テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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※読む前の注意点

注意点

このサブイベントは本編とあまり関係ないもので、アリーシャが強くなるには結局なにが必要なの?とかを別の世界に転生した転生者に教えて貰ったり貰わなかったりするサブイベントであり、ゲーム的な話をすればサブイベントを進める事によりゴンベエの第三秘奥義が使えるようになり、最終的にある事を知ることが出来てアリーシャ達の好感度とかがなんかスゴい事になり更なるサブイベントが解禁されたりされなかったりします。
そしてこのサブイベントでアリーシャが槍を使える様になり精霊装擬きを使える様になるとかそういうのはない。所詮はサブイベントだから。



サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その3(前編)

「オリハルコン……なにに使うか」

 

 あの後、海に1人で潜ってみると壺から溢れ出たであろうオリハルコンの塊を見つけた。

 稀少な金属なので売れば金になるのだが、どういう風に使えるのかと考えてみる。ぶっちゃけオリハルコンってまっぷたつに出来るんだよな。

 

「今日は本当に最高だな。コイツをつまみに飲む心水は一段と格別だろうな」

 

 手に入らないと思っていたオリハルコンを手に入れれた事に大喜びのロクロウ。

 これを加工して刀にすれば最上級の刀となりシグレと渡り合える……かもしれない。ぶっちゃけ武器の性能もあるが、シグレとの実力差とかもある。

 アイツ、戦いを楽しむタイプで最初から全力とかしない。多分、真の力的なのを隠し持ってんだろうな。

 

「喜ぶのはいいですが、オリハルコンはこの世で最も固い金属です。クロガネが加工出来ないかもしれませんよ?」

 

「なに、アメッカの槍やベルベットの剣を作ったんだ。なら、オリハルコンの1つや2つ、刀にすることが出来るだろう」

 

 多分、クロガネの腕だったらいける。

 エレノアの心配も心配だけで終わる……そうじゃないと、このオリハルコンが完璧に無駄になる。此処まできて加工出来なかったは笑えない。

 

「新しい武器、か……」

 

 物思いに槍を見つめるアリーシャ。

 ついさっき、オリハルコンが入っていた壺の憑魔を槍の力を引き出して倒すことが出来た。意識して出したのではなく、カッとなって無意識に出した。

 一刻も早く槍の真の力を使いこなせる様になりたいアリーシャはロクロウのオリハルコンを手に入れて喜ぶ姿を見て、停滞をしている自分を悔やむ。

 オリハルコン以上の素材で出来ている神秘的な力を持った槍、その槍の力を引き出せば強くなれるが、その力を引き出すことが出来ていない。

 

「あんまり焦るなよ」

 

「……そんな事を言ってもっ……」

 

 アリーシャに必要なのは修練云々じゃない。

 ベルベットがライフィセットに謝るのに必要だったのと同じく、きっかけが必要だ。それはオレがどうこう言うんじゃなく運的な物が必要だ。

 なにかタメになる事とかありがたい言葉とかを送れればいいんだが、生憎そういうのはあんまり言いたくはない。価値観や論理観はオレとアリーシャじゃ大分違う。あんまり言葉で攻めるとアリーシャも限界を向かえる。

 

「手段と目的を違えるなよ……お前は強くなりたいけど、強くなりたいから強くなりたいんじゃねえだろ」

 

 強さを求めることはいいのだが、アリーシャにはちゃんとしたゴールがある。

 そのゴールは強さを求めた先にあるものでなく、強さもその内の1つに入っているだけで他にも必要なのはある……。

 

「いや、すまん。今のは忘れてく━━ぬぅおあ!?」

 

 余計な事を言ってしまった。

 謝罪の言葉を送るのだが、その前に地震が起きる。

 

「全員、何処かに掴まれ!」

 

 船の上でのトラブルはお手の物か、迅速に対応するアイフリード海賊団

 アイゼンの指示の元、船の何処かに掴まろうと移動するオレ達。この地震、凄く嫌な━━ぬぅお!?

