それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、   作:AyA Tono N.C.

11 / 45
#11 竹内従士郎と伊崎風雅(1)

(1-4)

 

「黄瀬と花形、どう思った?」

「あれで、つきあってないとか、嘘だよね、でも」

「そうだよね。でもさ、できてるのを隠してる感じじゃないと思わない」

「うん。なんか普通と比べておかしい」

わたしたちは下世話な話に入る。なお、お互いの恋愛遍歴は聞かない。相手のことを空気で察するが、自慢できるような話ができない模様。ともに。

「あいつの、下手下手って感じの扱い方が、ヘンなんだよなー。ギリギリ敬語とタメ語を使い分けて様子を見てるような感じが…もしかしたら、本当にお嬢様とその使用人…?のわりには、距離が近すぎるような気が…」

 

 わたしは閃く。「きっとね!お互いに好きなんだよ!でも昔から知ってるからそういう感情を出すのが恥ずかしくて!でね、黄瀬さんの家族もね、きっとふたりに『大人になったら結婚するんでしょう?』とか昔っから言ってるんだよ!で、お父さんあたりにね、『黄瀬家にふさわしい紳士になりなさい』みたいなこと言われててね!で、子供の時はいいけど、いい感じの歳になってきたら意識しちゃうじゃん!それで、ふたりともそんな感じじゃないんですけど、つーん、みたいなさ!だから花形君は敬語なんだよ!一種の主従関係なんだって周りに思わせるために執事長って言われてるんだよ!でもお互い信頼を寄せあっててさ!親がどうこう言わなきゃ普通につきあってるのにさ!周りがそういう感じにしちゃうから!でもふとそういう意識が切れるとね!あの時みたいに、腕を組んでぎゅってしたくなるんだと思う!そうだと思わない!」

 

 はい。わたしは瞬時に気持ちの悪いくらいの妄想暴走モードに突入して、一気にまくしたてる。その瞬間はとても楽しいのだが、家に帰って寝るころに、あんなこと言わなきゃよかった、と自分を殺したくなるやつである。

 

「ユッピ、少女漫画大好きでしょ」

「はい」

「ちょっとこの話は」、マサカちゃんがあきれた様子で。おいといて、と両手を左から右へ。わたしの設定は右によけられた。

 

 そしてそのあとに話し合われたのは、今日は黄瀬さんという味方、おそらく、をつけることができたし、花形君から重要な秘め事を手に入れることができたと。

D組に行ったのは正解だった。学校側の異常なルールに翻弄され、怪我をし、怒りが湧いていたわたしたちにとってちゃんとした目的が、まず最初にできたように感じる。

 

 つまり、まずはせめて御名術をもたない90%の生徒を巻き込まないよう、学校側をどうにかすること。

 

 D組としては、黄瀬さんが働きかけを行ってくれるはず。担任にも強く相談する、という。そして、彼女のお父さんが校長先生を諫めることができたなら、そこでそれは完了。

はぐらかされたりするようなことになれば(だが、彼女の思案においては、そうなってしまうことが濃厚だと…)、別の方法で、他の生徒たちの身の安全が守られないことをわたしたちが抗議すべきだと思う。

 

 自分のところの先生はまだいい。「口止めの御名術」には抗えないにしても、初日の当事被害者なので、わたしたちの話を聞いてくれる。

問題は、生徒同士を自分の興味本位や楽しみのために、勝負を煽ったB組の担任だ。

そういうのがいる限り、教師側で信条が割れてしまうというなら、何も、一歩も進まない。A組とD組でトラブルがおきなくとも、B組でトラブルが続くなら、いずれわたしたちは巻き込まれる。当然、わたしたち以外のA組の生徒も。

 

 

 と、わたしはマサカちゃんと穂村君に、考えをまとめて言う。時刻は16時48分。

じゃあどうすんだ、と穂村君は、聞く。お金がない下校時は、わたしが遠回りすれば10数分程度、3人で返りながら会議することができるので。毎回毎回マクドナルドでサミットを開いているような財布の中身の潤沢さは、わたしたちにはないのだ。なにかそろそろアルバイトをした方がいいかもしれない。

多種多様な人の相手するのは得意ではないけれど、中学時代に使っていたファミレスを選択肢に入れている。

 

「まずな。あたしの考えだけど。間違ってたら言ってほしい」、静かに彼女は考えを語る。「このさい、B組の御名術もち二人は、早めにやっつける」。

「え…」、わたしはため息をもらす。

「なんでだ」

「まず、最初に自分は御名術もちだ、と申告したやつ、Aな。こいつのバカ度は星いっこくらいなんだ。ただ正直なだけだからさ。他のやつも正直に言ってくれ、と聞いたとこは百歩譲ってまあそういう言い方もするのかな、とは思う」

「…」

「次。B。こいつはやばい、かなりやばい。バカ度は星よっつね。Aに言われて、自分の自己紹介の番を待たないで、正直にハーイって言ってる。隠しときゃいいのに。挙げ句の果てにAに決闘しようって提案したんだろ。バカすぎだろ。

自己紹介、次にするやつのこと何にも考えてない。それ以前に、なに決闘って。バッカじゃねえの。1対1で正々堂々、はじめの声で戦うってか。剣道の試合か。アホすぎる。考えただけで頭悪くなりそう」

