【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】 作:ウエストポイント鎮守府
横須賀鎮守府海軍工廠では謎のエラーの原因を探るため、工廠にいる技官全員で探っていた。
現在は最もエラーの発生が高い最上の本体及び艤装の精密検査を行っている最中だ。
「体には特に異常は見当たらないですねぇ。むしろ健康そのものですよ」
「脳波、心拍数、同期の速度、どれも基準値内に入ってます」
「艤装のプログラムには問題はない。しいて言うなら少しコードに無駄があるってとこか」
「艤装自体の配線なども見てみましたがマニュアル通りです。問題のある繋ぎ方はありませんでした」
「妖精さんも検査プログラムを走らせましたが異常はありませんでした」
鎮守府の比較的端のほうにある一室。半ば物置と化していた小会議室を、艦娘エラー対策室にして情報を集めていた。
この日は最上の精密検査の結果を上げる予定だったが、どれも「異常なし」という事実のみが上がってきた。
「つまり、これは最上自身には問題がないということかね?」
同席していた智東大将が質問する。
「結果を見ればそうなります。どの項目も艦娘が行動するにあたって許容範囲内であることを示していますので」
「問題が発生しているのに原因が分からないとは、いささか可笑しな話であろう?」
「その通りです」
「まだ検査していないところがあるのではないか?」
「その可能性は捨てきれません」
「では早急にやるべきだ」
「しかしながら長官、仮に検査が行われなかった箇所があったとしても、ここではもう限界です。これ以上の検査を行うのであれば、東京の、それこそ設備のある研究所で行うしか方法はありません」
早速壁にぶつかった。異常が見つからなければ対策の立てようがない。対策室のメンバーは様々な憶測をぶつけ合うが、所詮は憶測でしかなく、どれもはっきりとしたことは分からなかった。
夕刻、傾き始めた太陽の日差しが対策室に差し込む。休憩に入りながら、各々自由なことをしている。
最近紙タバコから電子タバコに乗り換えた秋野中佐は情報がまとめられたホワイトボードを眺めていた。いたるところに「異常なし」の文字が躍っている。
そこにコーヒーを手にした篠原中佐が寄ってくる。
「何も分からないな」
「あぁ……」
「ここまで原因が出てこないとなると困難を極めるってもんですよ」
「結果を残しているっていう点では優秀な軍人なんだがな」
「はっは、今のは珍しく面白かったぞ」
対策室に残っている技官数人が茶々を入れる。しばらく仏頂面だった秋野中佐も笑みを浮かべた。
「さて、困った状況には変わりないが、何か策はあるのか?」
「さぁな。明日までに何も出てこなかったときは、いよいよ研究所に運ぶか」
「そうなると……艦娘専門の研究施設は国立の、しかも海軍省管轄の川崎総合製薬研究所だな」
「それ俺たちで依頼するのか?」
「民間人ならいざ知らず、同じ海軍の人間はどうだか分からんぞ」
「横須賀の工廠が勝手にやってるだけだからな。下手に動くと軍部から怪しまれる可能性だってある」
「そうなると俺たちだけじゃどうしようもないなぁ……」
「というか、長官は外部から研究員だか有識者だか呼んでくるって話じゃなかったか」
「それがうまくいかないから困ってんだろ。だいたい艦娘関連の技術者なんて工廠か艦政本部ぐらいにしかいないんだから」
そこまでの話を聞いた秋野中佐は、はたと気づいた。
「今なんて言った?」
「え?」
「今『外部の研究者』って言わなかったか?」
「い、言いましたけど……」
「そうだよ……。問題は『内部』じゃない、『外部』だったんだ……!」
周りがあっけに取られている中、秋野中佐は自身のPCを取り出すと、必死に何かの情報を探しているようだった。
「秋野中佐? 何を探してるんだ……?」
「これまでの最上の戦闘日誌だ。これで原因が分かるかもしれない」
「戦闘日誌って……、どこからですか?」
「横須賀着任から出撃停止命令までだ」
「それ結構な量ですよ!」
「今はやるしかないんだ! いいから手伝え!」
艦娘寮の一室、駆逐艦部屋には最上が訪れていた。
「もー、時雨はかわいいなぁ」
「や、やめてよ最上……」
時雨にべっとりとくっ付いている最上。はたから見ればイチャイチャしているカップルそのものである。
「白露姉さん……助けて……」
「えへへぇ……」
「ちょっと日向ぼっこしてないでっ」
「まーまーいいじゃないかー。同じ僕っ子なんだしー」
「最上さんもさっきまで検査してたんですし、少しぐらいゆったりさせてもいいんじゃない?」
「五月雨までそんなこと言うんだ……、ぐすん」
「時雨姉さん、いつもより情緒不安定ですね……」
春雨が若干引いた目で見てくる。実際その通りで、時雨は先に言い渡された出撃禁止によってナイーブな状態に陥っていた。
