それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、   作:AyA Tono N.C.

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#39 わたしの超能力はエクセル(4)

 蛭間と坂田の現在の惨状を目の辺りにし、本日校長により終業式にて紹介された3名の教師のうちの最後のひとり、倉嶋は絶句し唾を飲み込む。

表むきの職務としては副担任。けれど彼らの本質は、体制に対し反抗的な御名術もちの生徒…つまり、東棟の5人と美有を抑え込む、そういう役割をもって、来た。

 

 職務に従事していれば、卒業という概念がない彼らにとっては永続的に与えられた御名術を活用できる。だから彼らはそれを与えられてから、しっかりと修練を積み、いざ御名術もちの生徒と衝突したときに優位性をもって監督、悪く言うとねじふせることができる、

 

 はずだった。なのに、これはどうか。

 

 死んだりはしていないものの、先行して美有を強襲した2名はすでに立ち上がることも困難なほどにぼろぼろに打ち負かされ、おそらく御名術も放棄させられたに違いない。

倉嶋ほか2名は校長からの簡単な指示に従い、教職をしつつ特定の生徒をマークしときには「生徒指導」を好きなように実施し、給与面もそのあたり、校長からの特別な手当ても用意される予定。

 

 なのに、これはどうか。

 

 そして、額に脂汗のにじむ倉嶋の前に、美有は、そして現れて。

その貌は完全に据わってしまって、残忍性を加えた蒼白な表情で、最後のひとりとなる倉嶋を、ゴミを見るかのような表情で、睨む。

その表情に愛想も寛容さも慈悲も、なにもない。ただ、彼女は面倒くさそうに口を開いて。

 

「いま、どういう気分だ」

その声質には性差も感じられず、それ以上に不敵で淡々と。年長者への気づかいや敬語など組み込まない。彼女は。

「なんてことをしているのか、わかっているのか」、倉嶋は自ら強いて声を荒げた。「生徒がいみじくも私たちのような教師に手を挙げ、揚げ句あそこまで叩きのめすなど、これを外部に知られたらどうなる、わかっているのか!君自身も、君の家族も社会的な責任は免れないぞ!退学どころで済むものか!君は、犯罪者だ!」

「関係ない、馬鹿が」

倉嶋は、その言葉にぞくりと震えたつ。

「う…な…」

「先にわたしの友達に手を出したのはお前たちだ。校長の小間使いのくせに、なんてことをしているのかわかっているのかだって?お前はわかっているのか?お前がこれからどうなるか?そんなみすぼらしい薄汚い黄色い帯でなにができるというんだよ?下衆め。わたしはな、お前たちとは違う生き物なんだぞ?」

美有はまるで、なにか別の人間が。例えば彼女の先祖の有名な何某かがまるで乗り移ったかのように、熾烈な吹雪のような言葉をしっかりと滾々と語る。

(けれど彼女の先祖とて、ここまで苛虐な言葉を扱うことは、なかったのだが―)

 

「きょ、教師を、なめるなよ…」

「そしてお前。外部に知られたら、とか言ったな。知られないよ。わたしの御名術は、わたしを完璧に守るために存在する。もしも、わたしがここでお前を殺してしまっても、わたしの御名術はそれを隠蔽するための方法を絶対に導き出すよ。わたしはそして大手を振っていつも通り夏休みを楽しんで、夏休みが明けたら軽い足取りで通学するよ。先にお前たちの敗因を言うとすれば、それはわたしに対しての調査が決定的に不足しているよ。前提として、お前の御名術はなくなる」

 

 そして数秒、お互いの輪郭にちりちりとした違和感が顕れた頃、そのとき倉嶋と美有の間の間隔は6メートルあったのだけれど、それはたちまち1メートル半という距離に縮まった。前触れもなく。

 

「なにっ?」

美有は驚く。

「調整ー!」

倉嶋は、知っている。

 

