それは、少しだけずれた日本の高校のどこかで、 作:AyA Tono N.C.
「人形谷さん、呼んでる人がいるよ…」
と、クラスの女生徒が授業が終了して背伸びをしている彼女に声をかける。美有は頭に疑問符が浮かんで。
諒太が一緒に帰りたいとやってくるならばそのような手口は使ってこず、かつ他の誰かの呼び出しなど西棟の全体感から少し距離を置いている彼女にしてはだいぶ珍しいことだった。
特に部活もやっていないし委員に与してもしない。誰だ、とクラスメイトが指さした先にいる存在を見て、彼女は顔をしかめる。
かわして帰ることはできなそうだし、走って逃げても追いつかれるだろう。
そこにマサカがいる。腕組みをして美有の様子を伺っている。
ついに来たか、と美有は深呼吸をする。
横にゆりはいない。これは話し合いは無理で、止めてくれる誰かも期待できない。
彼女は御名術のエクセルをひらいて。
あの女を避けるためには?
◇優先目的 ◇状況改善効果 ◇危険度
1 誰かを盾にして向かう ★★ 35%
2 教室から出ない ★★ 21%
3 窓から飛び降りる ★★★★ 48%おすすめ!
4 駆け抜ける! ★★ 80%非推奨
「林さん、ごめんなさい。今すぐ行くから少しだけ待ってってあの人に伝えてもらえますか?」
「あ、うん。でも、あの子って、東棟の例のあのひと、だよね…」
相手の言葉を聞き終わる前に、美有は何も言わず左手の指で3をつくった。
窓の外へは左足で着地してください。
◇マニュアル◇ ◇ オート ◇
クラスメイトが美有から離れて、マサカの前を遮ったときに。「マニュアル」
美有は教室の奥へかばんを持ったまま小走りで駆け、男子生徒をどかして自ら一番後方面の窓をあける。
1年生でいる今だからこそ躊躇なくできる選択肢だ。これがもし、自分が2年生であったなら教室が2階になってしまうからこうはならない。
彼女はばっと窓枠に全身を通し、そこから脱出をする。けれど。
マサカがそんな悠長なスピードを許すことはなかった。美有が振り向いた場所に、そこは教室のど真ん中、巨大な"洞"がそこにあって、瞬時にマサカの全身がそこから現れた。
F組の教室が大きくざわめく。美有はまた顔をしかめ、着地と同時に駆けだそうとするが。
今のは右足です!今のは右足です!
「しまっ…!?」
指示通りの着地を、誤ってしまう。彼女は、まず右足から着地した。
マサカは。教室のど真ん中に移動したのち、すぐに同サイズの"洞"を作り出しまたも飛び込んだ。速さ。
そして2度目の移動により、飛び込んだマサカは地面すれすれに現れ、その右手は駆けだそうとした美有の右足首をつかんだ。
「いだぁ!!」
「クッソ!」
両者がそこで転ぶ。美有はオートを選ぶべきであった。少しでも冷静さを喪っていたのだから。
「なんのつもりだよ!バカ女!」
「お前がいきなり逃げるからだろーが!!」
地に倒れた二人は悪態をつきあって、美有は観念して身体を払いながら立ち上がる。臨戦態勢だ。彼女は手元にエクセルマットをつくりだして。
「なんだ、お前、それ?そのパソコンがお前の御名術か?」、マサカは眉根を寄せた。「強さがぜんっぜんわからん」。彼女の感想。
「要件はなに?」
マサカも立ち上がって。「C組の天里について質問しに来たのに、なんでお前はあたしとやるつもりなんだ」。
「わかるもんか。あんたの乱暴さは知ってるんだから…なに?天里?」
「きのう、天里が御名術を使ったとこをお前とユッピは見てるよな?」
「そりゃ、見たけど」
「お前の精確な意見を聞きに来たんだよ。可能性はふたつあって、一つ目はお前がユッピに嘘をついてる場合。もう一つは、お前が間違っている場合。それを確認しにきたんだ」
美有はポーカーフェイスが苦手で、そのまましかめた顔をマサカに返す。「人を嘘つき呼ばわりして、何なの!わたしが柴崎さんにウソついてなんになるっての!」、この言葉どおり、事実、美有は嘘をあまりつかない。御名術の指示で嘘をつくことはあるかもしれないが、基本的には性格は明瞭だ。彼女の御名術の性質がそれを補強している。嘘をつく行動が無駄だからだ。
「じゃあお前が間違ってるんだな。天里凛々守のマリア様は、肌が真っ黒なんだよな?そうだろ?その真っ黒い肌の下は黄色い帯でできてるって言うんだろ?」