 

「ちょっと、あんた何処に手を入れてるのよ!?」

 

「殴るなら後にしろ!こっちもバラン━━」

 

「消えた!?」

 

 

 あ、これ例のティルナノーグとかいうのだ。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

「ゴンベエが消えた!?」

 

 

 突如として巻き起こる地震。

 この程度の災害は馴れているとアイフリード海賊団の面々は迅速に対応をしているとゴンベエが足を滑らせてベルベットの谷間に手を入れてしまい、何時もの対応のせいで怒ったベルベットが殴ろうとするとゴンベエはシュンと消え去った。

 

「何処に消えた!隠れてないで出てこい!!」

 

「おぉ、どうした?」

 

「ゴンベエが消えたんだ」

 

 消えたゴンベエを額に青筋を浮かべ探すベルベット。

 状況がイマイチ飲み込めていないロクロウに説明をすると一緒になって探してくれるのだが、船の上には何処にも居なかった。

 

「透明になっている、というわけではなさそうですね」

 

「ゴンベエなら出来そうだが、流石にそれはない」

 

 自分が悪いことをしたと思っているならば、ゴンベエはわざと攻撃を食らう。

 ついさっきベルベットの胸に手を挟んだ時殴るならば後にと言っていた……なんで毎回、ベルベットなのだろうか?いや、確かにラッキースケベを起こすのには最適な格好だ。だが、どうして私にはそういうのが来ないんだ?仮に揉まれたとしても、ベルベットの様に殴ったりはしない。頭を撫でるぐらいだ。

 

「この現象……ベンウィック、船内を探せ!」

 

「船の中、ですか?いくら地震でゴタゴタしてたからってゴンベエを見逃す筈が」

 

「いいから探せ!もしかするとチヒロがいるかもしれん!」

 

「チヒロって、チヒロさんの事?」

 

「そうだ」

 

「ティルナノーグのとかいう世界のこと?」

 

 またかと少しだけ呆れるベルベット。

 此処とは違う世界がこの世界に干渉しているせいで他の世界の住人が流れてきたりするとホトケが言っていた。

 ゴンベエが消えたのはその逆のパターンで、ゴンベエが別の世界に行っており、もしチヒロさんが居れば全てが納得がいく。

 

「また、あんな事をしなければならないのですか……」

 

 前回、起きた事を思い出してエレノアは渋い顔をする。

 私が強くなる方法を聞いた末にゴンベエが死ねば強くなれると言われて野球で決着をつける事になった。戦っているには戦っていたがなんとも言えない戦いで、良い思い出かといえばそうではない。

 

「ああーっ!!」

 

 チヒロさんが居るかもしれないと船内を探索して貰っているとベンウィックの叫び声が聞こえる。

 なにか予想外の事が起きたのだと声のした方に向かって走るとそこにはベンウィックと白髪のリーゼントを携えたタンクトップと短パンの軽装が特徴的なファンキーなお爺さんがいた。

 全員の顔を覚えているわけではないが、アイフリード海賊団にこの人はいない。

 

「おい、なにがあったんだ!」

 

「副長……やられた」

 

 震える声でアイゼンに報告をするベンウィック。

 悲しさよりも悔しさが声から伝わっており、直ぐに私達は戦闘態勢に入るのだが足元のそこかしこに酒瓶が転がってるのに気付く。

 

「いや~すまんすまん。いい匂いだったんで、つい飲んじまった」

 

「……飲んだ?」

 

「この爺さん、船に積んでいた心水、全部飲みやがった」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ベンウィックのその一言でやっと状況が理解することが出来た。

 そこかしこに転がっているのはアイゼン達が宴会をしている時に飲んでいるお酒の瓶で、全てが空。リーゼントのお爺さんはよく見れば頬を赤くしていてお酒の匂いがする。

 

「ジジイ……テメエ、人が隠し持ってた40年物を飲んだのか!!」

 

 自分のとっておきのお酒を飲まれ、額に青筋を浮かべお爺さんに怒るアイゼン。

 

「やめなさい!相手は年寄りですよ!」

 

 そんなアイゼンをエレノアは止めようとするが止まらない

 

「それを言うなら、オレの方が年を食っている!」

 

「ワシ、これでもデーモン閣下程の年齢じゃよ」

 

「デーモン閣下?お爺さん、歳幾つなの?」

 

「10万72歳じゃ」

 

 10万!?

