ニーアオートマタ 〜機械仕掛けの神〜   作:River vilege

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3話

 室内からはキーボードを叩く音が聞こえていた。

 

 ユウは一区切り着くと室内に備えてあった粉末コーヒーをプラスチック製の容器に入れお湯を注いだ。

 

 ブラックの香りに彼は満足そうな顔を浮かべ、コーヒーを片手に先程のキーボードの位置まで戻り、座った。

 

 画面にはロード中の表示があり、予定終了時刻は5分となっていた。

 

 彼の目の前には11Bがスリープモードに切り替えて、ベットで横になり眠っていた。

 

「論理ウィルス、か」

 

 彼女の内部データを修復している最中に何度か待機時間があったのでこっそりと中身を覗いていた時、いくつか興味深い内容があった。

 

 先ほどユウが呟いた論理ウィルスもその一つで白塩化症候群と似た症状を発症するらしい。

 

 あのまま治療せず、放置していたら確実に殺されていただろうと思うと少し寒気を覚えるユウだった。

 

 それと、もう一つ人類は絶滅している訳では無くどうやら月に逃げたらしい。

 

 不自然な点は多々あるが、彼女の治療を終えたら、例のアンドロイドのいるレジスタンスキャンプへ行こうとユウは思っていた。

 

 11Bがどうするかは分からないがもし承諾してくれるなら人類の繁栄の為に協力してもらおう。とユウは考え、コーヒーを一口飲んだ。

 

 ロード画面からは終了の文字が浮かび上がり、各データの異常の有無を検索し始めた。

 

 最後のデータを検索し終え、再起動の文字が浮かび上がる。

 

 タッチパネル式の画面に手を触れ、彼女の横に座り、目覚めるのを待った。

 

 寝ていた彼女の瞳はゆっくりと開き、ユウの方へ顔を向ける。

 

「おはよう。11B」

 

「‥‥おは、よう」

 

 まだ意識が覚束ないのだろうか、彼女はボーッとした様子でユウを見つめている。

 

 ユウについては美少女に見つめられる耐性が出来ていないのか視線を適当な方向にズラして冷静を保つ事にした。

 

 しかしながら、膝に置かれている彼の手は忙しなく動いており、冷静とは程遠い状況だった。

 

 暫く室内は静寂に包まれていたが、沈黙に堪え難かったのか、ユウは徐に口を開く。

 

「あー‥‥その、体の方はどうだ? 倫理ウィルスが蔓延っていたから全部取り除いておいたんだが‥‥。まだ、どこか異常でも?」

 

「‥‥」

 

「あ、あまり見つめないでほしいんだが‥‥。あぁ、それと君の義体はボロボロだったから全部修復したよ。ついでに記憶データも概ね見させてもらった。個人的な君の記憶は一切見てないから安心してほしい」

 

「‥‥逃げたかった」

 

 11Bは虚空を見つめ口を開いた。

 

 ポツリと独り言のように話し始めた彼女の言葉にユウは耳を傾ける。

 

「生まれた時からずっと戦って、逃げたくて、あそこにいるのが嫌で、嫌で仕方なかった」

 

「でも、逃げた先は真っ暗で、寒くて、とても怖くて、絶望だった」

 

 でも。と11Bは一言言うと体を起こし、ユウと対面する。

 

「ユウ、あなたと出会えて本当に、本当に良かった‥‥! ユウがいなかったら私は‥‥私はっ!」

 

「え"っ」

 

 彼女の感情の制御が限界を超えたのだろうか、ユウにのしかかる様に抱きつき、彼は100㎏越えの体重に耐え切れず椅子から転げ落ちた。

 

「ありがとうッ‥‥! ありがとうッ!」

 

「ぐぉぉおおッ‥‥!」

 

 嗚咽交じりの彼女の声は儚げで第三者から見ればとても絵になる光景ではあったが、当の本人は自分が重たいと言う事を綺麗サッパリ忘れているらしく、下にいるユウについては声にならない苦悶の声を上げていた。

 

 彼女が冷静になるのはそれから約10分後だった。

 

✳︎

 

「ごめんなさい‥‥」

 

「いや、うん、大丈夫だ」

 

「でも‥‥」

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 そう言ってユウは救急箱から湿布を取り出し、腰の中央部に一つと下部に一つ貼った。透明なラベルシートが床にハラリと落ちた。

 

