そしてテイルズ学園の校歌はノルミンダンスである。詳しくは自分で調べてね。載せていいかわかんないから。
──ピピピピ
「ん……朝か」
目覚まし時計のアラームの音に反応し、彼女は目を覚ます。
何時も通りの朝がやって来たと体を伸ばし、ゆっくりと意識を起こす……彼女の名前はアリーシャ・ディフダ。
政治家の家系であるディフダ家の隠し子みたいなものであり色々と重い設定があるのだが、今は関係の無い事なので割愛しておこう。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう……」
「顔を洗い、歯を磨きください」
「ん……」
金持ち街の大きなお屋敷である彼女の家には当然の様にメイドがいる。
アリーシャに朝の挨拶をするとメイドはカーテンを開けて朝の日差しを入れると寝惚けていたアリーシャは段々と意識を目覚めさせていく。
「今日はいい天気だ」
昨日は若干の曇りだった為に嬉しそうにするアリーシャ。
見事なまでの快晴の空の日はなにか良い事があるかもしれないと思いつつも身嗜みを整えに手洗い場に向かった。
「……あ、レイアからメッセージが来ている」
顔も洗い歯を磨き終えるとスマホを見るアリーシャ。仲の良いクラスメートであるレイアからメッセージが届いている。
【聞いて聞いて、大スクープ!】
「大スクープ?」
保健委員兼新聞部を兼任しているレイア。
学校の面白い情報を得たようだが、ガセネタを掴まされる事が多いが今度はなんだろうと思っていると続きのメッセージが届く。
【転校生がやって来るんだって】
「転校生が……」
転校生、それは他所の学校からやって来る生徒のこと。どうやってその情報を得たかはともかく、その情報が本当だったら面白いことは事実。
どんな人がどの学年にやって来るのだろうと想像を膨らましながら制服に着替えて朝食をいただき、学校に行く準備をする。
「お嬢様、車の用意が出来ました」
「……はぁ……ああ、直ぐに行く」
アリーシャの通うテイルズ学園はお嬢様お坊っちゃんが通う金持ち学校……ではない。
やたらと上流階級の人が多い学校ではあるがそこまで格式の高くない学校であり一般人も通っていて、アリーシャは車で通学をしている。
アリーシャはこの登校が嫌だった。学校の登下校には危険が付き物だったりするし、快適かもしれないが窮屈だ。人とは違うお嬢様で複雑な家庭だと理解しているが、レイア達の様に歩いて登校したいと思っている。しかしそれは叶わない夢……。
「転校生、誰だろう」
転校生を思い浮かべるアリーシャ。
テイルズ学園は初等部から高等部まであるエスカレーター式の学校、下の学年の生徒かもしれないが……出来たら同学年がいいなと少しだけ思う。
「ぬぅおおおおお!!」
「……え!?」
車の窓の外を眺めていると見たことにない男性が全力疾走していた。
通学路という事もあり法定速度はかなり制限されていて運転手も安全運転を心掛けているので車基準では遅いかもしれないが、それでもかなりの速度が出ている。そんな車と並走している彼を見てアリーシャは驚く。
「初日から遅刻はまずい」
必死になって走る彼。
車が信号に引っかかって止まると、彼は別の方向に曲がっていった。
「なんだったんだ……」
車と並走出来る人間なんてはじめてみた。
あれはいったいなんだったのだろうと窓の外を眺めてみるが既に男は居なくなってしまっている。見間違いかなにかかと思ったが、運転手も若干驚いているので見間違いではない。
なんなのかと深く考えてみるもののよくわからない。とりあえずはレイアに話す話題が出来たぐらいの感覚で納まる。
「今日は……なににしようかしら?」
場所は移り変わり、別の通学路。
ベルセリア荘に住むベルベット・クラウは今日の夕飯について考えていた。自分一人ならば適当に済ませるが甥っ子のライフィセットが一緒に居るので適当に済ませるわけにはいかない。こういう時はスーパーに行って食材の値段と相談するのが1番だと考える。
「やっべーよ、やべえよ」
曲がり角に差し掛かるとスマホを弄っている男がいた。
歩きスマホで前を見ていないからこっちから避けないといけないと思っていると男はスマホを見るのを止めて自分を見てくる。
