【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】 作:ウエストポイント鎮守府
秋野幸次郎中佐:横須賀海軍工廠特殊艤装整備部門部長
篠原藤兵衛中佐:横須賀海軍工廠特殊生体整備部門部長
智東喜一大将:横須賀鎮守府司令長官
遠山優斗:川崎総合製薬研究所水棲生体研究員
艦娘一同
肘笠雨は東南東へ往く 前編
横須賀鎮守府海軍工廠特殊艤装整備部門の面々は神妙な面持ちをしていた。
「……んで、調査のほうはどうなんだ?」
「出てますよ。いつものシステムエラーです」
「そうか。……はぁー、もう分かんねぇなチキショー」
部長の秋野幸次郎中佐による大きめの溜息が静かな作業場に響き渡る。
「そんで、お医者さんのほうは何だって?」
「こっちと同じように出たようですね。高熱、関節痛、全身の倦怠感……インフルエンザに似た症状だそうです」
「やっぱりそうか……」
彼らの話しているものは海軍所属の人型特殊兵器、艦娘である。人類の生存権を脅かす深海棲艦と戦いで連戦連敗を喫したときに現れた艦娘は、日本海軍の傘下に入り、これまで対深海棲艦戦線を戦い抜き、日本の安全を確保し続けていた。
そんな戦争を5年以上続けていたある日、艦娘たちに異変が起こった。1週間に一度のペースで艦娘とその艤装に不明なエラーが発生し、システムに障害が起こるようになったのだ。
艤装整備部門で「お医者さん」と呼ばれていた同じ工廠にある特殊生体整備部門――艦娘本体を整備する部署――も、秋野中佐と同じように原因不明の症状に悩まされていた。
「とにかく明日までにプログラムを再インストールして、お医者さんの治療を待ってからいつものように調整するぞ」
「了解です」
「ったく……。こんな時に軍部は何考えてんだ?いきなり艦娘の編成を大幅に変えるなんてことしやがって」
「ホント、資料の引継ぎやらなんやらで忙しいったらありゃしないっすよ!」
「だいたいなんで佐世保の白露と時雨や球磨型の二人がこっちに回ってくるんだ?おかしいだろ」
「大陸のほうはもういいのかな?」
「大陸含めて南方まで進出したんだろ?なら次は太平洋だろうな」
「あんな広大な海で深海棲艦探すとか無茶しますねぇ」
「まぁ、俺たちゃ曲がりなりにも軍人だ。とにかく上の言うこと聞いとりゃいいんだよ。ほれ、仕事だ仕事」
「へーい」
「妖精さんも忘れるなよー」
艤装整備部門で作業が始まったころ、生体整備部門では艦娘の治療が行われていた。
「脳波微弱、意識戻りません」
「もう一度電圧上げて刺激を与えろ、再起動はまだだ」
「体温40.25度、まだ上昇します」
「アステルスロイン100cc追加投与。疑似体液油も忘れるな」
「高速修復材用意出来ました」
「今は治療が先だ。高速修復材は生理食塩水で希釈して患部に塗擦しろ」
治療台に乗せられているのは、最も被害がひどかった最上である。ただの損害ならば入渠するだけにとどまるが、この場合では例のエラーが彼女の体を蝕んでいるため早急な治療が必要になるのだ。とは言っても体を開いたりはしない。あくまで彼女らが持つ高い治癒力に任せるのが基本的な方法であり、生体整備部門の技官はその補助として治療を施すのだ。
PCから伸びるコード類が頭部や胸部に接続されている姿は何かしらの検査を受けている様子を彷彿とさせる。
「体温の低下を確認。脳波、心拍数が安定してきています」
「覚醒準備、慎重にな」
高速修復材の効果により体の傷が癒えると、本来持ち合わせている治癒力が効き始めてくる。コンピュータ側から覚醒用のシークエンスを送って数分もすれば、エラーはすぐに解消され問題なく目を覚ます。
