ガーリーエアフォース 黒色の狩人   作:ロングキャスター

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パイロット政弘誕生!?

 

 

政弘は全身に走る激痛で目を覚ました。ボヤけた視界に広がるのは真っ白な景色

 

《政弘》

「ん?...」

 

ボヤけた視界が鮮明になっていくと見えていたのは天井だった。

 

《政弘》

「いてて...」

 

政弘は痛みのもとを擦ろうとするが、全身の至るところが痛むせいでどこをさすればいいのやら...

 

《???》

「目覚めたか」

 

ふと聞き覚えのある声がする。政弘がその方を向くとバートンの姿があった。

 

《政弘》

「バートンさん...ここ病院です?」

 

《バートン》

「そうだよ。自衛隊病院だ」

 

《政弘》

「ん?」

 

政弘は掛けられていたシーツが妙に重いのを感じた。重いというよりも、何かに引っ掛かっているような感じで思うように体が動かせない。政弘はその方に目をやる。そこにはシャンティが腕を組んでその腕にうずくまるようにうつ伏せで眠っていた。

 

《政弘》

「えっ...」

 

《バートン》

「彼女、かなり心配していたよ。それに反省も。

自分のせいでとか言ってね。」

 

《政弘》

「...まあ、間違いじゃないんですけどね...自分も乗らなければよかったし...」,

 

《バートン》

「男にはどうしようもない好奇心っというものがあるからね。それには逆らえない」

 

《政弘》

「俺、どのくらい寝てました?」

 

《バートン》

「かれこれ3日といったところか」

 

《政弘》

「回復は早い方ですか」

 

《バートン》

「さあどうだろうねぇ」

 

政弘の冗談にバートンも笑みを浮かべながら答える

 

《バートン》

「ただ、あの9Gを超えた機動で気を失っただけなのは驚きだ。少なからず君にはGへの耐性がありそうだな」

 

《政弘》

「それで生きていられたんだなぁ。ぶっちゃけ、走馬灯見えた気がしたんですけど」

 

《バートン》

「耐性があるだけで、超人と言っているわけではないからね。現にボロボロだし」

 

《政弘》

「本当にボロボロですよ...いてて」

 

政弘が座ろうと体勢を変えようとするが、バートンはそれを手で阻止する。恐らくは大人しくしていろということだろう。政弘はそれに黙って従う。

 

《バートン》

「パイロットへの道のりは諦めに変わったかい?」

 

《政弘》

「このくらいでめげるわけないですよ。こんなの学校の勉強より楽です」

 

《バートン》

「そうかい、私は勉強の方がましだね」

 

《政弘》

「それにしても、なんでこいつはそんな心配したんです?」

 

《バートン》

「彼女は今まで人に危害を加えたことがない。もちろん人を殺めた事もないし、怪我させることもね。それ故に自分が傷付けてしまったことへのショックが大きかったのかもしれない」

 

《政弘》

「それでこんな...」

 

《バートン》

「あとは、君だったからだろう」

 

《政弘》

「俺だから?」

 

《バートン》

「彼女は君に相当心を開いていると思う。だから、その心を開いた人間を自分の手で傷付けてしまったことにショックした...という感じかな」

 

《政弘》

「そんなに孤独だったんですか?」

 

《バートン》

「まぁね。彼女が機械であるが故に周りの人間も寄り付かないし、その状況をみて彼女自身も絡もうとしないし、何より同種の子も性格があれだからな」

 

《政弘》

「同種って...こいつ以外にもAIいるんですか」

 

《バートン》

「うん。君が気を失っている間にこの小松に来たんだがね。近いうちに紹介しよう」

 

《政弘》

「...」

 

政弘はシャンティに視線を向ける。確かにこのプロジェクトに参加することになったその日から、今回の飛行までずっと自分にベッタリだったのを思い出した。特に気にしなかった...というよりも、世話役になったから、そばにいろと言われていたのかと思っていたが、そうではなかったようだ。

 

《バートン》

「政弘君、話しはかわるが...パイロットにならないか?」

 

《政弘》

「俺が?今現状これなのに?」

 

バートンが突然切り出す

 

《バートン》

「うん。実は今回の件で、シャンティがあそこまで積極的というか、張り切った行動に出たのは初めての事で少々驚いている。」

 

《政弘》

「偶然じゃなくて?」

 

《バートン》

「彼女いわく、いいところを見せたかったそうだよ。君に迎撃戦で褒められたからと」

 

《政弘》

「何ですかそれ...」

 

《バートン》

「どんな些細なことでも自分の実力を認められたことが嬉しかったんだろう」

 

《政弘》

「で、何で俺がパイロットに?対G訓練も受けてないし、操縦だってしたことないし」

 

《バートン》

「その辺はゆっくりと覚えていくと大丈夫だろう。対G訓練は少なからず、飛行で訓練するような形で...」

 

《政弘》

「俺じゃなきゃダメなんですか?」

 

《バートン》

「彼女のためだ」

 

《政弘》

「それって俺を実験台にしようって...」

 

《バートン》

「端から見ればそうかもしれん。だが、それよりも彼女が楽しく空を飛んでくれることを願っているんだ。兵器としてザイを片っ端から墜とすのではなくね。

...そして、彼女に人類を救うことの意味を見出だして欲しい」

 

《政弘》

「救う意味?」

 

