image   作:小麦 こな

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夕焼けとの出会い、そして夜に知る④

巴ちゃんたちのライブまであと1日と迫ったこの日。

僕は巴ちゃんに呼び出されて商店街のアーケードを潜る。もちろん待ち合わせ先は羽沢珈琲店。

 

巴ちゃんが「蘭と二人っきりで行けるなら、アタシとでも行けるよな?」と言う、友達付き合いが少ない僕には理解しにくい理由だったんだけど、巴ちゃんに誘われたんだからと二つ返事で了承した。

 

美竹さんに羽沢珈琲店に呼び出された日以降、巴ちゃんと一度も会っていない僕はなぜか初めて参加する合コンの直前のような緊張感を持っていた。

巴ちゃんと知り合って1ヶ月くらい経つからお友達として慣れてきているはずで、一緒にラーメンを食べに行った1週間前はそこまで緊張はしなかったのに。

 

多分、巴ちゃんにかけた電話の影響があるんだと思う。

 

 

あの電話の後、どうして巴ちゃんが急にかわいらしく照れたような声になったか考えていた。

その答えは1+1=2と言う解を出すようなスピードで解決した。

すなわち、すぐに答えが出たと言う事。

 

僕が巴ちゃんに言った言葉は、何というかこう、女の子を口説いているような言葉だったからだ。

巴ちゃんの方が魅力的だ、って言ったし巴ちゃんの方が女の子として素敵だって言おうとしていたんだから。

 

 

僕は夜のアパートの一室で顔を真っ赤にしたのを今も覚えている。

そしてどうして僕が無意識に巴ちゃんを口説いているような言葉が出たのか、と言う疑問も同時に湧いた。

 

でもその疑問は解決できない。

1+1=2と言う解を出すことは簡単だ。だけどどうして1+1は2なのか説明してよ、って言っても「だって2だから」と言う解答しか得られなく、だれも詳しい概念を答えられないのと同じだ。

 

 

「いらっしゃいませ!……あっ佐東君。こんにちは」

「あ、うん。こんにちは羽沢さん」

 

お店に入ると、元気いっぱいの声を出した羽沢さんに迎えられた。もちろんかわいい笑顔もついてきている。

僕は羽沢さんにブレンドコーヒーと、巴ちゃんが好んで飲んでいる飲み物を来たら出してあげて欲しいと伝えた。

料金は……結構きついけど、女の子の前ではなぜか格好つけたがるものだ。

 

「よっと……おっ、来てたか正博、久しぶりだなー」

「あ、と、巴ちゃん。久しぶり……」

「いらっしゃい、巴ちゃん!」

 

巴ちゃんはいつもと同じように僕に接してくれたんだけど、僕はガチガチに緊張してしまった。巴ちゃんはちょっとだけ不思議そうな顔をしていたけど、僕と正面に向かい合うような構図で席についた。

 

「明日のライブはこれを渡したら入れるから……どうした正博?」

「うぇっ!?あ、うん。なんでもないよ!ありがと!」

 

巴ちゃんはライブチケットを出してくれたんだけど、急に声が裏返ってしまった僕は動揺を隠したい一心で慌てて出されたチケットを取ってしまった。

 

なんだか人の持ち物をむしり取ってしまったような感覚でチケットを取ってしまった僕は恐る恐る巴ちゃんの方を向いた。

だって、普通こんな取り方すれば「嫌な奴」みたいなイメージを持ってしまうから。

 

視界をきれいな木目模様の机から徐々に上にあげていく。

 

春服からでも分かる、巴ちゃんの抜群なスタイル。

そして胸辺りから見えてくる、赤色の綺麗な髪。

僕の鼻をくすぐる、何のにおいか分からないけどとっても良いにおい。

そして僕の好きなにおい。

 

最後に、巴ちゃんの顔を見た。

 

綺麗に整った眉毛がちょっと上がり気味で、不思議そうな顔をして僕を覗き込んでいた。

 

彼女の透き通った青い目には悪い事をしてしまって叱られるのを待つ子犬のような顔をした僕の顔が見て取れた。

 

「そんな目で見ないでくれよ。なんかアタシが悪い事したみたいじゃんか」

「あ、巴ちゃんは悪くないよ!悪くないけど……そう見えちゃうよね。ごめん……」

「正博、最近なにかあったのか?アタシで良ければ話聞くよ」

「な、なにもないよ!ただ、この前の巴ちゃんとの電話で勝手に恥ずかしくなって……」

 

それで……、って言おうと思って巴ちゃんを見た。

 

すると巴ちゃんはさっきのような雰囲気では無く、口元をヘラッと緩ませてかわいらしい頬っぺたを赤くさせながら「そ、そっか」と言う彼女がいた。

 

普段のクールな彼女からは想像もつかないような顔に、僕は動揺を隠すことが出来なくなってしまい、顔全体を赤くしてしまった。

 

 

その時に僕の背後から「ゴンッ」と言う音が鳴ったから振り返ってみると、トレイを落としているにも関わらず、目を大きくさせて固まっている羽沢さんがいた。

幼馴染の羽沢さんでさえ、見た事の無い巴ちゃんだったのかもしれない。

 

「えっ、この二人って……」

「つ、つぐ。トレイ、落としてるぞ」

「え?あ、ごめん!洗ってくるねっ!」

 

僕は落ち着くためにブレンドコーヒーを飲んだ。

今日のブレンドコーヒーは口に含むと何故か甘い香りが口全体に広がっていった。

 

美竹さんと来た時は苦くて顔をしかめた覚えがあるのに、慣れって恐ろしい。

そう思いながら飲んでいたら、気づくと白いコーヒーカップの中身は空っぽになっていた。

黒いコーヒーの残り跡を残して。

 

