【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】   作:ウエストポイント鎮守府

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書いてて楽しかったです。


愛よ永遠なれ

「どこで銃声が聴こえた?」

「こっちだ。かなり近い」

 

私の問いにヴェルが答え基地側海沿いの方を指さした。そちら側に目をやりスコープを覗き探すと二百メートルほど先に立っている男と……。

 

「っ、雪風!」

 

頭から血を流し倒れている雪風を見つけた。ここからでもわかるくらい出血している雪風は動かない。即座に狙いをつけ立っている男、恐らく雪風を殺した奴の頭を吹き飛ばした。その後、雪風と男が死んだことを確認した私達は射撃場へと移動した。

これでアイオワ隊は全滅か……くそ。どうしてこんなことに。

優先したアイオワ隊の救援に失敗した私達は悲嘆にくれ、復讐を誓いながら射撃場に入り弾を補充した。弾をマグに込めている時に感じたことだが、あまりにも多くの仲間を失い冷え切った頭は意外なほど、落ち着いている。一時は誓った復讐も鎌首を下げ、まるで戦闘前のように平坦な感情だ。心が麻痺したとは違う、研ぎ澄まされた感覚を感じて戸惑う。ショックを受けていない訳でも悲しみがない訳でもない心情を打ち明ける気にもならなかった私はこの中で一番心配なアクィラを気にかける。ロシア組はいいとして──サラトガは復讐に染まっている──アクィラは心ここに在らずと上を向いていた。いつもの軽快さは唸りを潜め、別人のような感じもしている。揺れ動く彼女の目が私を捉えた。

 

「アクィラ、本当に大丈夫か? 別にここに残っていても……」

「大丈夫。アクィラも一緒に行きます」

「しかし、その調子じゃあ」

「一緒に行かせて! グラーフ、アクィラも行きたいの! お願いだから……」

 

アクィラが私の胸に飛びつき顔を埋めた。泣きじゃくる彼女に私は声をかけるができず、頭を抱きしめた。彼女を護りたいという感情と望みを叶えてあげたいという感情が相反しどうすればいいか分からなくなった。

 

「グラーフ、連れていったらどう? ここに残してもいいけどそれはそれで危険よ」

 

慣れない手つきでところどころ赤いSCAR-Hのマグに弾を込め、チャージングハンドルを引いたサラトガが助け舟を出してくれた。いや、それは泥舟かもしれない。だが、私は彼女を置いていった場合、ついてくるかもしれないということに気が付き頭を振った。いかん、これでは赤い悪魔のような扱いになっている。やはり連れていった方が安全なのか。

 

「……アクィラ、一緒に提督を助けに行こう」

「本当に?」

「一つ条件がある。死なないでくれ。お願いだから。君が死んだら私は立ち直れない」

「グラーフ……」

 

涙目の彼女の火照った顔を見た私は、衝動的に唇を重ねた。アクィラは一瞬驚いたが受け入れてくれる。舌と舌を絡め合いお互いの甘い体液を交換し混ざりあう。恥ずかしかったため目を閉じていたがちょっとだけ薄目を開くと可愛らしい彼女の顔が見えた。長く続いたそれは私の息が限界に近づき、唇を離す。アクィラの感覚がまだ残る口に手を当て乱れる息を整えようとした。鼓動が高鳴り収まらない。今更横で見たいた四人がニヤついているのに気付き、顔が赤くなるのを感じてしまう。アクィラの頭からは湯気が上がっているように見える。

 

「その……ちょっとだけ待ってくれ。直ぐに冷ますから……」

 

ガングートのニヤつきとサラトガの温かい目に耐えきれず帽子を深く被った。なんでこんなことをしてしまったんだ……。顔を合わせられない私は残り一個のマグに弾を詰め気を紛らわした。アクィラがこっちを見ている。

 

「その、グラーフ。この戦いが終わったら……」

「やめてくれ。それはフラグになる。後でじっくり聞くから」

 

