【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】   作:ウエストポイント鎮守府

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2話 【√鈴谷】

 6時限の授業が終わり、和也は荷物をまとめて帰路に着く。今日の委員会はないため、さっさと帰ろうと思ったのだ。

 昇降口から出た直後、後ろから聞いたことのある声が和也を引き留める。

 

「カーズヤンっ、一緒に帰ろっ!」

「鈴谷……。あだ名で呼ぶのやめてって言ってるよね?」

「ブー、けちんぼ」

 

 鈴谷は頬を膨らませる。

 

「はいはい、ケチですよ」

「……一生守るって言ったじゃん」

 

 鈴谷がボゾッと一言零す。

 

「なんか言った?」

「なーんでもないっ」

「あっそ」

「あ、そうだ。今日カズヤンの部屋行っていい?」

「急だな」

「ねぇ、いいでしょ?」

「はぁ……、嫌だって言っても来るんだろ?」

「まぁね」

「しょうがねぇなぁ……」

「あざーっす!」

 

 そういって鈴谷は和也の腕に抱きついた。

 

「ちょっ、鈴谷!?」

「いいじゃんいいじゃん♪ それとも何? 恥ずかしい?」

「そりゃあ、恥ずかしいよ……」

 

 確かに恥ずかしいが、鈴谷の笑顔を見てしまったら無理やり引きはがすのもはばかられるものだ。

 二人はくっついたまま、和也宅へと向かった。和也は家の鍵を取り出し、玄関の鍵を開ける。

 

「今日おばさんパートだっけ?」

「あぁ、今日も8時くらいまで帰ってこないな」

「ふーん」

「飲み物持ってくから、俺の部屋行ってていいよ」

「そうするー」

 

 鈴谷は階段を上がり、二階にある和也の部屋へ向かった。和也はペットボトルのお茶とコップ二つを持って自室に行く。

 自室のドアを開けると、鈴谷は漫画が納められた本棚を眺めていた。

 

「ねぇ、カズヤン? 『群青のエース』の続きある?」

「ない」

「買ってきてないの?」

「最近財布の紐が固いからな」

「むー……、ほかの読も」

 

 鈴谷は不満そうな顔をする。ないものはないのだから、きっぱり諦めてくれと和也は思った。

 和也は持っていた荷物を全部置き、そのままベッドへ倒れこむように横になる。

 

「そこ鈴谷が使おうと思ってたのに」

「今日は疲れたし、もう眠い。ちょっと寝るわ」

 

 目をつむって数分もしないうちに、和也は眠りについた。

 


 

 和也は夢を見ていた。とても懐かしい記憶のような夢。

 幼少期によく遊んでいた近所の公園。和也はそこのアスレチックのそばにいた。

 アスレチックの一番高いところには大人一人分が入れる程の小さな空間がある。そこからすすり泣く声が聞こえてきた。和也はそこに上ってみる。外から覗いてみると、どこかで見たことある、薄緑色の髪をした小さな女の子が泣いていた。

 そこに同じ年と思われる男の子が、女の子目指して一目散に上ってくる。この時和也のことなど、まるで空気のごとく無視していった。

 

「やっぱりここにいた」

「ぐす……えぐっ……」

 

 男の子は何も言わず、女の子の横に座る。

 しばらく二人は並んだままでいた。その間も、女の子はしゃくりながら静かに泣き続けている。

 

「……ねぇ」

 

 静寂を破ったのは女の子のほうだった。

 

「やっぱりすずやって変なのかな?」

 

 一部声が聞こえない。しかし、それが女の子自身のことを指していることは和也には理解できた。

 

「全然、そんなことないよ」

「ぐすん…、ホント?」

「ほんとだよ。僕はすずやのこと変だとは思わない」

「でも……、また笑われたらどうしよう?」

「その時は僕が守る。ずっと守るから」

「……絶対?」

「絶対」

「約束だよ」

 

 そう言って女の子は小指を出す。男の子も小指を出し、指切りを交わした。

 


 

 ふと目が覚める。

 和也は何かひどく懐かしい夢を見たような気がした。

 

(……何だったんだ?)

 

 ふと窓の外を見る。太陽はすでに顔を隠し、夕焼けが名残惜しそうに空を赤く染めていた。

 和也は今の時間を見ようと体を動かそうとする。しかし、腕に何かがまとわりついているような感覚があり、うまく動くことができない。和也が何かと思ってふと頭を動かすと、あるものが目に飛び込んでくる。

 それは和也の腕を抱き枕のようにして眠る鈴谷の姿であった。

 

「す、鈴谷!?」

「すぅ……」

 

 その寝顔は、まだ子供のようなあどけなさを残しつつも大人の女性に近づいている印象を持たせる。まじまじと顔を見た和也は、何か胸の奥に来るものを感じた。

 

(鈴谷が可愛く見える……)

 

 和也は今まであまり意識してこなかったが、鈴谷はまさに美少女を体現したような容姿をしている。

 今更ながら鈴谷のポテンシャルの高さに気が付いた和也は、なぜだか鈴谷の顔から眼を離せずにいた。

 

「……いつまで見てるの?」

 

 ふいに鈴谷が声をかける。

 

「起きてたのかよ」

「そんなに熱い視線を送られちゃね」

 

 鈴谷はいたずらっぽく笑いかける。

 彼女の行動に和也はふいと顔をそむけた。意識しだした途端に彼女のことを直視できなくなったのだ。

 

