【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】 作:ウエストポイント鎮守府
そんなわけで今作は前から考えていた艦これ世界を書かせて貰いました。個人的に、この世界観が一番現実味あるかなと思います。
1話 提督就任
帰宅ラッシュが終わり、人もまばらになった駅のホーム。そこでスマホからニュース情報を眺めている青年がいた。
「世界規模で発生しているネットワークウイルスかぁ……。怖いねぇ」
彼は元原大輝。ただのIT系企業に勤める会社員だ。あと何ヶ月かすれば、彼も晴れて三十路の仲間入りである。
電車に揺られること数十分、最寄り駅についた元原は途中コンビニに寄って晩御飯を調達した。せっかくの一人暮らしだから自炊も頑張ろうと意気込んでいたのは最初の数ヶ月だけで、今になっては面倒という理由だけでコンビニ飯に傾倒していたのだ。
自宅であるアパートに帰ってきた元原は、ポストの中を覗く。普段は入ってないことが多いのだが、この日だけは少々事情が異なっていた。今まで見たことないような封筒が一通入っていたのである。
「なんだこれ?……カシカワ?」
カシカワとは、「日本のサブカルチャーを牽引する」を企業理念においた大手企業、KASHIKAWA株式会社のことである。多数の書籍や漫画レーベルを持ち、ゴロゴロ動画という動画サイトを運営するなど、その理念に沿うような事業を展開している。
そのカシカワから突然封筒が届いたのだ。元原には請求の類いをしたような記憶はない。
「とりあえず開けてみるか……」
部屋に入った元原は、封筒の中の紙を見る。
そこには「特務提督就任のお知らせ」と題した複数枚のコピー用紙が入っていた。
「なんだこりゃ?……『別紙に記載したウェブサイトから添付したIDとパスワードを入力してください』?」
今時こんな古い手法があるのかと元原は思った。だが、これがどのようなものなのかという興味も同時に沸いた。
早速パソコンを立ち上げると、ブラウザにURLを打ち込む。
そのサイトに飛んでみると1秒にも満たないロードを経て、デカデカとタイトルが画面いっぱいに映し出された。
「艦隊これくしょん……?」
最近ネットで話題になっているブラウザゲームだ。元原自身はやってはいないが、友人たちはやっているとのことだった。だがなぜこのサイトに飛ばされたのか、やはり元原には理解できなかった。
画面を少しスクロールすると、入力フォームが現れた。ここにIDとパスワードを打ち込むのだろう。
元原は少しためらったあと、それぞれを入力した。
エンターを押すと、画面が真っ暗になる。
「あっくそっ!完全にやられた!」
元原が頭を抱えていると、画面は何もなかったかのように続きを表示しだした。
「か、ん、こ、れ!始まります!」
元原は感情があっちこっち行ったせいで、もはや無心となっていた。
そんな彼を置いたまま、モニターは初期艦を選択する画面に移る。元原は何も分からないまま、初期艦を選択した。
「初めまして、吹雪です!よろしくお願いします!」
「あっはい、よろしく……」
吹雪の挨拶に、思わず元原も反応する。
「あっ、あなたが特務提督さんですね?お話は聞いてます」
「……ん?今俺のこと呼んだ?」
「はい、お呼びしました!」
現在進行形で起きている現象に、元原は一瞬受け入れてしまった。だがすぐに正気に戻り、『画面の中』にいる吹雪に確認をする。そして吹雪はそれに答えた。
「ちょ、え!?どゆこと!?」
「大丈夫ですか?司令官?」
「……司令官って俺?」
「他に誰かいますか?」
元原は少し考えたあと、布団へと潜り込んだ。
「しれいかーん!どこ行くんですかー!」
「寝る。悪い夢を見てるんだ。そうに違いない」
「夢じゃないですよー!」
これは現実だと認識せざる状況の元原は、しぶしぶ布団から出てくる。
「えーと…どゆこと?」
「司令官が混乱するのも仕方ないです。なので私が説明しますね!」
