弾幕ごっこしませう   作:天馬要

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零距離誤射

 

「フェリド公は、あなたを裏切ろうとしているわ」

「……え?」

 

 そんな事を告げられたのが五分前。

 今、わたしとレミィちゃんは、王の間の廊下を移動中。

 ……というか、レミィちゃんが飛んで、わたしはレミィちゃんにお姫様抱っこをされて運搬されています。

「この方が早いわ」

「おっしゃる通りで」

 一陣の風となったレミィちゃんは、地下牢までぶっ飛ばす。

 飛行した方が足音も立たないし、走行と比べても機動力が段違いだ。

 てか、よく考えたらこの世界の吸血鬼って翼が生えてないんだよね。レミィちゃんとフランちゃんってかなりレアでは? 

「……レミィちゃん、あの」

「喋ると舌噛むわよ」

 え、じゃあ黙っとこ。

 口を結んだわたしに、レミィちゃんは先程の話題を持ち出した。

「……フェリド公は、裏切ろうとしてるわけじゃないわ。だってそもそも、初めから手を組むつもりがないんだもの」

「えっ」

「あなたも私も、利用されているだけ。というか、私もあなたを利用しようとしていたから、同罪ね」

「……!」

 そ、そうだったのか。

「そんな……」

 言葉を失ったわたし。レミィちゃんはこちらを案じると同時に謝罪の言葉を述べる。

「騙そうとしてごめんなさい。でも、 凛音はフェリド公と違って信用できる気がしたから。

 ──私をお友達と言ってくれたこと、嬉しかったわ」

「レミィちゃん……なら、わたし達、これから本当の友達になれるね」

「──! 

 私を、責めないの?」

「どうして?」

 きょとんとマヌケ顔で聞き返した。

「それだけフランちゃんを助けたいって本気で思ってる証拠でしょ? 

 妹を助けたいっていうレミィちゃんの想いを、わたしは報いたい」

 それに、フランちゃんを生で拝見したいし(結局そこ)

「凛音……ありがとう。本当にありがとう」

「礼を言うのはまだ早いよ。まだフランちゃんを助け出せてないしね」

「……そうね! 急ぎましょ」

 バサッと翼を一振りし、さらに速度を上げた。

「……フェリドは、どうしてわたしを利用しようとしたのかな」

「……向こうの考えてる事は、私にもよく分からないわ。ただ、クルル・ツェペシを陥れたいって気持ちは本当のようだけれど」

「クルルちゃんを……? 

 レミィちゃんも、クルルちゃんの事は……その、良くは思ってないよね……?」

「…………そうね──」

 レミィちゃんはこちらを横目で一瞬見やり、急ブレーキをかけて止まった。長い廊下に降ろされる。

「だけど、妹の暴走を止められなかった私に落ち度があるわ」

 キッパリ言い切るレミィちゃん。自らの非を認めるのって、簡単じゃないよね……

「……フランちゃんは、幻想郷に帰れないって精神的に不安定になったんだよね? 

 それだけ……幻想郷の事、皆の事を大事に想ってるんだね……

 ──帰りたい、よね」

「……そうね」

「レミィちゃんもでしょ?」

「え?」

 いち東方Project好きのわたしだけど、想いの深さは分かってるつもりだ。

「なら、帰ろうよ。

 わたしは二人を幻想郷に帰してあげたい。そのためになら、なんだってするよ。

 ……わたしにできる範囲でだけど」

 あ、ちょっと最後決まんなかったかな。ジャンプ系主人公みたく「絶対」なんて言えない人間なんだ。勘弁してください。

「……なら、お願いするわ凛音」

 初めて見る、穏やかな微笑み。ハートの矢は被弾不可避です。

「えへへ」

 照れ笑いを浮かべるわたしに、レミィちゃんは驚くべき事を言ってきた。

「凛音、あなたも一緒にここから逃げましょう」

「え、でも……レミィちゃん、いいの? 

 わたし、多分足引っ張っちゃうよ?」

「構わないわ。フランと凛音と、絶対にここから出るわよ。その為に──あなたにこれを渡しておくわ」

 そう言って、レミィちゃんは自分が持っていた黒いケースを手渡してきた。

 さほど大きくはない。小さめサイズで革のアタッシュケースだ。ノートパソコンが入るくらいだろうか。

「なあにこれ?」

「フェリド公から、頂いてきたのよ」

「……盗んできたの?」

「どうせ彼には使いこなせないわ。私やフラン、クルル・ツェペシにもね」

「──?」

 どういうこと? 

 首を傾げると、「開けてご覧なさい」と言われたため、そのようにすると……

「……銀の、銃?」

 銀色に塗装された拳銃(ハンドガン)が二つ、収められていた。

 銃には全く詳しくないものの、これは自動拳銃とかいう類いのものではないだろうか? 

 早撃ちやロシアンルーレットなどに使われる、リボルバーの形をしてはいない。

 ケースから一つだけ取り出し、持ち上げてぐるりと見回してみる。想像していたよりも、重たくはない。

 握るグリップ部分には、白いカメオが埋め込まれていた。

「弾は込められてないわ」

 あ、そーなんだ。

「……って、え? 意味なくない……?」

 視線を上げてレミィちゃんの真紅の瞳を見つめた。

「それに、使いこなせないっていうよりは必要ないが正解じゃないの?」

 吸血鬼にとってはさ。

「確かにそうね。でもこれに限っては、そうとも言えないわよ」

 そう言って、レミィちゃんが輝く銀色の銃身にちょんと指先を触れさせると──ジュッ。

 細い人差し指から伸びる赤い爪が、融けた。

「は……?」

 そのままポロリと爪は剥がれ、拳銃の茶色いグリップ部分に落ちる。雪解け水の如く爪は瞬時に気化し、見えなくなって空気中に散らばった……ようだ。

「……溶けた?」

「この通りよ」

 爪が剥がされた部分から血が滴り落ちた。損傷部分が再生する様子もない。

 吸血鬼特有の再生能力が働いていない……? 

