今回はおじさん視点となっています。たまに両者の視点をやりたいのですが、まぁゆっくりやっていきたいと思います。
では、お楽しみください。
Chapter 春について
俺は嫁さんに行ってくると告げ、玄関を開けて家を出た。俺はぼんやり空を見ながら、春だというのに冬の寒さが続いてるなと自然界に対して愚痴を言っていた。まぁ、まだ朝の6時過ぎだからというのもあるだろうけど。
俺は目的地である会社…ではなく、公園に向かって歩いている。それはある少女と出会うためだ。ある少女…名前は聞いてないし、なんか今更聞く気にもならないが、あの子は少し変わった子だなとは思う。あの子は、俺の相談を真摯に受け止め、それに対して自分が言葉で表現できる精一杯の助言をしてくれた。あの言葉に俺は助けられたし、とても感謝している。その点を踏まえて、大人っぽい子だなとは思う。子ども扱いされると不機嫌になるのは子供っぽくて少し面白かったけど。
「っと、考えてる間に着いてしまった」
俺は目的地の公園にたどり着いた。周りを見渡しても人一人いない。6時半前だからいるとしたら早起きなご年配の方しかいない。まだ、少女も来てないみたいだ。
「さて、朝のブレイクタイムといきますか。なにもしてないけどな」
俺は、自販機で缶コーヒーを買いベンチに腰掛けた。その際によいしょと言ってしまい、なんだか老けたなと思った。そんなことを思う自分がなぜか虚しい。
「ん…あの子はもうそろ来るな」
チラッと公園に立っている時計台を見て時刻を確認する。針の位置は、長い針が6を指しているため、6時半ぐらいだというのが分かる。大体この時間帯に少女はここに来る。
「ん…来たか」
噂をすればなんとやら。黒髪を背中ぐらいまで伸ばした少女が公園の入り口から入ってくる。その少女は、真っ直ぐにこちらに歩いてきた。そして…
「…おはようございます」
とぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「あぁ、おはよう。今日も早いね、眠くないの?」
「…もう、習慣になってるから大丈夫」
「それは良いことだ。おじさん、年々朝起きるのがつらくてなってきてね。君のことを見習わなければいけないな」
ほんと歳を重ねると朝起きるのがつらいのはなんとかならないものか。
「さ、立ってるのも疲れるだろ?早く座りなさい」
「…言われなくても座るよ」
少女は、スカートの後ろを臀部の下に来るように手でおり、ゆっくりと腰を下ろした。もう、少女が俺の隣に座るのはすっかり慣れたな。
「…おじさんはまた缶コーヒー?」
「ん?まぁね、これを飲まないと朝が始まった気がしなくてね。家でも飲んだんだけどね」
「…ブラックコーヒーを平気で飲めるんだ」
「大人でも苦手な人は飲めないと思うよ。そもそも飲もうとしないかな」
「…私はまだまだ舌が子供だからコーヒーは苦くて飲めない」
逆に少女ぐらいの年の子が、ブラックコーヒーを喜んで飲んでいたらそれはそれで引くと思うんだが…というか、その子の将来を心配するレベル。
「ブラックコーヒーは謂わば大人の飲み物さ。君が急ぐ必要はないよ」
「それにコーヒーは糖分を含んでいるからね。あまりたくさん飲むと、糖尿病になる可能性もある。最近は、20歳未満の糖尿病も注視されているからね」
「…私、普段はお茶やお水しか飲まないの。ジュースはあまり飲む気がしなくて」
「へぇ~それは珍しいね。俺が君ぐらいの頃はよくジュース飲んでたな」
オレンジジュースとか炭酸飲料とか。正直、お茶とかあまり飲みたくなかったな。部活の時はスポーツ飲料を水筒に入れてたし。
「お…少し暖かくなってきたな。やっぱり日が出ると春の暖かさを感じるな」
「…うん、私も春は好き。暑くもないし、寒くもない。まだ、少し寒いけど」
「俺は、冬生まれだからって訳じゃないんだけど、寒いのは全然大丈夫なんだよね」
「…暑いのは苦手?」
「イエス。もう、夏は汗だらだら。タオル必須だよ」
そう考えると俺は秋のほうが好きかもしれないな。いや、秋は夏の暑さが残るし、やっぱり春かな。
「桜は見たかい?」
「…私がどこに通っているか忘れたの?」
「いや、見たこと前提で綺麗だったか?って意味だよ」
「…そういうこと。う…ん、綺麗だったよ」
「そうか、俺も会社に行く途中の道に桜が植えてあるんだけど、なんだか儚くてとっても綺麗に感じたよ」
桜って2週間ぐらいしか咲かないのにも関わらず、人の心にやけに残るんだよな。まさに、桜に心を奪われたって感じだな。
「中学校で春と言えば、クラス替えか。仲良い子とか、好きな子のクラスになれたか」