《バートン》

「今までの彼女は人間という存在を疑問視する事もあった。

AIは自分が身を呈して人類を守るのに、人類は私たちに冷たく接する。これをAIが感じ始めると、終わりなんだ。人間を救うために作られたAIが人間と対立し始める事になっては元も子もない。そうならないよう、人間を救うことの意味をしっかりと学んで欲しい。そのために、現在はAIと人間を一緒に乗せる事を考えている。」

 

《政弘》

「慧とグリペンみたいに?」

 

《バートン》

「私は彼らが見せた新しい可能性を信じている。人間とアニマが共存していけるのであれば、人間とAIも共存できるはず、その可能性が君なんだ」

 

《政弘》

「...スケールがでかすぎます」

 

《バートン》

「人類を守るという巨大なものでなくていい、君を守るということを彼女が自ら考え、行動してくれればいずれは大きくなっていく。私はそう信じているんだ。」

 

政弘は黙りこんだ。確かに言っていることは理解できる。だが、まだ高校生の政弘には荷が重すぎる。そんな事をそう簡単に判断出来ない。

 

《バートン》

「現在、私は鳴谷君やグリペンのように、人間とAIを共に搭乗させることについての研究をしている。AIが人間のフォローをし、人間がAIのフォローをする。これが上手くいけば共存も夢ではない。」

 

《政弘》

「でもそうなった場合、AI戦闘機としての優位性が失われますよね?人間が乗れば高G機動ができなくなる」

 

《バートン》

「全くその通りだ。

鳴谷君とグリペンのペアは鳴谷君が操縦し、グリペンが火器管制を行うようになっている。これをAIですれば、人間が操縦し、AIがその高い情報処理能力から完璧な火器管制ならびにパイロットへの指示ができる。だがそうなれば高機動は実現しない。一方でAIが操縦し、人間が火器管制すれば高機動は実現する。でもそうすれば人間が耐えられない」

 

《政弘》

「ですよね?」

 

《バートン》

「では、人間に対G特性を持たせればいい。」

 

《政弘》

「ドーピングですか?」

 

《バートン》

「いや、そんな危ない物ではなく、対Gスーツの高性能化を計るのさ。現に高性能の対Gスーツの試作品がロールしてきてね。これから実地試験に入るところだったんだ。もし君が乗ってくれるというのであれば、君がそのスーツを着ることになる」

 

《政弘》

「...」

 

《バートン》

「どうするかは君が決めてくれ。乗るか降りるかは君が判断することだ。私も強要する気もない

...では私はこの辺でおいとまさせてもらうよ。シャンティを頼むね」

 

バートンはそう言い残すと病室を後にした。

 

《政弘》

「荷が重すぎるよ...あ...胃まで痛くなってきた...」

 

政弘は腹を擦りながらうつ伏せのシャンティを見つめた

 

 

 

ーーーーー

 

政弘の回復は以外に早く、5日ほどで退院できるようになった。とはいえ、本調子でもなければまだ痛みもある。

政弘はサンカクに来ていた。

 

《バートン》

「退院が早くて何よりだ。紹介しよう、彼女がホーカー2としてやって来た戦術ドール、礼子だ」

 

《礼子》

「どうもはじめまして政弘さん。礼子と申します」

 

《政弘》

「ああ、よろしく...

ていうか、礼子?」

 

《礼子》

「なにか?」

 

名前を気にしたのが癪に障ったのか、少し強い口調で返された。

 

《政弘》

「あ、いや別に...」

 

《礼子》

「それにしても大丈夫なんですか?博士。一般人を乗せるだなんて」

 

《バートン》

「大丈夫だろう。新型対Gスーツもあるし、耐性もあるようだからね」

 

《礼子》

「でも、ただでさえ戦力としてはまだまだなシャンティに余計なお荷物を乗せては...」

 

《政弘》

「おお、言ってくれるね」

 

《礼子》

「でも、実際そうでしょ?」

 

《政弘》

「おっしゃる通りです」

 

《バートン》

「まぁまぁ。でも、乗ると決断してくれてありがたいよ。」

 

《政弘》

「さすがにあれは荷が重すぎます。...でも、シャンティの世話役なんですから、空でも世話してやらないと」

 

《バートン》

「そういう事か。でも、悪いが礼子の面倒も見てやって欲しい」

 

《政弘、礼子》

「は!?」

 

二人は全く同じタイミングで声をあげる

 

《礼子》

「博士!?私に世話役なんて要りませんよ!?第一、シャンティのようなこと私はしてませんし!」

 

礼子は必死だ。

 

《バートン》

「問題起こしてないとはよく言うね。ケンカふっかけるくせに」

 

《政弘》

「ケンカ?」

 

《バートン》

「この子は何かとよくケンカをふっかけるんだ。この前も、ファントムやイーグルともいざこざがあったし」

 

《礼子》

「いや...あれは向こうからで...」

 

《バートン》

「イーグルはともかく、ファントムに関しては君からふっかけたろ?」

 

《礼子》

「う...」

 

《政弘》

「自分からふっかけた自覚はあるんだ」

 

《礼子》

「うっさい!」

 

礼子は思いっきり政弘の背中を叩いた。

 

《政弘》

「いっっって!てぇめ...」

 

《バートン》

「その辺でやめだ!で、見ての通り彼女にはケンカをふっかける癖がある」

 

