GODEATEA -フォル・モーント-   作:9933

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弟から見たゴッドイーターの姉


第一話 弟と姉

ゴッドイーターというゲームがあったのを自分は知っている。

アラガミという化物が突然現れ、世界を食い荒らしまわる。それと戦う、いや、唯一戦える者達がいた。

人類の守護者

神機使い

そう呼ばれる者達の物語を描いたのがゴッドイーターというゲームだった。

そして自分は今、そのゲームの世界にいるようだ。

 

 

最初にゲームの世界だと気づき始めたのは、物心付いてすぐであった。

4歳の自分は姉と共に家にいて、たぶん絵本かなにかを読んでいたと思う。

轟音。

何の音かなんて幼い自分には分かるはずもなく、ただただ騒がしくなってきた窓の外を見つめるだけであった。

「アラガミが壁を突破してきたぞ!」

そんな声が聞こえてきて初めてゲームの記憶が呼び出されたが、幼い自分が記憶と現実を結びつけられるわけもなく。

あらがみ?げーむにでてきたてき?

なんでそのひとたちはげーむのてきをさけんでいるの?

げーむ?

外の人たちが不思議なことを叫んでいる、もしくは生まれてから自分はゲームなるものを見たこと無いなぐらいの違和感しか感じることが出来なかった。

5つ上の姉は違い、アラガミと聞いて簡単に荷物をまとめ、弟の自分を連れ家を飛び出した。

家から見て巨大な壁、対アラガミ装甲壁の方から黒い煙が上がっている。

両親は二人とも仕事で家にいなかった。いつも家を出る時に姉に「お姉ちゃんなんだから弟を守ってあげてね?」等言われていたからだろう。「お姉ちゃんが守るからね!」と弟の手を引き黒い煙とは逆の方へ走り出した。

弟の手を引く姉は痛いぐらい強く握っていたが、振り払う気にはならなかった。

だが、そんな姉の愛ある行動を無駄だと嘲笑うかのように、轟音と悲鳴は急速に近づいてくる。

突然、自分達の進行方向の家が崩れ、砂埃を巻き上げ、木片などを撒き散らす。

予想だにしない出来事に、姉と自分は足を止める。

大人ならともかく、子供二人の足で逃げれる距離などたかが知れている。追い付かれ回り込まれたのだ。

砂埃の中から巨大な何かが立ち上がりこちらに歩き始める。

怒ったような赤い顔、巨大な口と手、圧倒的な巨体。

それを見たときに『げーむのてき』等ではなく、ただひたすらに『怖いもの』としてしか自分の目には映らなかった。

そこからの記憶はない、幼かったからなのか恐怖ゆえなのか。

気が付けば、暗い部屋のなかで呆けていた。

なにも考えられず、同じ部屋の中で不安がっている人達を眺めていた。

再び思考が動き出したのは、姉の「お父さんとお母さんは」という声と、ずっと握られていた姉の手がさらに強くこちらを握ってきたからだった。

姉の方に視線を向ければ、見たことある男性(両親の仕事仲間かなにかだったと思う)が姉に対して静かに首を横に振っていた。遂に、握られていた手から力が抜け、

姉が泣き出す。

幼い自分でも分かってしまった。もう会えないのだと。

あの優しい声も手の温もりも何もかもが失われたのだと。

姉の赤子の様な鳴き声を最後に再び記憶が飛ぶ。

 

 

その後は、姉と二人でその日その日を生きていた。

姉は幼いながらも、仕事を探しにアナグラ方面へ出掛け帰りに配給を受け取ってくる。自分は自分で家事をしながら近所の様々なことを手伝い少しばかりの配給を分けてもらったりしていた。

