鉄格子の間に手を入れ、地下牢からフランちゃん(が入ってる拳銃)と左手側に落ちているレミィちゃん(が入ってる拳銃)を拾い上げた。
「ふ、フランちゃん! レミィちゃん! だ、大丈夫……!?」
(……えぇ。とりあえずは無事よ)
(私もー)
テレパシーのように、頭の中に直接二人の声が響く。なにこれすげえ。
「……!」
拳銃の持ち手──茶色の革製グリップ部分にはめ込まれたカメオに変化が生じていた。
「……フランちゃん?」
白のカメオがピンクへと変色し、カメオには少女の顔が彫られているではないか。
もうひとつの拳銃には、レミィちゃんと思しき人物が同じように刻まれていた。
この時点で、なんとなく「あぁ、二人は閉じ込められてしまったのだ」と察した。
「ど……どうなってる? 拳銃の中は」
(真っ白い空間ね。辺りには……わずかに霧がかってる。お世辞にも住み心地が良いとは言えないわね)
(なんにもなーい)
「……出られそう?」
(無理ね)
レミィちゃん、キッパリ。わたし、ガックリ。
……するのはまだ早いぞ!
なんせ、フランドール・スカーレットは『ありとあらゆるものを破壊する』能力の持ち主なんだから!
どんな不思議空間でも、一撃粉砕よ!
だがそこに追い討ちをかけるようにフランちゃんの焦った声が、脳内に聞こえてきた。
(お姉様! 力が使えないよ!)
「なんですと?」
(……どうやらそのようね。弾幕すら撃てないわ)
レミィちゃんは、続けて考察を述べた。
(というより、妙ね。まるで力が出せない。感覚的には咲夜の時止めの力に近いような気がするわ。それで私たちの行動を封じているような……)
「……わたしのせい、だよね……ごめん」
心と同じく沈んだトーンで謝罪をした。
「レミィちゃんとフランちゃんの事、絶対に脱出させるって約束したのに……」
(……そうね。だから凛音、私とフランをきっちり外まで運びなさい?)
「え」
(当然でしょ? 私達、これじゃあ身動きひとつ取れやしないわ)
(そーだよ! 凛音はねー、これからお馬さんなんだから)
「お、お馬さん……」
さしずめ銀の拳銃は馬車。それを引く馬がわたしってことですか。
(起きてしまった事を悔やんでいても仕方ないもの。さぁ 私達三人で脱出するっていう当初の計画を遂行するわよ!)
強気なレミィちゃんの科白が、背中を押してくれる。
わたし、レミィちゃんには勇気づけられてばっかりだなぁ。
「……うん! それじゃ行こ!」
そして駆け出した直後、フランちゃんが「はいどー!」と出発の掛け声をした。
……待ってフランちゃん、本気で馬扱いするつもりじゃないよね? ごっこ遊びだよね?
そうこうしているうちに、石造りの階段を上って『王の間』に通じる長ーい廊下に出る。
よし、人気はいないな……。吸血鬼だけに鬼の居ぬ間に、バックれましょうか。
柱の影になっている部分から、顔を覗かせて辺りを伺っていると……廻廊にCV悠木碧の可愛らしい声が響いた。
「あら、大変。小鳥が逃げようとしているわ」
「──!!」
立ちはだかったのは、ここの絶対女王様。
小さな姿からは想像もできないほど圧倒的なオーラを醸し出している。その堂々たる立ち振る舞いには、足が竦み上がってしまう。
それだけじゃない。赤い瞳の焦点が銀の拳銃に注がれた。
警戒心を高め、鋭い眼差しを向ける相手から庇うように二丁拳銃を胸に抱いた。
「ッ、クルルちゃん……!」
靴音を鳴らして、一歩一歩と近付いてくる。
「私があげた首輪(マント)はどうしたの?
あれがないと、あなたは他の吸血鬼に襲われてしまうわ」
飽くまでも、表面上は優しく……諭すように声をかけてくる。
「そんな銃も、凛音には必要ないのよ。これからも私が守ってあげるから。ね?」
「クルルちゃん……でもわたし……!」
「それに、私以外に味方なんていないでしょ?」
その言葉に、ハッと顔を上げる。
そうだ……わたし、ここで家族も友達も作れなくって……寂しさを紛らわせるように、ずっと楽器を鳴らしてた……
それでもクルルちゃんは、わたしの拙い演奏を気に入ってくれて、他の吸血鬼から守ってくれてた。
「わ、わたし……わたしは……!」
揺れ動く心。
((凛音!))
