あの一件から4日が経った。
バートンの提案に乗った政弘だったが、軍はそれほど乗り気じゃなかったようで、しぶしぶ了承したという話のようだった。
軍上層部とは違って、こちらの現場の人達はバートンの計らいによって対応がとても良かった。
自宅にも自由に往き来出来るし、学校にもいつも通り通えて、バイトにも行ける。ただ、しいてあげるなら、今まで以上にハードスケジュールになることくらいだ。
政弘は小松基地に来ていた。理由は前々から疑問に思っていた研究の内容と、シャンティについて説明をするというものだった。
政弘は基地の人に案内を受けながら待ち合わせ場所のブリーフィングルームに着いた。政弘が着くのとバートンが着くのはほぼ同時だった。
「やぁ、来たかい。さぁ入ってくれ」
バートンは部屋の扉を開け、ジェスチャーで入るよう政弘に促す。政弘もそれに合わせて部屋に入る。
「呼び出して悪いね。書類での説明でも良かったんだが、実際に面と向かって話した方が分かりやすいと思ってね。それに、会いたそうにしている子も居たからね。」
バートンは部屋に入るなりそう言い、続けて、座りなさいと言った。同じく一緒に来たシャンティは少し恥ずかしそうに政弘と目を合わせぬよう、少し下を向いていた。
政弘はバートンの言葉に従うように椅子に腰かける。
「では早速話に入ろう。長々と話すつもりはないし、話したところで頭が追い付かないどろうしね」
バートンはそう言うと持ってきた資料を政弘に手渡した。
「まず研究の内容なんだが、我々は対ザイ兵器の開発をしている。まぁ我々とアメリカや日本とは違った研究なのだがね。
ザイは通常の戦闘機では不可能な機動で我々を苦しめている。そこで私は無人航空機に目を付けた。」
「無人航空機?」
「そうだ。無人機であればザイとの交戦も可能になる。政弘くん、君は人間が耐えられるGがいくつか知っているかな?」
バートンが問いかける。
「9Gでしたよね」
「その通り。だがザイはその9Gを遥かに超える機動をする。しかし、無人機であれば、我々でも9Gを超えた機動をさせることができる。」
「機体の強度次第になりますよね」
「うん、だがただの無人機では不安要素が残る。先の上海上陸作戦を知っているかね」
「ええまぁ...あれ負けたんですよね?」
上海上陸作戦の失敗は各方面で報道されていた。しかし、報道内容と事実は少し違っているようだった。
「そう、アメリカ軍が投入した対ザイ用無人戦闘機『ブロウラー』の暴走で失敗してしまった。」
「えっ...ニュースではザイの戦力が想定外だったからって..」
「事実の全てを報道させるほど政府も無能ではないだろう。都合がいいようにマスコミに報告し、それを報道してもらおうという魂胆だったのだろうね。」
バートンが持論を語る。
「ブロウラーはザイの行動パターンやジャミングのパターンを何万通りというなか解析し、実行するというものだったんだが、ザイはそれを逆手に取った。」
「操ったって事ですか...」
政弘はバートンの言葉を解釈し、ながかける。バートンはうん、と頷く。
「それじゃぁ、バートンさんの無人機も操られるんじゃ..」
「そこなんだが...