「なぁ」
「……なに?ナンパならお断りよ。私、急いでるんだから」
「ちげえよ……テイルズ学園ってどっちだ?」
声をかけられたので警戒心を強めるベルベット。
稀に質の悪いナンパをされるので先に言っておいたが男の要件はベルベットのナンパではない。
「テイルズ学園ならあっちだけど……」
「ああ、あっちか。道、間違えてたみたいだ……」
はぁ、と大きくため息を吐いた男。
「うちの学校……なんの用事?」
アリーシャと違いベルベットはシャツだけで着崩しているが私服でなく制服のテイルズ学園。
男の着ている服はテイルズ学園の制服とは違う白色のブレザーで明らかに他校の生徒。
「用事って……まぁ、そりゃあ後で分かる。この道をグッと真っ直ぐ行けばいいのか?」
「違うわ、途中で曲がる……ついてきなさい」
男が何者かは分からないが、質の悪いナンパでない事は確かだ。
どうせ通学路なのでこのまま迷子になられても困るとベルベットは道案内をし、テイルズ学園に案内する。
「サンキュー、助かった」
「別に礼を言われる事なんてしてないわ。ついでよ、ついで」
「そこの君って、ベルベット!他校の生徒と連れ合ってなにをしているんだ!」
特び会話らしい会話はなく、辿り着くテイルズ学園。
男はベルベットにお礼を言うがベルベットにとってはついでのこと。お礼を言われるほどじゃないと軽く流していると生徒会のフレンがやって来た。
「こいつが来たがってたから連れてきただけよ」
「来たがってたって……君、何処の学校の生徒だ?」
「三途リバー仏学園だよ。聞いてねえって見たとこお前も生徒だから話は届いてねえか」
やっぱりと言うべきか他所の学校の生徒だった。
聞いたことのない学校の名前でベルベットはイマイチピンと来ていない。
「職員室、どっちだ?あ、高等部のな」
「高等部の職員室はこっちだが、君はいったい……」
「ついたら分かる……道案内してくれてサンキュー。これお礼だ」
おにぎりせんべいと書かれた小袋のお菓子をベルベットに渡すと男はフレンに連れられて職員室に向かっていく。
「……転校生かしら?」
「転校生ですか?そんな話は聞いてませんよ」
「エレノア……」
彼が何者なのかを考えて口にすると新聞部のエレノアがやって来た。
学園の情報を知り尽くしている情報屋のマギルゥ程とは言わないがある程度の情報を知っており、豊富な雑学も持っている。そんな彼女でも転校生については知らない。
「なんじゃお主達、知らんのかえ?」
「マギルゥ、知っているのですか?」
何者だろうかと考え込んでいると学園一の情報屋であるマギルゥが現れる。
なにかを知っている素振りを見せる彼女にエレノアは問いかける。
「知っておるぞー」
「彼、何者なんですか?」
「おおっと、タダで情報を売るほどワシは安くはない!」
「……学食のマーボカレーまん1つでどうですか?」
「随分と熱心ね」
マギルゥ相手に交渉とは無茶だとは思うが、それでも彼女は新聞部の一人である。
転校生の様な存在が何者なのかを気にならないのがおかしい。
「そうじゃのう……ベルベットがハトマネをしてくれるならいいぞえ」
「はぁ!なんで私がそんなことをやらなくちゃいけないのよ!」
やるならばせめてエレノアにさせること。
いきなり変な矛先が向いたのでベルベットは軽くキレるが、エレノアに宥められてなんとか落ち着くものの若干悪い空気を生む。
「どうせ転校生かなにかでしょ。後で分かるんだから、聞かなくてもいいわ」
「そう言われればそうなんですが……」
何者なのかは謎だが時期に正体は分かる。マギルゥ相手にこれ以上は付き合ってられるかと自分のクラスに向かって歩いていく。
「はぁ……社長に罰ゲームで汁を飲まされたと思ったら、なんで学園物の世界にいるんだろ」
廊下をトボトボと歩いていると物凄く落ち込んだ顔で歩く生徒……イクス・ネーヴェ。
このイクスくんはちょっと特殊な事情があるイクス(笑)もしくはイクス(仮)なのだが説明すると長いので割愛しておこう。
「イークス!」
そんなイクスくんの妻であるミリーナは笑顔でイクスに抱きつく。
「ぎゃあああああ!出た!?」