「……う、あれ、篠原中佐? ここは……?」
「大丈夫か? 自分の名前は言えるか?」
「ボクは最上……、確か小笠原周辺の警戒に当たってて、大破しちゃって……」
「そこまで言えるなら大丈夫そうだ。念のため、入渠の前に検査をしておこう」
「じゃあ報告書は書いときますね」
「頼む」
「しっかしこれで最上は着任以来6回目のエラーか。結構な頻度だな」
「何か理由があるんでしょうかね?」
「さぁな。定期検査では何の異常も見当たらないし、正直お手上げだ」
「一回精密検査に回すように意見具申しましょうよ」
「これ以上の戦力の欠落はしたくないがなぁ……」
そんな良くない空気が流れている横須賀鎮守府海軍工廠を尻目に、軍令部は北太平洋方面の制海権奪還のためトラック泊地や大湊警備府からミッドウェー島への進軍を決定した。
一大攻勢のために投入される戦力は戦艦重巡が計10隻以上、水雷戦隊も鎮守府防衛に残された艦隊以外のほとんどが参加することになっている。
そしてこの作戦には日本海軍連合艦隊も加わることになった。汎用巡洋艦である
もちろん反対意見も出たが、南太平洋と南方海域を奪還した実績の前には勝てなかったらしい。それに、同盟国アメリカとの交信が途絶えてから数ヶ月たったこともミッドウェー島進軍の理由の一つである。
通信が発展した現代で交信が出来なくなることはあり得ないことであり、原因は一切不明だ。深海棲艦の通信妨害兵器が登場したとの噂も流れているが信ぴょう性はない。
もともと日本とアメリカは対深海棲艦戦線において兵器開発などで協力体制にある。人類の叡智をかけて対深海棲艦兵器の速射砲やミサイルの開発を共同で行ってきたが、艦娘が登場してからはこちらの開発に力を入れていた。
さらにアメリカへ艦娘関連の技術供与もされていて、近くアメリカ製艦娘が完成するとのことだった。そこで技術士官を乗せたJNS鞍馬と共に艦娘を代表して多摩が訪問しに日本を発ったが、運悪く通信途絶に巻き込まれてしまい、現在も安否は不明である。
軍令部が重大な決定をした翌日、精密検査を受け終わった最上が艦娘寮に戻ってきた。その顔は若干の疲れが見えていた。
「ただいまー。ようやく解放されたよー」
「やっと帰ってきたか」
「お疲れ様です」
彼女を出迎えたのは横須賀鎮守府所属第一艦隊第七戦隊の摩耶と鳥海である。かなりの頻度で医務室に担ぎ込まれる彼女を出迎えた二人は、最上と同じ第七戦隊に編成されているため寮が同室になっている。
「今日の治療は少し早かったな」
「今回は症状が軽かったらしいよ」
「まったく、航空巡洋艦が欠けると艦隊が大変になるんだぜ?」
「摩耶達はそのための防空要員でしょ?」
「へっ、よく言うぜ」
「ふふっ」
最上と摩耶の掛け合いを尻目に手元の本を読んでいた鳥海は、ふと一つの疑問を口にする。
「そういえば最上さんはそんな病弱ではなかったはずですよね?」
「うおっ、鳥海がしゃべった」
「ちょっと摩耶?」
「あっははは……。でもそうだね、ボクあんまり病気になった記憶がないような……」
「そもそも艦娘は怪我はしても病気にはならねぇだろ」
「そうね、病気になるのは本来あり得ないこと。だからこそ謎です」
「謎って、それは言い過ぎじゃねーか?」
「あり得ないことが現実に起きているということは、そこに何か原因があるはずです。もしかすると病気になるには一定の条件があるのでは……」
「出たよ、鳥海の悪い癖」
「ふふっ。じゃあボクはちょっと寝るよ。一晩中検査はさすがに堪えたなぁ」
「おっおい、アタシを置いていくな!」