私はプログラムによる制御とは別の制御で解決することにした。それがAIだ。」
「AI?」
「そう、人工知能による制御だ。人工知能は人間の脳を模したものだ。つまり、戦闘機事態が現在の状況を判断し、それに応じた対処を自発的に行うんだ。」
政弘の学生の頭では100%理解は難しかったが、言いたいことの見当はついた。
「つまり、人の脳が戦闘機に積んであるみたいな感じですか」
「まぁそんなとこだね。」
「でもそれって、確実じゃないですよね」
「今現在ではザイとの交戦も先日にあった一例しかないからね。確証はまだ持てないが、私は何ら問題はないと予想するよ
...理論上ではね」
理論上ということは、言い換えればただ頭のなかで考えれば、ということだ。理論と現実は違う。これは政弘も理解できた。
「そして、肝心のAIについてなんだが...」
この話題になったとたんシャンティの表情が曇った。
「君はこの子の名前は聞いてると思うが、彼女が初めて君に挨拶したときに語った言葉を覚えているかい?」
バートンは問いかけた。
もちろん覚えていた。あんなインパクトの強い自己紹介を忘れるはずもない。
政弘はバートンの問いに頷いた
「彼女は航空戦術ドールと言ったと思うが、まさにその通りで、彼女は見た目は人間だが、中身はAIなんだ」
バートンの言葉に政弘の思考は停止した。目の前にいるかわいらしい少女が人間ではないと言われれば誰もがそうなるだろう。実際、目の前の彼女は人間同様なのだし。
そうこう考えていたら、シャンティが駆け足で部屋を後にした。扉も荒々しく閉めて。
「あっおい、シャンティ待ちなさい」
バートンが言い終わる前に彼女は出ていってしまった。バートンは深いため息を放つ
「どうしたんですかね」
「どうもあの子は自分がAIであることにコンプレックスを抱いているようなんだ」
「え?コンプレックス?」
「詳しいことは私にも話してくれなくてね...」
政弘は余計に困惑した。あんな人間がするような反応なのに、機械だなんて
「AIは人間の脳を模したものだ...それ故、見た目を人間にしてしまえば普通の人間と変わらない。そのギャップに悩んでいるのかもな...」
「...」
「技術実験飛行隊のメンバーとして、君に頼みたいことがあってね。
...彼女のスキンシップを頼まれてくれないか」
「スキンシップ?」
「と言っても、ただ話し相手になってやったり、共に遊んでやったりでいいんだ。」
「わかりました。でも、そんなに期待しないでくださいね。」
政弘は少々不安もあったが了承した。自分にどれまでの事が出来るか分からないが、出来る限りの努力はしようと心に決めた。
ーーーーー
政弘は小松基地を歩いていた。
シャンティを探しながら。
ただ、小松に住んでいても小松基地の中なんてろくに歩いたこともない。だからどこに居るかの見当すらつかない。
それに、遠回しに彼女の事を頼んだような言い回しで言われ、政弘は悶々とした思いでただ歩いていた。
そんな時、目の前をピンク色の長髪をなびかせている少女が目の前を横切った。
あの日、鳴谷とランディーと共にいた子だった。
「あっちょっと」
政弘は思わず呼び止めた
「なに?」
グリペンは振り向きざまに答えた。
「あ、いや。シャンティって子みませんでした?」
政弘は聞いた。
「あの子なら秘密基地にいる」
「秘密基地?」
「来て」
グリペンはそうとだけ言うともと来た方へと歩き出した。それにつられるように政弘もついていく。
「あなたとあの子の関係は?」
「いや、特に親しいとかはないけど...
バートンさんにあの子の面倒をみるよう言われて...」
「ならばよかった...あの子、落ち込んでるみたいだったから、私の秘密基地に連れてった」
グリペンは淡々と話した。そして、ただ黙々と歩いた。
しばらく歩くと、目の前にコンクリートで作られた倉庫のような見た目の建物が見えた。
「ここが秘密基地」
「秘密基地って...掩体壕じゃん」
グリペンが案内した秘密基地は旧日本海軍が作った掩体壕だった。
その中にひっそりと佇む旧日本軍の迷彩色のレシプロ機。そしてその翼下にうずくまるように小さくなっているシャンティがいた。
(こんなとこに居たのか...そりゃわかんねぇよな)
そんな事を思いつつゆっくりと彼女に近づいた。
「なんで出てったのさ」
政弘は単刀直入に切り出した。
「...私は人じゃない...」
シャンティがボソッと語った。
「それが嫌だから?...バートンさんに聞いたけど」
「...私がAIだと聞いた途端、みんな変な顔をする。それに私が居ないところで私の事を話してたり...それが嫌...さっきのあなたもそうだった...」
政弘はそれを聞いてはっとした。
「私はその顔が嫌...居ないところで私の事を話されるのも嫌...すれ違う人たちの目が...怖い...」
これが人間の本性だろう。自分とは違う存在は排除したい、距離を置きたい...
だから軽蔑や侮蔑する...