「間違ってなんか、いない!帯が見えないあんたに何がわかるってえの!」
「ホントか?」、マサカは射貫くような視線で。「本当に黄色なのか。その女の帯は。ピンク色じゃ、ないのか?」。
「なん―」
美有はマサカから視線をそらした。
彼女は。黒い肌の下に、近くできる帯の性質を感じた。
色は―わからなかった。だが。それは、つまり。
「もう一度、天里のマリア様を見てくれよ。これがな、あたしの仮定ですっごく重要なとこなんだよね…」
そしてマサカはやっと厳しい顔をやめ、横を向いた。
「まさか」
「まさか?あたしの名前を呼び捨てすんなよ」
「違う、そんなこと言ってない」
学校に与えられた帯は黄色系統、天然の帯は赤色系統…。
「ユッピにはそのマリア様の肌の奥まで見れないからな。お前に頼むしかないから、なのに、逃げやがって。本当に人類の代表目指してんのか。人類の哲学ってのは逃げてればいいのか?」
「だァーから…、ちっ、仮に、天里凛々守の帯がピンクだったとして、それにあんたに何の関係があんの?」
「時系列が、噛み合うな」
「…?」
マサカの発言は言葉足らずで。けれど真剣で。美有は理解できないし、また、同時に天然の御名術もちが自分以外にもう一人いるかもしれない、という仮説については決して容認したいものではない。
彼女の先祖の学術書においても、御名術が使える程度の帯をもった人間は(250年ほど前の脆弱なネットワーク下という前提で)30年にひとり現れる程度の割合であるというから。
そして美有は少し考えて、ようやくそこで寝そべっていた自分のかばんを拾い、数歩マサカから遠ざかって。じわじわと学校の外へと、出て行こうとしている。
マサカはそれを見咎めず、距離は決して遠ざけず。
「…お前、この話はな、お前が天里を倒さないといけないとか思うのとは、別の問題だぞ。あたしの仮定が当たってたらな。その子は倒しちゃいけないんだ。救ってあげないといけないんだ」
「はあ?」
その言葉は、いよいよ自分は天里凛々守を次に御名術を放棄させないといけないのだろうかと考えた美有の感情に割って入って。
「いいか?物語はカンゼンチョーアクってやつだから、人は死んでもいいんだ。物語のなかだからな。でもな、物語でなくて現実世界の場合な、悪い奴を殺しても殺人犯か殺人鬼にしかならないんだよ」
「…」
「いいか。絶対にまた見てもらうぞ。何だったら力づくでもだ」
美有はエクセルを開き、そして「2番」とつぶやき、マサカを後にして再度の退避をはかる。同時に、彼女はかばんを、
斜め上前方に向かって、ぶんと投げた。その行動はマサカの理解の外にある。
"洞"をマサカはつくりだす。そして、3度目の飛び込み、美有との距離を短縮させ、次は肩を掴もうとして。
だが、追跡する彼女にとって不可解な出来事が起こる。
マサカの手はまず先に"洞"から出てきて、確実に美有の肩に届いて、ブレザーごと握りしめるはずだった。なのに。
美有の身体は、急にブレーキがかかったように急停止し、右手前方に向かってばたりと倒れ込んだ。
わざと、転倒した。その結果、マサカは空ぶって。
同時に、ワープを果たした彼女の腕から先が"洞"から現れたとき、上方へと投げていた美有のかばんはマサカの脳天に、「んぎゃん!!」、見事に直撃した。
痛みで瞬間的な状況把握が遅れたマサカは、なぜか脚立がかかっている校庭のケヤキに登る美有の姿を見る。その細い身体は、マサカに視線を向けているがマサカを見ていない。何か、別のものを見ている。
今の一瞬で、あっという間に木に登った?そんな鍛えた身体だったか、あれは?マサカは訝る。自分の身体能力でも、その速さは考えづらい。むしろ、F組の教室から逃げ出した美有は、もっと足が遅かった。
美有は目をぱちくりとさせ、ようやく彼女のマサカに向いていた視線はマサカに焦点を合わせた。
「ねえ、わたしが人に命令されるの、すんごく嫌な性格だって事、教えてあげようか?あんたさ、この木の下敷きになってみたい?」、美有が挑発的に。
そして、手元にエクセルを出現させて。「柴崎さんがどうしてもって頼みに来るんなら聞いてあげてるかもしれない。でも、あんたの言う通りになんか、ならない!」