世界が変わっても彼女からは逃げられない。
イクスの平穏は一瞬にして崩れ去り叫び声をあげる。
「もう、どうしたのよイクス。そんな怖いものを見るような目で私を見て……」
「いや、怖いんですよミリーナさん!」
「イクスが怖い……いったい誰にイジメられてるの!ジェイド教頭?ジェイド教頭?ジェイド教頭?」
「なんでジェイドさん1択なんですか?」
「だって、ジェイド教頭、生徒の生き血を啜って若作りしてるって噂があるから」
「……ありえそうで怖い」
奴ならばありえる。否定する材料が少ないのがなんとも言えない。
ジェイドの恐怖に怯えているならばミリーナは躊躇いなくジェイドを殺りにいく。少なくともイクス(笑)の知っているミリーナとはそういう女だ。
「別にイジメられてるとかそんなんじゃありませんよ」
ただこの空気に馴染むことが出来ていない。
つい先程まで罰ゲームと言う名の死刑宣告を受けていたので、いきなりの転換に馴染めていない。
「ホント?」
「本当です……こういう空気の方が、まだ耐えれる……」
「あ、イクス!はい、今日のお弁当のおかずはからあげだからね」
「なんでミリーナさんが弁当を……これなに弁当だ?愛妻弁当?」
「もうイクスったら、戸籍上はまだ妻じゃないわ!事実婚よ!あ、でも紹介の時は彼女の方がいいかな」
「クソ、時空がねじ曲がってもミリーナさんがブレない」
とかなんとかやっているがやっていることは愛妻弁当を受け取っているリア充イクス。
本気で拒むとなにしてくるのかわからないので受け取るしかない……しかし、その光景は旗から見ればリア充にしか見えない。
「朝っぱらからなにやってるのかしら」
彼氏彼女の関係である彼等には日常茶飯事な光景だが見ているこっちが甘ったるくなってしまう。
「彼氏か……ロクなのいないわね」
あんなリア充に憧れることは無いが、ベルベットも花も恥らう乙女な年頃。
彼氏が居たらと言う妄想をしてはみるものの、よくよく考えれば周りにはロクな男子がいない。
部活動を熱心に取り組んでいるが成績が悪くて留年しているロクロウ、借金生活を送りアルバイトに勤しみ過ぎてるルドガー、初等部の生徒に抜群の人気を誇るが何処か緩いユーリに逆に規則正しく生真面目なフレン。全員顔とかは悪くは無いのだが、如何せん中身が残念だったりするのが多い。
「いや〜朝飯だけじゃ足んなかったからな」
「もう、リッドったら」
それはさて置き、この学校はリア充がかなり多い気がする。
先程のイクス&ミリーナは勿論のこと、園芸部の早弁のリッドとお節介のファラとかいい感じの空気を醸し出している。いや、彼等だけじゃない。
「クレスさん、最近暑くなっていますので水分補給だけでなく塩分補給も忘れないでください」
「うん……この飴、美味しいね。何処のかな?」
「実はそれ、手作りなんです」
「そうか……なんだか何時もより元気が出てきたよ」
剣道部のクレスと保健委員長のミントとか
「お〜い、ロイド」
「コレット、廊下を走ったら」
「きゃあ」
「おっと……大丈夫か?」
「うん」
工芸部のロイドとコレットとかとにかくリア充が多い。
油断をしていると甘ったるい空気に飲み込まれてしまいそうで油断がならない。
「ベルベット、おはよう」
リア充達を見てなんだか虚しい気持ちになったものの辿り着いた自分のクラス。
教室のドアを開けると黒板消しで黒板を綺麗にしているクラスメート、ミラ=マクスウェルがいた。
「おはよう」
挨拶をしてきたのでベルベットは軽く返して席につこうとする。
「なにをしている?今日は全校集会の日だぞ」
何時もの様に授業が来るまでボーッとしていようとする予定だったが、そうはいかなかった。
今日は全校集会がある日。よく見れば教室にいる生徒の数も少ないとベルベットは荷物だけ置いて全校集会が行われる会館に向かう。
「うちのクラスはお前達が最後か」
点呼を取っている担任のアイゼン。ベルベットとミラが来たので全員が遅刻する事なく揃ったと満足げな表情をし、上に報告してる。
「ミラ、ベルベット、おはよう」
「おはよう、ジュード。今日も元気そうだな」
「うん……あ、そうだ知ってる?転校生が来るって、レイアが言ってたんだ」
