【艦隊これくしょん】「雨」合同作戦誌【合作】   作:ウエストポイント鎮守府

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遂に終わりました……!
ひたすらメンバーに土下座しながら締切ブッチを続け……この場を借りて深ーくお詫びします。




後編

「よっ……と。意外と高いんだな」

「気をつけてください。ドアの下にステップがありますのでそこに足をかけて降りてください」

「これか、よいしょ……っと」

 

 やや危なっかしく軌道内に降りた眞鍋中佐と長門、堀井助役の3人はトンネル内をカンテラで照らしつつ金沢方面の出口へ向かって歩いていた。

 機銃掃射をまともに食らった3号車以外にも所々に窓ガラスのひび割れや巻き上げられた土砂による土汚れが目立ってはいたが、幸いにも運行に支障が出るような損傷はなさそうである。余談ではあるが、今ここに佇んでいる車両群はいずれも検査期限が近づいており、今回の旅の損傷具合によっては廃車となっても惜しくない車両がかき集められている。

 

「それで、我々は何をすればよいのだろう?」

「眞鍋中佐にはあそこのトンネルの出口に立っているうちの不知火と一緒に列車の監視を、長門さんには我々と一緒に車両の点検をお願いします」

「承知した」

「では、後でまた」

 

 眞鍋中佐は軽く二人とその後ろの乗務員に敬礼してトンネルの出口へと歩いていった。

 

 


 

 

「お疲れ様です。機関士さん、状態はどうですか」

 

 堀井助役がドアの隙間から声をかけると機械室の方から機関士がひょっこり顔を出して答えた。

 

「お疲れ様です、電車線及び列車無線には異常ありません。側面に少々食らったようですがCP(コンプレッサー)MG(電動発電機)、ブレーキ試験の結果も上々です」

「了解です。では引き続き出発まで点検をお願いします」

 

 一通り機関車の周りを見て回ったところで二人は客車の方へ戻った。そこでは足回りの点検に精を出す一団が一心不乱にハンマーで台車を叩いている。「打音検査」というものだ。目ではわからない傷もこうして叩けば音がまるで違うのだと言う。

 台車の損傷というものは容易に脱線事故に繋がるものだ。決して見逃せるものではない。ひとつひとつ丁寧に目視とハンマーを使って調べていく。

 トンネル内にはしばらくの間、カンカンというハンマーの音だけが響いていた。

 長門にとっても艤装の点検整備で馴染みが深い。見れば列車に同乗している舞鶴鎮守府の整備員たちも混じっている。

 その一団の中で忙しなくあちこちを歩き回る人影があった。

 

「平田助役、この辺りの音はどうでしょう」

「ん……いや、ここは大丈夫だ。お前の叩き方が悪いだけや」

「平田助役ー! こちらはどうでしょう」

「ちょっと待ってな……ここが終わったらすぐに行く」

 

 今朝舞鶴で行程を説明していた平田と名乗っていた助役は、点検に精を出す車掌や艦娘に呼ばれては怪しい箇所の確認に回っていた。

 

「ん、ああ。あの人は元々車両基地の検査係の出身でしてね。運輸よりも技術畑の方が長い人なんです。おかげで助かりました」

「そうなんですね」

 

 平田助役をじっと見つめていた長門にカンテラやハンマーの入った箱を持たせながら堀井助役は彼の経歴を軽く説明する。

 その辺へ放置されていたものを含め、一通り長門に道具類を持たせると堀井助役は作業中の人々に2、3言話しかけるとまたどこかへ歩いていってしまった。

 取り残された長門に早速呼び声がかけられた。そこに行くと作業服に身を包んだ初月が手をあげていた。

 

「長門さん、ちょっとこの辺り照らしてくれます?」

「ん、ここか?」

「ありがとうございます」

 

 結局点検の手伝いとはいっても車両に関しては専門的な知識もない長門はカンテラや道具箱を手にあちらこちらを動き回ってちょっとした雑用のような扱いになっていた。

 

(明石や夕張なんかだったらこれが楽しくて楽しくて仕方がないとか言うのだろうか……)

 

 そんな謎の悟りを得つつ、車内で缶詰にされるよりはマシだと思うことにし、今度は呼ばれた先にハンマーを渡しに走った。

 

 


 

 

「そういえば……ひとつ聞きたかったのですが」

「何でしょう。不知火に答えられる範囲なら」

「いや、君は鉄道公安職員だろう? なぜ車掌の真似事をしているんだい?」

 

 不知火の制服に光る鉄道公安職員の腕章に目をやりながら、眞鍋は不知火に疑問をぶつける。

 

「なるほど、そのようなことでしたか。

 簡単です。今国鉄は人手不足なのです。次から次へと乗務員も駅員も負傷しては病院送りになりますので……

 なので不知火たち元艦娘が送り込まれて余裕のある鉄道公安職員が車掌業務を兼務しているのです。いえ、元はといえばこのような職種も助役や車掌が兼務していたものが始まりなので一種の先祖がえりのようなものとも言えるのですが」

「人手不足はどこも同じか……」

 

 不知火によると最近はワンマン列車やツーマン列車どちらにも補助として乗っては何でも屋となってるという。具体的には瓦礫の撤去や体の不自由な人の乗車の手伝いに空襲の際の避難誘導と戦闘だそうだ。

