image   作:小麦 こな

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夕焼けとの出会い、そして夜に知る①

大学生活にも少しづつ慣れてきた僕たち新入生。

慣れてきたと言っても悪い意味でも慣れてきている訳で、今は教授がマイクを使用して授業をしているんだけど、ちゃんと聞いている生徒は一握りだ。

 

そんな僕も大多数の生徒と同じ分類で、さっきからずっと携帯を触っている。

抑揚のない声で、しかも配られたレジュメに書いてある事を永遠復唱しているような授業だから仕方がない。

僕はしてないけど、レジュメを受け取った後に退出する生徒も日に日に多くなってきている。

 

こんな感じなら授業に出ない日も遠くはなさそうだな、って自分の怠惰な思考に深いため息をこぼす。

その時に僕の携帯の上の方に「1件の新着メッセージ」と言う文字が出てきた。

 

僕は慌ててSNSを開く。

心臓は今にも爆発しそうなほどバクバクしている。もう、授業どころでは無い。

 

メッセージを送って来た子は僕の予想通りのあの子からだった。

 

 

今日のお昼、時間あるか?

良かったらまたあそこのラーメン、食べに行こうぜ!

 

 

僕はすぐに「今日のお昼は時間があるから大丈夫だよ」と言う文字を送る。

 

メッセージを送って来た子と言うのは、宇田川巴ちゃん。

僕が大学を入学して早々、学生証に不備があると言うトラブルで羽丘女子大学に行った時にばったり遭遇した、かっこいい系の女の子だ。

 

最初は盗撮に間違われてしまったりと散々だったが、今では誤解も解けて僕の「友達」になってくれている、やさしい女の子。

 

 

じゃあ、正博の大学の門前で待ってるからな!

 

 

すぐに返事が返って来て、僕は既読をつける。

巴ちゃんも、授業中なのかな。もしそうなら彼女も授業中に携帯を触っているのかもしれないね。

 

メッセージのやり取りを終えて時計を見ると、授業が終わるまでまだ40分もある。まだ授業の途中で荷物をまとめて退出する勇気のない僕は早く時間が経過する方法を考えた末、ひと眠りすることにした。

 

教授の念仏みたいな話声は、思ったより安眠を促してくれてすぐに暗闇の中に入っていく事が出来た。

 

 

 

 

「おっ!正博、こっちだ」

「久しぶりだね。と、巴ちゃん」

 

授業の終わりのチャイムが鳴った瞬間に目をパチッと覚ました僕は、3行ほどしかメモしていないルーズリーフとレジュメをファイルに入れて、すぐに集合場所である大学の正門まで小走りで向かった。

 

巴ちゃんは先に集合場所に来ていて、僕を見つけた瞬間、笑顔で手を振ってくれた。

巴ちゃんは顔が整っているのはもちろん、身長も高く恐らくスタイルも良いので男女問わず周りの生徒の視線を受けている。

 

「なんだ?2限目の授業、面白く無かったのか?」

「え……なんでそう思うの?」

「いや、顔に思いっきり机の跡が入ってるからさ」

「えっ!?う、うそっ!?」

 

その言葉を聞いて、僕は頬っぺたを何度も擦った。

顔に机の跡が残ってるなんてとっても恥ずかしいよ……しかもその顔を巴ちゃんに見られたと言う事も恥ずかしい。

 

急に顔が熱くなって、季節が一歩進んだんじゃないかってぐらいおでこに汗が噴き出た。

巴ちゃんは「あはははは!顔真っ赤だぞ、正博!」と言いながら笑っていた。

 

「そ、そんなに笑わないで欲しいな……」

「正博が真っ赤な顔で頬擦ってるの見てると面白くてさ。ほら、早く行こうぜ」

「う、うん」

 

巴ちゃんが歩き出したから、僕も巴ちゃんの隣に立って歩く。

隣に立って、なんて響きだと「結構良い感じじゃん」って思うかもしれないけど、僕と巴ちゃんの間は拳二つ分くらい空いている。

 

僕が巴ちゃんの近くに立って歩く勇気が無いだけなんだけどね。

 

目的のラーメン屋さんはお昼のピーク時だからだろう、かなりの列を作っていた。

僕もこの大学に慣れてきたから分かるんだけど、この近くのラーメン屋さんで1,2を争う人気店なんだって。

 

