妖精弓手のティンクル、鉱人道士のマドック、蜥蜴僧侶のグラン。
彼等からの協力要請を受けて旅に出るブイツーとマナ。
そんなブイツー達が目の当たりにしたもの、それは無惨に焼かれてしまった森であった。
一体誰が森を焼いたのか、ブイツー達の追撃が始まる。
森を焼き払った者達の追撃を開始したブイツー一行。幸いにも、近くに足跡が残されていたため、後を追いかけることは容易であった。
足跡を辿った先に見えてきたもの、それは古びた巨大な石造りの砦であった。何時頃に建造されたのか、あるいは何の目的のために建造されたのか、それらは一切謎に包まれている。
ただ、1つだけ確実に言えることがある。ブイツー達の目の前に建っている巨大な砦、それは異様な邪気に包み込まれていることであった。何者かが潜んでいることには間違いない。
当初は感情を昂ぶらせていたものの、落ち着きを取り戻しているティンクル。森を焼いた者達を許すことはできないが、焦っては事を仕損じるだけである。
やがて、巨大な砦の中に足を踏み入れるブイツー、マナ、ティンクル、マドック、グラン。その足取りは今までに増して慎重だ。
ここから先は何が潜んでいるのか、どのような構造になっているのか、どのような敵が潜んでいるのか、全く分からない状況である。だからこそ、慎重に進む必要があった。
ブイツー達が足を踏み入れた砦の内部。内部を照らす照明がないためか、真っ暗な一歩道がどこまでも続いている。
「ここから少し先に気配を感じる。恐らく、この砦を守っている魔物達だな」
淡々とした口調で全員に告げているブイツー。そんなブイツーの姿であるが、神経を研ぎ澄ませて、自分自身を周りと一体化させているかのようであった。
「お前さん分かるのか?一体、どんな力なのかのう?」
ブイツーからの言葉に対して、素朴な疑問を口にしているマドック。そのようなマドックの様子であるが、ブイツーの能力に興味津々のようである。
「大まかではあるが、風の流れで周囲の状況が分かるんだ」
自分の能力についての説明をしてみせるブイツー。どうやら、ブイツーは風の流れを読み取ることにより、周囲の状況を把握する能力があるようだ。
確実な歩調で砦の通路を進んでいくブイツー達。この時、ブイツー達は事前に気配を察知していたため、既に敵と相対する覚悟が固まっていた。
すると次の瞬間、砦の内部に潜んでいる魔物達が襲い掛かってくる。相手は巨大蝙蝠。闇夜等の暗い場所での活動に長けた魔物である。
一方、迫ってくる怪物達を迎撃するため、すぐさま武器を構えているブイツー、ティンクル、グランの3人。
「ふんっ!」
独特な形状をした剣で巨大蝙蝠を斬り伏せてみせるブイツー。鋭利な一閃の下、巨大蝙蝠の身体が引き裂かれる。
「はっ!」
両手に装備した2本の短剣をもって、巨大蝙蝠を仕留めるティンクル。ティンクルの武器は弓矢であるが、接近戦では短剣を使用している。
「!!」
曲刀で巨大蝙蝠の身体を貫くグラン。グランの職業は僧侶であるが、刀剣の扱いにも長けていた。グランの使用している曲刀であるが、単なる刀ではない。竜牙刀と呼ばれており、古き時代から伝わる奇跡の力で生成された刀である。
迅速かつ的確な動きをもってして、巨大蝙蝠の群れを全滅させるブイツーとティンクルとグラン。その姿はまさしく歴戦の冒険者そのものである。
「ふむ。ここからが本格的な戦いだな」
巨大蝙蝠の群れを倒し終わった後、今後のことについての判断を下すブイツー。そのようなブイツーの言葉であるが、一種の確信に満ちているかのようである。
「分かるの?」
ブイツーの判断にいち早く反応するティンクル。何故、そのように考えるのか、その理由を知るためである。
「巨大蝙蝠の群れは恐らく見張りだ。本命はこの先に潜んでいる。先程、風の流れを確認したが、無数の気配を通路の先から感じた」
そう言った後、闇で閉ざされた通路の先を指し示すブイツー。見立てによれば、通路を抜けた先に無数の気配、つまりは敵が潜んでいるのだと言う。
