image   作:小麦 こな

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動き出した歯車は何を思う?①

お盆休みに差し掛かっている今日も、外はとっても暑くクーラーを一日中起動させているような堕落した一日を僕は送っている。

巴ちゃんと二人で海水浴に行ってもう10日も経っているのに唇のあの感触は忘れられなかった。

 

いきなり僕の携帯がブーン、と震え始めた。メッセージが来たのかなと思って携帯を手に取ってみると電話だった。

そして電話をしてきた相手が巴ちゃんでは無くて意外な人だったから僕は首を横にかしげる。

 

「もしもし?」

「も~、遅いよまーくん」

「ご、ごめん……青葉さんから電話が来るなんて、お、思ってもいなかったから」

 

そう、電話をかけてきたのは巴ちゃんの幼馴染の一人である青葉さんからだった。なぜか僕は電話の向こうで青葉さんがどんな表情をしているのかが分かった気がした。

 

本当に青葉さんが僕に電話してくるなんてどうしたんだろう。

いつもはフワフワとしている彼女の考えている事は僕にはまだ分からない。巴ちゃんは大体分かるらしいけど。

 

「そ、それで……何か聞きたい事でも、あるのかな?」

「モカちゃんはね~。ともちんとまーくんの謝罪会見の感想を聞きたいな~」

「なっ!なんで知ってるの!?」

「ひーちゃんから聞いた~」

「う、上原さん……」

「あたしは気が利くから、蘭と~、つぐにも。しっかり教えといたよ~。いえ~い。ぶい」

 

どうしよう、頭がすごく痛くなってきた。寄りによって羽沢さんだけでなく美竹さんにも知らされたとは。

 

僕と巴ちゃんの謝罪会見って言うのは、海水浴に一緒に行った時に巴ちゃんがちょっとした嘘で迷惑をかけてしまった事を謝った事を指す。

もちろん、僕も巴ちゃんと一緒に上原さんと、巴ちゃんのご家族に謝った。

 

その時はまぁ、なんと言うか……。

巴ちゃんが「アタシが悪い」的な事を言った後に僕が「いや、こんな決断をさせてしまった僕が悪いんです」と言うと巴ちゃんが僕を擁護して、僕は巴ちゃんを……と言うやり取りの繰り返しだった。

 

上原さんは目を点にしていたし、巴ちゃんのご家族にはなぜか「結婚はいつでもいいわよ」と言う謎の許しを得た。

 

何がひどいって上原さんと巴ちゃんのご家族、別々の場所で行っている。つまり謝罪は2回行った。にもかかわらず2回とも同じような内容になったんだ。

 

「ご、ご迷惑をおかけしました……」

「モカちゃんに感謝するのじゃ~。あの後のひーちゃん、大変だったんだよ~」

「え、上原さんが?なんで?」

「あの謝罪会見のあとね~。ひーちゃん、コーヒーを7杯も飲んだんだよ」

「そ、それって……なにが大変、なの?」

「ひーちゃんは甘い物が好きだから、コーヒーなんてほとんど飲まないんだよ~。それなのに死んだ目をして『もっと、コーヒー頂戴』なんて言ってたんだよ~」

 

うん、上原さんごめんなさい。

でもどうして上原さんは嫌いなコーヒーを7杯も飲んだのだろうか。僕と巴ちゃんが謝りに行ったことに関係があるのだろうか。

 

「青葉さん、お疲れさまでした……」

「全部、聞いた話なんだけどね~」

「はい?」

「つぐから全部聞いた話でした~。へっへーん」

 

僕は電話の通話を切る事にした。青葉さんのペースに引きづり込まれているような気がしたし、何よりこれ以上からかわれると体力がなくなる気がした。

電話を切った後すぐに青葉さんからメッセージが届いた。

 

 

モカちゃんいじめられた!ともちんに言いつけてやるー

 

 

僕はふぅ、と息を吐いてからメッセージをスル―する事にした。

そして立て続けに青葉さんからメッセージが送られてきた。僕は青葉さんをいじめるならいじめ続けようと思ったから既読スルーでも……。

 

 

ともちん、多分神社にいるから会いに行ってあげたら~

 

 

ありがとう、青葉さん。

 

待って。さっきまでの青葉さんの会話で羽沢さんから聞いた、と言っていた。と言う事は羽沢さんは青葉さん以外にも伝えている……?だって青葉さんにだけ教える理由なんて無いもんね。じゃあ、上原さんも僕たちが謝罪会見をしたことをみんなに?

