私は何の変哲もない中学校に通う中学2年生。部活に入ってもないのに毎朝6時に起きて、6時半には家を出る。少し普通の中学生とは変わってるかもしれないが、1年生の時からこの生活をしているから今更もう変えようとは思えない。今は…だけど。そんないつもと変わらない日に今日もなるはずだった。
「…あなたは、だれ?」
「…はい?俺のこと?」
「そこのベンチに座ってるのはあなたしかいないと思うのだけど」
「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて主語を入れて喋ってくれないか。あなただれ?じゃ何が言いたいのかよくわからん」
「ごめんなさい。私は喋るのが得意じゃないから」
「……そうか」
なぜ私はこのおじさんと喋っているのだろう。いや、喋りかけたのはこちらなのだけれど。
「私は、1年前ぐらいから雨が降る日を除いてそこのベンチで本を読んだり景色を見るのが日常化してたから…」
「あ~なるほどね。それで俺がここのベンチに座ってたからおもわず声かけちゃった訳ね」
「……んっ」
私はおじさんの言うことに頷いた。そんな私を見ておじさんは「ん~」と低いうなり声をあげながら私を見る。
「なに?」
「えっとね?いくらおかしなことがあったからって見知らぬ人…しかも男の大人に話しかけるのは如何なものかと思ってね」
「それの何がまずいの?」
「いや、いろいろまずいでしょ。俺の世間からみられる目とか君の身に迫る危険性とか」
「おじさんは私に何かするつもりなの?」
私は自分の体を抱きしめるように守る仕草をする。私の行動を見ておじさんはあきれたように…
「俺がもし、君に何かしようものなら君とのんびりお話しないで速攻で君の口を押さえて拘束すると思わないかい?」
「確かにそう思う」
私は一人納得をし、おじさんの横に座る。
「…のんびりしてていいのかい?君は見たところ学生だろ」
「おじさんもこんなところでのんびりしてていいの?スーツ着てるってことは社会人でしょ?」
「…君、まだ時間はあるか?」
「まだ1時間以上あるから大丈夫」
「なら1つ相談に乗ってくれるかい?なんか君になら話してもいいと思ってね」
「かまわない」
「ありがとう」
おじさんはお礼を言うと立ち上がり少し背伸びをする。
「あの…話は?」
「少し待ってて、飲み物があったほうが話しやすいだろ。何がいい?」
「いや悪いから大丈夫」
「遠慮するな。相談を受けてもらうんだ、相談料は受け取ってくれ」
「…ならお茶で」
「了解した」
おじさんはそういうと自動販売機のほうに走っていった。少ししておじさんは戻ってきて、私に某健やかになる美茶(250ml)を渡してくる。
「んっ。ありがと」
「いえいえ」
おじさんはブラックコーヒーのプルタブ…じゃないんだっけ。前に本で読んだけどステイオンタブというらしい。それをおじさんは外し、ごくっとコーヒーを飲んだ。
「ん?君も見てないで飲んでいいよ」
「そう…ならいただきます」
私はお茶のキャップを回して外し、飲み口に口をつけお茶を飲む。
「さて、時間も限られてるから話し始めるよ」
「んっ、大丈夫」
おじさんは缶をそばに置いて前を見据えながら話し始めた。
「実はね、俺には婚約者がいるんだ」
「…」
「その人とは仲良くしてるし、その人の両親とも仲良くさせてもらってる」
「ならなぜ迷っているの?」
「…驚いた。まだ話の中心を話していないのによくわかったね」
「…いやなんとなくだけど話の展開的に迷ってるかなと思っただけ。深いところはよくわからない」
「そこだけ分かっているならよくできたものだよ。続けるね」
「君の言った通り俺は迷っているんだ。仕事も順調、婚約者の間柄も良好。これ以上のないくらいに順調なんだ」
「しかし、心のどこかで靄がかかってる気がしてならないんだ。なにか大切なことを見失ってるような気がするんだ」
「…それがわからないと?」
「だからこうして朝から悩んでるんだ。この靄を晴らさない限り俺は先に進めない気がしてね」
おじさんは少し暗い顔をして私のほうを見た。
「君はあるかい?とても幸せな状態なのに心に穴が開いたような気分になったこと…」
「いや、この質問を学生である君に話すのは少しおかしいよな」
