってしまった。そういう意味では危ういものがあるのう」

 そのように言って話を締め括った後、大きく溜め息を吐いているマドック。マドックは今、ブイツーの状態を憂いていた。

「ブイツーさん……」

 独り呟くように言った後、前へと進むブイツーの背中を見つめているマナ。時には冷徹とも言える判断力を持ち、圧倒的な力で目の前の困難を打ち破るブイツー。それはブイツーが強靭な精神力の持ち主の証明であると思っていた。

 だが、ブイツーが泣くことのできない者であれば、話は違ってくる。そしてまた、今のマナの目には、ブイツーの歩く姿が非常に危うく見えるのであった。

 

                               つづく




皆様お世話になります。
まずは投稿が遅くなってしまったことにつきまして、本当に申し訳ありませんでした。
言い訳するまでもなく、創作活動をサボっていました。
今後もこうしたことがあるかと思います。
その時はどうぞ遠慮なくご指摘をください。

さて、以下は本題に入ります。
今回はブイツーとマナの新しい仲間達が登場しました。
種族や職業から既に気づいていらっしゃるとかもしれませんが、「ゴブリンスレイヤー」に登場した妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶です。
今後の物語を盛り上げていくため、彼等に登場していただきました。
記憶喪失のブイツー、経験が不足しているマナ、今のパーティー状態を考慮した場合、熟練の冒険者がどうしても必要でした。
女神官ことマナと同様、妖精弓手にはティンクル、鉱人道士にはマドック、蜥蜴僧侶にはグランの名前がそれぞれ与えられています。

今回の話はコミック版「ゴブリンスレイヤー」の第2巻の話を下敷きにしてあります。主人公がゴブリンスレイヤーからブイツーに置き換わっているため、話の内容等に変更やアレンジを加えています。

コミック版を下敷きにしたためか、第3章と銘打っていますが、今回の内容はパソコンに保存されている第5章の半分になります。
予想以上に長くなることが見込まれるため、分割させていただきました。

現在、続きの内容を鋭意創作中ですので、楽しみにしていただければ幸いです。
それでは今回はこれで失礼します。
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