【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】   作:ウエストポイント鎮守府

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6話 異変

 カシカワ本社ビルの会議室には、いつぞやのメンツが揃っていた。

 

「えー、それでは先月から解放された大規模作戦実施に伴う臨時会議の方を開始していきたいと思います」

「まずは我が社から報告を行っていきたいと思います。作戦海域解放から22日経った現在ですが、アクティブユーザーのうち62.14%がパブリックネットワークファイアウォールの最新バージョンへの更新に貢献しています。これは目標の数値を上回るものとなります」

「今回の大規模作戦では4ヶ月が目処でしたな?」

「はい。これまでのファイアウォールに上書きするように強力な壁を作ったので、次の大規模作戦は今回の作戦のバグ修正が中心になりますね」

「なるほど」

「では次に、公安委員会の大山さんお願いします」

「はい。前回の定例会議とはそこまで間が開いていないため、深海棲艦に対する捜査は続いていません。ですが人工知能に関する研究をしている学者に意見を求めたところ、気になる点があるとのことです」

「気になる点とは?」

「なんでも深海棲艦の成長の仕方が説明しづらいとのことです」

「と言うと、どういうことですかな?」

「その学者曰く、人工知能は目的に応じて学習の方法などを変えるそうなんですが、最近主流の方法では強化学習やらディープラーニングを使用する方法だそうですね。深海棲艦の場合、強化学習を主体とした人工知能のようで、目的の条件が揃えば報酬を与えてやり、条件を満たさなければ罰を与えることで目的を素早く達成できるようにしているようです」

「それの何がおかしいと?」

「それは深海棲艦によって実際に被害を受けた例を見てもらえれば分かりやすいかと思われます。深海棲艦の被害にあった通信機器は具体的にどのようになりましたか?」

「我々が確認しただけで機器の不良動作、内部データの破損、誤作動といったところだな」

「それらは強化学習という一つの方法によってなされる方法なんでしょうか?」

「どういうことでしょう?」

「私が言いたいのは、強化学習という一つの手法で数多くの故障を誘発できるのかということです。我々の間で分かりやすく例えるなら、高校の数学問題を小学校で習う算数の知識だけで解くようなものです。もちろん、我々からしてみれば不可能に思えることも、人工知能は持前の計算速度と演算処理によって可能にしているところもありますが……」

「ふむ……。まぁなんとなく言いたいことは分かりました。それで、あなたの思う結論はなんでしょう?」

「私が言いたいのは、深海棲艦には何かしら人為的な力が働いているということです」

「誰かが手を加えているとでも?」

「えぇ、その通りです。あくまでその学者の意見ですが、深海棲艦の成長もしくは進化の速さは、現在のコンピュータ技術で考えられてる1%以下と推定されるそうです。これは人工知能側に意図的に計算速度を落とすように命令しない限りは不可能だそうです」

「それは確かなんですか?」

「あくまで学者の推測に過ぎませんが、私個人としてはこれが真相に近いかと考えています」

「……我々政治の人間には分からんことですな。カシカワの皆さんはこれに関してどう思われますかな?」

「これは技術主任の我孫子から説明をお願いしましょうかね」

「あっはい……。えーと、確かにその可能性はあります。基本的に人工知能の進化方向というのは予測出来たものではありません。となると、人為的に進化の方向を修正しつつ目的を達成できるようなアルゴリズムの構築を行っている可能性があるかもしれません」

「それが複数の被害例を生んでいるというわけですね?」

「まだ考察の域を出ませんが。しかしながら、深海棲艦には複数種の個体を確認しているわけですからそれぞれの個体種が担う目的……今回の場合は被害の種類がそれぞれの個体の進化で行っているわけですね」

「うぅむ。少し難しい話になってきたな……」

「簡単に私の主張を言うなれば、人工的に深海棲艦を進化させているということです」

「そうですか……。では最後に我々の番ですか。といってもそんな重大な内容ではないですが」

「内閣府からは、米国から24回目の深海棲艦や艦娘に関する情報提供の打診がありました。数年前からの打診ですが、政府は一企業に対して政府が動くことには問題が多いとして、提供については保留としています。が、最近は英国やフランス、ドイツまで加えて圧力をかけてきています。政府はこの打診について、限界に近づいていると判断し、情報の開示を行おうと思います」

「ついに情報解禁ですか……」

「仕方のないことです。このままでは各国との関係悪化につながる可能性がありますし、最悪米国とロシア、それに中国までもが手を組むこともありえなくないのですから。ですからカシカワさんには、今後提供可能な情報の選定をお願いしたいと思います」

