【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】   作:ウエストポイント鎮守府

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タイトルから感じるネタバレ臭


投了

射撃場側のやや高い建物の上、そこにアイオワ隊の四人は陣地を構えていた。雪風は自前の双眼鏡で周囲警戒を、ウォースパイトは一つ下の階で階段を見張っている。矢矧とアイオワは九七式自動砲とM2HB-CQB(各々の得物)を使い警戒したり、リシュリュー隊の援護をしていた。そう、していた(・・・・)のだ。

 

「鈴熊は見えた?」

「No. 敵もここを警戒してか出てこないわ」

 

リシュリューと通信が途絶したあと、二人は撤退している鈴熊を目撃して追跡している敵目がけ九七式曳光徹甲弾と12.7x99mm弾の雨を降らせていた。その結果、こりゃ堪らんと言わんばかりに敵が建物の影に逃げ出して今に至る。鈴熊はその後、DEが停めてある埠頭付近で雪風が一瞬だけ見つけ、行方知らずだ。

DEが官舎を砲撃していた時には艦橋と後部のCIWS目がけて射撃を行い、穴だらけになったのを確認している。前部の76mm砲は角度の関係で撃てなかった。

その後は特にこれといって敵を見つけられず、ただ索敵をする時間だけが流れる。

ここ以外の場所に移ることも考えたが正直、自動砲と重機関銃持ちを二人で護衛するのはキツイとのことで居座って警戒を強化、具体的には下層の階段に手榴弾を用いたブービートラップを仕掛けることで妥協する。一番余裕のあるウォースパイトが嬉々として仕掛けた。

グラーフからアイオワに救援を要請した、提督を救援に行くという知らせが届いく。それを聞いていた雪風が漏らした。

 

「よかった、これでなんとかなりそうですね」

「Uh huh. そうね。……ん、グラーフ。もう一回言って? Really? Oh my GOD! (英語の罵倒」

 

突然の変化に矢矧と雪風がアイオワの方を振り向き、無線を繋いでいたウォースパイトが何が起きたのかと問いかけた。

 

「リシュリュー隊が鈴熊を除いて壊滅したって……」

 

矢矧が歯を噛み締めながら、コンクリートを拳で叩いた。雪風は衝撃で目を見開き、建物内にいたウォースパイトは天を仰ぐ。過去の経験の為かはいざ知らず、衝撃から直ぐに回復した雪風は口を開いた。

 

「そんな、一体どうして。リシュリューさん達も戦闘は上手いのに……」

 

雪風の言葉を遮るようにアイオワが手のひらを彼女に向け(ストップをかけ)通信に集中する。

 

「敵にJapan Armyが含まれているって。それ以上は聞き取れなかったらしいわ」

 

日本陸軍、正体不明の敵の一部にあろうことか同じ国の軍人が含まれていた。流石にこの事実に復讐に燃えていた矢矧も一瞬だけとはいえ唖然とする。

 

「つまり私達は内乱に巻き込まれているってこと? 旧軍時代よりはマシな関係の陸軍が相手ってことなの?」

「グラーフ曰くそうだって」

 

アイオワはやるせない気持ちになり、南北戦争開戦時もこうだったのかしらとよくわからない本国史の内乱を頭の片隅で考える。ウォースパイトは個人的に一九三九年年六月三十日に思いを馳せ、日本艦の二人は当然2.26事件を思い浮かべる。

 

「こんなこと、許せないわ。絶対に復讐してやる」

 

矢矧はそういうと目に浮かんだ涙を拭き取り、己の自動砲に取り憑いた。一瞬でも、一部分だけでも敵が見えたら撃ち殺してやるという気迫を感じたアイオワも重機関銃のグリップを握りしめる。

射撃場近くの倉庫の方で銃声が聞こえた。そこそこ背の高い建物がビルと倉庫の間にあるため目視こそ出来ないが激しく戦っているということを感じ取れる。雪風が見に行きたがっていたが、矢矧に止められる。重火器を放置して利用されるのは困ると言われ雪風は若干落ち込む。

