「アリーシャ、お帰り」
何時も通りレディレイクに物売りに行くと、導師の伝承だかなんだかやってたアリーシャと石橋の前で遭遇した。
後、数日で聖剣祭とか言う怪しげな祭りをするから帰ってこれてよかった……うん、本当によかった。
アリーシャがいないからって、教会の一部の奴等が調子に乗りやがって聖剣を抜いてくれとか言いやがる。誰が抜くか。
「ああ、今帰った」
「帰って来て早々に悪いけど、貸したもの返してくれねえか?あ、眼鏡は返さなくていいぞ。日頃なにかと世話になってるし毎回まことのメガネ貸すの面倒だから作ったもんだから」
街に入る前にアリーシャと会うことができてよかった。
マンガン電池と電球と、小三とかで使う電気回路の実験装置擬きを回収しないといけない。
抗生物質の方に関してはどっちでもいい。と言うか、むしろ持っていてくれ。
「その、ゴンベエ」
「薬、使ったのか?自分じゃない見知らぬ病気の子どもに使うなとは言わないが、オレが作ったって言うんじゃねえぞ」
気まずそうな顔をするアリーシャ。
病気になった時に飲めと言ったが、こいつの事だから、薬代もままならぬ貧しい家庭に配ったりでもしたんだろう。
一応、肺炎を治したり出来るから奇跡の薬とか知られたりすると面倒臭い。いや、いいんだよ。疫病治せる薬が存在するって医学の発展事態はいいんだよ。オレが深く関わっていなければいい。
「薬の方は飲まなかった」
「そうか、病気なくて何よりだ。そいつも持っておけよ。こんな文明、じゃなかった。御時世だ。訳の分からない病気になったら怖い。全てとは言わんが、結構な病気は治る」
何処まで効くかは知らんが、肺炎辺りは治せる。
多分、わけわからんファンタジーなパワーかエリクサー的なのじゃないと肺炎は治せないんだろうな。
「すまない、壊してしまった」
「電球をか?灯りがつかなくなったら、電池の方に問題がって……え~」
硝子の破片や折れた眼鏡のつる等を見せるアリーシャ。
本当に申し訳なさそうな顔をしており、取り敢えずは受けとる。
「どれだ?」
「?」
「壊したのか?壊されたのか?壊れてしまったのか?」
現代では高くても諭吉さえあれば眼鏡は作れる。勿論諭吉以上の眼鏡も存在するが、諭吉だけでどうにかなる。
しかし、この世界ではくっそ高い。眼鏡に出来るレベルのクリスタルレンズの作り方が分かっていないのが原因だと思う。口を滑らせて作り方を言ったとはいえ、アリーシャはこの世界の住人で眼鏡の価値は重々承知の筈だ。
「えっと……その……」
「言いたくても言えないのか……成果があったな」
三つの内のひとつを選ぶだけでいいのに、選ばない。
持って帰って来たんだったら、どうして壊れたのかを知っている筈だ。なのに言わないのは、言いたくても言えないから。
そう考えるのが妥当であり、アリーシャに口封じが出来るのであればそれ相応の存在、例えば何処かの土地に祀られている天族とか。人嫌いな天族に自分の事を人間に言うんじゃねえぞとか言われたんだろうな。
「すまない……私の口からはなにも言えないんだ」
「その時点で成果ありだろう」
「あっ!」
「適当な嘘つけばいいのによ」
まぁ、なにもなしでぶっ壊して帰ってくるよりましか。なにかは分からないが、何らかの成果を上げることが出来たアリーシャ。
「これ作る欠片はあるし、レンズの欠片もそれなりに残ってる。炉に全部ぶちこんで溶かしてやり直せば、多分なんとかなるから作っておく」
「そうか……本当にすまない、貰ったばかりの物を壊してしまって」
「構わねえ、と言いたい所だがコレで最後にしてくれよ。鉛とかあるから普通の眼鏡のレンズは作れるが、この眼鏡は量産する事が出来ない。後、二個か三個が限界だ」
もう一個のまことのメガネを壊せば五、六個作れるが、それは出来ない。
欠片だけを使っているせいか、天族を見たり聞いたりすることが出来るだけで隠された道を見つけたりすることは出来ない。本物のまことのメガネじゃないと出来ない。