「巴ちゃん、すごく並んでるけどどうする?」

「そうだなー……時間があるし並んでも良いけど、せっかくだし他の店にも行ってみようぜ」

 

巴ちゃんの提案により、別のお店を探すことにした。

知り合って分かったんだけど巴ちゃんはラーメン、特に豚骨しょうゆラーメンが好物らしい。たまに巴ちゃんからラーメンを食べに行こうって誘ってくれる。

僕からはまだ誘った事は無いけど、いつか誘ってみたい気もする。

 

「それにしても正博ってメッセージの返信、早いよな」

「あ、うん。早い方が良いかなって……」

「正博のSNSにはアタシしか連絡先が無いから、だろ?」

「う……それを言われると、厳しいなぁ」

「はは。良いじゃんか。これから増やしていけば良いんだよ」

 

ちょっと意地悪な顔をしながらからかう巴ちゃん。

巴ちゃんの言う通りで、僕のSNSには巴ちゃんしか友達がいない。だから必然的にメッセージが来たら巴ちゃんなんだ。

 

巴ちゃんしか友達がいないって彼女本人にばれたのは、たしか一週間前。

あの時は「暇だからどこかで話さないか?」って来て、僕の大学の学食で話していた時に僕がポロッと暴露してしまったんだ。

あの時の巴ちゃんは目をまん丸にしていた。

 

巴ちゃんがどこのお店にしようかキョロキョロしながら決めている時に、僕はちょっと嫌な視線を後ろから感じた。

じっと見られているような粘着性のある視線に僕は少し震えた。

 

でも、今は巴ちゃんといるんだ。

僕一人なら走って逃げるけど、巴ちゃんを置いて逃げるわけにはいかない。だって僕は……。

 

「と、巴ちゃん!あのお店にしない?」

「良いな!アタシも気になってたんだよ」

「決まりだね、ササッと入ろう」

 

僕は適当なお店を選択して、巴ちゃんとラーメン店に入った。

幸い、空席があったから食券を買えばすぐに座れる。ラーメン店の中なら誰が僕たちを見ているか怪しまれずに確認もできるはず。

 

そんな事しか頭に無かったから、食券販売機の前に立って財布を出そうとした時に気が付いたんだ。

僕が巴ちゃんの左手首をギュッと握っていた事を。

 

 

「あっ!ご、ごめん……巴ちゃん」

「いや、別に良いけどさ。急に手を握られてびっくりしたぞ?」

 

僕は慌てて握っていた手を離した。

女の子の手首って柔らかくて、なぜだか男の手より冷たく感じる。そんな感情が手を離してからやって来るものだから、顔を赤くしてしまう。

 

巴ちゃんは僕に手首を握られていたのに、慌てるそぶりは一切なくて僕なんかより男らしく感じた。

 

カウンター席で隣通しに座った僕たちは店員に食券を渡し終えた後、顔の熱を冷ますために冷水を一気に飲み干して空いたコップに冷水をなみなみとついでいく。

隣に座っている巴ちゃんはそんな僕の行動を不思議そうな目で見ていた。

 

「そんなに喉乾いてたのか?」

「え?あ、うん。そうなんだよね。あ、はは……」

 

潤った喉とは裏腹に乾いた声で笑う僕を見て、巴ちゃんは僕の目を覗き込んで来た。

巴ちゃんの綺麗な瞳が僕の視線を集めていく……。

 

「ラーメン並2つ、お待たせしました」

「ありがとうございます!うまそーだなぁ!」

 

良いタイミングで店員さんがラーメンを持って来てくれて僕は内心ホッとした。

巴ちゃんに自覚は無いかもしれないけど、顔が整ってるから近くで見られるってだけでドキドキしてしまう。

店員さんにはアイコンタクトで「助かりました」と送ったつもりなんだけど、店員さんの表情は羨ましそうだった。

 

隣でおいしそうにラーメンを頬張っている巴ちゃんを横目に僕はチラッと店の外を確認する。見た感じでは不審な人とかは見当たらないけど、気のせいだったのかな。

 

「正博、外見てどうしたんだ?」

「ううん、何でもないよ」

「ここのラーメンもうまいぞ!大学生って最高だなー」

 

