【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】 作:ウエストポイント鎮守府
死亡シーンが書いてて一番楽しかったです。某銀河を金髪小僧が統一する作品のOVAを書く前に見てたらこうなりました反省しません。
そこら辺にいる兵と同じように、コロッと死んでいく艦娘すこ。
ただG36の描写はもうちょっと書きたかった。あの機構はなかなか面白い。
「リシュリュー、前方に敵影多数。推定一個中隊以下。工廠を漁っているのと基地警備隊と交戦している者がいるみたいよ」
「ありがとう、矢矧。引き続き支援をよろしく」
矢矧との通信を終え、埠頭そばの破壊された軽装甲機動車の影からオイゲンと共に工廠の様子を伺う。艤装を取れればと考えていたけど、甘かったようね。まだ六百メートル離れている為、細部までは捉えられないがかなりの人数が、それこそ六人では相手しきれない程の敵がいた。
「ゆー、しおい。そっちはどう?」
「んーとですね、多数の徽章なしの民兵と少数の……陸軍兵? 部隊まではともかく、え、何ゆーちゃん」
「あれは……確か南方方面軍の戦闘服です。インドシナ半島や太平洋諸島向けの迷彩服を来ています。装備は見慣れないですが、最近では日本でしか手に入らないような物が結構あります」
最初から民兵とか程度ではないと思っていたが、まさか陸軍の反乱でも起こっているっていうの? フランス軍の反乱や将軍達の反乱みたいな、それよりも酷いことが?
「グラーフに伝えたいけど……繋がるかしら?」
グラーフの個人回線にコールをかけると意外にも直ぐに繋がった。
「やあ、リシュリュー。ちょうどいいタイミングだな。さっき官舎一階の無線増幅器を手に入れたんだ。おかげでノイズは酷いが一応繋がる」
通信先で銃声が聞こえ、P90の軽い連射音が響いた。
「すまない、で何かあったのか?」
「これは日本陸軍の反乱みたいよ。南方方面軍の戦闘服を着た兵が確認できたわ。部隊までは確定できないけど装備からして日本軍であることは間違いないわ」
「なんてこった、まさか反乱とは……。提督が死なないよう祈ってていてくれ。必ず救援する」
「了解、こっちも頑張って艤装を手に入れるわ」
グラーフが満足そうな声を漏らすと唐突に通信が切れた。コールをかけたが今度はコール自体がかからない。通信妨害が強化された? 試しに矢矧にもかけるがダメだった。増幅器をここまで落としながら来たのにも関わらず。
「ダメね。短距離は……鈴谷聞こえる?」
「聞こえるよー。中距離無線死んだの?」
「ええ。しかも目の前にいるのは日本軍よ」
「あー、それはさっきオイゲンから聞いたよ」
「ならいいわ。そのまま建物の影に沿って……」
「見つかりました!」
工廠の方を見ていたオイゲンが叫ぶと同時に声を上げ、彼女は銃撃を行う。G36のキャリングハンドルと一体化した三倍スコープを覗き込み二人を殺ったが雨のような激しい銃撃を受け身を引いた。
「っち、しおい、ゆー。今のうちよ、急いで! 鈴谷と熊野は今の位置で初めて」
軽装甲機動車の残骸に銃弾が当たる音に負けないよう叫ぶ。私自身も残骸の影から射撃を行うが、如何せんショーシャ軽機関銃は射程が短い。ポーランド製密造SMGのブリスカヴィカもだ。牽制程度にしかならない。しおいとゆーがこっそり工廠に入って行くのが見えた。無事に、できるだけ早く、戻ってきて。鈴谷と熊野が射撃位置に着いたらしく熊野のSG510の射撃音が聞こえた。これなら……。
