それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、 作:AyA Tono N.C.
日付は動かずそのまま昼休みの体育館裏。 体育館裏にはたまに一人二人が通りすぎたり、野球部が群れて横断したりするけども白いベンチ付近は「御名術もち生徒のなわばり」という暗黙の了解でもあるのか。誰も近づこうとしない。
逆に言うと、遠巻きにわたしたちの誰それが集まって何分くらい会議していた、など観察されることは、あるのかもしれない。きっとそれが見られる窓付近があるはずなのだ。
集まろうと提案したのはわたし。この話を当事者以外、他の誰よりも早く興味をしめし、収集したB組の2人。D組からは黄瀬さん。彼女は珍しく、誰も傍に置いていない。偶然今日はひとりになりました、とは彼女の弁で。
で、その天里さんというのはどういう性質の生徒なのか?という質問が伊崎君からあがって、この学校でその質問に対しすぐに返答ができるのはわたしの交友層の限りは、中学が同じだったという黄瀬さんと花形君以外にはいない。
そして黄瀬さんは「変わった子なんです」と真っ先に念押しし、「身心がそんなに強くない子なんです」と言い、その次に言おうとした言葉を彼女は飲み込んでしまった。
なにか、その女生徒を評価する言葉というか形容詞を表現することに対して、黄瀬さんはとても前向きではないと感じざるを得ない。
そこまで歯切れの悪い黄瀬さんを見るのもとても珍しい、というか。
「男性恐怖症なんですか?」、とわたしは訊く。黄瀬さんは。「そういうわけではないと思うのですが、そうなのだと思います」、そう。
そのつもりはないのかもしれないが、ふざけているか、明言を拒んでいるような返答にしか思えなかった。わたしがそう感じたのだから、伊崎君が作り笑いに固定したまま突っ込むのも無理はなくて。
「黄瀬さん、さっきからさぁ~、その女の深いとこの情報をおれらにまったくよこさないよね。なにか都合が悪いこととでもあんのかい」
彼はない髪をかき上げる仕草をし、眼鏡を両手で治すと、側面からにじり寄って黄瀬さんに近づいた。花形君がいたならすぐさま間に入って止めに入るような圧力で。
そして。「その態度はねえ。天里っていう女をかばわなきゃいけない理由があるのか、それとも表むきに、そいつと黄瀬さんが仲が良くないか疎遠だってのを隠そうとしてんのかなぁって、おれなんかは思うよね」、かなり核心にせまろうとする言葉が入った。
彼が超頭脳派という事はもう東棟では周知のことだから、隠し通せないと黄瀬さんはふんだか、ため息をついて。
「黄瀬家と天里家の親交はとても深いです。が、わたくしと天里さんは大した関係はなくって。むしろ、薄いです。そうですね…これは自己弁護じゃあありませんよ。天里さんは、わたくしには興味を持ってくれていません」
その場を少し驚かせる発言だったとわたしは思う。この学校の設立にかかわった2大お金持ちの娘どうし、かつ同級生、でかかわりが薄いなんて、意外であるし誰がそう思うだろうか。
わたしの感覚だと、庶民でも家族がふたつ集まってなんかしてて、その子供たちが同じ学校で同級生で同性ならちょっとくらいなんかありそうなもんだけれど。
と、わたしはごく普通の感覚でそのとき考えたが、この集まりが終わったあと、気づいたのだ。
黄瀬さんは華やかで人気者で、あとそうだな、ちっちゃくてかわいいし、胸が大きい。ゴルフやってたり乗馬やってたり。少し、同級生でも憧れの的では、ある。傍に大体いられる花形君が男であるのに多少うらやましい。
対して天里さんは、朝のことを思い返すならば。身長は同じくらいにしても、その雰囲気は雰囲気、陰と陽みたいなもんで、少し近寄りがたい暗い子であるし、だいぶ影があると感じたのだ。
ひっくり返ったかばんの中から人間の頭蓋骨のアクセサリーが転がってくるのだ。まともな感覚なら、びびる。もしマサカちゃんがわたしとかをびっくりさせようと、かばんに手を入れて頭蓋骨を取り出したら、まったく笑えないというかわたしは少し怒って注意する…。
「エエーッ!なにこれ!見てユッピ!あ、あたしのかばんにこんな素朴な頭蓋骨が!あんただれ?いつ死んだの?肋骨はどこにあんの!?」
…いや。それはそれで面白かった。今のは訂正しよう。
そして竹内君が訊く。