数日後、最上と篠原中佐は秋野中佐のいる海軍工廠のある埠頭に来ていた。やることはもちろん、最上の艤装の調整である。
第四工廠の作業場の奥には、秋野中佐とともに最上の艤装と妖精さんがいた。
「やっと来たか」
「秋野中佐、いつも迷惑かけてごめんね」
「これが仕事だからな。早速作業に取り掛かろう」
最上は自分の艤装を背負うと、自分の脳波と同期して艤装の操作を開始する。その艤装はプログラムを一度リセットし、再インストールしたものであるため使い勝手が違う。それを秋野中佐がPCを使って微調整を行っていく。
調整作業はものすごい勢いで進む。これはひとえに妖精さんのおかげでもある。
妖精さんの持つ艦娘に対する技術というものはまさに超技術の類いであり、艤装が本人と同期できたり人が直立で水面に立ったりといった物理法則を無視したものも、全て妖精さんがいるからこそ出来る芸当なのだ。
そのため最上本人と艤装の双方が円滑な動作をするように妖精さんがある種の仲介役となってやり、秋野中佐はエラーを生じさせないようにチェックするのがいつものやり方である。
「うーん、出力の上がり方が遅いかな? もう少し敏感に出来る?」
「了解、動力伝達の値を7.5上げる」
「うん、いいね。後は主砲と偵察機の調整もしたいな」
「分かった。軽く数値をいじったら公試に出るぞ」
「公試の前に一度簡易検診したい。いいか?」
「はいはい。わかってますよ、お医者さん」
最上の休憩がてら、篠原中佐が簡易検診を行う。この場では身体には特に問題はないようだ。
軽く水分補給をした後、最上は艤装を装着して公試のために鎮守府正面の湾内を走る。
秋野中佐はPCを開き、最上の艤装の状態をリアルタイムでチェックしだす。篠原中佐は最上の様子を双眼鏡を使いながら眺めていた。
埠頭で二人の男が無言でたたずむ。お互いの仕事の関係上、あまり不仲でいるのはよろしくないのだが、彼らの性格が自然とそうさせていた。
しかし、その静寂を打ち破ったのは秋野中佐のほうからだった。
「なぁ、篠原さん」
「なんだ?」
「仕事柄こんなこというのはおかしいかもしれないが、俺は彼女たちのことを娘のように思っている。彼女らが出撃するときは無事に帰ってくることを祈り、何事も無く帰ってきた時はホッと安心するし、怪我して帰ってきたときは全力で治す。それが何となく娘を思う親の気持ちに思えるんだよ」
「私は独身だからなんとも言えないが……」
「そうだな、これは俺が勝手に思ってることだからな。だからこそ思うところがある」
「と、言うと?」
「今回軍部がミッドウェー島に進軍するらしいじゃねぇか」
「日本海軍の威信をかけて深海棲艦に勇猛果敢な一撃を与える……だったか」
「だがな、どうもいけ好かねぇ部分がある。鎮守府防衛のために残した艦娘以外はほぼ全員前線行き。そのまま進軍を続けてハワイの奪還、アメリカ西海岸までの航路を確保するという無茶苦茶な作戦。正直軍部は浮かれてるとしか言いようがねぇ」
「だから作戦には反対ですって意見具申でもするのか?」
「バカ言え。俺のような人間に軍部がまともに取り合うわけがあるか。……俺たちは軍人だ、上の言ったことに従うだけ。ただ一人の人間として思っただけだ」
「……いつものあんたらしくないな」
「なんとでも言ってろ」
再びの沈黙。遠くで波しぶきが一つ立っているのが見える。
そしてまた言葉を発したのは秋野中佐だった。
「そういや篠原さんはどうなんだ?」
「何が?」
「彼女らのこと、どう思ってるのかって話」
「……さぁ?」
「さぁってお前……」
「秋野中佐は艦娘のことを娘のようだといったな」
「そうだな」