大雨の中、雨宿りするように身を隠すオイゲンに声をかけこっちを向かせた。
「オイゲン、一斉に」
刹那、今までとは違う方向から7.62mm弾の少し重い射撃音が聞こえたかと思うとオイゲンの頭が消え、赤いものが飛び散った。いや、違う。
「ひっ、オイゲン!」
彼女の首に銃弾が走り、彼女の首を容易く引き裂いた。頭が飛んで力なく彼女の体はこちらに倒れ大量の血を吐き出す。目をそらすと彼女の転がった頭が見え、綺麗なその顔はあっけにとられてただただ宙を見ていた。無駄だと知りつつその頭に手を伸ばすと再度銃声が聞こえ右足太ももにハチに刺された様な鋭い痛みが走った。
「ギャ、Sniper!?」
撃ってきたと思わしき方向を見ると四百メートルと離れていないビルの上に人影があった。
「熊野、情報隊ビルの屋上に狙撃兵、殺って!」
即座に放たれた銃弾で人影が消えた。私は基地警備隊の死体から拝借したファーストエイドキットを使い、痛みを耐えながら止血を行う
「今……ワンダウンですのよ。もう一人は多分矢矧さんに先を越されました。それで……大丈夫ですの?」
「オイゲンが
止血帯をバンテージで補強して応急処置完了。モルヒネは、意識が混濁するからやめましょう。ショーシャ軽機関銃を再度構え牽制射撃を実施したが数発撃つとジャムった。
「また、って、ああ」
どちらかの血液が弾倉に付着していた。これが原因で……。敵との距離はまだ三百メートル、短機関銃の使える距離ではないので死んだオイゲンのG36を使わせて貰う。目を逸らしてからできる限り死体に目をやらなかったが、彼女の銃はその下にある。
「ごめんなさい、オイゲン。借りる……わよ」
死んだばかりの生暖かい死体を慎重に動かし、血塗れのG36を手に取る。戦友の亡骸の重みに戸惑い、言葉が詰まるが悲しんでいる暇は無かった。仲間の死を受け動き出した鈴谷が敵の横手の建物から射撃している。が、手榴弾を投げ込まれ後退した。
まだ数十人はいる敵は足を止めることなくこちらに向かってくる。G36を構え射撃をするが今度は左手に被弾し銃弾の衝撃をG36で受け止めてしまい銃が弾け飛び、私は倒れた。身体を右手で起こし左腕を引き摺りながら軽装甲機動車の残骸に座ったままもたれる。傷口は非常に大きく骨が砕け、応急処置ができるなら切り落とされているだろう。そんな余裕は無いけど。出血は止まることなく、私は片手でもなんとか撃てる、9x19mmパラベラム弾を使うブリスカヴィカ短機関銃を胸に抱き通信をした。
「鈴谷、熊野。私は逃げきれないから撤退して。時間は稼ぐわ」
「そんな、置いていけるわけない!」
「そうですよ。傷ついている仲間を、工廠に行った二人の為に」
「……できる限り時間を稼いで。っ、出血多量で意識が朦朧としてきた。後でグラーフに伝えて」
話しながら片目で後ろの敵を伺うと手榴弾を投擲しようとしていた。私は力を振り絞り投擲者を投げる直前で殺り、ピンを抜かれていた手榴弾は転がって彼の同胞を死傷させた。代償に右手首に銃撃を受け手が吹き飛んだ。そこからも血が溢れ、私は体に力が入らず地面に倒れ込んだ。足の止血も充分じゃなかったのか血が流れる感覚がある。もう視界は歪みぼやけ、何を見ているのかすらわからない。徐々に寒くなっていく意識の片隅で何か聞こえた気がした。
迎えが来たのかしら?