吹雪が画面外に走っていったかと思うと、画面が移り変わって背景が黒板になる。
「まずは艦これの仕組みについてお話しますね!」
「あ、はい」
「一般世間で艦これは『艦娘を編成、育成、強化しながら無敵の連合艦隊を目指す育成シミュレーションゲーム』という風に認知されています。しかしこれは世間の目を欺くためのものであり、本当の目的は別にあります」
「本当の目的?」
「はい。その目的は『マルウェア対抗用アンチウイルスソフト』なんです!」
「アンチ……ウイルスソフト?」
「そうなんです!ほとんどのユーザーはそのことを知らず、普通にプレイしています。ですが、一握りのユーザーはそのことを理解し、『特務提督』として活動しているんです」
「その特務提督ってのに俺が選ばれたのか」
「そうです。この特務提督の役割というのが、より深い部分でウイルスに対処できる権限が与えられるんですよ」
「でもなぁ、俺このゲームよく知らないし……」
「大丈夫です!そのために私がいます!」
そういって吹雪は胸を張る。そんなことは関係なしに、元原は考えることを放棄しようとした。
「とにかくですよ!司令官はあまり深いことは考えずに、普通の艦これと同じようにプレイしてれば大丈夫です!」
「そんなもんかぁ?」
「そんなもんです!」
元原は頭を掻くと、一つ溜息をついた。
「わかったよ……。やったるよ、提督」
「はい!よろしくお願いしますね!」
こうして、元原の不思議な提督業生活が始まったのであった。
「で、まずはどうしたらいいんだ?」
「基本は世間一般の艦これを同じですから、とりあえず工廠で新しい艦娘を建造しましょう」
そういって吹雪は母港画面にある「工廠」の部分を指さす。元原はそれに従い、工廠ボタンをクリックした。
画面が切り替わっても、吹雪はそのまま表示されていた。
「そしてこの建造をクリックしてください」
「おおう、なんか出てきた」
「これが建造するための資材投入画面です。ここで任意の資材量を入力することで艦娘を建造することができます」
「……これ、どのくらいにすればいいんだ?」
「今は資材もないので、全部30で行きましょう」
元原は言われるがまま、数字を変えることなく建造を開始した。
残り時間の表示は1時間を指す。
「これであとは1時間待ちます」
「何が出るとか分かるん?」
「いえ、ランダムです」
「マジ?」
「あ、いや、ある程度操作できたりするんですが、ちょっと難しいので今は考えなくて大丈夫です」
「あぁそう……」
「でもせっかくですから、高速建造材でも使いましょうか」
「この、高速建造でいいのか?」
「はい」
高速建造をクリックし、使用した。バーナーを引っ張り出した妖精さんが火を吹かせて、残り時間をあっという間に0にする。
妖精さんが、艦艇が完成したことを喜ぶかのように飛び跳ねる。
「では完成した艦娘を見てみましょう!」
吹雪はノリノリで言う。とにかく元原は吹雪の指示に従った。
艦艇の部分をクリックすると、また画面が切り替わってカードが表示される。そして画面が光り輝き、新たな艦娘の姿が映し出された。
「軽巡、多摩です。猫じゃないにゃ」
それは軽巡洋艦の多摩である。
「これはどうなんだ?」
「悪くはないと思いますよ」
「……多摩の話しているにゃ?」
「では次に編成をしてみましょう」
吹雪は編成の欄を指す。
クリックすると、6枠ある内の一つに吹雪が入っていた。
「私の隣の枠に多摩さんをいれましょうか」
「あい」
変更をクリックし、そこに多摩を編成した。
「これでいいのか?」
「はい、大丈夫です。それでは続いて任務を確認して『はじめての出撃!』を遂行しましょう」
今度は母港を指さす吹雪。ここまで案内するならそちらでやってくれないかと元原は思うが、残念ながらそれはできないようだったので、諦めて指示に従う。
すると画面上部の任務欄が点灯していた。そこを押すと、何かの一覧とともに、新たな艦娘が現れる。
「お疲れ様です、特務提督」
「ぅおう、こっちもしゃべるのか」
