【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】 作:ウエストポイント鎮守府
この日の元原は少しばかり緊張した面持ちでいた。最近親会社になったファザック株式会社から技術チームが派遣されてくる。訪問してくることが分かっているのに相手を出迎えないのは、社会人としての自覚があぁだこうだ言われることは目に見えているため、こうして玄関で待っているという次第だ。
先方はいいとして、自社のチームの顔ぶれだろう。元原にとっては他部署のメンツが気になっている。正直顔も見たことない人間ばかりだったし、初顔合わせの時は難癖のある人ばかりの印象を受けているため、上手くやっていけるかどうかが悩みの種になっていた。一応チームリーダーである楠木という男も、腹の底では何を考えているのか分からない感じだ。
そんなことを考えながら待っていると、一台のワゴン車が玄関の前に止まる。そして車内から、複数人がぞろぞろと出てきた。
「始めまして。ファザック株式会社の宇治山です」
「どうも、楠木です」
そういって二人は名刺の交換をする。
元原は特にこういった形式に沿ったような行為は、あまり良い印象を持たない。単純に堅苦しいのが嫌いなのだ。
そんな挨拶が終わると、早速本題に入る。自社が持つサーバがどんなものなのか、ようやくお目にかかることが出来るのだ。
今回の合同チームの結成目的は自社のサーバを使って、ファザックが利用しているデータのバックアップ及びサブコンピュータとして連携させることである。つまり、先方の技術者と自社のサーバを知る人間がサーバ群に処置を行うことが必要なのだ。
合同チームはサーバルーム、ではなく隣のサーバ管理室に向かう。どこでも同じであると思うが、サーバルームには基本的に入らず、管理室から操作する。
ちなみに今回の案件により、元原を始め、関係者全員に合鍵が渡された。今後各々が作業する際に自由に出入りできるようにするためだ。
「では実際に作業の方を始めていきましょうか」
ファザックの技術者がそう告げる。先方の技術者が持参したPCを、管理室のパソコンに接続しだす。実際の作業はファザックが中心であり、元原のチームはそれをサポートするのが基本的な流れだ。
こうして作業を通してサーバの様子を見ると、かなり強いスペックを持っていることを、元原自身が身を持って感じていた。
初日の活動は、先方のサーバと自社サーバが相互的に動作できるかを確認したり、そのためには何が必要かなどの見積りを出して終了した。今後はファザック側の技術者と連絡を取り合って、すり合わせの作業が中心になるだろう。
「ついにこの日がやってきました」
大淀が深刻そうな顔で告げる。
「運営から裏マップの攻略可能通知が届きました。これによって全国の特務提督が大規模作戦に参加します」
眼鏡を光らせながら、手元の資料を読み上げる。
「提督、作戦終了まであまり時間がありません。支給された兵装を艦娘に装備させ、出撃させてください」
「あぁ、うん……。それは分かったんだけど、その喋り方は何?」
「いやぁ、雰囲気出るかなって思いまして……」
「むしろ不気味そのものだよ」
大淀は後頭部を掻くような仕草を見せる。本人も分かってやっていたのだろうと元原は思った。
「それで、結局どうすればいいんだっけ?」
「ちゃんと話聞いてたんですか?」
「話し方が気になって聞いてなかった」
「しょうがないですね……。もう一回言いますよ?」
大淀は一つ咳払いをする。
「以前運営から支給された兵装を艦娘に装備させて出撃させるんです」
「おぉ、簡潔で分かりやすい」
「支給されたものは50cm三連装砲と魚雷発射管、それに艦上戦闘機の3種類です。よって装備できる艦娘はこれらを装備できる艦娘3人のみとなりますね」
「3人だけか……。そうなると、レベルから見て主砲は金剛、魚雷は吹雪、戦闘機は赤城かな」
「古参組ですか……。大丈夫だと思います」
「それじゃ、装備させますか……。と、その前にさ……」
「はい、なんでしょう?」
「明石はどうしてる?」
「あぁ……。なんか艦隊に配備されない低レベルの艦娘相手に娯楽を提供できる施設を作ってるとかなんとか言ってますよ……」
「……もはやアイテム屋じゃなくて土木屋になってない?」
「……もともと工作艦ですし、工兵とか施設科の任務は得意なんじゃないですか?」
元原と大淀は、二人して色々と察した目をしていた。
すると、タイミングよく吹雪が戻ってくる。だが、なぜか吹雪は浴衣姿であり、その手には何やらいろんなものを持っていた。
「あっ、司令官!」
「吹雪か。……これはどういう状況だ?」
「これですか?明石さんが作った商店街でお風呂に入ったあと、駄菓子屋でもらったリンゴ飴です!白雪ちゃんのお土産ですよ」
「あいつ、マジで何やってるんだ……」
元原は完全に頭を抱えた。大淀も同様だ。
「大丈夫ですか、司令官?」
「あぁ、大丈夫。それより、大規模作戦に参加できるようになったから、出撃するぞ」
「あっはい!分かりました!」
「そんな訳で、装備するものがあるから、すぐに工廠に来てくれ」
「すぐ行きます!」
そういって吹雪は画面から消えた。
「なんか明石のこと止める気力なくなったわ……」
「同感です……」
そうしている間に吹雪は工廠の方に行ったようなので、元原も画面を工廠に移した。