「祭り前に稼いでおきたかったが、四の五の言ってられねえか」
聖剣祭は聖剣を引っこ抜かないといけない。
試しの剣だかなんか言われてるが、その辺はどうでもよく取り敢えずライラが見えないのはまずい。オレは来た道をUターンしようとする。
「私にも手伝える事は無いだろうか?」
「あ?」
「眼鏡が壊れたのは私の不注意だ。新しく作るにしてもせめて、なにか手伝わせてほしい」
「いや、手伝わなくて良い。度が入ってる凹レンズの眼鏡ならまだしも、アリーシャは視力に異常は無いから視力検査とかしなくていいからなんもないぞ」
眼鏡、眼鏡と言っているがその実態はサングラスに近い。容器に溶かした眼鏡の材料ぶちこんで、削って磨けば出来るだけで細かなピントの調整とかはいらない。
「っ、そうか……」
断ると悲しい顔をするアリーシャ。なんで、そこで落ち込むんだよ……罪悪感じゃ、なさそうだな。
「なにも出来ない事を悔やんでるのか?」
「っ!」
伝承の地を巡ったりして成果を上げたと言う割には、特に変化らしい変化はないアリーシャ。
アリーシャの事を認めて力を貸そうとしている天族が何処かにいるわけでもなく、なにかを持って帰ったわけでもない。天族に出会ってお話を聞いたとかそんなレベルの成果だろうな。
「どうして…どうして、ゴンベエ達なんだ?」
「オレに当たるのかよ」
口を開いたアリーシャは今にでも泣き出しそうだった。
八つ当たりじゃないのは分かっているが、オレに当たって来た。
「目の前に、手を伸ばせば救うことが出来る人達がいる。災厄の原因である穢れをどうにかする方法もある……それが目の前にあるのに、私は手を伸ばす事すら出来ない。導師になればその力のせいで孤独になるかもしれない、マルトラン師匠よりも遥かに強いあのドラゴンの様な存在と戦わないといけない。穢れを浄化し、災厄の時代を終わらせるには険しい道程があるのも分かっている。その先に待ち受けている穢れなきレディレイクは、ハイランドは……きっと、きっと私の想像を絶するほど美しいものなんだろう」
「……まぁ、取り敢えず大前提として言うが」
「分かっている、ゴンベエに無理はさせない。天族を認識したりする霊応力が弱い私が悪いんだ」
「穢れの無い世界って具体的にどんな世界なんだ?」
同情で導師になれとか、そんなのでなく純粋に自分の弱さに苦しむアリーシャ。
こういう時にカッコいい事を言ったり、オレが君の代わりに!と言うのが主人公なのだろうが、オレは違う。取り返しのつかない事だけは一時のテンションに身を任せてはいかないと出来る仏に言われている。なので、試しに聞いてみる。
「……そうか、ゴンベエは見ていないか。アレはとても美しかった、空気も健やかで、生い茂る木々は伸び伸びと成長し……レディレイクを、ハイランドを彼処と同じ様にしたい、そう思った」
「ちょっとなに言ってるか分かんないですね」
十中八九、オレの質問が悪かったがアリーシャが見たそれは多分、違う。
あくまでも景色であって、中身とかそんなのが入っていなくて人と密接に繋がっていない。
「あの景色を皆にも見せることが出来れば」
「カメラ渡しておけばよかったか?」
「……あるのか、景色を見せる道具が」
「景色を保存する道具ならあるぞ、しかも白黒じゃなくてカラー版。白黒の方もあるにはあるが、撮影に時間がかかるし薬品使わないといけないから渡せねえ……旅行じゃないと渡さなかったけど、カメラ渡した方がよかったか?」
「そんな珍しいものは借りることは出来ない。なによりも、アレは生で見なければ、本物でないと感動が出来ない」
「そうか、オレはその辺に疎いがお前がそういうならそうなんだろうな」
若干曖昧な所もあるが、アリーシャが見たものはきっと美しいものなんだろう。
帰ってこれたからおかえりとオレはコーラの入った水瓶と氷をアリーシャに渡して家へと戻り、眼鏡を作る。
