【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】 作:ウエストポイント鎮守府
原稿を一次締め切りまでに仕上げて下さった上に二作目も書いてくださっているなろう作家の紫さんと本格派宇宙小説作家の山南さんには日本海溝より深い感謝を。
そして私含め原稿が仕上がってない諸氏。頑張ろう。前編すら現時点で仕上がってないのはまずいと思います。
さて、身内向けは置いといて。今回は久しぶりの自世界……山崎の官これ側から執筆となり設定を見直してみたところなかなか粗が出てきまして……少々これまでの設定とは違う部分が多くなりました。そこはご了承を。
そのような具合ではございますが私の創作に付き合っていただき、面白いと思っていただければ作者冥利につきます。
前編
15 July 2025 1132Z Philippine sea/SSN-771 Columbia
真っ暗な夜闇と変わらない海の中1隻の潜水艦が静かに息を潜め航行を続けていた。
「艦長、現在問題なし。敵影見当たらず、機器は正常です」
「了解した。気難しい娘はどうだ?」
「あぁ、エアコンは安心してください。まだ愚図ってません。もう少しでこの任務も終わりますしなんとか持ちこたえてくれるでしょう」
「あのサウナはもう勘弁だ」
「私も同感です」
副長と艦長はそれぞれ声を押し殺して笑う。
人類共通の敵を監視するために。
「こいつもなかなか年代物だ……はやく休ませる時が来てほしいものだ。私もかなりの年代物だからな」
「まだまだ艦長は現役でしょう?」
「あぁ……そうだな。私達はまだ踏ん張って守らないといけないからな」
副長が頷いたその時ソナーマンが声を上げる。
「あっ……10時の方向、距離10マイル。速度15ノット。反応複数。音紋は潜水航行中の水上種と判定」
「なに? 総員戦闘配置」
「戦闘配置急げ」
コンソールに向かっている乗組員たちが忙しなく動き始める。
「水雷長より、艦長へ。魚雷の装填許可を求めるとのこと」
一人の司令部要員がそう告げる。
「ふむ……魚雷とUUVは何発ある」
「……5発と2機とのこと」
確認のためやや間を開けて応答する。
「UUV2機、魚雷2発装填」
「了解」
直ぐに艦長は振り返り航海長兼副長の男を見る。
「航海長、地点を記録。敵勢力の確認を行う。アプローチする」
「了解しました。両舷増速」
駆動音が高まり、軽く艦長は手すりを掴み体制を維持する。
「魚雷、UUV装填完了」
「注水開始」
その命令でわずかに艦が揺れる。
「さて……」
「艦長。計算によるとここは台風の中です。あまり浅い深度まで浮上はできません」
「了解した……しかし奴らもそれなりの深度で潜航しているな……台風を避ける程度の知能はあるか」
台風の中で観測された深海棲艦……
「艦長……この進行方向、台風予想進路と同じでは?」
「そうなのか……流されているものとみるべきか」
「そこまでは判断できませんが。その可能性はあるかと」
「まぁはぐれ艦隊だろうが敵には変わりない。確認後はフリートガールズに引き渡すのみだ」
いつも大きくは変わらない状況において彼らは特段警戒した様子もなく淡々と述べる。
「さて、そろそろ確認できるか?」
そう艦長は言いソナーマンたちの方を見ると一様に顔をしかめていた。手元の機器を何度も操作し何かを確かめているようであった。
「どうした?」
「この反応……艦長。敵は」
そう言いかけた瞬間不快な中周波が彼らの……否、艦長を含めた全クルーがその音が聞こえ、ガヤガヤしていた艦内がその瞬間一気に静まる。
「アクティブソナーだ……」
「両舷停止!」