「僕らが聞きたいのは、その天里さんっていう子の気質の問題です。御名術を持ち出したいって考えている子なのか。それに障害があったとき、どういうことをしてしまう可能性があるのか、僕たちに敵対してしまうのか?そもそも、僕たちのことをどう思っているのか?それが一番わかりそうなのは、黄瀬さんなんです」
呼応するように、「何しろ、人形谷がものすごく警戒している対象らしいしなぁ~…」、伊崎君は。「おれはね、誰が一番やばいかっていうと、穂村なんだよ。あいつは一撃必殺すぎる。なのに、人形谷は眼中になし…それ、どうなんだい、柴崎?」。
わたしは答える。「わたしだって決して人形谷さんと親しいわけじゃないけど、あの子はきっと、みんなのことを怖がってはいない。でも、人形谷さんが天里さんの帯を見たとき、『ますます怖くなった』なんて、あれはきっと本心で言ったんだと思うな」
「その、彫刻の形をした帯を見てか…」
「そう。あれは、教会にあるようなマリア様の像。でも、肌は真っ黒」
黄瀬さんは何も言わず、指を頬に這わせている。何かしゃべらなくては、という気負いを感じてしまう、わたしは。
「要するにその彫刻が天里凛々守のスタンドみたいな帯なんだなぁ」
伊崎君がそう言う。スタンドってなに?
「スタンド知らない?ジョジョ読んでない?わかんない?わかるだろ、竹内君?」、「伊崎君、僕も4部の初めまでしかわからないんだけど」、「そこまで読んでたら説明できるだろぉ?」、B組の二人はわいわいと話し出す。少年漫画の話のみたいだけど…。
「まあ簡単に言うと守護霊みたいな超能力ってことよ。俺たちはそれが帯状だっていうことだけだろぉ~?」
すぐに、そう言って彼は簡潔にまとめた。なるほど、守護霊。例でいうなら、C組の富島君は帯が巨大な手の形をしている。天里さんの帯の形がマリア様の形をしているのも、そういうものなのかもしれない―が、肌が黒いのはよくわからない。
意を決したかのように、黄瀬さんは少し高いトーンで急に声を出して。
「天里さんはみなさんのような、御名術ダービーに参加するような性格ではありません。彼女は、世の中のほとんどのことに興味がありません。揉め事にもならないでしょう。でも、決して彼女を傷つけるようなことをして欲しくないのです」
何か、それに気づいたのはわたしだけではない。竹内君もだ。その声明に何かしらの悲壮感めいたものを感じたのは。どうして?
「でも、人形谷が警戒してんだから、あの女が勝手に何かやりだしたら止める義理はないでしょうが」
「伊崎さん、そう思うなら、わたくしは人形谷美有さんと話し合いを持ちます。どうか争うとかしないで欲しいって」
「でも、天里凛々守が自分の御名術を持ち出したいと考えているとしたら?」
「っ…く」
「おれは別にどれでもいいんだがね。だがなぁ、平和的解決ですべてをおさめたいって考えてるなら、まず人形谷の闘争心をどうにかしないとならんし、今まで聞いてた感じ黄瀬さんがあまりに情報をくれないもんだから。非難はしてませんや。でも、なんでそんなにあなたは親しくもない昔のクラスメイトのことに対して言葉を選びすぎてんの?」
黄瀬さんの顔色は決して良くない。恐らく彼女は何か言えないことがあるのだが、それを別の側面というか方法で言葉にせず伝えられないものかと模索しているかのようにわたしには思った。
それについて、どうしてだろう?と疑問に思っているのは事実なんだけれど、同時に、これほどまでに何かを隠さないといけないなら、これ以上詮索するのは逆効果ではないかと。「伊崎君、ストップ。きっと、今答えてもらうには段階が足りないんじゃないかな」、わたしは。
「段階?段階ってなんだ?」
「深い事情」
彼はそして、わたしでも気に障るような、呆れた外国人のようなオーバーリアクションをとって黄瀬さんから離れる。
わたしは少しほっとした。あまりにも、その光景は黄瀬さんを攻めすぎているように見えていたから。
「黄瀬、ユッピ、そこにいるー?」、ふらっとマサカちゃんが現れた。「ユッピがお嬢様その2と遭遇したって聞いて…オイ」。
こちらへ到達する前に彼女は足をとめた。視線の先は竹内君。あっ。
「あっ」
「…」
「ユッピ、こいつらいるなんて聞いてな…い」
そのマサカちゃんの表情はわたしには読み取れなかった。いや、そんなことはない。読み取れた。これは。