 

「基本乗務するときは二人組なので今日みたいに1個小隊分の人数が乗るのは特別です」

「なるほど。しかし余裕があるとはいえ、人手不足なのにどの列車にも二人組なのか?」

「不知火達艦娘は軍を除隊されたあとの行き場がほとんどありませんのでかなりの数が国鉄や警察に流れてますから……人間の車掌が削減できますからそれでよいのでしょう。聞くところによると艦娘しかいない信号場や駅もあるそうですよ?」

 

 まぁ業務量と業務知識の数(やることとおぼえること)がいっぱいすぎて頭が痛くなりますが、と不知火は付け足した。

 

「うーん……満足に戦えてない我々としては耳の痛い話だなぁ」

「棲地を潰しても潰しても湧いてきますからね」

「このまま戦い続けてもじり貧だからなぁ……」

 

 トンネルに吹き込む風が冷たいのは決して雨だけのせいじゃないだろう。ザァザァと降りしきる雨は数十メートル先も見渡せないカーテンを作り出していた。

 

「うー……じめじめするぅ……」

「そうね……早く塞がないとせっかくの空調が役に立たないわ」

「それにしても嫌な天気だ。雲も雨も厚くて見通しも効かねぇ」

 

 窓ガラスや乗降扉が完全に吹き飛んだ3号車と4号車の車端部では頭を若干血がにじんでいる包帯でぐるぐる巻きにされた矢矧と瑞鳳、武本中佐と綾波がダクトテープとビニールシートを使って破損箇所を内側から目張りしていた。

 

「さっきも結構ギリギリだったものね……ふんっ」

「おいおい、そんなに力業でドアを取り外していいのか?」

「構いやしないわ。どうせもうほとんどとれかけてたのだもの…ここはもう締切扱いにしておくわ」

 

 銃弾を受けて所々に穴が開いたぐしゃぐしゃな折戸を力任せに引きちぎり、手際よくシートを貼り付けていく矢矧に若干引いている武本中佐を尻目に瑞鳳と綾波はいそいそと変形した折戸と破片を小さく折り畳んでどこかへさっさと片付けてしまった。

 

「あ、あとは外からだな……矢矧くん、われわれが外に出るのは問題ないかね?」

「んー……ええ、トンネルの壁側なら問題ないわ」

「十分だ。せめて寝台側の窓くらいは二重に塞いでやらんとな……」

「ここのドアは塞いだから隣の車両から降りるわよ」

 

 やはり危なっかしく客車から線路へと降りた一行は多数の窓が破損している3号車と4号車の前に集まった。

 

「うーん意外と高いですねぇ……」

「まぁ下から上まで4Mはあるからねぇ」

「なら私が土台になるから綾波……はやめておこう。瑞鳳くん、ちょっと肩車するから外側にもシートを窓枠の上部に貼りつけてくれないかな」

 

 ニコニコ笑う綾波に気圧されたのか武本中佐は標的を瑞鳳に変えた。

 

「ええっ私!? あの、重たいとか……言わないでね?」

「任せろ! よっと……どうだ? 届くか」

「わわっ高い……! でっでもいけます!」

「ふふふふふ~セクハラには~気~をつ~けてく~ださ~いね~」

 

 そんな綾波からの脅迫に武本中佐は冷や汗をかきつつ、二人とも努めてその点を意識しないように再び作業に取りかかった。ビニールシートを当ててその上から四辺をダクトテープで何重かに押さえつける。そして次の窓へ移る。たったそれだけではあるが自らの肩と首に触れる彼女の小柄な肢体を努めて意識しないようにする、というものはなかなか武本中佐の神経を疲弊させたようだ。

 意識しないようにすればするほどシートを貼り付けようと動く瑞鳳の太ももや下腹部の柔らかい感触に意識がいってしまう。肩に、うなじに、後頭部に温かくて柔らかいものが当たる度に煩悩が鎌首をもたげ、それを必死に理性が押し殺すことを繰り返している。気を紛らせようと必死の武本中佐の額には脂汗が浮かび、3枚目の窓に移る頃には早くも少し疲れたような表情へと変わってきていた。

 追い討ちをかけるように綾波はその横でニコニコと武本中佐を見つめている。笑っているようでその実、細く開かれた目は笑っていないしなにより「妙な動きをすれば締め上げる」というオーラを放っていた。

 

「うふふ~司令官さ~んどうしたんですかあ~? はぁい、次のシートでーす」

「お前……!」

「うふふ~」

 

 瑞鳳も隣の窓へ移ろうとする度にふらふらと揺れる足場(武本中佐)に思わず足を閉じてしまう。

 太ももに挟まれた中佐の頭部は呼吸を遮られ、苦しそうにもがく。そしてまたあちこちが柔らかいものが触れてしまう。

 

 3号車と4号車の合わせて8枚の窓を塞ぐ頃には武本中佐はまさに疲労困憊という体だった。

 

「フゥ、とりあえず窓はこれであらかた塞いだだろ……あとは細々とした弾丸の貫通箇所だ…」

「司令官、良くできましたねーお疲れさまでーす」

「ああ、まったく誰のせいだろうな」

 

