少女とおじさんが駄弁るだけ(凍結)   作:ヤマニン

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おはようございます、ヤマニンです。
最初の話は、皆様に分かっていただけるように早めに書き上げました。

次話からは少女とおじさんのおしゃべりが主になってきます。

では、1話のおじさん視点をお楽しみください。


出会い おじさん視点

俺は何の変哲もない会社で働く会社員だ。歳は24歳で、今年で社会人3年目とまだまだ若手。そんな俺はこう言っては何だがとても幸せな状態にいる。会社の業績も人間関係も良好。そして、俺より歳が一つ下の婚約者がいる。同棲もしていて、とても愛くるしい笑顔で「お帰りなさい!」と疲れた身体を労わってくれるとてもできた嫁さんだ。嫁さんのご家族との間柄も良好で、言ってしまえば俺は幸せの真っ只中にいるという訳だ。

 しかし、なぜか最近はこの幸せが終わってしまうんじゃないかと危機感を感じている。そんな根拠は一切ないし、嫁さんに相談したら「私たちの幸せがこんなところで終わるはずがないから心配しなくてもいいんだよ」と優しい言葉をかけてくれた。だが、俺の気持ちが晴れることはなかった。

 そんななか、少しでも気分を変えるために俺はいつもより早めに家を出て、なんとなく見つけた公園のベンチに腰を下ろした。

 

「…はぁ~なんなんだ。この気持ちは」

 

俺がしばらく考え込んでいると、声をかけられた。

 

「…あなた、だれ?」

 

そこにいたのはセーラー服の女の子だった。

 

「…はい?俺のこと?」

 

今、俺以外にこの公園には人はいないが一応確認をする。社会でも確認は大切だからな!すると少女は(ほぼ無表情だが)不思議そうな表情をして

 

「そこのベンチに座っているのはあなたしかいないと思うのだけど」

「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて主語を入れて喋ってくれないか。あなただれ?じゃ何が言いたいのかよくわからん」

 

ある程度予想することはできるけど確かなものじゃないしな。少女は無表情でこう言う。

 

「ごめんなさい。私は喋るのが得意じゃないから」

「……そうか」

 

なんか訳ありの子なのだろうか…。あんまり表情を出すのも苦手みたいだし。

 

「私は、1年前くらいから雨が降る日を除いてそこのベンチで本を読んだり景色を見るのが日常化してたから…」

「あ~なるほどね。それで俺がここのベンチに座っていたから思わず声をかけちゃった訳ね」

「……んっ」

 

少女はこくっと頷く。こう思ったらダメなんだけど、この子世間知らずだな。俺はうなり声をあげながら少女を見た。少女は怪訝そうな目をして俺を見る。

 

「なに?」

「えっとね?いくらおかしなことがあったからって見知らぬ人…しかも男の大人に話しかける如何なものかと思ってね」

「それの何がまずいの?」

 

まじで?それが分からないとかどんだけ純粋なの。俺は若干あきれたように少女を見る。

 

「いや、いろいろまずいでしょ。俺の世間からみられる目とか君の身に迫る危険性とか」

「おじさんは私に何かするつもりなの?」

 

いや、しないし。てかできないし!これでも結婚控えた男ですからね!こんなこと嫁さんや知人に知られたら首がパーンって飛ぶよ!

 

「俺がもし、君に何かしようものなら君とのんびりお話しないで速攻で君の口を押さえて拘束すると思わないかい?」

「確かにそう思う」

 

少女は納得したように頷き、俺の隣に腰を落とした。いや、なんで隣に座るの!分かったんじゃないのかよ?まぁ、いいや。俺は気になったことを少女に尋ねた。

 

「…のんびりしてていいのかい?君は見たところ学生だろ?」

「おじさんもこんなところでのんびりしてていいの?スーツ着てるってことは社会人でしょ?」

 

うぐっ!なかなか痛いところを突かれたな。…俺はふとこんな考えにたどり着いた。『自分で悩んで考えてもダメだったし、この少女に相談してみようかな』と。次には何考えてるんだと自分を殴りたくなる。こんな見ず知らずでしかも自分より明らかに7歳以上は離れているであろう少女に相談するなんて…。…でも、もし相談して少しでも解決する可能性があるなら俺は賭けてみたい。俺の理性で抑えられなかった口が開く

 

「…君、まだ時間はあるかい?」

 

…言ってしまった。

 

「まだ1時間以上はあるから大丈夫」

「なら1つ相談に乗ってくれるかい?なんか君になら話してもいいと思ってね」

「かまわない」

「ありがとう」

 