詰めおわる頃には熱りも冷め、目を合わせるぐらいならできるようになった。他の連中も、先に上に行き見張っているヴェルはもちろん、補充はできたようだ。

 

「グラーフ、上に来てくれ。DEの様子がおかしい」

「DE? 鈴熊を最後に、雪風が見かけたのはその辺だったよな?」

 

アクィラに手招きをして一緒に屋上に向かう階段を登り始める。数時間前に屋上で見た出来事を思い出してしまい顔を顰めるがアクィラが手をしっかりと握ってきたお陰で楽になった。屋上に出るとヴェルがDEを指さした。すると艦中央第二甲板あたりで爆発が起きた。慌ててHK417のスコープを覗き込み様子を伺う。やがて、見えにくい前甲板にある76mm単装速射砲が再び動き出しているのが見える。角度的にここは撃たれないがどこを撃つつもりなんだろうか。動きがあるのはわかるが上部構造物と煙が邪魔をしてどこを向いているのか全くわからない。動きが止まったかと思うと射撃を開始した。工廠に向けていくつもの砲弾が叩き込まれ火の手が上がった。

 

「占領されている工廠に砲撃だと」

 

状況からして絶望的だが、艤装を取りに行ったしおいとゆーの生死はまだはっきりしていない。敵に対する砲撃かもしれないし、艤装を手に入れた二人に対する砲撃かもしれない。二十発ほど砲撃すると今度は隣の埠頭に泊まっている輸送船に対しても砲撃を行った。今DEにいるのは敵じゃない、もしかして……鈴熊か?

 

 

─時は遡ること数十分前─

 

「前に敵は……いませんわ」

「こっちも大丈夫。なんとか振り切れたみたい」

 

埠頭近くの建物に籠る影が二人。両方とも息を切らし肩を上下させている。リシュリューから逃げろと言われ渋々従い、状況を説明した通信を流し、アイオワ隊の助けもあってなんとかここまで逃げてこれた。一度、官舎の方に行こうとしたが強力な敵と鉢合わせしてしまい仕方なく海沿いにここまで来た。

 

「熊野、残弾はどれくらい、ある?」

 

鈴谷が聞くと熊野はSIG SG510のマグを取り外し、その中を覗いた。

 

「十一発と二マグ。P226Rは手をつけてないから、何とかなると思いますわ」

「私は、バックショット弾がチューブ内に……三発、それと十二発。スラッグ弾が四発だけ」

 

ベネリM3を熊野に見せつけ、こんなことなら拳銃ぐらい買っておけばよかったかもとぼやいた。

息が整うのを待っていると、外で砲の連射音が聞こえ熊野が飛び上がった。鈴谷も声こそ上げなかったが体を縮こませている。恐る恐る外を覗くと近くにあるDEがここから見えない基地側に砲撃をしていた。着弾して炸裂する音と建物が崩壊する音が少し離れた場所から響いている。

 

「ねぇ、鈴谷。わたくしちょっといい事を考えたんですよ」

「なんとなく嫌な予感がするけど、何を考えたの?」

 

熊野はDEを指さし、はっきりと言う。

 

「あの76mm砲を使えば復讐ができるんじゃないかなって」

「ちょっと待って、敵がいるDEに乗り込むの。流石に危険だよ!」

 

鈴谷の抗議に答えることなく、熊野は顎に手を当てブツブツと呟きながら思考を纏めている。こうなったら梃子でも動かない事を一番よく理解している鈴谷は不安げな表情になりながら親友を見ていた。五分ほどたった頃、熊野が口を開く。

 

「カッターが確か艦尾に繋留されたままだから埠頭とは逆側の左舷から回りこめば侵入できるかもしれないわ。やってみる価値はあると思うわよ」

「熊野、幾らグラーフのために通信を流したとはいえDEに乗り込むのはちょっとどうかと思うよ」

 

熊野はその言葉に顔を顰め言いにくそうに口を開いた。

 

「やりたくないと言うのなら別に無理に連れていきませんわ。これはわたくしの戦いです。わたくしだけで行きますから」

 

彼女はそう言いきり、準備に取り掛かろうと立ち上がった。

 