 赤面した瑞鳳と力尽きてバラストの上に突っ伏した武本中佐にタオルを渡した綾波はそれはもうニコニコと楽しそうだ。

 

「うふふ~いいもの見れました~」

 

 一人でルンルンと後片付けをして車内へ戻る綾波を見送った二人は同じ感想を抱いた。

 

「悪魔だ……」

 

 


 

 

 三時間後ようやく空襲警報が解除され、列車は四時間半ほど遅れて運転を再開した。

 幸いにもこの空襲ではそれほど被害を受けなかったらしく、金沢から徐行で上ってきた試運転の機関車の乗務員も上下線ともに異常なしと報告したため、ほどなく通常運転を再開した。

 日本海沿岸に入った頃から降り続いている雨は未だ止む気配はない。

 やがてすっかり日も暮れ、闇夜に支配された北陸本線を降りしきる雨のなか、車体に弾かれた雨をマントのように纏い、闇夜を照らす光が駆けていく。

 高速走行特有の轟音を静かな田舎に響かせて走る列車は一部をビニールシートで覆う痛々しい姿ではあったが最高速度を維持して走るその青い車体はまだ健在であることを示していた。

 豪雨、という言葉が似合うほどに雨足はだんだんと強くなり、雨粒は激しく窓ガラスを叩く。

 編成中程の車掌室に堀井助役と二人で陣取り、金沢を出てからずっと窓の外を眺めていた平田助役は怪訝な顔で口を開いた。

 

「雪の残る季節にこんな雨はあり得ないな……」

「そうなんですか」

「ああ、わしは元々この辺りの出身でな…直江津運輸区に長く居たんやが……こんなのは初めてだ……」

 

 滝のように降りしきる季節外れの雨音と雨雲に月光を隠された闇夜は言い知れぬ恐怖を感たるには十分であった。

 車窓には大量の雨粒が流れていくだけでろくに外の様子もわからない有り様である。おまけに雨のためか少し列車無線も感度が悪い。

 

「杞憂だと……いいんやけどな」

「は?」

「いや、独り言や。それよりわしは艦娘たちの様子を見てくる。何かあったら呼んでくれ」

 

 バタン、とドアを閉めて出ていった平田助役を見送り、手持ち無沙汰になった堀井助役はおもむろに椅子に腰掛け、報告書でも書こう、そうしよう。とひとりごちて机に向かった。

 

 時刻は夜8時、フタマル、マルマルだ。舞鶴鎮守府の面々は食堂車で遅めの夕食に舌鼓を打っていた。

 揺れる車内を器用に歩きながら各テーブルに配膳する初月達国鉄の艦娘がテーブルに置いた白い湯気を立てる熱々のハンバーグを前に、彼ら彼女らの胃袋は限界を迎えていた。

 誰かが「いただきます」と口に出した途端、我先にと「いただきます」が響き、魅惑のハンバーグを口にする。

 

 白い皿に乗せられたハンバーグにかかる芳ばしいデミグラスソースが一段と食欲をそそる。一口食べてみれば、ほどよいかたさに焼かれたハンバーグとデミグラスソースが絡み合い、上品な味を演出する。ソースはほんのりと酸味を感じよい味の引き締め役を果たしている。

 同じ皿に乗った付け合わせの野菜は適度にカットされたじゃがいもに人参とブロッコリーだ。

 じゃがいもを口に運ぶとよく下ごしらえされていて柔らかく、ほとんど歯を立てないうちに胃の中へと消えていく。人参も同様だ。人参特有の一部の(特に駆逐艦)メンバーが苦手そうな独特の風味もソースがフォローしていて、残そうとしている娘もいない。

 

「うん、美味しい。やはり食堂車といえばこういう料理だな」

ひゃい、まなへ(やい、眞鍋)! もっそうはほほいひたへろよ《もっと旨そうに食べろよ》!」

「武本中佐……毎度言っているが貴官はもう少し静かに食べれんのか」

 

 一口一口よく味わって食べていた眞鍋中佐はハンバーグにかぶり付きながら話しかけてきた武本中佐に顔をしかめる。

 

「んぐんぐ、んぐっ……ふぅ、飯はもっと旨そうに食わないと不味くなるぞ」

「ふん、海軍軍人たるもの何事もスマートに食事もスマートにせんか。貴官には気品が足りないんだ気品が」

 

 乱暴にかぶりつく武本中佐とは対照的に眞鍋中佐はナイフで小分けにしてから口に運びながら、横目で睨み付ける。

 するとそれが面白くないのか今度は向かいに座っていた長門に標的を変えた。

 

「お前はそうは思わないよな、なぁ長門」

「なっ……えっいや、私に意見を求められても……」

「そうよぉ、長門は人参を克服できたばかりなんだからあまり変なことに巻き込んじゃダメよぉ」

「うっうるさい! ものの好き嫌いは人の自由だろう!」

 

 突然の挟み撃ちに赤面した長門はプイと顔を背けると無言でハンバーグを口に運び始めた。

 

「いいから、冷めないうちに食べてしまおう。食べ方以前にこういうのは出来立てが一番美味しいんだ」

「まぁ、確かにな。うちの食堂より美味いんじゃないか?」

「いやいや、料理の方向性がそもそも違うだろう」

 