「分かりました。情報はどこまで出しますか?」

「現状は深海棲艦の基本的な情報までで問題ないかと思います。あちらさんがもっと要求してくれば、深海棲艦の1次データをそのまま全部投げてしまいましょう」

「それで丸く収まってくれればいいんですけどねぇ」

「出来なかったら……仕方のないことですが、順番に情報を出していくしかないでしょうな……」

「それはそれで国際社会からの信用を失いかねないものですがね」

「では以上といったところでしょうか。何か連絡事項などあれば今のうちにおっしゃって頂けたらなと思いますが……」

「公安委員会はありません」

「内閣府も特にはありませんな」

「では以上で臨時会議のほうは終了とさせていただきます。皆さんお疲れさまでした」

 

 いくつかの懸念要素が残ったまま、会議は終了となった。

 終わったばかりの会議室には、カシカワの社員が数名残っていて、先の会議で出た問題を解決するために話し合いが行われていた。

 

「ついに情報の開示ですか……」

「まぁ、政府のお偉いさんが言ってるんだから仕方ないだろうよ」

「ですが、例の計画の発動直前の時期ですよ。少しばかりタイミングが悪いんじゃないですか?」

「確かになぁ。先進国に深海棲艦の情報が流れるのは、時間が過ぎるごとに不利になる可能性が高くなってくる。ここは無茶を押し切って計画を前倒しできないか?」

「出来なくはないですが、少し粗さが残る仕上がりになりますよ?」

「粗さが残るというのはどの程度だ?」

「そうですね……。若干セキュリティ面に不安が残るくらいでしょうか」

「そのセキュリティ面てのはどうなんだ?無料のアンチウイルスソフトくらいはあるだろう?」

「えぇ、まぁ。一応我が社のセキュリティソフト程度は現段階で実装しています」

「ではなるべく早く計画を実行できるように準備しておいてくれ」

「分かりました。すぐ作業に取り掛かります。明日以降には実行できるようにしておきます」

 

 その言葉を最後に、カシカワの社員は会議室から出て行った。

 


 

 元原はファザック株式会社からの要望に対応する日々を送っていた。

 特にサーバ間での通信を確立するため、かなり労力を割かれている状態だ。

 

「なんでここでエラー吐くんだかなぁ……。どっか違うのか?」

 

 今取り組んでいる問題は元原が得意とする分野とは少しばかり異なるため、常に悪戦苦闘している。誰かに助言を求めたいところだが、あいにく面倒を見てくれるような人はいない。

 

「とでも思っていたかね、元原くん?」

 

 昼食を取っている元原の前に、宮戸が決めポーズをする。周りの目など気にすることもないようだ。

 

「……お前それ恥ずかしくないのか?」

「なんだね、せっかく友人が救いの手を差し伸べようとしているのに」

「んなアホなこと言うな」

「でも真面目な話、今の作業内容ってお前向きじゃねぇよな?」

「まぁ、そうだな」

「どちらかと言えば、その作業は俺向きだよな?」

「…まぁ、確かに」

「そこで、助言もしてある程度面倒も見てあげる友人である俺が手助けをしてやろうって訳さ!」

「メンドくせぇ彼女かよお前は。しかもなんで俺の作業の内容知ってんだよ。頭ン中覗いたか?」

「まぁまぁいいじゃないか。たまには人に頼ろうぜ」

「んー、まぁ……。今回はいいか」

「よっしゃ、どこが分かんないんだ?」

 

 こうして宮戸と共に作業を行うことで、どうにか問題を解決することが出来た元原であった。

 その日、早めに帰宅した元原はもはや習慣となった提督業を行うため、PCの前に陣取る。

 

「あっ、司令官!おかえりなさい」

「うん、ただいま。……あぁ、疲れたぁ」

「今日もお疲れ様です」

「あぁ。……また明石は商店街で何かやってんのか?」

「はい、なんかお祭りみたいなことをしてます」

「なんだそれ?あいつ暇なのか?」

「さぁ……?」

「まぁ、いいや。さって今日はどうするかなー……」

 

 元原は何気なく出撃ボタンを押し、海域の一覧を表示した。

 そして一つの疑問が元原の頭をよぎる。

 

「……特務提督って普通の期間限定海域は攻略できるもんなのかね?」

「出来ますよ」

 