「待って!」

 

鈴谷が熊野の手首を掴み、止める。その表情は迷っていたがやがて決意の篭もった目を熊野に向ける。

 

「鈴谷も一緒に行くよ。一人で行くより二人で行った方が確実でしょ?」

「構いませんが、てっきり行きたくないのかと……」

「リシュリューさんやグラーフがさ、どう思うかなって考えていたんだよ。最初は反対するかと思ってたけど、よくよく考えたらあの二人は復讐を肯定しているからやっていいかなって結論が出たんだよ」

 

流されすぎるのは良くないが、我々も完璧じゃない以上復讐はしたくなると言う言葉を結構前に聞いたと鈴谷は言う。それを聞いた熊野は、肩を竦めたが鈴谷の手を引き立ち上がらせた。

 

「では、一緒に行きましょう。わたくしの相棒(パートナー)さん」

 


 

二人は潜んでいた建物内にあった使えそうなものを確保した。鈴谷は流石にナイフ一本は嫌だったようで、基地要員死体から9ミリ拳銃を回収する。

 

「ごめんね、ちょっち借りるから。後で返すから」

 

熊野は自身のP226Rを確認し右脚のレッグホルスターに戻した。激しい重機関銃の銃声がして外を見るとDEの後部甲板が恐らくアイオワ隊の弾幕を受け、穴あきチーズになっているのが見える。熊野はこれをチャンスと捉え、地下の酷い匂いのするパイプを通り海まで行くことを提案する。それに賛同した鈴谷は熊野の案内の元、パイプに降りていく。それは今は使用されていない古い排水管でひどい匂いとぬめぬめしたもので覆われていた。

 

「うわぁ……」

 

鈴谷が嫌悪感を隠そうともせず表情を曇らせる。

 

「まあ、古い排水管なんてこんなものですわよ。早く進みましょう」

 

チラリと鈴谷が熊野の顔を覗くと彼女の顔も曇っていた。早く出たいということで意見が一致した二人は可能な限り素早く(ゆっくりと)排水管を進んだ。ローファーとぬめぬめの相性は最悪で、艦娘の身体能力を発揮して転びはしないが素早く進む余裕なんてない。五分ほど進むと海が見えてきた。腰を低くし拳銃を構え慎重に外の様子を伺う右手百メートルの場所にDEが見える。甲板上には誰もいないが艦橋内で動く人影が見えた。熊野が目を凝らし先程交戦した敵の仲間のだと確信する。

 

「艦橋もやはり乗っ取られていますわ。甲板上には射撃を警戒してか誰もいないから今がチャンスだわ」

「よーし、じゃあ行こう」

 

ちょっと待って、と熊野が海に入ろうとする鈴谷の襟を掴み止めた。鈴谷がグェっと声を上げ抗議するが意に介さず口を開く。

 

「潮が引いているから埠頭の古い土台を伝って行けますわ。わざわざ泳ぐまでもないですわ」

 

幅十センチほどの狭い足場が奥まで続いている。見られたらアウトな気もするがその時は海に飛び込んでと熊野は行った。この埠頭は深海棲艦の射撃を受け大きく損壊したものの上に建てたもので水中に入れば隠れやすいらしい。艦橋に目をやりつつ、慎重にDEに接近していくと、射撃場の方向から銃声が聞こえた。熊野はアイオワ隊が戦闘しているのかと思考を巡らすが、強力な妨害電波で確認は取れない。

慎重に進んだ結果か、それとも後部甲板への銃撃を警戒してかは知らないがうまいことDEの甲板上からは見えにくい場所まで潜り込めた。目の前にあるDEのカッターは三メートルと離れていない。訓練に使っていたのかオールが出しっぱなしである。

 

「数年前までは生きていたのに……」

 

寂れた、もはや海に出ることすら許されないDEを見て鈴谷が呟いた。一応乗組員は居るとはいえ大半が訓練のために乗り込んでいるだけで砲周りや艦橋などはよく使われるが、予算や人員不足で機関整備や推進器周りは放置されまともに動かない。艦底にはフジツボがびっしりと張り付き生を謳歌している。こんな、艦としては惨めな後世に鈴谷は悲しみを感じたのだ。