「すまん、忘れてくれ」
おじさんは少し申し訳なさそうに頭を下げた。それに対し私は気にしてないと返す。要するにおじさんは何事もうまくいってるから次に何か悪いことがあるんじゃないかと未来を悪く予想してるんじゃないかと思う。
「おじさんの靄が何なのかは私にはよく分からない」
「…うん」
「でも、その心に空いたかのような気持ちというのは確かなことなの?順調すぎるがゆえに感じるナニかじゃない?」
「そこは曖昧なんだね」
「私、中学生だから言葉足らずなのは許してほしい」
「えっ!?君、中学生だったの?」
「そうだけど」
「まじか…俺は中学生の女の子にこんな重い相談をしてたのか」
おじさんは少しショックを受けていた。
「続き話していい?」
「んっ…かまわないよ」
「そのナニカっていうのがおじさんが感じる虚無感に通じてると思う。だから、その虚無感を満たす為に行動すればいい」
「つまりは?」
「空いた穴を埋めるにはその穴に入る思い出または幸せを入れてあげればいい」
「まずは仕事と婚約者のどちらで穴を埋めたいかを考える。どちらかが決まったらあとは行動するだけ。仕事なら同僚や後輩と飲みに行くとか、婚約者のほうなら家族を交えて旅行に行くとかする」
「悪いけど、私が考え付くのはここまで。あまり力にならなくてごめんなさい」
「……」
おじさんは何か考えるように空を見上げていた。私は喋りすぎてのどが渇いたのでお茶を飲む。少ししておじさんは決意した顔で私を見た。
「…その顔を見ると決意は固まった?」
「そうだね。中学生に相談してこんなに楽になるとは思わなかったよ。君は将来心理学でも学ぶのかな」
「…こんな私にはコミュニケーションなんて向いてない」
「そんなことないと思うけどね…まぁ君のおかげで少し解決の糸口を見つけることができたよ」
「ありがとう」
おじさんはにっこりと笑った。私もうれしくなって少し頬が緩んでしまった。
「おっ、君もそんな顔するんだな。会った時から無表情だったからギャップがすごかったよ」
「ギャップ?」
「普段との落差がすごいってことだよ」
「…要するにどういうことなの」
「笑った君はとても可愛かったってことだよ」
「……ッ!!」
私は咄嗟におじさんから視線を外し、地面のほうに顔を下げた。自分でもわかるぐらいに顔が赤くなっている。
「男はね、君のような子の照れた顔を見る事で幸せも感じるし、守りたいと思えるんだ」
「…皆まで話さなくてもいい!恥ずかしいからっ!」
「俺も生まれるのが10年遅かったら君に恋してたかもしれないね」
「……」
私はおじさんのそんな言葉を恥ずかしながらも受け止めた。何も返すことはできなかったけど、心がとても温かくなるくらい嬉しかった。
「さてと、そんなに長く話したつもりはないけどもう7時半か。そろそろ会社に向かうとするか」
おじさんはそういうと立ち上がり、空になったであろう空き缶を自動販売機に備え付けてあるごみ箱に捨てた。
「それともう1つ、君に言うことがあってね」
「……なに?」
私は少なくなったお茶を飲みながら返事をした。
「君はおじさんおじさんと呼んでいるけど、俺はまだ24才だからな!おじさんって言われるような年齢じゃないぞ!」
私は驚きのあまり目を見開いた。それくらいインパクトが強かった。
「その驚き方は少し傷つくがまあいいさ」
おじさんはそう言い、ベンチに置いてあったカバンと上着をとって…
「じゃあな、嬢ちゃん。君のおかげで元気が出たよ」
おじさんは片手をあげながら去っていく。私はそれを見届ける。…いや勝手に口が開いていた。
「…あ、あの!」
少し大きな声で呼び止めた。おじさんは私が大きな声を出したことに驚きながら振り向いた。次に私は対照的に小さな声で…
「…また、会える?」
「……」
私は不安げにおじさんを見つめる。おじさんはニカッと笑って、
「また、明日な!」
こう言った。私はそれに答えるように返事をした。
「…うん。また明日!」
こうして私の何気ない日常が始まるのだった。
ご精読ありがとうございました。
誤字報告ありましたらお願いします。
漢字の読み…1.靄…もや
2.曖昧…あいまい
3.如何な…いかが
追記…タグに関しては予定であり、変更になる可能性がございますので予めご了承ください。