「マサカさん」、竹内君が。あっ。「おとといの君が変なことするから!ちょ、僕の、まず、話を…話を!!」。
"洞"を経由して竹内君の顎にマサカちゃんの拳が距離を無視してヒット。のけぞらせた。
「近寄ってくんな、バーカ!!」
「待ってくれ!!もとはと言えば君だぞ!なんかべたべたしてくるなと思ったら、君がいきなりスカートをまくり上げるから!」
「なァァァァァァァーーーーーーーー!!口きくな!ぶっ殺すぞ!!」
横で伊崎君はしゃがみこんで笑いをこらえだす。このやりとり。
「いいか、僕をからかうなら身内のなかだけで好きにすればいいのに、あんな他の人が見てるところで、何が楽しかったんだ!!」
「じゃかぁしいや!今すぐ口閉じろ!その話をこれ以上したら今ここでお前を葬る!」
これは、悪いが、ものすごく見ものである。こんなにうろたえて顔を真っ赤にするマサカちゃんはそうは見れない。仮に偶然や誤解が相次いでこのような事態に発展したとしても(とは言ってもそれはマサカちゃんの証言だけだからわたしは全体感を支持したい。今思った。このふたりは、できていたほうが面白い)。
伊崎君が地に身体を預け笑い転げている。このあたり、彼とわたしは一致だ。
「ふざけないでくれ!自分のしたことに責任ももたないで、うわさが広がったら自分の身だけは守るって言うのか!」
「…るっさいっ!!あたしだって、あたしだって!」
「からかうならサシでいるときだけにしてほしい!本当に迷惑だ!」
ふたりの熱烈な言い争いに差し込み入るように、黄瀬さんが「へぇー。サシだったら何をしてもよかったんですか」。今までの抑制から解き放たれたように。
ぼっと。強火が点火されたようにマサカちゃんがさらに上気する。竹内君もまた、赤くなり始めて。いかん。面白い。
「加納さん。誤解なら誤解だって冷静に答えればすぐに収まったかもしれないのに、どうしてそこでいきり立つんですか。竹内さんも静かにしていればいいじゃないですか。なのにふたりで騒ぎ立てるからうわさが鎮火しないんですよ。わたくしには、お互いに意識しあっているようにしか見えませんもの」
まったくだ。
「…別にわたくしは構いませんことですよ。おふたりが交際していたって」、伊崎君の追求を逃れた黄瀬さんはそしてわたしのイメージするお茶会の最中のような優雅さでずばりと言う。
「ぎぁーーー!!でならぃーーーーー!!ぎぃらぉーーー!!バーーーカ!!」
そしてマサカちゃんは日本語を喪う。
「お、黄瀬、さん。す、少し、黙って。え。あの、この話、D組にも飛んで、ますか?」
「なんですの、そんな、どもったりして。わたくしは執事長からその日の晩には聞いて」
伊崎君は転げまわっている。漫画表現のようだ。かくいうわたしも口に手をやってまじまじと眺めている。
「駅を降りたら腕ぐみして、加納さんは竹内さんのほっぺつんつんとかして、ラーメン屋のなかではお互いに食べさせ合って揚げ句の果てに竹内さんに言われるがままにスカートをまくりあげたそうですね」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
空間を切り裂くかのように嬌声と悲鳴が混じった彼女の声が響き渡る。へー。そうなんだ。
「黄瀬さん!!違います!その言い方だと僕がやらせたみたいじゃないですか!違うんです!その子が勝手にぜんぶ!」
「何が違うんですか」
「盛られすぎ、盛られすぎなんです!僕は被害者で!」
「加納さんがあなたのいう事をすべて聞くというなら、全部辻褄が合うのです」
「合いません!そんなの合いません、全然!」
背後に気配を感じると思ったらそれは伊崎君で。いつ起き上がったのか。
笑いをこらえたまま、わたしに「 」と言え、と命令をだす。え?ちょっと待って。それは言えないよ。こんな空気だよ。いやしかし。言ったらどうなるだろう。きっと面白いか。面白いな。わたしが言うの?いや。わたしが言うから面白いのか。マサカちゃんには悪いけど。
そしてわたしは。「ふっ、ふたりともいっそつきあっちゃえよ」と。言う。ちゃんと言えました。いかがですか。
どうするのかと思えば、マサカちゃんは竹内君の顔にストレートパンチ。そして悲鳴をあげて逃げてゆく。なんていうことだ。どうして、こんなことになってしまったのだろうか?
