「……私が作った方が美味しいわね」
「おいおい、そういうこと言うなよ」
とりあえずぶらりとレディレイクを散歩してアリーシャの屋敷に戻ってきた。
アリーシャの屋敷に仕えているメイドに注文していたキッシュが丁度いいタイミングで完成された。空腹を感じているベルベットは早速いただくのだが味の感想がかなり厳しい。
「ゴンベエが何もしなくても味を感じるのか?」
「ええ……昔に戻ってるわ」
モグモグとキッシュをいただくベルベット。
何時もならオレがベルベットに食べさせているが今回はそういった事をやっていない。1000年の間にベルベットを喰魔か人間かよく分からない生物に作り変えるだけでなく味覚を元に戻している。コレは喜ぶべきことだ。今までベルベットはオレが作ったか食べさせるのどちらかをしないと味を感じない。でもこれからは味を感じることが出来る……味覚0の状態で美味い飯を作ることが出来たから味覚がある状態で料理を作らせたらどれぐらい美味いんだろうか。
「……舌が肥えてしまったな」
ベルベットは自分が作った方が美味しいと主張していたがそれは当たっている。
アリーシャもベルベット特製のキッシュを口にした事があるのでどうしてもメイドの作ったキッシュと比較してしまう。
「現代人は味覚が良すぎて美味い物しか食べられない、栄養はあるが不味い物を食べられない舌が肥えてるからってなんかの本で読んだな」
なんの本だったか。キャンプかサバイバルに関する本だった気がする。
アリーシャの屋敷のメイドのキッシュは決して不味くは無いので普通に頂くのだが今一つ物足りない。ベルベットのキッシュがそれだけ美味しいというわけだ。
「なら、大丈夫ね。今日からずっと私の手料理を食べるんだから」
「んぐぅ!?」
「……お前、そういう爆弾をぶっ込んでくるのマジでやめろよ」
あの後話し合いの末にベルベットはオレの家に住む事に決まった。
正直そんなに広い家ではないのでアリーシャの屋敷に住まわせて貰ったほうがオレとしてはなにかと都合がいいのだがベルベットの「責任から逃れるの?」の一言になにも言えなかった。自分で蒔いた種なので自分で芽を摘まないといけない……いや、こういう言い方は失礼か。
「ホントに、ホントに家じゃなくて大丈夫なのか?ゴンベエの家はそんなに広くはない。家ならば部屋は余っているぞ」
「豪邸での暮らしには興味は無いわ」
「……まぁ、最悪こっちが引っ越しをすればいいからな」
オレの家は水車小屋みたいなものでベルベットの家やアリーシャの家と比べても狭い。
アリーシャは自分の屋敷に住む事を勧めるのだがベルベットは無関心というか興味無しだ。あの家が狭く感じる様になったのならば引っ越しをすればいい。ただそれだけの話だ。
「今日はもう休みたい……色々とありすぎて気が滅入る」
アルトリウスとベルベットとの一戦にライフィセットがマオテラスとして聖主になったり、たった1日で色々な事が起きた。
まだまだやらなくちゃいけない事は山積みなのだが、それを解決する為にも何処かで一段落しなければならない。だからもう今日は休む。休める時に休んでおかないと……オレとアリーシャ基準の時間では本当に色々な事があった。
キッシュを頂いてごちそうさまをするとメイドが後片付けをしてくれるのでオレとベルベットはアリーシャの屋敷を出ていく。
「家にあるの保存食だけだから、夕飯の材料は買って帰らねえと」
「そう……折角だし好きな物を作るわ」
「じゃあビフカツ」
アリーシャは付いてこない、アリーシャもアリーシャで色々とあったので精神的に疲れている。
とにかく休まないといけないのだがベルベットはどうなんだろうか。ビフカツに使う分の牛肉と付け合せに必要な野菜を購入してレディレイクを出ていく。
「変な目で見られたわね……」
「お前の服装、じゃないな。オレの日頃の行いが悪いんだろうな」
ベルベットという絶世の美女と一緒に夕飯の材料の買い物をするなんてちょっと前の自分ではありえなかった。
