それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、 作:AyA Tono N.C.
入学式の日、わたしはいきなり帯が見えるようになって、そのときはそれがなんなのかわからなくて、わざとトイレに行ってまで、ひとクラスの2~4、5?人くらいが黄色く光っているのを確認した。
覚えている。B組の片方の男子は不鮮明だけれど、もう片方の男子は髪の毛をまったく剃り落としていたから、印象強かった。
彼はガードレールに腰かけている。端正な顔立ちで、見事なスキンヘッドで、利発そうなスクエアの眼鏡をかけて。
興味津々と言った感じで、こちらに視線をよこしている。
もう片方の男子はその前方に立ち、ずいぶんと真っすぐに立つのだな、とわたしは緊張しながら思った。
そして、その顔はわたしたちが車線を渡ってくるのを、待っている。そう感じる。その表情は、何かあればいますぐ臨戦態勢をとれる、わたしたちは彼にとって敵である。そういった、敵を拒まない、真剣さを感じる。
まずいのではないかと、わたしは思うし、マサカちゃんもきっと状況解決の難解さに困っているのだと、思う。
御名術もちどうしの勝負、戦い、というものはしっかりと見た。すさまじいのだ。あのときは10分以内に決着したと記憶しているが、かなりの負担を身体に強い、マサカちゃんと穂村君、いずれかがあの時以上の大怪我をして悲惨に終わる結末でもおかしくはなかった。
そして状況は初日よりもひどく。それは見てわかる、わたしは。相手はふたりである。片方は観察、片方は準備万端といったところか?
わたしは、なにか助けてあげることはできないだろうか?そしてわたしは歯をぐっとかみしめて、
「ユッピはあたしのうしろ」
「あ」
感づかれる。何もしなくていい、と言われたようなもので。
わたしたちは、車道をゆっくりと、渡る。
「…っと。ダメだねえ、あたしは。ちゃんとユッピの言うことを聞いてれば、もっともっと注意を払えたってえのに」
「そ、そんなこと、ない。わたしは小心者だから、悪い方にものごとを、考えちゃって…」
マサカちゃんは歩いて行き、真っすぐと立つ、幼い顔立ちと身長の高さがややアンバランスな男子と、距離を縮めていく。8メートル以内には、間違いなく入り。そして近づきすぎない、マサカちゃんの御名術のための距離。
彼はグレーのネクタイを片手でなおし、そして、右手は猫の手のように、左手は腰につけ、なにか、拳法のような構えを、とった。いや?それを、崩した。そして一礼をした。柔道の試合直前のように。
「なに、おまえ」
「1年B組、僕は
童顔の男子は、わたしの第一印象は、武士みたい、だった。その名前の音の感じもそうだが、立ち振る舞いは、きっと厳しい礼儀にもとづくルールと試合があるスポーツ?格闘技?に由来していると思った。なお、わたしはまったくその手の話題には明るくない。
「…」
「いかがでしょうか!」
「やだ」
すっと、マサカちゃんが"
彼は当然、回避できない。そんなところから拳は発生しないものであるから。
そして、短い苦悶の声をあげて、彼は前かがみになって。
マサカちゃんは容赦ない。右手側に生み出した大きな"洞"に身体を入れ、まばたきの間もなくワープして、彼の左わき腹に蹴りがねじこまれる。
「ぐ、うぐ、おおおおおおお!」
童顔の男子。名前は竹内君。頭が状況把握に追い付いていないのか、周囲四方に目をやり、マサカちゃんの足が現れた位置に、ぶわっと張り手を放って。空を切るが、なににも当たらない。
そしてわたしには次の攻撃がもう見える。彼の足と足の間に"洞"ができてるのだから、それは股間への蹴り上げで…。顔を覆う準備をする。大事なところを、激痛ひとつで動きを一瞬で止める箇所を真っ先に狙う、ある種の拷問。
ばしん、と。その局部への攻撃は(いろいろな表現をして申し訳ない。わたしはマサカちゃんと違うのでキンタマとか言えないのだ。あ、言っちゃった)。
彼が、内股になって膝を閉じたことで防がれた。
「ああクソ、勘のいいやつだな」。マサカちゃんは片方をすぐに片付けて次を相手するつもりだったのだろうが、そう簡単なものではなかった。「なんかやってやがんな」。それは、彼が武道に身をひたしている、ということ。
ガードレールから身を乗り出して、スキンヘッドの彼の方が、かなりハイになって、驚嘆の声をあげている。
「おおっ!おおっ!おおお~…!?凄いな!そんなことができるのか!」、彼はまるでご機嫌な態度で。「竹内君!大丈夫かぁ?なんか彼女ぉ、ことのほか君は相性が悪そうだぞぉ~…!?