「転校生……ベルベット、知っているか?」
「……それらしいのは見たわ」
レイアの情報だから若干の不安があるものの、その情報を確かとする裏付けがあった。
今朝会った相手は転校生かなにかとベルベットは思っており、多分あいつの事だろうと考えていると全校集会が間もなく始まるとアイゼンに言われたので列を作り理事長の挨拶からはじまり校歌を歌う。
ノルミンダンスが歌われる。
「なんですか、この校歌……」
もっと山とか海とか定番のワードが出てくるかと思ったら、出てこなかった。
イクス(仮)は力が抜けていくが、テイルズ学園に通う生徒にとってこれは普通の事なので誰も疑問には思わない。
「え〜では、ジェイド教頭より交換留学生の説明を」
「おはようございます、高等部教頭のジェイドです」
校歌を歌い終わると各部活動並びに委員会からの報告があった。
何処の部活がいい成績を納めただなんだの定番から最近暖かくなってきたので熱中症に気を付けてね等のよくある報告が終わると高等部の教頭であるジェイドが壇上に立ち軽く挨拶をする。
「かの三途リバー仏学園と我がテイルズ学園は一部事業を提携する事となり試験的として三途リバー仏学園から交換学生がやって来ました」
「あいつ……」
「彼は……」
ジェイド教頭の真横にいるテイルズ学園の制服じゃない生徒に気付くベルベットとアリーシャ。
そう、彼こそが朝に自分の乗っている車より素早く走っていた男子、道に迷っていて通学路だったのでついでに送り届けた男子
「え〜ども。はじめまして……二宮匡隆です」
二宮匡隆であった……え、ナナシノ・ゴンベエじゃないかって?
いやいや、彼はナナシノ・ゴンベエだよ。読者ならばご存知かもしれないけど、二宮匡隆こそ彼の本来の名前だったりする。この世界線では彼は本来名乗るべき名前を名乗っている。ただそれだけである。
「……ちょっ、教頭、なんか気まずい」
一応の挨拶はしたが、それだけ?という感じの視線が向けられ、恥ずかしがる二宮。
「ならばもう少しちゃんとしましょう」
「ちゃんとってなんだよ……一発ギャグでもしろって言うのか?」
「いえ、ここでスベられては後の学校生活に響きます。貴方がするべきことは輝かしい経歴をアピールするぐらい」
「ざけんな、んな自慢しても嬉しかねえ」
「貴方の感情の問題ではないんですがね……と、言うわけで暫くの間、我が校で預かることとなりました」
交換学生と言えばもっと違う感じのイメージがあったのか二宮の態度にざわめく生徒達。
もっと良い感じの挨拶が出来たのにしなかった事にジェイド教頭は心底呆れてこれ以上は問題を起こす前にと素早く話を纏めて終わらせる。
「なんなの、あいつ……」
交換学生と言えばもう少し、それこそジュードの様な優等生が来るはず。
それなのになんだか態度が悪くて口も悪い、全校集会なのをお構いなしだ。
「彼が何者か……少なくとも転校生ではなさそうだ」
「レイアの情報、若干だけど間違ってたね」
転校生ではなく交換学生。レイアの情報は微妙に間違っていた。割とよくあることなので特に気にはしないジュード、今回は残念だったねとなるぐらいだ。
二宮の挨拶で軽くざわついたもののその後は何事もなく集会は進行して終了。高等部から徐々に徐々に解散していき、各々が各々のクラスに戻っていく。
「アイゼン、ニノミヤは何処のクラスに配属になる?」
教室に戻る傍ら、担任であるアイゼンに二宮について尋ねる。
あんな感じの挨拶をしたがミラにとっては然程気にする事ではない事で逆に何処のクラスに所属するのかが気になった。
「ふっ、聞いて驚くな……うちのクラスだ」
ミラの質問にドヤ顔で返すアイゼン。
それを聞いたミラは面白いといった顔をするがその横でジュードは心配そうな顔をする。あんな感じの挨拶をしてしまったのだから二宮に対するイメージは少しだけ悪くなってしまっている。
「うちのクラスか……」
隣でアイゼン達の話を聞いているベルベットはそうかと軽く納得をする。
「なにはともあれ新しい仲間が増えることは嬉しいことだ」
「……そう」
最初の出会いは意外だったが、それ以外に然程興味を抱かないベルベット。