「音源、先ほどの敵艦隊」
僅かな間からすぐに各所が動き始め対処にあたる。潜水艦にとっては見つかることは死に直結する。故に全力で対応しなければならない。
そんな彼らにまたあの音が襲い掛かる。
「新たな音源です」
「なんだと……?」
「3時の方向、距離8マイル。音源1。深度5000」
また再び音。
「新たな音源……?! 7時方向距離5マイル」
「くっ……ここは敵の哨戒網か! 撤退するしかない」
「水測。敵艦隊編成は?!」
先程遮られた報告を副長が促す。
「……不明な音源1つを含む戦艦を中心とした12隻の編成です」
「不明な音源……まさか」
「上位種ないしは新型です」
「5マイル先の敵潜水艦1隻こちらに向かって接近開始!」
別のソナーマンが声を上げる。
「対潜戦闘用意。魚雷1発、UUV1機発射目標敵艦隊。その後回頭し急速潜航」
「魚雷1発、UUV1機発射」
その号令ととも大きな音が突然発生し、その後どんどんと離れていく。
「敵、なおも接近」
「敵艦浮上! 爆雷投射」
「急げ!」
「急速潜航!」
英和7年7月17日 9時10分 霞ヶ関/経済産業省別館
ホワイトボードの前に三十代の紺縁眼鏡の男が立つ。
「えー、おはようございます」
「おはようございます」
「資源運用特別調整室深海棲特種危険生物災害対策本部朝の会議を行います。では、まず現況確認を行います」
山崎貴志は経済産業省資源運用特別調整室の室長や副室長、各部長、オフィサー職を前に彼は朝の打ち合わせの司会を行なっていた。
「確認いたします。英和7年7月15日アメリカ海軍所属原子力潜水艦が6月12日に発生した台風4号と共に北上する深海棲特種危険生物の一群を確認し翌16日アメリカ国防総省と防衛省の見解が一致し、政府に報告。同日中に
国会会期中、風水害と深海棲特種危険生物のマルチハザード、そして対策時間の少なさ。そう言った要因がこの災害には絡んでいる。
「未だ台風4号と深海棲特種危険生物は同期して動いているのが確認されており、気象庁の予測によれば明後日、19日の朝には紀伊半島を上陸の見込みです。現在変更はありません」
そう言い一旦山崎は言葉を切る。
「昨日の決定通り、特種危険生物災害対策基本法に基づき鹿児島県南部、宮崎県南東部、高知県南部に避難命令。和歌山県南部、三重県南部に本日避難指示が発令されます。では次に資運室の職務に移ります」
壁に掲げられた地図にはその部分が、九州から近畿までの太平洋側が弧を描くように赤く塗られている。
「輸入に関して資源運用部長お願いします」
「今日から西日本でヤードクローズが予定されているとの報告を受けています。台湾辺りでの足止めを行ってる船は多いとも受けています。しばらく海路は見通せません」
当初からその想定はできているが故にそれはあまり大きな波紋は呼ばない。しかし―――
「防衛省の意向で北回りも縮小を余儀なくされます。朝一で更なる減便調整が行われました。それでもって空路の欠航等情報を含め最新の数値を反映させると昨日よりさらに下方修正が必要です」
「物資不足は不可避ですね……備蓄あれど」
資源運用部長がそう零す。
「それに台風の被害も不確定要素です、敵の動きも同じく。あくまでこのケースはまだマシな方とみるべきでしょう」
資運室は朝一から重い空気に包まれる。ここをはじめ他部署、他省庁でも如何せん3日という暴力的に少ない日数で難題を処理せねばいけないのだ。朝からどこも空気は重い。今も降っている梅雨の雨の所為だけではないだろう。
「資源の移転状況はどうでしょうか」
「そちらに関しては国交省と共同し計画通りに進んでいます。夜通しで手配し本日中に九州方面は移動できるでしょう。計画通りとはいえ全部の移転ができないのは残念ですが」