 それに、と付け合わせのサラダを“スマート”に口に運びながら眞鍋中佐が続ける。

 

「そんなことが彼女たちの耳に入れば貴官は食堂に出禁を食らうだろうな」

「それは勘弁してほしいな」

 

 おお怖い怖い、と武本中佐は大げさに震えるような仕草を見せた。彼女たち、とは食堂を切り盛りしている間宮・伊良湖を筆頭とする艦娘と主計科の烹炊班である。彼ら彼女らなくして飯の美味い海軍はないのだ。

 

「それじゃあ俺は部屋に戻る。お前はどうする」

「私は最後までいるつもりだが」

「じゃあおやすみなさい、だな。また明朝会おう」

 

 


 

 

 翌日も空は嵐の様相を呈していた。風雨は止む気配もなく、辺りを包み込んでいる。どんよりとした暗雲は朝だというのに日没後のような暗さを作り出していた。

 A寝台のベッドから身を起こした眞鍋も目覚ましをセットしていなければ今が朝の7時半だということには気づかなかっただろう。

 夜間はさして異常には思わなかったが夜が明けてみるとこの空模様は異様であった。

 慌てて制服に袖を通した眞鍋が通路に出ると既に武本は身だしなみを整えて待っていた。

 

「遅いな」

「悪かったな。今はどの辺だ」

「弘前を出たあたりだ」

 

 それより気づいてるか、と武本が車窓の外に広がる暗雲を指し示す。

 

「さすがに気づいてる……上への報告は」

「お前がのんびりと惰眠をむさぼってる間に、舞鶴と大湊には通報している。こりゃ間違いなく姫級が近くにいやがるな」

「どうする?」

 

 なにも。と武本は首を振った。

 

「ま、俺たちが気を揉んだところでどうにかできるもんでもない。俺たちの最優先事項は一刻も早く大湊の増援に行くことだからな。さ、朝飯でも食いにいこうぜ。食堂車はもう開いている」

 

 まずは英気でも養いにいこうじゃないか。とでも言いたげな顔だ。

 

 

 

 

 

 少し重たい食堂車のドアを開けると早起きの艦娘たちが既にテーブルのパンにありついていた。誰も彼もパンばかり頼んでいるが朝食時間帯のメニューはパンがメインの洋定食と焼き魚がメインの和定食が用意されている。

 

「あっ司令、おはようございます!」

 

 いち早く眞鍋たちの入室に気がついた比叡が立ち上がって礼するのをやめさせながら二人掛けのテーブルに腰を下ろす。

 

「どっちにする?」

「洋定食。朝にはいつもオレンジジュースを飲むと決めているんだ」

「じゃあ俺は和定食だな。白米が食いたい」

 

 朝食が来るまで眞鍋中佐は車窓を眺めていたが相変わらず雨は窓を打ち続け、湿った大地がひたすら流れていくだけだった。

 

「楽しいか?」

「いや、不安が募るだけだね。なんというか……じれったいな」

「だから考えすぎるなって。俺たちがやきもきしなくてもちゃんと対策ぐらいとられてるだろ。ほら、飯が来た。食おうぜ」

 

 昨日とはうってかわって艤装ではなくエプロンを身に纏った瑞鳳と初月が食器を持ってきた。心なしか顔の赤い瑞鳳は武本から目を逸らしているようだ。

 テーブルに料理が揃うと武本中佐が呆れたように言う。

 

「ほら、少しは食っとかねぇといざというときに体が持たねぇぞ」

「あ、ああ。そう…だな。いただこう」

 

 すでに鮭の塩焼きに手を出していた武本に釣られるように眞鍋もパンを半ばオレンジジュースで流し込むように食べ始めた。

 その後眞鍋中佐が食べ終わるまでにも何人かの艦娘が朝食をとりに来ては料理を運ぶ瑞鳳が武本中佐を見るたびに赤面するという現象に、何かに気づいた何人かの艦娘はニヤニヤと、大半の艦娘は疑問符を浮かべて帰っていった。

 

 やっとのことで、といった感じで朝食を食べ終わった二人が、食堂車をあとにする頃にはすでに津軽新城駅が目前に迫っていた。この駅を抜けると青森駅までは10分足らずといったところである。

 

「妙だな……接近アナウンスがない」

「あん?」

「いや、次の長時間停車駅の青森が近づいているんだがその放送がないな、と……」

「こいつが俺たちしか乗ってないからじゃないのか?」

 

 今朝にもまして不安そうな真鍋中佐に武本中佐は考えすぎだという顔で笑う。

 

「いや、そんなはずは……」

「忙しいんだろ。大体そんなことを言ってたら現実になったらどうするんだ」

 

 プツッとスピーカーのスイッチが入る音がして、二人が顔を見合わせると、けたたましいサイレンを背景に若干上ずった声の車内アナウンスが列車全体に響いた。

 

《Jアラートが発令されました! 空襲警報、空襲警報です! 午前8時02分、青森県及び秋田・岩手の3県にJアラートにより、深海棲艦による航空攻撃の恐れがあると発表されました! 繰り返します……》