 確かアイゼンの実年齢が1000歳程だったから、このお爺さんはアイゼンの100倍は生きているのか?

 年齢がアイゼンよりも上だと判明すると、手を上げようとしていたアイゼンも少しは止まる。

 よかった。このままだと手を上げそうになっていた。

 

「あんた、異世界の住人なの?」

 

 少しだけ冷静になるとベルベットはお爺さんにストレートに聞く。

 お爺さんは首を傾げた後、髭を撫でて難しそうな顔をする。

 

「まぁ、異世界と言われればそうでもあり平行世界かと聞かれれば若干異なるが……平たく言えばそうなるの」

 

「……クソ、こいつもダメか!」

 

「あのこの様な事を言うのもなんですが、お酒、飲みすぎですよ」

 

 空になった酒瓶を振るロクロウ。

 もしかしたらまだお酒が残っているかもしれないと期待をしている様だが、全ての酒が飲み尽くされている。

 これだけのお酒を一瞬にして飲み干したとなれば、身体に不健康でしかない。

 

「酒はワシの命の源、どれだけ飲んでも問題ない」

 

「他人の命の源を飲んで言うか」

 

「……?」

 

「どうしたのフィー?」

 

 なにかに気付いたのか耳をアイゼンとお爺さんに傾けるライフィセット。

 

「えっと……声が」

 

「おぉ、言われてみれば似ておるのぅ!」

 

 お爺さんとアイゼンの声が似ている事に気付くライフィセット。

 確かに言われてみれば、声の若々しさの差異はあるが元の声質がアイゼンと似ている。

 マギルゥはその事に関心をしているが、関心をしている場合ではない。

 

「お爺さんは変な事をしませんよね?」

 

「ワシはアルハラもセクハラもせんよ!?」

 

 前回、起きた出来事が出来事だけについつい警戒心を出してしまう。

 見た目が中々に独創的だが、こうして話をしてみるとお酒が大好きなお爺さんで悪い雰囲気は一切しない……いや、油断はしてはいけない。マスク・ド・美人も普通そうな感じだったが、いざとなった時に極悪非道だった。

 

「そういえば、あのホトケとかいうのが出ておらんが」

 

「副長、大変です!なんか空に変なぶつぶつが!」

 

 お爺さんと会ったが、まだホトケには会っていない。

 その事をマギルゥが気にすると船員が大慌てで船の上からやってきたので、私達も船の上に向かうと空の雲がおかしな動きをしている。

 

「アメッカ、メガネかなにかを」

 

「ああ、そうだった」

 

 何故か分からないが私はホトケを見ることが出来ない。

 マスクかなにかを通してなければ見ることが出来ないので、私はチヒロさんから貰ったマスクを取り出そうと懐に手を入れるのだがマスクが見つからない。何処にしまった?

 

『はい、どうも。お疲れさまです。アイフリード海賊団御一行様でよろしいでしょうか?』

 

「ん?前に見たのと違う?」

 

 最初と前回と同じ人が出てくると思ったら違っていた。

 ホトケと同じぶつぶつ頭で薄い板の様な物を持っているがスーツ姿でしっかりそうな見た目をしていた。

 

「今回のホトケは出来そうな感じですね」

 

『えーすいませんね。ちょっと4号の方が有給休暇を消費してバカンスに行ってまして』

 

「おい、こっちは大事な心水がジジイに飲まれてるのにあのぶつぶつ頭は遊んでるのか?」

 

『まぁ、そうなりますね』

 

「ふざけんな!!こっちは美味い酒が飲めなくなってるのに、責任者をホトケを出しやがれ!!」

 

『すみません、うちはそういう感じの事はしていませんのでそう言われても困ります』

 

 そんなマニュアル対応みたいな事を言わないでほしい。

 美味い酒が飲めなくなったことにアイゼンとロクロウはキレるが、暖簾に腕押しの状態。

 

「ゴンベエは何処にいるのですか?」

 

 対応していない事を聞くよりも、他の事を聞いておいた方がいい。

 前にも居なくなってしまったゴンベエ。その時は夢の国と呼ばれる国に居たらしく、今回も何処かの世界に飛ばされている。もし危険な世界ならば……。

 ゴンベエが危険な目に遭っているんじゃないかと思うと、胸が痛くなる。

 

『彼は今ですね……USJにいますね』

 

「……USJ?」

 

 異世界だから聞いたことがないのは当然として、ピンと来ない。そこは大丈夫なところなのだろうか?