資源の移転。官民問わず該当地域にある資源基地や倉庫の物資を安全な地域への一時的移転を行い難を逃れようとする策である。これに関しては国民から避難生活支援に当てろとの批判もあるが資運室としては現況を見てやらざるを得ない。それだけでなく
「他の地域も敢行中ですが道路の輸送量はパンクしているとのことで国交省や自治体に対してバスでの集中的な避難を求めます」
総合政策部長の持田が疑問の声を上げる。
「集団避難は元からの指示では?」
「どうにも個人避難も多いらしく、全体的にも影響が出ていると報告を受けました」
「あぁ……」
避難方法の強制的な指定を行える法的根拠がない以上、なんとも悲しきことに現場努力と住民がそれに従ってくれることを祈るしかない。勿論、集団避難できない人のために定められてないのは彼らも重々承知の上だ。
「本省と共同で当たっている避難支援はどうでしょうか?」
「資源運用部から報告します。具体的内容は割愛しますが、当初年度計画範囲での対応ができています。ただ資源の被害、輸送状況によっては想定量を大きく割ることが予想されるので予断は許しません」
「では、本日の予定を確認いたします。全体の予定として本日中に住民避難を完了。特種危険生物への対処行動準備令が発令され自衛隊が陣地構築を始めます。また当該地域は警戒区域にも指定されます」
山崎は手元の資料を捲る。
「各部の予定を。まず総合政策部」
「はい。総合政策部は関係各所に節電等のエネルギー消費の自粛を呼びかけることとし、災害緊急事態の布告可否は現在わかりませんが関係部署との協議の後必要に応じて働きかけていく方向で動きます」
災害緊急事態の布告。それは災害対策基本法と同じ能力を持つもので特種危険生物災害対策基本法にもその規定がある。具体的な効果としては物価統制である。
先の報告で資源状況にかなりの不安がある。現在法律で指定されている物価統制以上に統制の必要があることを懸念しての対応だ。
「以上です」
「次は資源運用部」
「資源運用部は避難生活の支援と今後の計画に関しての検討を行います」
「では資源運輸部」
「資源運輸部も引き続き資源の移転、海外からの輸入路確保に当たります」
「では、以上となります。室長」
「わかった。各部万全を期し対応に当たれ」
「これで朝の資源運用調整室災害対策本部対策会議を終わります」
山崎が軽く礼をするとそれぞれ立ち上がり退出していく。後片付けは部下に任せ彼は調整課のデスク……ではなく資源運用特別調整室災害対策本部事務室とコピー用紙が張り付けられた一室に入る。現在山崎貴志に与えれたのは資源運用特別調整室総合政策部調整課長ではなく資源運用特別調整室災害対策本部事務室長補佐の仕事であった。
すぐさまメールチェックを行い、政府共通プラットフォームにも何か情報が上がってないか調べる。
「議事録作成しました」
山崎が調べている間に議事録作成が終わったらしく室員が声をかけてくる。
「了解。送ってくれ。確認する……そうだこの後10時から本省で災害対策会議だ。本部長に連絡しといてくれ」
「わかりました」
昨日は立ち上げでいろいろとドタバタしていた山崎だったが今日はゆったりと事務仕事をこなせそうだと内心思い執務を始めた。
英和7年7月17日 1035(JST) 北海道別海町
「中隊長。警備部から」
中隊長と呼ばれた男は伝令から受話器を受け取る。指揮車の中。直ぐに手が届き受け取る。
「はい、2機4連隊1大隊2中隊」
《要件を伝達します。そのまま別海町市街地にて待機してください》
中隊長は顔をしかめる。先ほどまで根室方面で
