テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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希望は側に

「ただいま、ジイジ」

 

「キセルが…」

 

 ジイジ殿が住む家に入るとキセルが浮いていた。

 高さからして、そこにジイジ殿が座っておりレンズの欠片で確認するとご老人が座っていた。

 

「!」

 

「ごめんよ、ジイジ」

 

 なにを言っているかは分からないが、大きく叫んだジイジ殿。

 チラリと私の方を見て、スレイに説教の様なものをしているので恐らく私を連れて来たことを怒っているのだろう。

 

「ジイジ殿、お待ちください。スレイは倒れていた私を助けてくれたのです…彼はなに一つ悪くはありません。悪いのは私です。あの時、眩い光に襲われさえしなければ私が此処に来ることはありませんでした。罰するのならば私を罰してください、スレイに罪はありません」

 

 私は頭を下げた。

 正座の状態で頭を下げる、土下座をした。

 頭をあげるのは、罰を受けるときだと頭を上げずに、その間スレイが天族達の事に気付いていると教える。

 

「‥ああ、そうなの?でも、憑魔が直ぐ近くにいたよ…うん。ミクリオも見たんだ…ごめん…見捨てるなんて事は出来ないよ」

 

「っ…」

 

 分かっていた。

 私の様な小娘が頭を下げたところでなに一つ変わらないのを…

 

「えっと、ジイジが面をあげよだって」

 

「如何なる罰も受けます。この地にもこれ以上は」

 

「ジイジも悪かったって、謝ってるよ」

 

「謝るとは?」

 

「えっと君が気絶していた原因の光は、ジイジの雷なんだ」

 

 気まずそうに語るスレイ。

 レンズの欠片越しでジイジ殿を見ると申し訳なさそうな顔をしている。

 

「雷、ですか」

 

「うん。この辺の土地はジイジの加護が働く領域で、極力人が入れない様にしていて侵入者を撃退したり追い出したりする雷を落としたみたいなんだ…そう言えば、今まで誰かが入ってきたなんてなかったのに、どうして入ってこれたんだろ?」

 

 眩い光の正体を教えると考え込むスレイ。

 スレイの言うことが確かならば、どうして私は奥深くまで入ることが出来たのだろうか?

 この地はアロダイトの森の奥を抜けた先にあるが、最果ての地と呼ぶほどのものでない。険しい山道が多かったものの、鍛えている騎士団の者達ならば登ることが出来た。

 

「此処は私の様に肉眼で天族の皆様を見ることの出来ない人が居てはならない聖地、なのですね‥今すぐに」

 

「ジイジ!……!うん!ジイジが都に帰るまでの準備をして良いって、俺、手伝うよ」

 

「よろしいのでしょうか?」

 

「構わないって……眼鏡を壊したのも、ジイジだしね……ごめん、ごめん」

 

「ありがとうございます、ジイジ殿」

 

 キセルが浮いている場所に私は頭を下げる。

 本当に何から何まで…感謝の言葉だけでは、足りない。なにも出来ない事を悔む。

 

「あ、そうだ。眼鏡で思い出した…この眼鏡ってどうにか出来ない?」

 

 眼鏡を口にし、まことのメガネの眼鏡を思い出す。

 私は壊れた眼鏡とレンズを取り出すと、レンズは勝手に動く。ジイジ殿が触れて確認をしているのが分かる。

 

「まことのメガネって言う、天族を見ることが出来る不思議な虫眼鏡を改造して作ったらしいんだ。欠片しかないから声を聞くことが出来なくて、一番大きな欠片が小指の爪ぐらいしか無いからジイジや皆を見るのが難しくて…」

 

 スレイが眼鏡の説明をすると、欠片は大きく揺れる。

 天族を見ることの出来る眼鏡は天遺見聞録にも載っていない。ライラ様もその様な眼鏡は見たこと無いと言っていた。恐らくジイジ殿もこの眼鏡についてはなにも知らない。

 

「わかった……ジイジの容姿を当ててみてくれない?」

 

「ジイジ殿をですか?体格は小柄で目元が隠れる太い眉が特徴的で髪の色は白色ですが、上がっている前髪の一部が雷の様な色で、キセルを持っているのは左手で靴は高下駄を履いております」

 