何も動きが見えないまま数分が経過した後、下の階で爆発が起きた。

爆発が二度起き、反射的に屋上にいた三人は伏せる。矢矧とアイオワは一〇〇式機関短銃とSCAR-Hをそれぞれ持ち、階段の方に目をやった。

 

「敵が侵入、一個目は恐らく敵の。二個目は私が仕掛けたブービートラップよ」

 

ウォースパイトがそう通信してくる。過去のWWⅡ後期西部戦線、ベトナム戦争などでよく取られた手法を彼女は即席で真似て仕掛けていたが、上手くかかった。

 

「とりあえず階段付近で防衛線作るけど、持ってきた手榴弾も無限じゃないから援護が欲しいわ」

 

また一つ爆発音がしながら女王様はこう言う。味方が引っかかるのを覚悟して、少なくとも艦娘なら彼女の性格を理解してこういう防御陣地化された建物に堂々と正面からは入ってこないだろうと。流石にアイオワはどうしてこういう思想になったのかと頭を抱えた。

 

「待って、私が行くわ。機関短銃なら近距離でも戦いやすいし。そこまで行くのにブービートラップはある?」

 

矢矧が名乗り上げ、手袋の縁を引っ張った。

 

「まだ仕掛けてないわ。材料作っているところで襲撃されたし」

「わかった、今」

 

彼女が喋りながら腰をあげたその時、ちょうど彼女の方を見ていたアイオワは後ろ、官舎などがある鎮守府中心部方向で何かが動いたをの見た。いまいち距離感の取れないそれは秒速八〇〇メートル以上の速さで近付いてきて、約二千ジュールのエネルギーを矢矧の頭に対して発散する。

艦娘の骨格が人間のそれよりも強いのが災いした。硬い頭蓋骨によってエネルギーの多くを吸収されたが、それは同時に銃弾の衝撃がそのまま脳に来るということである。ブレインバーベキューでさえ真っ青になるような勢いで彼女の脳はシェイクされ、受け止めきれなかった銃弾が頭蓋骨の反対側に突き抜け、きつい放物線を描きながら落ちていった。脳が消し飛んだ彼女は、彼女だったものは仰向け倒れ動かなくなった。

 

「えっ」

 

アイオワの顔に、ピンク色の液体が掛かっていた。彼女は震える手でそれを触り矢矧に目をやった。狙撃手?

 

「矢矧さん!」

 

雪風が叫び、彼女の肩に触れるが割れた脳を見て顔を背け吐き出した。

 

「なに、何があったの」

「矢矧、矢矧が殺られたわ。頭を一発。私が援護に行く」

 

アイオワは既に下で戦闘を開始している女王様に答え、雪風の背中を摩った。

 

「雪風、しばらくゆっくりしてていいから。しっかりして」

 

彼女はしゃがみながら、階段に入りウォースパイトが戦っている三階の階段付近まで来た。彼女はロイヤルダブルライフルとC96、持ってきた手榴弾を上手く使い分けていて二階から三階に上がる二個の階段のうち一個を破壊した。そちらには何かあった時のためにいくつかのトラップを仕掛け手はいるが彼女曰く不安らしく、アイオワはそっちに向かった。

SCAR-Hを持って慎重に階段に顔を出すと有り合わせのもので階段の穴を越えようとしているのが見え、射撃する。7.62x51mm弾を受け二人が穴に落ちていく。

当然ながらその後ろにいた敵から銃撃を受け隠れる。まだ手榴弾があるとはいえジリ貧だと悟ったアイオワはグラーフに救援を仰いだ。

 

「グラーフ、こっちに敵襲。結構な数が来ててジリ貧よ。救援に来れる?」

「今向かう。だが、行くまで五分はかかってしまうが」

「それでもいいからHarry!」

「てい」

 

何か言いかけたグラーフとの通信を切りアイオワは牽制目的で階段下に射撃をして、手榴弾を投げる。まだ練度の低い彼女でもまだ残っている階段部分目掛けて投げる程度なら楽にでき、空いていた穴はさらに大きくなった。