 

「そういう事を考えるのはあとに。さて、どこから乗りましょう……」

 

熊野は艦底には目もくれずどこが一番乗り移りやすいかと探している。

 

「カッターから飛び移ろうかと考えていたけど、あの衝突防止用のガードから乗り移った方が良さそうですわね」

 

そう言い艦尾両舷についているパイプを組合わえて出来たものに手を降る。左舷側は海側にあるため行けないが右舷側は埠頭にかなり近そうなため行けると熊野は考えた。カッターに飛び移るよりはいいと思うと鈴谷が言い、行動に移る。波が荒くなってきて西の空が暗くなってくるのを見て足を少しでも早めながら埠頭の土台沿いにDEの右舷に回り込んだ。熊野の見立て通りガードパイプの先端が埠頭から二メートルと離れていない位置に確認できた。

 

「先に行きますわ」

 

熊野がガードパイプに飛び移りするすると第二甲板にある曳航機器を搭載している開けたスペースに移った。鈴谷も見よう見まねで飛び移ったが、塗装が禿げかかっているガードパイプは彼女が思った以上に滑り危うく落ちかけた。なんとか両手でパイプを掴め腕力を使いパイプの上に乗って第二甲板に移ろうとしたが柵を超える際に負い紐で背負っていたショットガンがずり落ち大きな音を立てた。慌てて背負い直し柵を超えたが、敵に聞かれた可能性があった。見るからに慌てた表情をした鈴谷は熊野にどうしようと目で訴えかけると彼女は口に人差し指を当て静かにするよう示し、鈴谷を置かれていた左舷側大きな機器の裏に、彼女は艦内に通じるドアの蝶番側に隠れた。

やがて音源を確認しに来たのか一人の男がドアを開け艦尾にやってきた。男は右舷側をしきりに見渡している。ドアが閉まったのを確認した熊野は見つかる前に男の首を右腕で締め倒し、一気に首を回した。コキっと乾いた音が一度だけ鳴り声を出す暇もなく男は死んだ。彼女は死体のバックパックを確認し、恐らく隔壁突破用に持ってきたであろうC4を見つけ鈴谷に渡した。その後、熊野は鈴谷に目をやり男の足を持つよう指示を出し、彼女は肩を持った。二人がかりでこれをその場にあったロープや持ってきた袋などを使い海に投棄し、呼吸を整えた。鈴谷の顔色があまり良くないことに気がついた熊野は声を掛ける。

 

「大丈夫かしら?」

「大丈夫、と思う。ただ、人って、艦娘もだけど簡単に死ぬんだと思うとちょっと……」

「鈴谷……」

 

掛ける言葉が見つからなかったのか熊野は親友にそっと寄り添い肩を合わせた。

 


 

ちょっとした内職をしていると。鈴谷の顔色が良くなり調子を最低限取り戻したことを熊野が確認する。データパッドを仕舞い、C4を仕舞うと彼女達は再び動き出した。ベネリM3にバックショット弾を装填した鈴谷が先行しSIG SG510を持った熊野がその後ろで援護に入る。DE艦内は陸上から供給されている電力のお陰で明るく、沢山の銃痕と死体がチラホラと見え、硝煙と血の匂いが充満していた。艦内の惨状に二人して顔を顰めるが何も喋らなかった。右舷側の艦内通路を通り中心部近くにある戦闘指揮所(CIC)に向けて進み出す。忍び足で耳を済ませなながらゆっくりと進む。途中、こっちに向かってくる足音や遠くに敵が見えた時は近くの部屋に入ったり壁に張り付きやり過ごした。隠れるために入った食堂には何人もの武装したDE乗組員の死体が転がっていて、居た堪れない気持になり鈴谷はそれを誤魔化すために水を一口飲んだ。明らかに場馴れした手つきで熊野は死体漁り六四式小銃とマグ数個、手榴弾、トランシーバーを確保する。