「合ってるでしょ?だから、言ったじゃん。え、ミクリオも?」

 

「そちらの御方ですか?中性的な顔立ちをしており、毛先は水色がかかった銀髪で菫色の瞳。薄いグリーンブルーの様な衣装を身に纏っております。貴方がミクリオ様で?」

 

 スレイの隣に座っている天族の御方に声をかけるとバッと立ち上がる。

 この御方がミクリオ様の様で、驚きながらもまことのメガネに触れて観察をする。

 

「うん、うん……確かに俺も聞いたこと無いよ。天遺見聞録にも載っていないし、その感じだとジイジも知らないみたいだし、貰い物で」

 

「ジイジ殿、差し出がましい様ですがその、筆談は出来ないでしょうか?」

 

 何度も何度もスレイを経由していては、スレイの負担が大きくなるだけだ。

 言葉を交わす事が出来ないが、文字ならば交わす事が出来る。

 

「そうか、文字なら会話が出来る!ちょっと待って、家にある紙を持ってくるよ!」

 

 その手があったと喜び、スレイは飛び出していった。

 これならばスレイの負担が軽減する。

 

「この眼鏡は、都に、レディレイクで物を売っているゴンベエが作ったものです。その、聞いたことは無いでしょうか?ナナシノ・ゴンベエと言う男を千年ほど前に」

 

 ふと、エドナ様の事を思い出したのでジイジ殿に聞いてみる。

 エドナ様の御兄様が何時の日にかとエドナ様に託した箱、ゴンベエはなにかに気付いているが教えてはくれない。ジイジ殿ならばなにか御存知ではと思ったが、ジイジ殿も存じ上げておらず、首を横に振った。

 

「そうですか」

 

 エドナ様も詳しく知らないのであれば、誰にも教えていない可能性がある。

 千年前のナナシノ・ゴンベエもそうだが、マオクス=アメッカとは誰のことなのだろうか……私の先祖じゃないかと言っているが、本当にそうなのだろうか?

 

「お待たせ、持てる分だけ持ってきたよ!」

 

 会話も実らない中、沢山の羊皮紙を片手にスレイは戻ってきた。

 ジイジ殿に渡すとジイジ殿は文字を書き始める。

 

【その眼鏡を作ったゴンベエはいったい何者じゃ?】

 

「それは…私にもよく分かりません。ゴンベエはある日、レディレイクにやって来た、この大陸の海を越えた遥か遠くの日出国と呼ばれる国の人です。異国の民ゆえに不思議な知識や道具を持っていて、この灯りをつけるガラスの球もゴンベエが作ったらしいのです」

 

 三度、灯りをつける事が出来るガラスの球を取り出す。今度は見せるだけでなく、灯りをつける。

 

「すっげえ、これどうなってるんだ!?」

 

【見たところ、その筒の様な物が作用して灯りをつけているが、燃料かなにかか?】

 

 ガラスの球に興味津々なスレイとミクリオ様。

 

「申し訳ありません。その、どう言った物かは知らないのです。ゴンベエは灯りがつけられる便利な道具だと思えば良いと、深くは考えるなと」

 

「そう言われたら、逆に気になっちゃうって。ジイジ、眼鏡直せない?」

 

【馬鹿者、眼鏡がなにで出来ているのか知っているのか?水晶や宝石で出来ているのだぞ!普通のガラスとはわけが違う!】

 

「あの、作り方は知っています。焼いた海草と貝殻の粉と珪砂を混ぜれば出来ると」

 

「海草と貝殻の粉か、参ったな」

 

【もしそれが本当ならば、イズチでは絶対に作ることは出来ない】

 

 この杜は山岳地帯に存在する。滝や川はあれども海は存在しておらず、海草と貝殻は海辺でしか取れない。

 

【すまぬな、貴重な眼鏡を壊してしまって】

 

「いえ、ジイジ殿は当然の事をしただけです……一つ、よろしいでしょうか?」

 

【答えられる範囲なら、答えよう】

 

「都は、人の世は現在、災厄の時代と呼ばれております。原因不明の災害等は全て穢れが原因であり、今の人の世は穢れに満ちております…それをどうにかする方法も知っております」

 

【知っているのか、穢れをどうにかするのは、ワシ等天族の中でも浄化の力を持った者のみ】

 