撃ち切ったマグを落として装填するとウォースパイトの銃声混じりの通信が彼女の元に来た。

 

「tsk、アイオワ。C96じゃあ敵を押し留められない。こっちに……え」

 

何か硬いものが壁か床に当たった音がアイオワの耳に聞こえた。なんとなく聞き覚えのある音が。それが何か確認する間もなく、激しい爆発音があっち側の階段から聞こえてきた。通信は繋がらない。

 

「まさか」

 

思い当たる節があったアイオワはウォースパイトがいる階段の方に駆け出した。少ししてまた爆発音、チロチロと炎が動く影が見え始める。階段が見える角を曲がると、そこは激しい爆発のあとと残った可燃物を包み込んでいく炎。人が焼ける匂いがして腕を口元に持ってきた。苦虫を纏めて噛み潰したような顔をして彼女は足元に歪んだ拳銃が落ちていることに気づいた。熱くないか確かめてから拾うと、初期生産型のC96だった。

 

「ウォースパイト!」

 

アイオワは炎に向かって叫ぶが帰ってきたのは銃弾だけだ。伏せながら目を凝らすと何かが燃えていた。それが何か考えたくもなかったアイオワは最後の手榴弾を階段の方に投げ屋上に続く階段前まで後退した。歯を食いしばりながら目を拭いて、待ち構える。外で銃声が聞こえた気がした。もしかしたらグラーフが近くに来ているのかもしれない。そんなことを考えていた彼女はドットサイト越しに敵が見えると反射的に引き金を引いた。7.62x51mm弾が綺麗に頭をかち割り、矢矧のようになった。嫌な光景を思い出した彼女は敵が来た方に牽制で何発か撃ち込み、他にいたら殺すと言わんばかりに英語で煽った。少し待っても動きが無く、もう残党はいないのかと考えていると銃と手だけが出てきて乱射してくる。冷静に、三倍ドットサイトの利点を生かして銃を破壊するが出来た抵抗はそこまでだった。

別の廊下から回り込んできた敵によって横から銃撃を受けてしまう。身体中に穴が空いて自分の身に何が起こったか悟る暇も無く、彼女は倒れる。敵が彼女に慎重に近づくと、半開きの目が揺れ、口が僅かに動いていた。彼はもはや瀕死の彼女の頭に89式小銃を向け一発だけ放った。

 


 

建物の屋上扉がゆっくりと開き、そこからいくつもの銃身が出てくる。

 

「動くな!」

 

89式小銃を構えた男が声を上げ、ペタンと座り込んでいる雪風を狙った。もはや抵抗する意思が無い彼女は震えながら手を上げ、降伏する。彼女の瞳からは涙が溢れていた。男は部下と思わしき連中に顎で指示を出すと、そいつらが雪風の手を縛り上げ無理やり立たせる。

 

「宣伝担当に連絡しろ、手に入れたとな」

 

雪風が連行され下に連れ去られていく様子を男は見えなくなるまで凝視する。その後、頭が割れた艦娘と、血塗れの一〇〇式機関短銃、南部式大型拳銃(小型)を一瞥すると拳銃を手に取り屋上を去っていった。

 

 

アイオワから救援要請が届いて約五分がたった。既に射撃場側では銃声がやんでいるが、アイオワ達との通信は繋がらない。その上、服装がバラバラの弱兵共が基地内に広く散らばっているため、進むのに時間がかかっている。ガングートやサラトガに言われた通り片っ端から殺してもいいがリシュリュー隊を壊滅させた連中を呼び寄せたくなかったので最低限だけ倒している。今のように。

 

「Враг пухом」

「タシュケント、いいぞ」

「了解、前進するよ」

 

SVDでヴェルが経路上で休憩していた敵を片付け、タシュケントとサラトガを先頭に進んで行く。私はHK417のACOGスコープを使いヴェルとともに遠くを見ながら進んでいく。先程何度か聞こえた重めの単射、恐らく狙撃銃の射撃だかそれが気になる。正直、上から攻撃されれば対抗が難しいし7.62mm弾やそれ以上の銃弾を受けると艦娘とはいえ重症以上になってしまう。だから近くにいないといいんだが……。