これでもう後戻りはできない。ごめんな、こんな重い話を君みたいな少女にするのは間違ってる。そんなことはわかっている。頼む!俺を助けてほしい。俺は心の中で少女に謝り、立ち上がった。あ~少し長いこと座ってたから腰が痛い。ダメだな…まだ24歳なのに。

 

「あの…話は?」

 

少女は疑問といったような目で俺を見てくる。

 

「少し待ってて、飲み物があったほうが話しやすいだろ。何がいい?」

「いや悪いからいい」

「遠慮するな。相談を受けてもらうんだ、相談料は受け取ってくれ」

 

少女は少し考えると…

 

「…ならお茶で」

「了解した」

 

俺は駆け足で自販機のもとに走っていく。俺はブラックコーヒーを、少女には某爽やかな美茶を買って少女の元に戻り、お茶を少女に渡した。

 

「んっ。ありがと」

「いえいえ」

 

少女はお茶を受け取るとお礼を言う。こうやって素直にお礼が言えるのは親の教育が行き届いてるのか、それともこの子がただ単純に賢いだけなのか。それでもこの子が優しい子だというのは話した感じで分かった。ただ、表情が硬いのは気になるが。ちらっと少女を見ると彼女はお茶には手を付けずに俺のことをじっと見ていた。

 

「ん?君も見てないで飲んでいいよ」

「そう…ならいただきます」

 

少女はそう言って、お茶のキャップを外しお茶を飲み始めた。少女がキャップを閉めたのを横目で確認し、俺は本題に移る。

 

「さて、時間も限られてるから話し始めるよ」

「んっ、大丈夫」

 

俺はコーヒー缶を横に置き、前を向いて情景を思い浮かべるようにただ前を見た。

 

「実はね、俺には婚約者がいるんだ」

「…」

「その人とは仲良くしてるし、その人の両親とも仲良くさせてもらってる」

 

俺は簡単にゆっくりと内容を話していく。すると少女から驚きの一言が飛び出した。

 

「ならなぜ迷っているの?」

「…っ!」

 

少女は俺の心を見透かしたかのようにいきなり核心に迫ってきた。

 

「…驚いた。まだ話の中心を話していないのによくわかったね」

「…いやなんとなくだけど話の展開的に迷ってるかなと思っただけ。深いところはよくわからない」

「そこだけ分かってるいるならよくできたものだよ。続けるね」

 

少女の顔を見るに言ってることはホントのようだ。俺は話をつづけた。

 

「君の言った通り俺は迷っているんだ。仕事も順調、婚約者の間柄も良好。これ以上のないくらいに順調なんだ」

「しかし、心のどこかで靄がかかってる気がしてならないんだ。なにか大切なことを見失ってるような気がするんだ」

「…それがわからないと?」

「だからこうして朝から悩んでいるんだ。この靄を晴らさない限り俺は先に進めない気がしてね」

 

俺は普段嫁さんや同僚たちには見せないような暗い表情をしているんだろうな。俺は申し訳なくなりつつも少女を見る。

 

「君はあるかい?とても幸せな状態なのに心に穴が開いたような気分になったこと…」

「いや、この質問を学生である君に話すのは少しおかしいよな」

「すまん、忘れてくれ」

 

俺は畳みかけるように一気に話した。俺は軽く頭を下げながら少女のほうを見る。少女は俺を見据えながら、何か考えてるような顔をしていた。すると、少女が口を開く。

 

「おじさんの靄が何なのか私にはよく分からない」

「…うん」

 

だよな…こんなことこんなに幼い子に話すことが間違っている。俺は少し期待してたのかもな、普通の女の子とは雰囲気が違うこの子に。俺が内心あきらめていると少女は、「…でも」と言葉をつづける。

 

「その心に空いたかのような気持ちというのは確かなことなの?順調すぎるがゆえに感じるナニかじゃない?」

「そこは曖昧なんだね」

「私、中学生だから言葉足らずなのは許してほしい」

「えっ!君、中学生だったの?」

「そうだけど」

「まじか…俺は中学生の女の子にこんな重い相談をしていたのか」

 

俺は自分がした行動にショックを受けた。少女は気にした様子はなく、

 

「続き話していい?」

 

と聞いてきた。

 

「んっ…かまわないよ」

 

俺は若干のショックを残しつつも少女の言葉に耳を傾けた。

 

「そのナニかっていうのがおじさんが感じる虚無感に通じてると思う。だから、その虚無感を満たす為に行動すればいい」

 

虚無感…なんか少し違う気もするが言いたいことはよく分かる。

 