「むふふー、時雨はかわいいなぁ」
「この最上ちょっと変だよぉ!」
最上は最上で、度重なる検査のせいによってノイローゼ気味になっている。
そして二人が発するよく分からない負のオーラが融合することによって、ごく狭い範囲に特異な空間が発生した。
「す、すごいオーラだー!」
「そのノリに乗っちゃダメだと思います、白露姉さん」
駆逐艦部屋は比較的平穏である。
一週間前とは打って変わって、対策室の机には大量の資料が積みあがっていた。そしてその資料群に倒れこむように秋野中佐以下数名が眠り込んでいる。
ここ数日間は連続徹夜で作業をしていたため、対策室は多少劣悪な環境になっていた。
「おはようご……うわっ、なんだこれ?」
この日の担当者が資料の読み込みを引き継ごうとして部屋に入ってきたときに、室内の惨劇を目の当たりにした。
「う……、あぁ、朝か……」
「秋野部長、大丈夫ですか……?」
「あぁ……、そうだな。……3時間寝たから大丈夫だ」
「それはダメだと思いますよ……」
「えぇと、進捗の話か?」
「えぇ、まぁ。秋野部長の調子が戻ってきてからでもいいですが」
「いや、早いほうがいい。すぐに始めよう」
朝日が昇ったころ、対策室には工廠の技官たちが集まっていた。
「とりあえず、今のところ判明しているのはこの通りだ」
秋野中佐は大量の情報が書き込まれたホワイトボードから、これまでに分かったことを別のホワイトボードに書き込む。
「要点としてはこれくらいか。まず基本的に全国各地で起きている。月別にエラー発生件数を整理してみたものから、夏前後に増えているように見えるが相関性はないと見られる。艦種別でも相関はない。ただし空母艦娘のエラー発生は少ないことが分かった。個人で見るとエラーを発生したことある艦娘は全体の半分ほどいたが、最上のように複数回エラーが起きている艦娘は数えるほどしかいない。そして発生した海域に法則性はなかった」
「これだけ見るとなおさら関係性が見当たりませんね」
「そうだ。ここからの原因のあぶり出しはさらに困難を極めるぞ」
「そこが課題だ。どこかに必ず共通点が存在するはずなんだが……」
「状況が好転するまでは辛抱強く耐えるしかないのかもな」
「ここまで来てダメなのかよ……!」
「あと少しで答えにたどり着きそうなのに……」
技官たちの間でざわめきが起きる。
それを収めようと篠原中佐が口を開く。
「諦めるのは早いぞ。まだ洗い出しが終わってない資料もあるし、別のところに答えがあるかもしれないからな」
「とにかく今日までの資料整理報告は終わりだ。あとは今日の担当に投げるからよろしく」
「了解しました」
「俺は飯食ってくる」
秋野中佐が対策室を出た。そのあとに続くように技官たちがゾロゾロと移動する。
食堂についた秋野中佐は定食セットを頼み、席に着くともくもくと食べ始めた。
「秋野部長、ここ良いですか?」
「ん、あぁ構わん」
秋野中佐の部下が隣に座る。とは言っても何か会話があるわけでもなく、ただ時間が過ぎるばかりである。そこに後から対策室のメンバーが次々と周りに集まってきた。
そうなれば話すことは限られてくる。
「もっと根本的な何かがあるはずなんだよ、あれは」
「いやあれ以上探っても何も出てこないだろ」
「じゃあ、エラーがないのはどうやって説明するんだ?」
原因が分からないこそ、議論は尽きないものである。
そんな中、一人の技官が話題を変える。
「とりあえず話し合いはそこまでにして、もうちょっと別の話をしましょうよ」
「別の話とは?」
「対策室の片づけですよ。あんな劣悪な環境じゃ出来ることも出来ませんよ」
「あー、確かに。あのままやってたら、数日足らずで足の踏み場もなくなりそうだな」
「……劣悪な環境ねぇ」
秋野中佐は部下たちの会話を聞いていた時、あることに気が付いた。
「環境……。そういや発生海域周辺の海流や気象には手を付けてなかったな……」
「中佐? 今なんて?」
「環境だよ。もしかしたら海流の関係で彼女らに何か影響を及ぼしているかもしれない」
「ただの海流に原因があるとは思えませんが……?」
「いや、意外とそうでもない。海流の影響で地球の気候に影響を与えているのは知られているところだしな」
「はぁ……」
「飯食ったら気象庁に問い合わせだ。エラー発生日時の日本周辺の気象データをすべて取得するんだ」
「でも秋野部長、今日は非番じゃありません?」
「……あっ」
秋野中佐の発想により、次の日には環境項目を合わせた統計データがまとめられた。
智東大将も臨席した報告会で、秋野中佐と篠原中佐が説明を行う。
「本日は足を運んでいただきありがとうございます、司令長官」
「問題ないさ。それよりも、原因が分かったそうだな?」
「はい。その結果はこちらに」
篠原中佐がホワイトボードに大きい紙を貼り付ける。