「はい。軽巡洋艦大淀です。本来は通常の艦娘ですが、今はこれが仕事になってます」
「仕事て……」
大淀がフェードアウトすると、現在の任務が表示される。
いくつかは任務を達成しているようだ。「はじめての『編成』」をクリックすると、いくつかの資材と新しい艦娘である白雪を入手した。
「あ、白雪ちゃん!」
「吹雪ちゃん!ここ特務提督の鎮守府なんだね!」
「うん、そうなんだよー!」
二人でキャピキャピしている光景をみて、つい若者の会話にはついていけない、と元原は思ってしまった。これも歳を取った弊害なのだろうか。
そんなことしている間に、もう一つの任務を達成していたので、それも入手した。
「この後はどうすればいいんだ……?」
「これは暫く終わりそうにないにゃ」
「それは困るんだけどな……」
「じゃあ、簡単に私のほうから説明しましょうか」
本当はダメなんですけどね、と付け足して大淀が出て来る。
大淀の指示で、白雪も編成した第一艦隊を何も考えずにマップの1-1、すなわち鎮守府正面海域へ出撃させる。
「あ、出撃ですね?頑張ってきます!」
さっきまでの雰囲気とは異なり、少しだけ真剣な表情をする。早速Aマスに進出すると敵と会敵し、赤字で「戦闘開始!」が表示された。
互いに単縦陣の同航戦で戦闘が始まる。相手はイ級である。
「なんだあのビジュアル……。考えた人の精神どうかしてたんじゃないか?」
そんな元原のぼやきはスルーされ、多摩による砲撃が始まった。これによりイ級は体力を半分削られ中破に。イ級の砲撃は吹雪を襲うものの、小破にもならずに済んだ。
そのまま吹雪が砲撃する。それが見事に命中し、イ級は撃沈となった。
「いい調子です、提督」
「いや……、ほぼ勝手にやってくれてるんだけど……」
「艦これは運も味方につけないといけないゲームですから」
「さいですか……」
そんなことをしていると、画面いっぱいに羅針盤が表示され、勝手に回転する。そして回転が止まると、針が向いていたと思われる方向に艦隊が移動したのだ。
「今のも運要素の一つですね」
「マジかよ……」
正直元原は、戦闘中ずっと驚いてばかりだった。そのほとんどは運、すなわちギャンブル的な構成によって出来ていたからだ。
そんなことを考えているうちに、画面では次の戦闘が始まっていた。ここでは軽巡1隻、駆逐3隻の艦隊が相手だ。
元原は今回も砲撃戦で決着がつくものかと考えたが、残念ながらそうは行かず、砲撃を外すことを知らせる「miss」がむなしくホップアップされていた。
そして互いに砲撃が終わると雷撃戦へと移り、雷跡が交差していった。攻撃は互いに大きなダメージを負わせる。敵は駆逐1隻を撃沈させることに成功したが、こちらも呼応するように白雪が中破になった。
「えっ、なんか服破けてない?」
「そういうシステムです」
「嘘でしょ!?てか君もよく淡々と報告できるね!」
そんな元原の突っ込みもむなしく響く。
「ま、まだやれます!こんな所で引けませんから!」
ここで画面は、上下から来た扉のようなもので閉ざされ、二択を迫られた。
「これはどうすれば……?」
「これは逃げるか戦うかの選択画面なので、提督のお好きなようにしてかまいません。今回の編成なら、夜戦は強いですから、続けても問題ないでしょう」
「そうですよ司令官!私たちはまだまだやれます!」
画面の奥から吹雪が答える。
「そうか。じゃあ続けようか」
元原は夜戦突入をクリックする。
すると扉が開かれ、夜戦であることを示すように全体的に明度が下げられていた。
さっそく多摩が砲撃する。すると先ほどまでとは異なり、急に砲撃が通るようになったようで、軽巡を葬り去る。
それは吹雪、白雪も同様だったようで、それぞれ駆逐を撃沈させた。
これにて戦闘終了。結果が表示される。
「勝利A。まぁまぁ悪くない結果ですね」
「やっぱり多摩は優秀だにゃ」
MVPを取った多摩が胸を張る。
すると画面は「新たな仲間を発見しました!」というメッセージを表示した。
「これは?」
「ドロップ艦ですね。私たちの仲間になる艦娘です」