*
ここの工廠の中は整備区画や製造、建造区画といった整理しないと行けない場所以外は乱雑に資料やよく分からない箱が積み重なっている。でも今日は整理されている場所も非常に散らかっていた。
「しおい、死体があるから気をつけて」
「りょーかい」
二人の潜水艦娘が敵が現在進行形で漁っている工廠の中に忍び込んでいた。目指すは工廠内の注水した乾ドック内に停泊している潜水艦娘母艦、哨戒艇《おおわし》内にある彼女達の艤装。襲撃された時刻は、まだデータを回収している段階で整備区画には移されてないだろうと踏んでこっちに向かっている。
「ゆー、四時に敵の見回り。こっちには来てないけど気をつけて」
「了解。進もう」
U-511が短機関銃のスオミを構え、伊401がリボルバー、レイジングブルを片手で持って小柄な身体を活かし物陰を慎重に進んでいく。銃を構えているとはいえ敵地のど真ん中、艤装を手に入れる前にバレたり撃ったりすれば……結末は見えている。
「0時に背中を向けた敵、タバコを吸っている模様。邪魔だから片付けようかと、ただ死体をどうする?」
「近くに机があったからその下に隠せばいいんじゃないかな。二個向かい合ってるから上手く入れればいいと思うよ」
ゆーは頷くとスオミをしおいに預け、今まで以上に慎重に、かつ素早く歩いた。小柄な敵は無警戒で、恐らくここがいい感じに死角になりやすい奥まった場所であることを利用してサボっていたようだが、それが命取りとなる。ゆーは敵の背後に立つと右手を振り上げ、首に手刀を振り下ろした。なんとも言えない音が聞こえ敵の体から力が抜け倒れこむが、ゆーは左手で受け止める。しおいが机とセットの椅子を静かにずらてゆーが持ってきた死体を中に入れる。最後に椅子を戻して片付けは完了した。
「ん、近くの銃声が止んだ?」
「もしかしたら……。急ごう」
工廠付近での銃声が止んだことに気が付き、ゆーはしおいを急かす。死んだかもしれないとは口に出さなかったが、二人の目には悲しみの色が僅かに浮かんでいる。ここから哨戒艇までの道程は特に危険もなく、目立った敵もいなかった為順調に進んだがあと少しという所で、敵が見えた。
そこは角を曲がった先がすぐ哨戒艇という場所だったがしおいがこっそりと伺ったところ十人近い敵兵が哨戒艇へのタラップ入り口と甲板上にいるのを確認した。
「どうする? 手榴弾でも投げる?」
「投げちゃってもいいと思うけど、あの人数はきついと思う。艇内に何人いるかわからないし、スオミのドラムマガジンでも殺りきれない」
「レイジングブルじゃあきついけどモシン・ナガン貸してくれれば援護するよ? ボルトアクション・ライフルなら九九式小銃を扱ったことがあるし」
「ならモシン・ナガン貸すから援護して欲しい。手榴弾投げるから炸裂したら甲板の敵を撃って」
「わかった。頑張るよ」
しおいがモシン・ナガンを受け取りスリングベルトを首にかけた。ゆーはM24柄付手榴弾を取り出して投げる角度とタイミングを測っている。艦娘の頭脳は演算能力を中心に艤装なしでも一般的な人間よりも性能がいい。補助演算装置でもある艤装があれば魚雷の命中射角や砲弾の動きなども一瞬で求められるがそれが無い上、最も効果が出るよう炸裂タイミングまで考えていたため少しだけ時間を掛けた。最も、それはいい方向に働いた訳だが。
工廠外に回されていた精鋭部隊の一つがが哨戒艇内部を目指して来たのだ。ゆーがそろそろ手榴弾を投げようと中腰になったタイミングで。
幸運にもゆーを見るために振り返っていたしおいが先に気が付いた。
「敵!」
しおいはモシン・ナガンを撃ちながらゆーを押し倒した。銃弾が彼女達の上を流れしおいが応射する。ゆーは咄嗟に手榴弾を新手の方に投げスオミを構え連射した。敵は反応する前に9x19パラベラム弾をまともに受け一人が死に、残りは手榴弾に気づいて隠れた。