「それでお前さんはどうするつもりじゃ?」
ブイツーの方へと視線を向け、素朴な質問をぶつけるマドック。通路の先に敵が潜んでいるとなれば、真正面から衝突することになる。しかも、相手が大勢ともなれば、数ではこちら側が不利なことは明白だ。
「……」
無言のままで通路の先をじっと見つめているブイツー。そんなブイツーの視線であるが、困難に直面した目ではなく、物陰に潜んで標的を狙う虎の目であった。
「ブイツー殿、何か策でも?」
通路先に潜む敵に対応するため、ブイツーの意見を聞こうとするグラン。虎のように鋭利な眼差しより、ブイツーが何かしらの策を思いついていることを察知していた。
「そうだな……」
そう言った後、マドックからマナの順に視線を移していくブイツー。どうやら、策を実行に移していくためには、2人の力が必要不可欠なようだ。
「うん?」
「えっ……?」
突然、ブイツーから視線を向けられたため、驚きを隠せないでいるマドックとマナ。一体、自分達のどんな力が必要であるというのだろうか。
巨大な砦の奥に位置している大広間。その面積は相当に広く100人以上の人間を収容できるスペースがある。砦が建造された当時、兵士達を待機させるための場所だったのか。
だが、長い時を経た今となっては、当時の面影などまともに残っていない。その代わりに邪悪な力を宿した魔物達が居座っていた。
砦の大広間に居座っている魔物達。粘液質な身体の持ち主であるスライム、群れからはぐれてしまった小鬼、巨大蝙蝠、まさに魔物達の混成部隊といったところであろうか。
暇を持て余しているのであろうか、それぞれ自堕落な時を過ごしている魔物達。この時、魔物達はブイツー達の侵入に気がついていなかった。
だが、逆に言えば、それだけにブイツー達の侵攻が巧妙であることを意味していた。風の流れを読み、配置を察知されるなど、夢にも思わないことだからだ。
1体の小鬼が大広間から出ようとする。外の空気を吸うことによって、気分転換でも図ろうとしているのだろうか。いずれにしても、油断し切っていることは間違いない。
だるそうに漫然と歩みを進めている1体の小鬼。その時であった。小鬼の耳元に声が聞こえてくる。
「呑めや~歌えや~酒の精~」
小鬼の耳に届いてきた謎の声。年老いた男性のものにも思えるが、朗らかな声質が印象的だ。まるで酒場の酔っ払いが歌っているかのようである。
「歌って~踊って~眠りこけ~酒呑む夢を見せとくれ~」
大広間のすぐ近く。ここに酒瓢箪を手にしたマドックの姿があった。さらにマドックは酒瓢箪の中に入った酒を口の中に含む。
「《酩酊》」
次の瞬間、口に含んだ酒を噴き出すマドック。噴き出された酒は瞬く間に大広間全体に広がっていく。
マドックの発動させた術の名前は酩酊。術の名前のとおり、相手を酩酊状態に陥らせる効果がある。
マドックの発動した酩酊の影響により、思考と反応が鈍ってしまう小鬼。だが、その遅れが命取りであった。
「いと地母神よ……」
風の流れに乗って聞えてくる女性の声。先程のマドックの詠唱が酔っ払いの歌であれば、こちらは敬虔な神官による祝詞と言ったところか。
「……っ!」
女性の声に反応を示す小鬼。だが、先程のマドックの酩酊の効力からか、思うように思考と身体が動かない。
そんな小鬼の視線の先にいる者。それは錫杖を手に奇跡を発動させるための詠唱をしているマナの姿であった。
「我等に遍くを受け入れられる……静謐をお与えください……」
意識を集中させて詠唱を続けているマナ。マナは今、地母神に仕える神官として、貸し与えられた力を発動しようとしていた。
「《沈黙》」
そして今、地母神から与えられた力を発動させるマナ。次の瞬間、沈黙と言う名の奇跡の力で大広間は静寂に包まれる。
「……」
仲間に危険を知らせるため、叫び声を上げようとしている小鬼。だが、沈黙の影響により、小鬼が声を上げることができない。