教室に戻るとアイゼンが全員を着席させて暫くの間、クラスメートになる二宮を紹介する。
「先程ジェイドから説明があった交換学生の二宮だ……コイツは、スゴイぞ」
「なんで先生がドヤ顔なんすか」
「そう謙遜するな、三途リバー仏学園での活躍は聞いている。それと先生でなくアイゼンと呼べ。我がテイルズ学園はタメ口を推奨している」
「未来に行ってるな、この学校」
タメ口を推奨する学校なんて聞いたことがない、上下関係を緩くするところが増えてはいるが教師すら呼び捨てとは中々だ。
とはいえそれはそれで気楽なのも事実だと思っているとピンク色の魔女もといアーチェが手を上げる。
「アイゼン、質問タイムとかないの?」
「ふっ、そう言うと思って今日のHRはニノミヤの質問タイムに」
「やめろ、マジでやめろ……オレはそういうの面倒だから、しねえ。アイゼン、オレの席は何処だ?」
転校生がやって来たとなれば質問しまくるしかねえとウキウキ気分のアーチェだが二宮は乗らない。
興味はないと何処かの誰かさんの様にツンケンしていて取り付く島もない状態で、割と本気で嫌がっている。嫌がっている生徒に無理を言うものではないと質問タイムは強制的に中止となり二宮はベルベットの隣の席へと案内される。
「お前は……ありがとう」
隣の席に座っているベルベットに気付くニノミヤ
深くは声をかけず今朝の出来事に対してのお礼だけは言っておく
「なに?なんなの?なんのお礼なの?」
「別に、大した事じゃないわ」
迷子になっていたから道案内をしただけで、そこまでお礼を言われることはしていない。
ニヤニヤと笑うアーチェを軽く流すと授業が早速はじまった。
「……すぅ……」
「!……」
頬杖をつきながら目を閉じているニノミヤ。
開始して間もなく眠りに入ったのかとベルベットは軽く驚くが驚くだけで起きなさいといったことは言わない。寝るのも真面目に受けるのもそいつの勝手でありどうなろうか知ったこっちゃない。
「ニノミヤ、この問題は分かるか?」
無視して授業に集中していると二宮は当てられる。言わんこっちゃないとベルベットは黒板を見る。
ちょっとだけ真面目に考えれば答えられなくもない問題。当てられた二宮はパチリと目を開けて無言になる。
やっぱり聞いていない。ベルベットは寝ていた二宮にコッソリと答えを教えようとする。
「16cm3……」
しかしその前に二宮は答えた。
「正解だ」
途中式をすっ飛ばしてあっさりと答えた二宮。ベルベットは教えなくても良かったかと思えば二宮はまた目を閉じる。
余程眠たいのかと思ったら真面目にノートを取り続けており、変わった奴だと思っていると今度はベルベットが当てられる。
「えっと……」
【CFBE】
「……辺CFとBE」
「正解だ」
答えに戸惑っていると今度は逆に二宮から助け舟が出た。答えが書いてあるノートをコッソリと見せてくれてその通りに答えると正解だった。
「……ありがとう」
一先ずは助かったのでお礼を言うベルベット。
ニノミヤはそのお礼に対してはなにも言わずにコクリと頷くだけだが言葉は伝わった。
その後の別の科目も授業でも二宮は寝てるのか起きてるのかよくわからない感じで、担当の教師に当てられるとあっさりと答える。地頭は良いようだが英語だけは苦手なのか熱心に聞いて必至になって考えていた。
「変なやつ」
気付けば昼休み、半日だけ二宮を見たベルベットの口から出たのは変人だった。
アーチェの様に明るく自分を出しているわけではなく、ボーッとしているところがあったりする一言で現すのが難しい。アイゼンやジェイドがスゴイと言っていたがどの辺りがスゴイのかがイマイチ分からない。
「これは……こっちの棚の分だな」
場所は少し変わり、図書室。
初等部から高等部まであるテイルズ学園の図書室は絵本から専門的な本まで数広く置かれている。図書委員であるアリーシャは昼休みの空いている時間を利用して本棚の整理をしていた。
「新刊か……」
面白げな本は大体読み漁っているアリーシャ。
新しい本が入荷されている事に気付き手に取ってパラリと開く。どんな内容なのかチラリと確認をしてみると外から風が吹いてくる。
「たまには外で本を読むのもいいかもしれない」
ポカポカと暖かくなってくる今日この頃。
