テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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夜明け前

 ゴンベエがやって来てどれぐらいたったのだろうか?

 一年もたってはいない、だが、とても長く一緒に居た気がする。

 

「ゴンベエ」

 

 今日も今日とてゴンベエはレディレイクにやって来た。

 何処で入手したか教えてくれない炭酸水を使って作ったコーラや暇潰しと作ったお菓子や雑貨品を持って。

 

「アリーシャか…コーラは樽単位で売らんぞ」

 

 酒ではなく、子供でも飲むことが出来る物として知られて圧倒的な安さを持っているコーラ。

 司祭や礼拝に来た街の人達に配った事がよかったのか、あっという間に噂は広まり何時も売り切れに。作り方や原材料を教えて欲しいと言う商人もいるほどだが、ゴンベエは一度も教えずにこの街でコーラを売っている。何処かの下戸の貴族が気に入って水瓶ごと購入しようとしたらしいが、それはダメだと纏めて売ることはしない。

 

「そうじゃない…だが、一杯買うよ」

 

「毎度あり…で、どうしたんだ?」

 

 コーラを入れた容器を渡してくれるゴンベエは、私になにがあるんだと気付く。

 面倒臭そうにしながらも、私の話を真剣に聞こうとしてくれている。

 

「…旅に出ようと思うんだ」

 

「旅ね…聖剣祭があると此処以外の街に告知しにいくのか?」

 

「それもある、それもあるが…一番は、導師に纏わる遺跡の調査だ」

 

 ライラ様と言葉を交わす機会は少なかった。

 だが、文字による会話をすることで、色々と聞くことが出来た。100年、200年も前に導師が実在し旅をしていたことを。この国で見つかる古代の遺跡は導師に力を貸していた天族を祀るものだったりする。

 

「もしかすると、古代の遺跡に今の災厄の時代を終わらせるナニかがあるかもしれない」

 

「お前は導師でもないのにか?」

 

「っ……ああ」

 

 災厄の時代の原因は、人の心の闇が生み出す穢れ。

 その穢れをどうにかするには導師の…ライラ様の浄化の力が必要だが、私は導師になれない。裸眼で天族を見れない私は、導師になることは出来ない。ゴンベエの様になにもなく言葉を交わし素で見れる人でないとなれない。

 

「導師が現れるのを待っていては、いけない。自分から切っ掛けを探さないと」

 

「…そうか……」

 

 遥か昔は天族と人が一緒に生活していた時代もあった。

 その遺跡に関する謎が解ければ、もしかするとという可能性もある。それと同時に多くの天族の方にお会いしたい。この街にいる天族はライラ様だけで、他に知っている天族はエドナ様だけだ。そのエドナ様は都合の良い時にだけ天族に頼る人間を嫌っていた…きっと、多くの天族もそう思っているのかもしれない。

 

「ゴンベエも来てくれないか?天族の方々に出会って、色々と聞いて…世界を見てみないか?」

 

 この街と家を往復する以外で何処かの街に行くことも無いゴンベエを誘う。

 決してまことのメガネが欲しいから、それだけの為にとは一切考えていない。

 

「ゴンベエがついてきてくれれば、心強い」

 

「やだよ」

 

「……」

 

 口が悪かったりするが賢いゴンベエ。彼が一緒に来てくれたら、とても心強い…が、即答だった。本当に嫌そうな顔で、深く考えることなく即座にゴンベエは答えた。凄く残念な気持ちになるが、心の何処かでアッサリと断ると思っていたのでそこまでは辛くない。

 

「オレはそう言うのパスだよ。世界を救うとか、柄じゃないし…例え何かを見つけたとしても、それで世界は救えない。前にも言った気がするが、騎士じゃ世界は救えない。弱いものを守ることは出来ても笑顔にできない」

 

「…ゴンベエは本当に酷いな」

 

「言い過ぎた感じはあるが泣きそうな顔はしないでくれよ」

 

 私の今までの全てを否定する事を言うからだ。

 泣きそうになる私を必死になって宥めてくれるゴンベエには何処か暖かみを感じる。

 

「…あ~…旅に出るなら、道具貸そうか」

 

「道具だなんて、そんな」

 

「いや、万が一とか恐ろしいからな」

 

 旅と言っても一月ぐらいの旅だ。

 それぐらいならば騎士団の遠征で馴れているとゴンベエから道具を受け取るのを断ろうとするが、ゴンベエは手を止めない。袋から銀紙に包まれた棒の様な物とガラスで出来た少し変わった銅線がついた球体の様な物を取り出した。

 

「遺跡がどの辺にあるかは知らないが、地下深くに眠ってる可能性が大きい」

 

「確かにその可能性が大きいが…それは」

 

 いったいなんだろう?