マナの沈黙で意思疎通の手段を断たれてしまう魔物達。そうこうしていると、マドックの酩酊の効力が広がっていき、大広間の魔物達は泥酔状態に陥ってしまう。
魔物達が全て昏睡状態に陥った頃、大広間の中に足を踏み入れる者達がいた。ブイツー、マナ、ティンクル、マドック、グランである。
ブイツーは独特な形状をした剣、ティンクルは2本の短剣、グランは曲刀、彼等の手には今、それぞれの愛用の武器が握られている。
ブイツーとティンクルとグランの3人を前衛、マナとマドックの2人を後方に歩みを進めていくパーティー。魔物達が泥酔状態で眠っているため、進軍に苦労することはない。
「ねえ、本当にいいの?」
順調に進軍を進めている中、素朴な疑問を口にしているティンクル。敵対する魔物達がいれば、確実に仕留めるのが冒険者達のセオリーである。
だが、ブイツーは魔物達を泥酔状態にさせただけであり、手をかけるといったことをしていないのだ。これは冒険者達の視点から見れば、かなり異例の行為だとも言える。
「そうじゃ。仕留める必要はないのか?」
ティンクルの意見に追随しているマドック。お互いの種族の違いからか、対立の多い2人であるが、この時ばかりは一致しているようだ。
「動けなくなった者をこの手にかけようとは思わん」
眠りこけている魔物達を一瞥した後、ティンクル達の疑問の言葉に答えるブイツー。泥酔して動けない敵を殺める行為をよしとしていなかた。
「それに……」
「それに?」
途中まで言いかけて言葉を中断させるブイツー。一方、中断した言葉にいち早く反応するマナ。
「必要以上の殺生は憎悪を生み出すだけだ……」
天井を仰ぎ見た後、マナの質問に答えてみせるブイツー。そんなブイツーの言葉であるが、質問に答えるというよりも、むしろ、自らに言い聞かせているかのようだ。
やがて、大広間の出口直前まで到着するブイツー達。大広間を抜けた先に魔物達の親玉達が潜んでいる。ブイツー達はそのように見当をつけていた。
すると突然、大広間全体を強烈な邪気が支配する。それと同時に出口より、こちら側に何かが流れ込んでくる。
「散るんだ!急げっ!」
反射的に散開を促すブイツーの怒号が飛ぶ。すぐさまブイツー、マナ、ティンクル、マドック、グランはその場から散る。
次の瞬間、何かが流れ込んでくる。大広間の中に流れ込んできたもの、それは怒濤のように押し寄せてくる灼熱の炎であった。
幸いにも咄嗟のブイツーの怒号もあり、パーティーは炎の波から免れる。だが、泥酔状態に陥っている魔物達はそうはいかなかった。
突然、押し寄せてきた身を焼かれ、意識を取り戻す魔物達。沈黙の効果により、魔物達の絶叫が聞こえてくることはないものの、筆舌に尽くし難い苦悶の表情を浮かべていることは間違いなかった。
灼熱の炎に身体を焼かれる中、まさしく声にならない叫びを上げ、苦しみ悶えている魔物達。地獄の炎とはこのことを言うのかもしれない。
目の前に広がる光景を見守っているマナ、ティンクル、マドック、グラン。冒険者である彼等にしてみれば、邪悪な魔物達は間違いなく倒すべき敵である。
だが、どうしてだろうか。目の前で成す術もなく苦しみ悶える魔物達を前にして、冒険者達は言葉で表現しようのない感情を抱いていた。果たして、このような酷い光景が許されていいのだろうか。
「下がっていろ」
すると突然、ポツリと呟いた後、1歩前へと歩み出るブイツー。その手には独特の形状をした剣が握られている。
灼熱の炎で身を焼かれている魔物達を見据えた後、静かに独特の形状をした剣を構えているブイツー。そのままブイツーは呼吸を整える。
「はぁっ!!」
そして次の瞬間、独特の形状をした剣で横一線に薙ぐブイツー。その時、一閃と同時に1本の竜巻が勢いよく放たれる。
ブイツーが剣を振るうことで出現した1本の竜巻。この竜巻はありとあらゆるものを呑み込む。大広間を侵食する灼熱の炎、身を焼かれている魔物達を次々と呑み込んでいく。