「アリーシャの顔のサイズ、測っとけばよかったな」
前に渡したアリーシャの眼鏡は適当に作ったもの。
アリーシャに合わせて作っておらず、帰ったからフレームのサイズ測っておけばよかったと少し後悔する。けどまぁ、前に作ったやつがサイズ合わなかったとかそう言うのを言ってないので大体合ってるんだろうな。
「徹夜はキツいな」
アリーシャに手伝えとは言わんが、人手が欲しい。連徹で眼鏡を作ったオレはレディレイクに向かうが
「今日が聖剣祭だったぁああ!!」
聖剣祭の日にやって来てしまった。入口の石橋には商隊の馬車が並んでおり、渋滞を作っている。数日前からこんな光景だったが、今日は特にそれが酷く大渋滞だ。
「おい」
「あ、ゴンベエさん!」
検問をしている騎士に声をかけると何時もの騎士とは違う騎士だった。
「この渋滞はどうなってる?」
「商人のキャラバン隊が来たのですが、何処からともなく狼が現れて……馬車の歯車が壊れたので交換を」
彼方にいるのがその商人のリーダーですと顎髭が濃い男性とアリーシャぐらいの女の方に手を向ける。
「時期が時期ですのでゴンベエさんも検問を、申請は此方の方でしておきます」
「言っとくが今日は商売しねえからな」
「え……ああ、聖剣を抜きに来たのですね」
「ちっげーよ」
んなことぜってーにしねえからな。ライラも無闇に抜かないで欲しいって言ってるし、もう抜かない。
「ねぇねぇ、そこの人」
「オレの事か?」
キャラバン隊のリーダーらしき男性と話していた女が興味津々な顔でオレに声をかける。
「そうそう、その乗ってるものって」
「ああ………譲らないし、作らないぞ?自分で作り方を考えろよ」
木製の自転車が珍しいのか興味津々な女。コレは最低でも一週間以上かかり大量生産が出来ない代物で、アリーシャにあげたのと今オレが乗っているのしかない。作って売ればかなりの額で売れるらしく、コストもかからないが恐ろしい程に手間がかかる。
「って、事は君が作ったんだね。あ、自己紹介が遅れたね。私はロゼ、キャラバン隊のセキレイの羽の商人。ちょっと馬車が壊れてて、ごめんね」
「そこまで気にしてねえよ」
「そう、ならよかった!で、その乗り物なんだけど、どうやって作ったの?」
「滑車の原理を利用したって言えば良いのか?」
「滑車か、う~ん……」
このままだと自転車が盗まれるもしくは乗せてとか言われそうになる。石橋から離れて、少しだけ距離を取る。
「アリーシャに眼鏡を届けに来たが、間に合うかコレ…」
「アリーシャの事を知ってるの!?」
全部終わった後にアリーシャに渡すと面倒なことになりそうになる。早く部品の交換終わんねえかなと思うと、茂みから二人の男性が出てきた。
「知ってるもなにもアイツは王族で、数日前に帰って来たばっかだ」
「そうか、アリーシャは無事に帰ってこれたんだ……よかった」
「そうなるとあのキツネ男は追い付くことが出来なかったのか……それにしても、王族だったのか。導師の伝承の地を探しているとは言っていたが」
「まさか、お姫様だったなんて」
「まぁ、姫様がぶらりと旅するのはどうかと思うからな。伝承の地でなにかないかと探しているとか言っても、信仰とかが減っている御時世じゃ信じて貰えないしアホな事をしていると思われる」
「そんな事は無いって」
「彼女は凄く生真面目で、災厄の時代を終わらせる為にって……君は僕の事が見えるのか!?」
アリーシャの事をよく知らない、姫騎士なアリーシャはなにかと有名である。
この世界のこの国でアリーシャの名でアリーシャ・ディフダだと知らないとなると、かなりの田舎から来たのだろうかと思っていると、小柄な男性が驚く。
「ああ、本当だ!?普通にミクリオと会話してるから違和感なかったけど、ミクリオの事が見えている!?」
もう一人の爽やかっぽい男性も驚く。
「見えているとか会話しているとか、お前等、天族なのか?」