 どこで盗み聞きしていたのか、大淀が出撃画面にフレームインしてきた。

 

「どっから湧いて出た?」

「いいじゃないですか。そんなことより、提督が疑問に思っていることなんですが……」

「スルーかい」

「特務提督も裏マップを攻略していれば、通常の期間限定海域に出撃することは可能です。ですがそのような場合、かなりの確率で攻略前に時間切れになります」

「マジで?」

「はい。なので、基本的には特務提督は期間限定海域を攻略することはありません。どうしてもやりたいっていうのなら止めはしませんが……」

「そっかぁ……」

「まぁ、そこは提督の自由なので」

「そこまで言うのは確信犯でしょ」

 

 元原が小さい溜息をつく。ここまで言われてしまったら、とてもじゃないが攻略しに行けないだろう。

 そんな感じで、この日もいつもと変わらない日常を過ごすと誰もが思っていた。

 だが、「それ」は些細な出来事から始まる。

 

「それでは、私はこれで……。あれ?」

「ん?どうかした?」

「いえ。通信状態が悪いようで、動作が遅くなっているようです」

「そうなん?このPCで通信が遅くなるなんて滅多にあるもんじゃないぞ」

「なんでしょうね?」

「ルーターの調子が悪いのかもしれん。ちょっと確認してくる」

 

 そういって元原はWi-Fiルーターを確認しに行く。

 その様子を見ても、特に異常と呼べるものはなかった。

 

「なんなんだ……?」

 

 元原は何か原因がるはずだと思い、スマホを取り出す。その時元原は一つのことに気が付く。

 

「電波の入りが悪い……?」

 

 本来ならば入っているはずのWi-Fiの電波がうまく入っていないのだ。さらには時々圏外にもなる。

 

「なんかおかしいな……」

 

 こういう場合は何かしらの障害が発生していることが多い。早速いくつかの通信障害マップを確認してみるとある事実が判明した。

 

「なんだこれ?全世界で通信障害が発生している……?」

 

 通常、通信障害と言うものは基本的に都市部で発生するものだ。例外的に日本では列島全体で通信障害が発生しているが、まさにそのような状態が陸地という陸地全てに発生していたのだ。

 その時、スマホのメッセージに宮戸から連絡が入る。

 

『テレビつけろ、やべーぞ』

「何言ってんだあいつ……」

 

 元原はそう言いつつも、テレビの電源をつける。

 ほんの少しの無音の後、ニュース番組が速報で情報を流していた。

 

『……繰り返しお伝えします。現在全世界のインターネットが原因不明の接続不良に陥っています。現在放送中の番組もいつ終了するか分かりません。テレビの前に皆さんはネットに繋がっていないテレビかラジオを用意して、正しい情報を得るようにしてください。繰り返します……』

 

 本来噛み合っているはずの歯車が、どこか噛み合っていないような感じがしていた。

 その時、艦娘たちの叫び声が聞こえてくる。

 

「なんだ!?どうした!」

「司令官っ!一般のネットワーク上に深海棲艦が出現しました!」

「は?どういうこと?」

「艦これや私たち艦娘が活動できるのは一種の特殊なネット回線で、そこを電子の海として深海棲艦や艦娘が活動しているんです。それが一般人が使用しているネットワークに侵入しているということなんです!」

「なんだそりゃ……!」

「もし深海棲艦が通信可能な機器に侵入したら、電子的に破壊されるのはもちろん、場合によっては物理的に破壊される可能性があります!」

「そんなのどうすりゃいいんだ!?」

 

 元原の頭の中では、考えうる最悪のケースが思い浮かんでいた。

 それは、世界に存在するありとあらゆる通信機器が破壊され、現代社会の基盤が根こそぎ崩壊する。そうなれば、ネットワークありきの社会などあっという間に消え去ってしまうだろう。

 だが、ただの一般人である元原に一体何ができるというのだろうか。ましてや、相手は世界規模に展開するウイルスである深海棲艦である。その道を専門にする人間でもない限り不可能だろう。

 その瞬間、元原の脳内に一つの考えがよぎる。

 

「明石!PC内の商店街には母港の機能は備わっているか!?」

「は、はい!簡易的ですが!」

「よし!大淀!母港にある資材を全部PCに移せ!」

「えぇ!?」

「それに吹雪は艦娘全員を誘導してPCに移れ!」

「りょ、了解です!」

 

 元原の指示のもと、艦娘たちはせわしなく活動し始めた。

 

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