image   作:小麦 こな

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動き出した歯車は何を思う?③

お祭り会場であるここの神社は混雑が予想される。なにしろお盆休みだし親子連れも、カップルにも、老若男女にも参加しやすい日程だからだ。

 

それもピークの時間帯でのお話。そのピークの時間は日が暮れてから。

もうすぐ日が傾きそうな時間帯である現在はそこまでたくさんの人が来ている訳では無いから一番過ごしやすい時間帯なのかもしれない。

 

夕焼けを背景に、太鼓を演奏する時に着る法被を着たまま僕たちはお祭り会場をぐるりと周ることにした。お祭りだから浴衣を着る人が多い中、僕たちの服装は少し浮いて見えるかもしれない。

 

横を歩く巴ちゃんの顔色はまだちょっとだけ落ち着きのないような顔をしていた。

 

「ねぇ巴ちゃん」

「な、なんだ?」

「僕も巴ちゃんに抱き着かれた時、恥ずかしさもあったよ」

「急にその話題になると、恥ずかしいよな……?」

「でもね、僕はそれ以上に嬉しかったんだ。巴ちゃんは僕の事、心配してくれたから。今まで僕を心配してくれる人なんていなかったから」

 

僕は巴ちゃんの顔を、目をしっかりと見て語り始めた。僕が言っている事はとってもバカらしく聞こえるかもしれない。だけど僕の気持ちを巴ちゃんに伝えたかった。

巴ちゃんの綺麗な瞳がガクガクと動いた後、(まぶた)がゆっくりと閉じられた。

 

そして開かれた時の瞳は、迷いを捨てたような目だった。

 

「ありがと、正博。アタシ、もう決めたよ」

「何を決めたの?」

「はは、正博にはまだ言わないよ!」

「え、なんで?どうして?」

「ほら、正博!ちょっと腹減ったし焼きそば買いにいこーぜ」

 

そう言って巴ちゃんは僕の左手をぎゅっと握って走り始めた。その時の巴ちゃんの顔はいつものようなかっこよさと一緒に、晴れ渡った顔をしていた。

僕はそんな巴ちゃんに置いて行かれないように足の動きを速くした。

 

 

 

「うーん、たまには焼きそばもうまいな」

「そうだね、屋台で買う焼きそばって美味しいよね」

 

僕たちは境内にある階段に座って、さっき購入したばかりの焼きそばを食べていた。今はまだ暑さが残っているけど日が暮れるにつれて涼しくなっていくだろう。

 

人が少しずつ増えてきた。お祭りという事もあってみんなの気分は最高潮に近くて、周りの顔色を見れば悲しい顔をしている人なんて見当たらなくみんな嬉しそうな顔をしている。

 

隣から鰹節とソースの香ばしい香りが鼻をくすぐり、お腹が求めているから箸で適当な量をすくって焼きそばをすする。

和太鼓を披露する時間までおよそ2時間。神楽殿の近くでは盆踊りの準備が進んでいるんじゃないだろうか。

 

もうちょっとだけ巴ちゃんとお祭り会場を周りたいな。次はかき氷を食べたい。そして出来れば射的とかくじとかやりたいな。

 

「あれ、巴じゃん!」

「おっ、沙綾(さあや)か!久しぶりだなー」

 

僕の知らない女の子が巴ちゃんの方に寄って行って彼女とおしゃべりをしている。巴ちゃんの口調から察するに二人はきっと知り合いなんだろう。

巴ちゃんの明るい性格なら誰とでも仲良くなれるんだろうなって思った。

 

沙綾と呼ばれた女の子は茶髪で、髪の毛をポニーテールにしている女の子でそちらも明るい性格だと感じた。

その沙綾と呼ばれた女の子は僕の方を見た。すると彼女は目を大きく見開いてから意外そうな顔をして言った言葉に、僕は違和感を感じた。

 

「あれ!?佐東君だよね!?巴と知り合いだったの?」

「えっ、はいっ?」

 

僕はビックリしすぎて変な声を出してしまった。巴ちゃんはジト目で僕の方をジーッと見ている。

 

そんな事よりも僕は目を一度ゴシゴシと擦ってから、沙綾と呼ばれた女の子の方を見る。

……うん、やっぱり僕はこの女の子に見覚えが無い。

 

高校の時の同級生?いや、ありえない。

じゃあもしかして幼少期の時に出会っていたりとかだろうか。でも僕にはこんなかわいい顔をした女の子の幼馴染なんていないし、第一、僕に幼馴染なんかいない。

 

「あの……僕と、その、どこかで会いましたっけ?」

「あれ?人違いだった、かも。でも、佐東君なんだよね」

「あ、はい。佐東ですけど……名前は、分かります、か?」

「名前……そう言えば知らないなー。私、ずっと佐東君って呼んでいたから」

 

今の会話で大体の推理をする事が出来た。この女の子は人違いをしている。

だけど、この女の子は小学校、中学校……見た事ないんだけどな。

そうなればやっぱり高校?