「それで司令官、装備するものとはなんですか?」
「えぇと、どこに仕舞ったっけな?」
元原は装備一覧を1ページごとに確認しながら、目的の兵装を探す。
「あったあった。これを装備してほしいんだよ」
「これは?」
「運営から支給されたやつ。特別なやつらしいから気を付けて扱ってな」
「わ、分かりました!……あれ?これしか装備はできないみたいですけど……」
「え、マジ?」
「この魚雷発射管を装備しようとすると、今装備しているものが全て解除されるんです」
「ありゃ、ホントだ」
「これは多分仕様じゃないですかね?」
「知っているのか大淀?」
「大規模作戦での特務提督の役割はかなり特殊。そのため、特務提督に支給される装備も相応の特殊性を持っているとされています」
「なるほど……。そうだったのか……」
「いや、真に受けられても困ります」
「えっ、嘘だったのか?」
「いえ、本当ですけど」
「怖いこと言ってくれるなぁ」
吹雪のことはそっちのけで、元原と大淀の漫才みたいな会話はオチもなく終了した。
「まぁ、そんなわけだから吹雪はもう大丈夫。すぐに出撃すると思うから準備しといてね」
「はい!」
「さて、あとは金剛と赤城にも来てもらわないと……」
元原は金剛と赤城にも同様に装備させる。その時にも直前まで装備していた兵装は全て解除された。
「それじゃ、この3人を第1艦隊に編成してっと……」
元原は3人を第1艦隊に編成させようとすると、これまた仕様なのか、3人以上は編成出来なかった。
「これで作戦海域に出撃するのか……?」
「そういうことになりますね」
「……ちょっとネットに裏マップないか探してくる」
「駄目ですよ、提督。ネット上にはそんなものはありませんし、存在したとしても確認された瞬間には全て消されてます。もちろん提督自身が裏マップだけでなく、特務提督のことをネットで言及すれば、特務提督の剥奪と超法規的な逮捕が執行されます。注意してくださいね?」
「えぇ……?何それこっわ、最初に言ってほしかったわ、それ……」
「日常生活で言ってたりしませんでしたか?その場合も逮捕されたりしますから」
「おっそろしぃ……」
「まぁ、何が言いたいのかで言えば、そこまで心配しなくても大丈夫ですよってことです」
「ほんとかよ。逆に心配になるわ」
「とにかく!出撃しましょう!そうじゃなきゃ始まりませんから」
「お、おう。そうだな」
元原は作戦海域を選択し、そこに第1艦隊を出撃させる。
画面が切り替わると、そこにはただの海の上に単純な一本のルートのみで、マス目も3つだけという、簡潔なマップであった。
「至極単純なマップだな……。1-1より楽勝じゃん」
「確かに、そう見て取れるかもしれませんね」
「え?もしかしてそうじゃないとか?」
「そんなことはないです」
「どっちだよ……」
そんなことしている間にも、第1艦隊はルートに沿って進軍する。
1マス目に到着すると、早速戦闘に移行した。だがそこに表示されたのは、これまで見たことのない、深海棲艦のヒト型でも装備のようなモノでもない「何か」であった。
「な、なにこれ……?」
「これが裏マップの敵です。ある意味、データを具現化したものになりますね」
「うわぁ……。なんか名状しがたいモノっぽいなぁ」
「ダイス振りますか?」
「いや、しなくていいから」
そんな会話を大淀としている間に、その「何か」に対して赤城が攻撃を仕掛け始めた。
「艦載機のみなさん、攻撃を開始してください!」
赤城に装備した艦載機が、「何か」に機銃で攻撃をする。仮にも艦上戦闘機が艦船に向かって機銃掃射は如何なものかと思ったが、意外にもあっさりと「何か」は倒すことに成功した。
そのまま進軍を選択し、次のマス目に進む。そこでも、よく分からない姿をした「何か」であった。
今度は吹雪の魚雷による攻撃が行われる。
「魚雷、一斉射です!」
魚雷攻撃も命中し、撃破に成功する。そしてまた進軍を選択して次のマス目へ進む。
3つ目のマス目はボスマスに設定されている。しかしボスマスであるにもかかわらず、敵はこれまで同様の「何か」であった。
今度は金剛の砲撃が行われる。
「全砲門、Fire~!」
主砲による攻撃も、いとも簡単にボスを撃破した。
こうして今回の大規模作戦裏マップの攻略は終了となった。
「えっこれだけ?」
「はい。これだけです」
「そ、そう……。何か報酬とかないのか?装備とか、今回の大規模作戦で邂逅できる艦娘とか……」
「ないですね。特務提督なので」
「……マジで?」
「マジです」
「えぇー……」
元原はひどく落胆した。
「でも提督、日頃から現金の報酬を受け取っているのに、さらに報酬の上乗せはどうかと思いますよ」
「いいじゃんか別に」
「そんなことよりも、彼女たちを放置してていいんですか?」
「は?」
大淀に言われ母港画面を覗いて見ると、吹雪、金剛、赤城の3人が補給を今か今かと待ちわびていた。
「テイトクー?補給まだですカー?」
「お腹が空きました」
「あの、お風呂入ってきてもいいですか?」
各々が勝手に自分の欲望を解放しだす。
「あぁ……。補給はするよ、うん。お風呂は、まぁ自由にしてもらっていいや。ただし赤城、おめーは少し自重しろ」
「そんなぁ……」
「終わった途端これだからなぁ……」
「まぁいいじゃないですか。裏マップの攻略は終わったんですし」
結局は頭を抱える元原であった。