美有が脚立を蹴った。それはマサカのほうへと傾いて行くが、ちょうど目前にできた"洞"がそれを吸い込むようにマサカの盾となって、その出口は美有の背後。
だが、そこでその脚立の吸い込まれた一部分が美有の後頭部に当たるというならば、彼女はエクセルの選択肢を誤っている。
美有はそれに狙われる前に、飛び降りて足元の太い枝の一本に両手でぶら下がった。
そのやせた木は大きくきしみ、揺れる。
部位ワープした脚立の一部は、少し前までに美有の身体があった場所から生じるが、幹以外の誰も傷つけない。
ふたりともは互いを見据え、相手が次に何をしてくるか警戒をしている。マサカは美有の言葉を疑わない。この木はいきなり自分のほうへ本当に倒れてくるのではないかと。
美有は。この木を倒す事が出来たとしても、脚立のようにかわされてしまうのではないかと―。
美有が視線を上にやると、そこにエクセルが現れた。選択肢は5つで、そのうち一番状況改善効果がまともなやつ、そして危険度が60%以下のもの…。
だが。
その視認は妨害された。
「はあっ!?」
「へっへっへー」
美有のエクセルの大部分が、そこに現れた直径40cmの"洞"によって画面に墨を塗られたかのようにまったく文字や記号を読み取れなく、なった。
「や、やめろ!」
「お前、これ何選ぶつもりなんだよ?5つあるぞ。あたしのおすすめはなあ、4番だ!」、エクセルの消えた箇所は、マサカが目の前に見ている。
美有は腕が疲れ始めて。ぶら下がるのは先刻のエクセルの指示。だが、次にどうすべきか、見えない。今出ているエクセルは恐らく、枝にぶら下がるのをやめたなら美有の位置条件が変化するため有効性を亡くす。
先月、石灰で視界を奪われた時もそうであって。このエクセルが自分の目で見えなくなったなら、彼女は、あてずっぽで選択肢を選ぶほかなくなるのである。
「1番!かな!?オート!」
まったく自信はなくて。
美有は枝に力を込めて身体を引き戻そうとすると、彼女のぶら下がっていた枝から、それ自身が折れる音がして。「うわっ!」美有は落下する。
落下先に、マサカはすでに"洞"を経由してワープを果たそうとして。
けれどもその選択肢はあながち間違ってはいなかった。そのとき強い風が吹いて、美有の体重がかかった方向へとさらに木を揺らし、何本かの枝葉が出現先のマサカへとぶち当たったから。
「グッ!」
そして落下した美有はすぐに体勢を整え、自身がつかんでいた太い枝を横凪ぎに振ってマサカを打ちすえた。
ばちんと。
肉体面では美有よりよほど強いマサカにとっても、無視できない痛みだった。
そして、小学生と変わらないと普段彼女が悪口を言っている美有の身体は鋭いタックルを繰り出し、打撃を見舞い、マサカの足は地を離れる。
美有の目はマサカに向いている。先ほど同じ。相手を見ていない。マサカは驚愕を隠せない。相手は男でもないのにあたしが吹きとばされるなんて?
「やる、こいつ。自分をパソコンの奴隷にしてやがんだな」
その評価と分析ははそこそこ的を射ている。マサカは本能的な理解度で美有の御名術を看破した。
やがて、二輪通学をしている生徒の乗る走行音がふたりの耳に入ってきた。
ケヤキの木がみし、みしと震えている。マサカは飛び上がって目を剥く。本当に、最初からこの木の下敷きにするつもりだったのかと。
美有とマサカは一直線上に立っている。そしてこの木が倒れてきて、彼女の考え、恐らく美有はなぜか下敷きにならない。自分は"洞"をうまく使わないと下敷きになる。
それほどの行使力と自在性がある御名術なのだ、という事も本能的にわかる。
結局はシンプルに、目つぶしでどうにかできる御名術のようだ、という結論も出てはいる。しかし、今この場でまもなく木が横倒しになるという結果は変えられなそうな気もしている。
それをかわしたら、脱出先で何が起こって何に対応しなくてはいけないのか、と頭をフル回転しなくてはならないという点、当初「強さがわからない」という評価だった認識は「強さがピンとこないけど相手しづらい」と彼女の中で変化した。
みしみし。ぐらぐら。その痩せたケヤキは傾き始める。
そして。
「わかった。その御名術、お前の位置もかなり重要なんだ、きっと」
マサカの身体は、美有のすぐそばにワープした。
安全な場所はどこか?それは、美有と同じ位置!