図書室内に引きこもって本を読むのも悪くはないのだが、外に陽気な日差しを浴びながら本を読むのも悪くはない……そう考えていたその時だった。
「くっそ、しつけえな」
「!?」
二宮が勢いよく図書室のドアを開いた。
自分一人だけで静かだった図書室に突如として大きな音がしてビックリするアリーシャ。何事かと振り向くと二宮がいたので驚く。
「君は確か……」
「っち、人がいやがったか。悪ぃんだけど、オレが来なかったって言っといてくれ」
「……?」
なんの事だと首を傾げるアリーシャ。
二宮はマズイと焦り出したかと思えば本棚の上に立って天井にヤモリの如く張り付いた。
「こっちだ!」
「レイア、どうしたんだ?」
二宮が張り付いた頃にやって来たのは新聞部のレイア。
アリーシャの友達であり、何処か興奮していてアリーシャはなにがあったのかと尋ねる。
「アリーシャ、交換学生のニノミヤ見なかった?こっちに逃げてきた筈なんだけど」
「えっと……」
天井にチラっと目を向けるアリーシャ。
二宮は強く睨みつけて言うんじゃねえよと軽く威圧をしてきた。少しだけ怖い。
「見てはいない」
「おっかしいな……」
「レイア、強引な取材はやめた方がいい」
レイアに追っかけられているのを見てアリーシャはなんとなく察した。
レイアは気さくで明るいのだがイケイケドンドンなところがあり、勢いに身を任せたりする。新聞部としてスクープが欲しいのだろうが、些か強引な取材をしようとしてしまった。
「強引じゃないよ。取材したいって言ったら向こうが逃げたの」
「逃げた?」
もう一度天井をチラ見するアリーシャ。事実だと言わんばかりに二宮は頷く。
「折角スゴイ人だから新聞の一面に乗せる事が出来ると思ったのに……」
「スゴい……ジェイド教頭もなにか言っていたが、そんなにスゴいのか?」
何処となくやる気が無さそうでとても凄そうには見えないニノミヤ。
レイアはちょっと待ってとメモ帳を取り出す。
「アリーシャ、三途リバー仏学園ってどんなところか知ってる?」
「いや……」
「ちょっと調べてみたんだけど自由な校風で実力主義なところがある超エリートな学校で部活動とかも盛んで一昨年がバスケ部がインターハイと総体とウィンターカップの三冠と天皇杯を優勝して、去年はサッカーの夏と冬を制覇して現役高校生の日本代表を排出したんだ」
「それは随分とスゴイな……」
「それだけじゃなくて学生起業した社長とかも色々といてとにかくスゴイ学校でね、ニノミヤは滅茶苦茶凄かったの!」
「そんなにか?」
「うん!一昨年のバスケで日本一になったチームのレギュラーでMVP選手に選ばれてるし、去年のサッカーだと得点王にもなってる……それだけじゃなくてSASUKEにも出場して完全制覇したんだよ!」
ほらこれ、その時の動画と携帯を見せてくるレイア。サッカーの事は詳しくは知らないが5ー0と大差をつけており圧倒している。
彼だけが強いのでなく彼のチームのキャプテン、吹雪士朗も良い感じの動きをしていて全国大会の決勝とは思えないぐらいだ。
「スゴイな、彼は」
「でしょ!なんとしてでもニノミヤの事を記事にしたいんだ」
「そうか……だが、ここには彼はいない。探すなら他の場所を、部活棟辺りにいるかもしれない」
「うん!そっちの方に行ってみるよ!スクープを入手したら新聞、見てね!」
すまない、レイア。
騙してしまった事に僅かばかりの罪悪感を抱きながらもレイアを図書室から追い出すと天井にしがみついている二宮を見る。
「もう大丈夫だ」
「ふぅ……助かった。他の奴等は撒けたけどアイツだけしつこくてな」
「レイアは体力自慢の新聞部だから……だが、悪くしないでくれ」
スクープは自分の足で掴み取るもの。昔ながらのゴリッゴリの体育会系の少女であり、時折勢いに任せたりするところがあるが悪い人ではない。
その辺りについてアリーシャはフォローを入れるが二宮は特に気にしていない。興味を持っていないと言ったところか。
「それにしても君はスゴイな」
ニノミヤの輝かしい経歴に目を輝かせる。
テイルズ学園にも運動神経抜群の生徒は多々いるが、ニノミヤの様に色々と受賞している生徒は中々にいない。