やがて、全てを呑み込んでしまった後、1本の竜巻は消失する。そして、竜巻が消失した後、まるで全てがなかったかのように灼熱の炎、苦しみ悶える魔物達も消えていた。
「そこにいることは分かっている!出てこい!」
普段からは考えられない勢いで怒声を上げるブイツー。この時、ブイツーは先程の炎が何者かの仕業であることを見抜いていた。
先程の炎の波の軌道は明らかにブイツー達、その後方で眠っている魔物達を狙ったものであった。大方、侵入者の始末と役立たずの処刑と言ったところであろうか。
次の瞬間、大広間全体に地響きが鳴り響く。この砦は相当な年月が経過しているとはいえ、素材には良質な石材を使用しているため、かなり頑丈な造りをしている。
そのような砦で地響きが鳴り響いているのだ。この砦には只者ではない何かが潜んでいることは間違いないだとう。
表情を強張らせているマナ、ティンクル、マドック、グラン。彼等は地響きと共に強烈なプレッシャーを感じていた。
そして、地響きと共に大広間の出口から1体の怪物が現れる。どうやら、この怪物が先程の灼熱の炎を放ってきた張本人のようだ。
「現れたな……」
大広間の出口から現れた怪物を前にして、静かに身構えているブイツー。同時にマナ、ティンクル、マドック、グランもまた身構えている。
ブイツーの目の前に出現した怪物の正体。巨大な体躯、鋭く突き立った角、禍々しさを剥き出しにした形相、それはまさしく巨大な鬼とも呼ぶべき怪物であった。
古くからの口伝えによれば、その怪物は強固な盾を装備した騎士を盾ごと粉砕し、魔術師を上回る術で焼き殺したと伝えられる。
そして、その怪物と遭遇した冒険者であるが、その恐ろしさのあまり、怪物のことをオーガと呼んだ。
「オーガ……」
そんな言葉と共に愕然とした表情をしているティンクル。まさか、オーガと遭遇することになるとは思ってもみなかったからだ。
「あれがオーガか……」
目の前に現れたオーガのことを冷静に観察しているブイツー。様々な書物に目を通していく中、オーガの存在は事前に知っていたが、こうして、実際に本物を見ることは初めてであった。
「マナ、ティンクル、マドック、グラン……急いでこの場から撤退しろ」
すぐさま傍にいるマナ、ティンクル、マドック、グランに対して、砦から退却するように指示を出しているブイツー。
「ブ、ブイツーさん、どうしてっ!?」
ブイツーからの撤退指示に対して、真っ先に反応した人物。それは普段から行動を共にしているマナであった。
「ちょっと!何で撤退しなきゃいけないのよっ!?」
ブイツーの撤退指示に反発しているティンクル。何故、ここまできて撤退しなければならないのか、ティンクルは納得がいかなかった。
「お前さん、一体どういうつもりじゃ?」
ティンクルと同様、撤退には反対を表明しているマドック。ここは全員で立ち向かうか、あるいは撤退するのがセオリーである。
「ブイツー殿、どうして撤退を?」
ブイツーの撤退指示に対して、疑問の言葉を投げ掛けているグラン。何故、ここで撤退する必要があるのか、ブイツーの考えを知っておきたかったからだ。
「相手はオーガだ。我々の戦力でも負ける気はしない……。だが、確実に仕留めるためには、戦力をより増強させる必要がある。私が食い止めている間に増援を呼ぶんだ」
撤退指示を出した理由について、手短に説明をしてみせるブイツー。正直なところ、ブイツー自身、目の前のオーガに負ける気がしなかった。
だが、戦闘は水ものである。どのような形に戦いが転ぶか分からない。だからこそ、援軍を呼ぶことにより、オーガを確実に仕留めようとしているのだ。
「……分かりました」
ブイツーの話を聞いた後、意を決したように承諾の返事をしているマナ。だが、本心ではブイツーの言っていることについて、納得し切れていないようだ。
「……分かったよ」
「しょうがないのう」
「御武運を」
