それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、 作:AyA Tono N.C.
「もうね、7限目とかね、あたしさ、勉強苦手なんだからさ、これ以上嫌いにさせないでほしいんだよね」
「2週間だけ頑張ろうよ。ってことは、あと13日で終わりじゃん!」
「13日で終わりだけどその後、土曜使わされてまでまたテストやんなきゃいけないんだよ!」
「土曜なくなるの、痛いねえ」
「マジ痛い。しかもそれもダメだったらまた延々と続くんでしょ」
「そうならないためにもね!みんなの力借りて、テスト対策しよう!前と同じ答案じゃないだろうけど、竹内君のために伊崎君が協力するっぽいから、それに便乗させてもらってね」
「ハゲに頭下げる他ねーなー」
「お寺で勉強会とかさせてもらえるのかな?静かそうだし」
「間違うと肩ばちこーんって叩かれるの?」
「テレビじゃないんだから」
「あのさ、でもね、従士郎はやばいよ。あいつ、きっとあたしよりバカ」
「比べるものじゃあないよ!」
マサカはよどんだ目つきで、いかにうんざりしたか、とくとくと。
彼女の経歴上、朝から日が落ちるまで勉強、というのは例がなかったことだから、疲労感もやはりこれまでになかったもので。
そして、実力テストで成績が悪くとも、野球部は免除されるらしい、のような話になると、マサカはいまからすぐにマネージャーになれないものかと頭を抱える。「きっとマネージャーは免除されない」、ゆりは夢を壊す。
相対的に全部の教科の点数を上げるのか、得意な現代文とそこそこできる科学に集中させて、日本史を捨てるのか、などいろいろ方策はあるがなによりまず平均点に近づけなければどうせ今後も同じことの繰り返しだろう。
もう17時で、曇った空はもう日が落ちていて、今日は鋭気を養う(ふたりはそういう慣用表現を使える程賢くないので、意味合い上そのようなこと)目的にて、ゆりの好きなファミレスに行ってちゃんとごはんを食べよう、ということになった。
お互いに親が放任気味なので、このあたりは融通がきくし自由だ。門限が厳しい他の生徒とは違う。一応、21時までには帰る、と。
だから彼女らは電車に乗って、学校の一駅となりで降車し、だべりながら進む。駅を出て4分。やや歩く。
「イタリアンハンバーグにしよっかな、でもペスカトーレかな、それともね…」
「あたしはほうれん草ソテーふたつ頼むからね、あと海老と…」
そしてマサカは、ふと右を向いて。
行きかう車は多く、道路の向こう側をちゃんと見るには、彼女たちふたりとも、足を止めなくてはならなくて。
靴の販売店ビルを背にし、マサカはそこを見て絶句する。
その目線の少し先には、あの、問題の写真の風景としてフレームに格納された、とても細いビルとビルの隙間の空間で。
その隙間には、きっと、誰もいない。何もない。なのだが、マサカは少し身震いして、ゆりに「行こう!」と促されて、そこへの注視を、やめる。
そこはただの空間であって、殺人事件の延長線のなにかがあってはならないもの。
ゆりは、「見なくていいんだよ」、そうつぶやく。彼女は、気づきはしたが、決してその方向へピントを合わせはしなかった。
あれは、関係のない女子高生が深入りしてはいけないものなのだ、と。見るに値しない。見る時間が長ければ長いほど、関係性が発生してしまう。そうとでも言いたいかのように。
件の折笠の写真だが、マサカが持っている。
折笠に墓場からの写真を復元してもらうことはあきらめていない。
ひとまず折笠は(当然ながら)その写真を自分の手から放したくて仕方がなかった。
警察に届ければいいのでは、そういう当たり前の意見も出たが、この御名術で撮られた写真はズームインしなければ、殺人事件の部分など見えはしない。
ズームインして届けたならば、なぜこんな写真を撮ってしまったのか、どこで、どのように、どうして、なぜ。「偶然写った」などと通すことは、きっとできない。
「じゃあ、わかった。それさ、嫌だけどな。本当に嫌だけどな。あたしがさ、持ってるよ。捨てようとしなきゃ、あんたんとこに戻ったりしないでしょ。でも、今はそれ以上のことはできるかわかんない」
折笠はそれで納得した。
「俺が持ってさえいなきゃ、大丈夫。もしも俺がこのおっさんに捕まっちまっても、家探しされても絶対にネガはないからさ。現物さえ手元になきゃいいんだ。しらばっくれてみせるよ」