違う競技でインターハイを総ナメにしているとると多分居ないのだが、1年で異なる競技をしているかどうかをアリーシャは疑問には思わない。
「そんな褒められるもんじゃねえよ……どいつもこいつも雑魚ばかりで張り合いが無かっただけだ」
褒められる事なんて全くしていない。
アリーシャに対して適当に二宮はあしらい、机の上に積まれている本を一冊手に取って読み始める。
「本を読むのか?」
「んだよ、そんなに意外か?」
「えっと……外で体を動かしてそうな感じだから」
「はぁ……オレはんな高尚な存在じゃねえよ」
レイアの話を聞く限りはスポーツマンっぽい二宮。
休み時間も練習とかに費やしたりしているイメージを抱いてしまったが直ぐに違うという。
「オレは赤司や天王寺の旦那みたいな感じじゃねえ……ブッキーみたいなタイプでもねえ」
「……?」
「……お前には関係無い話か。まぁ、なにはともあれ助かった。なんか手伝うことがあれば手を貸すぜ」
アリーシャが居なければ今頃はレイアと鬼ごっこを繰り広げていた……まぁ、彼ならば絶対に捕まることはないのだが。
とにかく受けた恩は返すと何処か義理堅い一面を持つ。
「なら、この本をこっちの棚に持ってきてくれないか?」
「はいよ」
分厚い本の数々をあっさりと持ち上げる二宮。
自分も自衛の為だとそこそこ体は鍛えているがスポーツをやっていて本格的に体を鍛えている人は違うなと思いつつも二宮と同じ量を持ち上げようとする。
「あ、おい、やめとけ」
「これぐらいならば、軽い──きゃっ!?」
自分が持つのとアリーシャが持つのでは訳が違う。
自分は大丈夫だとアリーシャは二宮と同じ量を持ち上げるのだが、何冊も積み重ねている本、ただ重たいだけでなくばちゃんとバランスを取ってなければ倒れてしまう。
「っと……だからやめとけつっただろう」
アリーシャが落としそうになる本を全てキャッチする二宮……極々自然とアリーシャと顔が近付いてしまう。
「っ……す、すまない!」
いきなり二宮の顔が近づいたことに顔を真っ赤にするアリーシャ。
直ぐに二宮との距離を置くのだが心臓はバクバクといっているのが分かる。
「無理も無茶もすんじゃねえぞ……見たところ一人だし、重たい物は任せ──」
「ああ!やっぱり図書室にいた!」
ゆっくりとしていろ。
そういう前にレイアが戻ってきてしまった。アリーシャに上手く誘導されたと思ったが、上手くはいかなかった。
「っち、余計なのが来やがった」
「もう逃げないで!貴方の事を取材したいだけなの!」
「それが嫌だっつってんだろうが!何回言わせたら気が済む!」
「なんで?」
「……それはまぁ、アレだ……とにかく色々とあるから取材NGだ」
「意味が分かんない!」
とにかく取材は受けるつもりはないと拒否する二宮。
何時でも逃げれる準備をするのだがレイアは入口のところに立っている。
「絶対に逃さないよ」
入口に立っていれば逃げることは出来ない。
レイアはジリジリと二宮を追い詰めた……かの様に見えた。
「秘技、図書委員ミサイル」
「え、ちょ──きゃあ!?」
ここで終わるほど、二宮という男は甘くはない。
アリーシャの手を掴んでレイアに向けてぶん投げてレイアを無理矢理倒す。
「窓からの逃亡でもよかったが、お前は物理的にどうにかしておかねえとしつこいからな……じゃあな、図書委員」
「むぎゃあ!?」
レイアの顔を踏みつけて逃亡する二宮。
踏みつけられたレイアはグルリグルリと目を回しており、アリーシャが程よい重しとなっていた。
「……」
何処か破天荒な人間だったものの、悪い人とは思えないニノミヤ。
たった十分そこらの出来事だったが印象的でアリーシャの頭から離れない
「……名前、名乗り忘れた……」
ただ1つ、自己紹介をするのを忘れてしまったことにアリーシャは少しだけ後悔をした。
テイルズ学園(笑)設定
テイルズ学園
テイルズオブのキャラクター達が通っている学校。
初等部から高等部まであり年齢を気にしてはいけない生徒も何名かいる……年齢は絶対に気にはしてはいけない。ベルベットとか19とかアリーシャ、アニメだと21とか言っちゃいけない。リア充と上流階級が多い。
三途リバー仏学園