決して裕福とは言えないが、それぞれ家族を守るため強く生きていた。

変化が起き始めたのは、10歳の誕生日の時からだった。

「ごめんねフミト。誕生日ぐらいは豪勢にしてやりたかったんだけどねー。」

稼ぎ頭の姉からしたら可愛い弟に満足させてやりたいものなのだろう。

なんて優しい姉だろうか。

弟からすれば、毎日食べれるだけでも幸せだ。

「ううん。こうやって姉さんと食事出来るだけで嬉しいよ。それにほら向かいのおばさんからジャイアントトウモロコシ貰ったからお腹いっぱいになるよ!」

お腹いっぱいにはなれる。正直飽きてきているが。

「いや私それ飽きてるからいらん。フミトが食べな、私他の全部で我慢するから。」

なんて優しくない姉だろうか。黙ってトウモロコシを半分に切る、配給の半分をさりげなく自分の方に寄せる。

「それはそうと最近、上機嫌で帰ってくることがあるけど何か良いことでもあったの?」

毎日ではないものの満面の笑みで帰ってくることが多いい。稼ぎが多くなったとかでは無さそうなので何事かと気になっていた。

「あー、あー?あぁ…、いや何もっと良い仕事につけそうでね。稼ぎもぐーんと多くなるよきっと!」

来年の誕生日は期待しとけ!とガッツポーズをとる姉。姉が笑顔になってくれるならなんでも良かった。

「分かった。楽しみにしてるから頑張って。」

 

 

姉がゴッドイーターになったのは数日後であった。

 

 

 

 

話を少し戻そう。

フミトは、ゴッドイーターというゲームを知っていた。

だが今は、記憶の奥底に封じてしまった。

思い出すと、あの日アラガミの恐怖と両親を失った悲しみも思い出してしまうからかもしれない。

だが、今の時代アラガミと無関係で生きていられるはずもない。人類はアラガミによって絶滅の危機に瀕しているからだ。

居住区を歩けば、必ずアラガミやゴッドイーターの話題を耳にするものだ。

だがフミトはそれら全て聞かないようにして生きてきた。アラガミの話題があがれはその場を離れ、アラガミ装甲壁が破られれば家か避難所で目と耳を塞ぎ終わるのを待つだけ。

姉がゴッドイーターになったと聞いたてきも『何か凄い職についたんだ。』ぐらいの感覚であった。

姉も分かっているのだろう、それ以上話を広げなかった。

 

だが、もう一度言おう。

アラガミと無関係で生きていける訳がないのだ。

 

12歳の時だ。

家に近い装甲壁がアラガミに突破された。

アラガミへの理解がかなり少ないとは言え、避難した方が良いというのは理解できていたので、避難所に向かおうと家を出たところで遠目に『それ』が見えた。

2本足で歩き、大きな尻尾と口、獰猛な顔と白い体の獣。

アラガミだ。

だが、遠いからか不思議と恐怖は感じなかった。それより強く『既視感』を感じていた。

見たことがある。俺はコイツを、『オウガテイル』を知っている。

ゴッドイーターというゲームに出てきた敵、化物。

何故ゲームの敵が?何故自分はゲームの知識がある?といった疑問は今回はわかなかった。

次に考えたのは『危険だ。逃げなければ。』であった。

オウガテイルに背を向け軽く走り出す。距離があったしこちらを見ていなかったので、まあ恐らく大丈夫だろう。

走り出して数秒。

……あっれ?なんかやたらと大きな足音がこっち来てね?

振り向けばオウガテイルがこちらめがけて走ってきていた。そこでようやく恐怖を感じた。

それもそのはず、ゲーム内では小型アラガミと呼ばれ、他アラガミに比べて小さかったので錯覚していたが、実際目の当たりにすればかなり大きいのだ。

あんな口で噛みつかれれば一発で上半身が持っていかれるだろう。

「冗談じゃない!」

全力で走り出す。

だが、12歳の足と、『食べて吸収し、考えて変化するとんでも細胞』が作り出した足を持つ獣、どちらが走るのが早いかなんて一目瞭然だろう。

すぐ後ろに足音が呼吸音が圧迫感が迫ってきた。

……もう駄目かな。

嫌なはずなのに、逃げたいはずなのに、諦めが上間ってきた。

 

「はああぁぁぁ!」

 