《政弘》

「じゃあそれを仲裁してやれば良いわけですね」

 

《バートン》

「止めるためにどんな手を使っても構わんよ」

 

《礼子》

「ちょっ...」

 

《政弘》

「よしじゃあ乗った」

 

《バートン》

「では、ギクシャクした関係になったものを元に戻しに行ってくれ」

 

《政弘》

「了解です。ほら行くぞ」

 

《礼子》

「ちょっ、ちょっ、引っ張らないで!」

 

政弘はごねる礼子の右腕を強引に引っ張りサンカクを後にする。

 

《バートン》

「性格が穏やかになればいいんだけどなぁ...」

 

バートンはため息をついた

 

 

 

 

 

 

 

《礼子》

「全く強引ですね...」

 

《政弘》

「こうでもしないと来ないだろ」

 

《礼子》

「もちろん」

 

二人はサンカクを後にするとフラフラと辺りを歩いた。その目的はただひとつ、イーグルとファントムに謝るためだ。

もちろん当の礼子は乗り気ではないようだが

 

《政弘》

「にしてもどこ居るのかねぇ」

 

《礼子》

「私的にはいない方がありがたいですが」

 

《政弘》

「関係拗らせたままなのは嫌なの、お前も困るだろ」

 

《礼子》

「私は別に...」

 

《政弘》

「あっ、慧!」

 

政弘は目の前にふと現れた慧を呼んだ。隣にはグリペンもいる

 

《鳴谷》

「ようマサ。大丈夫なのか?」

 

《政弘》

「まだ痛むけど、大丈夫だぜ」

 

《鳴谷》

「なら良かった...で、今何してんだ?」

 

《政弘》

「実は今、イーグルとファントムを探してて」

 

《鳴谷》

「イーグルとファントム?」

 

《政弘》

「こいつに謝らせる為にな」

 

政弘は礼子を見る。当の礼子はそっぽ向いていた。

 

《鳴谷》

「謝って済めばいいけどな...」

 

《政弘》

「えっ...そんな?...

と、とりあえず、お前らにはケンカふっかけてないよな?」

 

《グリペン》

「私たちには特にない」

 

《礼子》

「ええ、軽戦闘機には興味なんか微塵もありませんから、単発エンジンで、迫力のはの字もないようなチビッ子なんか...アイタッ」

 

政弘は礼子の頭を軽くはたいた。

 

《政弘》

「そういうのがケンカふっかけてるっていうの、思ったことをど直球に言い過ぎ」

 

《礼子》

「だってぇ~」

 

《政弘》

「だってじゃない。ごめんな、慧、それとグリペン」

 

《鳴谷》

「いや、まぁ俺はいいんだけど...」

 

鳴谷はグリペンに目を向ける。グリペンも大丈夫のようだが、この礼子の煽り癖はどうにかすべきだ。

 

《鳴谷》

「にしても、なんでマサがそんな事してんの?」

 

《政弘》

「いや、バートンさんにこいつの世話役頼まれて...他人にケンカふっかけないようにね」

 

《礼子》

「ケンカふっかけられる方が悪いんですよ...アイタッ」

 

礼子の意味不明な理屈に再び頭をはたく。

 

《政弘》

「ったく...二人とも、イーグルかファントムのどっちか見なかった?」

 

《グリペン》

「私はどっちも見てない」

 

《鳴谷》

「俺もだな」

 

《政弘》

「そっか...なら、仕方ねぇや。ありがと」

 

《ファントム》

「あら、皆さんお揃いで」

 

ちょうどよくファントムが鳴谷の後ろから現れる。しかし、礼子はそっぽ向いたまま、気まずいそうにそうにしている。

 

《ファントム》

「あらぁ...礼子さんもいらしてたんですかぁ」

 

ファントムの声が徐々に低く、そして周りの人間に寒気を感じさせるオーラを放っている。

 

《礼子》

「え、ええまぁ...」

 

《政弘》

「なぁファントム、実はお前に用があったんだ」

 

《ファントム》

「私に?」

 

《政弘》

「こいつがとてつもないこと言ったらしいから、その事を謝罪させようと思って...」

 

《ファントム》

「あら、別にいいんですよ。だって本当の事ですからねぇ?」

 

ファントムは礼子を睨み付ける。礼子はというと、さっきまでの態度が一転し、冷や汗をたらたらと流している。

 

《政弘》

「いや、良くない。謝れよ」

 

政弘は礼子に謝るよう促す。だが、礼子は知らん顔。

さらに強めに政弘が言うと、しぶしぶといった表情でファントムの方を向き、深く深呼吸するとすぐに生意気な態度に変わり

 

《礼子》

「どうして私が頭を下げなきゃいけないの?」

 

《政弘》

「おま...眼鏡かちわるぞぉ」

 

《礼子》

「いいですよ割っても。でもそのあとどうなってもしりませんから」

 

礼子の意味深な言葉に一同不思議な顔をする

 

《礼子》

「私は戦術ドールとしては二作目になりますが、AIとしては初期モデルになりま。なので、自立制御ユニットが不安定でして...それで外部制御ユニットとして、この眼鏡があるんです。もちろん外したからといってすぐにどうこうなるわけじゃないですが、自立回路が暴走しないかどうかは分かりませんよ?」

 

《政弘》

「なんだよそれ...まぁ別に冗談だったし...」

 

