僕は家でテレビなんてほとんど見ない。見てもお気に入りのバラエティー番組しか見ないから報道番組なんて番組は知らない。
世の中の動きを知る事は大事かもしれないけど、コメンテーターが誰もが分かる考察をドヤ顔で解説するようになってから見なくなった。
僕が知りたいのは、そのニュースから取れる裏の思惑。
だけど、今は後悔している。
最近は暑い日が続くな、って思っていたけどこれは異常気象だったと言う事。いつもはお盆休み辺りに出て来るクラゲが早く到来しているなんて考えもしなかった。
僕は無我夢中で巴ちゃんを浜辺まで引っ張った。時期的にクラゲが出るのは早いからたくさんいる訳では無かったのが不幸中の幸い。
巴ちゃんの右太ももにはクラゲの触手と思われるものがひっついていた。
「巴ちゃん、その悪気は無いから……ちょっとだけ脚をさわるね……?」
「うん……ごめん」
僕はゆっくりとクラゲの触手をはがす。そして持って触手は海に返す。
僕はこの時、手に痛みが走ったけど顔には出さなかった。
確かクラゲに刺された時はまず落ち着いて刺された場所を海水で洗い流すことが重要だって兄さんが言っていた。刺された箇所を擦ってはいけないとも教えてくれた。
僕はゆっくりと海水を手ですくって巴ちゃんの脚にかけていく。彼女の太ももには触手がついてあった跡が
「巴ちゃん、痒みとか痛み、ある?」
「うん、ちょっと痛いな……」
「そっか。じゃあ病院で少し診てもらおっか」
今日が平日で良かった。もし土曜日だと午前中しか診療所は営業していないし日曜日なんて問答無用で閉まっている。
巴ちゃんは「そこまでしなくても大丈夫だよ」って言っていたけど、念には念を入れて行こうと説得した。
命に関わるようなケガじゃあないのは分かってる。
そうだけど、巴ちゃんには早くケガを治して欲しいし……。
僕と一緒に行った海水浴を嫌な思い出にしてほしくなかった。
嫌な出来事って、いつまでも頭に残っちゃうから。
借りたパラソルを返却してから、更衣室に戻って着替えてから病院に行く。僕は帰りの着替え用に持って来ていた白色のTシャツに、行きと同じジーパンを素早く着て外に出る。
僕の心臓はそわそわとしていて、時折爪を立てて握られているような痛みを感じた。
分かってる。分かってるよ……。
僕が
巴ちゃんを待っている時間を有効に使う為に携帯で一番近くの診療所を検索する。
運良く、歩いてすぐの場所に診療所がある事が分かった。
巴ちゃんは何か申し訳なさそうな顔をしながら更衣室から出てきた。
僕は出来る限りの笑顔を巴ちゃんに向けた。
声に出したら安っぽく聞こえるから言わないけど、気にしないでよ巴ちゃん。
僕は巴ちゃんのそばにいれるだけで、嬉しいんだ。
診療所の待合室で、雑誌を見ながら巴ちゃんが診察室から出てくるのを待っていた。
病院の待合室で携帯を触るのってどうしてかマナー違反な気がするから。
雑誌は表紙から有名人のスキャンダルを報じる内容が見て取れた。一度スキャンダルを起こしてしまった有名人は一生、そう言うイメージで見られてしまう。
今まで好きだった有名人が不倫してしまうと、不倫をする人とイメージされる。
イメージは……濃い方がより印象に残る。
白より黒の方がより心の中に残り、中々黒色のイメージを払拭できない。
「……お待たせ、正博」
「あ、巴ちゃん。……どうだった?」
「うん。手当をしてもらったし大丈夫だってさ」
僕は雑誌を閉じて本棚に返すとともに、安堵の息がこぼれた。
安心すると身体に張り巡らされていた力が一気に抜けるからボロが出るよね。
僕のお腹が「ぐぅうう」と大きな音をたてた。静かな待合室では部屋全体に響き渡って、巴ちゃんだけでなく、他のお客さんにも見られてしまった。
どこかでご飯を食べようか、そう笑いながら言ってくれた巴ちゃんの顔はいつも通りの輝いた笑顔だったから僕は安心した。
そしてまた、お腹が鳴った。
もちろん、僕と巴ちゃんが一緒に食べるご飯はもう決まっているようなもの。
ただ時間が2時を回っているから、どこのラーメン屋さんも準備中の為お店を閉めてしまっている。
そして僕たちが戻って来たのはさっきまで海水浴をしていた砂浜。そこの休憩所みたいな日陰と椅子がある場所で僕たちは座って、カップラーメンを食べることにした。
男女が二人でカップラーメンなんて風情が無いと思うかもしれないけど、意外にもカップラーメンを食べようと言いだしたのは巴ちゃんの方から。
3分間待ってふたを開ける。粉末スープの安っぽいにおいがしているけど、ある意味このにおいがインスタントの良い部分だと思う。
割りばしをきれいに割ってから麺を口の中にすすり入れる。
海の近くで食べるカップラーメンってどうしてこんなにも味が変わるんだろう。風味も一段と深くなっているようにも感じる。
横に座っている巴ちゃんも「うめー!」と言いながら食べている。彼女もお腹が空いていたんだよね。
僕は晴れ渡る青空を見上げる。
太陽がまぶしくてラーメンを食べているから余計暑く感じるけど、こんなにきれいに晴れ渡っていたら文句なんて言えない。