「私は対話可能な兵器だと思っている」
「……あんた俺より技術者っぽい思考してるな」
「秋野中佐こそ、我々に近い考えをお持ちのようだ」
会話が途切れると秋野中佐は慌ただしくPCを操作する。それを見た篠原中佐は持っていた双眼鏡で水平線を見た。そこには公試を終えてこちらに戻ってくる最上の姿があった。
ミッドウェー島への進軍を主目標とした北太平洋制海権奪還及び米国との航路確保のための軍事行動、通称「景号作戦」が発動された。
連合艦隊が特殊艦隊――艦娘で編成された艦隊を収容した輸送支援艦を護衛している中、当の本人たちはさほど危機感を感じている様子はない。
「なんか緊張するなー」
一番緊張感のない口調でいうのは、自称最新鋭軽巡の阿賀野である。
「阿賀野姉、そのまま寝ないでよね」
「矢矧ひどーい!阿賀野そんなことしないよっ」
「だったら作戦説明の時に寝そうになったのは何かしら?」
「あ、あれは……」
「ほんと、阿賀野さんは妹を困らせるのが得意ね」
横からちょっかいを掛けてくるのは同じ第十九艦隊に所属する霞だ。
「もー! なんで阿賀野が悪いみたいになってるのー!」
「実際そうだからでしょ」
「でも霞ちゃんもたまにあるわよねー」
「ちょっ、荒潮姉さん!?」
「おしゃべりはそこまでにしなさい。私たちは夜間奇襲攻撃に出るんだから、少しでも寝ておかないと」
「むうー、阿賀野が旗艦なのに矢矧が仕切ってるぅ」
「阿賀野さんはそんな柄じゃないですし、いっそ旗艦変わっちゃえばいいんじゃないですか?」
夕張が阿賀野に対し痛烈な一言を吹っ掛ける。
「もー! 皆してひどいよー!」
景号作戦が実行に移されたころ、秋野中佐は横須賀鎮守府の司令長官室を訪れていた。
ドアをノックして司令長官室に入室した秋野中佐は、窓の外を眺める男性に礼をする。
「海軍工廠特殊艤装整備部門の秋野幸次郎であります。本日は貴重な時間を作っていただきありがとうございます」
「いや、礼には及ばんよ」
そう言って男性は秋野中佐のほうを振り返る。
彼こそ横須賀鎮守府の司令長官、智東喜一大将である。
「それで、重要な話とはどのようなものか?」
「はっ、昨今艦娘の間で発生している原因不明のエラーのことです」
「それは知っとるぞ。軍令部のほうでも無駄話の話題になる程度にはな」
「それに関して、一つ意見具申を致したく参りました」
「ほう、申してみよ」
「単刀直入に言いまして、横須賀鎮守府内に艦娘のエラーの原因を究明する対策室を設置してほしいのです。海軍工廠のほうでも原因を追究するため独自に調査を進めていますが、どうしても手が足りずに難航しています。そこで海軍艦政本部から研究員を派遣してもらい、これをもって原因を突き止めたいと思う所存であります」
「なるほど……、一理あるな……」
「ですので、ここは司令長官からもお力添えをお借りしたいと存じます」
「ふむ、言いたいことは分かった。ならば秋野部長にはその対策室の室長をやってもらおう」
「な、え……!」
「いやかね? ではこの話はなかったことに」
「いえ! ですが自分は特殊艤装の整備もあるので兼任となると……」
「無理もなかろう。……実際は軍令部はそんなこと気にしていないのだよ」
「はぁ……」
「艦娘にエラーが生じても、君たちがなんとか対処して問題なく活動している。軍令部はそれで良しとしている節があるのだ。おそらく私から何を言っても聞く耳を持たぬだろう」
「しかしそれでは!」
「わかっておる。これが艦娘全体に影響を与えるものなら早急に対策を立てねばならんだろう。だからこそ、秋野部長に対策室の室長をしてもらいたいのだ。勝手を知るもので集まったほうが分かることもあるだろう」