 それを聞こうとする前にゴンベエは小さい箱みたいな物とスイッチな様な物を取り出し、ガラスの球体の様な物から延び出ている銅線でスイッチな様な物の金属部分に空いている小さな穴と箱の様な容器にある片方の小さな穴に結び、それとは別の銅線を取り出して、箱の容器のもう片方の方にある穴に結んだ。

 

「はい、スイッチON」

 

 ゴンベエは結び終えると箱の容器に銀紙の筒を入れてスイッチを押した。

 金属と金属がくっついておらず、それをくっつけるだけのスイッチ…それなのに、それなのに

 

「綺麗…」

 

 思わずそう言ってしまった。

 スイッチを押すと、この街の街灯よりも炎よりもハッキリと鮮明な光がガラスの球体から放たれていた。こんな綺麗な灯りがあったのかと思うほどに美しかったが、直ぐにそれは消えた。

 

「コレなら陽射しが入らない暗いところでも使えるし、松明やランタンよりも安全だ……って、おーい」

 

 ゴンベエがくっついていた金属を放したから、スイッチをオフにしたから消えた。

 

「コレはいったい…」

 

 炎よりも明るい光を放つ装置に私は興味を向ける。

 

「あ~…深く考えない方が良いぞ?あくまでも灯りがつく便利な道具って認識で良い…それ以上は深く考えるな…いや、本当にマジで。オレが渡すのは便利な道具、遺跡に行くから貸してくれたラッキー。その程度の認識で良い…うん、本当に」

 

 蝋燭によるものでも動物性の油によるランプでも無い。

 生まれてはじめてみる不思議な物に疑問を抱くがゴンベエは深く探らないで欲しいと念を押す。

 

「大丈夫なのか?」

 

「安心しろ、ヤバい物は入っていない。前にエドナの兄が残した物で出来ているから…流石にガラスとかは無かったから、その辺は自分でどうにかしたが」

 

「…アレがコレに?」

 

 一部の鉱石以外はなにも分からないエドナ様の御兄様が残したもの。

 この不思議な物に成り代わると言うのは少し信じがたい。だが

 

「ありがたく使わせてもらう」

 

 コレが旅に役立つ事は確かなのだろう。

 

「おお、使え使え。それと変な病気に掛かると怖いから、抗生物質もやるよ」

 

 今度は茶色に近い赤色の粉を渡してくれる。抗生物質…!

 

「これは、青カビのはえたミカンの粉か!?」

 

「よく覚えてたな」

 

 青カビのはえたミカンを探していると随分と前に言っていた。

 抗生物質と言うものを作りたいからと…となると、コレは青カビのはえたミカンと何かを混ぜ合わせた物なのかもしれない。

 

「そっちの方は断念した。青カビのはえたミカン一個じゃなくて、十個ぐらい必要だし…何よりも、青カビのはえたミカンで薬作るのは人海戦術になる…一部命懸けだったが、別の方にした。とにかく、余程の病気じゃない限りはそれで治るはずだ」

 

「いったい、青カビでなにを」

 

「そこは知らない方がいい…この薬の原材料と同じくな。本当に危ないなと感じた時だけこの薬を飲んでおいた方がお得だ…」

 

 青カビのはえたミカンの意味を知らぬまま、抗生物質と呼ばれる薬を受け取る。

 色からして薬のようなものだが、どういう風に出来ているのかは教えてくれない。だが、ゴンベエの作る物は本物なのだろうと、もし病気になったら飲んでみようと懐にしまった。

 

「で、最後に」

 

「まだあるのか」

 

「安心しろ…コレは誰にも渡さない、お前だけの物だよ」

 

 ゴンベエがそういい差し出したのは長方形の箱。

 ただの箱でなく開けることが出来るので、ゆっくりと開けると中に眼鏡が入っていた。虫眼鏡でも片眼鏡でもない、一番有名な両眼鏡と眼鏡拭きが入っている。

 

「ゴンベエ、これは」

 

 受け取るわけにはいかない。

 確か、エドナ様の御兄様が水晶を残していた。それを材料にして作れるが、高級品の眼鏡を受け取るわけにはいかない。なによりも、私はそこまで視力が悪いわけでなく普通の裸眼でも充分に見れる。

 

「ちげーよ、普通の眼鏡作るなら事前に視力検査するわ。それは壊れたまことのメガネをベースに作っている天族見るための眼鏡だ」

 

「まことのメガネを!?」

 

 天族の方々を捉える事の出来る不思議な虫眼鏡。一つ壊してしまったのが、こうして生まれ変わったのか。

 

「こう言う好意には甘えておけよ。破片の一部を眼鏡作る際にぶちこんだだけだから、そこまで手間暇かからない」

 

「そうか…それなら、ありがたく使わせてもらう……眼鏡を作る際にぶちこんだ?」

 

「この国の眼鏡は水晶眼鏡か?こんなもん焼いた海草に貝殻を粉にしたものと、珪砂と鉛を混ぜれば出来るぞ…あ、無し。今の、無し。」

 