《礼子》

「ま、噓ですが……。単にファッションとして掛けてるだけ。どうです?似合うでしょぉ。清楚系眼鏡女子、こんな美しい女子に惹かれない男はいないですよね?政弘さん」

 

その礼子の言葉にカチンときた政弘は彼女の眼鏡をわしづかみにすると一気に奪い取ろうとする。

 

《礼子》

「あっちょ。引っ張らないでください! やめっ…ヤメロォー! あー、あっ、ちょっと、やめてくださいあ、でも、そのまま離したら、メガネ落ちて傷付きそうだからそのままゆ~っくり元に戻してきてください。いいですか? ゆっくりですよ、ゆっくりってば...」

 

政弘はどこかで聞いたことあるような台詞をそのまま受け流し、思いっきり顔面に眼鏡を押し付けた。

 

《礼子》

「ちょと...ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!! イイッタイメガァァァ」

 

《政弘》

「ただ顔に押し付けただけし、絶対それ言いたかっただけだろ」

 

《礼子》

「割れてないかな...」

 

《政弘》

「大丈夫だ、問題ない。それよりも、しっかりと謝らないなら、今日は返さないからな?」

 

《礼子》

「何ですかそれ、ナンパですか?」

 

《政弘》

「ちげぇ!とりあえず、次は本気でかちわるぞ」

 

《礼子》

「わかりました!言えばいいんでしょ?言えば...」

 

礼子はファントムの方を向き直すと意を決したように

 

《礼子》

「逃げるんだよぉ」

 

《政弘》

「あってめ!」

 

礼子は走り出した。

 

《礼子》

「油断したな!私がそう簡単に頭を下げると思ったら大まちが...ハベフ」

 

礼子は何かにつまずき、訳のわからない言葉を呟いて地面に盛大にこけた

 

《ランディー》

「おやおや、これは気付かなかったよ」

 

ランディーが前に突き出した右足を引っ込めながら言う

 

《政弘》

「ったく、手間かけさせやがって」

 

政弘は優しく彼女を助け起こす...

ように見せかけてあたかも当然のようにメガネを奪い取る。

 

《礼子》

「ああ、私の本体...」

 

《政弘》

「そういうのは自分で言うんじゃない」

 

《礼子》

「でも、メガネキャラはメガネが本体ってよく言うじゃないですか」

 

《政弘》

「そうだとしても、自分で言うのは違うだろ...」

 

二人のもとに、鳴谷、グリペン、ファントム、そしてランディーが集まる。

 

《ランディー》

「退院早々、苦労するね」

 

《政弘》

「まだ体も痛いのに。

...この頑固娘は」

 

政弘はそう言いながらも、礼子に奪い取ったメガネを返す

 

《グリペン》

「なぜそんなに拒む?」

 

 

《ファントム》

「格下に頭を下げるのがお嫌いなんでしょう」

 

《礼子》

「そんなんじゃなくて...あの...プ、プライドが許さないというかなんというか...」

 

《政弘》

「なんじゃそりゃ」

 

《礼子》

「今まで、謝るってことしたことないし...

というかまず、ドールになってそんな月日経ってないし...あと、RF-4だし」

 

《ランディー》

「そういえばさ、お前、小松に来てファントム馬鹿にしたその日の夜、RF-4を見に行ってたよな?」

 

《礼子》

「うえ!?なんでそれを...じゃなくて!そんな事ないです!」

 

《ランディー》

「実はあの時、機体の様子を見に行ってたんだが、そしたらなめ回すようにRF-4見てんだから、笑ったよ。しかも興味津々な目してんだからよけいな」

 

《礼子》

「見られてたとは...じゃなくて!そんな事実は...」

 

《政弘》

「お前隠すの下手だな」

 

《礼子》

「うっさい!」

 

《政弘》

「だからいてぇっての!」

 

礼子が再び政弘を叩く。しかも狙ってか、まだ痛むところを突いてくる

 

《ランディー》

「しかも、そのあと舟戸に聞いたら、

『気になるから見させて欲しい』ってど直球に言ってたらしいしな」

 

《礼子》

「あんのナマズやろう...誰にも言うなと言ったのにぃ...!」

 

《鳴谷》

「もう隠すのやめたのか」

 

《ファントム》

「どういう事なんですかね?」

 

《礼子》

「いや...その...

同じファントム同士気になるじゃないですか...」

 

《鳴谷》

「なんだ、嫌ってたんじゃないんだ」

 

《礼子》

「その...日本にも同じような生い立ちのファントムが居るって言われて、しかもそれがRF-4がベースで、とつてもなく腕がいいって聞いたら気になったし...負けたくなかったし...」

 

礼子はか細い声で説明し始める。

 

《政弘》

「てことは単純に、ライバル心ってことか」

 

礼子は黙って頷いた。

 

《ランディー》

「まぁ、似た者に負けたくないって気持ちはわからんでもない。俺だって他のイーグルドライバーに負けたくないしな。かといってあれは言い過ぎだ。」

 

《礼子》

「でも...謝るってどうするのか...私はAIとしては古いですが、ドールとしては生まれたてみたいなもので...そういう事を学ばなかったし...他人とどう接するのかも...」

 

《政弘》

「簡単だよ。面と向かってごめんなさいって言って終わり、許してくれるかはその人次第だけど、たぶん大丈夫だと思うぞ」

 