マサカちゃんはBを思い切りけなす。人間と扱わないような言い方と目だ。非常に口が悪い彼女ではあるが、説得力はある。その所感は確かにその通りで。そう言われるとわたしでさえ、Bが問題だったのではないかと思う。その場など見てもいないのに。

 

 穂村君は指摘する。「男ってタイマンが好きなんだよ」。マサカちゃんはそれに、「おめえバカ、自分に当てはめてもの言ってんのか」。ハッとした穂村君が、うろたえる。

咳ばらいをし、穂村君はいう事を止める。なにしろ意識のない二人を味方につけた側なので。

 

「さて。最後にB組の担任。これ。これだ。これがバカ度が限界突破してて、A4のプリント用紙だったら欄つきぬけてズドーンって言って枠外まで星が飛び抜けてるレベル。真剣に頭おかしい。

御名術もちどうしの決闘は最初のホームルームより大事なのか。どういう学習教材なんだよ。そんで楽しんで見てたんだろ。害悪すぎる。そういうのが担任やってると、B組のマトモなやつらもだんだんおかしくなってちゃうんだよ。みかん箱の下のほうのカビたやつだよ。もうそいつらもカビちゃったから、やっちまわないと。絶対あたしらと話あわないよ。ユッピ、B組の担任ってまだあたしたち、授業受けてないよね?」

「う、うん。情報処理の先生だったから、まだ会ってないね」

「明日の3限だったよな。授業終わってからなんか言いに行くか?」

 

 その穂村君の提案はストレートだった。恐らく彼も思うところがあり、マサカちゃんそしてわたしと目的を同じくしてくれるのではないかと思った。最初に巻き込んだ側の責任か贖いのようなものとして。

 

「いや、なんかそれ、時間の無駄のような気がする。ユッピはどう思う?」

わたしは思っていたことを提案する。できるだけ全員のトラブルが少なく、均等化される方法で。 

「わ、わたしは、無理してやっつけなくていいと思う。むしろ、そのB組の御名術もちのふたりを説得して納得してもらって、わたしたちと同じ考えに共感してもらえばいいって、思う。そうなったら結果として、B組の先生が何を言っても、生徒側は自分で考えてちゃんとやると、思う」

「甘い」、穂村君は言う。「話だけで納得させんのは一番難しいと思うぜ。俺は加納にボロクソに負かされて、お前らが俺と話したいって言ったからいまこうやってんだ。つまり、やっぱやっちまったほうが、いい…」

「いいね、景虎。どうする。B組のやつら、ふたりでやりにいく?」

「俺はいいぜ」

「ま、ま、ま、待ってほしい!ねえ。危ないよ!」

「正々堂々やろうとか言ってる平和なアホを瞬殺しようよ。景虎は片方ガン見してすぐ倒しなよ。あたし、いきなり消えて後ろにワープしてもう片方の…」

「ふたりとも、待って!」、わたしは盛り上がっている間に入って、「わたしたち、初日のせいで御名術もちだって結構バレてるっていうよ!きっとB組のふたりも知ってる!でも、わたしたちそのふたりのこと、知らないじゃん!

決闘して勝負がつかなかったからって、そのふたりはB組でうだうだ、次の決闘はいつにしよう、とか、やってるかな!?」、だめだ、言いたいことが素直に口から出てこない。わたしはふたりのように頭が回らない。

「なに。あたしたちがこういう話してる間に、そいつら、先回りしてあたしたちを襲いにくるって?A組の御名術もちが、名前もうバレてるから?」

「B組の先生が、そういうふうに、煽ってたりするようなことを、してたら!」

 

 ぶわり、と。なにか、強い風が吹いたような音がして、

塵が目に入って、こする。遅れて風が吹き付ける。わたしは、スカートの前をおさえて。

 

「景虎?」

 

 穂村君が、姿を消す。

わたしたちは顔を見合わせて。

ぐるりと顔を1周させて。この道は、老朽化した看板が突き出ていて横の建物の多くはシャッターがおりている。昔は商店街がにぎやかだったのだろうと思う道で、細道でもあり、車は滅多に通らない。その車線の向こう、制限速度30kmの標識の下で、穂村君が、横向きに寝っ転がって、いる。

わたしは息をのんで。

 

「なんで、あいつ、あそこにいる?」、マサカちゃんが冷たく、ゆっくりと、口に出す。それは、わたしに宛てた言葉ではなくて。

 

 倒れた彼の身体は、通りすがる人たちの衆目を集めるが、見た目のせいか心配されない。避けられてしまう。

数秒の観察の限り、横たわって、身もだえをしていない。死んだとかそういう物騒な状態ではないにせよ、気絶している可能性はある。

 

「いま、あいつは、どうやって、あそこまで飛んだ?あたしだって、あの距離はむりだぞ」

マサカちゃんの視線の先。額をこすりながら、事態が飲み込めないわたしは、震えて、それでも、うちの高校の制服を着たふたりの男子の姿を、視野にとらえる。そして、ふたりの「帯」にピントを合わせて。

私は声が出せない。けれど、ふたりを指さして、マサカちゃんはそれを察する。

 

「バカ度1と4が一緒につるんでんじゃねえよ、だな」、そして下唇を噛み、「なにこれ。あたしひとりで二人相手にしろって?」、マサカちゃんは、隠しきれず、焦る。「正々堂々やろうよ…」。

 

 彼女は先ほどと逆のことを、言う。




ノリが昔のヤンキー漫画みたくなってきた。好き。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。