もう2発も重いのもらっちゃってるじゃないかぁ!竹内君~、こりゃあ、おれが代わってあげたほうがいいんじゃないかなぁ?」
「少し黙っていてくれないか!割り込んできたならただじゃおかないぞ!」
「おれがやったほうが確実そうに見えるけどなぁ~…?」
「いいんだ!僕が最初にやると決めた!君!僕は決闘を申し込んでるんだ!なのに名乗りもせず、不意打ちだなんて!恥ずかしいと思わないのか!」
「思わねえよバーカ!!決闘に乗ってやるなんて一言も言ってない!不意打ち先にかましてきてんなそっちだろー!?景虎になにしやがった!」
マサカちゃんが、キレる。当然の理屈だ。この感じ、今マサカちゃんと対峙しているほうが、Bすなわち決闘を提案したほうだろう。
かなりくそ真面目な性格が見て取れる。こういうとき、手段を択ばないマサカちゃんとは相容れないような性格だ。
そしてその後ろは、髪はないけれど、結構かっこいい顔立ちをしていて、けれどなにか雰囲気はふにゃふにゃしている。心を許せないような感覚は受けるのだけれど。
「竹内君、少しなあ。説明不足なんだよ、いろいろとね。もう少し彼女がさ、決闘してやってもいいと思わせるような説明がさ。必要なんだよ」
「…そういうのは、僕は得意でない!
くそ真面目な少年は言葉を操るのがうまくないようで。そして、おしゃべりそうな彼が、もっとおしゃべりをしだす。
「説明不足なんだよ。君たち、そこの可愛めのおふたりさん。おれたちはね、B組だよ」
「わかってるわそんなことバカタレ」
「ウッソぉー!わかってる?なんで?おれら、そんな顔割れてんの?」
「B組で初日に決闘やったアホどもってお前らのことだろー!?おまえらみたいなやつらのせいで御名術もってない周りのみんなが苦しむんだ!マジで許せない。
だいたいなんなんだよヘラヘラしやがって、このイケメンハゲメガネ!」
マサカちゃんはリズミカルに彼を煽る。なお、彼女にとってイケメンは全然褒め言葉ではないらしい。
「イケメンハゲメガネ…褒め言葉、蔑称、代名詞だな。どう評価したもんかねぇ?」
彼は頭を撫でて、眉をひそめて。…説得の余地がある。わたしはそう思い、話を聞くため、「あ、あのう。イケメンだけ、聞いていただければいいんです。すみません。その、B組のあなたたちはどうしてわたしたちを?」
「イケメンだけでいい?じゃあ、いいや。おれは伊崎
わたしは首を横に振る。
「穂村君をいつの間に、どうやってあんなところに!」、倒れている彼をわたしは指さして。
「おれの御名術だねぇ。ちょっとね、A組のひとたちのことはやばいって知ってるからさ。そして、御名術の内容はわからないけど『男のやつのせいで先生含め怪我人が…』って聞いたならば。
ヤンキーっぽいやつが、かなりやばいらしい、そう聞いてたからねぇ。でね、そこの彼女に竹内君は決闘を申し込んでみるとか言うもんだから、邪魔されたらかなわんから、おれが真っ先に奇襲しちゃった。アッハッハ!」
「てめーかよ!!このガキぶちのめしたら次にぶちのめしてやってやっからな!その頭にマジックで髪型書いてやるからな!油性だ、油性!」
「いやいや。おれは、今日は何もしない。だって、そこのヤンキーを片づけたから、おれは今日は満足したから、仮に竹内君が負けても君とはやらないよ。野性的なお・嬢・さん!」
「んがあーーーーーーー!!!」
マサカちゃんが動物のように吠えて。
彼は陽気のままで。口先で、マサカちゃんの怒りを再点火する。そうして、冷静な判断を鈍らせるつもりだろうか。それとも、戦略もなにもなく、ただこういう挑発的なしゃべり方の人なのだろうか。わたしは、「しゃべらなければかっこいいのに」という慣用表現の意味を理解する。ここまでおしゃべりで自信家だと、そしてきっと頭もいいのだろう。鼻につく。