 

「ねえ、熊野。なんでそんなに慣れてるの?」

「艦娘としてはわたくしの方が先に生まれた分、色々経験をしたのですわ」

 

経験ね……と鈴谷が呟き遠くを見る。ええ、経験ですわと熊野は言い扉に耳を当て外の様子を伺った。空調と外から聞こえてくる銃声以外は聞こえない。レバーを回しゆっくりと外の様子を伺うと……誰もいなかった。熊野は手招きして鈴谷を呼び寄せ外に出る。扉を静かに閉め鈴谷はすぐそこにあるCIC目指して歩みだした。だが、護衛艦の艦内とはDEの様な二〇〇〇トン級でもそれなりに複雑である。先程、敵から隠れるために隔壁の影に入ったように、敵が隔壁の影にいたのだ。

ベネリM3を構えていた鈴谷は左を見た際に隔壁に寄りかかり休憩している敵と目があった。両者は目を丸くして若干固まったが直ぐに動き出した。敵は叫びながら体の脇にあった小銃を構えようとするが鈴谷の方が、構えているから当然ながら早い。ベネリM3の銃身で顔を殴りつけ反動を使い銃床を敵の方に向けそれを振り下ろす。敵の頭が凹み倒れ込むと鈴谷は熊野のを見る。

 

「急ごう!」

 

鈴谷は駆け出した。熊野が遅れて後に続く。下や上から声や足音が聞こえてくる中、鈴谷がCICに入る扉に張り付き熊野は手榴弾を用意した。鈴谷が扉を勢いよく開け熊野が破片手榴弾を投げ込む。刹那、爆発。鈴谷が飛び出し、広くはないCIC内にいる敵目がけてバックショット弾を放った。手榴弾のお陰で多くを無力化には成功していたとはいえ、ハンドグリップを何度か前後させる必要があった。遅れて入ってきた熊野は敵を確実に絶命させるために頭部に7.62x51mm弾を的確に叩き込む。

 

「鈴谷」

「わかってるって!」

 

熊野が扉を見張り、鈴谷が火器管制の制御基盤やその周辺、その他適当にちぎったC4と手榴弾を合わせたものを設置し、死体から奪った導火線を伸ばした。導火線をこれまた奪った発火装置に繋げ遠隔起爆装置とリンクさせる。

 

「用意できたよ!」

「了解、行きましょう」

 

右舷側の扉を開けると、そこに銃弾が多数刺さった。熊野が荒く舌打ちすると左舷側の扉に駆け出し、勢いよく扉を開いた。こっちからは銃撃がなく、熊野は飛び出す。敵がまだ居ないことを確認すると彼女は先程撃ってきた艦尾側を向き膝をついてSG510を構える。鈴谷が慎重に出てきて艦首側を警戒した。目指す先の艦首の水密扉は閉まっている。

 

「鈴谷、先に」

「うん」

 

鈴谷が駆け足気味に進み十数メートル先にある水密扉に張り付き開けようとした。当然ながらこの動きを敵が見逃す訳もなく左舷側にやってきた敵から銃撃を受ける。熊野がこれに対して反撃し一人を打ち倒す。セミオートで撃っていたSIG SG510の弾が切れリロードする余裕を作ろうと残数少ない手榴弾を投擲する。それが炸裂するやいなや、鈴谷の元に向かいつつ最後の一個となったマグのツメを銃に引っ掛け叩き込み、チャージングハンドルを引いた。後ろを振り返り数発をフルオートで放った。首を出そうとしていた敵はこの通路からは撃てないと、移動を開始した。固く閉められていたため、ようやく空いた水密扉の中に鈴谷が入る。熊野は先程仕掛けた起爆装置の握り通路の奥を見通す。

 

「では、御機嫌よう」

 

