image   作:小麦 こな

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未来に向けて、これから①

僕に対するイメージが変わって、そして僕自身も罪の認識が甘かったと改めて分からせてもらったあの日から2ヵ月が経とうとしていた。

街は早くもクリスマスモードで、すれ違う人たちはみんなウキウキしているように感じた。

 

僕は歩いて通勤場所まで通う。まだアルバイトって形の雇用だから正社員ではない。だから働きすぎると所得税が引かれる訳で……。

でも、雇ってくれている人が「来年は正社員で雇いたいんだけど、良いかい?」って言ってもらえた。僕の答えはすでに決まっていた。

それにあの場所は人がとっても良くて、こんな僕でも笑顔で迎えてくれた。

 

 

ちなみに今は実家から通勤場所に通っている訳では無い。

もちろん電車で1時間かけて通勤するのも面倒くさいって言うのもあるけど、最大の理由は両親だった。

 

僕が両親に相談せず、大学を勝手に辞めてきたから「この子まであのバカに思考が似てきてしまった」と勝手に嘆き始めたからだ。

 

そんな家で暮らしていては僕も頭がおかしくなってしまう。そう思った僕はアルバイト先の正社員の先輩にお金を前借し、アパートの一部屋を借りた。

 

 

商店街(・・・)を抜けて、僕は働き始めた場所にたどり着く。

カフェテリアで働いている店員さんに挨拶をしてから、僕は職場に入る。

 

そしてタイムカードをスキャンしてから、僕は指定の位置に立って今日も半日だけ働かせてもらう。

今日の最初のお客さんは……うん、あの子たちだ。

 

ドアが開いた音がした。僕は出来る限りの笑顔を彼女たちに振り撒く。

 

「いらっしゃいませ。Afterglowのみんな!」

 

 

 

 

僕は巴ちゃんが所属しているバンド、Afterglowが奏でる音を防音室の外から聞いている。

僕は働いているここ、CiRCLEで受付を担当させてもらっている。

 

僕がここで働こうって思ったのは巴ちゃんに誘われたライブ。あのライブの興奮が心の底ではまだ火がくすぶっていたらしい、ここを思い出して面接に行ったというわけだ。

 

僕は音楽に対しては無知なので、機材など詳しい事は二人の先輩方に任せてしまっている。僕は悪いと思っているけど、先輩たちは「受付だけでもしてくれたら大助かりだから」なんて言ってくれる。

 

一応、僕は受付だけでなくスタジオの予約なんかも電話などで受けている。この辺りは女子高が多いから、ガールズバンドがほとんどのお客さんだ。

もちろん、巴ちゃんたちAfterglowもこの中の一バンドだ。

 

「佐東君ってAfterglowのみんなと仲が良いよね?」

「あ、はい。知り合いなんです。彼女たちと」

 

僕の横で事務作業を行っている月島まりなさんが僕に話しかけてきた。

月島さんはいつも僕をサポートしてくれるし、面接の時も笑顔で対応してくれた。

優しくて頼りになる先輩だ。

 

「そうなんだ……ね、佐東君!Afterglowの5人の中で好きな子とかって、いる?」

「えっ!?ちょ、ちょっと月島さん!?」

 

僕は大声を出してしまった。これではAfterglowのメンバーで恋心を寄せている人がいるって自白しているみたいなものだ。

……実際いるから仕方がない。

 

月島さんは突然の出来事に大きな目を丸くしているし、スタジオの中で奏でられていた音も止まっている。

 

すると奥からもう一人の先輩である結城さんが出てきた。

結城さんは口角を上げながら僕の腰に肘をツンツンと当ててくる。

 

「……で?誰が好きなんだ?はっきりと言いたまえ、後輩君」

「結城さんまで……その、と、巴ちゃんです……」

「どういうところに惹かれたか教えてくれたら、この話題は終わってやるから」

「頼みますよ……?僕の事を最初に見つけてくれて……普段はかっこいいけど、笑った時はかわいくて。それに僕を楽しい世界に連れて行ってくれまし、一緒にいると楽しくて。深くは言えないんですけど僕を支えてくれてて……」

「こりゃ、ゾッコンだな……そうだって、宇田川さん!」

 

結城さんが一瞬何を言っているか分からなかった。

「そうだって、宇田川さん!」なんていっても巴ちゃんはスタジオで一生懸命バンド練習しているし、壁やドアが分厚いから音漏れはしないって結城さん、教えてくれたじゃないですか。

 

それに結城さん、さっき美竹さんにお願いされてスタジオに入っていったじゃないですか……サボっていたら月島さんに言いつけますよ?