その言葉は少し覚悟を決めているようでもあり、しかし何となく希望的観測というか自分の身の安全について甘く考えすぎではないか、と誰もが思ったけれど。
結局のところ、困っているのはお互い様。
そして、マサカにその写真を預け、1,2か月何もなければ、それで折笠は納得するのではないか…。それは、詩津華の意見だった。
その間は、わたくしがお兄様に働きかけてみて、相馬さんへの悪質な行為や疑いの声をおさえられるよう努力します、と。
「下手すると、卒業式終わるまでこの写真、持ってないといけないかもな」、マサカはため息をついて。
「きっとそんなにかからないよ」。ゆりは、元気づける。
そこまで財布にゆとりがない女子高生にとってはちょっと贅沢な食事が終わって、ドリンクバーで最後の1杯をふたりで取りに行き、19時半になったのを確認するとふたりは会計を済ませ、
そのファミリーレストランの階段を下りて。
ああ、おなかいっぱいになっちゃったね、と。あたりはもう暗い。金曜日の夜で、背広姿の大人が道には増えてきて。
ふたりは来た道を駅へと戻る。
ゆりは、横断歩道を渡ろう、とマサカに言う。そのまま進むと、あのビル同士の隙間をさっきよりも間近で見ることになってしまうから。
けれどマサカはそこに近づくと立ち止まってしまう。「この暗さでさ、もうね、隙間なんか見えないじゃん。フラッシュたいて一瞬見えるくらいかな?そんでユッピ。あいつの『帯』って、フラッシュなんだよね?つまり、それって普通のやつは感じないよね?」
「うん。竹内君みたいなね。折笠君が写真撮ったとき、まぶしいって思ったのはわたしだけだったから。でも、マサカちゃん…」
「写真に写ってたおっさんがこっちを向いてたのは、偶然かもしれないな。フラッシュは『帯』が見えないと感じない。シャッター音は写真を撮った瞬間か、ちょっと後に鳴る…つまり、撮られたと思って、こっちを向いてるんじゃ、ない…」
「マサカちゃん、もう行こうよ!」
ゆりはマサカを引っ張る。「立ち止まらないほうがいいって!」
そう。立ち止まらないほうが、いい。決して、2度も、そこで立ち止まるべきではなかった。
「お嬢ちゃんたちさ」、ぼそりと、力のない声が耳を通り抜けて。「あのビルとビルの間、何を興味を引くもんがあるんだい」。
ぞくり、と。ふたりに悪寒が走る。
「芸能人でもいたのかい。いいえ、そんなことはない、ね。あっこはね、ちょっと暗くなっちゃえば何も見えなくなっちゃうしね」
振り向いたところの石畳の段差に、グレーのスーツをまとった中年の男が腰かけている。そばに、缶コーヒーが2つあって、それは横に倒れているので空き缶で。片方は灰皿の代わりにされている。
男は、3本目に口をつけている。
「…」
「…なぁんでもないっすよぉ~~おじさん。さっきまでいたファミレスにさ、あれ?あたし、家の鍵忘れなかったっけ?って思っちゃってぇ~でも、よく考えたらいつもと逆のポケットに入ってたっし!キャハ!戻んなくてせいかーい、なんて。なに、どしたんすか?お仕事終わり?おじさんもあそこのファミレス行けば。おいしかったよ?ご飯食べた?」
マサカがとぼけて。
「俺、ファミレスとか行かないんだわ。あんまり、食った気にならなくってね」
「えー!そんなことないよ!丼とかお膳とかいっぱいメニューあるよ!ごはん大盛りにすりゃいいじゃん!」
「でもね、お嬢ちゃん。それだとね、ファミレスに向かってるときに、じっと見なきゃいけない理由になんねえん、だわ」
その指摘は、ふたりの呼吸を止める。
そして。
ゆりは、肩を震わせる。その、中年男の顔を見て。その成り行きに絶句する。写真の、片方だ。なにか適切な理由を考えてあげなくてはならないのに。
3本目の、缶コーヒー…、マサカは唇を噛んで。(このおっさん。待っていやがった)。
男はすっくと立ちあがった。マサオキは。表情一つ変えず、女子高生の様子を、伺う。
そしてマサカは、すぐにその場から逃げることを、選ぶ。マサカは考える。男の後ろには雑居ビルがあって、確か1Fはゲームセンターで。
"洞"をつくってふたりで壁を抜けて、2Fか3Fに上がり、追いかけて来たところで、また"洞"を経由して1Fまで降りる。そして、御名術を使い続ければまくことはできないか。
マサカはゆりの手を握って。
まずは、一発くらわしてから、あのおっさんの後ろのビルに!