 

『彼のことなら基本的に心配しないでください。アレでも結構しぶとい方なので。ちょっと此方も別の仕事がありまして暫くすればそっちの方に送り返しますので安心してください』

 

 出来そうなホトケはそういうと消えていった。

 ゴンベエは一応は無事そうなので私は胸をホッと撫で下ろすのだがアイゼンはまだ怒っている。

 

「おい!!せめてオレ達の心水を弁償しやがれ!……っち!!」

 

 完全に姿を消したので声が届いていない。

 その事を理解したアイゼンは舌打ちをしてお爺さんを強く睨む。

 

「……ふむ……」

 

 お爺さんはアイゼンの鋭い視線を気にせず海の彼方を眺める。

 先程までは美味い酒を飲めたことににやけていたのだが、笑みは浮かべていない。

 

「どうやら面白いことになっておるの」

 

「なにが面白いだ!」

 

「なに、あっちの方向に一直線に進んでくれれば分かるぞ」

 

 監獄島がある方角と異なる方角を指差すお爺さん。

 この辺りになにかあっただろうか?アイフリード海賊団が書いている地図ではこの辺りには島らしい島は何処にも無い。しかし、なにかありそうな感じだ。

 地図の上で物事を見ているのはいいが、そればかりではダメだ。私はゴンベエが使っている望遠鏡でお爺さんが指した方向を確認するとボンヤリとだが島が見える。

 

「アイゼン、島だ!島が見える!!」

 

「なに、貸せ!!」

 

 こんな所に島があったとは驚いた!

 アイゼンにその事を報告すると奪うかの様に望遠鏡を取り、島がある方向を覗き込むとベンウィックに地図を持ってこさせる。

 

「おかしい」

 

「おかしい?」

 

「……!この辺りに島なんて無いよ!」

 

 改めて地図を見直して違和感に気付くライフィセット。

 私も地図に目を通すのだが、この辺りの海には島らしい島は書かれていない。アイゼン達が見つけたことが無い島と考えるのが妥当なのかもしれないが、アイゼンのこの驚く姿から見て、そうではない。あの島は無かった……筈だった。

 

「どうやらなにかの拍子であの島も一緒になって来てしまったみたいじゃ」

 

 この世界に無い筈の島がある。

 それはこのお爺さんや前回マスク・ド・美人が持ち込んだ病原菌と同じで異世界の物だ。

 

「爺さん、あの島がなにか知ってるのか?」

 

「あれはワシの島じゃよ」

 

「お爺さん、島を持ってるの!?」

 

「まぁの……ここで会ったのもワシが酒を飲み干したのも、これも1つに繋がる奇妙な縁なのかもしれんのぅ」

 

 面白いと笑みを浮かべるお爺さん。

 異世界の島か……異世界の住人であったマスク・ド・美人がかなり変わった道具を持っていたとなれば異世界の島はもっと変わっている筈だ。

 

「待ちなさい!私達は今、帰ろうとしている所なのよ。寄り道なんてしてる場合じゃないわ!」

 

 島に向かって進路を変更する雰囲気を醸し出していると待ったをかけるベルベット。

 監獄島に帰ろうとしている最中に起きた事なので流石に認めるわけにはいかない。しかし男性陣の目は輝いている。

 

「止めるな、ベルベット!今、これを逃せば二度とあの島には立ち寄れない」

 

 あの島もこの世界にはあってはいけない物だ。

 きっとお爺さんが元居た世界に帰る時に一緒になって元居た世界に戻される。

 

「それに飲み干された心水の代わりを補充が出来るならしたい。監獄に戻ってもあるのは普通のばっかだ」

 

「あんた達……」

 

「ダメ、かな?」

 

 冒険心に駆られるアイゼン達に頭を抱えるベルベット。

 ライフィセットがちょっと残念そうな顔で訪ねてくるとベルベットは断りづらく、なにも言えなくなる。

 

「あ、坊やはダメじゃよ」

 

「え!?」

 

 代わりにお爺さんが断った。

 坊やはダメ……ライフィセットだからダメなのか?