 

「お前お前お前お前お前お前ー!」

「い、いや偶然だこれは!」

「……っと、とりあえず部屋に戻るぞ!」

 

 寝台特急特有の狭い廊下をバタバタと駆け抜け、部屋に飛び込むとすでに待ち構えていた比叡がずい、とタブレット端末を差し出してきた。

 

「敵機の発見から現在までの位置情報です。三沢からの情報だと敵機の発見はここ、すでに陸奥湾の中に入ったところです。概算で約180機、南南東に向けて侵攻中です」

「かなり急ですねぇ…探知位置が近すぎる」

「これじゃ青森につく頃には空襲が始まってるな……」

 

 まったく大湊のやつらはなにをやってるんだと武本中佐は悪態を隠そうともしない。

 それもそのはず。深海棲艦の攻撃機が確認されたのは大湊の目と鼻の先である。比叡も大湊の基地と艦娘はなにをしているんだ、と言いたげだ。

 

「司令、どうしますか?」

「とりあえず列車が停まるまでは待機しかないでしょう。ただしいつでも動けるように装備を整えておいてください」

 

 

 

 

 空を覆う暗雲は変わらず太陽の光を遮り続け、東北の地から光を奪っている。おかげで8時を過ぎても機関車はヘッドライトで前を照らし続けていた。その光が青森の市街地を照らす頃にはすでに空に一瞬見える炎とそれに照らされる黒煙が多数上がっていた。

 

「対空砲火の弾幕だな」

「すでに始まっていましたか……」

「どうする、停めるか?」

 

 列車の一番前、機関車の運転台で前面のガラス越しに見える閃光を食い入るように見つめていた平田と堀井の助役二人に秋田で交代した老年の機関士は安全策をとるか尋ねる。

 少し考えてから平田は指令とも相談は必要だが、と前置きした上でその案を拒否した。

 

「青森へ突っ込もう。ここで停まっても逆に危険かもしれない。全速で行ってくれ」

「指令には連絡しておきます」

「よっしゃ、青森さ突っ込むぞ」

 

 汽笛一声。列車は青森市街へ突入した。

 

「堀井助役、君は後ろへ行って艦娘隊の指揮を執れ。青森へ着いたら我々も加勢するぞ」

「了解しました。それでは客車の方に戻ります」

 

 慎重に機関車から客車へ乗り移るとその通路をひたすらダッシュする。途中車窓からは青森の一大運行拠点である青森車両センター周辺からその周辺の市街地や道路から立ち上る黒煙がはっきりと確認できた。

 

「交通インフラを狙ってきてるのか!」

 

 目を凝らせば低空を我が物顔で飛ぶ憎きカブトガニ(敵機)が見えそうだ。

 

「本線には落としてくれるなよ…?」

 

 線路脇の土地に開いた大穴とくすぶる草木、車内にまで煙の臭いがする状況からして直撃も時間の問題ではないかと思えてしまう。

 

 力任せに貫通路の扉を開けると向こう側にいた瑞鳳がびっくりして飛び上がってしまった。

 

「も、もうっ! いきなりなんなんですか!」

「すまんすまん急いでいたんだ。みんないるか!」

 

 半分涙目の瑞鳳をなだめつつ完全装備で待機中の彼女らに青森着と同時に打って出ることを伝える。

 

「つまり列車の到着と同時にこの跨線橋を経由して青森港に飛んでもらう。艤装を装備したまま急赴してもらう都合上、転倒の危険があるため焦らず急いで向かうように」

「質問はありますか?」

「ないね? それでは大阪鉄道公安機動隊第17小隊出場!」

 

 堀井助役の号令一下、車内では邪魔になる艤装は腕に抱えて一斉に先頭車両へと走り去っていった。

 

「では、行ってきます」

「おえ、頼むぞ」

 

 最後に不知火が一礼して去っていくのを見届けた堀井助役は陣取っている乗務員室に戻り無線機のスイッチを入れる。かなりの距離まで届く大型のものだ。もちろん、周波数は不知火たちと同じものに合わせてある。

 

「17小隊、17小隊。こちら9081列車添乗の堀井。通話試験ですどうぞ」

《こちら17小隊の不知火。堀井助役、感度は良好です》

「了解しました。もうすぐ扉が開きます。全員無理することなく自己の安全を第一に任務を遂行してください」

《了解》

 

 

 

 

 黒煙をかき分けて電機は滝内信号所を通過し、青森駅の構内へと進入した。ここから先、青森駅5番線までの進路はすでに開通している。煙に巻かれながらも光を灯し続ける信号機がそれを示している。

 

「行け、行け、行け! 行っちまえ!」

 

 機銃掃射の流れ弾が割った窓ガラスの破片を浴びながら助士席側に立つ平田助役が叫んだ。ハンドルを握り、前方を注視したままの機関士もこめかみから一筋の鮮血がだらだらとカッターシャツを汚している。

 

 至近で炸裂した爆弾の爆風をものともせず、列車はギィィイ、と甲高い制輪子と車輪が擦れる音を撒き散らしつつ爆煙を割って煙を引いたままのローズピンクの電機は青森駅5番線へと高速で飛び込んできた。