「この地図には艦娘たちがエラーを生じた海域と、気象庁が発表している各種データからおそらく関係のある気象現象を記したものになります」
「ほう。して、その気象現象とは?」
「雨です」
一瞬、対策室の時間が止まった。
「あ、雨?」
「はい。一概にとは言えませんが、降水量にして5mm以上の雨が降ると彼女たちにエラーが発生する確率が跳ね上がります」
「こちらの地図は艦娘がいた日時と、その時の天気を記載しています。それによれば、どの場所でも当時は雨が降っていたことが分かります」
「それは本当なのか?」
「今のところ、それ以外の原因が見当たりません」
対策室は騒然となった。
「なるほど……、原因が雨とは思わなかった」
「確かに、空母は雨天では運用しない……」
「これまで判明した事象に説明がつくぞ」
「灯台下暗しってやつだな」
「だが、なんで雨なんだ?」
「雨が原因なら陸上への影響はどうなる?」
「お前ら、今は報告の最中だ。一回黙れ」
技官たちのざわつきを秋野中佐が収める。
「とは言っても、あくまで雨は原因の一つに過ぎません」
「それに原因が分かっても、彼女たちがなぜエラーを生じるのかの理由が不明のままです」
「なるほど。すぐには全てを解明できるというわけではないようだな」
「現状はそうです。今後は雨天時の試料採取を行って、解析を行う予定です」
「そうか。……しかしまぁ、雨に気を付ければ問題はないということが分かってよかった」
「えぇ、今はそれで大丈夫かと」
「気象庁も、今後は雨の心配はないと言っていましたし」
彼らの間に安堵の空気が流れた。
「ですが、逆に雨が降らなければ我々はエラーの原因を調べることはできないと同義。今の心配事はここです」
「そうなったら、私自身が雨乞いでもしてやろう」
智東大将が冗談ぽく言う。それに釣られるように笑いが起きた。
和気藹々としたとした空気が流れる中、対策室の扉が勢いよく開いて一人の通信兵が飛び込んでくる。
「大変です!」
「な、何事かね? 唐突に入って来よって……」
「先ほど海軍の秘匿回線において、夜戦強襲作戦を実施していた第十九艦隊全員にエラーが発生した模様! 現在作戦司令部に救助の要請を出しています!」
「何?」
「第十九艦隊って誰がいた?」
「第十九艦隊なら、確か阿賀野が旗艦を務めていると聞いたな」
「阿賀野はこれまでエラーを出していないはずじゃないか!」
「一体何が起きているんだ……!」
部屋の中は困惑と騒音に包まれた。
その時、篠原中佐の携帯電話がなる。電話に出るため、篠原中佐は一度対策室を出た。
そして数秒後。
「なんだとぉーーー!」
対策室にいた全員が驚き、動きを止めた。声の主である篠原中佐がこんなにも叫んだのは初めてだったからだ。
そして再び室内に戻ってきた篠原中佐は、絞り出すように声を出す。
「南太平洋で熱帯低気圧が発生……、今後猛烈な雨雲となり、ミッドウェー諸島に移動しているとの情報が入った……」
対策室にいる誰もが戦慄した。今までエラーが発生していなかった艦娘にまで影響が及ぶ可能性があることを意味しているからだ。
そんな中、最初に動いたのは智東大将だった。
「すぐにミッドウェーの司令本部と海軍省に連絡せよ! 即刻作戦の一時中断と現状維持に全力を注ぐよう掛け合うのだ! もし駄目なら私自身が乗り込んで説得させてやる!」
「了解!」
通信兵は慌てて対策室を飛び出していく。技官らは一瞬動くことが出来なかったが、すぐに自分たちがやるべきことを思い出した。
「すぐに情報収集だ! 第一艦隊には外出禁止を徹底せよ!」
「はい!」
ミッドウェー諸島に展開していた作戦行動中の艦隊は、ほぼ全員行動不能に陥っていた。
それに対応するため、景号作戦ミッドウェー島暫定司令部は混乱を極めている。
「古鷹エラー発生により第十三艦隊全艦行動不能! 現在輸送支援艦に収容中!」
「第四航空艦隊以外はウェーク島に退避中! 以降命令あるまで待機しています!」
「行動可能な艦は?」
「第三戦隊の日向、第十二戦隊の愛宕、第二十戦隊の筑摩、第四十四駆逐隊の文月と長月、第四十六駆逐隊の磯波と浦波です!」
「よし、すぐに再編して防衛に回せ!」
「了解!」
暫定司令部のすぐそばにはJNS敷島が停泊しており、その中では明石と同行した技官全員が艦娘の応急処置を施していた。
「とにかく症状が重くて大破の娘を優先で治療して!」
「アステルスロインが足りない! こっち持ってきてくれ!」
「こっちは氷だ! とにかく冷やすものを!」
「再起動は絶対にするな! 装置が足りないからなぁ!」
「巡洋艦艤装の7番基盤はどこだ!?」
「倉庫にまだあったはずだ!」
「朝潮型の回路図どこにあるんだよ!?」
「あっちの机にないか?」
「時間ねぇんだよ、整頓しとけっていつも言ってんだろ馬鹿タレが!」
もはや地獄絵図のようだった。
「ふぃー、これじゃきりがないよ」
「明石さん、少しは休憩したほうがいいですよ。もう十何時間もやってるでしょう?」