僕も目の前のラーメンをすする。

前に巴ちゃんと行ったお店よりあっさりしているスープなんだけど、後味にガツンとくる豚骨がこれまた癖になりそうだ。

麺は細いストレートタイプでこのスープと合わせたらいくらでもいけるんじゃないか、と思うくらいスルスルと細麺が僕の口から吸いこまれていく。替え玉はアリだな。

 

「店員さん、替え玉ください!」

 

巴ちゃんの替え玉注文を聞きながら、僕は少ししか残っていないスープをしっかりと味わいながら巴ちゃんが食べ終わるのを待つことにした。

 

 

 

 

「いやー、やっぱりラーメンはうまいな!」

「女の子同士でラーメン食べに行こって誘っても敬遠されそうだよね」

「そう!そうなんだよ!正博は分かってるなー」

 

女の子ってスタイルが良いのに「全然ダメ」とか理想を高く持ちすぎるんだよね。その点巴ちゃんはあんまり気にしてなさそう。

僕は巴ちゃんのような女の子の方が好感が持てる。

 

 

そんな会話をしている時に背後から視線を感じた。やっぱり気のせいじゃ無かったんだ。

それに複数人から視線を集めている気がする。

巴ちゃんは気づいてなさそうなんだよね……どうしたら良いんだろう。

 

その時、後ろから「きゃっ!」と言う女の子の声が聞こえた。巴ちゃんにも聞こえたらしく僕と巴ちゃんは声がした方向を見た。

 

そこには声を出したであろうピンク色の髪の毛の女の子が他の女の子に口を塞がれながら物陰に連れて行かれた。……なに、あれ。

 

突然の出来事に僕は唖然としてしまった。

もし事件性があるなら警察を呼んだ方が良いんだろうけど、女の子が女の子を連れ込んでいったなんて事件、今まで聞いたことが無かった僕はボーッと連れていかれるのを見る事しか出来なかった。

 

「何やってるんだ……みんなは」

「あれ?巴ちゃん、あの子の知り合いなの?」

「うん。知り合いって言うより……」

 

巴ちゃんは隠れて行った物陰の方にズンズン進んでいった。

僕も行くべきなんだろうか。そんな疑問が頭を支配しているけど、一人で帰ったら後で巴ちゃんに怒られそうだなと思って着いて行ってみることにした。

 

「アタシの大切な幼馴染だよ」

 

巴ちゃんの後ろを付いて行ってみると、そこにはばれてしまって乾いた笑顔を振りまいている4人の同い年くらいの女の子たちがいた。

 

 




@komugikonana

次話は5月3日(金)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにして頂いた方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価を付けて頂いた方々をご紹介~
評価10と言う最高評価をつけていただきました ちかてつさん!
同じく評価10と言う最高評価をつけていただきました 霧隠内蔵さん!
同じく評価10と言う最高評価をつけていただきました ジャムカさん!
同じく評価10と言う最高評価をつけていただきました かぁびぃさん!
同じく評価10と言う最高評価をつけていただきました 鐵 銀さん!
同じく評価10と言う最高評価をつけていただきました 柏ヶ崎 コアさん!
評価9と言う高評価をつけていただきました 猫魈になりたいさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました 詩記さん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました ゴリおさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました T-Kiさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました 石月さん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました せきしょーさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました 抹茶ドラゴンさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました しおまねき。さん!

そして評価9から評価10に上方修正して頂きました Miku39さん!
同じく評価9から評価10に上方修正して頂きました ジャングル追い詰め太郎さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!
始まってばかりですがこんなにたくさん評価を付けて頂きました。みなさんの期待に応えられるような作品にしていきますので期待していてくださいね!

~次回予告~
僕たちの後を付けていたのは巴ちゃんの幼馴染たちだった。巴ちゃんは幼馴染たちにどうしてついて来たのか追及していて、僕は……。
幼馴染の一人に僕たちの馴れ初めを聞かれて、巴ちゃんは真面目な顔で話す。

「正博がアタシらの大学にいたのを偶然見つけたのが馴れ初めだな」
これはやばい。

~感謝と御礼~
始まってばかりの「image」ですがたくさんの評価、そしてたくさんの感想を頂きました!読者のみなさん、本当にありがとうございます!
感想は気楽に書き込んでくださいね!時間はかかってしまうかもしれませんが必ず返信させていただきます。みなさんの感想、待ってます!!

では、次話までまったり待ってあげてください。

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