「了解しました。これより前進し待機します」
《装備を装着し即時待機してください。場所は道東あさひ農業協同組合 本所・別海支所》
いつも通りの命令といえば命令である。
「了解。移動します。全車通達。別海の農協で集結だ」
警備部への通信をいったん切り後ろに続く各車に伝える。それから直ぐに後ろに続く人員輸送車や遊撃車の各車から応答がある。
中隊長たちが乗る指揮車の外では仄かにサイレンが聞こえ、嫌でもここが戦場の近いことを感じさせる。
「しかしまぁ本部もかなりピリピリしているようですね」
「少し過剰とも感じるが想定していて過ぎたることはない……と割り切るしかない」
副隊長は軽く愚痴るが中隊長が諭す。それから指揮車内はエンジンの駆動音とタイヤが地面の上を走る音のみとなった。先ほどの避難誘導の疲れを少しでも癒すためだ。
そう無言で揺られること数十分。車両が止まり、運転手が告げる。
「到着しました」
「了解。ご苦労」
運転手を労い、指揮車を降りる。見上げれば青い北海道の空が広がっている。まだ他の中隊員は到着していないようであった。
「私は農協に挨拶してくる。誘導頼む」
「了解です」
フル装備のまま農協の庁舎に入り受付に向かう。
「北海道警機動隊です。駐車場お借りさせていただきます」
「ご苦労様です。事前に伺っております。協力いたします」
「ご協力感謝します」
そういい敬礼……ヘルメットをかぶっているため、ヘルメットに指を付け、手を伸ばし、肘を真横に肩まで上げ、敬礼をする。農協職員は軽く頭を下げて応じる。
その後、外へと戻るとマイクロバス型の人員輸送車が到着していた。他の遊撃車はまだ到着してないようだが直ぐに来るであろうと中隊長は思いながら指揮車まで行くと伝令長が報告する。
「残りの遊撃車ももう少しで到着します」
「了解。警備部からは?」
「まだ連絡なしです」
「では各隊に待機を」
「了解」
その言葉通りしばらくするとワンボックスタイプの遊撃車も集まり、中隊総員が中隊長の前に整列する。心なしか疲れが見える。
致し方ない。非常設の第2機動隊だ。無理もない。
「さて、先ほどの避難誘導ご苦労様でした。警備部からの指示でまたここに待機となるが、しばらくは楽にしていてほしい。以上だ」
簡単に挨拶を済ませ解散させる。中隊長も足早に指揮車へと戻り、まぁこれくらいはいいだろうと思いつつ彼はヘルメットを取り装備を緩めた。眠ってしまわないかと少々心配になり買っていた缶コーヒーに手を伸ばしプルタブを開ける。小気味良い音の後に仄かにコーヒーの香ばしい匂いが漂い、呷って飲むと缶コーヒー独特の味と香りが鼻と喉を伝う。
そのような感じで一息ついた中隊長は腕を組み時間の過ぎるのを待った。
———そういえば今頃札幌に残した息子は幼稚園で遊んでるころだろうか。
中隊長は最近忙しく暫く札幌に戻ってないことをふと思い出す。妻は気丈でしっかりしているからつい任せきりにしてしまっていた。彼は内心、頃合いを見計らって休暇を取ることを決意した。そう思っていたところに伝令に話しかけられる。
「中隊長。警備部から」
「了解」
そう言い伝令長から受話器を受け取る。
「はいこちら2機4連隊1大隊2中隊長」
《根室方面。駆除の大方が完了との報告が入りました。また撤収命令を出しますので待機を続けてください》
「了解しました」
受話器を返し、彼は軽く肩を回す、
「さてと撤収準備だ。良かったな」
「本当に毎度毎度大変ですよ」
軽く表情を緩め、指示を飛ばそうとしたときである。
「緊急! 野付湾の沿岸警戒システムに感アリ。陸自野付湾警備隊が交戦中とのこと」
「何? そこは封鎖線の中じゃないか……全隊に即応待機を命ずる。警備部に繋げ」