しおいは機転を利かせて予備で持ってきた発煙手榴弾も投げ敵がいた通路を白リンや五酸化二リンで塞いだ。このような狭い空間では白リンの毒性や五酸化二リンの化学火傷を警戒して近づけ無いはずだ。ゆーが持っていたもう一個は哨戒艇側に投げ隙を見て進もうと考えていた。
自動小銃の連射音が聞こえ再び頭を下げる。敵は彼女達に逃げ場はないと考え通路の奥から煙幕越しに乱射してきた。跳弾の音が多数聞こえただただ隠れるしか無かった。十秒ほど続いたあとしおいがゆっくり顔を上げると別の場所に隠れたゆーが動いていないことに気がつく。うつぶせに倒れる彼女の顔あたりから出血していることも。
「ゆー!」
モシン・ナガンを投げ捨て彼女の方に走った。跪いて肩を掴み仰向けにさせると……綺麗な彼女の顔は銃弾を受け潰れていた。眼球が顕になり深い場所ではぐちゃぐちゃになった脳漿が見える。
「そん……な」
しおいは血が引く感覚と腹の底から湧き上がる激情を受け、レイジングブルを握りしめ立ち上がった。まだ晴れぬ煙幕越しに.454カスール弾を全弾、五発叩き込んだ。破片手榴弾と発煙手榴弾を続けて力一杯投げリロードしたレイジングブルを撃つ。しかし、奮戦叶わず飛んできた破片手榴弾に脇腹を切り裂かれた。衝撃で彼女は投げ飛ばされ腸が傷口から出てきた。もはや戦意を喪失し、動転した彼女した彼女は逃げるしか無かった。
「私の……腸が……逃げ……なきゃ」
傷口から出る腸を抱え血痕を残しながら、ふらふらと哨戒艇があるドックの方に向かっていった。そこにいた敵は既に別の場所に行ったのか誰もいなかった。徐々に腹が冷え体が重くなって行く感覚を感じ逃げるために必死に注水されている乾ドックに向かっていった。悲しきかな、彼女は潜水艦娘にとっては当然の反応とも言える潜水による退避を試みている。腸が出ている状態で海に落ちるとどうなるのだろうか。
「やっと、逃げれ……る」
しおいは倒れ込むように数メートル下の海面に落ちていく。軽い音を立て海面が波立つ。
少しすると水面には血が広がっていた。
*
私は今、P90を持って背中を壁につけ角の先の廊下に居る敵をこっそり伺っている。外であった戦闘の影響か官舎内にいた敵はどれも
「ガングート、行ってくれ」
ガングートがこちらから見えない場所からナガンM1895を撃ち敵が一人倒れた。かかったな、彼女の方をむいた隙に私がP90の連射力で薙ぎ倒す。
「クリア!」
私の言葉を受け、アクィラが前進し私がフォローをする。敵がいた場所の扉を慎重に開ける。開いた途端に中から銃弾が出てくるがアクィラは流れるように前転し回避。構えたマテバオートリボルバーに敵は眉間を撃ち抜かれた。
「警備員室確保!」
外や階段を警戒しているサラトガとタシュケント以外の面子に向け叫ぶ。改めて室内を見渡すと警備員の死体二つと、破壊された電話や長距離無線機が目に入った。死体は兎も角、電話と長距離無線機が破壊されているのは気がかりだった。ここにいた兵が使うと思ったのか、それとも私達のように敵に使われたく無かったのか……。比較的電子戦に長けたヴェルが警備員室内のコンソールに取りいたが、電源すらはいらず何も出来なかった。
「死んでるね、どれ……電源付近に銃弾。多分流れ弾かな。修理は無理そうだ」
「ここの基地内無線機はどうだ? 繋ぎ方しだいでは増幅器としても利用できると思うんだが」
ヴェルは頷くと取り出したデータパッドから出ている端子を基地内無線機と繋ぎ接続を試みる。その間、私はアクィラとガングートに先程から天井付近が騒がしい為、掃討を頼んだ。自分自身はP90の残弾を確認して、適当に警備員室内を見て回った。コンソールを壊したのは恐らく5.56x45mm NATO弾で、撃ったのは……敵が持っていた簡易生産型89式小銃。警備員の死体は……奇襲による銃撃か? いや、片方は刺殺か。銃殺された方は銃創周辺の服が焦げているから銃口を押し付けられてっというところか。となるとここは執務室襲撃よりも早く殺られた可能性があるな。警備設備が機能不全に陥ったところで攻め込んだのかもしれない。ここら辺の事情を知っている奴か敵に聞ければいいが期待はできない。ついでにここにあった閃光手榴弾を拝借する。射撃場の弾薬と違って備品だけど有事だし死んだ者にはいらない者だから問題ないはずだ。