 

「今から向かうところはのお酒ばかりというか基本的に酒しか無い場所での……坊やはお酒飲めんじゃろ?」

 

「飲めないけど……でも」

 

「お酒は二十歳になってからじゃよ」

 

 あの島はお酒を嗜む者のみ足を踏み入れることが出来る。

 お爺さんはライフィセットが入ることは出来ないと言うが、納得が出来ないライフィセット。

 

「お酒さえ飲まなければ問題ない筈です。この子が飲まないようにしっかりと見ていますので、どうか島への立ち入りをお願いします」

 

「ぞうは言うが、お嬢ちゃんもお酒を飲めんじゃろ?」

 

「それは……」

 

「だったら、私がライフィセットの事を見よう」

 

 エレノアもお酒を飲むことは出来ない。

 マギルゥが定かではないがこの中でお酒を飲むことが出来るのは私だ。アイゼン達ほどお酒に執着しているわけではないので間違ってライフィセットがお酒を飲まないように注意しておくことが出来る。

 子供扱いをされていることにライフィセットは些か不満な顔をするが、これ以外に方法は無い。

 

「やれやれ、困ったの……」

 

 お爺さんは首を縦には振ってくれない。

 代わりにロープで取っ手をくくりつけたバケツを島がある方向に向かって投げた。

 

「本当なら島についた時に驚かせたかったんじゃがの」

 

 細い腕からは想像出来ない信じられない怪力でロープを引っ張る。

 ロープにくくりつけられたバケツは空中を舞いバンエルティア号に戻ってきて、中には海水が入っている。

 

「ほれ、ワシの奢りじゃ。思う存分、飲んでくれ」

 

「飲めつっても、これ海水だろ」

 

 お猪口でバケツの中に入っている海水を掬い上げるお爺さん。

 ロクロウ達に笑顔でお猪口を差し出すが、海の水は川の水と違いどれだけ清んでいでも塩水でしょっぱい。

 味噌汁の様な程よい塩分とは程遠い物でむしろ飲めば飲むほど喉が渇くものでとても飲めるものじゃない。

 

「いや、待て。この匂い……」

 

 差し出されたお猪口にロクロウが困っているとお猪口からする匂いに気付くアイゼン。

 他の海水となにかが違うのかと私も近付いてみるとそこからは海の香りが一切しない。塩水でなく海水独特の匂いが一切せず、代わりにするのは気品に満ちた葡萄酒の香りだった。

 

「……!」

 

 匂いに気付いたアイゼンは恐る恐るお猪口に入っている海水を口にする。

 本当ならどうしようもない程に塩辛くて飲めたものじゃない海水。アイゼンは眉1つ動かさずにサラリと飲み込んだ。

 

「ジジイ、もう一杯だ」

 

「一杯と言わず、いっぱいでも構わんよ」

 

 ふっふっふとなにか企んだ笑みを浮かべながらアイゼンにバケツを託す。

 もう一度お猪口に海水を入れると今度は迷いなくグイッと一気に飲み、無言で3杯目を飲もうとする。

 

「海水ですよ!?そんなに飲んだら体を壊しますよ!」

 

 流石にこれ以上はまずい。

 エレノアはそう感じたのか、お猪口を動かす手を止めるのだがアイゼンは止まらず3杯目を飲む。

 

「こんなに美味い物を飲んで死ぬなら、それもまた1つの生き様だ」

 

「美味い物?……泡が出てる!」

 

「この匂い、お酒!?」

 