そして、一回り大きな身体でもって、美有の身体の身動きを止めるように。
乱暴に抱きしめられる形となった美有はたじろぐが、冷静さは欠かさない。「加納、それは間違いだよ。だって、あんたの方が背が高いんだからさ」。
ケヤキはマサカと美有のもとへ倒れて。そしてマサカは頭を下にひっこめた美有を見て気づく。「あ、そうか…これ、あたしの頭だけに当たるのか…」。そして"洞"の生成は間に合わない。
その瞬間、バイクの走行音は彼女らに近づいて、ケヤキの倒れる音さえ遮るように彼女らには感じられた。
輝くように青い250ccのバイク。校則違反。それに乗った男が、マサカの襟首を後ろからつかみ、勢いよく引っ張った。
それは徐行運転に近かったとはいえ少女らにとってはかなり強引であって。
窓から飛び出したのを引き留めた行為よりも、枝で殴打する行為よりもよほど危険で、マサカと美有は地をこすり互いに複数個所に擦り傷を受けたが、それでも倒木の下敷きになった場合よりもダメージはましであることに違いはない。
校庭が小さく揺れたかのように。
運転手はヘルメットをはずし、エンジンをふかしたまま地を這いずるマサカに。「加納!なにやってる!?戦うのか!?それともどうなんだ!?」、スキンヘッドを彼は撫でた。
「…」
マサカは。風雅に目をやり、そして美有を一瞥した。本来、ここで戦おうなどという目的ではなかったのに、エスカレートしてしまって。
美有は。新手がマサカの仲間であるから、狼狽する。
「…ここを出る。交渉決裂した」
「おたくが交渉下手なんだろ!?後ろに乗れ!」
全身を痛めながら、ふらふらと彼女は風雅のバイクの後ろに不慣れな恰好で乗って。そして彼女へのヘルメットはない。校則と法律違反。
「いいホンダだな。高かったろ」※
「適当に言うな!おれの大切なバリオスだ!カワサキだ!黄瀬さんの援助なしじゃ買えなかったぜぇ!」
(※インドネシアは流通しているバイクはホンダ製が多数で、年配者などはバイクそのもののことをホンダと一括して呼ぶことがあるため、これはマサカのボケではない)
「くっそ!覚えてろ!」
美有は歯噛みして、痛みですぐに立ち上がれない。
「もうお前なんかに頼まねーよ!バーカバーカ!」
二つめの信号待ちの間に、風雅はマサカに。「いい加減警察に見つかるかもな、おたくのノーヘル。そろそろどっかで止めないと!」
「だったら西口公園がいい!こっから近いし!」
大声を交わし合う風雅とマサカ。
風を切り髪がなびく心地はマサカには新鮮でかなり楽しいものであったが、運転手に対しあまり心を許していないため100%は楽しめていない。
二人乗りは5分くらいで終息、風雅は言われたままの公園の入り口の街路灯の近くに停車し、マサカを下ろしてエンジンを切った。
そこで少しだけ静かな雨が降ってきて。
「なんで人形谷とおたくがいちいち律儀にタイマンしなきゃならんのだ。交渉したきゃ柴崎を使えばいいだろうが」
風雅はヘルメットを抱えながら、呆れた様子で聞き始めた。
「ユッピは、従士郎と一緒に天里の家を調べに行くって…」
「だから、それに一緒について行くか、3人で人形谷に交渉しに行こうとか言えばよかったろう」
「だって…従士郎といると、お前らが…からかうんだもん…」
「おたくがからかわれるようなことを竹内君にするからだろぉ~?」
「違ェーーーーんだよ!!」
風雅はため息をついて。埒が明かないので話を単刀直入に変えた。「5月のあのときみたいに、おれとおたくで調査を進めるか?」、眼鏡をなおし、表情は硬く。
「ああ。それがきっと一番いい」、「最後にヤクザが出てこなきゃ、いいけどねぇ」、「…そうならなきゃ、いいね」。
「花形からなんか情報はもらえなかったのか」