「…おじさんが私に何を期待しているかは分からないけど、私は好きな子はいないよ」
「ありゃ、残念。おじさんに淡い恋を教えてくれよ」
「…おじさんには婚約者がいるじゃない」
「俺の場合はもう実ったものだから、淡くないの」
言い得て妙である。にしても、この少女が目を引く男子はいない訳か。それにしても、この子はモテるのかな?俺が見る限り、結構可愛い部類に入ると思うんだが。
「君は、告白されたことはないのかい?」
「……ないよ」
まじか…嬢ちゃんの学校の男子どもは見る目がなさすぎだろ。
「…こんなに可愛いのにな」
俺はボソッと呟く。
「……ッッ!!」
「…ん?」
少女を見ると、顔を下げているから表情は分からないが、耳が真っ赤になっていた。
(ありゃ、聞こえてたか)
俺は、少女に聞こえない声量で呟いたつもりだったが、少女には聞こえてしまったらしい。
「ごめんな、本音がポロっと出てしまった」
「……」
「照れた顔も可愛いな。言われ慣れてないのか」
「……そんなこと言われたことなんてないし、慣れるなんてことはないよ」
「…というか、おじさんはデリカシーが無さすぎ」
「嫁さんにもたまに言われる」
少女はまだ照れが残っているのか顔を少し赤くして、俺をジト目で睨んでくる。性癖がやばい奴なら今のこの状況はとても幸せかもしれないな。俺にはそんな性癖はないし、まず嫁さんがいるからそんなこと感じないけど。
「話戻すけど、仲良い子とかいないのか?」
「…いるけど、今回は別のクラスになった」
「ありゃ、それは残念だったな」
青春あるあるだけど、クラス替えで仲良い子と離れるとやけに寂しいんだよな。
「それにしても、中学か」
「…懐かしい?」
「そりゃね、何年前だろ?…今が24歳だから、9年前?」
うん、9年前なら懐かしい訳だわ。
「君は中学二年だったか、二年生か…なにがあったかな」
「…覚えてるものなの?」
「んにゃ、あんまり覚えてない」
中学はやることがつまらなかったしな。制限とかもいっぱいあったし。
「…おじさんが高校生になった時のこととか聞かせてほしい」
「ん~高校か…」
俺は記憶を遡り、高校の時を思い出す。
「あぁ~合格発表の時に制服とシューズの採寸とかしたな」
「…へぇ~採寸なんてするんだ」
「ほかの高校がどうかは知らないけどな。そう考えると懐かしいな、その時は同じ中学の奴と行ってな。二人で番号見て喜んだもんだ」
もう大学に上がってからは子供って感覚がなかったから高校が懐かしく感じる。
「…おじさんにも仲の良い友達とかいるんだ」
「なんでそこに驚いているかは置いとくとして、なんで高校なんだ?」
少女は自分が歩む将来が不安なのだろう。この時期の子供は少しずつだが、教師や親を通じて自分の将来を考えるようになるからな。かくいう俺もそうだったし、この少女もそうなのだろう。
「…特に理由はないかな、興味本位で聞いただけだし」
「あっ…そうなんだ」
俺の予想は的外れでした。
「…他には?」
「ん~楽しかったことなら、文化祭かな。出し物は飲食系だったんだげど、友達と一緒に女装したりしてな。当時はやけくそ気味でやってたけど今となっては良い思い出だな」
「…おじさんの女装、見てみたいかも」
「やめとけ、傷つくから…俺が」
それぐらい酷いものだったからな。当時はよくやったものだと自分を褒めてやりたい。
「ん…もうこんな時間か。君と話しているとあっという間だな」
「…確かにおじさんと喋ってると時間が経つの早い」
時刻は7時半。もういい時間帯だ、会社に向かわねば遅刻してしまう。まぁ、そんな慌てる時間でもないけど。
「じゃあ、今日はこれぐらいでお別れだな」
「…うん、次はいつ会えるかな」
少女は俺を見上げる形で見つめてくる。これが、上目遣いか…まぁ、俺が座高も身長も高いから当たり前だけど。
「そうだな…正直分からんけど、できるだけ毎日来たいって思ってる」
「…私に会いに?」
「…そうだと言ったら?」
「…嬉しい反面、それは浮気なのではと思う」
「バッカ…中学生に欲情を抱くわけがないだろ」
俺は少女の頭を少しだけ強めに撫でて、立ち上がる。
「じゃあ、また明日な」
「…うん、また明日ね。おじさん」
少女は右手を少し上げながら控えめに手を振った。俺はそれに見送られる形で公園から出ていくのだった。
ご精読ありがとうございました!
この小説も、もう少しで総合UAが300に到達すると思うと嬉しい気持ちでいっぱいです。少しでも皆さんに気軽に読んでもらえる作品にできるように頑張っていきたいと思います。ご声援のほど、よろしくお願いします!
追記…誤字報告と感想、どうもありがとうございます!