 海水は塩水じゃなかった。

 天然で出ているところは見たことは無いが、バケツに入っている海水から気泡が出ている。ゴンベエが作る人工的な炭酸水とはまた違う天然物の炭酸水となるがそれもまた違う。

 嗅覚を研ぎ澄ますとほんのりだが甘く爽やかな匂いがしており、その匂いの正体にベルベットは気付く。

 

「本当はの、この船が島に近付いてから教えようと思ったんじゃが……あの島にある物が全て酒だと言う意味が分かってくれたかの?」

 

 お爺さんは島に向かってバケツを投げた。

 その中には海水が入っていたが海水じゃなかった。発砲した葡萄酒、口当たりがとても爽やかで現代でも中々にお目にかかれないものだ。船の真下にある海水を確認してみると、しょっぱい。当然と言えば当然だが、今はその当然が当然と思えない。

 

「さぁ、美味い酒を飲みに行こうじゃないか」

 

 バンエルティア号は進路を急遽変更しワイングラスの形をした不思議な島を目指した。




スキット 祭りの前日

ベルベット「━━きろ……起きなさい!」

ゴンベエ「んだよ、今日は休んでもいい日だろう。朝飯、作っちゃったのか?」

ベルベット「なにを言ってるのよ!」

アリーシャ「待った。ベルベット、まだゴンベエは理解できていない……毎年呼ばれてるベルベットと違って」

ベルベット「アリーシャ……根に持ってるわけ?」

アリーシャ「そんなわけないじゃないか……ただどうして私は声が掛からないのだと思ってるだけだ」

ベルベット「根に持ってるじゃない」

ゴンベエ「お前等、なんの話をしてるんだ?」

ベルベット「なにって祭りの話よ」

ゴンベエ「祭り……オレ達むしろ天続の時代を終わらせようとしたのに、祭りなんてしていいのか?」

ベルベット「なに言ってるのよ。エドナと私が毎年呼ばれてる祭りよ」

アリーシャ「ベルベット……そんなさも当たり前の如く言ってもゴンベエは知らないんだ。毎年呼ばれてるベルベットと違って」

ベルベット「しつこいわね、あんた」

ゴンベエ「いきなり祭りとか言われても、意味が分かんねえよ」

アリーシャ「そういえばゴンベエ(諏訪部さん)は1度も出たことがなかったような……」

ゴンベエ「アリーシャとベルベットが呼ばれてんなら行ってこいよ。オレは声が掛かってないからパス」

ベルベット「そうもいかないのよ」

ゴンベエ「なんでだよ?」

アリーシャ「それはコレを見てくれ」

ゴンベエ「え、なんでビデオがあるんだ?」

アリーシャ「細かいことは気にしてはいけない!それを言い出せば色々とおかしくなる!!」

ゴンベエ「……なんか今日、お前等おかしいぞ。お、はじまった」

エドナ(ミスターE)『はじめまして。私はフェスのヒロイン、皆の嫁と言われているミスターEよ』

ゴンベエ「いや、何処からどうみてもエドナだろう。グラサンかけてるだけだろう」

エドナ(ミスターE)『エドナじゃないわ。ミスターEよ』

ゴンベエ「会話が通じただと……」

エドナ(ミスターE)『残念ながらこれは録画映像よ。会話が通じるなんて事はない。貴方の事だから一回はツッコミを入れると思ってるわ』

ゴンベエ「……」

エドナ(ミスターE)『ねぇ、今どんな気持ちかしら?会話が通じてると思った?いいえ、貴方がなにを言っているかさっぱりだわ』

ゴンベエ「あいつ、ミスターは男がつけるもので女はミスじゃないのかって会ったら煽っておこう」

エドナ(ミスターE)『早速だけれど、貴方達にはあることを依頼するわ。それはそう、あの祭りについてよ。知っての通り色々とあったけども今年も祭りは開催されるわ。そして出演者の中にアリーシャ、ベルベット、貴女達もいるわ!』