マサカは"洞"をつくる。右手はその中に入り、即座に中年男の鳩尾に突き刺さる。
それでは足りなかった。あまり、驚かない。軽くうずくまるだけで。
では、もう一度だけ。マサカの左腕がそこから消え、男の左顎をとらえた。激突音がして、マサカはそれで十分だと思い、ゆりの手を引いて、雑居ビルの壁へと。
だけどゆりは悲鳴をあげた。2撃食らった中年男は、それでも女子高生の姿をはなさず、ゆりのブレザーをつかんだ。
「ユッピ!!脱いで!!」
それはすぐに追いつかれてしまい、マサカは次の攻撃を。後頭部に、ひじ打ちを!
空振る。
マサオキは、しゃがんで。
ようやく、ゆりがブレザーを脱いだ。
「なんだ?」、マサオキは、表情を変えず、いぶかる。「なんだ、それ?」、彼は立ち上がる。
そしてマサカは追撃する。股間に蹴りを、と。するとマサオキは、それを待っていたかのように、両腕を地面のほうへと下ろして。
まだ、出口の"洞"が発生する前に、そこに両手を準備して。
蹴り上げを、止めた。
「なんだ…このおっさん…」、マサカの右足が、がちりと捉まえられる。「なんでわかった」。
そしてマサオキはさも当然のように返事を。「だって、右足でカチ上げるような体の動きをしてたじゃないか」。
偶然だ。まぐれだ。そんなものは信じられない。マサカは言葉を飲み込んで。
「俺っちは、勘がいいからね」
捉まえられてしまっては、"洞"を消しようがない。そこに足が残っている。
超能力と対峙しているというのに、この中年男はそれを不思議がらない。いや、しているのかもしれないが。マサカが、そういうことをできるということに、「そういう女子高生なのか」と言わんばかりに、順応しすぎている。
マサカは気を張って、"洞"を目の前につくって。
「しゃあ!」
彼女のチョップはマサオキの後頭部を狙うのだけど。
マサオキは。右手をマサカの足から離し、背後に持って行くと、ばしん、とマサカの手首を受け止めた。マサカは血の気が引く。すぐに、キャッチされている足への力が半分に減ったことを認識すると、強引に足を引っ張る。
脚は抜けた。しかし、今度は右腕だ。しかも、かなわない腕力で締め上げられている。
「く…く…」
「お嬢ちゃん。俺っちなんかとケンカできて何になるの。そんなに慣れてちゃあ、いけません。もっとその努力を勉強に回しなさい、勉強に」
気だるげに彼は口にして。
「ユッピ!!なに!?このおっさん!?予知の御名術でも持ってない!?」
ゆりはマサカを置いて逃げられない。少し離れたのが精一杯の自己防衛だ。
「ぜ、絶対、ない!そのおじさんに、帯なんてない!」
「嘘っしょ!?後頭部狙ったんだぞ後頭部!!」
穂村も、従士郎も、適応はできなかったのだ。
「お嬢ちゃん。今の腕はね、振り下ろすしかできない身体の動きだよ。で、どこを狙うかっていうと、肩や足なんかじゃないよ、ねえ。頭だよ。今のは。それも、受け止められそうにない場所に狙うに決まってるでしょ。それくらいはわかるよ」
適応は、できなかったのだ。こんな短期間に、"洞"を出す位置を予測するなどという事は誰も。
マサカは腕をつかまれたまま。マサオキは、彼女を背後にあった雑居ビルの壁がへこんだところ、おそらく非常口だと思われる場所まで引きずった。ゲームセンターからのBGMと電子音が聞こえてくる。そして、質問を投げる。
「うっ、うっ、ううううう~…」
「数日前、あっこのビルの隙間の写真を、撮ったのかい?」