鈴谷が締めようとする水密扉の中に彼女は飛び込み、背後で扉が閉まるやいなや、CICに仕掛けた爆薬を起爆した。艦が揺さぶられ、長年積もった埃や塵が艦首、主砲弾庫内にいる二人に降り掛かる。揺れが収まると同時にいつもなら容姿を気にする熊野が降り掛かった埃を払うこともせず、部屋の中にある砲台長管制盤(CTC)に張り付いた。彼女は艦外の監視カメラを──先程、休憩した際に接続した──データパッドを通して見ながら、凄まじい速さで操作しCICからはもう操作できない76mm砲を操る。一方鈴谷は適当に砲弾一発を選びそれをIDEに改造する。砲弾の信管をその場にあった機器でいじり、二つあるトランシーバーの片方をばらし、導線を信管に繋ぐ

 

「ちゃんと撃つ方向わかってるよね?」

 

一心不乱に操作する熊野に鈴谷が話しかけた。

 

「それぐらいわかっていますわ、これでも秘書艦代理の最終選考まで残ったのですよ?」

「グラっちに負けたけどね」

 

熊野が乱雑に管制盤を叩き鈴谷の方に顔を向けた。

 

「あの方は自他ともに認める優秀な人だから仕方ないですわ。それより鈴谷、耳を塞がなくて宜しくて?」

 

彼女は管制盤のカバーを開き、トリガーを押した。鈴谷は慌てて耳を塞ぎ頭上から聞こえる砲撃音を少しで弱めようとする。76mm砲が榴弾を毎分八十五発のペースで連射し部屋内にある回転式弾頭が勢いよく回転する。76mm砲から撃たれた砲弾は熊野が脳内で計算した通り占領された工廠に降りかかり、敵や設備を消し飛ばしていく。消し飛ばされていく中には顔を射貫かれたU-511や艤装も含まれている。熾烈な砲撃で工廠の壁や梁が破壊され、自重に耐えきれなくなった箇所から崩壊していく。熊野は残弾が残り数発になったのを見て、砲撃を停止させた。彼女は再び管制盤を弄り、砲の角度と向きを調整する。

 

「待って、今どこに撃ってたの?」

「もちろん、工廠ですわ。艤装と生産設備が奪われることだけは絶対に避けなければいけません」

 

工廠という言葉に鈴谷が反応し肩をビクッと揺らした。確かに、現状において最大の軍事機密であり、一部の国にしか提供していない艦娘を何処の馬の骨かもわからない連中に渡すぐらいなら吹き飛ばした方がいい。しかし、それを躊躇う様子もなく実施する相棒に恐怖を感じてしまう。最も距離の近い人の狂気に。

その様子に気付くことも無く、熊野は調整を済ませ、再度トリガーを押した。放たれる砲弾が今度は敵を乗せてきた輸送船を抉りとる。装甲もない、戦闘艦ほどいい鋼材を使っていない輸送船に砲弾が一発、一発と当たる事に大穴が穿たれ、炎が顔を出す。即応弾の殆どを使い果たしていたため直ぐに砲撃をやめてしまうが輸送船にはそれだけで充分だった。船体に空いたいくつもの大穴から水が流れ込み急速に沈んでいく。水深の浅い湾内であるため水没こそしないが、着底し、炎に飲まれる上部構造物が光を放つ。熊野はその光景を見てほくそ笑んだ。予想通り上手く言ったと喜び天を仰でいると、違和感を感じる。既に砲塔の操作を邪魔されないようにCICを爆破してから数分が経過しているが、扉の外からはそれを叩く音も、こじ開けようとする銃声も、爆破音も聞こえない。彼女の予想では恐らく敵の主目的である艤装と艦娘技術の確保を目標としていたと考えている。それを邪魔するために工廠を吹き飛ばし、妨害電波の発信源である輸送船を潰したのにも関わらず、だ。顎に手を当て自然と視線が上を向く。脱出に使うつもりであるダクトのシャッター付きカバーに目をやると光がチラついて見える。

