フェリドの屋敷に訪れると、何故か周囲に焦げ臭い匂いが立ち込めていた。
ボヤ騒ぎでもあったのかと思い、黒く焦げた屋根を見上げると、バルコニーに人影を確認出来た。
わたしよりも少し背の低い、女の子……というか、あれってまさか、
「レミィちゃん?」
そう、彼女は東方Projectというもとはシューティングゲームのキャラクター、レミリア・スカーレットという吸血鬼だ。
え、なんでここに? 幻想郷は?
混乱した頭で色とりどりの花が咲く庭園に通され、言われるがままに東屋にやってくる。
テーブルの上には、様々な種類のケーキスタンドが所狭しと置かれている。
ショートケーキにチョコレートケーキ、クッキーやマカロンといった定番の焼き菓子の他にもサンドイッチなどの軽食も用意されていた。
「わぁ……」
ちょっと圧倒されていると、少し年上らしい女中の子がティーカートを押してやって来た。
「フェリド様とレミリア様も、もうじき来られるわ。紅茶は何にするの?」
「え、えっと、じゃあ、ミルクティーで……」
レミリア様、と言った。やっぱりあの青髪の女の子は、レミリア・スカーレットちゃんなの……?
ティーカートで茶を入れる様を眺めていたら、向こうからフェリドがやって来た。レミィちゃんを連れて。
「あの、本日はお招きいただき…」
「いーよ。そういうのはさ。それに」
「私が貴方に会いたいとフェリド公に渡りかけてもらったの」
フェリドのセリフを遮って、レミリアちゃんが前に出てくる。
「はじめまして。レミリア・スカーレットよ」
スっと右手のひらを差し出してきた。
薄いピンク色のワンピースに、ドアノブカバーのようなナイトキャップ。とりわけ、その背から生えるコウモリの翼・通称悪魔羽が印象的。
やはり、彼女はわたしが知ってるキャラクターそのものだ。
「
こちらも右手を差し出し、握手をする。温かい手だ。
ここに来てから、誰かと握手をする事なんて、あっただろうか。
「凛音、今日は会えて嬉しいわ。来てくれてありがとう」
微笑むレミィちゃんの手を握り返し、
「ファッ!? い、いえ、こちらこそ、レミィちゃんに会えるなんて光栄の極み! ありがたき幸せ!! 生きてて良かった!!!」
反射的に口から飛び出たオタクの本音は、レミリアちゃんの目を丸くさせた。
「そんなに?」
フェリドがすかさず茶化しを入れるも、もはや気にならない。
だって目の前に紅魔館の主にして永遠に紅い幼き月ことレミリア・スカーレットちゃん様がおられるんだから!
「が、眼福〜…」
拝み倒す勢いで嬉し涙を流すわたしに、レミィちゃんは「大げさね」なんて言いながらクッションが敷かれた椅子に腰掛ける。
「凛音もお座りになったら?」
「は、はひ……」
言われ、ふかふかのクッションに座る。これは良い座り心地。でもそれ以上にレミィちゃんが可愛い。
「……どうぞ」
レミィちゃんに対するわたしの反応に、女中がちょっと引き気味なようだ。微妙な顔でティーカップを置き、白磁のティーポットから淹れたての紅茶が注がれる。
レミィちゃんにもだ。
シュガーポットとミルクピッチャー、ソーサーが順に置かれ、卓上は大渋滞。ぽっかり空間が空いてるのは、フェリドのスペースだけだね。彼の周りだけ、見事に何も無い。
「さあ好きなだけどうぞ。今日はボクら3人の楽しいティーパーティーだ」
彼はそうのたまい、血が注がれたワイングラスを傾ける。
てか、血ィ飲みながらティーパーティーて。
だが飲食物に罪は無い。プチシュークリームをひとつ摘んで、口に放る。美味しい。スイーツなんて本当に久しぶりだ。
レミィちゃんは貝殻のような形をしたマドレーヌを食べている。
「ヴァンパイアってお菓子食べれるんだ…。血しか飲めないんだと思ってたけど」
意外だったため、そんな感想を述べてしまう。
「プリンも好きよ」
「えっ、そうなの」
ますます意外だ。
「妹とはよく、プリンを取り合って喧嘩をしたものだわ」
「へ、へぇー…」
す、すごい。ふつーの姉妹みたい。すごく微笑ましく思えるな。
「好んで食べるのは、レミリア嬢と妹君ぐらいじゃないかな。ボクはもう、血じゃないと摂取できないけど」
「へー…ていうか、やっぱりここにいるの!? フランちゃん!?」
きゃー! ここに来てわたしの最推しに会えるかもなんて!
神はわたしを見捨てなかった!!!!
「……フランの事も知っているのね」
「え」
──空気が、変わった。
「フランだけじゃない。私の事や幻想郷の事も、あなたは知っている。そうでしょう?」
少しの沈黙の間が空いて、これは誤魔化しきれないと判断し、こくりと頷いた。レミィちゃんは話を続ける。
「何故? 凛音、あなた一体何者なの?」
「わ、わたしは、その……」
えーいっ! こうなったら、言っちゃえ!
身を乗り出して、レミィちゃんに告白する。
「わたしっ、ファンなんです! フランちゃんの! あっ、レミィちゃんも大好きだけど! でもわたしの一番はやっぱりフランちゃんでっ! その、だから──
わたしに! 妹さんを!! ください!!!」
レミリア・スカーレット、本日二回目の衝撃。なお、フェリドは血のワインを吹き出した模様。
「……ファン? フランの?」
自分の思考を整理しようとしたレミリアに、追い討ちをかけるように捲し立てる。
「あっ、霊夢ちゃんも魔理沙ちゃんもアリスちゃんもパチェさんも妖夢ちゃんも咲夜さんも美鈴さんもチルノもルーミアちゃんも紫さん幽々子様もにとりちゃんも大好きで──
その、つまり、幻想郷の大ファンなんです!」
オタクの熱意に気圧されたレミリアは、若干引いたものの、目的の達成に近づいたことを悟った。
「そ、そう…思わぬ誤算だけど、凛音になら頼めるかもしれないわ。よろしくて? フェリド公」
「へ?」
「もちろん」
「は?」
なになに何。二人の顔をきょろきょろと交互に見回す。
フェリドと目配せした後に立ち上がったレミィちゃんの紅い瞳に射貫かれ、困惑した。
「協力してもらうわよ、凛音。クルル・ツェペシから、妹を──フランを助け出すわ」
わたし…ね。ただ茶飲み話をするために呼び出されたんじゃないなぁとは思ってたんだよ?
思ってたんだけど──
これはちょっと、予想の斜め上過ぎた。
「もしフランを助けられたら、フランとの事を前向きに考えてあげてもいいわよ」
「マジで!?」
フランドール・スカーレット
吸血鬼。
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力