「うん。でもね、治療を続けないとあとが大変だから……」
そういうと明石は急に力が抜けたように、膝から崩れ落ちてしまう。
「明石さん!?」
「だい、じょうぶ、だから……っ」
「……! 熱がすごい、エラーが出たのか……!」
艦娘を後ろから支えてきた大黒柱が倒れてしまったことで、現場はさらに混乱を極めることになってしまった。
ミッドウェー諸島で惨劇が起こっているころ、横須賀鎮守府も大雨に見舞われた。
世の中には雨を待つ人が一定数いるが、ここ横須賀鎮守府にいる技官たちほど雨を待ち焦がれた人はいないだろう。
雨合羽を着て、雨水を溜めたビーカーを眺める男。ある種の不審者の風貌をしている秋野中佐である。
「よし、十分な量を確保した。早速解析のほうに回してくれ」
「了解」
部下がビーカーを工廠に持っていく。秋野中佐は雨の中にたたずみ、海を眺める。
「早く対策を練らねば……、彼女たちを救わねば……」
その工廠では持ち込まれた雨水を検査にかけていた。
「見た目の違いは特にないですね」
「化学的な性質も水と相違はなさそうです」
「X線分析装置にもかけよう」
部屋の隅で若干埃をかぶっていた蛍光X線分析装置に雨水を投入する。一時間もすれば結果が出てきた。
「えぇと、水素、酸素……、あれ?」
「どうしました?」
「これ見てくれ。アルミニウムやら鉄やらの金属物質の含有量が多いぞ」
「自然の雨でこれだけの金属が含まれるなんておかしいですね」
「もしかしたらこれにエラーの秘密があるかもしれない。一応顕微鏡で見よう」
「うちにあるの光学だけでしたよね?」
「まぁ、一応な」
プレパラートに一滴垂らした雨水を光学顕微鏡で観測する。PCの画面に映し出される映像を工廠の技官たちが見守りながら、少しずつ倍率を上げていった。
100倍ほどになったところで画面に変化が現れる。
「なんだこれは……?」
「点のような何か、としか言いようがありませんが……」
「おい、500倍のレンズなかったか?」
「ちょっと待ってください」
物品保管棚から目的のものを持ち出し、レンズが付け替えられると、点のようなものがより鮮明に写し出された。
「これは……!?」
その場にいた者、全員が驚愕した。
それはまさに深海棲艦そのものだったからだ。
「なんてこった、こんなことがありえるのか……!」
「写真! 写真撮っとけ」
「だいたい1μmってとこですかね?」
「こりゃあ大発見かもしれないけど……。どうします、篠原中佐?」
「……秋野中佐と智東長官を呼んできてくれ」
意外な真実が明らかになったことで、もはや一人では決断しきれなかった。
数十分もしないうちに対策室には関係者が詰め寄る。
「して篠原中佐よ、一体どうしたというのだね?」
「エラーの原因が判明しました」
「本当か!?」
「えぇ。正体は深海棲艦でした。この写真がそれを示しています」
「まぁ、何となく分かっていたようなもんだが……」
「見たことがない見た目してるな」
「こういうことなので、今後の方針をお話しすべく智東長官にご足労いただいたわけであります」
「ふむ、では篠原部長の考えはどうかね?」
「私としては、写真に写っているコレが実際に深海棲艦のものであるかを確かめる必要があると考えます。よって川崎の総合製薬研究所にサンプルを送り、これが深海棲艦由来であることを確認したいと存じます」
「本当に依頼するのか? 篠原さん」
「現状、それが手っ取り早いからな。それに、これが深海棲艦のものと分かれば軍令部も何かしら動いてくれるはずだ」
「とにかく事態は一刻を争う。もしものことがあれば私が全責任を負おう」
「ありがとうございます!」
「しかし深海棲艦のものが雨に含まれていると分かっても、再発防止策はどうするつもりだね?」
「それはこれからの検査次第です。今のところは深海棲艦が何らかの攻撃を仕掛けているとしか分かってませんから」
その結論が出たところで、対策室のドアが開く。
「大変です、篠原中佐!」
「どうした?」
「試料が消滅しかけています!」
その報告に、誰もが眉をひそめた。
「あ、いや、ちょっと事情が特殊と言いますか……」
「なんだね? 報告ははっきりと申せ」
「はい。えぇと、深海棲艦のものと見られる粒がですね、時間経過と共に小さくなっていったことが分かったんです」
「なんだと?」
「それをよく観察したところ、それ自体が崩壊していることが分かったんです」
「どういうことだ?」
「理由は分からんが、そうしないといけないことでもあるのか?」
ザワザワと話し声が対策室内に響く。
秋野中佐は少し考え事をすると、無言のまま対策室を出ていこうとした。
「どこにいくんだ、秋野中佐」
「篠原さん。原因を突き止めるには、当時の状況に近づけるのが一番だよな?」
「……そりゃあそうだが」
「艤装の予備はまだあったはずだ」
