「……」
「あ、よかった!!」
「!?」
遺跡で眩い光に当たり、意識を失った私が違和感を感じながら目覚めると見知らぬ男性が目の前にいた。
「っ!」
「…ん?ああ、コレだね」
人気の無いところにいる彼に驚きながら身を引くと槍が無いことに気付く。
何処だと探すと彼が私の槍を渡してくれた。
「え~と…あ、そうか。名前か。俺はスレイ」
「スレイ…」
「うん、よろしく」
彼が遺跡に関する学者か何かかと思ったが、聞いたことの無い名前だった。
彼はいったい何者なのだろうか?
「スレイ、この辺りに落ち着ける場所は無いだろうか?そろそろ都に帰らないといけないから準備をしなければならない」
「都から来たの?」
「…どうだろう?」
こんな事を言ってはいけないのは分かっている。
しかし、スレイが何者なのかは分からない以上は下手に名乗ることの出来ない。
「それだったら、うちの村に来なよ!」
「いいのか…その、余所者がやって来て」
この近隣に村らしいものは存在しない。
だが、スレイは村と言っている…恐らく、今のハイランドと関わりたくないと思っている人達が集う村なのだろう。
現にゴンベエもハイランドに関わるのが嫌だと一線を置いて、ハイランドのどの町にも村にも住んでいないと言っていた。
「…困っている人に余所者もなにもないよ。そんだけ」
「…尋ねないのか、私の名を」
もしかすると、住んでいる所で最も招かれざる客じゃない客かもしれない。
私を連れていった時点でスレイが村八分にされる可能性もある。
「君にも君の事情があるんでしょ?少なくとも、俺は君が悪人に見えないよ」
「スレイ、重ねて感謝する」
「……うん」
「どうした?」
やけに遅れて返事をするスレイ。
なにかを、私が何者なのかを考えているのだろうか?
「いや、なんでもないよ」
「そうか」
「とにかく、一度外に出よう。こっちだよ」
スレイの案内の元、遺跡の外へと向かう…のだが
「っ、無い!?」
「どうしたの?」
目覚めた時からの違和感がやっと分かった。
ゴンベエから貰ったまことのメガネの欠片で出来た眼鏡が無くなっていた。
「その、眼鏡が」
「眼鏡、あ~……」
困った顔をしたスレイは頬を人差し指でかく。
なにかを知っているようで、なんだろうと思っているとポケットから割れた眼鏡を取り出す。
「眼鏡が」
「その、君が倒れているとこの直ぐ近くに落ちていたんだ。粉々だったけど」
「まずい…」
「え、あ…もしかして、君、目が悪いの?」
ゴンベエから貰った眼鏡が壊れているのを見て、顔を青くすると慌てるスレイ。
君が悪いんじゃない。全ては私の不注意によるものだ。拾っていてくれただけでも、ありがたい。
「私は目が悪いわけではないんだ。その、この眼鏡は旅立つ際に貰った物で、壊したとなると」
「…カミナリが落ちるんだね」
事細かな事を説明せずに大雑把な説明すると目線をそらすスレイ。
カミナリ…落ちるな…大事にしろと手間暇かけて作った眼鏡が一ヶ月も満たない間に壊れたならば確実に落ちる。下手をすれば二度とまことのメガネを貸してくれない可能性も出てくる。
「お金…いや、ダメだ。ゴンベエはお金よりも変な物を要求する…住むところは嫌がるし」
「と、取り敢えずいったん、此処を出よう。もしかしたら、なんとかなる…かも…」
「ああ」
なんとかなるだろうか?