政弘はファントムを見やる。ファントムは仕方ないといった顔だ。

礼子は静かにその場から立ち上がると、ファントムに向き直った

 

《礼子》

「あ、あの時はすいませんでした...」

 

《ファントム》

「...仕方ありませんね、許してあげましょう。」

 

礼子はそれまでの暗い表情が一変、元気な顔になると同時に、ファントムに対して馴れ馴れしく接し始めれる。

 

《礼子》

「それじゃあファントムさん、今からファントム談義といきましょう!」

 

《ファントム》

「え?ちょ...まって...」

 

礼子は強引に腕を引っ込めながらどこかへと去っていった。まぁ、恐らくのところ、自機とファントムのドーターのあるサンカクだろう。

 

《ランディー》

「ほんと、接し方苦手みたいだな...ん?」

 

ランディーの携帯が鳴る。

 

《ランディー》

「ん?ああ俺だ、どうした?...ん...あいつなら目の前に...ああ、わかった。すぐ行く」

 

ランディーは短い会話を終えると携帯をポケットにしまった。

 

《ランディー》

「今から、シャンティと模擬空戦してくれって言われてな。お前も来いってさ」

 

ランディーは政弘に事情を説明する。

 

《政弘》

「いいですけど...俺まだ本調子じゃないですよ...」

 

《ランディー》

「ああ、その辺は大丈夫だ」

 

ランディーはそういうとその場から歩き出した。政弘も呼ばれたとあれば行くしかない。そして、ランディーは鳴谷やグリペンにも付いてこいと言っている。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

《バートン》

「ミッション終了。いいデータが取れたよ」

 

ランディーらは基地内にあるとあるシミュレータールームに来ていた。

さすがに実機を飛ばしての試験は少し難しいと判断され、シミュレーターによる試験とされていた。

ランディーとシャンティがそれぞれのシミュレーターから降りてくる。

 

《ランディー》

「ギリギリだったわ」

 

《シャンティ》

「でも、ランディー大尉の実力は相当なので、当然です」

 

《ランディー》

「それでも、何回か勝っただろう」

 

シャンティは謙虚に、ランディーを立てようとするが、ランディーの言葉に半ば嬉しそうな顔をする。

 

《バートン》

「どうだったかい?鳴谷君、グリペン、政弘君、彼女の動きをみて」

 

《鳴谷》

「いや、さすがだと思います。俺たちじゃあんな動き出来ないし、グリペンとサシで勝負しても、勝てるかどうか」

 

《グリペン》

「そんな事はない!」

 

《バートン》

「ハハ、確かに彼女はAIだから君たちのように動きを制限されることはないからね。...政弘君は?」

 

《政弘》

「そうですね、確かに凄いですよ」

 

政弘の言葉に嬉しそうな顔をする。AIだろうと、誉められることに喜びを感じるのは変わらないのだろう

 

《政弘》

「でも、動きに無駄があったり、隙があるし、押し込みがおかしかったり、そのタイミングではない攻撃とかもあったりするし...」

 

《ランディー》

「確かに俺が勝てたのも、隙をついたからだしな」

 

《バートン》

「彼女の実力はまだまだだ。だから今回の模擬空戦で少しでも学習できる環境を作ってたんだ」

 

《シャンティ》

「...空戦もしたことないくせに...」

 

《政弘》

「え?」

 

《シャンティ》

「空戦とか経験ないくせに、生意気だ!」

 

《政弘》

「確かにリアルはねぇけど...」

 

《シャンティ》

「そんなに言うなら、私と差しで勝負だ!泣きべそかかせてやるんだから!」

 

《政弘》

「は!?」

 

《ランディー》

「そりゃ面白そうだ」

 

《バートン》

「そうだな。意外といいデータが取れるかもしれんな」

 

シャンティは無駄に気合い入ってる上に、二人は他人事だからといって笑っている。

これはまた、面倒なことになりそうだ...

 

 

 

 

結局、政弘は今回のことは貴重な経験な上に、何かと面白そうではあったために、ゲーム感覚で参加することにした。

 

《政弘》

「えっと...場所は小松上空...シャンティは日本海上から進行してくる...と」

 

政弘は今回の状況を簡単に復唱する。

 

《政弘》

(もし、あいつがさっきの大尉との空戦と同じように来るなら、撃って来るのは...)

 

政弘はこの後の展開をあらかた頭で整理する。そして、今回の戦闘で最も重要な事を思い返す。

 

《政弘》

(あいつがステルス機である以上、こっちのレーダーには映らないと思っとかないとな...なら撃ってきた瞬間がみそだな)

 

レーダーはレーダー波を出して、それが機体に当たり跳ね返ってきたレーダー波を読み取ってから相手の位置を探る。つまり、クジラが音波を出して、前方の状況を確認するのと同じことだ。

ステルス機は特殊な塗料と形状により、レーダー波を吸収、または他方へ反射させることでレーダーに映りにくくしている。そう、映らないのではなく映りにくくしているだけなのだ。

 

突然、F-15そっくりにに作られたシミュレーターから警告音が鳴り響く。それはロックオンを知らせるものだった。

 

《政弘》

(ロックオン...ってことは撃って来るのは...AIM-120!)