「了解」
野付湾と言えば別海町市街地から平野を超えて真東の場所にある。その距離は約12km。
「こちら2機4連隊1大隊2中隊緊急情報を受信指示を求む」
すぐさま警備部に連絡を入れる。
《こちら警備部。特種危険生物災害対策基本法に基づき先行し避難指示を行ってください》
「対処法9条に基づく武器利用は?」
《現在検討中。現場判断に任せます。健闘を祈ります》
通信を切ってから小さく舌打ちする。正式名称「深海棲特種危険生物への対処に関する法律」の第9条の3項「特種危険生物被害に直面し、その場において人命又は財産の保護のため必要があると認める場合もしくは部隊保護の際に、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、警察官は、警察官職務執行法第7条の規定により武器を使用することができる。」の適用を警備部に求めるも自己判断と返されてしまった。
「中隊長」
「かまわん。私の権限でガス銃を含めたあらゆる火器の携行利用を許可する。訓示の暇はない直ぐに向かわせる1小隊は東部で警戒、遊撃車を使え。2小隊は川から北部、3小隊は南側だ」
「了解」
すぐに伝令らが駆け出す。避難先はマニュアル通り陸自別海駐屯地だ。そこまで別海町市民1万人を誘導せねばいけない
「副隊長。ここまで敵は何分だ?」
「約15分ぐらいでしょう」
「やはり間に合わんだろうな」
「ここでの徹底抗戦指示……」
中隊長は多分そうだろうなと応じる。この部隊は専門に訓練された機動隊……本機ではない。普段は他の職務に就く警察官から構成される補完的な第2機動隊である。練度も装備もお世辞にもいいモノとは言えない。
「応援が間に合わなかったならば……警察官である以上市民を守らないといけない。この一点において変わらん」
装備を締め直し中隊長が外を見ると拳銃等の装備を確認している中隊員達が見える。彼らの表情はヘルメットで見えない。
「なにがどうであれ、思うところがあってもだ」
一斉に人員輸送車と遊撃車が走り出し各持ち場へと向かった。
「施設に連絡を入れてくる。本部班はここで指揮を執る」
「了解」
第1報から約15分。警戒に当たっていた第1小隊からそれはもたらされた。
《こちら1小隊。川から北部、土煙を確認。奴らです。種別不明》
「了解。2小隊、3小隊報告」
《3小隊残り2割》
《2小隊、要支援者の誘導中。遅延してます》
「了解……1小隊対処法に基づく対処行動を行う。北部に小隊集結してくれ。ガス班、小銃班を編成し先頭集団を転倒させよ。新たに編成された2個機動隊分隊は大盾を装備し突破されないよう警戒せよ」
一般的な陸上移動可能種。
「撤退は小隊長の指示に任せる。壊滅を避けること優先だ。3小隊は完了次第北部に移動し支援にあたれ」
《1小隊了解》
《3小隊了解しました》
通信を切ると副隊長が問いかける。
「他部隊の応援も来ませんし敵も何故こっちに……」
「わからん。増援の連絡の話はあったが今来てないのを見ると間に合わないだろうな」
増援なしでは約50名程度の第2機動隊。孤立前提かつ抵抗できるかどうかも怪しいがやるだけやってみるしかない。
《1小隊。捉えました。イ級です》
「深海棲特種危険生物第1種丁型か。発砲を許可」
正式な識別名にわざわざ言い換え、すぐに通信を切り運転手に命じる。
「移動だ。コミュニティセンターまで後退する」
「了解しました」
すぐに走り出すとまた通信が入る。
《3小隊終わりました》
「では2小隊に合流。1小隊は既に交戦中だ急げ」
《了解しました》
走り出して直ぐに運転手が報告する。