幼馴染の連絡網って凄いね……。

 

 

 

 

空気が波打っているように見えてしまうような、そんな狂った暑さが降り注ぐこの日。

僕はこの辺りの一番大きな神社に向かっている。

 

青葉さんから神社に巴ちゃんがいるからって聞いたんだけど、どこの神社なのかを聞いていない為、規模の大きな神社から行ってみることにした。

あの後、青葉さんにどこの神社かを聞いたよ。聞いたんだけど「まーくんの愛の力で探して」としか返ってこなかった。

 

最初は「愛の力」って、と思ったけどそう言えば僕たち、キス、しちゃったんだよね。

巴ちゃんは僕なんかとキスして良かったのだろうか。巴ちゃんなら僕より素敵な男性を見つけられると思う。

 

僕は……巴ちゃんの事、「大事」な人だと思ってる。

だけど僕には、きっと巴ちゃんの恋人になれる資格は無いと思うんだ。

 

 

じゃあ、どうしてその女との関係を絶たないんだ?

 

 

そんな声がどこからか聞こえたような気がして、僕は立ち止まった。

こんなに暑いのに背筋がゾッとなって冷たくなる。周りを見渡してもそんな事を言いそうな人間はいない。

 

だから僕は心の中で、誰かに(・・・)反論した。

 

 

僕の事を初めて「見てくれた」人なんだ。僕にとって誰よりも大事にしたい人なんだ。

 

 

生ぬるい風が僕の髪の毛をサラッとかきあげる。

僕は他の神社に向かう事にした。ここにいると嫌な考えばかり考えてしまいそうだから。

現に今も幻聴に対して反論している。

 

振替って来た道を戻ろうとした時、僕の耳に太鼓のような音が聞こえた。そう言えばこの神社に入る前にお祭りの案内が書いてある紙を見たような気がする。

 

せっかくここまで来たのだから太鼓を遠くからチラッとだけ見ていくことにしよう。

そう思って神社の奥まで進んでいった。

 

どうやらあの建物からなっているらしい。近くの境内マップでみると「神楽殿(かぐらでん)」と表記してあった。

特に神社に詳しくない僕は何をする場所なのか分からないけど、太鼓など楽器を鳴らす建物なんだろうなって推測した。

 

「……あれ?正博、だよな?」

「へっ?この声って」

 

僕は後ろから聞いたことがある、僕にとって大事な人の声が聞こえた気がした。

また幻聴かもしれないって思ってゆっくりと振り向いてみると、そこには幻なんかじゃない、巴ちゃんがはっきりと存在していた。

 

「やっぱ正博じゃん!どうしてここにいるんだ?」

「巴ちゃん!えっとね、神社から太鼓の音がしていたから気になって来たんだ」

「そっかそっか!」

 

僕は青葉さんから聞いて神社に来た、と言う情報は隠しておくことにした。多分巴ちゃんも僕みたいにいじられているような気がしたから。

 

目の前にいる巴ちゃんも太鼓を叩いていそうな衣装を着ていた。法被、と言うのだろうか。

その法被を着ている巴ちゃんはとっても似合っていて、かっこいいなって思った。

 

「巴ちゃんも、太鼓を叩くの?」

「ああ、叩くぞ……そうだ、今は休憩中なんだけど正博も太鼓叩こうよ」

「えっ!?ぼ、僕も!?む、無理じゃないかな……」

「大丈夫だって!よし、じゃあ行くぞ!」

 