それぞれで承諾の返事をしているティンクル、マドック、グラン。どうやら、ブイツーによる撤退の指示について、ティンクル達は何か思うところがあるようだ。
やがて、ブイツーの指示どおり、その場から退くマナ、ティンクル、マドック、グラン。この場にはブイツーとオーガの2人だけが残される形となる。
「たった1人で残って正気か?」
残ったブイツーのことを嘲るオーガ。自らの実力に絶対的な自信を持つオーガにしてみれば、仲間を下がらせたブイツーの行為が自殺行為に見えたのだ。
「……どうかな?」
オーガからの物言いに対して、眉1つ動かすことなく反論してみせるブイツー。それと同時にブイツーは今一度、独特な形状を剣の柄を強く握り締めている。
「……」
真正面からオーガを見据えているブイツーの眼。その眼には激しい怒りの炎が宿っていた。
自らの欲望のため、平然と森を焼き払い、配下の魔物達を焼き殺す。そんなオーガの所業に対して、ブイツーは心から怒りの感情を抱いていたのだ。
真正面から相対しているブイツーとオーガ。古の砦を舞台として、騎士と魔物による一騎打ちが開始されようとしていた。
幕を開けたブイツーとオーガとの戦闘。ずんぐりとした体格のブイツー、山のような巨体のオーガ。一見すれば、無謀な戦いのようにも見えた。
「貴様のような輩がこの我を倒せるものか」
対峙しているブイツーのことを嘲るオーガ。目の前の相手は今までに見たこともないが、随分と珍妙な外見をしている。そのような者など相手になるはずもないと思っていた。いや、思い込んでいた。
すると突然、目のも留らぬ速さでオーガとの距離を詰めてくるブイツー。さらにブイツーは独特な形状をした剣を構えた後、そのまま鋭利な斬撃をオーガの足元に見舞う。
「ぐわっ!?」
次の瞬間、右脚に激痛が走るのを感じるオーガ。この時、オーガは激痛が走った右脚の方に視線を落としている。
気がつけば、オーガの右脛の部分には大きな刀傷が生じていた。得体の知れない者に傷をつけられた事実。この事実がオーガの怒りを増大させる。
この時、オーガはあることに気がついていなかった。本来であれば、オーガの皮膚は並大抵の攻撃を弾くほどに強靭である。
だが、ブイツーの斬撃はオーガの皮膚や肉をいとも簡単に裂いてしまったのである。このことは装備している剣の切れ味、ブイツー自身の技量が桁違いであることを意味していた。
「小癪な!」
生意気極まりないブイツーに向かって、渾身の一撃を見舞おうとするオーガ。一方、オーガの巨大な棍棒による攻撃に対して、軽やかな身のこなしで回避しているブイツー。
「私の動きを捉えることはできん」
オーガによる斬撃を素早く避けてみせた後、涼しげな口調で言ってのけるブイツー。ブイツーにしてみれば、オーガの攻撃は直線的で読むことが容易いかった。
但し、オーガの攻撃は直線的であるものの、攻撃自体の速度が非常に速いため、並大抵の者であれば、巨大な棍棒の餌食になっていたことだろう。このことからも、ブイツーの能力と技量がいかに卓越したものであるかが分かる。
「このままでは済まさんぞ!我が力を思い知るがいい!」
ブイツーに対する怒りの炎を滾らせているオーガ。これでまでの屈辱をそそぐべく、次なる手に打って出るオーガ。
「カリブン……クルス……クレスクント……」
巨大な右手を掲げて、術の詠唱を開始するオーガ。次の瞬間、右の掌の上に火の球が出現したかと思えば、急速な勢いで肥大化を遂げていく。
オーガが術で生成した火の球であるが、ファイアボールと呼ばれる火の球であった。但し、オーガの場合、魔力が強大であるため、その規模が尋常ではない。
「ヤクダ!!」
怪しげな詠唱の後、凄まじい勢いでファイアボールを投げつけるオーガ。投擲されたファイアボールであるが、急激な速度でブイツーの方に迫ってくる。
「(さて、どうするか……)」
オーガのファイアボールを前にして、冷静に思考を巡らしているブイツー。装備している剣の力で相殺するか、あるいは持ち前の機動力で回避するか。本来、ブイツーにはこのファイアボールを対処する方法はあったが、現在置かれている状況が選択肢を奪っていく。