「車の流れが遅いですね。前方で事故かと」
「おぅ……」
中隊長は額に手を当てるさらに時間を稼ぐ必要が出てきたのだ。
「陸自に至急援護要請出すように警備部に連絡」
「了解」
「各隊残念なことに後方で渋滞だ。さらに時間稼ぎが必要だ」
すくなくとも2機には重すぎるがやらなければ1万人の市民の命はない。
「1小隊。敵の侵攻状況知らせ」
《こちら1小隊、少々遅延させていますがもうそろそろ後退が必要です。敵はそのまま北部です》
「よし分かった。後退はいつでもいい」
北部にいるということは現在の根室への攻撃の意図はないのかと中隊長は考えるもそれから至る結論は絶望的なものでしかない。
「3小隊、南側は?」
《確認できません》
不自然さに恐ろしさを感じるがこれは陸自が奮闘した結果と信じたい。改めて彼は作戦を練り直す。
「よし、2小隊」
《はい》
「243、8号線までラインを下げるが問題ないか?」
《はいそこまでは完了してます》
《1小隊下がります!》
1小隊からの無線に焦りが見え相当接近されたのだと察しが付く。
「1小隊、3小隊。合流し機動隊4個分隊、ガス及び小銃分隊各1分隊で再編せよ」
《3小隊再編了解しました》
トラップを仕込めないのが厳しい理由の一つ。二つ目は練度と人数。この二つが状況を難しくさせている。
「さてと」
稼げた時間はせいぜい3分。2個小隊で当たるといえ、先の遅延作戦で敵の先頭集団は増えてしまった。大幅な時間稼ぎは無理だ。またあまり躍起になりすぎても、突出して挟み込まれるか市民が危険にさらされる。そう考える間にも奴らは迫ってきていた。
《1、3小隊迎撃します!》
「くそ早い」
通信を切ったまま敵に対して悪態を吐く。
《2小隊確認作業完了。前衛に合流しますか?》
「よし、頼む。まだ安全に避難できる距離じゃない」
《了解》
コミュニティセンターからはまだ車列が大きく見え、追いつかれることは必須だ。
唐突に無線が入る。
《こちら北海道警察航空隊所属だいせつ1。第2機動隊第4連隊第1大隊第2中隊応答せよ》
「はいこちら2412本部」
《こちらで監視と偵察を行います。現在南部なし、交戦中の部隊が突出しかけています》
「了解、情報に感謝します」
見上げてみると確かに帯広空港に配備されている警察ヘリが飛んでいた。思わぬ援軍である。
「よし、全小隊さらに後退突出している」
《こちら1小隊。了解》
「後退先は……」
目の前の地図に目を落とす。
「西別川を使おう……千歳橋を落とせればいいんだが」
「たしかにそれが定石でありますが敵は深海棲艦ですよ。それにそれを実行できる機材も……」
わずかに発砲音が聞こえてくる。前線が下がってきている証拠だ。
「本部班前進」
静かに中隊長は言う。
「千歳橋を及び西別川を防衛ラインとして設定。住民の安全圏までの避難が完了するまで我々はこのラインを死守する」
「しかし敵は多いです……支えきれませんし確実に突出します」
「では何か策があるか副隊長」
「はい。避難民の最後尾に付き、適時迎撃をすることを提案します」
「それも一理あるが機動性に富む遊撃車が1個小隊分しかない」
副隊長も中隊長も口を噤む。
《敵の勢いが強すぎます! 下がります!》
飛び込んできた通信に副隊長は息をのむ。
「こちら中隊長。橋の手間で防衛線は引けるか?」
《正直厳しいです。体勢が立て直せません》
「だいせつ1こちら2412本部。避難状況を知らせてください」
《機動隊2412。こちらだいせつ1。最後尾は3km先》
「了解。感謝する……やるしかないな」
「えぇ」
「本部班前進。全隊に通達。千歳橋を中心として防衛ラインを引く。これ以上後退はできない!」