「ち、ち、」、マサカが手首の痛みをこらえて。代わりにゆりが叫ぶ。「違います!わたしたち、撮ってません!そんなことは!」。
「それはね、その言い方はね。お嬢ちゃんたちふたりじゃなくって、別の誰かが撮ったって言ってるようなもんなんだ」。ゆりは息を吸い込み、口をふさぐ。「今のはね、『そんなの知りません』とかね。『意味が解りません』とかね。そう言ってくれたら俺っちだって勘違いかなって思ったさ」。
マサカは思う。まずいと。手首をつかまれていることではない。目の前のしみったれた中年男が。洞察力が凄まじいから。
「なんでその、誰かは撮ったの?」
「ぐ、偶然です!」
「うん。そうなんだろうけどね。でも、そうなってしまった原因と理由が、俺っちには必要なんだ」
「ユッピぃ!いいから逃げな!」
「マ、マサカちゃん!誤解を、解いた方が!?」
「いや、大丈夫、ここでこいつ、ぶちのめして警察に突きだしゃ、全部うまくいくかも…折笠のとこも、相馬のことも…」
それは彼女の強がりだった。彼女は久しぶりに恐怖している。スリやひったくりを捕まえたときも、そういうことはなかったのに。
「あのね。領分っていうものがあるんだよ。女子高生が警察や探偵の真似をしちゃあ、いけないんだ。俺らみたいな悪い連中と決して関わらずに、金を持ってる男をつかまえて幸せに暮らしなさい。そのためには勉強をしなさいって言ってるん、です」
マサオキはひょうひょうと説く。
「人殺しが、あたしに説教かましてんじゃねえよ…」
「戸籍のないやつを殺しても人殺しにはならないよ」、マサオキは冷静に、ゆっくりと。
「アアッ!?」
ゆりは、うち震えて。マサカも気を張って声を上げたはいいが心が折れそうだ。この相手は、世界観が違いすぎる。言っていることの意味は理屈としてさっぱりわからない。だが、明らかに埒外なのだ。それはわかる。
接しては、ならないのだ。自分たちのような者は。
「あいつはアラム・ファラドっていうクウェートの人間でね。まあ組織のプロパーなんだけどね。二重委託を破ってね。ああ、もう。わかるわけねえよな」、マサオキは、女子高生にわからせるためには、とマサカの手首への力を緩めずに、考える。
そして、「すごく簡単に言うと、ルールを破って会社の金を盗んだ裏切者で、悪い奴なんだよ」
雑居ビルの真横。誰か。誰か助けに来てくれないか。非常口の近くにこのビルの中の誰かでも近づかないか。でも叫んだら手首を折られるかもしれない。マサカは頭を回転させて。
「写真を撮ったなら。それを撮ったお嬢ちゃんたちの知り合いを呼んできて、現像した写真と、そのネガを俺っちに渡させなさい、な。そしたら、通りすがりの高校生が偶然撮っちまいましたって親分に言ってね、おさめてあげるよ」
そしてマサオキは、「高校生じゃあねえ。さすがにどうにもできないよ。俺らは」と一部彼女らを安心させるようなことを言う。
しかしだ。この要求は、この男のところへ折笠を呼ばないといけないという事と…「ネガがないってったらどうする」、マサカが苦しそうな呼吸で訊く。「なんでないの」。
「ないったらないんだよ!」
「それじゃあ、親分が納得してくんないんだよ」
マサカは、折笠を売れない。
彼女は右手の痛みを我慢しながら、まだ現存する"洞"のなかに左手を突っ込んだ。もうやるしかない。だから。
マサカは叫ぶ。左手は自身の右手の裾をかすりながら、すぐにマサオキの眼前に到達する。
目つぶし。絶対に、遠慮なく。どちらかの眼球を、刺し貫く。彼女は、そう考えて。