「たぶん、みんな初めて君がAIだって聞いた時は驚いたんだと思うよ」
「驚く?」
「そ、たぶんね。
...でも、その後のはたぶん...怖がってるのかもね」
「怖い?どうして?私はなにもしないのに...」
シャンティは訳がわからなそうに訪ねてくる。
「君の事がわからないからだよ。人って、初めてのものだったり、わからなかったりするものって怖いんだと思うんだ。本性とか分からないからね」
「私が何をするか分からないからってこと?」
「たぶん。分からないから勝手に自分の思い込みでその子の事を判断して、変な噂作って周りに広めて、そして自分の仲間を作ろうとするんだろうね。ほんとに卑怯な生き物だよね」
「...やったり人は信じられない生き物なんだ...博士に教えてもらった通りに...」
「信じるのは難しいかもね。でも、みんながみんなそんな感じじゃないとは思うよ。しっかりと本質を見抜いてくれる人もいるはずだよ。」
「...どうすれば怖がられない?」
しばらくの間の後、シャンティが訪ねた。
「うーん...俺も学生だし、これといったこと言えないけど、たぶん自分を貫き通せばいいと思う」
「自分を貫き通す?」
「何を言われても、んなもん関係ねぇ!みたいな感じで行けばいいと思うな。悩んで、卑屈になればなるほど、いい方へは行かないと思う
...あとは、自分も仲間を作るといいと思うよ」
「仲間?」
「そ、相手が仲間作って君を軽蔑するってんなら、こっちも仲間を作ればいい。1人で5人は相手に出来ないけど、5人で5人を相手にすることは出来るじゃん」
政弘はシャンティに持論を唱えていく。
「ありがとう。少し元気出た気がする」
「ならよかった。
あっそうだ!その仲間の第一号って事でいいかな?俺」
「えっ...私の事怖くはない?」
「怖がることなんて何も無いじゃん。普通にいい子だと思ってたけど」
政弘は笑って答える。
「あと、君も仲間になってくれる?」
政弘はここまで黙って聞いていたグリペンに問いかけた。グリペンは頷きながら
「問題ない。私も同じような経験がある」
と答えた。グリペンが小松に来て初めの頃、空自の面々に受けていた事と全く同じような内容だったせいで、グリペンは昔の自分と重ねながら聞いていた。
「よし!これでとりあえず仲間も揃ったし、シャンティも元気出たみたいだしこれにて一件落着かな。シャンティと俺と...えっと...」
「私はグリペン」
「ああそっか。シャンティとグリペン、そして俺の三人で頑張ってこうぜ!」
「たぶんもっと仲間は増えると思う」
「え?」
グリペンの言葉に政弘が聞き返そうとした時、シャンティの携帯がなった。
「携帯持ってたんだ...」
独り言のように政弘は呟く。
少しして電話が終わると
「みんなでサンカクに来てくれだって」
「サンカク?」
聞きなれない言葉に政弘は思わず聞き返してしまった。
ーーーーー
政弘がシャンティを探しているちょうどそのころ、バートンは買ってきた缶コーヒーを片手に事務所の屋上からぼんやりと海を見つめていた。
「調子はどうだ」
ふと背中の方から野太い声が調子はどうだと訪ねてくる。
「まずまずだよ。八代通」
バートンは後ろから、ずかずかとやってくる八代通に答える。
「そっちの方こそどうなんだ」
「まぁこっちもまずまずだな」
八代通はバートンのとなりに立つとタバコに火を付けた
「ヘビースモーカーなのも変わらないようだな」
「これはやめるつもりはないからな
...にしても、AIをあの少年に任せてもいいのか?」
「大丈夫だろう。彼に会って以来、彼女の反応は今まで見たことないものばかりだ。彼は彼女を変えてくれる存在かもしれない。」
「グリペンと鳴谷みたいな感じか」
「そこまで難しい関係では無いだろう。
...いや、あながちそうかもしれないが... 俺はあの子に人間は信用できない生き物だと教えた。俺も含めて」
「で?」
「それは致命的なミスだったな」
バートンはコーヒーをすすった
「確かに、人間が信用に値しないというなら、なぜそいつらを助けないといかないのかた疑問に思うだろうな」
八代通はバートンの言葉を継ぐように言う。
「兵器としてはね。ただ、俺はそれを間違った知識として彼女に判断して欲しかった。」
「で、今はそれをしていると?」
「そうだろうね。彼の存在で、彼女は人間という生き物がどのような生き物なのかを学んでいると思う。
恐らく彼女には彼に心を開きつつあると思う」
「それがお前が作ったAIか...」
「人間に限りなく近く作ったからね。彼女にはもっと人間らしさを磨いてほしい。」
「外出まで許可したみたいだしな」
「外出は彼と一緒にしてもらうようにしようと思う。その方が俺たちも、彼女も安心出来るだろうし。あとは、色々なところに連れ出してやって欲しいとも思うね。
...あの子にしてやれなかったように...」
バートンは空を見上げて言った
「固執し続けるのもどうかと思うぞ」
「研究者が自分の研究に心酔してなにが悪い」
八代通の言葉に笑って答える。
「それもそうだな。とりあえず、お前のとこで少年の面倒を見るなら、俺のアニマとドーターも紹介しとけないとな」
八代通はクルリと反転し、歩き出した。
「なら、連絡しておこう」
八代通はその言葉に右手を上げて答えた
ーーーーー
政弘達は呼び出されたサンカクに来ていた。
「ほえ~」
戦闘機好きの政弘はにとって格納庫に納められている戦闘機達を見て気分が高揚しないわけもなかった
「誰も居ない...」
グリペンはただ戦闘機だけが並ぶ格納庫を見て呟く。シャンティを秘密基地に連れていく前までは人は居たのに
「ん?もう来たのか」
格納庫の奥の方で声がする
「あ、フナさん」
シャンティがその声の主に呼び掛ける。
「慧はどこに?」
グリペンも訪ねる
「あいつならトイレに行ったぜ」
(ん?けい?)