「グラーフ、できたよ。鎮守府内無線は繋がる」
「そうか、よくやった」
「ただ、こっちの無線機能はほぼ死んでて一種の増幅器として扱う事にしたから音質は保証できない」
「つまり、私の無線を使えばいいんだな?」
「そうだね」
ふーむ、これで陽炎やリシュリューと繋がればいいが……む、リシュリューからか。丁度いい。
「やあ、リシュリュー。ちょうどいいタイミングだな。さっき官舎一階の無線増幅器を手に入れたんだ。おかげでノイズは酷いが一応繋がる」
ふと、天井で何かが動いた気がして右手に持っていたP90を天井に向け連射した。衝撃で天板が外れ血塗れの敵が天板諸共降ってくる。処理をヴェルに任せ、私はリシュリューとの通信を優先した。
「すまない、で何かあったのか?」
「これは日本陸軍の反乱みたいよ。南方方面軍の戦闘服を着た兵が確認できたわ。部隊までは確定できないけど装備からして日本軍であることは間違いないわ」
反乱だと、個人的にはどこかの武装組織と軍人崩れあたりの襲撃かと──それだとここまで上手くいくとは思えなかったが──考えていたが……。
「なんてこった、まさか反乱とは……。提督が死なないよう祈ってていてくれ。必ず救援する」
「了解、こっちも頑張って艤装を手に入れるわ」
思わず、息を漏らすと唐突に無線が切断された。面食らってヴェルの方を振り向くと彼女は苦い顔をしている。
「通信妨害を強くしたみたいだ。部隊用の短距離はいいとして、鎮守府内無線は敵の妨害電波でこれ以上を求めるのはきついだろうね」
「三階の執務室隣の通信室の機器ならどうだ? かなり強力なはずだが」
「そっちだと……鎮守府内どころか救援を呼べるぐらいには強いよ。破壊されて無かったら外と通信をとってもいいと思うよ」
襲撃時に救援要請が出されていれば既に、守山か富士あたりから部隊が来てもおかしくないがヘリのローター音は一向に聞こえない。横須賀か市ヶ谷あたりはそろそろ情報ネットワークの異常あたりから気づいてもいいが……。
「少々危険だが外と通信をしたい。市ヶ谷か横須賀が気づく可能性に賭けるのは危険すぎる」
「そう、行こう」
ヴェルが立ち上がりデータパッドをしまってトカレフを持った。私は他の四人に通信をして階段前に集まるよう求める。私とヴェルは階段からやや遠い位置だったため着いた時には既に集まっていた。
「よし、三階を目指すぞ。提督や陽炎達は恐らくここにはもう居ないと思うがなにか伝言は残しているはずだ。それと通信室を確保し、救援要請を送信する。下手するとこれが第一報になるかもしれない」
「居ないのになんで執務室を目指すんだ? 秘書艦代理と提督との取り決めか?」
ガングートが尤もと言える疑問を口にする。
「ああ、この鎮守府には極秘のシェルターが幾つかある。それ以外にもここが普通の港湾だった頃に使われていた地下道や排水管とかがごっちゃに混ざっていが、そのどこに向かったという伝言が執務室にあるはずだ」
なるほど、と彼女はいうとやる気を示したいのかPKPを担いで自信ありげな顔をする。サラはソワソワしているがどうせトンプソンが撃ちたいだけだから放っておくとして、アクィラの表情が気になった。
「アクィラ、なにか気になることでもあったのか」
「……こうも、こっちの敵が少ないから工廠組が大丈夫かなって思いまして」
「それは……確かにそうだな。尚更通信室を確保する必要性が高まった。急ごう」