建造の時と同じように、光り輝く背景からカードのようなものが出てきて、艦娘が現れる。
「霞よ。……ふーん、あなたが特務提督なのね」
第一印象はあまり良いとは言えなかった。
「そういえば、これも運なのか?」
「はい、そうですよ」
画面はいつの間にか母港に戻っており、そこにいた吹雪が答える。
「戻ってきたら、艦隊に補給をしましょう」
そういって吹雪は「補給」と書かれたボタンを示す。
元原はそれをクリックすると、必要な燃料と弾薬が画面上部に表示される。下にはまとめて補給できるボタンがあり、なんとなく元原はそれを押して補給させた。
「補給が終わりましたね。でしたら怪我した艦娘を入渠させましょうか」
「そうにゃ。早くお風呂に入りたい……」
「では、司令官。ここを押してくださいね」
吹雪は入渠のボタンを示した。そこをクリックすると、なんとも港らしい画面が出てきた。二つある枠のうち一つを選択すると、艦娘が表示され、中破や小破になっているかを確認できるようになっていた。今一番損傷を受けている白雪を入渠させた。その下には、ダメージは負っているものの、そんなでもない吹雪を選択する。
吹雪はすぐに回復したが、白雪はまだ時間がかかるようだ。
ここで元原が疑問に思っていたことを吹雪に聞く。
「このゲームかなり運が必要みたいだけど、何か理由でもあるん?」
「理由はありません。……と言いたいところなんですけどねぇ」
「……もしかして訳あり?」
「はい。もし聞くならそれなりの覚悟が必要ですよ」
「……よし、分かった。話を聞こう」
元原の返答を聞き、吹雪は語りだした。
「……私たちはかつて存在していた軍艦が元ネタです。それはすでに話した通り、艦これがネットワークの海、もしくは電子の海でアンチウイルスソフトの役割を果たしているからなんです。そもそもこのマルウェアは深海棲艦と呼ばれ、ネットワークにはびこって個々の蓄積データを消去、改竄して情報社会を世界規模で混乱させようとしている悪意の塊のようなものなんです」
「ほうほう……」
「そこで、10年ほど前にカシカワは深海棲艦に有効なアンチウイルスソフトを作ろうとしました。しかし一から作っていては到底太刀打ち出来ません。そこで被害にあったデータの中から深海棲艦と思われる多数の破損データを収集し、これを組み合わせることで一定のデータ配列群をアンチウイルスソフトとして稼働させることに成功したのです」
「それが艦娘……?」
「正解です。艦娘は深海棲艦から得られた破損データを用いて再現を行ったものです。破損データの中には艦娘として構成することができないものや、正しい配列になっていないと機能しないものもあるため、ある種の乱数に依存してしまっているのです」
「なるほど……」
「このランダム性は艦娘の入手手段において、ほとんどの場合発生します。そのため、世間一般では運ゲー呼ばわりされてしまっているのです」
ここまで聞き、元原はなんとなく艦これが取り巻く現状を把握することが出来た。
「実際、深海棲艦に対抗できる手段は私たちのみです。そのため、司令官には無責任ながら人類の社会のために深海棲艦と戦ってほしいのです」
「……まぁ、ここまでやっちゃったこともあるし……」
「それにカシカワから特別報酬ありますからね」
「……ん?今なんて?」
「カシカワからの特別報酬ですか?確か封筒に同封されてたはずですが……」
それを言われ、元原は封筒を引っ張り出す。中身を再確認すると、細かい文字列の中に報酬について書かれていた。
「んー……『特務提督に就任した場合は申告した口座に月10万円の報酬が振り込まれる』だって!?」
この記述に元原は衝撃を隠せなかった。今の仕事の給料にこの報酬が加われば、幾分か生活が楽になる。この思考が元原の頭の中を覆いつくした。
「司令官……?」
「やる」
「え?」
「俺、提督やるよ」
「ほんとですか!よろしくお願いします、司令官!」
「あぁ、よろしく」
こうして元原は提督になった。