 

「沙綾こそ、正博と知り合いなのか?」

「あ、正博君って言うんだ!うん、知り合い……だと思っていたんだけど人違いかな」

「そんなに似ている人が知り合いにいるのか?」

「うん!もうそっくり!私の好きな人の友人さんにそっくりなんだ」

「じゃあ、沙綾の好きな人の名前を言ってみてくれよ」

「あ、はは。みゆき君って言うんだけど」

 

僕は顔をしかめる。みゆきって名前は聞き覚えはあるけど別人のような気がする。

僕が難しい顔をして考えていることを巴ちゃんたちに見られたから、彼女たちは「人違い」と言う事で決着したらしい。

事実、人違いだから仕方がないのだけど。

 

きっと、この沙綾と言う女の子はあの人(・・・)と間違っていると思う。

だけど、あの人のイメージを持っていれば普通の人は近づかないはずなんだ。

 

嫌な、予感がする。

 

「ごめんね、間違えちゃって!それに二人の邪魔しちゃったね。ばいばい、巴、正博君」

 

沙綾と呼ばれた女の子は人混みの中に入って見えなくなってしまった。お祭りに一人で来ていたのかな?

 

「正博、疑う訳じゃないけど……ほんとに沙綾に見覚え無いのか?」

「それが、本当に初対面でびっくりしたよ」

「でも名字は沙綾、知ってたぞ?もしかして正博って一度記憶喪失になった事でもあるのか?」

「記憶喪失になった事なんてないよ!ちゃんと小さい頃の出来事も覚えているし」

「そっか……よく分からないけど、良いか」

 

巴ちゃんは残っていた焼きそばの最後の一口を食べ終えた。僕の手が持っている焼きそばはまだ残っているけど、そんな事より考えていることがあった。

 

あの人(・・・)は今何をやっていて、どのように過ごしているんだろうって。

僕には分からないことだらけだし、僕に知る権利なんてものは無いって事は知っている。だけどやっぱり気になってしまう。

 

あの人(・・・)は今も僕の事を……。

そのために僕に似せているはずだから。

 

「正博、箸が止まってるぞ?食べないのか?」

「あ、食べるよ。ごめん、食べるのが遅くなっちゃったね」

 

僕は残っていた焼きそばをズルズルと口の中に運んで完食した。

これから大事な出番が僕にもあるんだから、分からない事を考えても仕方がない。それに今は僕の隣に巴ちゃんがいてくれる。

 

僕は手に持っていた焼きそばの容器をごみ箱に捨てた。

その容器には一摘まみの鰹節がゆらゆらと躍っていた。

 

 

 

 

盆踊りの本番直前の神楽殿は、いくつかの和太鼓とそれを演奏する人たちがいた。

主に梅雨時と盆踊りの時期に和太鼓を演奏するらしいけど、今回はそんなに激しく叩くのではないからリズムさえ合っていれば良いらしい。

 

そんな大雑把なアドバイスを大人の方から貰った。僕の隣で聞いていた巴ちゃんもうんうん、と頷いていたから間違った事は言っていないのだろうけど大雑把なほど心配になってしまう。

 

そして周りには盆踊りの為に集まった人たちが円を作っている。

もうすぐ本番が来るんだって思ったら心臓がバクバクと暴れ出した。

 

「正博、緊張……してるか?」

「うん、かなり緊張してる」

 

巴ちゃんは僕の隣で太鼓を叩いてくれるらしい。盆踊りでは多くの人が一斉に叩くわけでは無いから役割分担で行う。そして僕と巴ちゃんは二人で叩く。

しかも一番最初に。

 

「夕方はアタシが支えられたから、今度はアタシが正博を支える番だな」

 

そう言って巴ちゃんは僕の震えている右手をしっかりと握ってくれた。

もしかしたらみんなが見ているかもしれないって恥ずかしさよりも、巴ちゃんがいてくれる事の安心感の方が強かった。

 

今日は巴ちゃんを支えてあげようって思ったのに、やっぱり僕は巴ちゃんに支えられているんだなって思った。

正直男として情けないと思うよ?だけどその温かさが今の僕には嬉しいんだ。

 

「……ありがとう、巴ちゃん」

「よし、もう本番だ。アタシが最初叩くから正博はさっき教えたテンポで叩いてくれ」

「うん、分かった」

「……の前に、掛け声やっとくか?」

 