ベルベット「当然でしょ」

アリーシャ「久しぶりの出演だが、ハイランドの民に恥じる事のない様に心掛けよう」

エドナ(ミスターE)『皆、楽しみに待っているフェスティバル。誰か一人でも欠けてしまえば成功に納まらないわ』

アリーシャ「うっ……橋作り、DLC……」

ゴンベエ「おい、なんか変な電波を受信してるぞ」

エドナ(ミスターE)『本当ならグリーン席を使って駅弁を食べながら気長に横浜アリーナに向かうのだけれど、1人だけ別行動を取ろうとしてる人がいるのよ』

ゴンベエ「ちょっと待て!!なんかおかしな事を言ってないか!?」

ベルベット「うるさいわよ。動画を最後までみなさい」

エドナ(ミスターE)『それは死神。ただ一人、新幹線に乗ろうとしないのよ……誰かを挽いて止まることはあっても新幹線の脱線なんて早々に無いのに……シウマイ弁当美味しいのに』

ゴンベエ「死神って事はアイゼンも出るのか?」

エドナ(ミスターE)『1人でも欠ければ祭りは出来ないわ。特にお兄ちゃんの遅刻はダオスの遅刻になって悪役が居なくなってオチがつけられなくなるわ。ファンの人達も私との絡みも気にしているし、フェスを成功させる為にもなんがなんでもお兄ちゃんを連れてきて』

ゴンベエ「……心配だってハッキリと言ってやれよ。めんどくせえ」

アイゼン「っ……エドナ……っ……」

ゴンベエ「ぬぅお!?お前、いたのか!?」

アイゼン「金貨の、中に入って身を清めて……っ……」

ゴンベエ「スレイをぶん殴りに行った時と同じぐらいに泣いてるな」

アリーシャ「エドナ様はアイゼン様を助けたいのだが、自分が行けばどうなるか分かっている……だから私達に依頼したんだ」

アイゼン「様はやめろ……エドナ……」

ゴンベエ「人んちでボロボロと泣くなよ。で、横浜に行くつったってどうやって行くんだよ?まだ石油は見つかってねえだろ」

ユーリ「それなら任せな」

ゴンベエ「誰だお前!?」

ユーリ「オレはユーリ、ギルド、凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)の一員で今回のフェスに呼ばれてる」

ベルベット「エドナが私達以外に頼んだのよ。祭りの常連でアイゼンの死神の呪いを乗り越えられるのはユーリぐらいしか居ないから」

ユーリ「おいおい、消去法かよ……ま、引き受けたからには任せてくれよ。アイゼンを乗せる船なら持ってきてるぜ」

ゴンベエ「船で行くのか……」

ミラ・マクスウェル「心配はするな。死神の呪いがどれほどのものでも私達ならば乗り越えていく事が出来る」

ゴンベエ「ちょっと待て!あんた、別世界の住人だろう」

ルドガー「はは、それを言えばオレは2年後だけど……」

ユーリ「なにが起きるか分からねえからな、準備しておくに越したことはない」

レイア「私は死神の呪いを取材させてほしいから!」

セネル「オレも何回かは祭りに参加させて貰ってる。船の操縦は任せてくれ!」

ヒスイ「おう!!妹の為に別の道を通って横浜に行くってなら、例え祭りに呼ばれてないとしても幾らでも力を貸すぜ!」

ルドガー「オレは出演予定もちゃんとあるけど、どうも列車となると嫌な思い出が……」

アリーシャ「ルドガー、エルは?」

ルドガー「エルは列車組だ。彼処のメンツなら任せることが出来る」

ユーリ「ま、フレン達が居るから問題ないよな」

ゴンベエ「……いってらっしゃい?」

アリーシャ「なにを言っているんだ、ゴンベエ。ゴンベエも一緒に横浜に向かうんだぞ」

ゴンベエ「はぁ!?なんでだよ!?」

セネル「なんでもなにも、説明を聞いてなかったのか?」

ヒスイ「横浜に行くんだよ!」

ゴンベエ「こんだけのメンツが揃ってんだから、オレが参加する必要はねえだろう!」

ベルベット「文句言ってないで、行くわよ」

アリーシャ「もう出港の準備は済ませている。さぁ、祭りへ行こう!!」

ゴンベエ「だから、祭りってなんだよ!!」

アイゼン「祭りは祭りだ」

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