 ぶちこんだと言う事に疑問を持つと何気にとんでもない事をサラッと語る。

 この国とゴンベエの国の文明の差が一目で分かってしまう事だが、手を交差し×の字を作るのでこれ以上は聞かない。

 ゴンベエの言っている事が本当ならば眼鏡が高級品でなくなり誰の手にも入るようになるが、そうなると大変な事になりそうだ。

 

「まぁ、世界中とは言わねえが色々と回るんだ。取り敢えず何らかの成果ぐらいは出してこいよ…特に、コレがあるんだから」

 

 ゴンベエは眼鏡が入った箱を見る。霊応力の弱い私は天族の姿を見ることも声を聞くことも出来ない。だが、この眼鏡があれば霊応力の弱い私でも天族と触れあえるようになる。

 

「期待して、待っていてくれ」

 

 コレだけの物を受け取り、なんの成果も上げられないのは騎士の恥だ。

 後日、私は旅に出た。導師の伝承を調べるために、各地で聖剣祭が行われる事を商隊や村や町の人達に伝えに。だが、現実はそんなに甘くはない。こんな時に聖剣祭をするだなんて舐めているのか、金食い虫と罵られた。天族を祀っているとされる場所に向かい、眼鏡をつけてもそこには天族の御方が一人もいない。

 

「…」

 

 何処に行っても罵られ、希望となる災厄の時代を終わらせる切っ掛けを見つけることが出来なかった。

 もうすぐ聖剣祭がはじまると言うのに、コレではまことのメガネの欠片を眼鏡にしてくれたゴンベエに申し訳ない。

 

「綺麗…」

 

 余り行ったこのないアロダイトの森の奥をさ迷い、抜けるとそこはとても綺麗な山岳地帯だった。

 黒く淀んでいたレイフォルクと真逆、白い雲に満天の青空…空気が気持ちよくとても心地良い。

 

「レディレイクもこんな所なら…」

 

 あくまでも眼鏡では見たり聞こえたりするだけで、災厄の原因である穢れを感じ取れない。

 だが、分かる…此処には穢れが存在しないのを。なんとなくだが…レディレイクと雰囲気が異なる。清らかな空気を吸い生い茂る木々は延び延びと育っている。森を抜ける前と後ではなんとなくだが違うのが分かる。コレがレディレイクならば…

 

「いや、ならばではダメ…レディレイクも此処と同じように頑張らなくちゃ…あ!」

 

 心機一転しようとすると思わず女言葉になってしまった。

 いかんな、まだまだ頑張らないといけないのにコレでは。

 

「…コレは!?」

 

 山岳地帯を歩き、なにか無いか探していると、こんな人気も何も無いところに明らかに人工的に作られた場所に辿り着く。

 

「古代の文字…遺跡なのか…」

 

 近くにあった石碑に触れ、刻まれている文字を見る。刻まれている文字を読むことは出来ない…だが、これと似たようなものは何度も見かけたことがある。古代の事が記されている石碑で、天族を祀る祠で見かける。

 

「此処は天族を祀っていた場所、なのだろうか…」

 

 槍を握り、ゆっくりとゆっくりと奥へと進むと遺跡らしさが出てくる。

 一部が壊れてしまっている銅像を見かけたので、此処が天族を祀っていたものだと思うのだが…

 

「どうしてこんなとこ、がぁ!?」

 

 何故この様なところにこの様な場所があるのか?そう疑問に思おうとしたその前に、眩い光が私を襲い、私は意識を失った。





スキット そんなに…

ゴンベエ「アリーシャ、大丈夫だろうか?」

ライラ「大丈夫ですよ、アリーシャさんは心身共に強い御方です」

ゴンベエ「いや、あいつ案外弱いぞ」

ライラ「え?」

ゴンベエ「オレ以上に戦闘力に振ってるから、女子力が無い。生活力ってなんだっけとなるレベル」

ライラ「女子力、ですか?」

ゴンベエ「生まれて始めてみたぞ、おにぎりで失敗するやつ…」

ライラ「ま、まぁ…アリーシャさんは料理をする機会はありませんので」

ゴンベエ「それに、アドリブに弱い。咄嗟に嘘とかつかないといけない時に上手く演じれないし、口下手なところある」

ライラ「それだけ正直者と言うことです」

ゴンベエ「天族に出会って、生け贄にされたら」

ライラ「なりません!私達天族は人を器にこそすれど、供物になどしません!」

ゴンベエ「器って…いやでも、天族である事を盾にしてあんなことやそんなことを…もしくは天族を盾にされて、くっころな」

ライラ「それもありま…ザビ…ええ、ありません」

ゴンベエ「おい、待て。なんで、そこで間が空いた」

ライラ「そこまで心配をするなら、ついていけば良かったじゃないですか…」

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