普段から仲が良いのはアリーシャというのもあったし……ベルベットを連れているのは色々とおかしいんだろうな。アリーシャと一緒に買い物をするならまだしも何処の誰かわからないけどやたらと綺麗な美人を連れてるのならば奇異の目で見られるのは仕方がない事だ。
「3つあるわね」
レディレイクを出て川辺を歩いていると水車小屋に辿り着く。
「居住区にしてるのはこっちだ」
元々オレが転生した際に住んでいた水車小屋が居住に使っている。
残り2つは水力発電機とサルファ剤とかの薬品とかを保存している倉庫でベルベットとは縁もゆかりも無い物だ。居住している水車小屋に案内をするとベルベットは人差し指で埃は無いのか確認をする。
「一応は綺麗にしているみたいね」
「過去の時代に飛ぶ前に一旦清掃したから……大掃除はしなくても問題はない」
「あんたの事だからもっと汚いイメージがあったんだけど」
「汚くしようにも物がそんなに無いから汚く出来ねえんだよ」
ゲームとか漫画とかあったらもうちょっと汚くなってるけどもこの世界にはその手の物は無い。
ベルベットは念入りに部屋が汚くないのかチェックを入れるがベルベットのチェックを入れているところは一切汚くない、掃除したばかりで綺麗になっている。ザビーダと出会って一度戻ってきた際の掃除がここに来て役立ってきたな。
「そんな無理にアラを探さなくてもいいだろう……とりあえず牛肉と野菜を冷蔵庫に入れるぞ」
「冷蔵庫?」
なにそれと言わんばかりにベルベットは首を傾げる。
そういえばあの時代では作っていなかったなと冷蔵庫を開けると冷気が流れ出る。
「なにこれ?」
「冷蔵庫、食材を冷やしたり凍らせたり家電製品だ……原理については説明しねえぞ」
説明するのめんどくせえんだ。長期に渡り保存が効く食材以外は全て消費したので冷蔵庫はすっからかんに近い。
牛肉と野菜を入れてキンキンに冷えたお茶を取り出してベルベットとオレの分を入れる。
「冷たい……氷とか作れるの?」
「ん〜……まぁ、作れるぞ」
そういえばこの世界では豪雪地帯の北の地はともかく普通の地域じゃ氷は稀少な物だったな。
コーラを売ったりするのもいいが氷を売るっていうのもありだな。ベルベットと暮らすからこれからは色々と金が必要……あ
「ベルベットの布団を買ってくるの忘れてた」
ベルベットと一緒に暮らす、つまりはベルベットはここで寝泊まりをする。
布団を用意しておかないといけない……もう一回レディレイクに戻って布団を購入しねえと
「別にいいわよ。一緒の布団で寝れば問題無いわ」
「お前、ホントにサラッと言ってくれるな」
アリーシャならば顔を真っ赤に……しないな。あいつ、宿屋の代金節約だなんだ言って結構一緒に寝ている。
しかし、ベルベットと一緒の布団か……前世でそんなに徳を積んでないのにコレはいったいどういうご褒美なんだろうか。
「それで何処になにがあるの?」
「調理器具とかはここにあって」
ベルベットが部屋の何処になにがあるのかを聞いてくる。
調理器具とかは釜の直ぐ近くにあったりして薪や炭も直ぐ近くにある。他にも調味料や米が何処にあるのかを教える……
「なんだか新婚みたいだな」
「……」
ベルベットは不機嫌そうな顔をする。
なんだかやみたいはベルベットにとって禁句の様で、本来ならばちゃんと結婚をしている。オレとアリーシャが色々と言ってしまったのでそうならなかった……ホントに悪い事を言ってしまったな。
「あ、夕飯の為に米を研いどかないといけないからやっとくわ」
なんとかして気を取り直したい。我が家の主食はパンでなく米で、米を炊く前の準備をしようとする。
「だったら私が」
「ベルベットは座って休んでてくれよ。これぐらいはオレでも出来るんだから」
むしろオレだから出来るんだ。
貯蓄している清潔な水が入った水瓶から柄杓で掬い上げて米を洗う。出来れば水道を通したいところだが出来ないのが中々に辛い。
「付け合せは後で適当にするとして……スープはコーンスープにするか」
「だったら私が」
「いや、大丈夫大丈夫。米を水に浸してる間にチャチャっとやるから」
ベルベットに苦労は掛けさせない。