「一体何を……」
「っ! まさか秋野部長、予備を使って暴露試験を行うつもりじゃ!?」
「その通りだ。それが一番手っ取り早い」
「確かに現物を使って対策を講じるのは良い手段だろう。しかし秋野部長よ、もっと他にやり方があるのではないか?」
「時間がありません、司令長官。今こうしている間にも前線では困難を極めているかもしれないんです」
「まぁ、慌てることはなかろう。多分もう少しで来るからな」
智東大将がのんびりと時計に目をやる。しかしその口調からは何かを待っているようだった。
そう時間を置かずに、対策室の扉が開く。
「智東提督、お客様をお連れしました」
「うむ」
警備兵についてくるように、一人の気弱そうな男性が入ってくる。
「ど、どうも。失礼します……」
「……司令長官、こちらの方は?」
「うむ。私の旧友が川崎総合製薬研究所の関係者だったことを思い出してな、彼のほうから深海棲艦の研究をしている者を送るように伝えていたのだよ。それが彼、遠山研究員だ。ちょうど今日来る予定だったから、直接こっちに来てもらったのだよ」
「遠山優斗です、よろしくお願いします……」
そこにいる誰もが頼りなさそうな印象を受けた。
しかし、その考えはすぐに訂正されることになる。
「一般的に艦娘の艤装技術のほとんどは深海棲艦のそれを流用して製造されているのは我々にとっては周知の事実ですが、そのまま利用するのは情報の漏洩と同等であることだったり整備の関係などから人類の技術を組み込んで使用しています。しかしそれを逆に言えば艦娘と深海棲艦は共通した部品やシステムを使っているということになりますので深海棲艦を行動不能にするには艦娘のシステムの強制停止と似たような操作が必要になります。今回新たな深海棲艦の兵器が発見されたということで実物を拝見させてもらいましたがおそらく深海棲艦がナノマシンを散布して艦娘に原因不明のエラーを発生させていたとされるので対策は比較的簡単に講じることができます。これまでの研究からソースコードの832行目には行動に関する緊急命令文が指定されていることが分かっているので……」
ほぼ早口でベラベラとしゃべり倒す遠山研究員。艤装整備を担当している秋野中佐も半分ほどしか理解できなかった。
「……遠山研究員、簡潔に述べるとどういうことになるんです?」
「つまり艦娘に利用されている通信技術を転用すれば深海棲艦の行動を一時的に無力化することができるということです」
「なるほど。その無力化コードはすぐに作ることができるのかね?」
「緊急停止コードさえあれば一時間ほどで作成可能だと思います」
「よし。秋野部長、遠山研究員と共にコードを作成したまえ」
「はっ!」
「ちなみに遠山研究員よ、根本的な対策はどのようにすればよいだろうか? 意見が聞きたい」
「そうですね。ナノマシンがどのように作用しているかによりますがまずは物理的にナノマシンを艤装に触れないようにすることでしょう。しかし艤装の回路には異常が見当たらないとのことなのでシステムに支障をきたすようなものであることが推察されます。よって現状での一番効果的な対処法はシステムにファイアウォールを設定することでしょう」
「ふむ、分かった。では行ってくれ」
遠山研究員を工廠のほうに案内するため、秋野中佐と共に移動しようとしたときだった。
突然、鎮守府庁舎の奥のほうから爆発音が響き渡る。
「な、何事か!?」
「わかりません!」
「深海棲艦の攻撃か!?」
「一切不明です!」
「今の爆発、艦娘寮のほうだな……」
「落ち着け! 保安部に連絡、まず被害の報告! 篠原部長は現場に急行し、艦娘たちの安全を確保せよ! 憲兵にも連絡を! 秋野部長と遠山研究員はコード作成に注力せよ! 保安員はつける!」
「了解!」
対策室から勢いよく技官たちが飛び出していった。
雨の中、鎮守府庁舎から工廠へ向かう秋野中佐のグループと、艦娘寮に向かう篠原中佐のグループ。
鎮守府庁舎の角を曲がったところで、篠原中佐はその惨劇を目の当たりにする。
ちょうど2階部分がぽっかりと爆発によって吹き飛んでいたのだ。
「なんてことだ……」
寮に入り、階段を駆け上がる。現場は駆逐艦部屋だった。
そこには爆発に巻き込まれたのだろうか、駆逐艦娘たちが傷を負っていた。
「大丈夫か!?」
「し、篠原さん……っ。白露姉さんがっ……、春雨がっ、五月雨がっ……!」
「落ち着くんだ時雨。すぐに工廠に運ぶ。……おい、担架持ってこい!」
「はい!」
そう時間を置かずに、3階の様子を見に行った技官が降りてくる。
「上の階の艦娘もケガを負っています! すぐに運びださないと大変です!」
「そこまで損傷がひどかったか?」
「いえ、見た目は軽傷ですがエラーを発症しているようです!」
「なんでこんな時に……!」
そうこうしていると、鎮守府庁舎から応援の士官たちが到着し、次々と作業を進める。