 この場よりだいぶ離れた場所にいる照前校長は、右手首に懐中時計をかけて。

そこに彼の所持する御名術の一部が行使されて。それは、学校内における、距離と空間の小規模の操作だった。

倉嶋の右手の中指と左手の薬指に帯が一極集中し、美有のこめかみに触れ、発光する。

だが美有は、事前にエクセルを見ていた。その場で、わざと、ずでんと転んだ。後方へと。

 

 こめかみに当てられていた両手の通電は1秒にも満たず、けれど美有は何かしら、頭に違和感をおぼえる。

きっと、ほんのわずか、記憶が操作されたかもしれない。

美有は両足をぐんと伸ばして倉嶋の脛を蹴り、そして怯んだ折に飛びずさるように逃げ、自身のエクセルを表示させた。

 

「だいたい、わかっているんだ!!」

倉嶋は大声をあげた。

そして。

内ポケットにつめていた、石灰の粉をつかみ、美有の上半身へと投げた。

「!?」

ぶわあ、と白い粉塵が目前に広がり、視界を奪われた美有は、そこにエクセルを観ることができない。

「しまっ―」

選択肢を選べない。

だん、だん、と踏み込む音が聞こえて。

そして彼女の視界、ほんの少し漏れ出す黄色い光を見えるや、彼女はエクセルの指示とは無関係にその場にわざと転んだ。

 

 

「はあ、はあはあ…うん」

と。頷きながらそのA4用紙の束に目を通している、従士郎。

そこは1階の補助教室という異名を付けられた、通常の教室よりも一回り小さな、明確な用途が定められていない一室で。

従士郎と、そこに臨むのは生徒会役員、と自称する3人。1人は矢敷、生徒会長候補。そして、G組の山屋朗と、E組の里江雄一郎。

東棟ではその存在を知られず、西棟でも影響力が低減しすぎた仮生徒会組織である。有名になりすぎたのは副生徒会長候補の浦済が暴行未遂し停学となったことと、矢敷が空気も読まずゆりに告白して刹那、断られたという汚点。

ここまで、正常な高校生として噂話の種にしかならない頓痴気な略歴を携えた連中が、生徒会の名の下に生徒の代表者を気取るなどなんの冗談だ、そういった空気感がすでに流布している。

成立以前にすでに舐められている生徒会組織。

なにより、活動要綱が納得のいくものでないと生徒会を名乗るのもおこがましいとその佇まいに意義を唱えた男は、B組では大変熱血漢で間違ったことを許さない、遊び心のない男であった。

 

 要するに、従士郎がOKと言わないと、生徒会の活動要綱は決定できない。

 

 別の棟、階では美有が派手な立ち回りを演じている最中であったが運よくあるいは悪く、その物音や騒ぎは最後まで彼らの耳には入らなかった。

そして従士郎は。「まだ自分本位な印象を受けるね。自己犠牲の精神とは言わないが、自分たちが美味しい思いをしようという考え方を一回ゼロにしてくれないかい。こんなものは言い出した者勝ちみたいなところはあるからね」。

矢敷は顔をゆがめて、けれど反論できない。

続けて従士郎は、「さらに言うと、君達もこの学校、一部の教師と校長先生の思惑、考え方に問題がある事は早く自覚すべきだと思う。せめてね。そういう人達に媚びを売って安定した学校生活を送ろうとする考え方も、今ここでは間違っているよ」、ずばずばと自分の意見を言って。マサカにそのようにしろと言われているから。「もう一度最初からやり直してください。出来あがったら僕の家に電話よこしてください。時間にゆとりがあったら場を設けましょう」。

そう、冷たく却下を言い渡し、去った。

 

「ちっくしょー!何なんだよあいつはぁ!なにが東棟の選出顧問だ!調子こいてんじゃあねーぞっ!」

山屋が、教室の壁を殴る。一度だけでなく、もう一打、もう一打と。

「オイ、やめろ、誰かに見られたらますます立場が悪くなんだろ。我慢しろ。あいつさえ納得させりゃ生徒会が立ちゆくようになるかもしれないんだからな、コレがちょっと甘かったのは俺らも自覚してんだろ」