そこに重なり合って、響いた叫び。
それは、思いの外大きかったらしく、わずかばかり眉間に皺を作らせた。
両腕を下げて、ふたつの銃口を地面に向ける。
「……クルルちゃん、わたし、クルルちゃんの事、好きだよ」
ニッコリと口角を上げたクルルちゃんが、両手を広げて抱き締めんと歩を進めて来る。
「分かってくれて嬉しいわ。私も凛音が好きよ」
ホッと彼女が息をついて緩んだ空気。解かれた緊張。その一瞬の隙をついて、下ろしていた拳銃を上げた。
「でも、ごめん」
チッとクルルちゃんが舌打ちをして、飛びかかってくる。
「それ以上に、譲れないものがあるの──!」
バサッ!
羽音。そして訪れた浮遊感。
気がつけば、クルル・ツェペシの手が及ばぬ空中へと回避していたのだ。
……翼が生えている。
「なっ……え?」
よくよく見れば、右側はフランちゃんのクリスタルの羽。左側はレミィちゃんの蝙蝠の羽が羽ばたいているではないか。
「はっ? ちょ、これどゆこと!?」
「わー、凛音に羽が生えたー!」
と、歓声を上げるフランちゃん。
すると、不意に何者かから「トリガーを引け」と、訴えかけられた気がした。
あぁ、分かった。
撃つよ!
右手に握るのはフランドール・スカーレットが宿った拳銃。そのトリガーを引き絞る。
銃声はなく、弾丸も発射されない。薬莢も排出されない。
代わりに銃口から放たれたのは、七色に光り輝く魔力で編まれた大量の弾がばら撒かれる。
フランドール・スカーレットのスペルカード、その名も禁弾「スターボウブレイク」!!
「いつかのお返しだよ! 押し潰しちゃえー!」
あ、あれ? いま口が勝手にっ?
星が降るみたいに小型の魔力弾が降り注ぐ。
クルルちゃんは降ってくる弾幕をキッとひと睨みした後、右に左に跳躍して躱す。
「まだまだぁー!」
再びわたしの口から、フランちゃんの台詞が飛び出してくる。
さっきから、どういうことなのこれ!
二度三度と攻撃が続いたものの、クルルちゃんは被弾することなく躱し切った。
「なら次はこうだ!
禁忌『フォーオブアカインド』」
どうやらフランちゃんに肉体操作の主導権を握られてしまったようで、口と手が勝手に動いてしまう。
そのスペルカードは、本来ならばフランちゃんの分身が三体現れ、計四人の大量の弾幕を回避またはボムを使ってやり過ごすのだが……
なんと、わたしの姿を取った分身が3人出現。そのまま空中で弾幕を乱射!
しかしそれも容易く回避したクルルちゃん。
「“鬼”に乗っ取られかけてるようね、凛音。いま楽にしてあげるわ──!」
お気持ちだけで結構です。
弾幕を掻い潜って、ダンッと片足を踏み切ると、ジャンプひとつで接近してきた。
指先を鉤爪のように曲げ、そのまま喉元を掻っ切らんと攻撃を仕掛けてくる。
危ない。だけどこの距離ならば──
「禁忌『レーヴァテイン』」
声と技を発したのは、“わたし”だった。
クルル・ツェペシの眼球を目掛けて、炎の柱が如意棒のように突き出される。
「ッ!?」
刺突を回避するべく、空中で身を捻った。
これにより体勢を崩され、攻撃をキャンセルせざるを得ない。床に着地する。
トリガーを引きっぱなしにすると、射出された赤く燃える炎が伸びて火柱となった。
その長さは十メートルを優に超えている。
燃え盛る炎を手にした少女は、羽を畳んで空から降りてきた。そして、同じ地上に降り立つ。
「凛音……!
金の籠の中で、さえずっていればいいものを──!」
反逆者の愚行にご立腹の女王様。瞳に確かな怒りの火が宿る。だけど、それを億さずに見据えて言った。
「御生憎様。だってわたし、小鳥なんて可愛らしいもんじゃないから!」
火の粉が舞う中、炎の剣を脳天に振りかざした。一の太刀は避けたものの、実体のない剣はすぐさまクルルを追って振るわれる。
今のわたしは、身体能力だけでなく、思考力・動体視力も桁違いに上がっていた。
「──これで終わりだ!」
横に薙ぎ払った二の太刀が、相手の胴体を捕らえる。
ジャストミート。
打ち上げられたクルルちゃんは床と水平にぶっ飛んでいき、大きな衝突音を上げて壁にめり込んだ。
ひぃ、なんてショッキングな。まぁやったのわたしなんだけど。
(逃げるわよ!)
レミィちゃんの鶴の一声により、立ち尽くしていたわたしは再び走り出す。
「あー、楽しかったぁ♪」とフランちゃんはご満悦。
ところで推しの声が脳内に響くのって、すごく贅沢じゃない?
……でもこれで、クルルちゃんとも敵対確定だなぁ。覚悟を決めて、脱出といこう!
フランちゃん大活躍の回