僕の左手首をがっしりと掴んで僕を神楽殿まで引っ張っていく巴ちゃん。

僕は口では無理だって言っていたけど、まったく抵抗はしなかった。

 

そう言えば、巴ちゃんと出会ってすぐの頃もこうやって左手首を掴まれたっけ。

出会ってすぐの時とは関係性がまったく違うけど、いつもこんな感じで僕を引っ張って色々な世界を見せてくれるんだ、巴ちゃんは。

 

 

僕は巴ちゃんに引っ張られて神楽殿に足を踏み入れた。

そこには何人か大人の人もいたけど、全員巴ちゃんの知り合いらしく巴ちゃんが「体験です」と言う一言だけで周りの大人は笑顔で頷いてくれる。

 

「巴ちゃん、この太鼓はいつ披露するの?」

「3日後のお祭りでだよ。さぁ正博、これを持って太鼓を叩こう」

 

僕の想像していたのより太いバチを巴ちゃんから受け取る。

僕は思い切り力を入れて和太鼓を叩いてみる。

 

ドォン、と言う心にまで響きそうな低音が鳴った。手はバチから伝わる振動を受けてブルブルと震えているけど、叩いた時の一瞬はとても気持ちの良い物だった。

 

僕は何回も和太鼓にバチを打ち付けた。叩いた事によって生じた音は神楽殿どころか、この神社全体に響き渡っているような気がした。

 

 

「うーん、手が凄く張ってるよ……こりゃ、明日筋肉痛かも」

「それはもしかしたら腕だけで叩いているのかもな」

「腕だけで?どういう事?」

「全身を使って太鼓を叩くんだ。ちょっとバチ、貸してくれるか?」

 

巴ちゃんにバチを渡すと、彼女は息をスーッと吸ってから太鼓を叩く仕草に移動する。

彼女の真剣な顔つきに僕は釘づけになった。

 

巴ちゃんの熱いまなざしは、横から見ても素敵だった。

僕は美術館の名画を見ているような気持ちになった。この素晴らしい絵を他の角度からも見てみたい、そんな気持ち。

 

「ソイソイソイソイソイ!ソイヤッ!」

 

僕が鳴らしていたような音とは比べ物にならないような迫力があって、感情のこもった音が僕の身体を揺らした。

同じ楽器で、同じ道具なのにこんなにも音に違いが出るんだ……。

 

「すごい……すごいね、巴ちゃん!」

「正博、お祭りの日、アタシと一緒に和太鼓しないか?」

「そ、そんなの僕下手くそだから迷惑に……」

「ならないよ。……大丈夫ですよね!」

 

巴ちゃんは僕たちの様子を離れて見ていた大人たちに聞いた。彼らはみんな笑顔でオッケーサインを出していて、こんなにも簡単に参加しても良いのかって言う気持ちになったけど……。

 

正直、巴ちゃんと太鼓が出来るのは楽しみだ。

 

すると、大人の一人が僕たちに向かって爆弾を落とした。

 

「巴ちゃん、恋人のお兄ちゃんと熱くなれよっ!」

 

「「こ、恋人じゃないですよ!」」

 

大人たちはみんなケラケラと笑っていて、僕と巴ちゃんは顔を赤くしながらお互い見つめ合って、同じタイミングでため息をついた。

 

その時に巴ちゃんは小さな声で何か言ったような気がしたけど、大人たちの笑い声で何も聞こえなかった。

 

 




@komugikonana

次話は6月14日(金)の22:00に投稿します。
新しくお気に入りにして頂いた方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてくださいね。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価をつけて頂いた方のご紹介~
評価9と言う高評価をつけて頂きました 託しのハサミさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~
今日はお祭り当日。巴ちゃんと一緒に和太鼓を演奏することになった僕は緊張している。巴ちゃんは緊張しないんだろうなって思っていたけど……!?

「和太鼓の演奏の時間まで、二人でお祭りを満喫しない?」
これが、今の僕に出来ること。


では、次話までまったり待ってあげてください。

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