なだめるのは矢敷。御名術もちという点を省いても、東棟の一味に強く出られない心象の彼は頭を強く掻いてため息をつく。

けれど相手はいきり立ったままで。

「ふざけんな、活動内容にOK出ても、見張り役みたいな感じで誰か東棟のやつがついてくんだろ。貴臣、おめえじゃん、言ったの!生徒会誰より早く作れば教師も甘くなるし進学とか都合よくなるし女にももてるって言ったのおめえだろ!なのになんだ、生徒会がスタートする前に鳥かごの中じゃねえか、しかも俺らの一人はバカやって停学中と来たもんだ!どうやって生徒会が簡単に立ちゆくのか、言ってみろよ!」

今度は山屋は机を拳で叩いて。

 

「なぁこないだしゃべった話あんだろうがよ。こうなったらこっちに強引にでも御名術もってるやつつけて、あいつらの好きなようにさせねえようにしようぜ!」

「だから、それって誰な―」

「陸上部、C組の初芝って女、あれ御名術もちなんだろ。でなあ、優美から聞いたんだ俺。あいつ、中学同じだったからな!あの初芝って女、どうやら、金で動く!」

矢敷の言葉を言いきらせずに、昂った山屋が自分の持つ情報を出す。

「俺に任せろよ!俺は、お前が思い描いたような生徒会じゃなきゃ、嫌なんだよ!」

すなわち、彼らが美味い汁を吸える場所。

矢敷はそして、軽く頷いて、「やってみてもいいけど、細かく教えてくれ。やばいことになったら、話にならない…」

山屋は。「俺に任せろよ!」、オーバーリアクションで胸を叩いて、その意識を見せた。

 

「な、ちょっといいかあ?朗と貴臣。朗がそういう話にもってくんだったら、俺もちょっと似たような話の小ネタ、持ってるんだよね…」

彼は、里江は眼鏡をはずして。彼の癖で、それは、言葉少ない彼が長話をするときのサインのようなものだった。

「言ってみろよ!」、「なんだよ」。

「朗がさ、その陸上部をこっちの味方につけたところで、A組とB組の連合って5人もいるんだよ。しかも、黄瀬のお嬢様もついてんだろ。ええと、前置きはいいか。俺も、意見は朗と同じ。

御名術をもってるやつが、生徒会にできれば、3人はいればいいな、それは俺の計算で、それが都合よくなるんじゃないかって考えた」

それに屋敷は、「そうなればいいけど、なるほど、それはいいかもしれないけど、東棟の5人って超攻撃的っていう話だろ?ブラジル代表かってえの。あとは、無害な御名術のやつら…こいつら生徒会に入れたって、あの連中と張り合えはしねえだろ。

『5人』にやられてるか、写真撮ったりして自由なんだから…それと、西棟の御名術もちは人形谷しかもういないし…、きっとあの女は生徒会になんか興味さえないだろうし…簡単に言うけどな、3人も確保できないだろ…」、悲観的に言う。

だが。

「いや、実は少なくとも、どこにも属してない御名術もちが、陸上部のそいつの他に、あと最低2人いるんだ」

「え!?」

「あ!?なんだって!?」

 

 しんと静まり返ったのち、里江は彼の秘密を打ち明けて。

「御名術もちのやつらは、校長が言った通り『帯』っていうオーラってえかガソリンがある…黄色く光る、っていうな。で、俺の知り合いに『レイジ』って男がいんのさ。そいつ、なんか知らねえけど『帯』を隠すことができるんだってよ。それがレイジの御名術なのか、それとは別に特技なのか、俺にはわからん。けど、入学式の時、校長の話を聞いた後、どうやらレイジは知り合いの御名術もちのやつを、隠した。自分のもかな。