アクィラは他にもなにか言おうとしたが、口を閉じた。私も声を掛けようとしたがかける言葉が思い浮かばず、階段に向かった。
ガングートとサラトガに援護を頼んで階段を先頭で登り、登り切る手前で閃光手榴弾を投げた。目と口を閉じ耳を塞いだことで閃光手榴弾の影響をできるだけ低くし、炸裂した直後、P90を持って二階に駆け登った。
手前に閃光手榴弾を受けた敵が二、奥に構えている敵が一。閃光手榴弾の閃光を見たと思うが距離故かこちらを確認している。私は少しでも避けようと伏せ、体勢的にやりやすかった手前を殺した。奥の奴が銃口をこちらに向け撃ち出す前に次に来たサラトガが速攻で撃ち殺した。
「クリア。サラ、ちょっと撃ちすぎじゃないか?」
私は通路の奥を警戒しながら言った。サラは仲間を手招きし、残弾の減ったトンプソンのドラムマガジンを交換する。
「やっぱり、ばら撒くのが楽しくてですね。というか、なんで奥の敵を先に殺らなかったの?」
「サラがやってくれると信じていたからさ」
これを言ったら何故かサラトガに苦笑された上、アクィラに蹴られた。げせぬ。二階の掃討にサラとガングートを残し、タシュケントを先頭に三階に登る。閃光手榴弾を投げ突入する彼女を援護したが、誰もいなかった。全く居ないのは流石に無いだろうと考えて、ツーマンセルで警戒したが、敵と職員の死体以外はいなかった。執務室の扉は開け放たれていて反対の壁には多数の銃痕と攻撃手榴弾が、炸裂したあとが見えた。どこかの窓が空いているのだろう、消炎臭い微風が頬を撫で離れた場所の銃声がときたま聞こえる。ヴェルとタシュケントと通信室側、私とアクィラで執務室側を警戒し、進んだ。壁に背を当てゆっくりと執務室内を確認すると荒れ果てた様子が目に入る。アクィラが先行し、横倒しになっている机の裏になにかいないか確認し部屋を確保した。通信室側からも同様の報告が入る。
「グラーフの予想通り誰も居ないですねえ」
アクィラは沢山落ちていた9x19mm弾薬莢のひとつを手に取りながら言った。私も足元に落ちていた.380APC弾の薬莢を手に取る。
「計画通り陽炎と不知火が提督を避難させてくれたのかもしれないな」
確かここにイングラムM11があったはずだからそれの薬莢だろう。すぐ側に5.56x45mm弾の薬莢が落ちているあたり提督と陽炎か不知火が撃ったのか? イングラムM11は緊急時に提督に渡す手筈だったし、それと89式小銃、サブアームに9mm機関けん銃があったはずだ。となると、提督と陽炎か? 9mm機関けん銃は不知火がサブでよく使っていたし、陽炎は9mm拳銃派だからアクィラの方で不知火は戦っていたんだろう。じゃなきゃあそこまで薬莢はばらまかれない。
さて、伝言はあるかな。微妙にひねくれてる陽炎の事だし、どうで机の裏に同化させて……あった。机の裏板と同じ色がプリントされた紙が貼ってある。破らないように慎重に剥がし文面を確認した。
「ふむ……」
「あれ、グラーフ見つけたんですか。何が書いて〜あるんです?」
「ああ、これはちょっとした暗号文だ。秘書艦だけに口頭で伝わるやつなんだ」
ちょっとした? とアクィラに言われたが、私は知らない。全て陽炎と不知火の思いつきだから。
「ちょっと待て、どこだこれ。地図は……あった」
見慣れない場所が書いてありどこにあるかわからなかった為、横倒しの机から鎮守府内地図を引っ張りだす。
「職員宿舎はここだろ、射撃場はここ、娯楽設備がここってことは……ここか?」
暗号文には射撃場方向に最近作られた倉庫の一角が示されていた。この倉庫は近い位置に艦娘の旧式艤装を収納する予定で立てられたそうだ。が……。
「予算や工事にも何もおかしな所はなかったが、シェルターも作られていたのか」