「伊崎君、そろそろ静かにしてくれないか!」
「はいはいぃ~」
そして彼らは、あそこで、と。特に奥まったシャッター街の、行き止まりのような場所を指定し、わたしたちを誘導して。
わたしはその前に穂村君のそばに走り、容体をみる。気を失っている人を見慣れているわけではないけど、眼を閉じて、ちゃんと呼吸していると思う。
さすがに人目につかないところでやろう、と。彼らは。その一帯は夕方前なのに、暗い。
わたしは穂村君を引きずらなければならなかった。彼は、まだ起きない。
「さあ、決闘を受けてくれ。僕は自分の御名術を持ち出すため、誰が相手でも負けない、そのために正々堂々ひとりひとりを、下す!」
「熱血過ぎる。気持ち悪い。で?あんたの御名術はさ、持ち出したらどうなんの。あんたの御名術は、他人や社会の役に立つの?自分のためのものなの?」
彼は少しだけ止まり、「自分のためだ」。と、真っすぐに言う。その真っすぐさが、わたしにも暑苦しい。けれど、気高くて、強いのだなと思う。
「じゃあだめだ。自分のためのやつに、持ち出させたり、しない」
マサカちゃんは"洞"を自分の目の前に。竹内君は、再度、両手を前と腰に、構える。
わたしはそして、スキンヘッドの彼の方に、言う。「本当に、あなたは戦わないんですか?」
彼は頭を撫でて答える。「竹内君は怖いんだよぉ。とってもまじめだからね。どんなことがあれ、おれが介入したら、許してもらえないさ」
「どうして、わたしたちを狙ったんですか?」
「近いから」、彼の言い方が癪に障る。
「あなたと彼は、決闘して、決着がつかなかったんですよね。それは―」
わたしは苛立ちとともに疑問をぶつけたが、彼は表情を崩さず、丁寧に返事をする。
「おれたちは決着がつかなかったからね?で、稲木せんせが…あ、稲木はうちの担任ね。知ってる?今日ここでふたりの勝敗がつかなくてもいい、卒業式までにつければいいんだって。
卒業式の日までに雌雄を決めるためには、他のクラスの御名術もちの生徒がおれらの邪魔をしないように、今は協力すべきじゃないかって、言うのよ」
「バッカじゃないですか?先生がどんなおかしなこと言ってるかわからないんですか?その結果、いろんな無関係の生徒が迷惑になるのを無視して?」
「うちの先生はねぇ~…そういったものも、残念だけど発生してしまうものなのって、言うからねえ~」
「先生が言えば何でも正しいんですか!そんなのおかしいよ」
わたしが興奮していると、真横で、その場でわたしだけが見える黄色い粒子が、まばゆいばかりに一瞬大きくきらめいて。
その瞬間だけ、22時の暗闇が白色電球で急に照らされ、例えば蝙蝠が逃げるように。わたしはたじろぐ。
横に目をやると、マサカちゃんは上半身を"洞"に飛び込ませて。その場には、下半身だけがある。
上半身は、彼女の2メートルほどうしろに浮いていて。
その荒い呼吸は、まるで間一髪で危機から免れたかのよう。
スキンヘッドの、伊崎君はいささか真剣な顔になって。
「竹内君?もしかして、彼女、きみのハイキックをよけたのかい?冗談だろ?」
「い、伊崎君!静かにしていてくれないか!」
その光は一瞬で。彼の帯は、はじめて見たときほどに、収束していて。あんな光量であったはずが、ない。
「いまの、ハイキックだと…ふざけんなよ」、マサカちゃんは上半身を、あるべき位置に、もどす。「脚が速すぎて消えたぞ」。彼女は、どきどきと。焦慮している。
イケメンハゲメガネが友人間で随分パワーワード化してしまったが、「帯をギュッとね!」の杉清修とかまさにそれじゃねえの?