政弘はその名前に疑問を抱く。そんなやり取りをしていると舟戸より更に奥の方から人がやってくる。
「グリペン、帰って来てたか」
(!?)
政弘はその声に聞き覚えがあった。
そしてその声の主が徐々に近づいてくると顔がはっきりとわかった
「おま!なんで!」
「マサ!?お前こそなんでここに!」
二人はお互いを指差している。
「二人は知り合い?」
シャンティが聞く。
「ま、まぁそんなとこだけど...」
「ようやく対面ってところか」
格納庫に八代通が入って来た。そのあとに続いてバートンやイーグル、ファントムが続く。もちろんグリフォン隊員も
「集まったな」
「せっかくのんびりしてたのによぉ、何のようだ?」
ブランドンが不機嫌そうに聞く。
「集まってもらったのは他でもない。新しいメンバーを紹介するためだ。」
「新しいメンバー?」
「本日より、技術実験飛行隊の一員として加わって貰う、岩間 政弘くんだよろしくやってくれ」
ブランドンの質問にバートンが答える。
紹介された政弘に全員の視線が向く。政弘は慌てたように一礼した。
「でも、こんなガキんちょを入れていいのか?」
「鳴谷はどうなんだよ」
グリフォン3 ブライアンの言葉にブライアンのパートナーのリドリーが頭を叩きながら言う。
「まぁ、それもそうか」
「彼には戦闘ではなく、シャンティの世話役になって貰うつもりだよ」
「お荷物はこれ以上増えないってか」
「メンバーが増えることに迷惑はないよ。むしろ歓迎会を開ける」
「結局は食いもんかよテイラー...」
「それが俺だ」
「てかお前、久しぶりな気がするな...どこ居た?」
「ずっと基地にいたさ。でも、空中管制官である以上、出番がないのさ」
「メタ話はそれくらいにして、もう一つ言うことがあるんだろ?」
ランディーが会話を止めさせ、八代通やバートンの方を向く。が、口を開いたのは指揮官のマッケンジーだった。
「まだ、詳しいことは決まっていないのだが、独立飛行実験隊、通称『独飛』ならびに、グリフォン隊の各隊は現在の指揮下から外れることになるという話だ。」
「どういうことですか?」
鳴谷が聞く。
「単純な話だ。現在、独飛は防衛省直轄部隊として、グリフォン隊はラーフ社の飛行小隊として、各々別々の指揮下に置かれている。それでは、指揮系統の混乱や情報伝達の遅れが生じる。そのため、現在の管轄から分離させ、二つの部隊を一つの管轄に置こうという流れだ。」
「はぁ...」
「ただ、実際にそうなるかは分からない。ラーフ社は好意だが、防衛省や政治家さん達の中には賛成派と反対派の二分になってるみたいだからな。そうなるかも知れないというかことだけ認識しておいてもらえると幸いだね。」
「なるほどね」
ブランドンが納得したように頷く。
「とりあえず紹介は済んだ事だし、あとは独飛とシャンティの機体の説明をしたいんだが、いいかな?」
バートンが八代通の方を向く。八代通も了承した。
「うちの独飛についてだが...」
八代通がアニマ達を手で呼ぶ。そして八代通のとなりに三人が並んだ
「まずは、こいつらの紹介だ。左からグリペン、イーグル、ファントムだ。こいつらはアニマという...」
八代通の言葉を遮るように警報器が鳴り響く。ザイの奇襲だった。
「全く、TPOをわきまえろってんだ。説明の途中だが、出なきゃならなくなった。すぐに頼むぞ」
八代通は三人に呼び掛ける。
「任せてお父様!イーグルが全部墜としちゃうんだから」
イーグルが真っ先に言う。
三人のアニマはパイロットスーツを着るためにその場をあとにする
「鳴谷、お前も頼んだぞ」
「はい」
鳴谷もその場を後にした。
「で、岩間お前は別室だ。ついてこい」
八代通に言われるがまま、政弘はただついていった。
次回「シー・イズ・ア・ウェポン」