その横で篠原中佐は、爆発の現場をじっと見つめていた。
「大丈夫かい、時雨。歩けるかい?」
「うん、ありがとう。歩ける……よっ」
「危なっ。まだ足に力が入ってないようじゃないか。手を貸すよ」
「ごめんね」
「なぁに、問題ないさ」
技官に連れられ、時雨がその場を後にする。
だが、それを篠原中佐が制止した。
「待て時雨」
「な、何かな? 篠原さん」
「なぜお前だけ無事なんだ?」
「……どういうことだい?」
「お前がいた駆逐艦部屋は爆破されて他の艦娘は重症。上の巡洋艦娘はエラーを生じていて行動不能。こんな重大なインシデントが発生したのに軽傷でいる。不思議としか言いようがない」
「それは運が良かったからじゃ……」
「確かにそれだけなら時雨の強運で回避できたかもしれない。だがこの現場はそうは言っていない」
「篠原部長、何を……」
「見てみろ。これが深海棲艦の攻撃ならばどのようなものが想定されるか?」
「それは……戦艦級の砲撃か、艦載機の爆撃か……だと思います」
「だがどうだ? 砲撃ならこんなにデカい穴は開かないだろう。爆撃なら真横に穴が開くのはおかしいだろう。そしてそのどちらであっても、部屋の中に外壁のレンガの破片が飛び散っていない」
「……なにが言いたいんだい?」
「これは外部から力が加わったのではなく、内部から力が加わったことを示している。ちょうど部屋の真ん中で火薬に火がついた感じに、な」
「……へぇ、すごい洞察力だね」
篠原中佐の推理を聞いて、時雨の態度が一変する。
「お前、時雨じゃないな?」
「いや、僕は時雨だよ。ただ……」
「ただ?」
「……『思い出した』だけさ」
すると時雨の目は血のような深紅色に染まった。
「そう、深海棲艦の頃をね」
時雨はポケットから何かを取り出すと、それを篠原中佐に投げる。それを危険だと感じ取った篠原中佐は本能のうちに後ろへと飛んだ。
瞬間、視界を一瞬の閃光が覆いつくし体に衝撃が襲い掛かる。後ろに飛んだにも拘わらず、篠原中佐の体には大きなダメージが入った。篠原中佐はまるで手榴弾を食らったような気分を味わった。
「ガハッ、ゴホッゴホッ!」
「へぇ、良く避けたね。でも効いたでしょ? 特別仕様の爆雷は」
駆逐艦ならほぼ装備されている爆雷。なるほど、それを使えば部屋一つ分を吹き飛ばすのは容易だろうと篠原中佐は思った。
「時雨……っ、一体いつから……!」
「そんなの、最初からだよ」
「最初……?」
「5年前のあの日、僕がドロップされてからさ」
「何……だと?」
「君たちがエラーって呼んでるやつ。あれは僕たち深海棲艦が散布したシステム阻害用ナノマシンで、深海棲艦の性質を比較的多く引き継いでいるドロップ艦に対して効果的に作用するんだ。研究しているときにドロップ艦か否かに気が付かなかったかい?」
「なっ……!」
それを聞いて篠原中佐は気付いた。最上は特殊艦隊が初めて編成された時の最初のドロップ艦である。そう考えるとこれまで自分が把握している艦娘でエラーが発生しているのは、総じてドロップ艦であったのだ。
「でもそれはつい最近の話。ナノマシンは進化を遂げて、ドロップ艦でなくても影響を与えるようになったのさ」
「くっ……!」
「さて、秋野中佐はどこかな? 彼も知ってしまった人だからね、処分しないと。……でもまずは篠原中佐、君からだよ」
時雨はポケットから爆雷を取り出すと、それを篠原中佐の上に持っていく。
「やめろ、時雨……!」
「さよなら、篠原中佐」
爆雷が手から零れ落ちる。
その瞬間、壁の穴から何かが飛び込んできた。特徴的な主翼と四枚のプロペラを持った戦闘機、それはまさしく――。
「烈風……!」
烈風は飛び込んできた速度そのままに、機銃で時雨を攻撃する。時雨はその攻撃をうまくかわした。
「っ! なんで烈風が!」
「心外でありますなぁ、時雨殿」
「その声は!?」
時雨が壁際に行き、外を見る。そこには黒い外套をまとった艦娘の姿があった。
「日本陸軍所属特種船、あきつ丸でありますよ」
「あきつ丸……!」
「ふん、今更陸軍が出てきたところで何ができるんだい?」
「なかなか辛辣なことを言ってくれますな。簡単な話でありますよ」
その瞬間、階段から複数人の何者かが突っ込んできた。
「我が皇国に仇なす反乱分子はいかなる人物でも処罰する! 覚悟!」
その正体は日本陸軍第一師団の歩兵小隊である。憲兵に深海棲艦の攻撃の可能性ありと連絡した際、艦娘と多少なりとも戦力があったほうがいいだろうとの判断により訓練を行っていた部隊が駆けつけてきたのだ。
「そこの艦娘は敵対状態にあり! 水兵の救出の後、駆逐艦級の艦娘を無力化する!」
「応!」
「クッ! これじゃやりづらい、よっ!」
歩兵小隊に囲まれそうになった時雨は、壁に開いた穴から外へ飛び出した。地面に着地するとそのまま工廠のほうへ駆けていく。
「篠原中佐は後回しにして、まずは秋野中佐を……」
