駄菓子屋でガムと飴を箱買いしていくあの人 作:アヴァランチ
土曜日の昼過ぎ。今日もお客さんは少ない。休日だけど、子供が来るとは限らないのが現実だ。だから知り合いと話していても誰かに迷惑がかかる訳では無いんだけど……
「今度どこかに遊びに行こうよ~!」
「暇が無いから無理。店番とかあるから」
「久しぶりにお店に来たし、健一君と遊びに行きたい気分なの!」
「話聞いてる?氷川さん」
「いつも言ってるけど、日菜って呼ばないとややこしいでしょ?おねーちゃんと同じだし!」
「大好きなお姉さんとお揃いだよ。良かったね」
「健一君の意地悪……」
現在、氷川紗夜さんの妹さんである氷川日菜さんに絡まれてます。この人は話が途中でかなり変な方向に飛ぶので話半分で相手にするとちょうど良い。
「そう言えばあたしアイドルのオーディション受けようと思ってるんだ!」
「今回は話の飛び方がとんでもないね?予想外過ぎて……で、何でアイドル? 」
「なんとなく!」
「いつものだね。まぁそんな事だと思ったよ」
「あたしなら簡単に合格出来ると思うよ!」
「だろうね」
そう、彼女は天才だ。殆ど完全無欠に近い天才。1度見た物なら完璧以上にこなす。テストで満点は当たり前だし、運動だって出来る。絵に書いた様な天才。それが氷川日菜さんだ。欠点があるとすれば、何故か地図記号が覚えられない事と……他人の感情が理解できない事だ。
「合格出来るだろうし、デビューとか決まったら応援するよ。一応」
「一応なんだ……やっぱり意地悪だな~」
「これでもかなり好意的な接し方だと思うけどなぁ」
「ふーん、そうなんだ?」
「君の普段の話し方だって、意地悪と捉えられても可笑しくないんだよ?」
「あたしは別にその辺りは興味無いからなー。分かんないし」
「僕には意地悪だって言うのに?」
「健一君には興味あるから!」
彼女の判断基準は分からない。もしかしたら本当は基準なんて無いのかも知れない。誰も彼女を理解しようとしないから、彼女も他人を理解しようとしないのか?
「僕の何に興味があるのさ?」
「分かんない!」
「直感型って凄いよね。正直手に負えない」
「でも健一君はあたしの事は嫌いじゃないでしょ?」
「その辺りを察する事が出来るなら、後は切っ掛けがあれば何とかなりそうな物だけどね」
「アイドルやってれば切っ掛け出来るかな!?」
「僕はアイドルやったこと無いから分からない」
この辺りの話を気にするって事は、無意識の内に改善しようとはしてるんだろうけど、如何せん周りとの感覚が違いすぎる。はっきり言って僕も着いていけている訳では無い。
「じゃあ健一君もアイドルやろう!」
「無茶を言いなさる」
「やってみなきゃ分かんないよ?」
「僕は予測可能な未来だと思うよ」
アイドルの自分なんて想像すらできない。それどころか表舞台に立ちたいなんて思うことすら無かったし。
「ねぇ健一君」
「今度は何?」
「連絡先交換してよ!」
「店の看板に書いてあるよ」
「このお店の番号じゃなくて!健一君の携帯の番号!」
「僕の形態の番号なんて……第1形態に決まってるじゃないか。別に変化もしないよ?」
「分かりにくいボケをしないで!携帯電話の番号だよ!」
彼女はいかにも怒っている雰囲気を出しているが、全く怖くない。本気で怒っている彼女はこんなに優しくないし。
「僕はスマホ持ってないよ」
「えーっ?今時の高校生が?」
「いやー、家庭が家庭だから……」
「そっか……なら仕方無いね。お店に来れば会えるし諦めるね!」
「あ、そろそろスタミナ回復するから周回しなきゃ」
「さっさとスマホ出しなよ。優しく言ってる内に。今度ふざけたら……酷いよ?」
「すみませんでした」
僕はスマホを取り出した。アレはマジで怒ってる。しかし何で今更連絡先を交換するんだろうか。そもそもこんな事を言い出した事も無かったのに、それこそ店に来れば話は出来る訳だし。
「アイドルになったら、わざわざ駄菓子屋に入ってお店に居る男の子と長話してるなんて見付かったら面倒だもん」
「ああ、成る程。確かにそうだね」
「じゃあ連絡先も交換したし、あたしは帰ろうかな。あ、いつものガムとキャンディ2つずつちょうだい!」
「はいはい」
この前氷川さんが箱で買っていたのと同じ物を渡す。まさかとは思うけど、アレだけの量を数日間で消費しきった……なんて事は無いよね?でも同じ物を買ってるし……
「ありがと!じゃあね!」
「あ、うん……気を付けて帰ってね」
結局聞けなかった。氷川家のおやつ事情が気になり出した僕だった。
そして僕のスマホに登録された連絡先が1つ増えた。氷川日菜。彼女の姉である氷川紗夜さんの下の欄に新たに登録された。
Q 氷川家の1日のガムとキャンディの消費量を答えよ。
A とにかく沢山