噂では…西棟に、人形谷に狙われるのが嫌で、御名術を隠してもらって、まだ持ちながら、安全に授業受けてるやつも、いるかもって」

そして山屋の吃音のような声があがり、少しして止んだのち、矢敷は彼のほうに身を乗り出して「本当だな」と確認をする。「本当だ」。

「だから、今から生徒会に3人御名術もちを加えることは、全然無理じゃない。レイジと俺はそこまで仲が良かったわけじゃないけど、相談に乗ってくれそうな性格だとは、思う。まず、聞き出そうと思うんだ。

3人いるのは確実だから、それとは他にいないか、とかな…」

「雄一郎!」

山屋は感極まって、後ろから里江を羽交い絞めにする。「や、やめ!」。

矢敷はけれど冷静に。そして、まとめる。

「つまり、こうか?朗のコネで、陸上部をこっちに引き入れる。金が必要…?そして、雄一郎は、その、『レイジ』ってやつに交渉を、してくれるんだよな?」

「ああ、する」

「東棟の5人…ゆりのやつさえ見ることができないように、帯を隠してるんだよな?」

「そうだと思う。気づいてもいなかったからね」

「ん?」

「あちらこちらケンカ吹っ掛ける人形谷でさえ気づいてないから、レイジの帯の隠蔽能力は、完璧だ」

そして屋敷と山屋が彼の言葉を中途半端にしか把握しきれずにいたところ、里江は眼鏡を再びかけて。

 

「実は、帯を隠してもらったやつのうちの一人が、俺だ」

そこに、妙な時間のチャイムが鳴り響く。

 

 

 

 エクセルが、見えない―!

 

 美有はふと、自分の御名術の決定的な瑕疵を自覚する。それに従えさえすれば、完璧であるのに。その前段階。

次にすべき行動を目で読み取ることができなければ、有効な選択肢の指定も、状況改善効果も、危険度も見ることはできない!

彼女の未来予知演算装置に、読み上げ機能はついていない。

たったそれだけの、くだらない弱点。

 

 だから美有は逆にその粉塵をさらに広げ、蹴って、巻き上げて自分の場所を隠す目くらましにするほか、なかった。

倉嶋は美有に近づくが、彼からも不鮮明な目前の奥から、不意に美有の左足の靴が飛んできた。

それは運よく首に当たり、少しのたじろぎを誘う。美有は来た方向へと駆けだした。

高低差がある場所の戦いは、彼女が得意とするところ。エクセルの指示は「下に向かって何かを落とす」、「登って身を隠す」など、敵を妨害しやすい指示がおりてくる。平地ではそうはいかない。

自分は上段。敵は下段。それをキープすることが彼女の得意な戦闘方法だ。

 

 きっと、あのポケットの中にはまだ石灰の粉末が塊で投げられる程度には残っているだろう。

目つぶしは、まずい。さっきから、美有は片目を閉じている。目に入った粉塵がうまく涙で流れない。

 

 

   ◇優先目的       ◇状況改善効果  ◇危険度

1 階   ざと  外   ★ ★    7 % 

   に         ★★      51%

  大 で助け   る  ★ ★      2%

4 ひ     を く    ★       %

5    りと階段を             %

 

 

「あ…ああっ!もうっ!!」

彼女は選べない。視点にピントがあわず、文字がかすれて見えない。

 

 そして、彼女はそのどの選択肢も選ぶことなく、再び階段を駆け上がり、また3階へと戻ってしまう。

ようやく、目の前がまともになったけれど。

 

 彼女には皮肉なもので、もしも彼女が3番を選んでいたら、少しの打ち身をしただけで、少し離れた場所にいた従士郎に声が届き、事態への助けとなったものを。

3 大声で助けを求める  ★★★★★   42%おすすめ!

 

 

(最終セクションの(5)に続く)




生徒会という組織に属する人種の観念がさっぱりわからない。ヤンキーはわかるんだが。よくわからん組織はモブにした方が無難ではあるのだが、「なんかリア充くせえ連中が狭い部屋でコソコソやってんなー」くらいの印象はあるので、ひとまず中ボス以下の悪役にすることとした。
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