 

 

 

巴ちゃんと共に羽沢珈琲店を後にした僕は、もうすっかり暗くなってしまった夜空を背景に巴ちゃんを家まで送ることにした。

 

巴ちゃんは「家は近くだから平気だよ」って言っていたけど、僕としては大学生と言ってもまだ10代の女の子が夜に一人で帰る事に不安を抱えてしまう。

だから近くでも最後まで送るよ、と伝えた。

 

近くと言う事は、巴ちゃんは商店街の近くに住んでいるのかもしれない。

だって商店街にお店を構える羽沢さんと幼馴染なんだから、そのような推理は容易い。

 

「なぁ、正博はどのあたりに住んでいるんだ?」

「え、僕は大学の近くにある学生アパートに住んでいるから遠くは無いよ」

「……と言う事は一人暮らしなのか?」

「そうだよ。そう言えば巴ちゃんには言ってなかったね」

「じゃあ正博はこの辺りの出身じゃないのか?方言とかないから実家通いだと思っていたよ」

 

巴ちゃんは暗い夜でも見えるような輝いた笑顔で僕に聞いてくる。

 

僕は一瞬だけ考えた。商店街の明かりで真っ暗と言う訳では無いけど、今の辺りの暗さなら見逃してしまうような、一瞬。

 

一人暮らしだと言う事になんの問題も無いのだけど、出身などを聞かれるとちょっと答えづらい。「方言」と言うワードをサラッと使ってくる巴ちゃんはやっぱり名門の女子大に通っているだけあって頭の回転が良いんだなって思った。

 

「えっと……僕の生まれたところはここから、1時間ぐらい電車に乗れば着く、かな」

「あれ?意外と近いんだな」

「う、うん。でも、1限目の為に朝早く起きて満員電車に乗るの、嫌だから……」

「あはは。確かにそれは分かるなー」

 

僕はあはは、とちょっとだけ乾いた声で笑う。

本当は乾かない、ちゃんとした笑いを巴ちゃんに見せたいけどそう言う訳にはいかなかった。

 

だって僕の言った言葉には本当の事と、ウソの事が混ざっているから。

いざとなった時にウソを言ってしまう僕はやっぱり弱い。美竹さんと約束したのに。

 

だ、だけど。これだけは言える。

絶対に巴ちゃんには……今の僕がそんな事を言っても説得力、無いよね。

 

「それじゃあさ、正博って何人家族なんだ?」

「えっ……僕の家族構成?」

「そ。家族構成」

「お父さんとお母さん、そして……お、お兄ちゃんの4人家族だよ」

「正博って次男だったのか!確かにお兄ちゃんかお姉ちゃんがいそうな雰囲気だもんなー」

「どんな雰囲気なの?」

「そうだな……引っ込み思案な所とか、大人しい雰囲気だな」

 

巴ちゃんに言われれば、そうかもしれないねって納得する自分がいた。

もちろん、世の中の次男はみんな引っ込み思案だ!とか言わないけど、どうしてか分かってしまう、イメージみたいなものだ。

 

そう、イメージ。

一度ついてしまったものを払拭するのはかなり難しい。

イメージチェンジ、なんて言葉があって外見を変える人はいるけど変わっているのは外見だけで中身はちっとも変わらない。

……中身が変わらないから、時間が経つと外見ももとに戻るんだ。

 

「ね、ねぇ巴ちゃん。聞きたいことがあるんだけど、良い?」

「もちろん、良いよ」

 

 

「巴ちゃんは、僕にどんなイメージを持ってる?」

 

 

綺麗に澄んだ、春の心地よい夜風がブルブルっと震えたような感じがした。

僕は立ち止まって、ボソッとだけど妙に耳に残るような声色で巴ちゃんに問いかけた。

 

ゲームで例えるなら、今まで陽気なBGMが鳴っていたのに、僕の質問を言った瞬間に無音になるような、そんな雰囲気が辺りを支配した。

 

「正博のイメージか……そうだな……」

 

巴ちゃんは立ち止まった僕の数歩先で同じように立ち止まった。多分、僕が急に立ち止まってしまったから隣に僕が居ないのを気づいて止まってくれたのだろう。

 

 

そこからの巴ちゃんに、僕は目を離せなかった。

 

彼女はくるり、と振り返って僕の目の前まで歩いてきてくれた。

その時の彼女はとても柔らかい表情で、僕はフカフカな毛布で包まれているような感じがした。

 

だけど巴ちゃんの口角は、イタズラ好きな女の子のようにかわいく上がっている。

 

「正博は素直で、一緒にいると楽しくなれる男であり、アタシの友達だろ?」

「と、巴ちゃん……っ!」

「あの突き当りにある家がアタシの家なんだよ。ここまで送ってくれてありがとな、正博」

 

巴ちゃんが家に入っていくのを見届けた。

 

僕の胸がズキン、と痛む。それも僕の異常なほどに速い心拍数に応じて。

足元もプルプルと震えているように感じて、バランスを保つのが難しい。

こんな感情になるのは、人生で初めてだ。

 

「もう、良いよね……巴ちゃん」

 

僕の右目から、一筋のしずくが頬を伝った。

 

 




@komugikonana

次話は5月15日(火)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにして頂いた方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価をして頂いた方々をご紹介~
評価9という高評価をして頂きました ケイローンさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからもこの小説の応援、よろしくお願いします!

~次回予告~
僕はいつも大学に行くときに背負っているリュックを背負って、ライブハウスに向かう。
ライブハウスに着いた時、僕はふと思った。
「……そう言えば、巴ちゃんの出番っていつなんだろ?」

そんな事を思っていたら僕の肩に誰かの手がチョンチョンと触れた。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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