「おやぁ、順番が違うのではありませんか?」
立ちふさがるはあきつ丸。すでに烈風を回収し、時雨の目前に立ちふさがっていた。
「そうだね、順番が違っていたよ。まずは君をぶっ倒してからだね!」
時雨は持っていた爆雷をあきつ丸に投げる。それを避けんとするあきつ丸の行動を予想して拳を振るった。
しかし時雨の予想に反して、あきつ丸は爆雷を避けようとはせずにつかんで投げ返してきた。
「なっ!?」
「投げてきた手榴弾を投げ返すのは何度かやったことありますぞ、時雨殿」
「グッ! ウワァァァァ!」
投げ返された爆雷をかろうじてよけながら、それでも殴りかかろうとする時雨。
それを滑らかな身のこなしでかわしながら、時雨の腕をつかんで捩じる。ほんの1秒程度の時間で時雨はあきつ丸に制圧された。
「ガッ!」
「大人しくするでありますよ、時雨殿」
「ま、まださ……。まだ……」
まだ抵抗の意思がある時雨だが次第に力が抜けていき、やがてぐったりと気絶してしまった。
「おや、もう終わりでありますか? ……時雨殿は一応反乱分子でありますから縛っておくであります」
あきつ丸は時雨を身じろぎ一つできないように縛り上げる。
「しかし、なぜ時雨殿の動きが収まったのでありますか?」
それは遡ること数分前――。
海軍工廠の特殊艤装整備部門に向かった秋野中佐たちと遠山研究員は、工廠にある艤装用プログラムの改変を行っていた。
「緊急停止の命令文は?」
「ここです」
「よし、じゃあこれを深海棲艦用に書き換えよう」
遠山研究員は持ってきた荷物からバインダーを取り出すと、内容を参照する。
「えぇと……。ここは艦娘だとif関数になってるけど、深海棲艦の場合は……内部でループさせればいいか」
「するとどうする?」
「そうだな……」
このような感じでプログラムをいじっていく。
ひとまず完成すると、まだ降り続く雨から試料を回収して試験する。それを2,3回ほど繰り返して暫定的な完成となった。
「よし、まずは彼女たちに試すんだ」
艦娘寮から運び出された第一艦隊の面々に対し、対エラープログラムを施す。
するとどうだろうか。今までの苦労がなかったかのように、あっさりと回復した。
「ふう、なんとかなりましたな、遠山さん」
「はい。次が本番ですね」
彼らには、時雨が深海棲艦のエラーに蝕まれていることは聞いていた。そのため、時雨は遠隔通信によってエラーを抑えられたのだ。
横須賀鎮守府の艦娘全員はエラーから解放されたのである。
「陸軍の協力に感謝する」
智東大将は陸軍小隊に頭を下げる。
「海軍は普段からそのくらい物腰が良ければいいのですがな」
陸軍小隊長が嫌味っぽく言う。
「そうですな、海軍所属の艦娘は格闘戦が少し下手でありますからな」
あきつ丸が追撃する。
「ははは……。それでは例のものは頼みましたぞ」
「はい、引き受けたからにはしっかりやりましょう」
海軍の依頼を受けて、陸軍が運ぶもの。それは対エラープログラムをミッドウェー島まで運ぶことである。
それを任されたのが……。
「まるゆが運ぶんですかぁ……」
あきつ丸と同じく、日本陸軍所属の輸送潜水艇、まるゆだ。
「大丈夫でありますよ、自分がついているであります!」
「ならあきつ丸さんだけで行ってくださいよぉ……」
「それはだめであります。お互いもしものことがあったら大変でありますからね」
「うぅ……」
だがどうして海軍が陸軍に対エラープログラムの輸送を依頼したのか。もちろんではあるが、通信で向こうにデータを送ることはした。それでも本当に届いたかはわからない。そこで陸軍艦娘に輸送を頼んだのだ。
だが海上輸送なら海軍のほうが似合っているはずだろう。それには第一艦隊はエラーから復帰したばかりであるという理由とともに、海軍の艦娘と陸軍の艦娘は建造方法が異なることも一つに上げられる。それぞれ同じものでも異なるライセンスを取得するくらいには信念を貫く両軍であるが、艦娘関連の技術でも違いが発生してしまったのだ。詳しく見れば、艤装に使われる技術やプログラムを陸軍が独自に開発し、海軍の艦娘と異なることを見せつけるために搭載した。この独自開発が結果として深海棲艦との互換性の高さによるエラーの発生を防いでいたのだ。
そんな境遇に生まれた陸軍艦娘の二人は、ミッドウェー島に向けて出発した。
艦娘のエラー発生によりミッドウェー島暫定司令部は完全に作戦継続を諦め、本土への撤退を検討していた。
いや。検討というよりは、もはや誰もが撤退せざるを得ない状況であると理解していた。そのため現地の戦略会議は反論が出ることなく、たった1日で退却が決定された。
早速準備にかかった時に、警戒に当たっていた汎用巡洋艦から連絡が入る。
「ハワイ本島より深海棲艦の主力部隊接近!」
これを迎撃するにしても、連日の戦闘で残弾が少なくなっていた。もしここで戦闘が始まれば確実に弾切れを起こし、撤退まで無防備になってしまう。