秘書官代理の仕事で見た書類を思い出す。ここから行くと射撃場から行くよりは近いが、ほぼ中間地点であるはずだ。地下に無数に張り巡らせてている古い配管を通れば敵にバレずに、且つ私達とすれ違わずここに行けるはずだ。狭い配管に六人で入るのを危険視したため地上を通ったが、こういう事になるとは……。仕方ない。今から向かうとすると……多少残弾が不安だが、行けない位置ではない。
顎に手を当て考えているとタシュケントが私を呼びに来た。
「グラーフ、通信準備ができたってよ。同志曰く秘書艦代理直々に通信してくれだってさ」
「わかった。すぐ行く」
伝言が書かれた紙をマグが入っていたポケットに入れて隣の通信室に向かった。執務室と違って窓がないこの部屋は薄暗く、少しジメジメしていた。壁には多数のモニターがあるが半分は、鎮守府内のは消えていた。
「鎮守府内ネットワークはサーバーが電源を切られたか、破壊されたかでもう使えない。それと有線も。ただ電力はまだ来ているから無線通信は行ける。暗号化は本来のに加えてできる限りするけど期待はしないでくれ」
「ヴェル、それだけでも充分だ。ありがとう」
ヴェルが投げてきたヘッドセットを受け取り通信員席──本来座るはずの者は傍に横たわっていた──に座る。ヴェルがコンソールをいじり周波数を調整し、サムズアップをしてきた。
最近、全く操作していなかったので操作方法を忘れかけていたが、記憶の奥から引っ張り出して、マイクのスイッチを入れた。
「横須賀鎮守府司令部へ、こちら中部鎮守府秘書艦代理の航空母艦グラーフ・ツェッペリン。基地通信室より通信中。当基地は武装組織及び日本陸軍と思わしき部隊に襲撃を受け現在戦闘中。既に艦娘及び基地要員に甚大な被害が発生した。早急に救援を要請する。どうぞ」
「こちら横須賀鎮守府司令部通信士。詳細を述べよ。どうぞ」
「1430ごろ敵が襲撃。以後鎮守府内ネットワーク及び無線、有線が遮断されたと思わしき。艦娘は十名がCIWSの掃射を受け生死不明。工廠を敵が確保している。提督は現在秘書艦と共に避難中だが正確な所在は不明。非常に不味い状況だ。どうぞ」
横須賀はやはり状況を掴んでいなかったか……。ヘッドセットの先で物音がして接続先が切り替わったようだ。
「こちら横須賀鎮守府秘書艦大淀です。秘書艦代理グラーフ・ツェッペリン、暗号コードをどうぞ」
「2b6e1Z641Yqs2JWC1qKz07Cy1qWh1r
+E1oGy07Kw。G.Z.1917」
「了解しました。救援を手配します。そちらは」
「伏せて!」
アクィラの叫び声が部隊無線から聞こえ私は頭を抱え床に身を投げた。激しい爆発音と衝撃が何度も響き渡り建物が歪んで通信機のモニターが幾つも割れ液晶が飛び散った。ここまでの威力を出せる攻撃……建物に爆弾でも仕掛けてあったのか? と机の下に移動しながら考えていると、下の階にいたガングートから通信が入った。
「76mm砲だ! 奴らDEの76mm砲を撃ってきてる、逃げろ!」
76mm砲か。それなら納得できるが、DEの戦闘員は全滅したか。
「大淀、DEから砲撃を受けた! 離脱する!」
返事も待たずに私はヘッドセットを投げ捨て、度重なる攻撃で揺れて今にも崩れそうな通信室を飛び出した。一瞬階段を使うことも考えたが、アクィラが率先して攻撃を受けている側とは反対側の窓をマテバオートリボルバーで割って飛び降りた。ちっ、選んでいる暇はない。
「ヴェル、タシュケント、先に飛び降りろ」
前を走っている二人を押して私は近くの窓をP90で撃った。走りながら撃ったため多くは周辺に外れたが、数発があたり窓が割れた。
タシュケントが先に飛び降り、ヴェルが出た辺りで後ろが崩れてきた。私は大きな揺れに足を取られ転けそうになるが、踏ん張った。こんな所で死んでたまるか、というどこかで聞いたセリフを思い出し途中で転ける危険性も放り投げ全力で走る。窓枠が歪み始めた、ヤバい。ちっ、どうにでもなれ! やや窓まで距離があったが私は床を蹴り窓に飛び込もうとした。ややゆっくりと進む時間の中で床が崩れ始めるのが見え、天井から落ちてきたであろう破片が時折見える下の階に落ちていった。チクリと何かが刺さった感じがすると、いつの間にか外にいた。