聞きなれた声が聞きなれない声色で聞こえた。

次にすぐ後ろで何かが潰れ弾ける音が聞こえた。

振り向けば見慣れた顔が知らない表情でいた。

その人は、遠目にこちらに気付き向かってくる他のアラガミを険しい表情で一瞥したあとこちらに顔を向けた。

「フミト!大丈夫!?怪我はない!?」

その勢いのまま抱きつかれた。

「ごめんね。怖い思いさせて……」

謝る姉の声は話題を弱々しかった。普段飄々としている姉からは想像がつかない姿だった。

思わず「ぉう……」とか返事してしまった。いやなんだよ、ぉうって。

それほどまでに弱々しい姉はフミトには意外であった。

いや、一度だけ、両親が帰ってこないと知った時に……。

ズキリと頭が傷んだ。

それがきっかけで視線が姉から姉の向こう側、オウガテイルの後続が3匹こちらに向かってくる光景に移る。

「姉さん!姉さん!?僕は大丈夫だから向こうからアラガミがーー」

3匹のうち、2匹が上から撃ち抜かれた。

残った1匹と、フミト達の間に一人の人間が着地する。

それは、大砲ーー、遠距離型の神機を構えた女性であった。

目の前に残った1匹に弾丸をぶちこみ、こちらに振り返る。

冷静沈着で何事にも動じない強い人。それがその人の印象だった。

「セリカ!馬鹿者!外部居住区に侵入したアラガミは他部隊が対処すると言っただろう!」

女性は、姉に対して怒鳴り付ける。

姉は、自分に抱きついたまま振り返る、ようは持ち上げられ振り回される。恥ずかしい。

「ちょっ……」

「わーってます、わーってますよツバキ隊長!でも流石に弟が襲われてるの見つけちゃったら話は違うじゃないっすか!?そりゃヘリから飛び降りもしますって!」

なるほど何処から跳んできてたのかと思っていたがヘリからか、どうりでヘリのプロペラ音がすると思った。

「それに、他部隊って言ったって残ってるの入隊したばかりのタツミ君とかでしょ?荷が重いって!」

「御託を並べるな!衝動的に家族を守ろうとするのは分かる。だから今回は見逃してやるが次はないからな!」

「ん、了解しましたー。」

軽い返事だ。間違ったことをしていないという自信からだろう。

やっと姉から解放されれば、近くにヘリから縄はしごが垂らされていた。着陸するスペースが無いから上ってこいということなのだろう。

ツバキ隊長と呼ばれた女性が掴まり、次に姉が掴まる。

「もう大丈夫だとは思うけど、一応避難しといてね。」

よく知っている姉がそこにいた。

「あ、うん……。姉さんも気を付けて!」

辛うじてそれだけの言葉を絞り出すと姉は、ニッと笑った。

うん、稲穂色の大剣を易々と扱っている違和感を除けばよく知っている姉だ。

だから余計に、初めて聞く力強い声、弱い声、初めて見た険しい表情が頭から離れなかった。

 

自分は姉の事を、何も分かっていないのではないか?

 

 

 

 

更に一年、フミトは自立を目指していた。

姉からの仕送りは基本的に貯金して、普段は自分で働いて食い繋いでいた。

たまに姉が帰ってくる時だけ貯金を崩し、豪勢に夕飯にしたりしながら、なるべく姉を安心させるよう努めた。

理由としては、自分が知らない姉を見てから、姉には姉の世界があり、姉の人生が有るのだと知った。

これまでの自分は、これからもずっとお互いを守り会いながら生きていくものだと考えていたが、それではずっと姉を縛り付けたままになってしまう。

姉が姉の人生を歩むのに弟の自分は重りになってしまう。

だからこれまで育ててくれた恩を返す意味も含めて、姉を支え、女の子らしく恋でもしてくれたら良いと思っている。

一度思いきって「姉さんもいい歳じゃん?恋人とか、気になる人とかいないの?」と聞いてみたところ「フミトより少し年上のタツミ君がフミトそっくりで可愛くてーー相棒のマルコがーー」「最近入隊したソーマ君が生意気で可愛くてーー」とか年下男の子可愛いいの話ばかりするので正直不安にはなった。

まあこの御時世、恋が出来るだけ幸せだ。犯罪さえしなければいいか。

……あとは、知ってる名前ばかり出て来るのも複雑だ。

あの人達を将来『義兄さん』と呼ぶかもしれないと思うと。

今出た幾つかの名前もゲームや漫画版に出てきた人物達の名前だった。

このゲームに関する知識、漫画版や小説版も適応されているらしい。

とは言え、一般人をしているとこの知識達が活躍する場面はほぼほぼ無い。

何故ゲーム知識があるのか?自分の前世か?等散々考えたが答えは出たことはない。

アラガミへのトラウマ克服にはなったが。

何かあっても大丈夫なよう、備えとしてなるべく思い出しておこうというのが、結論だった。

 

 

 

 

「姉さんはさ、何か夢や目標なんかってあるの?」

更に一年たった頃、恋人の『こ』の字も無いので我慢できず聞いた。要は『お前はなにがしたいんだ?』だ。

「んー?そうだねー……。とりあえずフミトのお嫁さんを見ることかな?義妹とか欲しいし!」

姉さんに成したいことがあるのなら全力で支えようとか考えていたらとんでもなく難易度が高いのが来たぜ!