 

その刹那、レーダーに一瞬だけ光が灯った。確実にシャンティだ。

ステルス機はステルス性能を高めるため、ミサイル等を機体内のウェポンベイに格納している。それによってレーダーに映りにくくしているのだが、ミサイルを撃つためにはウェポンベイを開く必要がある。しかし、そうするとステルス性能が低下し、レーダーに映ってしまう。

政弘はそれを狙っていた。そして案の定ミサイルを撃った瞬間シャンティはレーダーに映ってしまった

 

《政弘》

(たぶん、アムラームのはず...だったら低空飛行で行くか...!)

 

政弘は機体を操作し、山を切り開いて作られた大きな道の上を飛行することにした。木々の先端よりも低い高度で飛行し、周りは山に囲まれているこの状況ならミサイルはそう当たらない。

しかしこんな低空高度を飛行し続けるのは非常に困難だ。どんな腕利きでもやれないだろう。しかし政弘はやってのける。死ぬことが無いからバカみたいに突っ込んで行けるというのが本音だが

 

《政弘》

(さすがにこんな低空飛行はビビるわ...にしてもリアルだよなこのシミュレーター...)

 

政弘はそんな事を考えていた。まぁ、軍用なのだから、リアルなのは当然だ。そうこう考えていたら、アラートも鳴りやんだ。どうやら、地面に激突してしまったようだ。

 

一方で、シャンティは現在起きてることに少し首をかしげた。

 

《シャンティ》

「なぜ、レーダーがピカピカするんだろ?」

 

レーダーには政弘の位置を示した点が光っているが、それはピカピカと点滅している。さっきまではそんな事無かったのだが...

 

《シャンティ》

「システムエラーかな...でも、映っててる以上、政弘に逃げ場はない...FOX3!」

 

シャンティはAIM-120を発射する。次こそは当たる。そんな自信があったが、それも虚しく命中せずという報告がディスプレイに表示される

 

《シャンティ》

「なんで当たらない!?う~次こそは!」

 

と三度発射しようとするが、政弘の反応がレーダーから消えた...

ミサイルが本当は命中したのか...いや、おそらくその可能性は低い。ならなぜか...政弘自身が地面に激突したのか...

 

どれが正解なのか、シャンティは知りたかったが、バートンは教えてくれない。恐らく彼は撃墜はされていない。もし、何らかの原因で撃墜されていれば、シミュレーション終了の合図がなされるはずだ。

では一体...

そうこう頭を巡らせていると、再び政弘の反応が表れた。シャンティはただその現象が分からなかった。そして再び消える...

ステルス性能もないF-15がレーダーから消えるなんてあり得ない。シャンティの頭のなかはもうパンクしそうだった。何か原因を考えても考え付かない。こんな経験は初めてだ。堂々巡りをしていたシャンティはいつの間にか小松上空に着いてしまった。だが、政弘もそこにいておかしくはない。お互いの速度域だと、同じタイミングで接敵するはずだ。

 

 

しかし政弘はしっかりと合流した。突然表れた政弘の反応。そして下から急上昇してくるF-15。シャンティは何が何だかわからないまま、空戦に引きずり込まれた。だが、空戦もシャンティにとってはお得意だ。

なにせ、機動力の差が歴然なのだから。

 

シャンティは後ろを取って来たF-15をコブラで回避、後ろを取り返す。だが、ランディの方も上昇、下降、左右へジグザグに飛行することで狙いを定めさせ無いようにしている。

そして、バレルロールで一気にシャンティをオーバーシュートさせ後ろにつく。しかし、それもクルビットによって回避される。互角かと思われたが、シャンティの頭は限界に達していた。

先程の不可解な現象により、思考回路がショートするような感覚に見舞われた。必死に政弘よりも優位に立とうとするが、思考が鈍り上手く戦えない。なんとか政弘の後ろを取り、これ以上長引かせないよう、ミサイルのロックオンを開始した。するとどうだろう、政弘のF-15は回避することなくただその状況を黙って受け入れているようだ。

 

《シャンティ》

「こ、これなら当てられる...」

 

そう思うが、今までの不可解な現象に加え、今の回避しない姿勢が余計反転を鈍らせる。

この時彼女は自機と相手の距離が徐々に縮まっていることに気づいてなかった。

シャンティが発射ボタンに指をかけた刹那、F-15がフレアを目の前で展開を、上昇機動に入った。

 

《シャンティ》

「ふえ!?」

 

シャンティは突然目の前に焚かれたフレアに少々驚き、動作が鈍った。もちろんそのあとすぐに上昇するがそこに政弘の姿はない。いや、ほとんど気づかなかったが、一瞬だけ視界には入っていた。

 

F-15は上昇と同タイミングで180°のロールとエアブレーキによる減速でシャンティの真下に移動した。そしてオーバーシュートさせると、すぐに再び180°ロールしてシャンティの後ろを取る。後ろを取るのと、翼下に吊り下げられたAIM-9Xが発射されるのは同時だった。

 

意味がわからないまま、シャンティはロックオンとミサイルの接近を知らせるアラートの両方の音にギリギリで繋がっていた思考の糸がプツリと切れてしまい、成す統べなく撃墜判定を貰ってしまった。

 

 

《バートン》

「シャンティ、君が撃墜された。シミュレーションは終了だ。」

 

《シャンティ》

「...了解...」

 

シミュレーションが終了し両者とも、シミュレーターから降りた。

バートン、ランディー等は勝利した政弘のもとへと集まった。

 

《バートン》

「まさか、あんなものが見れるとはね」

 

《ランディー》

「ああ、俺も驚きだ」

 

《鳴谷》

「お前すげぇな...」

 

《グリペン》

「正直驚いた」

 

皆が政弘を褒め称える。政弘もまんざらではなさそうだが...