僕はそんな青空を背に受けながらカップラーメンをズズズッとすすっていく。
こういう野外でカップラーメンを食べる時、スープの始末に困る。僕は草むらとかに捨てるのは気が引けるから全て飲む事にしている。
巴ちゃんはラーメン好きだからスープを気にせず全て飲んでいるんだけどね。
仲良くカップラーメンを食べ終えた僕たちは、今からもう一度海水浴!なんて出来ないから徒歩圏内を観光することにした。
「あれはショッピングモールじゃないか?正博、ちょっと行ってみないか?」
「うん、良いよ。ちょっと涼しい所に行きたいし」
僕の心の中にはショッピングモールで突然発作が起きたらどうしようって不安があったけど、平日で人が少ないし何より僕は一人じゃないって思えば大丈夫だと思った。
ショッピングモールに足を踏み入れて、ブラブラと歩く。
そう言えば巴ちゃんとどこかに行くのは初めてかもしれない。彼女とはカフェやラーメン屋など飲食店しか行った事が無かった。
だから僕は初めて知った。
「うーん……これもよさそうだなぁ」
巴ちゃんはショッピングモールにあるアパレル店で服を持ち上げながら吟味している。巴ちゃんはファッションに興味があるみたい。
残念ながら僕にはファッションセンスなんてゼロに等しいから、巴ちゃんが見ている服をじーっと見る事しか出来なかった。
こういう時、出来る男は「こんな服はどう?」とか進んで発言するのかな。そうすれば一緒に買い物をしている女の子も楽しいのかな。
「なぁ正博。これとこれ、どっちがアタシに似合ってる?」
「え、えーっと……」
巴ちゃんは二つの服を片手ずつ持ってどっちが似合うか聞いて来たのだけど……僕が決めるなんて責任が重大だな。
巴ちゃんは真剣な顔で聞いているし、僕も真剣に答えないと巴ちゃんに失礼だよね。
左手にはマスタードのトップスが、右手には秋っぽい色合いのボーダーが入ったトップスを持っていた。
「と、巴ちゃん的にはどっちが好きなの?」
「どっちもアリなんだよなー。だから正博、ドンと決めてくれよ」
あ、はは……そうなるよね。
こういう時に店員さんが来れば助かるけど、店員さんが来る雰囲気は無い。一人で買い物をしている時はすごく絡んでくるのに。
僕は頭で巴ちゃんをコーディネートしてみた。
そして結論を出す。
「僕は……ボーダーの方が似合うと思う、な」
「そっか!なるほどなぁ」
巴ちゃんはニッコリしながら左手に持っていたマスタードのトップスをあった場所に戻した。そしてなぜか僕が選んだ方のボーダーのトップスもあった場所に戻してしまった。
「あれ……その服、戻しちゃうの?」
「ん?ああ、他のお店で同じような柄のトップスを探そうと思ってな。正博が選んでくれた服はとりあえずキープって感じだな」
「そんな事までするんだ……僕はそこまでした事ないから」
「まぁ、すぐに決められるって言うのは良い事だと思うよ」
ファッションに興味がある人は同じような柄の服装でも色々吟味して選ぶらしい。
僕もいい機会だから巴ちゃんに服の選び方とかを教えてもらおう。
服
「悪いな、正博。アタシの買い物に付き合ってくれて」
「ううん、大丈夫。ちょっと疲れたけど……良い経験になったよ」
ショッピングモールには4時間ぐらい滞在していたらしい。その割には購入した服は1、2着ぐらい。女の子のオシャレは時間をかけてじっくり選ぶ。
僕はこんなにも長い時間、服を選んだことが無かったから途中ぐらいから目がグルグルと回っているような気がするぐらい疲れた。
でも、僕も大学生だし服に興味を持つことも良いかもしれない。現に今日だけでたくさんの知識を得ることが出来た。
……レディースファッションの知識だけどね。
外に出ると夕焼けを通り越して、太陽がほとんど沈んでいて空には少しづつ星が出てきていた。星はきれいに輝いていて、今日と言う輝く一日を祝してくれているかのように感じた。
もうすぐ帰る時間だろう。今日は色々あったけどとっても楽しい一日だった。
巴ちゃんと今日一日ほとんど一緒にいたけど、時間の経過があっという間に感じてしまう程楽しかった。
「なぁ正博……実は、さ」
「どうしたの?」
夏は暗くなるまで時間がかかるけど、夜が短いと言う訳ではない。
何が言いたいのかと言うと。
「今日、実は宿を予約してあるんだ」
「へっ?や、宿……ホテルってこと!?」
「うん、そうだな」
今日と言う名の夏は、まだ続くらしい。
@komugikonana
次話は6月7日(金)の22:00に投稿します。
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~次回予告~
宿って聞いていた僕はビジネスホテルとか民宿だと思っていたんだけど、その予想はきれいに裏切られた。
そして話があるという巴ちゃん。そんな目に涙を浮かべている巴ちゃんの姿なんて見たくないよ。
「もう、大丈夫だよ。巴ちゃん」
彼女の左手をゆっくり、ゆっくりと握った。
では、次話までまったり待ってあげてください。