そして、ブイツーが色々な思考を巡らしている間にも、オーガのファイアボールは容赦なく迫ってくる。これでは回避することは困難であると考えた結果、真正面から防御することでオーガのファイアボールを凌ぐことを選択するブイツー。その時であった。
「いと慈悲深き地母神よ……」
微かに聞えてくる祝詞を読み上げるかのような声。次の瞬間、ブイツーは不思議な感覚を覚える。それは何もかもを受け止める大地、あるいは慈愛に満ちた女神に包み込まれるかのような感覚であった。
今一度、目の前の状況を確認するブイツー。オーガの放ったファイアボールであるが、どういう訳か、ブイツーに近づいてくる気配が一向に見られなかった。否、障壁のようなものが出現して、オーガのファイアボールの行方を阻んでいるのだ。
そのような最中、ブイツーの守護している障壁に亀裂が生じる。オーガのファイアボールの威力が障壁の強度を上回っているのだ。
すると次の瞬間、亀裂の生じた障壁が砕け散ったかと思えば、新しい障壁がブイツーの前に出現して、今一度、オーガのファイアボールを遮ろうとする。
しばしの間、ブイツーの目の前では、オーガの放ったファイアボール、復活した障壁との間でせめぎ合いが続いている。
やがて、オーガのファイアボールが消失した後、ブイツーを守っていた障壁が消失する。そう、激しいせめぎ合いは障壁の勝利と言っても過言ではなかった。
「今の障壁は……」
オーガのファイアボールが消失した後、すぐに後方を振り返っているブイツー。何故ならば、自分のことを守ってくれた障壁に関して、ブイツーはよく知っていたからだ。
反射的に後方へと向き直っているブイツー。ブイツー視線の先には今、撤退したはずのマナの姿があった。マナだけではない。同じく撤退したティンクル、マドック、グランの姿もあった。
「マナ!」
急いでマナの所に駆け寄るブイツー。余程消耗しているのだろうか、今にも崩れ落ちそうになるマナの身体をブイツーが抱き留める。
「マナ、助かった……礼を言う。だが、どうして戻ってきた……?」
自分を守ってくれたマナに感謝の言葉を述べた後、疑問の言葉を漏らしているブイツー。どうして、マナは指示したとおりに動かなかったのか。
「ブ、ブイツーさんのことが放っておけなかったんです……」
今にも消え入りそうな笑みを浮かべて、ブイツーの問いかけに答えてみせるマナ。まるで消えかけの蝋燭の灯のようである。
「全く、1人で格好つけるんじゃないわよ」
「ワシ等の力もあてにして欲しいんもんじゃのう」
「もっと、頼って欲しいものですな」
そうした最中、会話の中に割って入ってくるティンクル、マドック、グラン。彼等もマナと同様、どうしてもブイツーのことが気になり、急いで引き返してきたのである。
「……」
今一度、自分の中で考えを巡らせているブイツー。あえてこの場に踏み留まり、自分に力を貸してくれる者達がいる。この時、ブイツーはどういう訳か、自身の中で何かが込み上げてくるのを感じる。同時に身体から余分な力が抜けていくのも感じていた。
「……分かった。力を借りよう。ただ、マナはここで休んでいるんだ」
仲間達の言葉を素直に受け入れた後、疲弊しているマナに語りかけているブイツー。先程、奇跡を発動させた反動からか、マナは体力と精神力を著しく消耗しており、これ以上、戦闘に参加することは困難であった。
「は、はい……」
ブイツーからの言葉に対して、弱々しい口調で返事をしているマナ。これ以上、マナを喋らせることは危険であるとブイツーは判断する。
そして、再び、前方へと向き直ることにより、オーガと対峙しているブイツー。そのようなブイツーも傍にはティンクル、マドック、グランが立っている。
「グラン、奴の足元を集中的に攻撃してくれ。マドック、全力で頭部に攻撃するんだ。ティンクルはマドックの援護を頼む」