数分ほど進み、この調子で行けばあと五分もしないでアイオワ達が陣取っている建物だという場所で北の空からヘリのローター音が聞こえてきた。

 

「救援?」

「多分、そうだろう。時間的に守山か富士の部隊じゃないか?」

「グラーフの言う通りだと思うけど、それだと陸軍を動かしたことになるね。上もかなり重く捉えているみたいだ」

 

アクィラの疑問に私とヴェルが答える。この聞きなれた音はUH-60Jか? 多分そうだろう。いや、待て。敵にも日本陸軍がいる以上敵の増援か? そうなるとかなりまずいが、どうしようも無いのも事実だ。流石に携帯対空ミサイルなんて警備隊が持っているぐらいだ。保管場所も占領されているであろう箇所にある。

 

「敵かもしれないが、近づくまではどうしようも無い。部隊無線程度じゃあ上空に来てやっと通信できるかどうかじゃないかな」

「そうだな。救援に急ごう」

 

ガングートも同じ結論に至ったようで私は同調する。やがて陣取っている建物が見え、一部が燃えていた。大きな穴、恐らく爆発痕だかそこから黒い煙が出ている。さっきから部隊無線で呼びかけているが、返事はない。これは最悪の展開を覚悟しなければならないのかもしれない……。私を先頭に建物に入っていく事にする。扉は開け放たれていて、誰かいる様子は無い。P90を構え、アクィラに援護を頼んだが一階には敵の死骸以外何もなかった。二階に登ると硝煙の匂いがやや濃く残っていて三階に登る近い方の階段は火に包まれていた。階段付近に多い手榴弾の破片に切り裂かれて死んだ死体や上から撃たれて死んだ死体、階段に空いた穴を避けて慎重に階段を登ると、血の匂いがしてきた。

アクィラに先行することをハンドサインで伝えて歩くと、屋上に行く階段付近に倒れている人物に気がついた。hübsch。

 

「アクィラ」

 

彼女を呼び寄せ屋上階段入口を指し示すと、悲しげな表情をした。目を閉じ、俯き、肩を震わせている。私は確認するためにアイオワの死体に近づく。手を合わせて彼女の為に祈る。しゃがみこんで調べると全身に銃創、あと側頭部にも受けた後がある。周辺の弾痕や血痕から想定するに横から撃たれて瀕死に、側頭部のは楽にするためか? これだけ当てられていれば直ぐに死ぬのに側頭部を撃った理由はそれしか思いつかない。血が着いたSCAR-Hを拾い上げ私は気が重い通信をする。

 

「屋上階段前でアイオワは死んでいた」

 

死んだ。これが今は彼女を示す墓標になっている。なんと短く、簡潔なんだろうと自分の表現力の無さを悔やむ。サラトガの叫び声が聞こえ悼まれない気持ちになる。少し離れているにも関わらず壁を叩く音が聞こえる。サラトガと一緒に行動しているタシュケントから通信がくる。

 

「同志グラーフ、三階の燃えていた方の階段に来てくれない? こっちも……」

 

私は打ちひしがれてるアクィラを残して三階に上がって燃えていた階段の上に向かったサラトガ達の所に向かう。正直、今のサラトガの元へ行きたくないが仕方ない。火が燃えるものが少なかったためかやや下火になったらしくあまり煙たっぽい感じはしなかった。消化装置が作動したのか濡れた廊下の先にしゃがみこんでいるタシュケントと若干荒れた姿のサラトガが見えた。

タシュケントが先に気が付き控えめに手を振ってくる。何があったのかと目を凝らすと、彼女達の奥に黒焦げのものが見えた。燃えなかったものからそれが誰なのか気付いた私は顔を顰める。先にこっちから済ませよう。

 

「サラトガ、アイオワのSCAR-Hだ。これだけでも受け取ってくれ」

 