牛乳とかも冷蔵庫にあるしパパっとコーンポタージュを作り上げるべくとうもろこしを剥いて実を解していく。こういう感じに家で料理するのは久々だが、今まで旅で料理を作ってきただけあって料理の腕は多少は上達しているな。
「っと、火を入れてる間に洗濯物も回しておかねえと」
「洗濯物を回す?」
1分1秒を無駄にするわけにはいかない。
手洗いでの服の洗濯なんて現代人にとって地獄でしかないので、転生してライフィセットが残した鉱石類で作り上げた洗濯機に洗っていない服を放り込んで洗剤と漂白剤を入れて洗濯機を回す
「……」
「なにもかも見たことがないだろう。でも、コレがオレにとっての普通なんだ」
冷蔵庫も洗濯機もベルベットにとっては初見な物でベルベットは驚いている。
この1年、生活基盤を整えるのに必死になって色々な物を作り上げた。全てはオレが快適な生活を送るために……結果的にはベルベットが楽な生活を送ることが出来る様になっているので結果オーライというやつだな。
「…………」
「どうした、ベルベット?」
見たことがない物だらけで困惑をしているのかもしれないベルベット。
無言になっておりジッとオレを見つめている……言いたいことがあるのならばハッキリと言ってくれた方がいいんだがな。なにか言いたそうなベルベットだがなにも言ってこない。なにも言ってこなければオレもどうする事も出来ない……やろうと思えば人の表層意識的なのを読み取る事が出来るけども、それをやると不快感しか感じないのでやらない。
「……私、お客様じゃない……」
「……?」
ボソリと呟くベルベット。生憎な事に難聴系主人公ではないのでハッキリと聞こえる。
ベルベットがお客様じゃないのは当たり前の事なのでなにを言っているんだろうと思っているとベルベットの籠手から光る玉が出現したと思えばシアリーズが表に出てきてジッとオレを見つめてくる。
「正座」
「え?」
「いいから正座しなさい」
「いやなんで急に、熱っ!?」
「いいから正座をしろと私は言っているのよ……早くしなさい。私の機嫌はそんなに良くないわよ」
炎を燃やして脅してくるシアリーズ。
言うことを聞かなければならないと言われた通り正座をするとシアリーズは腕を組んでオレを見下ろす……なにか、まずい事でもしてしまったのだろうか。
「貴方の態度、幾らなんでも酷すぎるわ」
「え……何処か問題があったのか?オレとしてはなにも問題を起こしてないんだけども」
オレの何処が悪いというのだろうか。ベルベットに無茶な注文を入れたりせずにいるし、ベルベットにはゆっくりと休んで貰っている。
何処か悪いところがあったのだろうかと振り返ってみるが特に思い当たる事は無い。なにも気付かないオレにシアリーズは本気で呆れたのか大きなため息を吐いた。
「ベルベットはお客様じゃない、今日から貴方と一緒に暮らすのよ……それなのに貴方はなんなの?さっきからベルベットの仕事を奪って」
「いや、仕事を奪ってなんか」
「いいえ、奪っています。ベルベットは家事炊事はセリカ仕込みで完璧に熟す事が出来て何処に嫁に出しても恥ずかしくない程に立派にやれているわ。それなのに貴方はベルベットになにもさせずに仕事を奪って……ベルベットはお客様じゃないのよ」
「あの……別にベルベットをお客様扱いしているつもりはないのですが……」
「だったら夕飯の仕込みや服の洗濯をベルベットにやらせなさい。見たことない道具についての説明も1からちゃんと貴方が教えるのよ」
「……ベルベット、それでいいのか?」
「私はこの家にお客様として暮らすんじゃないわ。家事炊事もちゃんとやるつもりで……お客様みたいな扱いはしないで」
「そうか……悪かったな」
オレ的にはベルベットに楽をさせてると思っていたが、それはベルベットをお客様扱いしているも同然だった。
アリーシャの時はそれで良かったのかもしれないがベルベットの場合は違う。ベルベットはベルベットで好んで家事をしてくれる。ここはベルベットの好きな様にさせておかないといけない。