けれど、マサオキは。左手をすぐにポケットに差し込んだ。そして何かつかんでもどす。
その一連の動作はマサカが目つぶしをすると決めたときにすでに開始されていて。
"洞"のなかで、マサカの左手が、なにか棒状のものとぶつかる。とても硬いものと。
「痛ッたい!!」
"洞"は逆利用されて。
マサカのすぐ目前から、サイレンサーが装着された銃身が現れた。
「ぎゃああああああああああああーーーーーーーーーーーっ!!!!」
そして顔に向けられた銃身は、気が変わったかのように上を向いて。マサオキは天高く向けて、銃を撃った。サイレンサーが装着された銃声はその1/3程度がカットされ、クラッカーのような音がはじけ、けれど、通行者の走行音と、ゲームセンターの電子音にまぎれて、誰も気に留めなかった。
マサカは。ひざから崩れ落ちる。
そしてマサオキは彼女の顔をのぞきこんで、抗う意思を完全になくしたのを確認して、手首から手を離した。
「お嬢ちゃん。写真、持ってる?」
彼はふたりに目をやって。
マサカが、少し離れた場所に落ちた自分のかばんを震えながら指さした。「あけて、うち、ポッケの、なか」。
その通りの場所を、探り出され。取り出された写真をマサオキはじっと見る。「こりゃあやられたもんですわ」。写真は、ズームインされたままで。
「ネガは?」
「…」
マサオキは銃を持ったままで。その左手に死の恐怖を感じ、マサカは何も言えない。ネガなどない、とは。
ゆりが歯をガチガチと鳴らしながら、けれど怯えた体を強いて、中年男へと駆け寄って。
彼女は頭と手を地につけ、懇願する。
「お願いです!もう許してください!彼女を助けて下さい!写真は差し上げます!でも、ネガがないんです、その写真は超能力を使って撮られたものだから!ポラロイドと同じなんです!ですので!どうか、どうか、お願いですから―」
彼女はそう、すらすら言えたわけではない。言葉を詰まらせながら、
「そうかい」
マサオキは泣き叫ぶゆりを一瞥したら、困った口調をとって。
「それに納得してくれるかどうかは俺っちにはわかんないなあ。あと、撮った子、連れておいでね」、マサオキは銃をしまいこんで。
そして彼は数歩歩き、さきほどゆりが脱ぎ捨てたブレザーを地面からつかんで。
彼女に返すのだが、そのときに胸ポケットをさぐって。
「また会ってくれるかな」、と。ゆりは、顔をあげて、絶望する。男は、自分の学生証を盗って、写真と一緒に懐にしまった。
マサオキは、そして、去る。
21時までには絶対に帰るとお互い親に約束したというのに、彼女らはもうその時間までに家に着ける自信はなくて、タクシー代なども持っておらず、ただ、寄り添って。
「ユッピ、まだ震えてるからあたしの手、握って」
「うん」
「あんなまじもんに勝てるわけないじゃんねえ。ねえ」
「うん」
「…」
「マサカちゃん、立てる?」
「まだむり」
「うん」
「でもね」
「うん?」
「ユッピ、おしっこもれそう」
「だ、ダメだよ!ちょ、ちょっと、頑張って立ってみようか?ゲーセンのなか、あるよね?」
「たぶんね」
明日、まず誰に相談しようとか、今日はどうやって親に言い訳をしようかとか、彼女らの思うことはそういうことではなく、
どういうタイミングをとって相手の胸で思いっきり泣くか、と。つまり、そういうこと。
いくら超能力者でも15の少女はマジのヤクザには勝てません。そういう、少年漫画へのアンチテーゼ。