「うぅ‥‥。ご、ゴミは拾っておく、ね」

 

「あぁ、助かる‥‥」

 

 11Bは床に落ちたラベルを拾い上げくしゃりと軽く纏めた。

 

 近くにあった屑篭にそれを入れ、再びユウの所まで戻る。

 

 その間にユウは近くにあった背凭れ付きの椅子に腰掛け、彼女に対面するよう促した。

 

 11Bはコクリと頷くと椅子を引いて腰掛ける。椅子はしっかりとしており、彼女が座っても全く問題は無かった。

 

 ユウはコーヒーを一口飲み、ふぅと一息ついた。

 

「伝え忘れてた事が一つあってな」

 

「なに?」

 

「"感情抑制プログラム"だったか。今の11Bには必要ないと思って外したんだが‥‥」

 

「‥‥そっか」

 

 11Bは憑き物が取れたかのような表情を浮かべ、薄く微笑んだ。

 

「少し疑問に思ったんだが‥‥。そのプログラムは君達"ヨルハ部隊"にとってなんの意味があるんだ?」

 

 彼女は当初、質問の意図が分からないと言った疑問の表情を浮かべていたが、直ぐに気付き答えようとしたが、気まずそうな顔を浮かべた。

 

「ごめんなさい。その件については何も分からない。‥‥"感情を持つ事は禁止"ただ、それだけ」

 

「成る程、な」

 

 ユウは"思った通りの反応だな"と心の中で呟いた。

 

 人を殺すという点に於いてだけ着目すると感情は非常に厄介な代物である。

 

 殺してしまったが為に罪悪感という感情に苛まれ、殺さなくてはいけない時にそれに支配され、支障をきたしてしまう。

 

 それがエスカレートしてしまうと自殺してしまう例も少なくは無い。

 

 某国では、恐怖という感情で民衆や軍隊をコントロールした独裁者と呼ばれる者も存在したが、感情抑制プログラムも似たようなものだろう。

 

 感情を制御し、統制を図る。軍隊としては文句なしだろう。規律として決めておけば説明など不要だ。

 

 しかし、それだけでは無いとユウは更に思案する。

 

 "規律を犯した隊員をわざわざ殺しにくる必要"があるのか、と。

 

 だが、どれだけ考えても答えが出てくる事は無く、底知れぬ違和感に苛まれながらユウは一旦考えることを止めた。

 

「変なことを聞いてすまないな」

 

「ううん、ユウは命の恩人だから何でも答えるし、何でもするよ」

 

 嘘偽りの無い瞳をユウに向け、ニコリと彼女は微笑んだ。

 

「そ、そうか。それなら、少し手伝って欲しい事があるんだが‥‥」

 

「うん、いいよ」

 

「ちょっと護衛を頼みたく‥‥。え?」

 

 どう説明するかと悩んでいたが二つ返事で彼女は引き受けてしまった。

 

 予想外の反応にどうするのものかと悩んでいると11Bが口を開く。

 

「さっきも言ったけど、私はユウのお陰でこうして生きていられるの。だから、ユウの頼みなら何でもするよ。死ねって言われたら死ぬぐらいに」

 

 ユウの瞳を真っ直ぐに見つめ彼女は続ける。

 

「それぐらい私はユウの為に何でもいいからしたいって思ってるの。それに、護衛だったら任せてよ。私、得意だから」

 

 ドンと胸を叩き自信満々に彼女は行った。

 

 その様子にユウは薄く微笑み椅子から立ち上がった。

 

「‥‥目的地はレジスタンスキャンプだ。いいか、イビー」

 

「イビー?」

 

「11Bだと長いからな。略してイビー。嫌か?」

 

 11Bは驚いた表情を浮かべたが瞬時に満面の笑みに変わりユウと同じく椅子から立ち上がる。

 

「イビー‥‥。うん、いい! ありがとうユウ!」

 

 喜んでいるイビーに向かってユウは片手を差し出した。

 

「よろしく頼むぞ、イビー」

 

「こちらこそっ! よろしくね、ユウ!」

 

 二人は固い握手を交わし見つめ合う。

 

 人間とアンドロイド。

 

 交わるはずのない二人は今ここで確かな絆で結ばれたのだった。

 

 

 

 




感想等ありましたら是非ともよろしくお願い致します。

次話投稿予定日は5月19日に掲載致します。

大変遅れてしまいますが、誠に申し訳ありません。
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