ゴンベエ曰く眼鏡のレンズは焼いた海草や貝殻を混ぜていると言うが…そんな物はこの山奥では手に入らない。確実になにか言われると思いながらも、外に出ると気持ちが変わった。
「なんという美しさだ…」
来た道とは違う所から出ると、更に美しい場所に出た。
「大陸中がこの様な場所ならば、天族の皆様もお喜びになるかもしれない…」
その為には頑張らなければ…
「へぇ、ホントに天族って呼ぶんだ」
「なにかおかしいのだろうか?」
信じているか信じていないかはともかく、ゴンベエ以外は天族と呼んでいる。
ゴンベエは自身の国では神様を天族とは呼んでおらず、名前で呼んでいたりもたらす加護+神様とつけて呼んでいるらしい。
「神、霊、魑魅魍魎と言った姿なき超常存在を人は畏敬の念を込めて、天族と呼ぶ…でしょ?」
「それは…天遺見聞録の引用…」
神話に伝わる人と天族の歴史が残された古代遺跡を巡り、その謎に迫った人物が記した旅の記録が書かれた書物。
それの引用をしていることに気付くとスレイは栞が挟まった天遺見聞録を見せた。
「君もそれを読んだのか」
「君もってことは」
「ああ、幼い頃に何度も読んだ…」
そしてそれは本当だった。
ゴンベエに出会うまでは半信半疑だったが、この目で捉えれなかったが見ることが出来た。声を聞くことが出来た。言の葉を交わすことは出来ないが、文字による会話をすることが出来た。
「っと、俺の住んでる所はもう少し歩くよ」
「了解した」
他愛の無い会話をしながらも、私は歩く。
美しい景色に意識を奪われずにスレイの後を追う。
「?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
家らしき建造物が見えるところに来た瞬間、なにかが変わった。
それがなにかは分からない。だが、不思議となにかが変わった気がした。
「…」
それと同時に感じる。一つや二つなんて生易しいモノではない、無数の視線を。
無数の視線は突き刺さる…余所者がやって来たと異物を見るような視線…だが、貴族や王族の社交界で感じる悪意の様なものではない。
「うん」
「スレイ?」
先程から一人言が多いスレイ。
まるで何処かを見ながら会話をしている様で、前を歩く。
「皆、来て。紹介するよ」
この場にいるのはスレイと私だけだが、視線を感じる。
私を警戒して家に隠れている…そう思ったが違う。スレイはまるで人と話し掛けている様に後頭部に片手を置いて笑う。
「これが杜で暮らす、俺の家族」
自信満々に自慢気に語るスレイだが、そこには誰もいない…コレは、まさか!!
「スレイ…」
「え~っと」
「その家族に、コレを持たせてはくれないか?」
似ている。この状況とあの日の…ゴンベエと出会った日の出来事と。
似ているだけでなく、もしそうだとすればあの日と似たことを再現すれば良い。
「コレは?」
「それは…灯りをつけるものだ…その家族に持ってもらってはくれないか?」
名前が分からないゴンベエから貰った灯りをつけるガラスの球をスレイに渡し、頼む。
会って間もないがスレイは悪人でない純粋な人間で、私に嘘をついていない、嘘をつきそうにない人物だ。だからこそ…そうであってくれと願った。
「えっと…コレで良いの?」
スレイはゴンベエから貰ったガラスの球を浮かした。
「…あ、ぁあああああ!!」
「ど、どうしたの!?」
それを見て、理解できた。
スレイが何処かに向けて語りかけているのを、私に向けられている視線が沢山あるのに人の気配もなにもないのを。
どう言った原理でガラスの球が浮いているのを…今までの旅が報われた。ハイランドを渡り歩いたのは無駄ではなかった。
「そこに…天族の、しかも沢山の方々がいらっしゃるのですね」
「そうだけどって…え!?」
ゴンベエがやって来た日、ゴンベエだけがライラ様の姿を捉えていた。
声も姿も見えない私はゴンベエの言っていることを不審に思ったが、ゴンベエはライラ様の上に空き瓶を乗せた。
ゴンベエにはライラ様の上に空き瓶を乗せただけだが、私から見れば空き瓶は浮いていた。