 非常制動によって長い長いホームをいっぱいに使い、列車は何とかホームへと収まった状態で停車した。

 

 そして、開扉と同時に待ってましたと少女たちが客車を飛び出し、一目散に跨線橋の階段を駆け上がっていく。

 一路目指すのは第2岸に係留されている八甲田丸。跨線橋がそのまま連絡橋となり船へと続いているのだ。

 

 艤装の一部である靴で固い床を蹴り、150mほど進むとそれはそこにある。

 青函連絡船八甲田丸。止まることなく階段を駆け上がり航海甲板と同じ階へあがる。つまりは最上甲板である。

 

「17小隊、出撃します!」

 

 不知火を先頭に次々と少女たちは青森の海へと飛び降りていく。高さが高さゆえに一旦膝上にまで沈み込んでしまうがすぐに主機の推進力と浮力により浮上する。

 

「うぅ~冷たーい!!」

「冬ですからね」

「もう青森公安室の部隊が展開しているわ! 早く合流しましょう」

「そうですね。全艦輪形陣、全進一杯!」

 

 依然として大編隊が空を埋めつくし青森の市街地から次々と火の手があがる中、果敢に対空砲火を撃ち上げている三人の艦娘がいた。

 青森鉄道公安室所属の磯波、響、電だ。

 

「撃っても撃ってもキリがないのです!」

「つべこべ言うんじゃない。私たちがやらないと市民にもっと被害が出るんだ」

 

 そこへ雲の切れ間から飛び出してきた20機ほどの零戦が次々と敵機に食らいついた。瑞鳳が放った零戦隊だ。

 真下から機銃弾の雨を浴びせると12機の新型機(タコヤキ)が火を吹いて海面へと吸い込まれていく。深海棲艦機もこれ以上被害を増やされては堪らないと零戦隊がターンするまでの間に慌てて散開する。その隙をついて不知火たちは奮闘していた三人に駆け寄った。

 

「こちらは大阪鉄道公安機動隊第17小隊です。不知火以下8名これより戦列に加わります」

「あっありがとうございます! 青森鉄道公安室の電です。よろしくお願いいたします」

「さ、敵が態勢を乱している間に態勢をととのえましょう」

 

 片手間に15.2㎝砲で向かってきた従来型機を追い払うと陣形を組み直すよう提案する。

 青森の3人を加えた小隊は狙われないよう即座に移動を開始した。

 一方の眞鍋ら舞鶴鎮守府の一行も、青森の防空に参加するため艤装をコンテナから取り出し、出撃準備を整えていた。

 

「よし、燃料よいか。弾薬は」

「燃料弾薬ヨシ」

「機関の暖気は」

「十分です」

「雲がある。対空警戒には細心の注意をはらってな。よし、行ってこい」

 

 長距離列車も発着するため広くとられたホーム上へ艤装と工具を広げながら急ピッチで準備を進めていく。

 

「ふふ、ようやく戦闘か……胸が熱くなるな……!」

「あら、ノリノリね。長門」

「ずっとあの中でじっとしていたからな。体の凝りをほぐせそうだ」

 

 装備点数の少ない駆逐艦や巡洋艦はさっさと準備を終えて出ていってしまっており、ホームには艤装を四苦八苦しながら運搬する整備兵と国鉄の職員、それから戦艦だけが残っていた。

 

「おお、陸奥も終わったか」

「ええ、やっとよ? まぁ私たち(戦艦)は仕方ないわよね……」

 

 とはいえ、青森駅も駅舎や一部の側線、それに近隣の車両基地もすでに被害を受けており、もどかしさを感じていた。

 

「んん?」

「どうしたどうした、不具合か?」

「いや、あれは……」

 

 ふと、作業中の整備兵が気づいた時にはソレはまさに攻撃態勢に入ろうとしていたところだった。

 

「4時方向、敵機!」

 

 低空を単機で突っ込んできた深海棲艦機はまず東から西へ横切りながら一度目の銃撃を行い、青森駅を通りすぎるとさらにターンして二度目の銃撃を加えるべく降下してきた。

 

「長門!」

「させないさ!」

 

 次の標的とされたホームのない線路に停まっていたディーゼル機関車とその近くに建つ詰所に機銃掃射をかける深海棲艦機へ、長門型の2隻が一斉砲撃を浴びせた。

 たまらず上昇に転じた敵機は上空から逆落としに急降下してきた零戦の餌食となった。

 もうもうと立ち込める黒煙の中に立つ陸奥はやや不満気な顔だ。

 

「あらあら。手柄、とられちゃったわね」

「戦艦では航空機には勝てんさ。あれでいい。さ、私たちも出撃()ようか」

「長門、青森駐屯地や市街地の被害が拡大しています。頑張ください」

「了解した。提督」

 

 眞鍋に対し、ピシッと敬礼すると跨線橋を駆け上がっていった。

 

「さて、最前線だな。ここは」

「ああ、まったくだ」

 

 四方八方から聞こえる怒声や爆発音、土が掘り返される音に航空機の爆音、それから火の中を駆け回って消火にあたるサイレンの音。それらがごちゃ混ぜになった騒音がここが戦場であることを強く主張していた。湾の奥に位置し、比較的安全であった青森の街はいまや見る影もない。

 

 市街地を防火服を着込んだ集団が走り回る。

 

───急げ! ここだ、早く火を消せ!