「別に、そこまで気にしてる事じゃないから。あんたが私に楽をさせたいって気持ちは分かったから……でも、家事とかは私がやりたいわ。料理とかちゃんと作って私の好みの舌に作り変えたいの」
意外と独占欲が強いベルベット。アリーシャがこの場に居たのならばどうなっていたのだろう、修羅場になっていたのだろうか。
ベルベットの意志を尊重しておかなければならないので夕飯作りはベルベットにさせる。その横で洗濯機等の一部の家電についての説明をする。洗濯機以外にも掃除機とかを作ってるからベルベットにはそれらの使い方を学んで貰わないといけない。
「ホントになんでもありね……あんたの国にはこういうのが当たり前の様にあるの?」
「こんなのまだ序ノ口だよ。電子レンジとかまだ作ってないんだからな」
「なにそれ?」
「火を使わずに物を温める事が出来る釜だと思えばいい……暫くは不要な物だから作るつもりは無いけど」
我が家には色々と便利な物があるとベルベットは関心を寄せる。
1年という長いか短いかよくわからない時間をじっくりと使って生活基盤を整えた……
「コレも全部ライフィセットのおかげだ」
「ラフィの……」
「ああ、アイツが稀少な鉱石を沢山集めてくれたおかげで色々な物が作ることが出来たんだ」
本来ならば素材を集めるところからはじめないといけない。
けど、ライフィセットがアイフリード海賊団と冒険をして手に入れた鉱石が手に入ったからその過程をすっ飛ばす事が出来た。便利な物を作り上げる事が出来たんだ……ライフィセットはベルベットの為に使えと言っていたのは予想外だったけども。
夕飯をベルベットと一緒に作り上げてお風呂に入った後に寝間着に着替えて一緒の布団に入る。一人用の布団だけどサイズは大きめだからギリギリ一緒に眠る事が出来る。
「ねぇ、あんたは今幸せ?」
一緒に布団の中に入って目を閉じているとベルベットは聞いてくる。
「そういうお前はどうなんだ?」
「どうかしら……あんた達にとって1000年経ってるかもしれないけど私にとって1日も経ってないからなんとも言えない……でも、悪い気分ではないわ」
「そうか……オレは喜んでいいのか正直悩んでる。ベルベットの決意を、覚悟を無駄にした。眠りにつくと決意していたのにオレの身勝手なエゴで生きてほしいと願ってしまってこの時代にまで連れてきてしまった……責任は取らないといけない」
「それ、やめてよ」
「え?」
「責任とか義務とかで私と一緒になろうとしないで。自分の意思で私と一緒になりたいって思ってよ……」
「そうか……そうだよな」
ベルベットがこうなったのは全てオレが原因で責任を取らないといけないが、それとは別の感情を持たないといけない。
責任とか義務とか自分がやらなければいけないとかそういうノブレス・オブリージュ的な精神とはまた別の感情を持たないといけない。
「こんな美人と一緒になれて、オレはホントに幸せ者だな」
オレはベルベットの左手を握る。相変わらず包帯に巻かれた左手だけどベルベットの手はとても暖かくゆっくりとスヤスヤと眠りについた。
「私もあんたみたいないい男と一緒になれて幸せよ……聞こえてないか」
ホントは聞こえているけど、聞こえてるぞといえばベルベットが恥ずかしがるのが目に見えたので敢えて空気を読んでオレはなにも言わなかった。
番外編
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続 異世界プルルン転生記
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ちょっと昔のゴンベエ達(地獄)
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ザレイズ 総力戦 決戦KCグランプリ
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まゆゆんの貧乏くじ
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スペシャルスキットの続き