「では!?」
「私なりに話が分かる人間を集めよう。秋野部長のほうでも必要な人材がいれば話をしておいてくれ」
「はっ!」
秋野中佐は踵を返し、勢いよく部屋を飛び出していく。その姿を見届けた智東大将は一つ大きな溜息を吐き、早速準備にかかった。
鎮守府庁舎と工廠の中間くらいにひっそりと建つ、乾ドッグに似た艦娘出撃用埠頭にある倉庫のような建物。そこの会議室に横須賀鎮守府に所属する第一艦隊の面々と司令長官たる智東大将、他数名がいた。
「緊急招集をかけてしまって申し訳ない」
「大丈夫だよ、提督」
智東大将の言葉に時雨が反応する。ほかの艦娘も同様の意見だった。
「本日集まってもらったのは、出撃の話ではない。むしろ逆である」
智東大将の言葉に、彼女たちは面食らった。
「本日1500時より横須賀鎮守府所属第一艦隊の出撃を無期限禁止とする」
「し、司令官さん!? 何を!」
「なんで出撃できないのー?」
「提督、北上さんの活躍が見られないようにするのはどういうことかしら?」
「やめなって大井っち」
「まぁ、君たちが文句をいうのも無理はないだろう。詳しくは彼が話してくれる」
智東大将の紹介で出てきたのは秋野中佐であった。脇には分厚いバインダーを抱え、彼女らの前に出る。
「えー、今回第一艦隊の出撃停止を司令長官に頼んだのは自分だ。簡単な説明になるが、艦娘に起こる謎のエラーを解明するために横須賀鎮守府にいる艦娘で原因を探りたいということだ」
「でも、今のところ特に問題はないけど……」
「エラーが発生している時点で問題なんだ。本来ならこれを解消するのが先決なのだが、今はあいにく大規模作戦の真っただ中でな。これに充てるリソースが足りてない状態だ。よって俺が対策室の室長を兼任することになった。あとは有志によって運営することになる」
「私としても、謎のエラーで艦娘が行動不能になるのは由々しき事態だと考えておる。初期に発生したエラーに対して艦政本部は対策と原因を探ったが、結局一切不明で終わっていて、一時的な緊急処置として実施した艦娘への薬剤投与と艤装プログラムの再インストールが常態化しているのは問題だと思っとる」
「これの被害がどれだけになるかがまったく分からない。作戦行動中の特殊艦隊の半分以上がエラーによって動けなくなってしまっては、それだけで現場は大混乱だ。俺がもう少し早く決断していれば、景号作戦の一時凍結もあり得たかもしれなかったがな……」
秋野中佐は少しばかり悔しそうに唇を噛む。その思いは彼女たちにも届いたようで、会議室に重い空気が流れた。
その中で口を開いたのは篠原中佐である。
「そういうわけだから、しばらくの間出撃はない。私も対策室の一員として参加することになったから気が済むまでとことんやるつもりだ」
「……だそうだ。俺からは以上、あとは指示があるまで寮で待機」
こうして横須賀鎮守府での原因究明が始まった。
ミッドウェー島より西に約100km、北西ハワイ諸島の末端に位置するクレ環礁の南方15kmのところは既に前線と化していた。
景号作戦の主力部隊である第十一艦隊。旗艦大和以下、武蔵、長門、陸奥、妙高型4隻を擁する艦隊は航空支援のもと、最前線にて砲撃戦を行っていた。
「主砲、撃て!」
大和の46サンチ砲から撃ち出される砲弾はほぼ水平の弾道をとって重巡リ級へと命中する。これによりリ級は大破になるが、安心している場合ではない。
深海棲艦側も主力のようだが、そこには戦艦棲姫と空母棲姫の姿があった。この2体の凶暴性は、詳しく知らないものも恐れるほどのものである。