厳しい顔をしたサラトガは無言のまま頷くと躊躇いがちに、差し出したSCAR-Hを取った。彼女はSCARの表面を撫で何か呟く。祈りの言葉か、それとも鎮魂の言葉か? SCARの置い紐を肩にかけ手で顔を拭うとさっきよりは表情が良くなった。サラトガが手で黒焦げのものを指した。

 

「一応検分はしたけど、爆発を受けた跡が全身にあるから爆死した後に何かが燃えてこうなったと思うわ」

 

サラトガの感情を押し殺した声で説明を受け、特徴的なウォースパイトのカチューシャと彼女のロイヤルダブルライフルをタシュケントが掲げてくる。カチューシャは王冠部分だけが残り、それも酷く歪んでいる。ライフルの方は木製ストックが燃えて厚い銃身が歪んでいる。銃身に傷のようなものがついているのが気になった。何か、いや破片手榴弾の破片が原因か。

 

「矢矧と雪風がまだ見つかっていないがこれでは……」

 

確実視される結果を直視したくなかった私は言葉を繋げなかった。今頃、ガングートとヴェルが屋上に向かっているから見つけるかもしれない。サラトガ達と別れアクィラの元に戻ると彼女はペタンと座り込んでいた。

 

「ウォースパイトもダメだった」

「そう……」

「……」

 

私は眉間に皺を寄せ掌を顔に当てた。今日は多くの仲間を失った。十人、いや十五人以上の艦娘が死に、基地要員の死体はそこら中に転がっている。救援が来れば私達は生き残れると思うが、様々な方面でショックは大きいだろう。私も陽炎たちがついているから提督が生存していることは信じて疑わないが、基地内の友人たちが生き残れているとは思えなかった。

 

「グラーフ、早く来てくれ! ヘリだ!」

 

私の憂鬱な思考を断ち切るようにガングートが通信越しに怒鳴り込んで来る。

 

「同志ちっこいの? 陸のUH-60Jでいいよな? ちょっと違う? ああ。陸軍のUH-60JAだ。あと数十秒で基地上空に入る。角度が悪くて所属までは見えないが二機が高速でこちらに来ている」

「今すぐ向かう!」

 

私はアイオワを避けて屋上階段に入り駆け上がった。自慢の脚力を使いものの数秒で屋上に上がると矢矧の亡骸が目に入ってしまう。私はそれから目を背け奥にいるガングートとヴェルの元に走った。

 

「グラーフ、あそこだ」

 

スコープを覗いていたヴェルが空の一点を指差す。私もスコープ越しに見るとヘリが二機、急速に接近しているのを確認した。標準的な陸上迷彩のブラックホーク(UH-60JA)、ほぼ最高速度と思える速度で突っ込んできたその機体は急に進路を変え急降下したりした。私はてっきり気付かれにくくする為か荷物を降ろすために高度を下げたかと思ったが、何やら様子がおかしい。

二番機がフレアを展開し身をよぎった。基地の工廠の方から何にかが発射される。それは、ロケットエンジンと思わしき光が輝いている……対空ミサイルだ。高度を下げた一番機がフレアを展開し一発目を回避した。そのまま一番機は低空をジグザグに回避機動をとるがそこに少し遅れて飛来した二発目が飛び込んできた。機体付近上部で爆発が見え、そのまま落ちて爆煙が見えた。二番機が離脱しようと反転し距離をとるが続けざまに二発放たれた対空ミサイルを回避することは叶わず一発が機体を直撃しバラバラになって落ちていった。

時間にして一分もかからず、初動の救援部隊は散ってしまった。

 

「Черт! くそ、こんなことが許されてたまるか!」

「これで、私は更に耐える必要が出てきたね……」

「サラトガ、タシュケント。救援のヘリと思わしきものが撃墜された」

 