「我々は座して全滅するのを待つしかないのか……」
暫定司令部長官がポツリとつぶやいた。
しかしそこ一本の通信が入る。
「こちら多摩だにゃ。これより特殊艦隊に編入し、敵主力部隊と交戦するにゃ」
声の主は、米国に渡った際に音信不通に巻き込まれた多摩だった。どうやら彼女は無事だったようだ。それと一緒にJNS鞍馬もいる上、さらに複数の艦艇が随伴していた。
それの正体は次の通信で判明する。
「Hi! Iowa級戦艦Name Ship、Iowaよ。助けに来たわ!」
「Hello、正規空母Saratogaです。Iowaは落ち着いてね」
アメリカ製艦娘のIowaとSaratogaだ。随伴としていたのはアメリカ海軍対深海棲艦先任艦隊である。
通信途絶に巻き込まれた多摩とJNS鞍馬は無事にアメリカに到着しており、米海軍と協力を取り付けて戻ってきたのだ。
そんな多摩とIowa、Saratoga、そして米海軍はものすごい勢いで深海棲艦の主力部隊を撃破していく。そのおかげか、ミッドウェー島の部隊には大きな損害を出さず深海棲艦を撤退させることに成功したのだった。
「これでNo problemよ!」
「みんなのおかげだにゃ」
「それじゃあ、彼女らを救いましょう」
米海軍はそのまま日本海軍のミッドウェー島撤退を支援し、日本まで随伴していくことになった。
途中であきつ丸とまるゆに遭遇し、彼女らから対エラープログラムを受け取ったものの、これ以上は戦闘不可能と判断され撤退は行われた。これにあきつ丸は無駄足を踏んだと不服を申し立てるが、多摩たちの必死の説得で落ち着きを取り戻したそうな。
それから一月ほどの月日が経った。ミッドウェー島で発生した集団エラー発生事件が国会で取り上げられたことによって、海軍省は正式な研究と対策案の発案を余儀なくされた。直ちに艦政本部が調査に乗り出し、横須賀海軍工廠の技官たちが中心となって信頼性のある対策が講じられることになる。
それと、随伴してきたIowaとSaratogaは意図しない形で日本を訪問することになったため、若干時間がたってはいたものの歓迎行事が行われた。特に告知などしていないものの、かなり多くの見学者がいて二人は関心の高さを思い知らされたのだった。
「大変だったな、篠原さん」
歓迎の様子を見ながら秋野中佐は言う。
「本当に大変さ。全治4ヶ月だぞ」
「そりゃ気が滅入るな」
全身に包帯やギブスを装着し、松葉杖をつく篠原中佐。時雨につけられた傷はなかなか深いものだった。
「時雨はもう軍法会議にかけられたんだっけか?」
「あぁ。軍施設の破壊、特殊艦隊所属艦の破壊工作、軍人に対する殺人未遂などで解体処分ものだ。だが智東長官の尽力によって解体は免れ、深海棲艦製ナノマシン対策の生体実験に参加することで12ヶ月の職務停止処分で決定されたそうだ」
「さすが司令長官だな」
遠くで音楽隊が米軍艦艇乗組員の歓迎する音楽を演奏していた。
「遠山研究員はどうしている? 工廠に入り浸ってたんだろう?」
「ついこの間、川崎のほうに帰っちまったよ。出向の途中だったんだが急遽川崎のほうで海軍省主導の対策チームを発足することになったらしくてな、そこの主任に抜擢されたそうだ」
「結局手柄は上層部が掠め取ってくんだな」
「仕方ないさ。俺たちゃ軍人だ。上の命令は聞かなくちゃいけない」
「……そうだな。我々は軍人だったな」
「さぁて、残った仕事を片付けなきゃな。遠山さん曰く、この半年のエラー対策は応急処置に過ぎないらしいからな」
「そうか。私も治療に専念してしっかりリハビリを受けないとな。復職してからも忙しくなりそうだ」
二人はその場をあとにし、それぞれの場所に向かう。
深海棲艦の猛威はいまだ振るい続けている。
しかしそれを守ろうとするものもいる。縁の下の力持ちの彼らは、これからもそれぞれの戦場で戦い続けるだろう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
私のことを初めて知った方もいるかと思いますので、改めて自己紹介させてください。私は紫 和春という者で、普段は「小説家になろう」様にて、異世界艦隊という小説を連載しています。ファンタジーとSFと軍事などを物理法則のスープにぶち込んでかき混ぜたような小説を目指して頑張っています。
さて、今回は合作初参加ということで気合入れて今作を執筆しました。実際書いてみると意外とストーリーが流れ出てきまして、結構内容が膨れてしまいましてね。自分でも完結できるのだろうかと思いながら執筆したものです。その後の合作参加者による推敲会議では多くの駄目出しが出てきまして、結構ザルだったんだなと実感しましたよ。
そんなこともありましたが、私としては実に充実した合作になりました。この経験はきっとどこかで役に立つでしょう。
では皆さん、またどこかで。