 

……僕はゆっくりと時計を見た。

時計は短い針が11、長い針が0を指していた。Afterglowの練習時間は11時に終わるんだった。

 

僕はゆっくりと、引きつった顔でスタジオの方を見てみた。

そこには顔を真っ赤にして、下を向いている巴ちゃんがいた。

 

 

 

 

「やっぱり、ともちんとまーくんはアツアツですなぁ~」

「……正博、その気持ち悪い顔でこっちを見ないで。……鳥肌が立つから」

「美竹さん……ちょっとひどくない?」

 

僕とAfterglowのメンバーは今、羽沢珈琲店でお茶をしながらお話をしている。

 

僕は仕事が午前中だけだし、あの後1時間ぐらい仕事をしてから退社した。

そして帰ろうと思ったらAfterglowのみんなが僕を待っていた、と言うわけだ。

 

もちろん、僕と巴ちゃんは隣通しに座らされて、あとの3人が思い思いの場所に座ってニヤニヤと鋭い視線が僕たちに襲い掛かる。

 

僕の横に座っている巴ちゃんはと言うと、さっきよりマシだけど顔が赤い事に変わりはない。

 

 

ちなみにだけど、僕とAfterglowのみんなとは仲を取り戻すことが出来た。

僕一人の力で、と言うわけでは無くほとんど巴ちゃんが仲を取り繕ってくれた。

 

僕もみんなに、一人ひとりに頭を深く下げて謝った。そしてお願いもした。

 

兄さんを悪く思わないでほしい、と言うお願い。

 

「ねぇねぇ、つぐ?何かみんなで楽しい事したくない?」

「私も賛成!たまには佐東君を入れたみんなで何かやりたいよね!」

 

羽沢さんが持ってきたスイーツを食べながら上原さんが提案してきた。

僕も入れて、なんて羽沢さんが自然に言ってくれたけどその自然に出る言葉が胸をポカポカと温かくさせてくれる。

まるで初夏の太陽を身体一杯に受けているような温かさのような感覚だ。

 

「ふっふっふ~」

 

急に青葉さんがニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んでくる。

こんな雰囲気の青葉さんは一番危険だって僕のセンサーが警鐘を鳴らしている。巴ちゃんも同じように感じたのか、僕の耳の近くで「アタシたち、やばいかもしれないな」って囁いていた。

 

そんな巴ちゃんなのに、青葉さんが口を開いた瞬間、一番乗り気になったから僕は椅子ごとひっくり返ってしまいそうになった。

 

その青葉さんの言葉は、これだ。

 

「みんなでまーくんの家でお鍋パーティをしない~?」

 

 

 

 

「正博、キムチ鍋にしないか?寒いからあったまるぞ?」

「確かに良いけど……辛いのが苦手な子がいるかもしれないし……」

「あー、そういえばモカが辛いの苦手だったな……」

「そうなんだ。それなら無難に寄せ鍋とかにしようか」

 

僕と巴ちゃんは二人でスーパーマーケットに行って買い物をしている。

後の3人はと言うと、鍋が出来上がりそうなときになったらそっちに行くからあとで家の場所を教えて、とのこと。

 

普通ならそんな勝手な、なんて思うんだけど巴ちゃんと一緒にいれるならむしろその方が良いかもしれないって思うようになった。

 

まずは野菜類から買い物かごに入れていく。定番の野菜は取っていけば問題は無いだろう、そう思ってシイタケに手を伸ばした時に巴ちゃんにストップをかけられた。

 

「待て!シイタケはひまりが苦手なんだ」

「えっ!?そうなの……僕、シイタケ好きなんだ……」

 

そんな……。

大好きなシイタケが封印されてしまうなんて思ってもいなかった僕は身体全体から紫色の負のオーラを漂わせてしまった。

でも、仕方がないよね。今度上原さんにはシイタケの素晴らしさを教えてあげなくちゃいけない。

 

僕はシイタケを諦めて別のものを探しに行こうとすると、巴ちゃんがすごいスピードでシイタケを買い物カゴに入れた。それも3パックも。

 