後方には第一航空艦隊に所属する赤城、加賀、飛龍、蒼龍が航空攻撃をしているものの、空母棲姫の攻撃はすさまじいものだ。
「第二次攻撃隊発艦急いで!」
「戻ってきたのは半分だけね、敵に不足はないわ」
「やだやだやだぁ! なんであんなに攻撃が通らないのよ!」
「友永隊も苦戦してるわね……、もっと攻撃隊を出さないと……」
そんな彼女らの上を何本もの白い筋が伸びていく。
日本海軍の汎用巡洋艦が発射した対深海棲艦用兵器、SUM-3Aクラスターミサイルだ。通常のミサイル同様、VLSから発射される母弾は目標の近くまで飛翔し、内臓されている小型のミサイルが放出される仕組みである。放出された子弾は、前線にいる艦娘の妖精さんによってセミアクティブ方式で終末誘導が行われ、深海棲艦へと向かう。
一見非効率に見える兵器でもあるが、目標が人間程度の大きさでは通常ミサイルでは大きすぎる上、命中しても小破程度にしかならないため結果として数で押すのが最善の選択肢であった。
クラスターミサイルは第一航空艦隊の上空を通り過ぎ、砲撃戦が行われている前線まで飛翔する。深海棲艦まで1kmというところで母弾のカバーが外れ、中から複数のミサイルが母弾の速度を生かしトップスピードのまま飛び出していく。子弾は前線にいた長門の妖精さんにより終末誘導を受け、勢いよく戦艦棲姫に向かっていった。
しかし戦艦棲姫もただでは食らわない。自身の対空砲を用いて、押し寄せる子弾の波を撃ち落としていく。
だが小型ながらもミサイル、その速度には追い付けずに何発か取りこぼしている。それらが戦艦棲姫へと命中し、体が爆炎で包み込まれた。
この程度では大したダメージを負っていない戦艦棲姫。黒煙が晴れるのを待って攻撃しようと艤装を構える。しかし、まだ煙が晴れない状態で突っ込んでくる何かが突っ込んできた。
「逃がしはしない!」
武蔵による急な接近。それに対応するにはあまりにも時間が短すぎた。
「主砲、一斉射!」
至近距離からの砲撃。もちろん戦艦棲姫が無事でいられるわけがなかった。
「ギィャアアアア!」
耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。これには相当なダメージが入ったようで、戦艦棲姫の動きが鈍る。
それでもただではやられまいという意地なのだろうか。瞬時に艤装を動かし、武蔵に向けて砲撃をする。これが武蔵を掠り、小破となってしまう。
「グッ! だがこれしきのこと!」
武蔵は戦艦棲姫から距離を取りながら砲撃を続ける。後方上空からは次の攻撃機隊が攻撃準備に入っていた。
日が沈んだ後、一部夜戦に突入した艦隊はあったものの、無事にクレ環礁周辺の制海権奪還に成功し、つかの間の休息に入った。
この間に艦娘は特務工作艦のJNS敷島で応急修理が行われる。そのため環礁の周辺では日本海軍の汎用巡洋艦が警戒に当たっていた。
「いやー、小破は多いと思ってましたけど、ここまでとは……」
JNS敷島で艦娘の修理を担当している明石が愚痴をこぼす。工作艦の艦娘である彼女は、もちろん前線なんかには出ず、もっぱら修理専門として作戦に参加している。
しかしながら作戦行動中以外の艦娘を相手に、明石一人で相手にできるわけもなく、各鎮守府工廠の技官たちが揃って修理を行っていた。
「でもよかった、大破は山城だけで」
「不幸だわ……」
「いやいや、あれだけの深海棲艦相手に轟沈無しなんて運がいいですよ」
「やっぱり私なんてその程度の艦娘なんだわ……」
「げ、元気出してくださいよ山城さーん……」
明石は明朝から開始される作戦のため、夜通し修理に励むことになった。