「ほほーう?どうしたのかなカズヤくーん?」

「うっさい」

「ほれほれ、こっち見んしゃい♪」

 

 悪い笑顔をしながらニヤニヤと近寄ってくる鈴谷。そのまま顔をこっちに向かせるように手を伸ばしてきた。

 

「てか、なんで鈴谷が俺の横で寝てたんだよ」

「だって鈴谷も寝たかったしぃ」

「だからってさ、普通は男のいるところで寝るか?」

「カズヤンだからへーきだよ」

「そうじゃないだろ……」

 

 和也は別の質問をすることで、話題を反らそうとしたつもりだったが、そんなものは関係なく鈴谷は接近してきている。すでに彼女は、頬を紅く染めていた。

 ほんの数秒が、とてつもなく長く感じる。鈴谷の動作一つ一つが止まっているようだった。

 ゆっくりと、鈴谷の手が和也の頬に触れる。その手は和也の存在を確かめるかのように、静かに肌を撫でていく。

 

「す、ずや……?」

「カズヤ……」

 

 いつの間にか両手が顔を左右から挟むようにして添えられている。二人はすでにベッドの上に座り込んでいて、鈴谷はさらに体ごと和也に近づけていた。

 鈴谷の体がある程度まで近寄ったとき、まるで待っていたかのように素早い動きをする。その動きで体は密着し、そして唇も重なり合った。

 

「っ!」

 

 和也は驚きのあまり固まってしまう。鈴谷が自分とキスしているという事実が和也の頭の中を支配していった。

 和也に体を預けるように近づいた鈴谷。グッと体重をかけていたこともあり、和也を下にするようにベッドへと倒れこんだ。その時になって、ようやく二人の唇は離れた。

 今、鈴谷が和也の上に覆いかぶさるような体勢になっている。鈴谷の高揚とした目が、ジッと和也の瞳を捉えていた。

 

「鈴谷、お前寝ぼけてんだろ……?」

 

 和也としては、こんな鈴谷を見たことがなかった。ましてや自分に対して恋心を抱いてるなんてことはあり得ないに等しい。和也はそう思ったのだ。

 

「そんなんじゃないし……。鈴谷は……」

 

 和也の考えを否定した鈴谷は、一瞬のためらいを見せると、一筋の涙を流す。

 

「ちょ、え?」

「……ごめんね」

 

 鈴谷が一言だけ謝ると、彼女は和也の首に腕を回し、再び唇を重ねる。

 二度目のキスに、和也はまた驚いてしまう。和也は彼女がここまでする理由を尋ねたかったが、一心不乱に和也を求める姿を見てしまうと、どうしても拒むことができなかった。

 また長いようで短い時間が過ぎ、また二人は離れる。だが、鈴谷は和也にべったりとしたままだ。

 

「……ごめんね」

「なんで謝るんだよ、理由があるなら話してくれ」

 

 鈴谷は視線を外したまま、若干震えた声で訳を話す。

 

「……鈴谷はさ、小さいときにイジメられてたじゃん?」

「あぁ、そうだな」

「その時さ、よくカズヤが助けてくれたり、慰めてくれたよね?」

「そう……だったな」

 

 和也の頭の奥にある、かすかな記憶。幼少期から、他人とは大きく異なる容姿を持つ鈴谷はいじめの対象になりやすかった。それを身を挺して守ったのが和也である。

 この時和也は思い出した。さっきまで見ていた夢のことを。忘れかけていた記憶の一つ、鈴谷を守るという約束である。和也は忘れかけていたが、鈴谷はずっと覚えていた。今まで鈴谷の中で抑えていた感情が、この時になって爆発したのだ。

 

「鈴谷……」

「カズヤぁ……」

 

 もはや余計な言葉はなかった。和也は手を鈴谷の頭に乗せ、やさしく撫でる。鈴谷は顔を和也の胸にうずめ、彼のぬくもりを感じる。今の二人にはそれだけで十分だった。

 一体それだけの時間がたっただろうか。それだけ二人は二人だけの時間を共有していた。

 目と目が合う。それを合図にするように、何度目かの口づけをする。その時だった。

 

「ただいまぁ!」

 

 和也の母親が帰ってきたのだ。二人は急に現実へと戻された。

 

「やべぇ!母さん帰ってきた!」

「ちょ、待ってカズヤン!」

 

 そのあと母親に見つかるも、何とかごまかした二人であった。

 翌日、学校に登校する和也。その後ろから、聞き覚えのある声が近づいてくる。

 

「ちーっす、カズヤン!」

「その呼び方はやめてくれよ、鈴谷……」

 

 いつも通りの会話だったが、和也は内心緊張していた。昨日のことを思い出せば、簡単に彼女のことを見ることなどできないからだ。

 

「……ーい、カズヤンってば!」

「な、なに?」

 

 鈴谷に呼ばれ、反射的に顔を向ける。その瞬間、鈴谷が軽いキスをする。

 

「……え?」

 

 和也は、その行動に一瞬戸惑った。

 それを見た鈴谷は小悪魔っぽく笑う。

 

「いっひひー!昨日のお返し!」

「なんだそれ……」

 

 和也は、なんとなく笑みがこぼれてしまった。いつもの彼女がいたからだ。

 いや、彼女は少しだけ違っていた。

 

「カズヤ、好きだよ」

 

 初恋の彼から、少しだけ勇気をもらった彼女がそこにいた。

 

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