《了解。千歳橋で再展開します》
「車両を配置し阻止線を築け」
そう指示を出しているうちに目的地へと着く。
「本部班総員降車。これよりここを絶対防衛線とする」
「1小隊原着しました。2、3小隊が敵と共に到着します」
「よし遊撃車を配置、人員輸送車通過後一斉射撃で怯ませろ」
千歳橋手前のT字路を中心に車両と部隊を配備するとすぐに大群に追いかけられるバスが飛び込んで来る。
「放て!」
1小隊の残り少ない小銃弾と水平投射のガス弾がばらまかれる。他の機動隊員も拳銃でさらに射撃を加える。先頭の何頭かが転倒し、ガスに当てられてよろける。
「2、3小隊展開を急げ! 1小隊本部班! 捨てろ! 盾を持て! 来るぞ、受け止めるななぎ倒せ!」
一応は対特種生物戦闘術は第2機動隊にも叩き込まれてはいるが本職ではない。改めて檄を飛ばし注意喚起する。
言葉通り奴らは仲間を踏み倒し突撃してくる。敵の大きないびつな口、体を覆う硬そうな表皮が黒光りする。嫌なほどに。不幸にも役割的に小楯しか持ってない中隊長にまず一匹が向かってくる。
「中隊長!」
副隊長がそう叫び、割り込む。そのまま体を前傾させ突進してくる敵に対して副隊長は素早く体をかがめわずかに体を捻りながら、一気にばねのように伸びあがり大きな敵のあごにジュラルミンの角を叩きつけた。
鈍い音とともに両者とも転倒する。こうなると敵はなかなか起き上がれない。
「よしナイスだ!」
ものすごい反動で手を痛そうにぶらぶらさせ、尻餅をついている副隊長を立ち上がらせる。しかしまた今度は4頭も飛び出してき、1小隊と本部班の面々は何名かはうまくはじいたものの3分の2ほどは逆に弾かれ吹っ飛ばされていた。
すぐに防衛線は崩壊寸前だった。
「2、3小隊援護入ります!」
その掛け声とともに小隊員が盾や小銃、ガス銃を構え、割り込んでくる。小銃やガス銃を当てながら弾き飛ばされた機動隊員を助け出す。が、もう手遅れであった。
「2名やられた……!」
白の白線と赤色のコントラストが目に痛い。食うのに夢中な奴らの脇腹を2小隊の隊員が殴り倒すもその隊員は即死だったようだ。
———片方の彼は確か一人身の母に毎月送金している若い隊員だったのではなかろうか。
中隊長はなぜかそのことを咄嗟に思い出してしまい慌てて今に意識を戻す。
「くそ、次も流れ込んでくるぞ! 密集隊形!」
小隊や分隊関係なく人数がそれぞれ集まり適度なまとまりが作られる。
「絶対後ろを通すな! ガス銃は乱戦では無理だ! 大楯取ってこい!」
その号令で何名か駆け出すが敵も待ってはくれない。
「まともに正面から受けるな! 受け流すか殴れ!」
その言葉とともに黒い生物たちが突っ込んできてまた何名か吹っ飛ばされる。まだまだ吹っ飛ばされる。黒い波がまた一人また一人と機動隊員を浚い、飲み込んでいく。
「まだだ……!」
「中隊長!」
何者かに中隊長が呼ばれて気付いたその時、そこに副隊長はおらず、
「死ぬかよ」
彼は咄嗟に腰の拳銃を引き抜いた。
いつもの官これとは少し趣向を変えてみました。楽しんでいただけたならば幸いです。
さてこの後の後編ですが、またしばらくお時間をもらい書き上げさせてもらいます。
この前編は本文のように波乱を極めた半年間でした、具体的には資料が見当たらずに内閣府に問い合わせたり、災害対処の方法を求めて経産省の対策マニュアルや法律を読み漁ったり、北海道警第二機動隊の編成を探してリンク切れや動作が重い箇所が多い道警のHPを回っていたり、内閣府から返答がなくシナリオ変えたりして第7稿まで何度も書き直し、投稿直前にも改稿差し込んだりとなかなか厳しい戦いでした。
後編もほどほどに頑張りたいと思います。