「存じ上げております。浄化の力を持った天族と契約し、導師になれば穢れを浄化することが可能なのを……ですが」

 

【御主はその眼鏡を通さなければワシ等天族を見ることが出来ない。少なくとも天族と契約するならば、導師となるならばワシ等を肉眼で捉え、言の葉を交わす程の霊応力の持ち主でなければならん】

 

「分かっております。その上で、お聞きします。私の霊応力を強くする方法は無いでしょうか?」

 

 私の霊応力は弱い。それはイヤほど分かる。

 私と言う人間が弱いと言う事も勿論……だからこそ、力を得て強くならなければならない。私の霊応力が弱いと言うならば、強くすれば良いだけのこと。遥か昔にライラ様と契約した導師も導師になった頃は弱かったと聞いたので、もしかすればあるかもしれない。今まで巡った所には天族の方々がいらっしゃらなかったが、此処にいるジイジ殿ならばなにかを知っているかもしれない。

 

【すまない。そう言ったものに、心当たりはない】

 

「そう、ですか……」

 

 心当たりはなかった、か。

 

【その眼鏡を渡してきたゴンベエは天族を見ることは可能か?】

 

「はい。スレイの様に言葉も交わせるほどで、ただ、ゴンベエは導師にはなりません。なりたくないと本人も仰っています」

 

【導師になると言うことは穢れを浄化し災厄の時代を終わらせなければならない。危険極まりない過酷な試練が待ち受けている。無理はするものではない。勿論、御主もじゃ】

 

 力さえあれば今すぐにでも聖剣を抜いて導師となり穢れを浄化し、災厄の時代を終わらせ…穢れのない故郷を見てみたい。

 そんな私の胸の内に気付いたジイジ殿は引き留める。だが、このままでは、どちらかが滅ぶまで終わらない大きな戦争になるかもしれない。

 

「だ、大丈夫?」

 

 悔しい。彼やゴンベエは天族と言葉を交わす事が出来るのに、私はそれが出来ない。

 この災厄の時代を終わらせる方法は確かに存在する。直ぐ近くに希望や救いはある。どうすれば良いかの答えがある……それなのに、私はなにも出来ない。直ぐ目の前なのに、私は掴みとることも手を伸ばすことも出来ない。

 

「申し訳ありません、見苦しいところを見せてしまって」

 

 自分の無力さに、弱さに打ち拉がれ涙を流した。

 ジイジ殿とミクリオ様、それにスレイに見せてはいけないこんな姿を。

 

【災厄の原因を知り、為す術もなく辛いのだろう。だが、諦めるな、諦めなければ、必ず希望はやってくる】

 

「っ、はい」

 

 ジイジ殿が涙の理由を察し、励ましてくれた。

 声は聞こえない、ただの文字だけだったがとても暖かかった。

 

「うん……俺の家に来て。君が出る準備をしないと」

 

「アリーシャだ」

 

「え?」

 

「すまない、名を名乗らなくて。そして、ありがとう。名乗りもしない素性も明かそうとしない私を此処に連れてきてくれて。本当は連れてきてはいけないのに。私の名はアリーシャ、アリーシャ・ディフダだ」

 

 スレイに自分の名を教える。

 本当に本当に、ここに来ることが出来てよかった。

 

「じゃあ、俺も改めて、スレイだよ。よろしく」

 

 スレイも改めて自己紹介をし、手を差し出す。私はその手を握り、握手をした。




アリーシャの称号


選ばれない弱者


説明

彼女は容姿端麗だ。彼女は心か清らかで美しい。彼女はノブレスオブリージュの精神を持っている。彼女は勤勉で何事にも熱心に取り組む。彼女は人間関係こそ面倒臭いが経済的な苦痛が無い家庭に生まれた。彼女はかなりの社会的地位を持っている。彼女には見習うべき、模範となる師がいる。彼女を清く気高く美しいと思う者がいる。彼女に恋い焦がれる者もいる。

物凄く恵まれている彼女だが、ただそれだけである。彼女は弱い。
災厄の時代を終わらせる為の方法は直ぐ目の前にあるのに、手を伸ばす事すら出来ない。選ばれし勇者的なのではない。
彼女は世界が待っている人物ではない。彼女だけでは世界を世界を救うことは出来ない。

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