巴ちゃんはニヤッとしながら僕にもう一度手を出すように求めてきた。

掛け声って僕、何も知らないんだけど……。

 

「せーのっ!」

「え、えっと……せーの?」

「ソイヤーーーーっ!」

 

巴ちゃんの掛け声には唐突過ぎてついていけなかったけど、気合いが入ったのか巴ちゃんは太鼓を叩き始めた。その音に合わせて盆踊りの人たちも踊り始めた。

 

いきなり始まるなんて思ってもいなかったから僕も一定のリズムを刻んでいく。

巴ちゃんは僕の方を見てニッコリ笑いかけてくれた。僕もぎこちなく笑顔を彼女に返す。

 

「ソイソイソイソイソイ、ソイヤーーーーっ!」

 

巴ちゃんは急にアレンジを入れ始め、太鼓が激しく音を鳴らす。僕は一定のリズムで叩いているから不思議と調和していて。

巴ちゃんはとっても楽しそうに叩いていたから、僕も自然に笑顔になっていく。

 

もう、ぎこちない笑顔なんて消えていた。

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかったな!今日は」

「うん、僕も楽しかったよ」

 

夜の8時になって、暗い夜道を僕たちは巴ちゃんの家に向かって歩き始めている。もちろん巴ちゃんを家までしっかりと送る為。

 

最初は緊張でガチガチだった僕も、始まってしまえばとても楽しかった。

それに巴ちゃんもいつもの雰囲気に戻ってくれて、一緒にお祭りを周れて嬉しかった。僕は一度、友達とお祭りに行ってみたいって思っていたから、思わぬ形で実現して良かった。

 

「また、和太鼓を巴ちゃんと叩きたいな」

「おお!まじか!大歓迎だぞ、正博!」

 

周りは暗くても、巴ちゃんの笑顔はしっかりと見える。

このきれいで、輝いていて、にっこり笑う巴ちゃんの顔が、一番好きなんだ。

 

「ここまでで大丈夫だ、またな!正博」

「うん、今日はありがとう巴ちゃん」

 

巴ちゃんは大きく手を振った後、家に入っていった。

玄関の外からでも聞こえる彼女のただいま、と言う声は僕に笑顔をくれた。

 

僕も家に帰ろう。

ふと空を見上げれば、曇っているのだろうか、星があまり見えなかった。

 

明日は雨でも降るのかなって考えていた。そう言えば今日は天気予報を見ていなかった事に気が付いた。

 

 

 

「……久しぶりだなぁ」

 

僕の足はぴったりと止まる。

暗い夜道の中、僕は今、一番聞きたくない声が聞こえた気がしたから恐る恐る聞こえた方向を見る。

 

前をゆっくりと見ると、そこには暗くて顔がしっかりとは見えないけど誰がいるのかはっきりと分かった。

 

僕の手が、足が、すべてが震える。

 

「……なんで、どうして……」

 

僕はこんな言葉しか出せなかった。

わざわざ会いに来る必要なんてないよね?

 

「どうしてって、挨拶に決まってるだろ?」

 

いやらしい言い方に僕はさらに震えを増す。もう僕に関わらないって言っていたよね?なのにどうして会いに来たんだ?

 

それに僕だってお前の顔なんか見たくない。それはお前だって同じだろ?

お前の考えていることが……分からない。

 

「楽しそうだねぇ、正博……ほんと、腹が立つわ」

 

 

 

 




@komugikonana

次話は6月21日(金)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにして頂いた方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからもサクッと飛べますよ!

~高評価をつけて頂いた方々をご紹介~
評価10と言う最高評価をつけて頂きました シュークリームは至高の存在さん!
評価9と言う高評価をつけて頂きました ニコアカさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!
これからも応援、よろしくね!

~次回予告~
9月に入って少しは過ごしやすくなると思いきや、まだまだ暑さが8月と変わらず部屋の中はクーラーをフル稼働している。
カレンダーをまだ8月からめくっていない事に気が付いた。画鋲によって壁に張り付けられているカレンダーを手に取って、ビリビリと破る。
カレンダーは9月に更新されて、手元には役目を終えた8月分のカレンダーがある。

その役目を終えた月をボーっと眺めながらある事を思う。

この月に、アタシは……。


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こんなメッセージが、届いた。送り主は彼。

~感謝と御礼~
今作品「image」がついに評価バーをすべて埋めることが出来ました!これで私の作品はデビュー作から今作品まですべて評価バーが赤色で埋まりました。
これも読者のみなさんの支えがあったからこそ成し遂げることが出来たと思っております!本当にありがとうございます!


では、次話までまったり待ってあげてください。
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