「あいつは、しょせん黄瀬のワンちゃんだからさ。言い方悪いけど。まともな情報なんてくれないよ。黄瀬はあたしにウソついてるけど、それを守ろうとするからさ」
「なるほど?」
「あと、こういうのは花形は向いてない。あいつのセンスは学校内のゴシップとかフォーカスにばっか才能を費やしてて、実はこういうとき役に立たないんだ」
「そうかもねぇ?」
少し間があって。
「どうして、黄瀬さんはおたくに嘘をついているって思うんだ?それが許せないのか?」
「ハゲ。ちょっとお前は。ユッピもだけど、勘違いしてる」、マサカは自分に言い聞かせるかのように一度頷いて。「あたしはね、嘘はついてもいいと思ってる。その嘘をつくことに意義があるなら、わかってあげたいと思う。どうせ、あたしはそれを見抜くことができるから。島でずっと悪い奴とか見て来たからね。わかるんだ。けど、黄瀬が嘘をついていることの問題はね。あの嘘は…天里って女が何かやばいことをしていて、それを隠そうとか、かばおうとかしてる嘘じゃあ、ないんだよ。どっちかっていうと、嘘をついていないと自分の身に問題が出てくるからついてる嘘なんだ。きっとそれは、天里のためにならないんだ。悪くしちゃうんだ」
「加納の言いたいことを俺の見かたを入れて要約していいか?」
「どうぞ」
「天里凛々守は御名術を使ってE組の男を干からびさせた。そしてそれは初めてではない。むしろ前にも同じことがあって被害者がいて、黄瀬さんはそれを隠さないといけない理由がある」
「そう。まさにそれだ。お前やっぱ頭いいな」
「けど、それとおたくが人形谷のところに交渉しに行くことと何の関係があるんだ?つながってるか?」
「お前にゃわかんない話なんだけどな。超マイナーな、どこが出どころかわかんない物語のことだからな」
風雅は首を傾げた。物語と聞いて。「どういう意味だぁ?」
「だから、わかんないさ。きっとあたししかわからないもの。でもね。マリア様が、黒いならさ。今回のことは、2回目以上、なんだよ。でなきゃ、顔が黒いはずがないからね」
「…」
「けど、うちの学校で入学式から今まで、干からびさせられてどうなった、とかそういうやつはいなかったでしょ?絶対に。そんなのあったらとっくにあたしら知ってるもん。するとね、天里の御名術はさ、入学式より前に身についていないと、つじつまが合わないんだよ。入学式以前に被害者がいるから、マリア様の顔は黒いんだよ。天然の御名術だったら、全部のつじつまが合うんだよ。でもユッピじゃわからないから人形谷に聞くしかないじゃん」
「加納、順序立てて説明してくれ。人並みの理解力はある自覚はあるつもりだ。おたくの言ってる事が全然組みあがらないんだ」
彼女の説明は1時間では済まず。風雅がすべてを理解するまでは。そして風雅が手を打って理解を完璧に示したとき。
「あたしは常に、男にひどい目にあわされた女の子の味方だよ。救ってあげないといけないじゃん」
弱い雨が徐々に勢いを増してゆき、マサカが雨宿りできる場所を意識し始めると。
どこからか、ベージュのシートのようなものが現れて。風雅はそれを持って自分のバイクにかぶせた。撥水加工のようでそれは雨をはじき、青いバイクが濡れるのを防いで。
雨音は強まるが、マサカは自分の制服がぬれるのを感じない。
風雅は街路灯に手を這わせていて。
不思議に思って上空を見上げると、バイクにかかったシートと同じようなベージュの布状のものが、街路灯の上方にまきついて長方形上に展開し、風雅とマサカを入れた簡易的な設営テントのように雨をはじいていた。
「そろそろおれも御名術の種明かししてもいいかなぁ~」
風雅が頭を撫でて。
「カーテンか」、マサカは今日だけで二人の御名術を看破する。
未来のヴィジョンを観る能力は、そのヴィジョンの視聴装置が精神の中なのか、肉体的視覚器官なのか。それにより弱点が明確に定義される。