倒れようとする竹内君の巨体は伊崎君が受けとめて、黄瀬さんが、「そんなんじゃ全校にうわさが広がりますよ!」と追い打ちをかける。
この会議はマサカちゃんに最初から最後まで聞いてほしかったのだけど。これは機を改めてふたりを遠ざけてやる必要があるとわたしは感じた。きっと、話にならない。
夜あたりに電話して謝らなきゃいけなくなった。ノリに流されすぎたというのは反省点である。環境のせいでわたしの性格が悪乗りするタイプにずれだした自覚は少しあるので、今回でこのようなのは終わりにしよう。
そういう楽しい高校生活1年生、である。
「はじめまして。レイジです」
彼は里江、山屋、矢敷の順に挨拶をしお辞儀をした。
屋敷は彼に握手を試みたが、右手がまったく出てこないのですぐにやめ、下ろした。
「終業式のときの話ですけど、みなさんに協力しようかと思ったんですが、機会を改めた方がいいかもしれません」
「なぁんでだよ!」、ずっと焦らされていた山屋が声を荒げて。それを里江が抑えた。
彼はだいぶ無表情だった。顔の筋肉に動きがない。感情の起伏もなさそうに見えて、かつ機械的な受け答えだったというのが生徒会チームの印象で。
「だめな理由を言いますと、C組の天里凛々守さんの御名術が周期に入ってしまったため。今、何もしないほうがいいです。下手すると、死にます」
無論、そんな言葉だけでは生徒会の3人は疑問を投げかけるしか、ない。たまに罵倒のような言葉も混じって止められたりするが、彼、レイジは機械のように返事をした。
とにかく、今は何もすべきではないと。ではその周期というのは何なのか?どういうことなのか?という質問には答えず、けれど「周期は10月中旬に終わると思います」、彼はそれを知っている。
「じゃ、10月後半までまだ待ってくれっていうことか。折角、夏休み中に初芝芽維と交渉ができたって言うのに…」、矢敷は肩を落とす。腑に落ちていないのだが、彼は今の唯一の頼りである。邪険にはできなかった。
「そうです。周期中は、彼女に接近する男は極めて危険と言わざるを得ません。女でも、彼女を傷つけてしまうようなら、あやしい。今は待機してください。終わったなら俺から言いに来ます」
決して彼は3人を納得させきれたわけではないけれど。それでもまだ、こいつの言う事は聞いてやろう、と思わせる説得力はあった。その説得力は、彼の機械のような感情が後ろ盾になっている。
そして。
「あと、今日の朝、天里凛々守さんにぶつかったE組の男子、生徒会と親しい人ですよね?パーマかけてるちょっと遊んでそうなやつ。連絡つけれるなら、したほうがいいですよ。できるだけ早く、詫びを入れさせた方がいいんじゃないかと思いますがね。恐らく、乱暴した自覚もないと思いますけど、自覚とか言ってる場合じゃ、ないと思うんで」
AとBがふつうの友達同士なのにある日「あいつらつきあってる」という噂が流れたとき、AB両名の関係にダメージがない解決策って沈黙しかないの?