───駄目だ! 防火水槽の水が足りねぇそ!

───オイ、川の水さ引っ張ってこい!

 

 

 

 

 倒壊した家屋の火が燃え移った男が火だるまになる。

 

───た、助けてくれ! 火が火が!

───誰か! 夫が火だるまに!

───奥さん、もうだめだ。あんただけでも逃げな!

 

 

 

 

 空襲を逃れ市街地を離れようとする避難民には機銃の雨が降り注ぐ。必死に我が子の手を引いて連れていく両親を嘲笑うかのようにパニックになった集団はバラバラに逃げ惑い、親子は離ればれとなってしまう。

 

───お母さん! お母さん!

───すみません、すみません! 娘がそこに!

───邪魔だ!

───娘がそこにいるんだ! 誰か!誰か!

 

 

 


 

 

 

 

「ひどい有り様だな……」

 

 敵機が引き上げた空に偵察機を放った長門がポツリと呟いた。

 

《どれ程の被害が出ている?》

「今も市街地のあちこちからもうもうと煙が上がっているな……反面、海上の船舶の方はほとんど被害がない。青森駐屯地もひどく叩かれている。鉄道の方は見える範囲では大丈夫そうだ」

《了解した。これで空襲が終わりとも思えん。順次補給して第二波に備えろ》

「了解だ」

 

 第一波を凌ぎきった艦隊は青森の電と舞鶴の比叡が小破判定とはいえ、全艦健在と言えた。

 しかし、武本らが予測した通り、攻撃隊を収容した母艦は着々と第二次攻撃隊の準備を進めていた。

 第一次攻撃隊が引き上げてからおよそ40分。再び敵機接近の報がもたらされた。

 第二次攻撃を最初に捉えたのはやはり三沢基地のレーダーであった。機数にして約280機。第一次攻撃で相当の撃墜数を出したはずだが、それを上回る戦力をつぎ込んできたのである。

 

「全機突入、迎撃開始!」

「これ以上は……やらせません!」

「正面反航戦は他の隊に任せて。第六〇一航空隊、全機敵機上方に回って!」

 

 青森湾の上空、高度500mで会敵した両軍は正面反航戦(ヘッドオン)で衝突した。

 いの一番に突撃を敢行したのは飛龍の紫電隊である。紫電改二で構成された54機の飛龍隊は爆撃機を分離して前に出てきた護衛戦闘機隊を初撃で11機を撃破し、第二次空襲の火蓋が切られた。

 遅れて赤城航空隊が分離した爆撃機に群がり深海棲艦爆撃機の一部も爆弾を分離して果敢に反撃に出る。

 飛龍隊、赤城隊ともに初撃では敵航空隊に痛打を与えたものの、即座に態勢をととのえ反撃に転じた敵機になかなか攻めきれず一部の爆撃機が防衛ラインを犯し始めていた。

 

「今よ! 全機、上方より奇襲をかけて!」

 

 じっと機をうかがっていた大鳳隊の54機の烈風は待ってましたとばかりに雲を突き破り低空まで降下してくると艦隊に接近している敵航空隊の背後から一斉に攻撃を加えた。

 

「大鳳さん!?」

「爆撃機は任せてください。あなたたちは敵戦闘機の排除を!」

「わかりました!」

 

 大鳳隊の烈風はその性能を存分に発揮し次々と敵機に食らいついては穴だらけにしていく。

 中には赤城、飛龍隊を振り切った戦闘機が妨害に飛び込んでくるが通常型はもとより新型機(タコヤキ)も数機で囲み、即座に排除する。

 しかし、爆撃機に混じるタコヤキ(新型機)は烈風に食らいつかれてもなお、それを振り切るほどに腕のいい機体ばかりであり、遂に艦隊への接近を許してしまう。

 

「くっ……いくらなんでも敵機が多すぎるわ。食い止めきれない…!」

「……よし! よくやってくれた。あとは我々の力の見せ所だ。対空戦闘用意、弾種三式! 赤城、飛龍、大鳳が敵機を大幅に減らしてくれた! ここで全滅させるぞ!」

「全艦対空戦闘用意、各自僚艦との距離をとり射撃に備え。敵速640ノット、距離4200、北西北から南東方向へ飛行中! 各艦統一射撃用意、全艦照準合わせ!」

「響、対空装備が一番充実してるのはお前だ。頼んだぞ」

「了解」

 

 艦隊旗艦長門の号令一下、戦艦の一斉砲撃に続いて各個射撃を開始する。駆逐艦は対空電探、主砲に代えて10㎝高角砲を積み、秋月型2隻を擁する艦隊の対空防御は猛烈なものとなった。

 ある機体は弾幕に阻まれ上昇に転じたところを追いすがってきた飛龍の紫電に叩き落とされ、雷撃進路へ入った攻撃機は進路上へ水柱を作り続ける響の射撃にからめとられた。

 三機編隊で山城を襲った爆撃機は投弾後すぐに大和の対空砲火に当てられ飛ぶのもやっとの状態となり一機はそのまま海面へ飲み込まれていった。

 対する深海棲艦機も必死である。上空から突っ込んでくる爆撃機に夢中の電の背後から忍び寄った3つのタコヤキは彼女に三本の魚雷を至近から叩き込み被弾炎上させた。

 