「いや、天族は僕だけだ。スレイは人間で……もしかして、君がゴンベエか!?」
「あ~はいはい、大体わかりました」
名乗っていないのに、ミクリオと言う男性はオレの名前を言う。
活動範囲がレディレイクと家と海ぐらいしか無いオレは他の街に行ったことない。だから、名前はそこまで知られておらずアリーシャが語ったとなる。
「ねぇ、アリーシャは」
「ストップ。そっちのミクリオは天族でスレイは天族が見える人間、で良いのか?」
「確かにそうだが、それが?」
「なら、簡単だ……じゃあな」
馬車の車輪の入れ替えが終わるまで、別の所にいかねえと。
「待って、アリーシャは」
「オレもアリーシャの事を言わなかった、お前達もアリーシャの事を言わなかった。オレ達は出会わなかった…OK?」
「OKって、なにが」
「スレイ、ゴンベエの言う通りにするんだ」
極力関わろうとしないオレの意図をミクリオは察してくれる。早々、此処で出会ってしまったら全て無駄になるんだよ。
「アリーシャは僕達やイズチの事を語らないとジイジに誓ったんだ。本当はアリーシャは招かざる客で、アリーシャ自身もそれを理解していた。僕達はイズチに関して喋るなとは言われていないが、此処で必要以上にゴンベエと接触すればアリーシャが言わなかった事が無駄になる」
「イズチにジイジに僕達って、天族の集落でも行ったのか、アリーシャは?」
「どうしてそれを!?」
「いや、吉本か!?」
新喜劇で見たことのある事をするミクリオ。
スレイが今言ったじゃんと呆れた顔をしている。
「今のは聞かなかった事にしておく。とにかく、必要以上に関わらないでおく……互いにアリーシャに用事があって偶然に被っただけ、それだけだ。今、商人の馬車が壊れてて足止めくらってるから、その間に街に入る申請してこい」
これ以上は関わらない方が吉だ。つーか、アレだよな…イズチってのが天族の集落でスレイは人間ってことはコイツが主人公なんだよな?原作が何時辺りとかわかんねえけど、既に始まってたのか。
「スレイ、その方が互いの為だ」
「うん……でもさ、ミクリオ」
「スレイ!」
「ゴンベエもアリーシャに用があるなら、どっちもアリーシャの所に行かないといけないんじゃ」
「「あ」」
「えっと、あ、俺、ちょっと街に入る申請してくるよ!!」
言っちゃいけない事を言い、気まずい空気が流れる。
スレイは耐えきれなくなったのか、逃げる様に石橋に向かって走っていった。そしてどちらにせよアリーシャに会わないといけないので、アリーシャの住んでいる所を知っているオレはスレイとミクリオと一緒に行くことに。
スキット 海の向こうじゃなく
スレイ「ゴンベエ、そう言えば」
ミクリオ「スレイ」
スレイ「違うって、アリーシャに関してはなにも言わないよ」
ゴンベエ「つーか、聞かれても答えねえぞ。仲良いけど、知人レベルだし」
ミクリオ「知人……君の事を語っている彼女は嬉しそうで、頼れる人だと好意的だったが」
ゴンベエ「頼れる人で、それ以上もそれ以下もねえよ。で、なにが聞きたいんだ?」
スレイ「ほら、さっきミクリオに吉●かってツッコミを入れたじゃん。●本って、なに?」
ゴンベエ「ああ、それな。ざっくりと言えば劇団だよ。
さっきのミクリオみたいに隠している事を大声で喋って、隠している人にバレてどうしてそれを!って驚いて、お前が言ったんや!ってツッコミを入れるシーンがあるんだよ」
スレイ「なんかそれ、面白そう!」
ゴンベエ「ああ、面白いぞ。けどまぁ、この国にはねえからな」
ミクリオ「この国には無い?……そう言えばゴンベエはこの国の出身じゃないらしいが、ゴンベエの国にあるのか」
スレイ「ゴンベエの国って、日出国って名前で海を越えた先にあるんだろ、何時か行ってみたいな!」
ミクリオ「その前にアリーシャのところに向かわないと。それに、海を越えるにしても先ずはこの大陸を見てからだ」
ゴンベエ「海っつうか、三途の川越えた先にあるんだが……まぁ、いいか」