「ひまりになら嫌いなものを入れても面白いからオッケーだっていう事を忘れていたよ!あ、はは……」

「でも巴ちゃん……さすがにその数をいれると……」

「気にするな!アタシも食べるからさ、な?」

 

僕は改めて買い物カゴに入れられたシイタケを見つめた。

1パックに大きなシイタケが6つほど入っている。この数が一気に鍋に入っているところを僕はぼんやりと想像した。

……うん。

 

買い物カゴの中のシイタケは苦笑いをしながら「あ、はは……」と言っているような気がしたけど、僕は目を逸らすことで新しい売り場に行くことに成功した。

 

 

その後は鶏肉や肉団子など、定番のものを買いそろえて麺類が売っているコーナーまでやってきた。鍋の最後は雑炊か麺か悩んだんだけど、とりあえずこのコーナーには寄ってみることにした。

 

「正博!もちろん鍋の〆はラーメンだよな!」

「そうだね、ラーメンにしようか」

「よっしゃ!これはテンション上がるなー!」

 

巴ちゃんは楽しそうに鍋用のラーメンをポイポイと買い物カゴに入れていく。

かなりとんでもない量がカゴの上に蓄積していっているけど、6人いるから大丈夫……だよね?

 

カートを押しながらレジにつく。

鍋の材料費は後で6人が割り勘して均等にする予定らしい。だから値段を見てちょっと目を見開くような値段だったけど、6で割ると一人当たり1000円も行かないからかなり安い。

 

 

「そういえば、正博は今どんなところで住んでいるんだ?」

「そうだね……前の学生アパートよりかなり広くてきれいだけど、家賃はかなり安いアパートだよ?」

「そっか……広いならアタシも一緒に」

「どうかした?巴ちゃん」

「何もない!何も考えてないからなっ!」

 

また巴ちゃんは顔を赤くしていた。

 

僕はそんな巴ちゃんを見ながらぼんやりと、だけど自分の気持ちを整理していた。

今はネックレス代の返済で一杯いっぱい。自分の生活だけでも結構苦しい部分もある。

 

だけど僕は今、隣を歩いている女の子が好きなんだ。

今は無理かもしれないけど、そのうち僕の好意を伝えないといけない日が来る。

 

もしフラれたら僕はまた一人になっちゃうのかな。

もしそうなら告白したくない気持ちも出てきてしまう。

 

でもモタモタしていたら、こんなにかっこよくてかわいい女の子なんだから他の男が告白しに来てしまうかもしれない。

もし他の男と付き合ったら巴ちゃんとは、もう……。

 

「……また、なにか考え事か?正博」

「あ、ううん。何でもないよ」

「またそう言って……前もそう言ってたけど違ったじゃんか」

「そう、だね……」

「とにかく、今日の鍋パーティは楽しもう、な?その後、二人の時間を作ってその悩みを一緒に考えようよ」

 

僕は両手で持っていた、今にも千切れてしまいそうなレジ袋を右手に持ち替えてから、空いた左手で巴ちゃんの手をギュッと握った。

 

巴ちゃんはちょっと驚いた顔をしていたけど、僕の握った手を強く握り返してくれた。

 

もし、僕の悩みを今日巴ちゃんに打ち明けたら……。

今日が運命の日になるのかもしれないなって思うと僕の気持ちが激しく動いたのを感じた。

 

 




@komugikonana

次話は7月23日(火)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~次回予告~
僕たちの前に置いてある鍋はグツグツと沸騰している。
きっと僕たちの心も、この鍋みたいに得体のしれない感情が沸き上がっているに違いない。その証拠に僕は顔が熱くなっているし、巴ちゃんは顔を真っ赤にしている。

僕は無意識に巴ちゃんの顔に、ゆっくりとだけど、僕の顔を近づけた。
そしてちょっとだけ口を尖らせる。

巴ちゃんも目をゆっくりと閉じて、僕のやろうとしていることを受け入れてくれるらしい。

僕と巴ちゃんとの距離がゆっくり、ゆっくりと近づいていく。
もうちょっとでお互いの口と口が重なりそうで……。

~お知らせ~
小麦こなの記念すべき5作目を絶賛制作中です。次回作の最新情報をTwitterやあとがきにて少しづつ公開していこうと考えています。
今回もせっかくなので少しだけ情報公開!

次回作はこの作品「image」のスピンオフ作品でヒロインは青葉モカです!
作品のタイトルは「change」です。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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