早速、ティンクルとマドックとグランに指示を出すブイツー。そのようなブイツーの姿であるが、まるで軍を率いる将のようであった。
「禽竜の祖たる……角にして爪よ……四足……二足……地に落ち駆けよ……」
早速、行動を起こすグラン。竜の牙を思わせる無数の物体を取り出し、その場にばら撒いたかと思えば、術を発動させるための詠唱を開始する。
次の瞬間、グランからの詠唱に呼応する爪のような物体。爪のような物体は肥大化していき、他の爪のような物体と結合することにより、まるで骨だけの蜥蜴人といった姿へと変貌する。
グランが創造した骨だけの蜥蜴人。竜牙兵と呼ばれる存在であり、蜥蜴人に伝わる奇跡の1つである。そして、竜牙兵は使役者の命を忠実に遂行する兵士である。
早速、風のような勢いをもってして、オーガに攻撃を仕掛けるグランと竜牙兵。グランと竜牙兵はオーガの足元、それもブイツーが作った傷痕を狙い、竜牙刀による斬撃を見舞う。
「ぬぐわっ!?」
次の瞬間、今まで感じたことのない痛みに苛まされるオーガ。そのようなオーガの表情は苦痛で醜く歪んでいる。
巨体の持ち主であるオーガにとって、攻撃そのものはさほど脅威ではない。ブイツーとの戦闘で生じた傷痕を攻撃されたことにより、オーガの苦痛は何倍にも増していたのだ。
グランと竜牙兵がオーガの注意を逸らしている間、次なる攻撃を仕掛けようとするティンクルとマドック。
当然、オーガもまた、ティンクルとマドックの不穏な行動を察知していた。このため、矛先をティンクルとマドックに移すことにするオーガ。
「全く、私が援護役なんて」
オーガの動きに対応するため、悪態を吐きながらもブイツーの指示どおり、マドックのことを援護するティンクル。弓を構えた後、ティンクルは手慣れた様子で矢を番える。
タイミングを見計らった後、構えた矢から勢いよく発射するティンクル。発射された矢についてであるが、眼にも留らぬ速さでオーガの額に命中する。
通常、額に矢が命中すれば、致命傷になることは言うまでもない。だが、オーガの場合、圧倒的な再生能力をもってして、ティンクルの攻撃を凌いでいた。
ティンクルが自慢の弓でオーガを牽制している頃、攻撃を仕掛けるための準備を整えるマドック。
「仕事だ。仕事だ。土精どもよ。砂粒一粒転がり廻せば石となる!石弾!!」
ようやく準備が整ったため、術を発動させるマドック。次の瞬間、無数の石礫が生成されたかと思えば、弾丸の如き速さで発射される。
「!?」
無数の石礫を全身に浴びて、動きを止めてしまうオーガ。いくら、屈強な肉体を誇るオーガであっても、石弾の直撃を受けたとなれば、それ相応の損傷は免れなかった。
「カリブン……クルス……」
反撃の攻撃魔法を発動させるため、先程と同じように右手を掲げ、詠唱を始めようとするオーガ。オーガがティンクルとマドックを始末しようとした時であった。
「がっ!!?」
再度、オーガの足元に激痛が走る。急いでオーガが視線を落とすと、そこには足元の傷痕を集中して攻撃を続けるグランと竜牙兵の姿があった。少しでも敵の勢いを削ぐための知恵である。
「(何故だ……?何故、こうも傷が回復しない……?)」
この時、オーガは違和感を覚えていた。オーガには再生能力が備わっており、一定の損傷であれば、瞬時に回復してしまうほどである。
だが、ブイツーによってつけられた傷は一向に回復しないのである。そればかりか、傷元は攻撃されればされるほど、一層拡大していくばかりであった。何が原因かは定かではないが、少なくとも、ブイツーの攻撃が並大抵ではないことは確かである。
それぞれの持ち味を最大限に活かした連続攻撃。ブイツーの的確な指示の下、オーガの態勢は著しく崩れることになる。
「よし……」
今が最大の好機を判断した結果、一気に勝負を決めようと考えているブイツー。次の瞬間、ブイツーの背中からは光の翼が発生する。それと同時にブイツーは大きく地面から跳躍してみせる。