前に進むことを優先した私に上手いこと着地する余裕なんてなく、頭から落ちていく。視界の片隅では崩れゆく官舎に入り、脱出したという実感が湧いた。
僅かな時間で手を前に出すが姿勢は変えられなかった。艦娘の身体なら怪我程度で済むかもしれないと考え、怖くなって目を瞑る。
硬い衝撃を受けると思って身構えたが、衝撃こそあったものの感じたのはやわらかさだ。予想外の事に目を開けると朱色の服が見えた。
「……アクィラ?」
私の下で潰れそうになっている彼女が目に入り、慌てて飛び起きる。大丈夫か、と彼女に声をかける。
「グラーフが危なかったからつい……私は大丈夫ですよ」
「怪我はないか?」
私は手を差し出し、彼女を引き起こした。パッと見、どこにも怪我はなく彼女は問題ないことを示すように手足をブラブラさせる。よかった、無事だったか……。安堵すると左腕に痛みが走った。無意識に右手で痛みが走った場所を抑えると鋭い痛みを感じ慌てて手を離す。黒い手袋に血がベッタリついた。
一体なぜ、と考えていると先程脱出直前に痛みを感じたことを思い出した。その時に破片かガラスで切ったのかもしれない。
アクィラが心配してファーストエイドキットからワセリンガーゼを取り出し袖を捲って私の上腕の傷口に貼り付けた。包帯を巻きつけている頃には二階にいたり周辺を警戒していたりしていた四人が戻ってきた。
包帯が巻き終わりアクィラの心情を表すかのようにテープでキツく固定される。
「傷は大丈夫?」
「HK417を構える際は注意がいるだろうが、そんなに問題ないと思う。切り口が綺麗だったから治りは早いと思うが……これ以上悪化しないことを祈るばかりだな」
アクィラを安心させようといつもやられているよしよしを彼女に左手でやりかえす。
こそばゆいような表情を浮かべ私の手を払ってきた。これで安心して貰えたかな。
「これは……グラーフ、さっき君が大淀と通信している時に微弱ながらリシュリュー隊からの通信を確認したんだ。増幅したのがこれだ」
引き剥がすかのように右腕をタシュケントに捕まれデータパッドを突きつけられた。もうちょっとぐらい撫でたかったなと悠長なことを考えていが、そんなことは吹き飛んだ。
「こちら熊野、リシュリュー隊壊滅。鈴谷と射撃場に後退します。敵に日本陸軍がいます。気を」
ここで通信が途切れた。
「聞こえたのは一回だけ。砲撃のせいで最後まで聞く余裕も、返信時間もなかった」
リシュリュー隊壊滅か……。鈴熊以外いなかったことを考えると、四人は。クソっ。それに陸軍が関わっていたとは。
「……」
悲痛な沈黙に包まれ、私は目を閉じた。悲しんでいる暇は無い、やるべき事をなすことを優先しなければ。
「各自弾薬はどうだ? 私はP90を撃ちすぎてしまった」
「私はあんまり使ってないがサラトガとタシュケントあたりが消耗が酷いんじゃないか?」「トンプソンを結構撃っちゃったので残りマグが二個とだいたい三十発ぐらいだわ」
「同志、私もAK-74Sのマグが残り三個。正直心許ない」
私のもP90のは結構使ってしまった。取り回しが言い分、閉所では使いたくなってしまう。
「執務室で得た情報だが、提督はここから射撃場寄りにある新しい倉庫の一角にいるらしいことがわかった。今からそこに向かうつもりが、ついてきてくれるか?」
「もちろん、たとえAKの弾が無くなっても
タシュケントがマカロフを掲げ、サラトガがM1911A1を掲げ手で回した。
「サラも
アクィラとガングート、ヴェルに視線を向けると各自が頷き、武器を構えた。戦意は充分にある。敵が先を越さないうちに救援に行こう。
そんなことを考えていると射撃場の方で今まで以上の大量の銃声が聞こえてきた。