「つまりは?」

「空いた穴を埋めるにはその穴に入る思い出または幸せを入れてあげればいい」

「まずは仕事と婚約者のどちらで穴を埋めたいかを考える。どちらかが決まったらあとは行動するだけ。仕事なら同僚や後輩と飲みに行くとか、婚約者のほうなら家族を交えて旅行に行くとかする」

「悪いけど、私が考え付くのはここまで。あまり力にならなくてごめんなさい」

「……」

 

俺は少女の言葉に衝撃を受けていた。彼女が紡いだ一つ一つの言葉が俺の中に入ってくる感じがする。俺は、空を見上げながら少女が言ったことを参考に考える。そうか、なにも不安を感じる必要はなかったのか。そうだよ、幸せだと感じているのに悪い予感をする必要がどこにあるんだ!むしろもっと幸せを広げていくことのほうが有意義だし、大切なことなんじゃないのか!俺はなんでこんなことにも気づかなかったんだ。この少女に言われて初めて気づくとは社会人失格だな。俺は横に座る少女を見た。彼女はお茶をちまちまと飲んでいた。

 

「…その顔を見ると決意は固まった?」

「そうだね。中学生に相談してこんなに楽になるとは思わなかったよ。君は将来心理学でも学ぶのかな」

 

俺は冗談を交えて少女に聞いた。

 

「…こんな私にはコミュニケーションなんて向いてない」

「そんなことないと思うけどね…まぁ君のおかげで少し解決の糸口を見つけることができたよ」

「ありがとう」

 

俺はできる限り精一杯の笑顔を少女に向けた。少女は俺を見て嬉しかったのか、無表情だった顔の頬を緩めて笑った。

 

「おっ、君もそんな顔するんだな。会った時から無表情だったからギャップがすごかったよ」

「ギャップ?」

 

俺は少女に冗談に聞こえる本音を言った。彼女はギャップの意味が分からなかったのか首を傾けた。

 

「普段との落差がすごいってことだよ」

「…要するにどういうことなの」

「笑った君はとても可愛かったってことだよ」

「……ッ!!」

 

少女は恥ずかしくなったのか急いで顔を俺から背け、下を向いた。しかし、横顔は見えているので顔が赤くなっているのはとても可愛らしいと思った。

 

「男はね、君のような子の照れた子の顔を見る事で幸せも感じるし、守りたいと思えるんだ」

「…皆まで話さなくてもいい!恥ずかしいからっ!」

「俺も生まれるのが10年遅かったら君に恋してたかもしれないね」

「……」

 

俺は、少女の初心な反応を楽しんだところで立ち上がる。

 

「さてと、そんなに長く話したつもりはないけれどもう7時半か。そろそろ会社に向かうとするか」

 

俺は自販機に備え付けてあるごみ箱に空になった缶コーヒーを捨てる。俺は少女の方を見て言いたかったことを言う。

 

「それともう1つ、君に言うことがあってね」

「……なに?」

 

少女はお茶を飲みながら単調に答えた。

 

「君はおじさんおじさんと呼んでいるけど、俺はまだ24才だからな!おじさんって言われるような年齢じゃないぞ!」

 

俺は最初のほうから気になっていたことを少女に向けて話す。すると、少女は俺の年齢に驚いたのか目を見開いていた。

 

「その驚き方は少し傷つくがまあいいさ」

 

俺は、ベンチに置いてあったカバンと上着をとり、公園に出入口に向かう。

 

「じゃあな、嬢ちゃん。君のおかげで元気が出たよ」

 

俺はギザらしく片手をあげ少女に別れを告げた。俺が歩き出すと、少女が俺を呼び止めた。

 

「…あ、あの!」

 

とてもさっきまで話していた少女の口から出たとは思えない少し大きめの声だった。俺は、驚いて後ろを振り向いた。

 

「…また、会える?」

 

少女はさっきの大声が嘘のように小さな声でそう聞いてきた。そんな不安げにみる彼女に向かって俺は少年のように笑い…

 

「また、明日な!」

 

と言った。少女はその返答が嬉しかったのか微かに微笑みながら…

 

「…うん。また明日!」

 

と返事をした。

 

こうして俺の何気ない日常が始まるのだった。

 

 

 




ご精読ありがとうございました!
おじさん視点と少女視点を見比べながら読むと面白いかも知れません!
誤字報告をお願いいたします!
漢字の読み
1.怪訝…けげん
2.若干…じゃっかん
3.情景…じょうけい

CB(さくら)様、誤字報告ありがとうございます!
そして、感想やお気に入り、しおりをしてくださった方もありがとうございます!
私のモチベーション向上にも繋がるのでとても嬉しいです!

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