熊野は目を見開き鋭く体の向きを変え、座って作業している鈴谷を突き飛ばす。

アサルトライフルの乾いた連射音が狭い部屋の中に響き渡る。突き飛ばされた鈴谷は突然のことに唖然としているが、倒れながら熊野の背中から血が出たのを見逃さない。その血飛沫は鈴谷の顔に掛かる。それだけに留まらず再度、背中から血飛沫が上がり、その弾は熊野の体を抜け彼女の体の下にあった鈴谷の左腕までも貫く。うつ伏せに倒れた熊野が震えながら横目使いで背後にあるダクトカバーを見て体の下から出したP226Rをそこ目がけて乱射する。鈴谷も拾った9mm拳銃を右手で構え撃ち込む。

敵は手榴弾を投げ込もうともしたが自身が開けたシャッターの穴から飛んできた銃弾を受け死んでしまう。手榴弾は既にピンが抜かれていて、死ぬと同時に手から落ちダクト内に転がる。攻撃手榴弾であるそれは、遅延信管が作動すると同時に二百二十七グラムのTNT爆薬が信管により爆轟、そのエネルギーを解放する。ダクトが弾け、カバーが吹き飛び床に激突する。爆発を受け鈴谷は咄嗟に右腕を顔の前に出し、顔を守った。爆煙が晴れると、ダクトは変形し捻れていた。

鈴谷は脅威が去ったことを確認すると、座り込み熊野を仰向けにしながら手当を行う。

 

「無駄ですわ……。肝臓撃ち抜かれています……」

「無駄なんかじゃない! 生きて、生きて脱出するって ……」

 

涙目になりながら鈴谷は止血帯を彼女の体に押し当てる。しかし、それが役に立たないほど大量の血が熊野の細い体から血が流れ出ている。無駄だとわからせるために熊野はそっと血を止めようとする鈴谷の手を払い除けた。

 

「わたくしはここで死ぬさだめ(運命)なのですよ……。だから、鈴谷、お願い。あなただけでも生き残って」

「鈴熊聞こえるか! グラーフだ!」

「グラっち!」

 

輸送船を撃破した事で妨害電波発信源が破壊されたのか通信が繋がる。

 

「今どこで、何を」

「熊野が撃たれて、死にそうなの!」

「鈴谷、落ち着いて……今、状況レポートを送りました」

「どれこっちも送った……確認した」

 

息を呑む音が聞こえ、最後の言葉は弱々しかった。

 

「今から助けに──」

「来ないで下さい。もう脱出経路も塞がれましたし、私達が死ぬのも時間の問題です。今の状況ならそれよりも提督の救援を」

 

徐々に熊野の言葉がか細くなってきていた。彼女のただでさえ白い顔は真っ白になり末端が冷え始めた。呼吸が乱れ始め冷汗が薄らと首に浮かんだ。

 

「もう、喋らないで、お願いだから……」

 

鈴谷が彼女の体に覆いかぶさり、泣き始める。嗚咽が歯の隙間から漏れ、部屋内だけでなくグラーフの耳にも響き渡る。グラーフの息が漏れ、彼女が率いている五人のざわめきも伝わってくる。熊野は鈴谷の頭を撫で近くにある彼女の耳に囁いた。すると鈴谷は泣くをの止め、起き上がり、少し弱いが決意の篭った声でグラーフに通信する。

 

「グラっち……本当に申し訳ないけど、私は熊野と一緒に行く。私が着いていかないと熊野は寂しいだろうし、どうせこのままじゃあ生きてはいられない」

「おいちょっと待て、急にどうして」

「ごめん、許して。やりたいことがあるから」

 

鈴谷はグラーフから来る回線を切り、彼女からグラーフ達に届く回線は敢えてそのままにした。

 

「ごめんなさい、わたくしが、感情に呑まれあんなこと言った、せいで……」

 

途切れ途切れに言葉を紡ぎ、熊野は彼女のそばに居るパートナーの顔をそっと触れる。火傷しそうになるほど熱かった頬にひんやりと冷たさを感じさせる涙が流れる。その冷たい手を鈴谷は両手で握りしめた。

 

「いいんだよ。鈴谷だってやりたくてしているんだし。なにより熊野と一緒に入れるだけで幸せだよ」

 