「電ちゃん!」

「磯波! 電を担いで早く回避行動を!」

 

 駆逐艦一隻を轟沈寸前に追い込むには充分の火力を叩き込まれた電は艤装は熱と衝撃でひしゃげ、あちこちに火傷を負い、磯波が担いだ時にはすでに意識を手放していた。

 

「一機も生かして帰さないよ! ураааа!」

 

 妹の敵とばかりに青森の響は主砲を連射して弾幕を張ったものの、逃げる相手には意味などなく、逃げ切られてしまった。

 

「そこだ! 撃て!」

「全砲門、FIRE!」

「ガンガン撃って! 長10cm砲ちゃん、もっともっと! 頑張って!」

 

 二つの輪形陣のうち、大和を中心とした輪形陣で一際盛んに撃ち上げていたのは金剛、初月、照月のグループである。その濃密な弾幕は敵機をほとんど近づけさせず、その快速で迫り来る魚雷もひらり、ひらりと躱してみせた。

 航空隊も負けてはいられない。直掩隊と合流した前に出ていた迎撃隊も、投弾態勢の敵機に後ろから雨のように弾を浴びせて攻撃を阻止していった。

 

 どれ程経っただろうか。気がつけば朝を指していたはずの時計の針はもうお昼時の数字を指している。

 

「まったくしつこいわねこいつら……!」

 

 長時間の戦闘にイラついた山城は遠ざかっていく深海棲艦機についつい悪態を吐いてしまう。その後方にいた大和が最大船速のタックルを突如としてお見舞いしたのはそのときだった。

 

「山城さん歯ァ食いしばってください!」

「ちょっなに!?」

 

 ゴン、という双方の艤装がぶつかる鈍い音と衝撃とともに前に押し出された山城が抗議の目を大和に向けるとその後ろを魚雷が通過していった。

 

「ふぅ…手荒な真似をしてしまってごめんなさい。でも、これしか方法がなかったんです」

「あ、ありがとう……」

 

 その雷撃を最後に、深海棲艦機は高度を上げて編隊を整えると引き上げていった。

 

「おお……日向、敵機が引き上げるぞ!」

「今の攻撃が最後だったみたいだな」

「お疲れ様、全機帰投して!」

 

 第二次攻撃は一時間半に渡って続いたが、国鉄と海軍の連合艦隊は、三隻の大破艦を代償に青森市街地への更なる被害を防ぎきることに成功した。

 この空襲による死傷者は市役所など行政施設も被災したためすぐには集計できないだろう、と車中で武本は語った。

 線路の安全確認がとれ、機回し中に故障したローズピンクの機関車の代わりにエンジ色のディーゼル機関車DE10形が重連で客車を青森から引き出したのは日が傾き始めた頃だった。

 空を覆っていた雲が晴れた時には既に太陽は地平線に潜っていた。日本海に侵入していた深海棲艦群を一掃したのは呉と横須賀の精鋭たちだったという。

 曰く、何故か空母がほとんど攻撃してこなかった。

 曰く、水雷戦隊が水を得たように吶喊した。

 曰く、ダメージコンテスト

 そんな噂を聞いたのは大湊に腰を下ろしてからだった。

 

 

 東北本線をノロノロと東進し、野辺地駅からは大湊線を北上した列車が大湊駅に着く頃には日はとっぷりと暮れてしまっていた。

 

《長旅、大変お疲れ様でした。てっぺんの終着駅、大湊駅に到着です》

 

 そんなアナウンスに促され、駅に降りると無数のトラックとそのヘッドライトに照らされた大淀、明石が待ち構えていた。

 

「お疲れ様です。大湊基地よりお迎えに上がりました!」

 

 敬礼に答礼しつつ疲労困憊という言葉が似合う舞鶴の面々はヘロヘロになりつつ整列する。

 

「ご苦労、舞鶴の武本だ。出迎え感謝する」

「お待ちしておりました。皆様、どうぞご乗車ください」

 

 そう言って大淀が指差すのは後ろのトラックである。寝台車に乗り慣れた長門たちは一様に嫌な顔をするが命令とあれば乗らなければいけないのが軍隊というところだ。

 

「よし、総員乗車!」

 

 提督がこう言えば彼女は冷たくて硬い椅子に座らなければならないのである。そして外と隔てるものは薄い幌しかない。地獄だ。

 

「これが青森の英雄様への待遇か!」

 

 次々と雪の積もる道を走り出したトラックの荷台で震えた舞鶴鎮守府組が大湊基地の割当部屋にたどり着いたのは午後9時30分。

 

 帰りの移動手段ももちろん列車だと聞かされた艦娘たちから眞鍋、武本両名に浴びせられたのは豪雨というにふさわしい─────────

 

 

 

─────────非難の【雨】だった。

 

 

 

 

緊急戦力輸送 完

 

 

 




これにて拙作「緊急戦力輸送」は完結となります。お付き合いいただきありがとうございました!
執筆スピードが遅い自分が憎い!
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