「よかった…本当によかった…」
天族の皆様が集う場所に辿り着いたことに涙を流す。
「どうして…見えないんじゃ」
「ああ、見えない…スレイ、君は肉眼で見えるのか?」
「うん、見えるけど」
「そうか…」
ゴンベエ以外にも肉眼で見える者がいたのか。となれば、道中の一人言はスレイの側にいた天族の御方との会話なのだろう。
「すまない、驚かせてしまって。天族や導師の伝承を紐解き、災厄の時代を終わらせる方法を探して旅をしていた…だが、此処に来るまで何一つ手懸かりもきっかけも見つけることは出来ずにいたんだ」
「そっか…天族も見えないのに、過酷な一人旅をしていたのか…」
希望をやっと見つけた…が、直ぐに意識は現実に戻る。
「眼鏡…」
天族を見ることが出来る眼鏡が壊れてしまった。
つるの部分ならば良かったが、レンズの方が綺麗に壊れており、一番大きな破片が小指の爪ほど。
コレさえ壊れていなければ姿と声を捉える事が出来た…いや、無い物ねだりはよくない事だ。
「…こんなにも、沢山、のかた、が」
「もしかして、その眼鏡の欠片に皆が写っているの!?」
眼鏡のレンズ越しに天族が写っている事を驚くスレイ。
スレイだけでなく、声は聞こえないが天族の皆様も驚いている。そんな物は聞いたことも見たこともないと。ゴンベエが持っていたまことのメガネは天族の方々も知らないとてつもない物なのか。
「写っている…だが、その…」
「あ、そっか…一番大きなレンズの欠片はそれなんだよね」
小指の爪の大きさのレンズの破片。レンズ越しでなければ見えない為に皆様のお顔を見ることは上手く出来ず、レンズの破片のせいか声が聞こえない。壊れていなければ、声を聞き言葉を交わす事が出来たのに…
「声も響かないんだ」
「…眼鏡のままだったら、皆の声を聞くことが出来た?」
「ああ…」
まことのメガネで出来た眼鏡に効力があるかどうかとライラ様で試すと普通に姿を見ることも声を聞くことも出来た。
「ゴンベエが居てくれれば…」
「ゴン、ベエ?それって、その眼鏡を君にあげた人?」
「ああ…この眼鏡はゴンベエと言う人が作ったんだ。私が天族が見える特殊な虫眼鏡を壊してしまい、虫眼鏡のレンズの欠片を眼鏡に」
「…う~ん…」
ゴンベエが居てくれたら、まことのメガネで世界を見せてくれたかもしれない…私もスレイの様に肉眼で天族の皆様を捉える事が出来れば…
「まことのメガネなんて、聞いたこと無いけど…ジイジならなにか知ってるかも!」
「ジイジ?」
「…俺達の育ての親で、この杜の村長みたいな人。此処にいるみーんな、ジイジには頭が上がらなくて…ああ、うん…カミナリが待ってたんだ…はぁ…」
「そのジイジ殿がカミナリを落とすのは…私が原因か?」
「君は悪くないよ。悪いのは俺なんだ…外の人を連れてきてはいけないって決まりを破ったから、怒られて当然だよ…ミクリオ、上手く話してくれてるかな」
「スレイ、私もジイジ殿のところに連れていってほしい。君はなにも悪くない……悪いのは、あの様な場所で意識を失ってしまった私だ。出会ったのが君でなければ…下手をすれば命を奪われていたかもしれない」
盗賊に殺し屋と色々と物騒な輩が多いこんな時代だ。
スレイの様な純粋な人が私を見つけてくれたことに感謝しなければならないし、ジイジ殿がカミナリを落とすならば私に向けてほしい。スレイはなにも悪くはない。
「そんな、君を見つけたのは偶然で…って、眼鏡の事もあるからどっちにせよ会わないといけないか…きっと、ジイジはカンカンだろうな…こっちだよ」
私はスレイと共にジイジ殿の家に向かった。
ゴンベエの術技
滅・魔神拳
下段蹴りをかました後に、勢いをつけ闇を纏った拳で殴る掛け突き。
キャプテン・ファルコンの使い回しとかコンパチとか言ってはいけないが、稀にF・パンチと言いそうになる。
F・パンチ
滅・魔神拳の炎版。
不死鳥を思わせる炎を纏っているが、不死鳥とは無関係。炎はディンの炎を使っており、浄化の力を持っている。
Fはフェニックスでなくファルコンなので、某最強の漢からクレームが来たり来なかったり