それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、 作:AyA Tono N.C.
「明開晴訓高校」
新設の高等学校。わたしは、こういった「新たに学校ができる」という理屈はよくわからない。
目的が何かあってできたのだろうが、それを追求するつもりもない。わたし達は、ただそこがどういう学校になるのか?どういう制服なのか?
どういう校風なのか?きびしくないのか?ゆるいのか?頭がいいのか?悪いのか?そういうところばかり気になって、背後にある理念とかを追求しない。
今年度の入学者数は243人だそうだ。
クラスはAからHまでで8つ。
校舎は、どうも東棟(A組~D組)と西棟(E組~H組)に分かれている…。東棟から西棟に行くのは、少々面倒だった。最短距離のDのクラスからEまで行くのに「少々面倒」だったと思う。
S字のクランクのような廊下を、トイレを通り抜けて、右に大きく迂回して、やっと西棟に。お昼休みならいいが、通常の時間割どうしの間の休み時間にわたしが西棟の友達に(いたとして)会ってくるとしたら、少し会話をしただけで休み時間をなくしてしまいそうだった、と思う。校舎の形が、上から見るとこれまたS字なのだ。
この土地は、学校のある街のいわゆる名家、すなわちお金持ち、
そして、このお金持ちの子息はふたりともに女子で、15歳で、わたしと同じくここに通っている。黄瀬家の長女はD組、天里家の長女はC組の生徒だった。
入学式のなかで、来賓として黄瀬の筆頭者が祝辞をよこしたとき、自分の娘も含め、皆さまが楽しい高校生活を送れますように、と言った。
時間はわずかにさかのぼる。廊下に列をつくり、体育館に進行していったとき。わたしはA組よりも前に誘導されていた東棟のいずれかのクラスの集団の背を見て、
やはり視力の問題ではないのではないか、と思い始める。
視界の一部だけが、例えば左側が黄色くなる、とかならわたしはまだわかるのだ。
だけれど、黄色い光が特定の誰かだけから発せられているように見えるのだから、これはわたしの目の異常は、ずいぶん非科学的な異常にとらえられる。
別のクラスの列をまじまじと見る。そして、男子ふたりが、やはりきらめいている。片方は列では頭一つ飛び抜けた長身で、もうひとりは頭を剃っていた。
「これは」、わたしは頭がぐるんぐるんになりながら足りない頭で推理をする。「存在感―?」。仮説だった。わたしは今、人の存在感の強さというものを感じ取っているのでは、と。
雰囲気だけでなく、遠目でも感じるような?
同じクラスの3人の自己紹介あるいはその前段階での(ひとりについては、私の暴走なんだけど!)一挙一動を見て、特に目立った3人がそう見えるのならば。
これは確かにそうではないか。では、わたしは何かの拍子で頭がおかしくなってしまい、存在感というものを観測できるように―「違う」。
では、わたし自身がぼんやりとその色がついている理由に、ならない。
わたしの存在感などきっと常人と同じかそれ以下だ。人よりずれていてたまに暴走して近くに迷惑をかけるとははあっても…。
「ずれている?」わたしはまた思う。閃いている。こういうことで頭を使っているならば、入学式に集中すべきものなのに。
「ずれている、指標―?人より」
「新入生入場とかやんないからさ。椅子に座ったまんまで、いいよ」体育館で右端に陣取り並ぶと、先生は整列されていた椅子に着席を促し、なにか最前列の生徒と無駄話をはじめて。
わたしは、真左を見る。他のクラスの生徒たちが、よく見える。まだ入学式がはじまらないうちに、他のクラスの様子を。
となりのクラスは、男子2名だけがレモン色に光って見える。先ほど見た、2人だ。列の先頭から2番目の髪を剃った、スキンヘッドの男子。横顔はとても賢そうだった。
そして私の軸よりも後ろに下がると、もうひとりの男子。彼は両目をつむって腕組みをしている。
これがB組。では、そのとなりは?