完全実力主義の超エリート学校。
毎年多くの自主退学の生徒を出す反面、学業から部活動等の様々な分野で好成績を納めており卒業できた生徒の多くは大成している。
二宮匡隆
三途リバー仏学園からやって来た交換学生。
バスケのMVPを取ったりサッカーの得点王になったり、SASUKE完全制覇したり、100mを9秒台で走ったりと体を動かすことに関しては天賦の才能を持っている。しかしテイルズ学園にやって来てからはあまりスポーツをやらない。
慢心する事なく真面目に取り組んでも殆どの人間がついてくることが出来ないだけでなく、相手がラフプレーで潰しに来たり試合中にやる気を無くしたりする事が多々あり、マスメディアが求めている言葉を滅多に言わないし態度が悪いので一部方面から嫌われている。
成績は提出物の悪さと英語の低さで中の上ぐらいで真面目にやれば上の下で授業さえ聞いとけば英語以外のテストはどうにでもなる。体育は学年1位とのこと。関西出身で時折方言が出る。
アリーシャ・ディフダ
政治家の家、ディフダ家の人間だが正式な妻ではなく浮気で出来た子供で母親は早くに死んでいる。
浮気で出来た子供とはいえ一応の子供なのでちゃんと面倒は見ているが、父親は全くといって会いに来ない。大きなお屋敷と幼い頃から一緒な使用人達と共に暮らしており、馴れてはいるが寂しい思いが心にはある。
テイルズ学園では図書委員の副委員長を努めており、成績優秀である。フラッとやって来る二宮の相手をする。ラッキースケベは中々起きないが色々とトラブルに巻込まれたりする。女子力は相変わらずない。ベルベットとは別クラス
図書委員は負け犬属性とか言っちゃいけない
ベルベット・クラウ
弟と姉の死のダブルコンボをくらって精神に異常をきたして味覚障害になっている家庭科部の部長。
容姿端麗で女子力が高く、モテなくはないのだがツンが圧倒的に強く一部生徒からは怯えられており、ベルセリア荘と言われる荘に住んでいて、ライフィセット達(ベルセリア組)と暮らしている。
初日に遅刻しかけた二宮と出会い、隣の席になるというラブコメ的な展開になり、ブラっとやって来た二宮にキッシュやプティングをあげたりしている。成績は中の下。ラッキースケベは多分起きる。
イクス・ネーヴェ
テイルズオブザレイズの主人公であるイクス(笑)
罰ゲーム用にと作られた試作のドリンクを飲まされた結果、気付けばテイルズ学園にいた。トラブルには割と馴れてはいるもののミリーナに対しては若干怯えている。世界が変わってもミリーナを本気で拒んだりすれば自殺しようとするので出来ないが元の世界では普通に彼女が居たので色々と悩んでいる。成績は上の上。
ジェイド・カーティス
高等部の教頭。生徒の生き血を啜って若作りをしていると言われている。
なお、ジアビスの世界は1週間が14日ぐらいあり我々の世界での計算をすればビックリするぐらいに歳を食っている。
ミラ=マクスウェル
ベルベットのクラスメートでツンケンしているベルベットに物怖じせずに声をかける事が出来る。成績は普通
ジュード・マティス
ベルベットのクラスメートで弱腰に見えて意外としっかりしている。成績優秀でレイアの幼馴染だがレイアとのフラグは無さそう。
レイア・ロランド
アリーシャの友人で新聞部と保健委員を兼任している元気っ子。気合と体力でスクープをものにしようとするが踏み入れてはいけない領域に踏み入れたりする危ないところもある。掴んでくるネタが若干間違ってたりガセネタだったりする。
アイゼン
ベルベット、ジュード、ミラ達の担任。担当は地歴公民等の社会全般。
昔流行った間違った知識を多く持っており、本をよく読んでいるメンツからそれ違いますと結構な割合で指摘される。
番外編
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異世界プルルン転生記
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テイルズ学園
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総力戦 決戦KCグランプリ