「……努力はするけど、今のところそういう予定はまったくないからね?あとトウモロコシも食べろ。」

「いやー楽しみにしてるわー。あとフミトの分の缶詰も食べたからトウモロコシは入らん。」

この姉!この姉は!!

「……僕としては、早いとこ神機使いを引退して、恋人作るなり夢を追うなりして欲しいんだけど?」

「あー?あー…」

これは、言いにくいことを聞かれたときの姉の反応だ。さては恋人がいるのか!?誰だ!ソーマか!

「私さ、最近気付いたんだけど。人助けが好きみたい。」

ほう、それは初耳だ。

家族を守るために戦う強い姉。それ以外は横暴がさつ適当、フェンリルの規則ですらたまに守ってないらしい姉が。

「当たり前だけど神機使いやってるとさ、嫌なことや怖いこともたくさんあるんだ。でもね、誰かを救う為守る為って考えると戦えるんだ。

戦って救うことが私の原動力になっている。戦えるようになるために戦う?……うん、よく分からなくなってきたけど、なるべく長く神機使いを続けて、私の手の届く範囲の多くの人を救っていきたい。それが私の戦う理由で目的かな。」

それは嘘でも建前でもなく本心だからだろう、恥ずかしそうにしつつ真っ直ぐぶれることなくこちらを見ていた。

あまりにもまっすぐな目と優しい表情で話されたので、目をそらすことが出来ず、しばらく見とれていた。

姉はとっくに弟以外の守るものを見つけ、自分の道を歩んでいたのだ。

見とれるのに5秒、姉の「どした?」という声に我に帰り、返事を考えるのに2秒費やしてから、

「良いと思うよ。姉さんからそんな答えが出てくるなんて意外だったけど、すごく良いと思う。」

だが、それはこの残酷な世界ではとても難しいこと、皆が皆、毎日生きるか死ぬかの世界。他人を救おうとして自分が死ぬような時代。

だから

「だから、なるべく長く生きてね。多くの人を救う為とかより、姉さんが姉さんらしく生きるために、あんまり無茶し過ぎないようにね。」

たぶんこれは、僕の方の本心で願いだ。

姉は一瞬キョトンとした後、心底嬉しそうに目を細め「あー、あんがと。まあ適当に頑張るわ。」

聖人のような姉を持てたことに少しだけ自分も誇らしげになる。

「いやでも人助け、良いよね。こないだ小さい女の子助けて抱きつかれた時になんかムラァとしちゃって「お姉さんの嫁にならない?」とか衝動的に言っちゃったよね。」

あんた男の子好きじゃないのかよてか頼むから犯罪だけはしないでくれ。

 

 

 

 

更に1ヶ月、仕事が終わり帰路に着く。

家の前にフェンリル職員が立っていた。

嫌な予感がした。話を聞いては駄目だと思った。

だが、現実は容赦ない。

「上護フミトさんですね。残念ながら、貴方のご家族の上護セリカ曹長は、2週間前に作戦行動中行方不明になり、本日死亡扱いとなりました。……残念です。」

 

姉が死んだ。

 

 

 

 

正直なにもかもどうでもよくなった。

だが死ぬ覚悟もなくのうのうと生きた。

 

 

 

 

姉の死から1年。

フェンリルから適合試験への招聘状がきた。

要は神機使いになるチャンスが訪れた。

拒否権などなく、フェンリルへの向かい、神機の前に立ち考える。

正直、自分が神機使いになる意味などあるのだろうか?

そもそも姉も、生きる意味も無くした自分になんの意味がある。

姉には、意味があった、守るものがあった。だから戦っていた。それはとても誇らしく格好良かった。

 

……あぁ、そうだ。

姉の意思を継ごう。

 

姉が守るはずだったものを守っていこう。

それを自分の意味としていこう。

 

誰の為でもなく姉と自分のために。

 

強い意思と共に神機を強く握った。

 

 

 




それは、ゴッドイーターになった理由。
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