C組に目をこらす。
距離が遠くなり、人の壁でしっかりと見えはしないが、4人ほどがきらめいているとは感じた。
そのさらに次の列。
D組ともなると、もうわからない。いや、光って見える生徒はいて。けれど、性別も顔ももうわからない。
ここでわたしの無駄な行動力が歩き出す。わたしは立ち上がり、隣の笹尾くんに「おちつかないね」と言われ「何度もごめんなさい」と返し、
クラスの先頭まで行き先生に「トイレ行っても?」と。彼は「あと15分ないから、急いでね」。
わたしは体育館全体を眺めようとした。すべての列に回り込んで、観察するのはただのおかしい子なのでちゃんとトイレには行くが。
わたし達の後ろには保護者もいたし、そうは目立ったことはできないとは考えて。
体育館前の廊下にトイレがあって、わたしはそこに入ると手を洗うだけで、戻る。トイレに行ったという事実は残す。
そして、手洗い場で、別の生徒と鉢合わせる。女子だ。
彼女はわたしを一瞥。そしてすぐに目を落とす。
わたしは、彼女を見て、薄い身体だな、と思う。
痩せていて貧相だとかそういう悪いことは浮かばなかったが、他の女子からはうらやましがられるような痩身だと思った。
ショートヘアで、もうひとつ、おや、と思ったのは、瞳が青い。顔立ちは少し日本人離れしていたから、ハーフなのだろうか、と思う。そして彼女は美しくて、
鮮烈に、あたたかく、強く、ピンク色に、輝いて見える。
そしてわたしは体育館に戻ると、目立たないよう意識しながら、一番左の列、H組までを背伸びして、観察をする。
やはり、わたしの推理は間違っていないのかもしれない。各クラスの2名ないし4、5人はレモン色、もっと濃い黄色に光っているから、わたしはそれを「ずれている尺度」とみた。それが、なぜかわたしは見えてしまうのだと。今日だけかもしれない。完全な勘違いかもしれなくて。
「もう、戻った方がいい」
横から声がした。
「あ!、ご、ごめんなさい」
それはついさっきトイレで出会った、青い目の女子。
彼女は足早に、一番左へ、正面へ駆けていく。つまりクラスはGかH。
あれ。なぜ彼女は、黄色系統でなかったのだろう。
起立して、君が代を歌って、着席する。
校長先生が祝辞を読み上げる。校長先生の名前は、照前清人。
来賓、黄瀬家の祝辞。市議会のなんとかとかいう人のちょっと長い挨拶。教育委員会の人の言葉(これは、保護者向けすぎて、特にかったるかった)。
祝電の読み上げ。徐々に、わたしたちは退屈していく。ことさら、わたしにとっては自分の目の方が気がかりだったのだから。
新入生代表の挨拶。新入生代表は、黄瀬家の長女。
校歌斉唱。これが一番、だれた。歌える人などほとんどおらず。
はやく終わって欲しいな、とわたしが思うと、なぜか、「では、最後に、照前校長先生からもうひとことだけお願いします」と2度目の言葉があるのだという。
少しだけ、わたし達がざわついた。みんな、きっと同じ気持ちで飽きていたのだと思う。
「すみません。大切なことだったので、ひとつだけ。でも、最初の祝辞のときにいう事はできませんでした」
「はっ?」、わたしは息をのむ。
「光ってるよ」。わたしの口をつく。
その校長先生は薄明りにともしたろうそくのように暗い中に黄色く光って、保護者も来賓もいるのに、わたしたちに向けてオカルトでファンタジックな台詞を
実に流暢に、スムーズに、吐いた。
「ひょっとしたら皆さんの中には、黄色い粒子が見える方がいらっしゃるかもしれませんし」、嘘でしょう?わたしの心臓が高鳴る。
「もう、自分の身体で変わったことが起こってしまったことが実感できている方もいるでしょう」
ざわつく。
「黄色い粒子は『帯』と言って―」
帯?
「かつて、約250年前、著名な学者、メルヴィル・ロザ・レ・ミラー博士という女性がいずこかで研究をし、理論を持ち出したものでありますが」
だれ?
「個々人の脳に由来する、一種の、超能力を発揮するためのリソースであります」
は?
「彼女はこれを『
言葉が脳裏に刻み付けられる。一字一句、忘れさせないようにと、外的な力がはたらくように、私のなかへと。興味をそらせない。
なぜ。
「新入生の皆様のなか、20人前後の方が帯を行使できるように私には確認できます。そして、これは制約があり、皆様がこの学校の生徒である間だけ。この学校の生徒である限り、その方々は御名術を使用できるのです。卒業式までは。そして―」
校長先生は熱っぽく語る。そして、教師陣も、来賓も、何も言わない。顔色一つ変えない。なぜ。
「その皆様のなかでもひとりだけ、3年後の卒業式のあとも、その御名術を社会に持ち出せるよう、そう設計しました。
この中で御名術をもった皆様のなかで最も優れたひとりだけですが。こんなもの必要ない、という方はあとで校長室にいらしてください。そういう方の意見は尊重します。平穏無事な高校生活の邪魔になるかもしれないですからね。私は、皆様の大切な高校生活を保障するものであります」
閉式。
わたしは思う。いみじくも新設の学校の校長がこんな、気がふれたかとさえ思わせる文言をはきだすのか。
どうして、これに異を唱えたり、発言の不適切さに紛糾したり、問題視する保護者がいなかったのだ。
なにか深刻な統制とさえいうものが、心理のなかで行われた気さえする。だってそうだろう。校長先生のいう事を少しでも信じるならば、わたしの目の限り校長先生も超能力者なのだから。
【視点を変える】
まったく、なんという、これは、下品なんだろうか。
明らかに視界に入るものがおかしくなったと思えば、どうやらそれはわたしの目の不具合なんかではなくて、クラスの見も知らぬ誰かしらが、いきなり蛍光ペンで塗りつぶされたように黄色く光り出してしまって。
「帯」というものは赤か、ピンク色でなければいけないのだ。
あれは、体外に浮遊していたとしても、血液のような組織の延長にある。
なのに無作為に、基準に満たない量のそれを、強引に(どうやってかわからないが)しかるべき量の帯に水増ししてしまうから、こう、わけのわからないことになる。
校長の言うとおり、先ほどトイレに行って後ろから全体を見渡したとき、確かにそれくらいの人数が黄色い帯を脳からひり出すに至っている。
トイレですれ違った女の子もそうだ。
これは、抗議の必要がある。ただちに。これは、わたしのようなそれなりに選ばれた人間への当て馬に使うかのようにどこからか適当な人間を騙してかき集めているようにしか、感じない。
人工のダイヤモンドはいずれ数十年後には天然のものと区別がつかなくなるという。そうなってしまったとき、帯が見える者の数は限られているのだから、わたしの正当なピンク色であるか、汚らしい黄色であるかはどうでもよくなる。見えないのだから。
ほんの15年しか生きていないが、今までで最悪の事態だ。
わたしはまず、これの趣旨と動機を確かめないとならない。
この小説は異能力バトル学園小説です(しつこい)