 人差し指の第一関節を伝う血を、ペロリと舐め取るレミィちゃん。出血は依然として止まる気配が無さそうだ。

 すぐさま銃をケースに戻し、服の裾を破いて、レミィちゃんの指先に巻き付けた。

 目を見開いて処置を受けたレミィちゃん。包帯代わりに巻かれた布を見下ろしつつ大げさに肩を落としてみせる。

「……放っておけばすぐに治るわ。銀の毒の効果はそんなに長引くものではなかったもの」

「そんな痛そうなの、見てらんないよ」

「……凛音って変わってるのね」

「えぇ〜……」

 でも、今のレミィちゃんの実演でわかった。

「これ、“銀の弾丸(シルバーブレット)”なんだね」

 魔女または吸血鬼を撃ち抜く銀製の弾丸。

 そりゃあ吸血鬼が使いこなせないわけだわ。だって触れただけで溶けて消滅しちゃうんだから。

「えぇ、そうよ。それも、銀の弾丸が銃そのものになったって感じ。銃弾が装填されていなくとも、これで殴るなり叩くなりすれば、吸血鬼には効くわよ」

「なるほど……でもフェリドはなんでこんなものを? 

 吸血鬼側からすれば、こんな都合の悪いモンすぐに処分するんじゃないの?」

「そうね。でもフェリド公は、これに利用価値を見出した……

 現時点で考えられるのは、やっぱりクルル・ツェペシの排除のためかしら?」

「吸血鬼の中でも、権力争いってあるんだね……」

 ドロドロしておりますな。まぁわたしには関係ないか。

「それよりも、フランちゃんを助けに行こう。この銃はわたしが預かっておくね」

「預かるもなにも、あげるわよ。私には使えないんだから」

「あっ、そっか」

 

 ☆

 

 レミィちゃんから譲り受けたケースを片手に、石造りの床と壁を走り抜け、最奥部にたどり着く。

「……ここまで他の吸血鬼に出会わずに来れたのは、奇跡だね」

「運が良かった……と言えたらいいのだけれど」

 レミィちゃんは、この順調に事が運ぶ様を少し気味悪く感じているようだ。

 どうか杞憂であって欲しい。

「……!」

 最深部の牢獄には、金髪の幼子が鎖で繋がれていた。

 枝のような、独特の翼。それに木に実る果物にも似た色とりどりの結晶がぶら下がっている。でも今は、その七色の羽すらも、力なく垂れ下がっていた。

 あぁ、やっぱり東方Projectのフランドール・スカーレットだ。

 女の子座りで、床にペタンとへたりこんでいる。

「フラン!」

 叫びながら、レミィちゃんが鉄格子の扉にガシャンと飛びついた。

「……お姉様──?」

 ハイライト無しの虚ろだった目に、僅かばかりだが光が宿る。そして、鉄格子に歩み寄った。

「お姉様? 本当にお姉様なの?」

「そうよ……フラン。いま出してあげるわ。一緒に逃げるわよ」

 姉の隣に立つわたしを見て、首を傾げるフランちゃん。

「……人間?」

「この子は凛音。私達の味方よ」

「味方……?」

 紅玉の如く煌めきを放つ真紅の双眸に、黒い髪の少女の姿が映る。

「初めまして。凛音だよ。よろしくねフランちゃん。ずっと会いたかったから、すっごい嬉しい。ほんと、びっくりするほど可愛いね! 早速だけど、愛の逃避行といこっか!」

 微笑んでウインクをして見せれば、フランちゃんは少し戸惑いの表情を浮かべた。

「……お姉様、もしかして人選ミスしちゃったの?」

「してないことを祈るわ」

 そりゃないぜレミィちゃん。

「酷いよ二人共ー!」

 抗議の姿勢を示しぶんぶんと両腕を横に振ったら、止め金の掛け方が甘かったのか、ケースの蓋がパカッと開き……

 中から銀色の拳銃が二挺、「やあ」と言わんばかりに飛び出してくる。

「え」

「あっ!」

「へ?」

 上から順に、わたし、レミィちゃん、フランちゃんと三者三様の声が上がり──

 宙を舞った二つの拳銃は、放物線を描いてそれぞれレミィちゃんとフランちゃんの頭を叩いた。

「うっ!」

「キャッ!」

 ナイトキャップの布地に阻まれ、直接銀の銃に触れる事はなかったたからか先程のように溶けはしなかったものの、二人は白い光に包まれ、小さくなって銀の拳銃へと吸い込まれてしまった。

 ガシャン、ガシャ。

 銀の拳銃が地面に落ち、辺りはシーンと静まり返る。

「………………」

「………………」

「……えぇ……」

 ──こんなことって、ある? 

「モンスターボールかよ」

 沈黙の現場にて、少女は小さくツッコミを入れる。その科白は虚しくも牢屋に反響するのだった。




それもマスターボールかよ。
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