彼女の顔は熊野と対照的に紅潮し目は穏やかなものになっている。ニーソは血にまみれ、スカートも解れ、血を少しずつ吸っている。そのことを熊野は心配し、鈴谷は気にもとめてない。

 

「わたくしは、貴女を、ここまで連れてきてしまったことを、後悔し、喜んでいますわ」

 

相反する感情で挟み撃ちになった熊野は僅かに顔を顰め焦点が合わなくなってきている目は下を向いた。

 

「後悔しなくていいよ。最高とは言えないけど、悪くない環境で二人ともいっしょに(・・・・・)なれる。もっと生きて一緒に居たかったけどね」

「なら」

「でも、あんな時に耳元で告白されちゃあ、一緒に居るしかないじゃない。鈴谷はそれが嬉しいよ」

 

一時の……迷いですわ。というか細い声が聞こえたが無視して感情が高まり切った鈴谷はしっかりと彼女と目を合わせ、水密扉を撃つ音が激しく響き、手榴弾が炸裂するような音が響く中、情熱的にキスをした。凍えそうになる熊野に体液(生気)を渡し、必死に温めようとする。熊野は一瞬抵抗するも受け入れ、動きの悪くなった舌で必死に受け止めた。熊野が血溜まりから震える腕を上げ鈴谷の背中に回すと鈴谷は熊野の顔に触れる。

水密扉が歪み始める音が響いた。鈴谷がキスを終え、酸欠でふらつく顔をあげると熊野の目は虚ろになっていた。熊野の手が鈴谷の背中からずり落ち、血溜まりに落ちる。物足りなげな顔をした鈴谷は指先だけは動く左腕で残っていた一台のトランシーバーを持ち、右手で落ちていった熊野の手をそっと握る。

 

「さあ、熊野。一緒に行こう」

 

鈴谷は熊野のそばに寝転び彼女の頬にキスをすし、トランシーバーに予め登録した電話番号を呼び出す。それは同じ部屋の中にあるトランシーバーのもので、砲弾に繋がっている。

トランシーバーが着信を受け電流をケーブルを通り信管へと流す。それを受け信管が作動を開始し、起爆薬が爆ぜた。砲弾、榴弾の炸薬が一気に爆轟し、下のフロアにある弾薬に揚弾機を壊しながら爆風と高い圧力を届け誘爆させる。古いDEに主砲弾の残りはそんなに残っていなかったがそれで充分だった。鈴熊の二人は一瞬のうちに爆発と高温で溶け、混ざり合い、最後の最後で二人は正真正銘、一つになれた。残念なことにそこで終わらず、圧倒的なエネルギーを前に蒸発していく。

DEは主砲が吹き飛び、水密扉を突き破る。荒れ狂う炎が人を焼き死体を焼き艦を焼く。艦内を舐めわすように暴れ周り途中にある出口でそれが吹き出し天高く伸びる美しい火柱を、焼けてきた空に創り出す。上部構造物が燃えはっきりとした黒煙を天に伸ばす。

弾薬庫が誘爆したエネルギーのお陰でDEの艦首が真っ二つになり、そこから急速に浸水していった。力強い水流が隔壁を突破し、水底へとDEを引きずり込もうとする。二つに割れた船体のうち艦中央の方は第二甲板まで水没し焼けた死体を冷ましていく。浅い港内だったことが幸いし第一甲板上がある程度水に浸かったところで着底した。一方、艦首側は艦底から急速に浸水し、バランスを崩していく。艦首が上を向き始め第一甲板上に載っていた破片がずり落ちていく。しばらくその状態のまま沈んでいたが、先端が着底し艦首の重量に耐えきれず圧壊。そこからバランスをさらに崩したことで艦首が立っていく(・・・・・)。普段は日の当たらない艦底が照らされ防汚塗料とフジツボが顕に。やがて安定して着底するが、艦首は完全に上を向いていた。鈴熊に対する墓標のように。永遠の愛を成し遂げた彼女達への記念碑のように。

 

 

 

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