 

《シャンティ》

「...あり得ない...」

 

《政弘》

「え?」

 

《シャンティ》

「こんな結果はあり得ない!それよりもまず、私のシミュレーターは不調でした!なので、この対決は無効です!」

 

シャンティは取り乱した様子で政弘を指差しながら言っている。

 

《バートン》

「そう言いたくなる気持ちもわかるよ。だが、君の機械は何の不調も無かった」

 

《シャンティ》

「じゃあ何で...」

 

《バートン》

「来たまえ」

 

バートンは自分が見ていたモニターの前にシャンティを連れてきた。そして、政弘の軌道を示すアニメーションを流した。

 

《シャンティ》

「そんな...」

 

シャンティは映像に驚愕した。

 

《バートン》

「政弘君は、高速道路上を飛行していた。だから君のレーダーに出たり消えたりを繰り返したんだ」

 

《シャンティ》

「でも、なんの関係があるんですか?」

 

《バートン》

「この高速道路は周りを山で囲まている。それに加え、道路沿いには木々も並んでいる。これらが君のミサイルを妨害し、レーダーにも干渉した。だから政弘君が映らない原因になったんだ」

 

《シャンティ》

「じゃあレーダーから長時間消えた理由は...」

 

《ランディー》

「それは、トンネルを通ったからだ。驚きだがな」

 

《シャンティ》

「トンネル!?そんな事できるわけ...」

 

《ランディー》

「現実じゃ無理だな。俺でもくそデカイトンネルなら出来かねんが...」

 

《政弘》

「シミュレーターだったし、F-15の感覚は何となくは掴めてたから」

 

《ランディー》

「お?そいつはどうして」

 

《バートン》

「確かに、君の動きには少々手慣れた感があったな」

 

《政弘》

「実は、家でシミュレーションしたことあって...」

 

《シャンティ》

「うそ...」

 

《政弘》

「こんないいやつじゃないですけど、PCでシミュレーションゲームをやってたんです」

 

《バートン》

「それはなんという?」

 

《政弘》

「World Fly Battleです」

 

《バートン》

「ハハ!それは傑作だ。あのシミュレーターのシステムは私の勤め先が作ったんだ」

 

《政弘》

「てことはラーフ社?」

 

《バートン》

「厳密には違うね。私はR.Industrial.Weapon'sという軍事兵器の開発をする会社に勤めててね。ラーフ社の子会社的存在だ」

 

《ランディー》

「んで、そんな会社がゲーム産業にも?」

 

《バートン》

「ああ、数年前からね。そのシミュレーションゲームも、このシミュレーターのシステムを丸々流用したものだ。だから、何処ぞのフライトシミュレーターなんかとは比べ物にならないよ。現に、ボーイング、ロッキードマーチン、グラマン、ラファール等、各種メーカーの許可も取得しているから操作面、機動なんかは別格だよ」

 

《ランディー》

「なら、このシミュレーターに慣れててもおかしくはないねぇのか」

 

《シャンティ》

「でも、どうして私の動きについてこれたの?」

 

《政弘》

「実は、シミュレーターで色々なシチュエーションで遊んでて...例えば、ステルス機と戦ったり、最近のアップデートでUAV戦もあったから...」

 

《バートン》

「やりこんでくれているようで嬉しいね。そのUAV戦のシステムは私が気晴らしに作ったんだ。シャンティと礼子のプログラムを少しいじってね。」

 

《シャンティ》

「ということは、政弘は私と戦う前から私と戦う力を持っていたということ?

...なんだ、そういうことか...」

 

《バートン》

「なら仕方ないと?」

 

シャンティは小さくだか、首を縦に動かした

 

《バートン》

「それは間違っているだろう、今回の戦いでは君に勝つチャンスはあった。欠陥というのは悪いが、君のプログラムに問題があるのはわかる。しかしな...君は、今まで負けてきた理由はなんだと思う?」

 

《シャンティ》

「それは...私より実力が上だからで...」

 

《バートン》

「確かに、君の実力では難しい相手ばかりだっただろう。だが、それはただの言い訳だ。君との根本的な違いは、()()()()な戦闘が出来るかだ。」

 

《シャンティ》

「りんきおーへん?」

 

《バートン》

「つまり、その場その場で最も適した攻撃手段を取れるかどうかだ」

 

バートンの説明にシャンティは首をかしげる。

 

《バートン》

「さっき、後半で君はシステムエラーを出してたからな...今は考えるのが難しいかもしれんな...」

 

バートンは察した。今現状、難しい言葉と、説明をしても理解したまま話が終えられるか...