勢いよく地面から跳び上がった後、光の翼を羽ばたかせることにより、どこまでも上昇を続けているブイツー。そんなブイツーの姿はまるで天上から遣わされた騎士のようであった。
その後、下方にいるオーガを目がけて、一気に急降下を開始したかと思えば、独特の形状をした剣を構えているブイツー。
「はあああぁぁぁっ!!」
高速で急降下している最中、独特な形状をした剣でオーガに斬りかかるブイツー。それと同時にブイツーの剣は巨体を斬り裂いていく。
「ぐおおおおおおおおおおおっ!!!?」
疾風迅雷のようなブイツーの袈裟斬りを浴びた瞬間、あまりの苦痛に悲鳴を上げてしまうオーガ。今のブイツーの斬撃であるが、オーガの身体の奥深くまで斬り込んでおり、致命傷と言っても過言ではない損傷を与えていた。
剣の軌道がオーガの巨体の中心部まで達した時、その場で急に動きを止めてしまうブイツー。だが、これでブイツーの攻撃が終わった訳ではなかった。
「沈めっ!!」
即座に剣の刃の向きを変えた後、光の翼を羽ばたかせたと思えば、今度は急上昇を始めるブイツー。そして、ブイツーの剣の軌道は先程とはまるで逆方向であった。
ブイツーの描いた剣の軌跡により、オーガの巨体に浮かび上がったもの、それは巨大なVの文字であった。Vの文字は勝利を意味していた。
「ば、馬鹿なっ!?そんな馬鹿なっ!?貴様達のような輩にこの我があああああああぁぁぁぁっ!?」
ブイツーの必殺の一撃が決まった結果、痛々しい断末魔を上げるオーガ。そのままオーガの巨体は地面に倒れ込んでしまう。それと同時に周囲には轟音と衝撃が発生する。
巨大なオーガを斬り倒した後、地面にゆっくりと着地するブイツー。それと同時にブイツーの背中に発生していた光の翼も消失する。
「ふむ……」
優雅な動作で地面に着地した後、倒れ込んだオーガの様子を確認しているブイツー。既にオーガは物言わぬ屍と化していた。
「敵は仕留めた。我々の勝利だ……」
そんな言葉と共に自分達の勝利を宣言しているブイツー。ただ、ブイツーの立ち振る舞いであるが、勝利に歓喜している訳でもなく、実に淡々としたものであった。
「やった!」
「ワシ等の勝ちじゃ!」
「依頼成功……ですな」
オーガの討伐に成功したことを知り、それぞれ喜びの声を上げるティンクル、マドック、グラン。そのような3人の表情は達成感に満ちたものであった。
「良かった……」
ブイツーからの勝利宣言を聞いて、心の底から安堵しているマナ。ブイツーのことは信じているが、こうして、戦いが終わると安心するものである。
苛烈な戦いの末、依頼を遂行することに成功したブイツー達。オーガの撃破を確認した今、ブイツーは仲間達と一緒に任務を成し遂げたのであった。
つづく
皆さんお世話になります。疾風のナイトです。
今回は前回の続きで砦を舞台としたオーガとの対決になります。
前回と同様、今回もコミック版を下敷きにしていますが、若干の変更やアレンジを加えていたりします。
特にオーガとの対決についてですが、原作ではゴブリンスレイヤーが奇策で逆転勝ちしているのに対して、こちらは正面からのゴリ押しになっている気がします(^^;
やはり、SDガンダムが登場する以上、物語構成もSDガンダムっぽくなりますね。
オーガにトドメを刺したブイツーの斬撃の元ネタですが、コミックボンボン版「機動戦士Vガンダム」に登場したV字斬だったりします。
コミックボンボン版では困った時のV字斬と言っても過言ではなく、V2ガンダムの光の翼のお株を奪ったりもしていました(笑)
ブイツー自身、記憶を失っているため、身体が覚えている状態で技を使用しているため、正式な嵐虎剣の技が登場するのはもう少しだけ待っていただければと思います。
ただ、実は既に登場している技もあったりします。
最後に今回も読んでいただきましてありがとうございました。
次は今回の冒険のエピローグ的なお話を提供できればと考えています。