本当に敵はこれだけの戦力をどこから持ってきたのかという思考を、軽い現実逃避を兼ねて展開する。深海棲艦との終戦が近付いため南方軍の引き上げ輸送船がここを通り、近隣に作られた簡易駐屯地に入る予定だった。かなりの人数のため民間港を使う訳には行かず、港からの輸送も大変なためそこそこ大きい港湾設備、複線の鉄道が入っているこの基地が選ばれた。海軍艦艇の出入りが少ないのもあったはずだ。数日前から始まった引き上げは今日で二隻目が入港した。確かインドシナ半島から来たそれに敵が乗っていた。普通に考えればその引き上げ輸送船から敵が来たと考えられるが何かが引っかかる。輸送船に見覚えがあるんだが、どこで見たんだっけなあ。インドシナか、ミッドウェーか、それともハワイか……。結局結論を出せないまま近くで銃声が聞こえた。

 

 

始めは少ない人がそれを発見した。多数のライブ配信サイトに数分前に予約が入ったそれはこの手のものでサーフィンをしている者達の興味を大いに引いてしまう。何人かが己のSNSや友人に載せ知らせ、それが更に広がり……。開始まで僅か数分しかなかったのにも関わらず数千人近い人が様々なライブ配信が始まるのを今か今かと待っていた。

唐突に画面が切り替わり縛られた一人の少女と拳銃をもった戦闘服を着た男が映った。背後には銃痕のある壁、時折銃声が聞こえてくる。建物の影の中なのかやや薄暗く両脇の松明が煌々と怪しいげな光を放っている。

男、いや演説者が手を掲げた、まるで静粛を求めるように。数十秒後、大袈裟に手を振った。

 

「我々、艦娘排除派は艦娘の排除を目指している。今日、我々は一個の基地を襲撃した」

 

映像が切り替わり、突入する日本陸軍南方軍軍服の兵が小銃を放つ姿が映る。長い金髪の艦娘が銃撃を受け倒れるシーンだ。再び映像が切り替わり元に戻る。次に艦娘の簡単な設計図や彼女達の人工頭脳、機械と肉体の様子が映し出される。映像が元に戻る。

 

「艦娘、人造人間は脆く、情に流されやすく、人類に仇をなす可能性がある。いずれ、よくあるSF小説のように創造主を打ち倒そうとするだろう。こんな奴らはクズである! 排除するべきだ! しかしながら、人間は同列の存在であるためそんな心配は無い」

 

ここで一度言葉を切り、嘆かわしいと言わんばかりに頭を振り悲しげな表情をする。

 

「残念ながら志を共にする同志の多くがここで倒れてしまった。だが、この放送を見ている素晴らしい志を共にするものはくだらない政府に訴えかけるのだ! 艦娘を排除しろ! と」

 

演説者は旧軍の拳銃を掲げ、降ろし、縛られている艦娘の頭に突きつけた。その艦娘は目隠しをされ、小鹿のように震えている。自分の頭に突きつけられたものを感触から察したのか猿轡を噛まされた口から声にすらならない悲鳴をあげ目隠しの布を濡らした。

 

「今日、今ここで艦娘を一人殺処分する。このようにしたくなければ、政府は素早く艦娘を排除するんだ」

 

身を過ぎって逃れられない運命から必死に逃げようとした艦娘の頭を左手で掴み、右手で拳銃をしっかりと押し付けた。

 

「さらば駆逐艦雪風よ。死んでくれ」

 

拳銃から放たれた7x20mm南部弾が彼女の頭を右から左へと貫き、左に花を咲かせた。糸が切れた操り人形の様に倒れ自身の血で服を濡らした。戦闘で若干煤けた彼女の真っ白い服が少しずつ赤く染まっていく。

 

「では、我々の成果を見てもらおう」

 

映像がまた戦闘時のものになる。狙撃で艦娘を殺した映像、自身の血に溺れる艦娘を捉えた映像、顔が潰された艦娘の映像、ふらふらと海に落ちていく艦娘の映像。最後の映像が終わったが画面は暗転したままで動かない。直後唐突にライブ配信が終了する。

最初の方で原因となる銃声がしていたが、後に解析されるまで気付くものはいなかった……。

 




個人的にもっと雪風の出番増やしたかったなあって最近思った。個人的には拳銃の中では南部式大型拳銃好きだし。一〇〇式の活躍はありませんでした。
次回は個人的には好きな話です。

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