バートンは改まって政弘に向いた

 

《バートン》

「君に少し話がある...」

 

《政弘》

「なんです?」

 

《バートン》

「実は、さっきの戦いを見て君にハンティング・ホークを操縦してもらいたい。」

 

《政弘、シャンティ》

「は!?それって...」

 

《鳴谷》

「いやいや、さすがに難しいでしょ」

 

《バートン》

「もちろん無理は承知だ。」

 

《シャンティ》

「博士!それは必要ないです!私は今より戦えます!」

 

《バートン》

「そういう問題じゃない。これは君の今後にも関わる。...政弘君、彼女には問題があってな」

 

《政弘》

「問題?」

 

《バートン》

「シャンティには、空戦プログラムを入れていてね、そのプログラム自体は私が八代通に無理を言って譲ってもらった、グリペン、イーグル、そしてファントムの空戦データと、我が社のパイロットの飛行データをもとに作ったものだ。そさて、今彼女はそのプログラム通りの戦いをしている。」

 

《ランディー》

「それになんの問題が?」

 

《バートン》

「これはサポート的存在で付けたものなんだ。勿論、これだけで戦えない訳ではない。ただ、それが原因で彼女の戦闘能力の低下も誘発してしまう」

 

《政弘》

「どういうことです?」

 

《バートン》

「シャンティはそのプログラム通りの戦いを相手にまで重ねている」

 

《政弘》

「?」

 

《バートン》

「つまりは彼女の中で、自分がこの動きをすれば、相手はこう動いてくる、というシナリオを自分の中で作り出し、その対処をプログラムに頼っている。だから、そのシナリオが崩された時、思考、判断、情報収集能力が落ちてしまう。...政弘君、今回の戦いと以前の対ザイ戦における彼女の機動に差があったことに気づいたかい?」

 

《政弘》

「...確かに、あの時のキレは無い感じでしたね」

 

《バートン》

「そう、そしてシャンティは自分の考えていない想定外の事態に遭遇するとパニック状態に陥る」

 

《ランディー》

「つまりは最初のレーダーに映らないという想定外に遭遇しパニック状態に...。そして、突然低高度から表れた政弘に有効的な対処をしようとするが...」

 

《鳴谷》

「そのパニック状態を引きずったまま、想定外に回避され続けた挙げ句、あのフレアを使用した戦法で回避したのが原因で...」

 

《バートン》

「システムエラーを起こした...という流れだな?」

 

皆の視線がシャンティに向く。シャンティはただ黙って頷いた。

 

《ランディー》

「大まかな流れは掴めた。だが、それが原因だからと言って、政弘に操縦させるってのは虫が良すぎるんじゃないか?」

 

《バートン》

「勿論無理にとは言わない。それに、君はシャンティと共に乗ることを決意してくれた。だから、一緒にいるだけでいい。ただ、今は軽微なパニック症状だからいいが、もしこれがさらに大きくなれば、何を誘発してしまうかわからない。」

 

パニックを起こしたシャンティが敵味方識別なしに攻撃に移ってしまう可能性すらある。確かにこうなれば、最悪シャンティは撃墜あるいは廃棄処分になってしまう。

 

《バートン》

「そして、彼女自身の能力向上にも一躍買ってもらえる。

今現状では、既存の空戦補助プログラムに毛が生えた程度でしかない。だがシャンティ、君が自立して考えて戦いをできれば、それは君の大きな成長にも繋がる。そして政弘君にはそのお手本になって欲しいんだ」

 

政弘は黙ったまま、うつむくシャンティに目をやる。

突然、無理難題で、責任重大な事を押し付けられてばっかりだ。

シャンティと礼子の面倒を見ろやシャンティと飛ぶ事で彼女が元気になるだの、彼女の見本になれだの、一般人には難しいすぎる。最悪、鳴谷より面倒なことになっていそうだ。だが、だからといってシャンティをこのまま放置するのも気が引ける。一度関わると決めたのだから、こうなったらとことんまで面倒を見てやろう

 

《政弘》

「...はぁぁぁ...わかりました、引き受けますよ」

 

《バートン》

「そうか、ありがと」

 

《政弘》

「でも、全部はやりませんからね?あくまでもパニックになったときとサポートをします。あと、アドバイスとか、気まぐれで操縦するかもしれませんけど」

 

《バートン》

「それで構わないよ」

 

《シャンティ》

「...ごめんなさい...」

 

《ランディー》

「パイロットになるんだったら、相当訓練しないとなぁ。鳴谷と一緒やるといい」

 

確かに、パイロットとして戦闘機に乗るなら、それ相応の訓練が必要になるはず。鳴谷だって最初は気を失って現在に至るのだから、相当な苦労もあったはずだ。

もちろん政弘もそれは承知だ。

 

《政弘》

「もちろん特訓しますよ。それに、俺も初めはパイロット目指してたんですから、関連は承知です」

 

《ランディー》

「なら、手始めに滑走路お洋服10本かな」

 

ランディーが冗談を言うと、そのあとの会話を遮るようにランディーの携帯がなる。

ちなみに本日2度目だ

 

《バートン》

「どうした?」

 

電話を終えたランディーにバートンが聞く。電話の時、顔が少し強張ってので、皆がその内容が気になった。

 

《ランディー》

「うちの総司令殿が皆様をお呼びだ」

 

ランディーのその言葉に、政弘は覚悟を決めた。

 

 

 

次回「ファーストミッション」

 

 

 

 

 

 




いよいよ、初ミッションに入ります
これからどんどん話を展開していきますよw

話は変わりますが、ガールズ&パンツァー最終章第2話が上映開始しましたねw
私も見てきましたが、今は戦車に再燃中ですw
そちらの方の物語も構想中なので、いずれ投稿するかもですw

では、これからもよろしくお願いいたします

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